転生したサトシは、波動と絆で最強のポケモンマスターを目指す   作:kousinn

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プロローグも見てくださりありがとうございます。
これよりアニポケの世界が始まります。


第1話 旅立ち!はじめてのパートナー

第1話 旅立ち! はじめてのパートナー!

 

第一幕 旅立ちの朝と、目覚めた力

 

 ――ピピピピ、ピピピピ。

 

 枕元に置かれた目覚まし時計が、静かな部屋に電子音を響かせた。

 

「……ん……」

 

 布団の中で小さく身じろぎし、ゆっくりと目を開ける。

 

 カーテンの隙間から、朝の柔らかな光が差し込んでいた。窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえ、遠くからはマサラタウンの人々が活動を始めた気配も伝わってくる。

 

 いつもと変わらない朝。

 

 けれど、今日という日は、これまでの日々とは決定的に違っていた。

 

「……朝か」

 

 ぼんやりと天井を見つめてから、俺は枕元の目覚まし時計へ手を伸ばした。

 

 表示された時刻を確認する。

 

 予定していた時間どおりだ。

 

「よし。寝坊はしていないな」

 

 思わず小さく笑みがこぼれた。

 

 今日から、俺の旅が始まる。

 

 ポケモントレーナーとして、マサラタウンを出発する日だ。

 

 ベッドから起き上がり、両腕を頭上へ伸ばして身体をほぐす。寝起きの身体に少しずつ血が巡り、頭もはっきりしてきた。

 

 俺は部屋の中を見回した。

 

 見慣れた机。使い慣れた椅子。壁際に置かれた荷物。そして、今日からの旅に必要なものをまとめたバッグ。

 

 どれも、昨日までと変わらない。

 

 それなのに、今日からはすべてが違って見えた。

 

 この部屋で目を覚ますのも、今日が最後になるかもしれない。もちろん、旅の途中で帰ってくることもあるだろう。それでも、これから先は自分の足で世界を巡り、自分の判断で行動し、自分の責任で道を切り開いていかなければならない。

 

 そう考えると、胸の奥から期待が湧き上がってきた。

 

「いよいよ、か……」

 

 俺は窓辺へ歩み寄り、カーテンを開いた。

 

 マサラタウンの町並みが、朝日に照らされている。

 

 遠くには緑豊かな草地が広がり、その先には、まだ見ぬ土地へ続く道がある。

 

 カントー地方。

 

 そして、その先に待つ数多くの地方と、そこで出会うポケモンたち。

 

 俺は、そのほとんどを知識として知っている。

 

 前世では会社員として暮らしていた。ポケモンは、子どもの頃から親しんできた大好きな作品だった。アニメもゲームも、最初の作品から最新の作品まで、数え切れないほど触れてきた。

 

 登場するポケモンの特徴。トレーナーたちの戦い。各地方に伝わる伝説。これから先に起こる出来事。

 

 俺の頭の中には、それらに関する膨大な知識がある。

 

 それは、この世界を旅するうえで大きな助けになるはずだ。

 

 けれど――。

 

「知っていることと、実際に経験することは別だよな」

 

 自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 画面越しに見ていたポケモンと、目の前にいるポケモンは違う。

 

 アニメの中では一瞬で終わる場面にも、そのポケモン自身の意思や感情がある。ゲームの数値だけでは表せない個性もあるだろう。

 

 知識を持っているからといって、すべてを思いどおりにできるわけではない。

 

 むしろ、知っているからこそ慎重にならなければならないこともある。

 

 これから仲間になるポケモンたちを、単なる戦力として扱うつもりはない。

 

 強くなりたい。勝ちたい。最強のポケモンマスターになりたい。

 

 その目標に妥協するつもりはなかった。

 

 だが、勝利だけを追い求めて仲間の気持ちを無視するようなトレーナーにはなりたくない。

 

 ポケモンたちと信頼関係を築き、互いの力を引き出し合いながら、勝利をつかみ取る。

 

 それが、俺の目指すトレーナー像だった。

 

「よし……」

 

 俺は一度、深く息を吸った。

 

 そして、ゆっくりと吐き出す。

 

 焦る必要はない。

 

 旅は今日始まったばかりだ。最初からすべてを完璧にこなそうとする必要はない。まずは目の前のことを一つずつ、確実に進めていこう。

 

 そうして気持ちを落ち着けた、そのときだった。

 

 ――何かが、そこにいる。

 

「……ん?」

 

 俺は、ふと動きを止めた。

 

 部屋の外。

 

 正確には、扉の向こう側に、誰かがいるような気がした。

 

 音が聞こえたわけではない。

 

 床が軋んだわけでも、扉の向こうから声がしたわけでもない。

 

 それなのに、そこに何かの気配があると感じたのだ。

 

 俺は扉へ視線を向けた。

 

「……母さん?」

 

 返事はない。

 

 俺はしばらくそのまま待ったが、扉の向こうから物音は聞こえなかった。

 

 気のせいだったのだろうか。

 

 そう思いかけたとき、もう一度、同じ感覚が生じた。

 

 今度は、先ほどよりもはっきりしている。

 

 扉の向こうに誰かがいる。

 

 ただ姿を見て推測しているのではない。音や匂いを手がかりにしているわけでもない。

 

 まるで、自分の意識の外側にあった情報が、突然こちらへ伝わってきたような感覚だった。

 

「……何だ、今の?」

 

 俺は眉をひそめた。

 

 意識を向けると、気配がわずかに強くなる。

 

 逆に、別のことを考えようとすると、霧が晴れるように薄れていく。

 

 俺は試しに目を閉じた。

 

 視覚から得られる情報を遮断し、先ほどの感覚だけに意識を向けてみる。

 

 すると――。

 

 いる。

 

 確かに、誰かが扉の向こうにいる。

 

 けれど、それ以上のことは分からなかった。

 

 誰なのか。どんな姿をしているのか。何を考えているのか。

 

 そうした情報までは、何一つ明確にならない。

 

 ただ、そこに存在しているという感覚だけが、ぼんやりと伝わってくる。

 

 俺はゆっくりと目を開いた。

 

「まさか……」

 

 頭の中に、一つの言葉が浮かび上がる。

 

 波動。

 

 ポケモンの世界に存在する、不思議な力。

 

 波動を感じ取り、相手の存在を察知する。ポケモンの意思を感じ、言葉を使わずに意思を伝える。さらに、使い方によっては身体能力を高めることもできるとされている。

 

 そうした力を扱える者は、決して多くない。

 

 けれど、俺が知っているこの世界の知識には、確かにその存在が記されていた。

 

「……俺に、波動の力があるのか?」

 

 自分の手を見つめる。

 

 手のひらには何の変化もない。光が浮かんでいるわけでも、身体のどこかが熱を帯びているわけでもない。

 

 それなのに、先ほどの感覚は確かにあった。

 

 俺はもう一度、扉の向こうへ意識を向けた。

 

 気配がわずかに感じられる。

 

 けれど、集中しすぎると、今度は何かをつかもうとする意識ばかりが先走り、感覚が乱れてしまった。

 

「……落ち着け」

 

 俺は小さく呟いた。

 

 焦っても仕方がない。

 

 まずは、何が起きたのかを整理する。

 

 最初に感じたのは、目を覚ましてから身支度を始めるまでの間だ。気持ちを落ち着け、周囲を意識した瞬間に、扉の向こうの気配を感じ取った。

 

 視覚や聴覚に頼ったものではない。

 

 そして、意識を向けると感覚が強まり、別のことを考えると薄れていった。

 

 波動による気配の察知。

 

 そう考えれば、説明はつく。

 

 ただし、まだ断定することはできない。寝起きの感覚が普段と違っただけという可能性も、完全には否定できないからだ。

 

 それに、仮に本当に波動の力だったとしても、今の俺が自在に扱えるわけではない。

 

 何ができるのか。

 

 どこまで届くのか。

 

 どの程度の集中が必要なのか。

 

 使い続けた場合、身体にどんな負担がかかるのか。

 

 確認しなければならないことは、いくらでもある。

 

「今日はいきなり実験をするより、まずは普段どおりに行動した方がよさそうだな」

 

 旅立ちの日に、無理をして体調を崩すわけにはいかない。

 

 能力については、後で落ち着いて確かめればいい。

 

 俺はそう判断し、意識を切り替えた。

 

 その瞬間、扉の向こうにあった気配は、また曖昧になった。

 

 やはり、意識の向け方によって感じ方が変わるらしい。

 

 俺は最後に一度だけ扉を見つめ、それから肩の力を抜いた。

 

「……波動、か」

 

 まだ、確信はない。

 

 けれど、もし本当に自分にそんな力が備わっているのなら、これからの旅で大きな助けになるかもしれない。

 

 ポケモンの存在を察知できるなら、野生のポケモンとの遭遇にも役立つだろう。

 

 意思を伝え合えるなら、仲間との信頼関係を築くうえでも重要な力になるはずだ。

 

 そして、身体能力を高めることまでできるのなら、トレーナーとしての自分自身も鍛えられる可能性がある。

 

 もちろん、期待だけで判断するのは危険だ。

 

 能力の詳細が分からない以上、過信するつもりはない。

 

 まずは観察し、試し、少しずつ理解していこう。

 

 俺はそう心に決めた。

 

 そのとき、階下から声が聞こえてきた。

 

「サトシー! 朝ご飯ができたわよー!」

 

 母さんの声だ。

 

 俺は時計を確認し、そろそろ食事に向かう時間だと気づいた。

 

「今行くよ、母さん!」

 

 返事をして、部屋を出る。

 

 扉を開ける直前、俺はもう一度だけ、意識を周囲へ向けてみた。

 

 かすかに、気配が感じられる。

 

 だが、今は追いかけない。

 

 この力の正体は、これから確かめていけばいいのだから。

 

 俺は階段を下り、朝食の待つ食卓へ向かった。

 

     ◇

 

「おはよう、母さん」

 

「あら、おはよう。今日はちゃんと起きられたのね」

 

 食卓へ向かうと、母さんが笑顔で迎えてくれた。

 

 テーブルには、朝食が用意されていた。

 

「旅立ちの日だから、もっと慌てて起きてくるかと思っていたわ」

 

「目覚ましが鳴る前に目が覚めたよ」

 

「まあ。それはずいぶん気合が入っているのね」

 

 母さんは楽しそうに笑った。

 

 俺も笑い返しながら、椅子に腰を下ろす。

 

「いただきます」

 

「はい、召し上がれ」

 

 俺は朝食を食べ始めた。

 

 温かい食事を口にすると、ようやく身体が完全に目覚めてきた気がする。

 

 旅に出れば、毎日こうして食卓を囲めるわけではない。ポケモンセンターに泊まる日もあれば、旅先で食事を用意することもあるだろう。

 

 そう考えると、当たり前だった日常が少しだけ特別なものに思えた。

 

「サトシ」

 

「ん?」

 

 母さんが、少し真剣な表情で俺を見つめた。

 

「今日から旅に出るのよね」

 

「うん」

 

「楽しみ?」

 

「もちろん」

 

 俺は即答した。

 

「ずっと楽しみにしていたからな。いろいろなポケモンに会いたいし、強いトレーナーともバトルしたい。行ったことのない場所にも、たくさん行ってみたいんだ」

 

「そう。ふふっ、いい顔をしているわね」

 

 母さんは安心したように微笑んだ。

 

「でも、楽しいことばかりじゃないと思うの」

 

「……うん」

 

「旅先で困ることもあるでしょうし、思いどおりにいかないこともあるでしょう。ポケモンと一緒に暮らしていくのだって、簡単なことばかりじゃないわ」

 

 母さんは、俺の目を見ながら続けた。

 

「それでも、あなたが自分で決めた道なら、私は応援するわ」

 

 その言葉に、胸の奥が温かくなった。

 

 前世の記憶を思い出したとき、俺は母さんに自分のことを打ち明けた。

 

 自分が何者なのか。なぜ以前の人生の記憶を持っているのか。

 

 受け入れてもらえるかどうか、怖くなかったと言えば嘘になる。

 

 けれど、母さんは俺の話を聞き、抱きしめてくれた。

 

 俺がどんな過去を持っていても、今ここにいる俺を息子として受け入れてくれたのだ。

 

 だからこそ、その優しさに甘えるだけではいたくない。

 

「母さん、ありがとう」

 

「どうしたの、急に?」

 

「いや……旅に出る前に、ちゃんと言っておきたかったんだ」

 

 俺は箸を置き、母さんを見た。

 

「今までありがとう。これから旅に出るけど、ちゃんと頑張ってくるよ」

 

 母さんは一瞬、驚いたように目を見開いた。

 

 それから、ふっと笑った。

 

「ふふっ。なんだか、急に大人びたことを言うようになったわね」

 

「そうかな?」

 

「そうよ。昔はもっと、目の前のことに夢中になっていた気がするわ」

 

 俺は少しだけ苦笑した。

 

「今だって、夢中になることはあるよ」

 

「でしょうね。ポケモンのことになったら、あなたは昔から変わらないもの」

 

 母さんは、どこか嬉しそうだった。

 

「だから、そこは心配していないわ」

 

「……うん」

 

「ただし、約束してちょうだい」

 

「何を?」

 

「ご飯はちゃんと食べること。疲れたら休むこと。危ないと思ったら、無理をしないこと。それから、ポケモンの気持ちを大切にすること」

 

 俺は一つずつ、言葉を受け止めた。

 

「分かった。約束するよ」

 

「それならいいわ」

 

 母さんは満足そうに頷いた。

 

 俺は再び朝食を食べ始めた。

 

 温かい食事。母さんの笑顔。いつもと同じ食卓。

 

 これから旅に出れば、こうした時間が当たり前ではなくなる。

 

 けれど、帰る場所があるということは、きっと大きな支えになる。

 

 俺はそのことを、改めて実感していた。

 

 やがて、朝食を食べ終えた。

 

「ごちそうさま」

 

「はい、お粗末さま」

 

 俺は食器を片づけるのを手伝い、それから旅の荷物を確認するために部屋へ戻った。

 

 必要な道具はそろっている。忘れ物もない。

 

 あとは、オーキド研究所へ向かうだけだ。

 

 今日、俺は最初のパートナーと出会う。

 

 そして、ポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出す。

 

 期待と緊張が、胸の中で入り混じっていた。

 

 それでも、不安に飲み込まれることはない。

 

 俺には知識がある。これまで積み重ねてきた経験もある。そして、何より、この世界で新しい人生を歩む覚悟がある。

 

 それに――。

 

 俺は、今朝感じた不思議な気配を思い出した。

 

 もし、あれが本当に波動の力なら。

 

 これから出会うポケモンたちと、今までとは違う形で意思を通わせられるかもしれない。

 

 だが、その力がどんなものなのかは、まだ分からない。

 

 だからこそ、焦らずに確かめていこう。

 

「よし、準備完了」

 

 バッグを手に取り、俺は部屋を出た。

 

 階段を下りると、母さんが玄関まで見送りに来てくれた。

 

「忘れ物はない?」

 

「大丈夫。全部確認したよ」

 

「そう。気をつけてね、サトシ」

 

「うん。行ってきます、母さん」

 

 玄関の扉を開ける。

 

 朝の光が、俺の目の前に広がった。

 

 マサラタウンの空は、どこまでも青かった。

 

 今日から、俺の旅が始まる。

 

 最強のポケモンマスターになるために。

 

 そして、この世界で出会うポケモンたちと、自分だけの物語を築いていくために。

 

 俺は一歩、外へ踏み出した。

 

第二幕 シゲルの旅立ちと、変わったサトシ

 

 玄関を出ると、朝の爽やかな風が頬を撫でた。

 

 空はよく晴れている。柔らかな日差しがマサラタウンの家々を照らし、道端の草花が風に揺れていた。

 

 俺は背負ったバッグの位置を直し、オーキド研究所へ向かおうとした。

 

 そのときだった。

 

「……ん?」

 

 町の中心部から、いつもより賑やかな声が聞こえてきた。

 

 歓声。拍手。そして、誰かを応援する声。

 

 今日、旅立つ新人トレーナーは俺だけではない。

 

 もう一人、同じ日に旅へ出る人物がいる。

 

 シゲル・オーキド。

 

 オーキド博士の孫であり、幼い頃から何かと俺に張り合ってきた、いわゆるライバルだ。

 

 前世の知識を思い返すまでもなく、シゲルがどんな人物なのかは、サトシとしての記憶にも刻まれている。

 

 自信家で、負けず嫌い。ポケモントレーナーとしての実力にも自信を持っており、何かにつけて俺を挑発してくる。

 

 ただし、才能があるのも事実だ。

 

 ポケモンに関する知識も豊富で、旅立つ前からトレーナーとしての意識が高い。少なくとも、口先だけの人間ではない。

 

「そういえば、シゲルも今日から旅立つんだったな」

 

 俺は町の中心へと視線を向けた。

 

 大勢の人が集まっている。どうやら、町を挙げてシゲルの旅立ちを見送るつもりらしい。

 

 さすがはオーキド博士の孫、といったところか。

 

 俺は少し考えたあと、そちらへ向かうことにした。

 

 別に、シゲルを見送ること自体に特別な意味があるわけではない。

 

 ただ、同じ日に旅立つ相手がどんな顔をして出発するのか、見ておくのも悪くないと思ったのだ。

 

     ◇

 

「シゲルー! 頑張ってこいよ!」

 

「ポケモンリーグで優勝してくれ!」

 

「オーキド博士のお孫さんなら、きっとすごいトレーナーになるわね!」

 

 町の広場には、たくさんの人々が集まっていた。

 

 その中心に立っているのは、やはりシゲルだった。

 

 いつもの自信たっぷりな笑みを浮かべ、集まった人々に手を振っている。

 

「みんな、応援ありがとう!」

 

 シゲルは胸を張り、よく通る声で宣言した。

 

「僕は必ずポケモンマスターになってみせるよ! そして、ポケモンリーグでも優勝してみせる!」

 

 歓声が上がった。

 

 シゲルは満足そうに頷き、さらに大きく手を振る。

 

 その様子を少し離れた場所から眺めながら、俺は苦笑した。

 

「相変わらず、自信満々だな」

 

 だが、その自信を支えるだけの実力を身につけるつもりなのだろう。

 

 目標を口にするだけなら誰にでもできる。問題は、そこへ向かって努力し続けられるかどうかだ。

 

 シゲルがどこまで成長するのか。

 

 それを考えると、少し楽しみでもあった。

 

 そのとき、シゲルがこちらに気づいた。

 

「あれ? サトシじゃないか!」

 

 シゲルは集まった人々の間を抜け、こちらへ歩いてきた。

 

 周囲の視線も自然と俺に集まる。

 

「なんだい、サトシ。僕の旅立ちを見送りに来てくれたのかい?」

 

「まあ、そういうことにしておくよ」

 

 俺があっさり答えると、シゲルは一瞬だけ不思議そうな顔をした。

 

 だが、すぐにいつもの笑みを浮かべる。

 

「へえ。君も今日から旅に出るんだったね」

 

「ああ。俺も今日からトレーナーになる」

 

「そうだったね。でも、君がどこまでやれるかは疑問だけどね」

 

 出た。

 

 いつもの挑発だ。

 

 シゲルは昔から、俺をからかうのが好きだった。

 

 少しでも隙を見せれば、すぐに言葉を重ねてくる。俺が言い返せば、さらに挑発してくる。

 

 以前の俺なら、きっとここで反論していただろう。

 

 だが、今の俺は違う。

 

 シゲルの言葉に腹を立てる必要はない。ここで言い争ったところで、俺の実力が上がるわけでも、シゲルの実力が下がるわけでもないのだから。

 

 俺は肩をすくめた。

 

「それは、これからの旅で分かることだろ?」

 

「……え?」

 

 シゲルが目を瞬かせた。

 

 俺は気にせず続ける。

 

「シゲルが強くなるつもりなら、俺も強くなる。どっちが上に行くかは、実際に競い合ってみればいいさ」

 

 シゲルは俺の顔をじっと見つめた。

 

 予想していた反応と違ったのだろう。

 

「な、なんだよ。ずいぶん余裕じゃないか」

 

「余裕があるわけじゃないよ。ただ、今から言い争っても仕方ないって思っただけだ」

 

「僕が君より強いのは、もう分かっていることだろう?」

 

「そう思うなら、それでいいんじゃないか?」

 

 俺は落ち着いた口調で答えた。

 

「自信を持つのは悪いことじゃない。でも、本当に強いかどうかは、これからの旅で証明するものだろ?」

 

 シゲルの笑みが、ほんの少しだけ引きつった。

 

 周囲にいた人々も、俺たちのやり取りを聞いてざわめき始めた。

 

「……あら? サトシ、今日はずいぶん落ち着いているわね」

 

「いつもなら、シゲル君に言い返しているのに」

 

「そうそう。二人が顔を合わせると、すぐに言い合いになるのがいつものことだったのにねえ」

 

 そんな声が聞こえてくる。

 

 どうやら、周囲の人々にとっても、今の俺の反応は予想外だったらしい。

 

 俺としては、特別なことをしたつもりはないのだが。

 

 前世の記憶を持つ俺にとって、シゲルの挑発は、それほど腹を立てるようなものではなかった。

 

 むしろ、こうして真正面から競い合える相手がいることは、ありがたいことだと思う。

 

 ライバルがいるからこそ、自分の実力を確かめられる。

 

 自分より強い相手がいるからこそ、成長するための目標ができる。

 

 もちろん、負けるつもりはない。

 

 俺は最強のポケモンマスターを目指しているのだから、シゲルにも、ほかの誰にも負けたくないという気持ちはある。

 

 ただ、その気持ちを今ここで声高に叫ぶ必要はない。

 

 結果は、これからの行動で示せばいい。

 

「……サトシ」

 

 シゲルが、少し低い声で俺の名前を呼んだ。

 

「君、なんだか変わったね」

 

「そうか?」

 

「ああ。いつもの君なら、僕が少し挑発しただけで、すぐにムキになっていたじゃないか」

 

「そうだったかもな」

 

「それなのに、今日は妙に落ち着いている。まるで、別人みたいだ」

 

 シゲルは探るような視線を向けてきた。

 

 俺は内心で少しだけ苦笑した。

 

 実際、前世の記憶を思い出してから、物事の考え方は大きく変わっている。

 

 ただし、シゲルにその理由を説明するつもりはなかった。

 

「旅立ちの日だからな。少しくらい真面目になってもいいだろ?」

 

「……ふん。まあいいさ」

 

 シゲルは腕を組み、鼻を鳴らした。

 

「君がどれだけ変わったところで、僕が目指す場所は変わらない。僕は必ずポケモンマスターになる。そして、誰よりも強いトレーナーになってみせる!」

 

「いい目標だと思うよ」

 

「……は?」

 

「本気で目指しているなら、頑張ればいい。俺も同じくらい本気だからな」

 

 俺はシゲルに向かって笑った。

 

「お互い、いい旅にしようぜ」

 

 今度こそ、シゲルは言葉を失った。

 

 しばらく俺を見つめたあと、ようやく小さく息を吐く。

 

「……本当に、調子が狂うな」

 

「そうか?」

 

「そうだよ!」

 

 シゲルは不満そうに言ったが、その表情には、先ほどまでとは違う色が浮かんでいた。

 

 ただの苛立ちではない。

 

 俺の変化を不思議に思い、少しばかり興味を持っている。そんな様子だった。

 

 やがて、シゲルは踵を返し、集まっていた人々のもとへ戻っていった。

 

「みんな! そろそろ出発するよ!」

 

 再び歓声が上がる。

 

 シゲルは自信たっぷりに胸を張り、町の出口へ向かおうとした。

 

 その背中を見ながら、俺は静かに頷いた。

 

「さて……俺も行くか」

 

 すると、近くにいた町の人が声をかけてきた。

 

「サトシ、あんたも今日から旅立つんだろう?」

 

「ああ、そのつもりだよ」

 

「頑張るんだよ。シゲル君に負けないくらい、立派なトレーナーになるんだよ!」

 

「ありがとう。頑張るよ」

 

 俺は笑顔で答えた。

 

 別の人も、感心したように頷いている。

 

「いやあ、本当に落ち着いたねえ。昔はもっと、やんちゃだったのに」

 

「旅に出ると決めてから、いろいろ考えるようになったのかもしれませんね」

 

「そうかもしれないわね」

 

 そんな会話を耳にしながら、俺は広場を後にした。

 

 シゲルは、もう町の出口に向かって歩き始めている。

 

 俺も、そろそろ自分の旅を始めなければならない。

 

 目指す場所は同じでも、進む道はそれぞれ違う。

 

 シゲルにはシゲルの目標があり、俺には俺の目標がある。

 

 いつか、互いに強くなった姿で再び戦う日が来るだろう。

 

 そのときは、言葉ではなく、ポケモンバトルで答えを出せばいい。

 

「待ってろよ、シゲル」

 

 俺は小さく呟いた。

 

「いつか必ず、俺の実力を見せてやるからな」

 

 胸の奥に、静かな闘志が湧き上がる。

 

 勝負に対する熱い気持ちは、決して失われていない。

 

 ただ、それを表に出すタイミングを選べるようになっただけだ。

 

 俺はバッグを背負い直し、オーキド研究所へと歩き出した。

 

 そこには、俺の最初のパートナーが待っている。

 

 これから始まる旅で、どんな出会いがあるのか。

 

 どんなバトルが待っているのか。

 

 そして、俺自身がどこまで強くなれるのか。

 

 そのすべてを確かめるために、俺は一歩ずつ進んでいく。

 

 マサラタウンの空は、相変わらず青く澄み渡っていた。

 

 シゲルの旅立ちを見送った人々の声を背に、俺は最初の目的地へ向かった。

 

第三幕「ピカチュウとの出会いと、初めての波動」

 

シゲルと別れた俺は、町の人たちの声を背に受けながら、オーキド研究所へ向かっていた。

 

研究所はマサラタウンの外れにある。見慣れた道を歩きながら、俺はこれから始まる旅に思いを巡らせていた。

 

この世界のことなら、知識だけは誰にも負けない自信がある。

 

どの町にどんなジムがあり、どんなポケモンが生息しているのか。これから先、どんな出来事が待ち受けているのか。その多くを、俺は前世の記憶として知っている。

 

だが、知識があることと、実際に経験することは別だ。

 

画面越しに見てきたポケモンたちが、今は本当にこの世界で生きている。

 

そして今日、俺はその一匹と、旅の第一歩を踏み出す。

 

「……楽しみだな」

 

思わず口元が緩んだ。

 

研究所の建物が見えてくる。俺は軽く息を整え、玄関の扉を開いた。

 

「おはようございます、博士!」

 

「おお、サトシ! やっと来たか!」

 

奥から聞こえてきたのは、聞き慣れたオーキド博士の声だった。

 

白衣を着た博士は、書類を机に置くと、俺の姿を見て満足そうに頷いた。

 

「寝坊はしなかったようじゃな」

 

「ええ。昨日は早めに寝ましたから」

 

「ほっほっほ。それは結構。シゲルは先ほど出発したぞ。町のみんなに見送られて、ずいぶん張り切っておったわい」

 

「そうみたいですね。さっき見送りに行ってきました」

 

「ほう。あの二人が大喧嘩をせずに別れたとは、珍しいこともあるものじゃ」

 

博士は面白そうに笑った。

 

「別に、いつも喧嘩しているわけじゃありませんよ」

 

「さて、どうじゃったかな?」

 

「……博士までそんなことを言うんですか」

 

俺は苦笑した。

 

前世の知識があっても、こういうやり取りは実際に経験しなければ分からないものだ。オーキド博士は研究者として優秀な一方で、こうした軽口を叩くこともある。

 

「それで、博士。俺のパートナーになるポケモンは?」

 

「おお、そうじゃったな。さっそく紹介しよう!」

 

博士は嬉しそうに手を叩き、研究所の奥へと歩き出した。

 

俺もその後についていく。

 

研究所の一室には、ポケモン用の設備や道具が整然と並んでいた。いくつかのモンスターボールが置かれた棚の前で、博士が足を止める。

 

「本来なら、旅立つ新人トレーナーには三匹の中から選んでもらうことになっておる。じゃが……」

 

博士は少し困ったように頭をかいた。

 

「フシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメは、すでに別のトレーナーたちに渡してしまってな」

 

「なるほど」

 

知っていた展開だ。

 

それでも、実際に聞くと少しだけ感慨深い。

 

「そこで、お前には特別なパートナーを紹介しようと思う」

 

博士が取り出したモンスターボールを手に取った。

 

「ピカチュウじゃ!」

 

ボールが開き、光が弾ける。

 

現れたのは、黄色い体に長い耳、赤い頬を持つ小さなポケモンだった。

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは周囲を見回したあと、俺の姿を認めると、少し警戒するように身構えた。

 

――いた。

 

俺は思わず息を呑んだ。

 

画面の中で何度も見てきた姿。数え切れないほどの冒険を共にしてきた、物語の象徴ともいえるポケモン。

 

けれど、今、目の前にいるピカチュウは映像でも絵でもない。

 

小さな胸が上下し、耳がぴくりと動く。頬の赤い電気袋から、かすかな火花が散っていた。

 

生きている。

 

その事実が、知識として理解していたはずのことを、改めて胸に刻みつけた。

 

「ピカチュウ。今日からこのサトシと一緒に旅をしてもらいたいんじゃが……」

 

「ピカ!」

 

博士が説明を続けようとした途端、ピカチュウは顔を背けた。

 

「おや?」

 

「ピカ、ピカ!」

 

ピカチュウは俺から距離を取り、博士に向かって何かを訴えるように鳴いた。

 

博士は困ったように眉を下げた。

 

「ううむ。どうやら、あまり乗り気ではないようじゃな」

 

「そうですか」

 

俺はピカチュウを見つめた。

 

無理に従わせるつもりはない。

 

これから旅をするのなら、互いに信頼できる関係を築く必要がある。こちらの都合だけで相手の気持ちを無視するようなことはしたくなかった。

 

「なあ、ピカチュウ」

 

俺はしゃがみ込み、できるだけ目線を合わせた。

 

「俺はサトシ。今日から旅に出るんだ。ポケモンマスターになるために、いろんな場所を回って、たくさんのポケモンと出会いたいと思ってる」

 

「ピカ……」

 

「もちろん、旅は楽しいことばかりじゃないと思う。強い相手と戦うこともあるし、危険な目に遭うことだってあるだろう。だから、お前が嫌なら無理に連れていくつもりはない」

 

ピカチュウの耳が、ぴくりと動いた。

 

「でも、もし一緒に来てくれるなら……俺はお前のことを、ただ命令を聞かせるためのポケモンだとは思わない。お前の気持ちを聞くし、俺の考えもちゃんと伝える。互いに信頼できるパートナーになりたいんだ」

 

ピカチュウは、じっと俺を見ていた。

 

その瞳には警戒心が残っている。けれど、さっきまでのような、はっきりとした拒絶だけではなかった。

 

俺は、そこでふと、朝に感じた奇妙な感覚を思い出した。

 

扉の向こうにいる母さんの気配を、目を閉じたまま感じ取った、あの感覚。

 

あれが本当に波動だったのなら――。

 

「……試してみるか」

 

俺は意識を集中させた。

 

目の前にいるピカチュウの存在を、ただ視覚や聴覚で捉えるのではなく、もっと深いところで感じ取ろうとする。

 

最初は何も起こらなかった。

 

焦らず、力を込めすぎず、ピカチュウの呼吸や気配に意識を向ける。

 

すると。

 

ふわり、と。

 

自分の内側から、何かが広がっていくような感覚が生まれた。

 

視界が変わったわけではない。周囲の景色が光り出したわけでもない。

 

それなのに、目の前のピカチュウが、さっきよりもずっと近くに感じられた。

 

小さな体の緊張。こちらを警戒する気持ち。そして、その奥にある、まだ言葉にならない感情。

 

――本当に、俺と旅をして大丈夫なのか?

 

声ではなかった。

 

耳から聞こえたわけでもない。

 

けれど、その疑問が、確かな意味を持って俺の中に伝わってきた。

 

「……っ!」

 

驚きで集中が乱れかける。

 

だが、俺はすぐに呼吸を整えた。

 

これが波動なのか。

 

前世の知識にあった、波動による意思疎通。知識として知っていた現象を、今、自分自身が体験している。

 

「大丈夫だ」

 

俺はピカチュウを見つめ、心の中で答えた。

 

「最初から何もかも上手くいくなんて思ってない。でも、困ったことがあれば一緒に考える。強くなるために努力するし、お前のこともちゃんと理解したい」

 

ピカチュウの瞳が、わずかに見開かれた。

 

「俺だけが一方的にお前を信じるんじゃない。お前にも、俺を信じてもらえるように頑張る。だから……一緒に来てくれないか?」

 

言葉を口にしたのと同時に、心の中に小さな反応が返ってきた。

 

――この人間は、本気なんだ。

 

確信ではない。まだ、ほんの小さな気持ちの変化だ。

 

それでも、ピカチュウの警戒が少しだけ和らいだのを、俺は感じ取った。

 

次の瞬間、胸の奥から広がっていた感覚が、急に強くなった。

 

ピカチュウだけではない。

 

博士の気配。机や棚の位置。壁の向こうにある部屋の存在まで、ぼんやりと意識に流れ込んでくる。

 

情報が多い。

 

頭の中に、普段なら意識しないものまで一気に押し寄せてくる。

 

「くっ……!」

 

俺は額を押さえ、集中を切った。

 

途端に、周囲の感覚が元に戻る。

 

視界が少し揺れ、こめかみに鈍い痛みが走った。

 

「サトシ! どうしたんじゃ?」

 

博士が慌てて近づいてくる。

 

「いえ……大丈夫です。少し、頭に情報が入りすぎたみたいで」

 

「情報が入りすぎた?」

 

博士は不思議そうに俺を見つめた。

 

俺は一度深呼吸してから、ピカチュウへと視線を戻した。

 

ピカチュウは、もう俺から離れようとはしていなかった。

 

むしろ、こちらの様子を気にするように近づき、顔を覗き込んでくる。

 

「ピカ?」

 

「心配してくれてるのか?」

 

「ピカ!」

 

短い鳴き声だったが、先ほどまでとは雰囲気が違っていた。

 

俺は自然と笑みを浮かべた。

 

「ありがとう。もう大丈夫だ」

 

ピカチュウは、少しだけ得意げに胸を張った。

 

その仕草を見て、俺は思った。

 

波動を使えば、ポケモンの気持ちを理解できるかもしれない。けれど、それは相手のすべてを知るということではない。

 

気持ちを感じ取れたとしても、どう応えるかは自分で考えなければならない。

 

それに、使い方を誤れば、さっきのように自分自身が振り回されることになる。

 

この力を使いこなすには、練習が必要だ。

 

そして何より、力に頼りきってはいけない。

 

目の前の相手を自分の目で見て、声を聞いて、行動を理解する。そうした積み重ねがあってこそ、波動も本当の意味で役に立つのだろう。

 

「博士」

 

「なんじゃ?」

 

「俺、このピカチュウと一緒に旅をしたいです」

 

俺は、はっきりと告げた。

 

「ピカチュウが嫌がるなら無理強いはしません。でも、今は俺と一緒に来てもいいと思ってくれているみたいです。だから、まずは一緒にやってみたい」

 

博士は俺とピカチュウを交互に見た。

 

やがて、目を細めて笑う。

 

「ほっほっほ。なるほどのう。どうやら、ピカチュウもお前のことを少し気に入ったようじゃ」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは俺の足元まで歩いてくると、軽く前足を上げた。

 

俺は差し出された前足に、自分の手をそっと添えた。

 

「これからよろしくな、ピカチュウ」

 

「ピカ!」

 

その瞬間、胸の奥が温かくなった。

 

前世で何度も見てきた光景が、今、自分の人生の一部になったのだ。

 

俺はポケモンマスターを目指す。

 

そのために強くなる。知識を磨き、戦術を考え、どんな相手にも勝てるトレーナーを目指す。

 

けれど、それだけではない。

 

一緒に旅をするポケモンたちと、互いに信頼し合える関係を築く。

 

その最初の一歩を、今、踏み出したのだ。

 

「さて、サトシ。旅立ちの準備を整えようかの」

 

博士が棚から道具を取り出した。

 

「まずはポケモン図鑑じゃ。これから出会うポケモンを記録するための大切な道具じゃぞ。それから、モンスターボールも渡しておこう」

 

博士はポケモン図鑑と数個のモンスターボールを俺に手渡した。

 

「ありがとうございます」

 

俺は図鑑を受け取り、表面を確かめる。

 

これがあれば、ポケモンの情報を記録しながら旅を進められる。前世の知識があっても、実際に出会った個体の状態や成長を記録することには大きな意味がある。

 

「それと、サトシ」

 

「はい?」

 

博士の表情が、少しだけ真剣なものに変わった。

 

「さっき、ピカチュウに話しかけていたときじゃが……。途中で、妙な反応を見せておったな。頭痛でもしたのか?」

 

俺は少し考えてから答えた。

 

「実は、今朝から妙な感覚があるんです。近くにいる人の気配が、いつもよりはっきり分かるというか……。さっきは、ピカチュウの気持ちが言葉みたいに伝わってきました」

 

博士の目が、わずかに見開かれた。

 

「気持ちが、言葉のように?」

 

「はい。耳で聞いたわけじゃありません。でも、何を考えているのか、なんとなく分かったんです」

 

「ふむ……」

 

博士は腕を組み、しばらく考え込んだ。

 

「それは、もしかすると『波動』に関係しているのかもしれん」

 

「波動……」

 

自分が考えていた言葉を、博士の口から聞く。

 

「波動とは、生き物が持つ気配や心の動きなどを感じ取る力として語られておる。波動を扱う者の中には、人やポケモンの存在を察知したり、言葉を使わずに意思を伝えたりできる者がいるという記録もある」

 

「やっぱり、そういう力があるんですね」

 

「うむ。ただし、波動については分かっておらんことも多い。誰もが同じように扱えるわけではないし、能力の現れ方にも個人差がある。身体能力に影響する場合もあるといわれておるが、仕組みのすべてが解明されているわけではないんじゃ」

 

博士は俺を注意深く見つめた。

 

「サトシ。今の力を、いつから感じておる?」

 

「はっきり意識したのは今朝です。さっきピカチュウと向き合ったときに、初めて自分から使おうとして……実際に気持ちが伝わってきました」

 

「なるほど。じゃが、無理は禁物じゃ。さっきのように頭痛が起きたのなら、一度に多くの情報を感じ取りすぎた可能性もある。今は、どこまでできるのか確かめるよりも、まずは安全に使える範囲を知ることが大切じゃな」

 

「分かりました。無理に使い続けるつもりはありません」

 

「よろしい。もしよければ、今後、わしにも波動について調べる手伝いをさせてくれんか? お前の体調や意思を尊重しながら、どのような現象が起きるのか、一緒に記録していきたいんじゃ」

 

俺は少し驚いた。

 

オーキド博士はポケモン研究の第一人者だ。そんな博士が、俺の力についても調べてくれるという。

 

「ぜひお願いします。俺も、この力のことを知りたいです。ただ、ポケモンの気持ちを無理に探ったり、危険な使い方をしたりするのは避けたいです」

 

「もちろんじゃ。波動は、ポケモンと心を通わせるためにも使えるかもしれん。じゃが、相手の意思を尊重することが何より大切じゃな」

 

「はい」

 

俺は頷いた。

 

波動を使えば、今まで以上にポケモンのことを理解できるかもしれない。

 

だが、その力は万能ではない。使いこなせなければ自分を傷つけるし、相手の気持ちを理解したつもりになってしまう危険もある。

 

だからこそ、学んでいく必要がある。

 

「では、詳しい話はお前が旅から戻ったときにも続けよう。旅先で何か気づいたことがあれば、記録しておくとよいぞ」

 

「分かりました」

 

博士は満足そうに頷いた。

 

「よし。それでは、いよいよ出発じゃな。ポケモン図鑑もモンスターボールもある。パートナーも決まった。あとは、お前自身が一歩を踏み出すだけじゃ」

 

俺はピカチュウを見下ろした。

 

「行こう、ピカチュウ」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは元気よく返事をすると、俺の肩へ飛び乗った。

 

その重みと温かさを感じながら、俺は研究所の出口へ向かった。

 

知識だけでは分からないことが、きっと山ほどある。

 

波動のことも、ポケモンたちの本当の気持ちも、これからの旅で確かめていかなければならない。

 

それでも、不安よりも期待のほうが大きかった。

 

俺には、目指す夢がある。

 

そして今、その夢への道を一緒に歩いてくれる最初のパートナーがいる。

 

「行くぞ、ピカチュウ。俺たちの旅の始まりだ!」

 

「ピカチュウ!」

 

こうして俺とピカチュウは、マサラタウンから旅立つ準備を整えた。

 

まだ知らない世界へ。

 

まだ出会っていないポケモンたちへ。

 

そして、いつか辿り着くポケモンマスターという夢へ向かって。

 

第四幕「最初のパートナー、その力を知る」

 

オーキド研究所を出た俺は、肩に乗ったピカチュウを見上げた。

 

マサラタウンを出れば、いよいよ本当の旅が始まる。

 

これから先、野生のポケモンと出会うこともあれば、他のトレーナーと戦うこともあるだろう。ポケモンセンターで休むことも、思いどおりにいかず悩むこともあるはずだ。

 

そのすべてを、俺とピカチュウで乗り越えていく。

 

だからこそ、旅立つ前に確認しておきたいことがあった。

 

「なあ、ピカチュウ」

 

「ピカ?」

 

「これから一緒に旅をするんだ。まずは、お前がどんな技を使えるのか、どんな動きが得意なのかを確かめておきたいんだけど、いいか?」

 

ピカチュウは肩の上で首を傾げた。

 

「ピカピ?」

 

「簡単な確認だよ。無理なことはさせないし、疲れたらすぐにやめる。お前の得意なことを知っておけば、いざというときに一緒に戦いやすくなるからな」

 

俺の言葉を聞いたピカチュウは、少し考えるように耳を動かしたあと、元気よく頷いた。

 

「ピカ!」

 

「よし。ありがとう」

 

俺は研究所の敷地から少し離れた、周囲に人やポケモンがいない広場へ向かった。野生のポケモンを巻き込んだり、誰かに電撃を当てたりするわけにはいかない。最初の確認は、安全な場所で行うべきだ。

 

広場に着くと、俺はピカチュウを肩から下ろした。

 

「まずは、技を確認しよう。博士からもらったポケモン図鑑を使えば、基本的な情報を調べられるはずだ」

 

ポケモン図鑑を取り出し、ピカチュウに向ける。

 

図鑑が反応し、ピカチュウについての情報が表示された。

 

俺は内容に目を通す。

 

種族として知られている特徴や、電気を扱う能力については、前世の知識でも把握している。だが、ここで大切なのは一般的なピカチュウの情報だけではない。

 

目の前にいる、このピカチュウが何をできるのか。

 

それを確かめなければ意味がない。

 

「ピカチュウ。今、使える技を一つずつ見せてくれるか?」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは前に出ると、やる気を見せるように胸を張った。

 

俺は少し距離を取って、周囲に危険がないことを確かめた。

 

「最初は、でんきショックからいこう。あそこの地面に向けて、軽く撃ってみてくれ」

 

ピカチュウは頷くと、頬の電気袋を光らせた。

 

バチッ!

 

小さな電撃が走り、指定した地面に弾けた。

 

「なるほど……」

 

威力は、今の時点では判断しきれない。地面に撃った電撃だけでは、相手にどの程度のダメージを与えられるか、正確には分からないからだ。

 

ただ、発動までの動きは素早かった。電気を放つ直前に頬の電気袋が光ることも確認できた。

 

「いいぞ。今度は、もう少し離れた場所に向けて撃ってみてくれ」

 

ピカチュウは指示された場所を見つめ、再び電撃を放った。

 

今度も狙った場所に命中する。

 

「狙いは悪くないな。少なくとも、指示した場所を狙って撃つことはできる」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは嬉しそうに鳴いた。

 

俺は図鑑を確認しながら、頭の中で情報を整理する。

 

技の名前や基本的な性質を知っているだけでは、実戦で使えるかどうかは分からない。どれだけの距離まで届くのか、連続して使えるのか、狙いをどこまで調整できるのか。そういった細かい部分は、実際の動きを見て確かめる必要がある。

 

「次は、でんこうせっかを見せてくれ」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは軽く身を沈めた。

 

次の瞬間、小さな黄色い体が一気に前へ飛び出した。

 

「速いな……!」

 

目で追えないほどではない。だが、動き始めてからの加速が鋭い。相手が反応する前に距離を詰められれば、戦闘で大きな武器になるだろう。

 

ピカチュウは数メートル先で止まり、こちらを振り返った。

 

「今の動きはいい。もう一度、今度は途中で方向を変えられるか試してみよう。ただし、無理に急旋回しなくていい。できる範囲でな」

 

ピカチュウは頷き、もう一度走り出した。

 

今度は途中で進行方向を変え、少し弧を描くように走ってから停止した。

 

「なるほど。直線だけじゃなく、ある程度なら動きを変えられるんだな」

 

ただし、方向を変えるときには、わずかに動きが鈍る。

 

その一瞬を相手に狙われれば、反撃を受ける可能性がある。実戦では、ただ速く走るだけではなく、相手の動きを見て進路を変えることが重要になりそうだ。

 

「よくできたぞ、ピカチュウ」

 

「ピカ!」

 

褒められたピカチュウは、誇らしそうに胸を張った。

 

俺は続いて、ピカチュウの尻尾や耳の動き、攻撃の前後に見せる癖にも目を向けた。

 

戦闘中のわずかな仕草には、次の行動を予測する手がかりが隠れていることがある。もちろん、相手に見抜かれないようにする工夫も必要だが、まずは自分のパートナーの特徴を知ることから始めたい。

 

「最後に、でんきショックを撃つ前に、少しだけ待ってから撃ってみてくれるか?」

 

「ピカ?」

 

「合図を出すまで撃たなくていい。合図を聞いてから、さっきと同じ場所を狙ってみてくれ」

 

ピカチュウは指定された場所を見て、じっと待った。

 

俺は数秒後、手を軽く上げた。

 

「今だ!」

 

バチッ!

 

電撃が走り、地面に弾けた。

 

「よし。合図に合わせて撃つこともできるな」

 

ここで確認できたのは、単純な技の威力だけではない。

 

トレーナーの指示を理解し、適切なタイミングで技を使うこと。それは実戦において重要な要素だ。

 

ただし、今は安全な場所で、落ち着いた状態で試している。実際の戦闘では相手も動くし、こちらの指示が届かない状況もあるだろう。

 

今の結果だけで、すべてが分かったとは思わないほうがいい。

 

「ありがとう、ピカチュウ。今日はここまでにしよう」

 

「ピカ?」

 

「まだ試したいことはあるけど、旅はこれから長いんだ。最初から飛ばしすぎる必要はないよ」

 

ピカチュウは一瞬だけ残念そうな顔をしたが、すぐに納得したように頷いた。

 

俺はその様子を見て、自然と笑みを浮かべた。

 

「それに、技を確認するだけじゃなくて、お前自身のことも知っていきたい。何が好きで、何が苦手なのか。どういう戦い方が得意なのか。そういうことを少しずつ覚えていこう」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは元気よく返事をすると、俺の肩へ飛び乗った。

 

俺はポケモン図鑑を閉じ、これまでの確認内容を頭の中で整理した。

 

でんきショックは、狙いを定めて放つことができる。でんこうせっかは素早く距離を詰めるのに向いており、動きながら方向を変えることもある程度できる。こちらの合図に合わせて行動することも可能だ。

 

一方で、技の正確な威力や、長時間の戦闘でどこまで動けるのかは、まだ分からない。

 

そして、技の性能を知ることと、実戦で勝てることは同じではない。

 

相手の技や性格、周囲の地形、戦闘中の判断。そうした要素を踏まえて初めて、技を本当の意味で使いこなせるようになる。

 

「よし。次は実際にポケモンと出会って、どう動くかを考えてみよう」

 

「ピカチュウ!」

 

俺たちは広場を後にした。

 

研究所を出てから、それほど時間は経っていない。

 

それでも、ピカチュウのことを少しだけ理解できた気がした。

 

もちろん、まだ知らないことのほうが圧倒的に多い。

 

だからこそ、これからの旅が楽しみだった。

 

俺は肩の上のピカチュウをちらりと見た。

 

「頼りにしてるぞ、ピカチュウ」

 

「ピカ!」

 

その元気な声を聞きながら、俺は町の外へ続く道を歩き始めた。

 

この先で、どんなポケモンと出会うのか。

 

そして、俺たちはどんな戦いを経験するのか。

 

その答えは、これから自分たちで確かめていく。

 

第五幕「初めてのバトル、ポッポとの出会い」

 

マサラタウンを出てしばらく歩くと、町の建物は次第に遠ざかり、道の両側に草むらが広がり始めた。

 

空は青く澄み、柔らかな風が草の葉を揺らしている。

 

肩に乗ったピカチュウは、初めて見る景色に興味津々だった。右を見たり、左を見たり、ときには鼻をひくひくさせたりしている。

 

「そんなにきょろきょろして、気になるものでもあるのか?」

 

「ピカ!」

 

「まあ、分からなくもないけどな。俺も楽しみだよ」

 

俺は笑いながら、道の先を見た。

 

この先には、たくさんの野生ポケモンが生息している。前世の知識では、このあたりで出会うポケモンの種類も、おおよその生息環境も知っている。

 

だが、知識はあくまでも出発点だ。

 

同じ種類のポケモンでも、性格や得意なことは個体によって違う。図鑑に載っている情報だけでは分からないことも、実際に出会えば見えてくるはずだ。

 

「そろそろ、草むらに入るポケモンも出てくる頃かな」

 

俺がそう呟いたときだった。

 

草むらの奥で、何かが動いた。

 

さわさわ、と葉が揺れる。

 

俺はすぐに足を止めた。

 

「ピカチュウ、待ってくれ」

 

「ピカ?」

 

「何かいる」

 

目を凝らすと、草の隙間から茶色い小さな鳥ポケモンが顔を出した。

 

ポッポだ。

 

丸い体に小さなくちばし。頭の羽毛を揺らしながら、こちらの様子をうかがっている。

 

俺はポケモン図鑑を取り出した。

 

『ポッポ。ことりポケモン。おとなしい性格で、草むらなどに生息する。危険を感じると、砂を巻き上げて身を守ることがある』

 

図鑑の説明を確認してから、俺はポッポを見つめた。

 

「ポッポか……」

 

旅の最初に出会う野生ポケモンとしては、よく知られた存在だ。

 

だが、俺が本当に知りたいのは、種族の一般的な特徴だけではない。

 

このポッポが何を警戒しているのか。俺たちを危険だと思っているのか。それとも、単に様子を見ているだけなのか。

 

「ピカチュウ。少しだけ、あそこから動かずにいてくれ」

 

「ピカ!」

 

俺はゆっくりとしゃがみ、ポッポを刺激しないように意識した。

 

そして、波動に意識を向ける。

 

ピカチュウとのやり取りで経験した感覚を思い出し、余計な情報まで拾わないよう、目の前のポッポだけに集中した。

 

胸の奥で、かすかな感覚が広がる。

 

ポッポの気配が、先ほどよりもはっきりと感じられた。

 

警戒。

 

それから、わずかな好奇心。

 

――あの黄色いポケモンは何だろう。

 

そんな気持ちが、曖昧ながらも伝わってきた。

 

「……よし。今のところ、強い敵意はなさそうだ」

 

俺は小さく息を吐いた。

 

しかし、そこで波動を切る。

 

まだ慣れていない力を長く使い続ける必要はない。必要なことを感じ取れたなら、それ以上は欲張らないほうがいい。

 

「ピカチュウ。少しだけ、挨拶してみるか?」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは肩から降りると、俺の隣に立った。

 

ポッポは一瞬身構えたが、すぐに飛び立つことはなかった。

 

俺はピカチュウとポッポの様子を交互に確認する。

 

「俺たちは旅を始めたばかりなんだ。もしよかったら、少しだけ相手をしてくれないか?」

 

もちろん、人間の言葉がそのままポッポに伝わるわけではない。

 

それでも、声の調子や態度から、こちらに敵意がないことは感じ取れるかもしれない。

 

ポッポは首を傾げた。

 

そして、草むらから飛び出すと、俺たちの前に降り立った。

 

「ポッポ!」

 

「……やる気みたいだな」

 

俺は立ち上がり、ピカチュウを見た。

 

「ピカチュウ。相手が逃げ道を失わないように、草むらから少し離れた場所で戦おう。技も必要以上に強く撃たなくていい」

 

「ピカ!」

 

俺たちは場所を移し、周囲に人やほかのポケモンがいないことを確かめた。

 

これが、俺にとって初めての野生ポケモンとのバトルになる。

 

もちろん、前世の知識としてポケモンバトルの仕組みは知っている。だが、実際に自分の指示でポケモンが動き、相手も自分の意思で戦う状況は、画面越しの経験とはまったく違うはずだ。

 

俺は息を整えた。

 

「ピカチュウ。準備はいいか?」

 

「ピカ!」

 

「よし。まずは相手の動きを見よう。無理に攻めなくていい」

 

ポッポが翼を広げた。

 

次の瞬間、勢いよくこちらへ飛び込んでくる。

 

「来るぞ!」

 

俺は反射的に声を上げた。

 

ポッポは低空を飛びながら、ピカチュウへ向かって突進してくる。

 

「右に避けろ!」

 

ピカチュウは素早く横へ跳んだ。

 

ポッポは地面すれすれを通り過ぎ、すぐに向きを変える。

 

速い。

 

ただ突進するだけではなく、こちらの動きを見て次の行動を選んでいる。

 

「なるほど……。野生だからって、動きが単純なわけじゃないな」

 

俺はポッポの飛び方を観察した。

 

方向転換のときに少しだけ高度が変わる。低く飛んでいるときは素早いが、急に向きを変えると、一瞬だけ軌道が大きくなる。

 

その癖を利用できれば、攻撃を当てる機会を作れるかもしれない。

 

「ピカチュウ、でんこうせっか! ポッポが向きを変えた瞬間に距離を詰めるんだ!」

 

「ピカッ!」

 

ピカチュウは地面を蹴った。

 

黄色い体が一気に加速する。

 

ポッポが方向を変えた瞬間、ピカチュウはその懐へ飛び込んだ。

 

「今だ!」

 

ピカチュウの体がポッポにぶつかる。

 

ポッポは体勢を崩し、地面へ降りた。

 

だが、すぐに翼を広げて距離を取る。

 

「ポッポ!」

 

ポッポは羽ばたき、風を起こした。

 

砂や小さな葉が舞い上がり、ピカチュウの視界を遮る。

 

「視界を奪ってきたか!」

 

俺は目を細めた。

 

ポッポは、真正面から力で押し切ろうとしているわけではない。こちらが見えにくくなった隙を利用して、次の攻撃につなげようとしている。

 

「ピカチュウ、無理に追うな! いったん距離を取れ!」

 

ピカチュウは指示に従い、後ろへ跳んだ。

 

直後、ポッポが砂煙の中から飛び出してくる。

 

もし追いかけていたら、まともに攻撃を受けていたかもしれない。

 

「いい判断だ、ピカチュウ!」

 

俺は心の中で、ひとつの考えを固めた。

 

ポッポの飛行能力は厄介だ。地上にいる相手に対して、高さを変えながら攻撃できる。さらに、砂を巻き上げれば視界を奪うこともできる。

 

こちらには電気技があるが、相手の動きを捉えられなければ、狙いを定めることも難しい。

 

ならば、まずは相手の動きを制限する。

 

「ピカチュウ! でんきショックを地面に撃ってくれ!」

 

「ピカ?」

 

「ポッポを直接狙わなくていい。前方の地面だ!」

 

ピカチュウは一瞬だけ俺を見たが、すぐに意図を理解したように頷いた。

 

バチバチッ!

 

電撃が地面に走る。

 

ポッポは驚いて翼を広げ、攻撃を避けるように高度を上げた。

 

その動きを見て、俺は確信した。

 

「よし。今度は、そのまま少し高いところを狙ってみよう!」

 

ピカチュウの頬が光る。

 

ポッポは空中で姿勢を立て直そうとしていた。

 

「でんきショック!」

 

電撃が放たれる。

 

ポッポは慌てて横へ飛んだが、電撃の端が翼をかすめた。

 

「ポッポッ!」

 

ポッポは地面に降り立ち、少しよろめいた。

 

当たった。

 

だが、これで勝負が決まったわけではない。

 

ポッポはまだ戦う意思を見せている。翼を広げ、こちらを見つめていた。

 

俺はすぐに次の指示を出そうとした。

 

けれど、その前に、ポッポの様子を注意深く確認する。

 

呼吸は乱れている。翼にも疲労が見える。それでも、目にはまだ力が残っていた。

 

「……まだやるつもりか」

 

ポッポは短く鳴き、再び翼を広げた。

 

俺は小さく頷いた。

 

「分かった。なら、最後までちゃんと相手をする」

 

強い攻撃を何度も当てて、無理やり倒す必要はない。

 

相手の動きを読み、必要な場面で技を使い、勝負を決める。

 

それができるかどうかを確かめるのも、今回のバトルの目的だ。

 

「ピカチュウ。ポッポが飛び込んでくるまで待とう。避けたあと、でんこうせっかで距離を詰めるんだ」

 

「ピカ!」

 

ポッポは翼を羽ばたかせ、再び低空飛行で突進してきた。

 

ピカチュウはぎりぎりまで動かない。

 

俺はポッポの進路を見極めた。

 

――今だ。

 

「避けろ!」

 

ピカチュウが横へ跳ぶ。

 

ポッポの突進が空を切った。

 

「でんこうせっか!」

 

ピカチュウはすぐに反転し、ポッポとの距離を詰めた。

 

ポッポが向きを変えようとする。

 

だが、今度は間に合わなかった。

 

ピカチュウの体が、ポッポに命中する。

 

ポッポは地面に降り、数歩だけ後ずさった。

 

しばらく俺たちを見つめたあと、力を抜くように翼を畳んだ。

 

「……勝負あり、かな」

 

俺はピカチュウに近づいた。

 

「よくやったな、ピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは嬉しそうに鳴いた。

 

初めてのバトルだったが、ピカチュウは俺の指示をよく聞いてくれた。こちらも相手の動きを観察し、いくつかの判断を試すことができた。

 

もちろん、反省点もある。

 

最初の突進では、俺自身が相手の動きに驚いてしまった。砂煙を起こされたときも、状況を理解するまで少し時間がかかった。

 

実戦では、考える時間がもっと短くなるだろう。

 

知識を持っているだけでは足りない。目の前で起きていることを見て、その場で判断できるようにならなければならない。

 

俺はポッポに目を向けた。

 

「ポッポ。大丈夫か?」

 

ポッポは少し疲れた様子だったが、立ち上がることはできていた。

 

俺はしゃがみ込み、波動を使うべきか考えた。

 

戦いの直後だ。無理に相手の心へ踏み込む必要はない。

 

だが、仲間に迎えたいと思うのなら、相手の意思を確かめることは大切だ。

 

「……少しだけ、聞かせてもらうぞ」

 

俺は呼吸を整え、ポッポの気配へ意識を向けた。

 

波動が広がる。

 

今度は、研究所でピカチュウと向き合ったときほど強くはない。

 

ポッポの疲労。警戒心。それから、戦いに負けたことへの悔しさが伝わってきた。

 

――負けた。でも、あの黄色いポケモンは強かった。

 

その感情の奥には、俺たちを拒絶する気持ちだけではなく、興味も残っている。

 

俺は波動を切り、穏やかな声で話しかけた。

 

「ポッポ。俺はこれから旅をするんだ。いろんな場所へ行って、もっと強くなりたいと思ってる」

 

ポッポは黙って俺を見ていた。

 

「もし、お前が望むなら、俺と一緒に来てくれないか? もちろん、嫌なら無理に連れていくつもりはない」

 

ポッポは首を傾げた。

 

俺は返事を急かさず、静かに待った。

 

しばらくすると、ポッポは一歩、こちらへ近づいた。

 

そして、俺の手の近くにくちばしを寄せた。

 

「……一緒に来てくれるのか?」

 

「ポッポ!」

 

その鳴き声とともに、ポッポの気持ちがわずかに伝わってきた。

 

――この人間となら、もっと強くなれるかもしれない。

 

俺は笑顔になった。

 

「ありがとう。これからよろしくな、ポッポ」

 

ポッポは小さく鳴き、翼を広げた。

 

俺はモンスターボールを取り出した。

 

「それじゃあ、ボールに入ってもらってもいいか?」

 

ポッポはボールを見つめたあと、ゆっくりと頷いた。

 

俺はボールをそっと差し出した。

 

ポッポがボールに触れる。

 

赤い光がポッポを包み込み、その姿がボールの中へ吸い込まれた。

 

ボールが地面に落ち、わずかに揺れる。

 

一度。

 

二度。

 

三度目の揺れが止まった。

 

カチッ。

 

捕獲成功だ。

 

「……よし!」

 

俺はモンスターボールを拾い上げた。

 

初めて、自分の意思でポケモンを仲間に迎えた。

 

ボールを手にしていると、自然と胸が熱くなった。

 

ピカチュウが肩から降り、ボールのそばへやってくる。

 

「ピカ?」

 

「ああ。新しい仲間だよ」

 

俺はボールを見つめた。

 

「ピカチュウも、これからよろしく頼むな」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは元気よく返事をした。

 

俺はポッポのボールをベルトに取り付けると、ポケモン図鑑を開いた。

 

捕獲したポケモンの情報を確認し、記録を残しておく。図鑑を完成させるという目標を考えても、こうした積み重ねは欠かせない。

 

しかし、今はそれ以上に、実際に出会ったポッポのことを忘れないようにしたかった。

 

野生で生きるポケモンの判断力。

 

戦いの中で見せた工夫。

 

そして、負けたあとも自分の意思で俺と旅をすることを選んでくれたこと。

 

図鑑の情報だけでは分からないものを、俺は確かに得た。

 

「よし。これで俺たちは二匹だな」

 

「ピカ!」

 

「次は、どんなポケモンと出会えるかな」

 

俺は道の先を見た。

 

マサラタウンを出てから、まだそれほど時間は経っていない。

 

それでも、俺の旅はすでに一歩ずつ進んでいる。

 

ピカチュウとポッポ。

 

二匹のポケモンと一緒に、俺はこれから多くの経験を積んでいく。

 

そして、もっと強くなる。

 

「さあ、行こう!」

 

「ピカチュウ!」

 

俺は再び歩き始めた。

 

その先で待っている出会いも、戦いも、まだ知らない。

だが、今はそれが楽しみだった。

 

第六幕「少女との出会い、そして鳥ポケモンの大群」

 

ポッポを仲間に迎えた俺は、ピカチュウと一緒に道を進んでいた。

 

肩の上ではピカチュウが周囲を見回し、腰のベルトにはポッポの入ったモンスターボールが収まっている。

 

旅を始めてから、まだそれほど時間は経っていない。それでも、最初のパートナーとの出会いも、初めてのバトルも、すでに経験した。

 

これから先は、もっと多くのポケモンと出会い、いろいろな場所を巡っていくことになる。

 

「まずは、ニビシティを目指すか」

 

俺は地図を確認しながら呟いた。

 

マサラタウンから北へ進めば、やがてトキワシティへたどり着く。その先には、最初のジムがあるニビシティが待っている。

 

ただ、焦って進む必要はない。

 

旅では、目的地に早く着くことだけが重要なのではない。途中で出会うポケモンや人々から何を学べるかも、大切なことだ。

 

「ピカチュウ、疲れてないか?」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは元気よく返事をした。

 

「そうか。なら、もう少し歩こう」

 

道沿いの草むらを抜け、緩やかな坂を下っていく。やがて木々の間から水面が見えた。

 

小さな川が流れ、その先には池のように広がった水辺がある。水面には朝の光が反射し、岸辺の草が風に揺れていた。

 

「へえ……こんな場所があったのか」

 

俺は足を止めた。

 

地図で見た地形は覚えているが、実際の景色は想像していた以上に美しい。水の流れる音も、草木の匂いも、画面越しでは感じられなかったものだ。

 

そのとき、水辺から声が聞こえた。

 

「うーん……今日こそ大物を釣り上げるんだから!」

 

少女の声だった。

 

そちらを見ると、赤いサスペンダーのついた服を着た少女が、釣り竿を手に水辺に立っていた。オレンジ色の髪を短くまとめ、真剣な表情で水面を見つめている。

 

俺はその姿を見て、思わず足を止めた。

 

――カスミ。

 

前世の知識が、目の前の少女の名前を告げる。

 

将来、俺と旅をすることになる仲間の一人。水ポケモンが好きで、強いトレーナーを目指している少女だ。

 

もちろん、今の彼女と俺はまだ知り合いではない。

 

こちらが知っているからといって、相手も俺を知っているわけではないのだ。

 

「……こんにちは」

 

俺は、まず普通に声をかけた。

 

少女は振り返った。

 

「ん? あ、こんにちは」

 

彼女の視線が俺の顔から肩の上のピカチュウへ移る。

 

「わっ、ピカチュウだ!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは元気よく鳴いた。

 

「かわいい! あなたのポケモン?」

 

「そうだよ。今日、旅に出たばかりなんだ」

 

「へえ、そうなんだ。私はカスミ。水ポケモンが大好きなの!」

 

「俺はサトシ。ポケモンマスターを目指して旅をしてるんだ」

 

「ポケモンマスター?」

 

カスミは少し驚いたように目を丸くしたあと、笑った。

 

「ずいぶん大きな夢ね!」

 

「大きいからこそ、目指す価値があると思ってる」

 

俺がそう答えると、カスミは興味深そうに俺を見た。

 

「ふーん。口だけじゃないといいけどね」

 

「それは、これからの旅で証明するよ」

 

「言うじゃない!」

 

カスミは楽しそうに笑った。

 

最初の印象は、思っていたよりも快活で、物怖じしない少女というものだった。言いたいことははっきり言うし、相手が誰であっても遠慮しないらしい。

 

俺は少しだけ笑みを浮かべた。

 

「ところで、カスミは何をしてるんだ?」

 

「見れば分かるでしょ。釣りよ、釣り!」

 

カスミは釣り竿を掲げた。

 

「水ポケモンを釣り上げようと思ってるの。いい場所を見つけたから、ここで大物を狙ってるんだけど……さっきから全然かからないのよ」

 

「なるほど」

 

俺は水面を観察した。

 

流れは比較的穏やかだが、岸辺の近くには水草が生えている。魚影らしきものが水中を横切った気もしたが、はっきりとは見えなかった。

 

「俺も一緒に釣ってみていいか?」

 

「え? あなたも釣りをするの?」

 

「本格的にやったことはないけど、興味はあるよ。水ポケモンと出会えるかもしれないし」

 

カスミは少し考えたあと、予備の釣り竿を取り出した。

 

「いいわよ。これを貸してあげる。だけど、先に大物を釣り上げるのは私だからね!」

 

「分かった。楽しみにしてるよ」

 

俺は釣り竿を受け取った。

 

ピカチュウは肩から降り、俺の隣に座って水面を眺め始めた。

 

「ピカ?」

 

「水の中に何かいるかもしれないぞ」

 

「ピカピカ!」

 

俺たちは岸辺に並んで座り、釣り糸を垂らした。

 

しばらくは、穏やかな時間が流れた。

 

水面に小さな波紋が広がり、時折、魚のような影が水草の間を横切る。カスミは釣り糸の動きを注意深く観察し、俺も見よう見まねで竿を握っていた。

 

「ねえ、サトシ」

 

「ん?」

 

「旅に出たばかりなんでしょ? 最初のポケモンはピカチュウだけ?」

 

「いや、ポッポも仲間になったよ。さっき野生のポッポとバトルして、捕まえたんだ」

 

「へえ! もう野生のポケモンと戦ったんだ」

 

カスミは感心したように頷いた。

 

「どんなバトルだったの?」

 

「相手の動きを見て、隙ができたところを狙ったんだ。まだ改善できるところは多いけど、ピカチュウもよく指示を聞いてくれたよ」

 

「ふうん……。ちゃんと考えて戦ってるのね」

 

「勝つことは大切だからね。でも、相手の特徴を理解することも同じくらい大事だと思ってる」

 

俺がそう答えると、カスミは少し意外そうな顔をした。

 

「もっと、勢いだけで突っ走るタイプなのかと思ってた」

 

「どうして?」

 

「ポケモンマスターになるって言う人って、そういう人も多いから」

 

「そういうトレーナーもいるだろうね。でも、勝つためには考えることも必要だよ」

 

カスミは釣り糸を見つめながら、ふっと笑った。

 

「あなた、ちょっと変わってるわね」

 

「よく言われるよ」

 

実際には、前世の知識があるからこそ、先のことを考えすぎている面もある。だが、それを初対面の相手に説明するわけにはいかない。

 

カスミはそれ以上深く尋ねず、釣り竿を持ち直した。

 

「……あっ、来た!」

 

突然、カスミの釣り糸が大きく引っ張られた。

 

「本当か?」

 

「本当よ! 見てなさい!」

 

カスミは竿を引き上げようとした。

 

水面が大きく揺れ、何かが水中で暴れている。

 

だが、次の瞬間。

 

バシャッ!

 

水面から飛び出したのは、魚のようなポケモンではなかった。

 

赤い体に大きな口。

 

「コイキング!?」

 

カスミが声を上げた。

 

釣り針にかかったコイキングは、勢いよく跳ねて水しぶきを撒き散らした。

 

「うわっ!」

 

俺は思わず身を引いた。

 

コイキングは岸辺に落ちると、びちびちと跳ね始めた。

 

「……えっと、大物ではあるな」

 

「そういう意味じゃないの!」

 

カスミは顔を赤くして叫んだ。

 

「もっと強そうな水ポケモンを釣りたかったのに!」

 

「ピカピカ!」

 

ピカチュウが笑っているように鳴いた。

 

「ピカチュウまで笑わないの!」

 

カスミが抗議すると、ピカチュウは首を傾げた。

 

俺は苦笑しながら、コイキングが水に戻れるように釣り糸を外すのを手伝った。

 

「まあ、元気そうでよかったじゃないか」

 

「……そうだけど」

 

カスミはまだ少し不満そうだったが、コイキングをそっと水へ戻した。

 

「次こそは、ちゃんとした水ポケモンを釣るんだから!」

 

「応援してるよ」

 

俺たちは再び釣り糸を垂らした。

 

今度は、さっきよりも静かな時間が流れた。

 

カスミは水面を見つめながら、時折、水ポケモンの魅力について話してくれた。水の中で暮らすポケモンには独特の生態があり、陸上のポケモンとは違う戦い方をするものも多いという。

 

俺も知識としては理解していたが、実際に水ポケモンを好きなトレーナーから話を聞くのは興味深かった。

 

「サトシは、どんなポケモンが好きなの?」

 

カスミが尋ねた。

 

「好きなポケモンはたくさんいるよ。どのポケモンにも、それぞれの魅力があるからね」

 

「それじゃ答えになってないわよ」

 

「ははっ。そうだな……。強いポケモンも好きだけど、見た目や性格が個性的なポケモンも好きだよ。実際に一緒に過ごしてみないと分からない魅力もあると思うし」

 

カスミは少しだけ目を細めた。

 

「ふーん。ポケモンのこと、本当に好きなんだ」

 

「もちろん」

 

俺は迷わず答えた。

 

ポケモンは、俺にとってただ強くなるための手段ではない。

 

勝つことは大切だ。目標を達成するためには、実力を磨かなければならない。

 

それでも、ポケモンたちの意思を無視してまで勝とうとは思わない。

 

一緒に旅をする仲間だからこそ、相手のことを理解し、信頼し合いたいのだ。

 

カスミは俺の表情を見て、何かを感じ取ったようだった。

 

「……そっか」

 

彼女は小さく呟き、再び水面へ視線を戻した。

 

そのときだった。

 

ズンッ――!

 

突然、地面が揺れた。

 

「な、何!?」

 

カスミが立ち上がる。

 

俺もすぐに釣り竿を置き、周囲を見回した。

 

地響きのような音が、遠くから響いてくる。

 

一度だけではない。

 

ズンッ、ズンッ、と、何か大きなものが地面に衝撃を与えているような音が続いた。

 

水面が激しく揺れ、岸辺に小さな波が押し寄せる。

 

「ピカチュウ、俺のそばに!」

 

「ピカ!」

 

俺はピカチュウを抱き寄せ、カスミのほうを見た。

 

「今の音、何だと思う?」

 

「分からないわよ! 地震……じゃないわよね?」

 

カスミは不安そうに周囲を見渡した。

 

俺も耳を澄ませた。

 

音の方向は、森の奥だ。

 

だが、何が起きているのかは分からない。

 

その瞬間、俺の胸の奥で、波動が反応した。

 

意識して使おうとしたわけではない。

 

突然、遠くにある複数の気配が、ざわめくように感じられたのだ。

 

数が多い。

 

しかも、どの気配にも強い興奮と警戒が混じっている。

 

「……何か来る!」

 

俺は立ち上がった。

 

「え?」

 

カスミが聞き返した直後、森の上空から鳥ポケモンの群れが飛び出してきた。

 

「オニスズメ!?」

 

赤茶色の体に鋭いくちばしを持つ鳥ポケモンが、何十匹も空を埋め尽くしている。

 

その後ろには、さらに大きな鳥ポケモンがいた。

 

長いくちばしと鋭い眼光。

 

オニドリルだ。

 

しかも、一匹ではない。

 

複数のオニドリルが、オニスズメの群れを率いるように飛んでいる。

 

「うそ……! あんなにたくさん!?」

 

カスミの顔から血の気が引いた。

 

俺も一瞬、言葉を失った。

 

前世の知識では、オニスズメやオニドリルが縄張りを守るために攻撃的になることは知っている。

 

だが、目の前の群れは明らかに異常だった。

 

ただ飛んでいるのではない。

 

何かに怒り、興奮し、逃げるものを追い立てるような勢いでこちらへ向かってきている。

 

波動を通じて伝わってくる感情も、穏やかなものではなかった。

 

――追い払え!

 

――近づくな!

 

――敵だ!

 

複数の気配が重なり、頭の中に押し寄せる。

 

「くっ……!」

 

俺は思わずこめかみを押さえた。

 

数が多すぎる。

 

一匹の気持ちを感じ取るのとは、まるで違う。無数の感情がまとまりのないまま流れ込んできて、何が起きているのかを整理することさえ難しい。

 

「サトシ! どうしたの!?」

 

「大丈夫! それより、逃げるぞ!」

 

俺は波動を切り、カスミの腕を引いた。

 

その直後、オニスズメの群れが一斉に急降下してきた。

 

「ギャアッ!」

 

鋭い鳴き声が響き渡る。

 

「走って!」

 

俺たちは水辺から離れ、道のほうへ駆け出した。

 

頭上をオニスズメが飛び交い、鋭いくちばしで俺たちを威嚇する。後方ではオニドリルが大きく翼を広げ、群れを追い立てるように旋回していた。

 

「どうしてこんなことになってるのよ!?」

 

カスミが叫ぶ。

 

「俺にも分からない! でも、今は考えるより逃げるのが先だ!」

 

俺は走りながら周囲を確認した。

 

このまま開けた場所を走り続ければ、上空から狙われやすい。かといって、森の奥へ逃げ込めば、道を見失う危険がある。

 

まずは、鳥ポケモンが一斉に襲いかかれない場所へ移動する必要がある。

 

「カスミ、あそこの木々の間へ!」

 

「分かった!」

 

俺たちは道を外れ、木々が密集している場所へ向かった。

 

枝が頭上を覆っているため、鳥ポケモンたちは一気に降下しづらくなるはずだ。

 

だが、群れは諦めなかった。

 

オニスズメたちは枝の隙間を縫うように飛び、俺たちのすぐ近くまで迫ってくる。

 

「ピカチュウ、無理に攻撃するな! 今は逃げることを優先する!」

 

「ピカ!」

 

ピカチュウは俺の肩にしがみつき、背後を警戒した。

 

カスミも必死に走っていたが、足元の木の根につまずき、体勢を崩した。

 

「きゃっ!」

 

「カスミ!」

 

俺はとっさに振り返り、彼女の腕を掴んだ。

 

その瞬間、すぐ頭上をオニスズメがかすめていった。

 

「危ない!」

 

俺はカスミを引き寄せ、枝の陰へ身を滑り込ませた。

 

オニスズメは勢い余って通り過ぎ、近くの木の幹に爪を立てて向きを変えた。

 

「立てるか?」

 

「う、うん……ありがとう」

 

カスミは息を切らしながら頷いた。

 

「でも、どうするのよ? このままじゃ、いつまで逃げても追いかけてくるわ!」

 

「そうだな……」

 

俺は周囲を見渡した。

 

群れの動きは統一されていないように見える。オニスズメたちは興奮して俺たちを追っているが、全員が同じ方向から攻めているわけではない。

 

その一方で、オニドリルは少し離れた位置から俺たちを追い、群れが散らばらないように動いているようだった。

 

ただの偶然か、それとも群れを率いているのか。

 

今の段階では判断できない。

 

「カスミ、ここから先に道があるか?」

 

「少し行けば、さっきの道に戻れるはず!」

 

「よし。そこまで一気に走ろう。開けた場所に出たら、すぐに遮蔽物を探すんだ」

 

「分かった!」

 

俺たちは再び走り出した。

 

頭上から鳴き声が降り注ぐ。

 

オニスズメの羽ばたきが風を巻き起こし、枝葉が激しく揺れた。

 

背後からは、オニドリルの鋭い鳴き声が響く。

 

「ギャアアッ!」

 

群れがさらに速度を上げた。

 

「くそっ、しつこいな……!」

 

俺は歯を食いしばった。

 

ポケモンとのバトルなら、相手の動きを見て戦術を組み立てられる。だが、今は数が多すぎるうえに、相手の目的も分からない。

 

不用意に攻撃すれば、かえって群れを刺激する可能性もある。

 

それに、ピカチュウもカスミもいる。

 

ここで無理に戦って消耗するわけにはいかなかった。

 

「カスミ、絶対に離れるなよ!」

 

「そっちこそ、置いていかないでよね!」

 

「分かってる!」

 

俺たちは互いに声を掛け合いながら、必死に走り続けた。

 

その先に、少しだけ開けた場所が見えてきた。

 

しかし、そこへ飛び出した瞬間、上空から大きな影が落ちてきた。

 

オニドリルだ。

 

鋭いくちばしをこちらへ向け、急降下してくる。

 

「危ない!」

 

俺はカスミの肩を引き、横へ飛び退いた。

 

オニドリルのくちばしが地面をえぐり、土と小石が飛び散る。

 

その衝撃で、俺たちは一瞬だけ足を止めてしまった。

 

周囲を見回す。

 

前方にも、後方にも、オニスズメの姿がある。

 

完全に囲まれたわけではない。だが、逃げ道を探す余裕は、もうほとんど残されていなかった。

 

カスミが俺の袖を掴む。

 

「サトシ……!」

 

俺は彼女の顔を見て、すぐに頷いた。

 

「大丈夫。何とかする」

 

そう答えたものの、状況はかなり厳しい。

 

俺はピカチュウを抱き寄せ、もう一度だけ波動を使おうとした。

 

だが、群れから伝わる感情はあまりにも強く、まとまりがない。

 

頭の奥がずきりと痛んだ。

 

「……っ、駄目だ。今は、無理に探ろうとしないほうがいい」

 

波動で群れの感情を理解できれば、襲ってくる理由が分かるかもしれない。

 

けれど、今の俺には制御しきれない。

 

ならば、別の方法を考えるしかない。

 

俺は周囲を見回し、逃げ道を探した。

 

カスミも同じように辺りを見渡している。

 

俺たちは、互いに協力しながら、この危機を切り抜けるしかなかった。

 

オニスズメとオニドリルの群れが、再び一斉に羽ばたく。

 

鋭い鳴き声が森に響き渡った。

 

俺はカスミの手を取り、走り出す準備を整えた。

 

「行くぞ、カスミ!」

 

「うん!」

 

俺たちは、迫り来る鳥ポケモンの大群から逃れるため、再び走り出した。

 

第1話「旅立ち! はじめてのパートナー!」

 

第七幕「嵐の果て、虹色の羽と伝説のポケモン」

 

 背後から、甲高い鳴き声が迫ってくる。

 

「サトシ、後ろ!」

 

「分かってる!」

 

 カスミの声に反応して、俺はとっさに身をひねった。

 

 頭上をオニスズメがかすめ、その鋭いくちばしがすぐそばの木の幹を打つ。木片が飛び散り、俺たちは転がるようにして攻撃をかわした。

 

 空はすでに暗く、厚い雲が太陽を覆い隠していた。風が吹き荒れ、雨粒が容赦なく顔を打ちつける。視界は悪く、足元もぬかるんでいた。

 

 いつの間にか、雨は本格的な嵐になっていた。

 

「このままじゃ、いつか追いつかれるわよ!」

 

「分かってる。でも、立ち止まったら囲まれる!」

 

 俺はピカチュウを肩に乗せたまま、カスミの手を取って走った。

 

 ポッポを捕まえたばかりの俺にとって、オニスズメとオニドリルの大群を相手にするのは得策じゃない。相手の数が多すぎるし、今は視界も悪い。ここで無理に戦えば、ピカチュウもポッポも、そして俺たち自身も大きな怪我をしかねない。

 

 勝つことだけが、正しい選択じゃない。

 

 生き残り、次につなげることも、トレーナーに必要な判断だ。

 

「ピカチュウ、今は逃げることに集中してくれ! 攻撃は、俺たちが本当に危なくなったときだけでいい!」

 

「ピカ!」

 

 ピカチュウは俺の肩にしがみつきながら、後方を警戒している。

 

 そのとき、カスミが何かに気づいたように声を上げた。

 

「あっ、私の自転車!」

 

 道の脇に、赤い自転車が倒れていた。

 

 さっきまで釣りをしていた場所から、そう遠くないところに置いてあったのだろう。逃げる途中で通りかかったことで、ようやく気づいたらしい。

 

「取りに戻るのは無理だ! 今は逃げよう!」

 

「でも、あれがないと……!」

 

 カスミが言いかけた瞬間、オニドリルの鋭い鳴き声が頭上に響いた。

 

 巨大な鳥ポケモンが、雨を切り裂いて急降下してくる。

 

「危ない!」

 

 俺はカスミをかばうように横へ飛び退いた。

 

 直後、オニドリルの攻撃が地面をえぐり、飛び散った土と石が自転車を直撃した。自転車は大きく跳ね上がり、車輪が歪み、フレームがひしゃげる。

 

 さらに別のオニスズメが突っ込んできて、倒れた自転車を蹴散らした。

 

「うそ……私の自転車……!」

 

 カスミの顔から血の気が引いた。

 

 だが、壊れた自転車を気にしている余裕はない。オニスズメたちはまだ俺たちを追い回していた。

 

「カスミ、今は諦めるんだ! 生きて逃げれば、どうにかなる!」

 

「……っ、分かったわよ!」

 

 カスミは悔しそうに唇をかんだ。それでも、すぐに顔を上げて走り出す。

 

 俺たちは互いに声を掛け合いながら、森の中を逃げ続けた。

 

 雨でぬかるんだ坂道では、カスミが滑りそうになるたびに俺が支えた。倒木を越えるときには、今度はカスミが俺の腕をつかみ、足場を確かめながら先へ進んだ。

 

 何度もオニスズメが襲いかかってきた。

 

 そのたびに俺たちは身をかわし、木々の陰へ飛び込み、岩場を回り込んだ。

 

 ピカチュウも必死に耐えていた。何度か反撃しようと身構えたが、俺が声を掛けると、すぐに逃げることへ意識を戻してくれた。

 

「ピカチュウ、ありがとう。もう少しだけ頑張ってくれ!」

 

「ピカ!」

 

 俺は波動を使って周囲の気配を探ろうとした。

 

 だが、雨音と風の音、そして大量の鳥ポケモンの気配が一度に流れ込んでくる。

 

「くっ……!」

 

 こめかみがずきりと痛んだ。

 

 この数を一度に捉えようとするのは、まだ無理がある。

 

 俺はすぐに波動を切った。

 

 今は感覚に頼りすぎず、自分の目と耳で状況を判断するしかない。

 

「サトシ、大丈夫!?」

 

「平気だ! それより、前を見てくれ!」

 

 カスミは心配そうに俺を見たが、すぐに前を向き直った。

 

 どれくらい走ったのか、もう分からなかった。

 

 時間の感覚はとうに失われていた。雨は降り続け、風は吹き荒れ、オニスズメとオニドリルの群れは執拗に俺たちを追い立てた。

 

 俺たちは何度も休めそうな場所を探したが、鳥ポケモンたちは少しでも動きを止めると、すぐに襲いかかってきた。

 

 やがて、森の奥に大きな岩場が見えてきた。

 

「カスミ、あそこだ! 岩の陰に入ろう!」

 

 二人で岩場へ駆け込み、身を低くする。

 

 岩が風雨を遮ってくれたおかげで、ようやく少しだけ呼吸を整えられた。

 

 それでも、頭上からはオニスズメたちの鳴き声が聞こえてくる。

 

 俺はピカチュウをそっと地面に下ろし、カスミと一緒に岩の陰でじっとしていた。

 

 やがて、どれほどの時間が過ぎただろう。

 

 嵐の勢いは衰えるどころか、むしろ強くなったように感じられた。

 

 カスミは両腕を抱くようにして震えていた。俺も全身ずぶ濡れで、服は重く、体力もかなり削られていた。

 

 それでも、泣き言を言っている場合じゃない。

 

「……ねえ、サトシ」

 

 しばらくして、カスミが小さな声で話しかけてきた。

 

「ん?」

 

「あなた、どうしてあんなに落ち着いていられるの?」

 

 俺は少しだけ考えた。

 

「落ち着いてるように見えるだけだよ。俺だって怖いさ」

 

「えっ?」

 

「怖いからこそ、何をすれば生き残れるか考えてるんだ。焦って無茶をしたら、ピカチュウたちまで危険にさらすことになるからな」

 

 カスミは黙って俺を見つめた。

 

「……ポケモンのことも、ちゃんと考えてるのね」

 

「当たり前だろ。俺の仲間だからな」

 

 俺がそう答えると、ピカチュウが小さく鳴いた。

 

「ピカチュウも、あなたのことを信頼してるみたい」

 

「俺も、ピカチュウを信頼してるよ。だからこそ、無理をさせたくないんだ」

 

 カスミは少しだけ表情を和らげた。

 

「私、最初はあなたのこと、ちょっと変わった人だと思ってた」

 

「それはどういう意味だよ?」

 

「だって、初めて会ったばかりなのに、ずいぶん冷静だし。釣りをしてるときだって、ポケモンの話をするときだって、妙に真剣なんだもの」

 

「ポケモンのことは、真剣に考えたいんだ」

 

「……うん。それは、分かった気がする」

 

 カスミはそう言って、少しだけ笑った。

 

 けれど、その笑顔も長くは続かなかった。

 

 頭上で大きな羽音が響いたからだ。

 

 俺たちはすぐに口を閉ざし、岩の陰から外の様子をうかがった。

 

 オニスズメたちが、雨の中を飛び回っている。

 

 その中心には、ひときわ大きなオニドリルの姿があった。

 

 群れはまだ完全に落ち着いてはいないらしい。

 

 俺はカスミと目を合わせ、小さくうなずいた。

 

 今は、待つしかない。

 

 それから、さらに長い時間が過ぎた。

 

 雨に打たれながら、俺たちは身を寄せ合って耐え続けた。何度か鳥ポケモンが岩場の近くまでやってきたが、俺たちは刺激しないように動かず、息を潜めた。

 

 やがて、鳴き声の調子が変わった。

 

 先ほどまでの怒りに満ちた叫び声ではなく、互いに呼び合うような声になっている。

 

 オニスズメたちは少しずつ高度を上げ、群れを整え始めた。

 

 最後に、オニドリルが大きく鳴く。

 

 それを合図にするように、鳥ポケモンたちは森の向こうへ飛び去っていった。

 

 羽音が遠ざかり、やがて聞こえなくなる。

 

 俺はしばらく周囲を警戒していたが、新たな襲撃の気配はなかった。

 

「……行った、のか?」

 

「みたいね……」

 

 カスミが、ほっと息を吐いた。

 

 俺もようやく肩の力を抜いた。

 

 嵐はまだ続いている。だが、少なくとも、あの大群に追われる心配はなくなったようだった。

 

「はあ……本当に、ひどい目に遭ったわ」

 

 カスミは岩に手をつきながら立ち上がろうとした。

 

 その瞬間。

 

「痛っ!」

 

 彼女の顔が苦痛にゆがんだ。

 

「カスミ!?」

 

「だ、大丈夫……ちょっと足が……!」

 

 カスミは慌てて平気なふりをしたが、右足に体重をかけた途端、再び顔をしかめた。

 

 俺はすぐに彼女のそばへ行き、肩を支えた。

 

「無理するな。足を見せてくれ」

 

「でも……」

 

「さっきからずっと走ってたんだ。気づかないうちに痛めてたのかもしれない」

 

 カスミはためらったものの、やがて小さくうなずいた。

 

 俺は彼女が足を動かさないように気をつけながら、状態を確かめた。右足首のあたりが少し腫れている。激しく走っている最中にひねったのだろう。

 

「足首を挫いてるな。歩くのはやめたほうがいい」

 

「そんな……。トキワシティまで、まだあるのに」

 

「トキワシティに着けば、ポケモンセンターもある。そこで手当てをしてもらおう」

 

「でも、あなたも疲れてるでしょ? ずっと逃げてたんだし……」

 

「俺のことは気にしなくていい」

 

 俺はカスミの前にしゃがみ込んだ。

 

「えっ、ちょっと、何する気?」

 

「抱えていく。歩けないんだろ?」

 

「だ、抱えていくって……!」

 

「ほかに方法があるか?」

 

「そ、それは……そうだけど!」

 

 カスミの頬が、雨に濡れているにもかかわらず、ほんのり赤くなった。

 

 俺は彼女の背中と膝の下に腕を回し、そのまま持ち上げた。

 

「わっ!?」

 

 カスミの体がふわりと浮かぶ。

 

 いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。

 

「ちょ、ちょっと! 下ろして! 自分で歩けるわよ!」

 

「さっき痛がってただろ。無理して悪化させたらどうするんだ」

 

「そ、それはそうだけど……!」

 

「今は遠慮する場面じゃない。トキワシティまで行こう」

 

 俺が落ち着いて言うと、カスミは何か言い返そうとして、結局口を閉じた。

 

「……絶対、変なことしないでよね」

 

「するわけないだろ」

 

「本当でしょうね?」

 

「本当だって」

 

 カスミは俺の顔をじっと見つめたあと、小さくため息をついた。

 

「……分かった。お願いするわ」

 

「ああ。任せてくれ」

 

 俺はカスミを抱え直し、足元に気をつけながら歩き始めた。

 

 ピカチュウは俺の肩に戻り、進む先を警戒してくれている。ポッポの入ったモンスターボールも、濡れた服の内側で確かめた。

 

 雨はまだ降り続いていた。

 

 道はぬかるみ、風も強い。決して楽な道のりではなかったが、カスミを抱えて歩くこと自体は、今の俺にとって大きな問題ではなかった。

 

 これまでの人生で鍛えてきた体が、こんなところで役に立つとは思わなかったけどな。

 

「……サトシ」

 

「どうした?」

 

「さっきから、ずっと私を抱えてるけど……重くないの?」

 

「全然」

 

「即答!?」

 

「足を挫いた人を運ぶくらい、どうってことないよ」

 

「そ、そう……」

 

 カスミは視線をそらした。

 

 その表情は、さっきまでの怒ったようなものとは違っていた。

 

 しばらく歩いたところで、雨音が少しずつ弱まってきた。

 

 風も、先ほどまでの激しさが嘘のように穏やかになっていく。

 

 俺は足を止め、空を見上げた。

 

 雲の切れ間から、光が差し込んでいた。

 

「……晴れてきた?」

 

 カスミも空を見上げる。

 

 黒々としていた雲が、ゆっくりと西の空へ流れていく。その向こうから、夕日の光が差し込み、濡れた森や草原を金色に染め始めた。

 

 雨粒が葉の先から落ち、夕日の光を受けてきらきらと輝いている。

 

 さっきまでの嵐が、まるで遠い出来事のように感じられた。

 

「きれい……」

 

 カスミが、ぽつりとつぶやいた。

 

「ああ。本当にきれいだな」

 

 俺たちは、しばらくその光景を眺めていた。

 

 すると、ピカチュウが突然、空を見上げて鳴いた。

 

「ピカ……ピカチュウ!」

 

「どうした、ピカチュウ?」

 

 俺も視線を上げる。

 

 夕焼けに染まった空の彼方を、一羽の大きなポケモンが飛んでいた。

 

 黄金色の羽が夕日を受けて輝き、長い尾が空に優雅な軌跡を描いている。翼が動くたびに、周囲の光がきらめいているように見えた。

 

 その姿は、あまりにも神々しかった。

 

 俺は息をのんだ。

 

 ――ホウオウ。

 

 伝説のポケモン。

 

 カントー地方の空を飛ぶ、虹色の翼を持つと語られる存在。

 

 知識としては知っていた。だが、実際にこの目で見ることになるとは思わなかった。

 

「……あれ、ポケモンなの?」

 

 腕の中で、カスミが呆然とつぶやいた。

 

「たぶん……いや、間違いない」

 

 俺はホウオウの姿を目で追った。

 

 ホウオウは夕焼けの空をゆっくりと旋回した。

 

 その姿を見ていると、不思議な感覚に包まれた。畏怖とも、懐かしさとも違う。うまく言葉にできない感情が、胸の奥からこみ上げてくる。

 

 けれど、波動を使っているわけではない。

 

 無理にその感覚を探ろうとはせず、俺はただ、空を飛ぶホウオウを見つめていた。

 

 やがてホウオウは、夕焼けの彼方へ向かって飛び去っていった。

 

 その姿が見えなくなっても、俺たちはしばらく空を見上げたままだった。

 

「……すごかったわね」

 

 カスミの声には、まだ驚きが残っていた。

 

「ああ。あんなポケモンが本当にいるんだな」

 

「あなた、知ってたの?」

 

「名前は聞いたことがある。でも、実際に見たのは初めてだよ」

 

 もちろん、俺は知っている。

 

 ホウオウがどんなポケモンなのか。そして、虹色の羽がどんな意味を持つのかも。

 

 だが、それを今ここでカスミに話すつもりはなかった。

 

 俺自身、目の前で起きた出来事を、まだ整理しきれていなかったからだ。

 

 そのとき。

 

 夕焼けの空から、何かがゆっくりと舞い降りてきた。

 

 風に乗って、ひらひらと揺れながら、俺たちのほうへ近づいてくる。

 

「……羽?」

 

 カスミがつぶやいた。

 

 それは、普通のポケモンの羽とは明らかに違っていた。

 

 赤、橙、黄、緑、青、紫――見る角度によって、さまざまな色が淡く輝いている。

 

 俺は思わず、片手を伸ばした。

 

 羽は風に乗って一度だけ俺の指先をかすめ、それから手のひらへと落ちてきた。

 

 俺は、落ちてきた羽をそっと受け止めた。

 

 虹色の羽。

 

 間違いない。

 

 ホウオウの羽だ。

 

「これ……さっきのポケモンの?」

 

 カスミが、驚いたように俺の手の中をのぞき込む。

 

「そうだと思う」

 

 羽は夕日の光を受けて、静かに輝いていた。

 

 触れている手に熱さはない。だが、なぜか大切なものを預かったような感覚があった。

 

「どうして、あなたのところに落ちてきたんだろう……」

 

「分からない」

 

 俺は正直に答えた。

 

 知識だけなら、いくらでも説明をつけられるかもしれない。

 

 だが、実際に起きたことの意味まで、最初から分かっているつもりになるのは違う。

 

 ホウオウが何を考えていたのか。なぜ、この羽が俺の手元に落ちてきたのか。

 

 それは、まだ分からない。

 

 俺は虹色の羽を傷つけないよう、そっと手を閉じた。

 

「でも……大切にするよ」

 

 そう口にすると、カスミは俺の顔を見つめた。

 

「サトシって、変なところで真面目よね」

 

「そうか?」

 

「そうよ。普通なら、伝説のポケモンを見ただけで大騒ぎするでしょ? なのに、あなたはその羽をどうするか、もう考えてるみたい」

 

「大騒ぎしたい気持ちがないわけじゃないさ。俺だって、すごく驚いてる」

 

 俺は少し笑った。

 

「でも、せっかく出会えたんだ。何か意味があるのなら、いつか分かるかもしれない。今はそう思ってる」

 

「……そっか」

 

 カスミは夕焼けを見上げた。

 

「私も、あんなポケモンを見たのは初めて。今日のこと、一生忘れないと思う」

 

「俺もだよ」

 

 俺たちは、もう一度、夕焼けに染まった空を見た。

 

 嵐は去り、空には淡い雲が残っている。

 

 さっきまで命からがら逃げていたことが、嘘のようだった。

 

 だが、俺の手の中には、確かに虹色の羽がある。

 

 これは夢でも幻でもない。

 

 俺はこの世界で、ポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出したばかりだ。

 

 ピカチュウと出会い、波動という不思議な力に気づき、ポッポを仲間にした。そして今、伝説のポケモンであるホウオウと出会い、その羽を手に入れた。

 

 旅は、まだ始まったばかりなのに。

 

 この先、いったいどんな出会いが待っているのだろう。

 

「サトシ。そろそろ行きましょう。暗くなる前に、トキワシティに着きたいわ」

 

「ああ、そうだな」

 

 俺は虹色の羽を大切にしまい、カスミを抱え直した。

 

「もう少しだけ我慢してくれ。ポケモンセンターに着いたら、足を診てもらおう」

 

「……うん。ありがとう、サトシ」

 

 今度のカスミの声には、先ほどまでの遠慮や強がりはなかった。

 

「どういたしまして」

 

 俺たちは、夕焼けの光が残る道を歩き始めた。

 

 肩の上では、ピカチュウが周囲を見張っている。

 

 そして俺の胸の内には、虹色の羽とともに、新しい疑問が生まれていた。

 

 波動の正体。

 

 あの大群が突然暴れ出した理由。

 

 そして、ホウオウが俺に羽を残した意味。

 

 どれも、今すぐ答えが出るものではない。

 

 だからこそ、まずは目の前のことから片づけよう。

 

 トキワシティのポケモンセンターで、ピカチュウとポッポの状態を確かめる。それから、オーキド博士にも連絡して、波動について分かったことを伝えよう。

 

 俺は一歩ずつ、前へ進んだ。

 

 夕日はゆっくりと地平線へ沈み始めていた。

 

 その光を背に受けながら、俺たちはトキワシティを目指した。

 

第1話 外伝「夕焼けの中で、胸が高鳴って」

 

カスミ視点

 

 ――どうして、こんなことになっちゃったんだろう。

 

 夕焼けに染まる道を進みながら、私は目の前の少年を見上げていた。

 

 名前はサトシ。

 

 今日、釣りをしていた場所で出会ったばかりの男の子だ。

 

 最初に会ったときは、少し変わった人だと思った。

 

 ポケモンに対して真剣で、話し方は妙に落ち着いている。年齢のわりに周りをよく見ているし、危険な状況になっても慌てずに判断していた。

 

 それに、ピカチュウとの関係も不思議だった。

 

 サトシが声を掛けると、ピカチュウはちゃんと反応する。まるで言葉以上の何かで通じ合っているみたいだった。

 

 でも、そんなことを考えている場合じゃない。

 

 今、私はサトシに抱えられている。

 

 しかも――。

 

「…………っ!」

 

 思い出しただけで、顔が熱くなった。

 

 さっき、足を挫いた私を見て、サトシは当たり前みたいに言ったのだ。

 

『抱えていく。歩けないんだろ?』

 

 そして、私が返事をする間もなく、背中と膝の下に腕を回して持ち上げた。

 

 いわゆる、お姫様抱っこ。

 

 あの瞬間、頭の中が真っ白になった。

 

 だって、普通、初めて会った男の子にこんなことをされるなんて思わないでしょう!?

 

 しかも、サトシはまったく動じていない。

 

 私のほうは心臓が壊れそうなくらいドキドキしていたのに、本人は「歩けないなら運ぶ」とでも言いたげな顔をしていた。

 

 何なのよ、もう!

 

 少しくらい照れたり、困ったりしたっていいじゃない!

 

「カスミ、どうした? 足が痛むか?」

 

「ひゃっ!? な、何でもない!」

 

 急に声を掛けられ、私は思わず変な声を出してしまった。

 

 サトシが不思議そうにこちらを見る。

 

「本当に? 無理してないか?」

 

「だ、大丈夫! 足は痛いけど、それ以外は平気だから!」

 

「そうか。でも、痛みが強くなったらすぐに言ってくれよ」

 

「……うん」

 

 サトシはそれ以上、何も聞かなかった。

 

 ただ、私が揺れないように抱え直し、足元を注意深く確かめながら歩いてくれる。

 

 その仕草が、またいけない。

 

 乱暴に扱われているわけじゃない。むしろ、びっくりするくらい丁寧だ。

 

 私が足を挫いていることを気にして、少しでも負担がかからないようにしてくれている。

 

 そういうところが、ずるいと思う。

 

 優しくされると、どうしていいか分からなくなるじゃない。

 

 私は顔をそらし、夕焼けを見つめた。

 

 赤く染まった空は、とてもきれいだった。

 

 けれど、今の私には、それ以上に気になることがある。

 

 ――サトシの顔、近いんだけど……!

 

 もちろん、落とされたら困る。

 

 だから、彼の服をつかんでいるのは仕方のないことだ。

 

 そう、仕方ない。

 

 決して、彼のそばにいるのが嫌じゃないからとか、そういう理由じゃないんだから。

 

 ……たぶん。

 

「なあ、カスミ」

 

「な、何!?」

 

「そんなに緊張しなくてもいいぞ。ちゃんと支えてるから」

 

「き、緊張なんかしてないわよ!」

 

 私は反射的に言い返した。

 

 サトシは一瞬きょとんとしたあと、困ったように笑った。

 

「ならいいけど。疲れてるだろうし、少しでも楽にしててくれ」

 

「…………」

 

 もう、何なのよ。

 

 そんなふうに優しくされたら、余計に意識しちゃうじゃない。

 

 私は彼の肩越しに空を見上げた。

 

 夕日がゆっくりと沈み、雲の端が金色に輝いている。

 

 ついさっきまで、私たちはオニスズメとオニドリルの大群から必死に逃げていた。

 

 雨に打たれ、何度も転びそうになり、もう駄目かもしれないと思った瞬間だってあった。

 

 それなのに、今こうしてサトシに運ばれながら夕焼けを見ている。

 

 不思議な一日だ。

 

 そして、たぶん――忘れられない一日になる。

 

「ねえ、サトシ」

 

「ん?」

 

「あなたって、いつもあんな感じなの?」

 

「あんな感じって?」

 

「危ないときでも落ち着いてるし、ポケモンのことをすごく大切にしてるし……それに、困ってる人を放っておけない感じ」

 

 口にしてから、少し恥ずかしくなった。

 

 まるで、彼のことをずっと観察していたみたいじゃない。

 

 でも、サトシは気にした様子もなく答えた。

 

「いつも完璧ってわけじゃないよ。俺だって失敗するし、判断を間違えることもあると思う」

 

「そうなの?」

 

「ああ。だから、よく考えるようにしてるんだ。自分の判断でポケモンや仲間を危険にさらすことだってあるからな」

 

 その声は静かだった。

 

「強くなりたいと思ってる。でも、強さって、ただ相手に勝つことだけじゃないと思うんだ。仲間を守ることも、無理だと判断して退くことも、必要なら誰かに助けを求めることも……全部、強さの一部なんじゃないかな」

 

 私は思わず、彼の顔を見つめた。

 

 旅に出たばかりの少年が、そんなことを考えているなんて。

 

「……サトシって、変なところで大人びてるわね」

 

「よく言われるよ」

 

「誰に?」

 

「母さんとか、博士とか……まあ、いろいろ」

 

 サトシは苦笑した。

 

 その表情を見て、私は少しだけ安心した。

 

 ずっと落ち着いていて、何でも分かっているように見えるけれど、彼も普通の男の子なんだ。

 

 そう思うと、少し話しやすくなった。

 

「私ね、水ポケモンが好きなの」

 

「釣りをしてたときにも言ってたな」

 

「うん。水ポケモンって、それぞれ違う魅力があるのよ。見た目も性格も、得意なことも違う。もっといろんなポケモンを知りたいし、いつか立派なトレーナーになりたいと思ってる」

 

「いい目標だと思う」

 

「……簡単に言うのね」

 

「本気でそう思ってるからな。好きなものがあって、それをもっと知りたいと思えるのは、大切なことだろ?」

 

 私は返事に詰まった。

 

 サトシは、私の夢を笑わなかった。

 

 それどころか、当たり前のことみたいに受け止めてくれた。

 

 そんな言葉が、どうしてだか胸に残った。

 

「……あなたは?」

 

「俺?」

 

「そう。何を目指して旅に出たの?」

 

 サトシは少しだけ前を向いた。

 

 夕日の光が、その横顔を照らしている。

 

「俺は、ポケモンマスターになりたい」

 

 迷いのない声だった。

 

「それから、いろんなポケモンと出会って、もっと知りたい。ポケモン図鑑も完成させたいし、まだ見たことのない景色も見たい。旅をしながら、自分に何ができるのか確かめていきたいんだ」

 

「ポケモンマスター……」

 

 簡単な夢じゃない。

 

 強いトレーナーはたくさんいるし、旅の途中には、きっと想像もできないほどの困難が待っている。

 

 それでも、サトシの声には確かな意志があった。

 

「大変な旅になるわよ」

 

「だろうな」

 

「途中で泣き言を言っても知らないからね」

 

「そのときは、そのときで考えるさ」

 

「何よ、それ!」

 

 私は思わず笑ってしまった。

 

 サトシも小さく笑った。

 

 不思議だ。

 

 出会ってから、まだそれほど時間が経っていないのに。

 

 さっきまで、私たちは一緒に逃げるだけで精いっぱいだった。それなのに今は、こんなふうに普通に話せている。

 

 少し前まで、私は彼のことを何も知らなかった。

 

 名前も、夢も、どんな考え方をする人なのかも。

 

 でも、今はもう少し知りたいと思っている。

 

 ……どうしてだろう。

 

 私は、そっと彼の服を握り直した。

 

 そのとき、夕焼けの空に、黄金色の大きな影が浮かんだ。

 

「……あれ?」

 

 サトシが顔を上げる。

 

 私もつられて空を見た。

 

 そこにいたのは、見たこともないほど美しいポケモンだった。

 

 大きな翼が夕日の光を受けて輝き、尾が空に優雅な軌跡を描いている。

 

 私は息をのんだ。

 

 あんなポケモンが、本当にいるなんて。

 

「……すごい」

 

 それ以外の言葉が出てこなかった。

 

 サトシも黙って、その姿を見つめていた。

 

 ポケモンは夕焼けの空をゆっくりと旋回し、やがて遠くへ飛び去っていった。

 

 その後、空から虹色に輝く羽が舞い降りてきた。

 

 サトシが手を伸ばし、羽を受け止める。

 

 私は彼の手の中にある羽をのぞき込んだ。

 

 角度を変えるたびに色が変わり、まるで光そのものを閉じ込めたようだった。

 

「それ、さっきのポケモンの羽よね?」

 

「たぶん、そうだと思う」

 

「どうしてあなたのところに落ちてきたんだろう……」

 

「俺にも分からないよ」

 

 サトシは羽を傷つけないように、そっと手を閉じた。

 

「でも、大切にする」

 

 その横顔を見て、私は思った。

 

 サトシは、ただ強くなりたいだけのトレーナーじゃない。

 

 出会ったポケモンを大切にして、分からないことを分からないまま受け止めて、それでも前に進もうとする人なんだ。

 

 だから、あのポケモンも――。

 

 そこまで考えて、私は慌てて首を振った。

 

 何を考えているんだろう、私は。

 

 まだ出会ったばかりなのに。

 

「カスミ?」

 

「な、何でもない!」

 

「……そうか?」

 

「そうよ!」

 

 サトシは不思議そうにしていたけれど、それ以上は聞いてこなかった。

 

 私はほっと息をついた。

 

 けれど、胸の鼓動はまだ少し速いままだった。

 

 夕焼けは、ゆっくりと暗い色へ変わっていく。

 

 遠くには、トキワシティへ続く道が見えていた。

 

「もうすぐ、トキワシティね」

 

「ああ。着いたら、まずポケモンセンターで足を診てもらおう」

 

「ピカチュウたちもね」

 

「もちろんだ」

 

 私はサトシの肩にいるピカチュウを見た。

 

 ピカチュウは、私たちの会話を聞いているかのように、小さく鳴いた。

 

「ピカ!」

 

「ふふっ。あなたも、サトシのことが好きなのね」

 

「ピカチュウは、俺の大切なパートナーだからな」

 

 サトシはそう言って、優しく笑った。

 

 私は、また少しだけ胸が高鳴るのを感じた。

 

 ……もう、どうしちゃったのよ、私。

 

 今日出会ったばかりの男の子なのに。

 

 少し優しくされたくらいで、こんなに意識するなんて。

 

 私はそっと顔をそらし、夕焼けの残る空を見上げた。

 

 まだ、これは恋なんかじゃない。

 

 きっと、嵐の中で助けてもらったから。

 

 初めて見る伝説のポケモンに驚いたから。

 

 今日一日、いろんなことがありすぎたから。

 

 だから、こんなにドキドキしているだけ。

 

 ……そういうことにしておこう。

 

「サトシ」

 

「ん?」

 

「今日は……助けてくれて、ありがとう」

 

 今度は、ちゃんと言えた。

 

 サトシは少し驚いたように目を瞬かせ、それから笑った。

 

「どういたしまして。俺たち、協力して逃げたんだろ? 俺だけの力じゃないよ」

 

「……そうね」

 

 私は小さくうなずいた。

 

 そして、心の中でそっと付け加える。

 

 ――また、会えたらいいな。

 

 そんなことを考えている自分に気づいて、私はまた顔が熱くなるのを感じた。

 

 夕焼けの道を進みながら、私はサトシの腕の中で、誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。

 

「……本当に、変な男の子」

 

 でも、その声は、さっきよりもずっと優しかった。




サトシのポケモン
ピカチュウ Lv5→Lv8
ポッポ Lv4
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