ONE PIECE IF ~天災の副船長~ 作:ななみん@サメメイド
原作の時系列や人物設定を基本としていますが、主人公の存在によって一部の出来事が変化します。
また、生成AIを使用して本文を制作しています。
一、産声
最初に感じたのは、眩しい光だった。
次に、ひどく寒いと思った。
そして、何より。
(……うるさい)
周囲から聞こえる声が、やけに大きかった。
女の声。
男の声。
何かを喜んでいるらしい。
だが、言葉の意味は分からない。
そもそも、自分がどこにいるのかさえ分からなかった。
身体を動かそうとする。
思いどおりに動かない。
腕を上げようとしても、妙に重い。
足を動かすと、柔らかい布のようなものに触れた。
(……何だ、これ)
視界もぼやけている。
目の前に何かがあることは分かるのに、輪郭がはっきりしない。
そのとき。
「元気な男の子ですよ!」
女の声が響いた。
続いて、野太い男の声。
「本当か!?」
「ええ! 母子ともに健康です!」
「おお……!」
男の声が震えていた。
(……何がそんなに嬉しいんだ?)
疑問を抱いた直後。
身体が持ち上げられた。
突然の浮遊感。
驚いて叫ぼうとした。
だが、口から出たのは。
「おぎゃああああ!!」
(…………は?)
自分の声だった。
「おお! 泣いたぞ!」
「あなた、大きな声を出さないで。びっくりするでしょう?」
「だ、だってよォ!」
(……ちょっと待て)
視界いっぱいに、男の顔が映った。
金色がかった茶髪。
大きな鼻。
目尻に小さな傷。
そして、ひどく嬉しそうな笑顔。
「よく来たな!」
男は言った。
「俺たちの息子!」
(……息子?)
「エレナ!」
男が叫ぶ。
「こいつ、俺の顔を見てるぞ!」
「赤ちゃんなんだから、見るでしょう」
「いや、絶対分かってる!」
(…………)
自分は、もう一度泣いた。
それが、生まれたばかりの少年にできる唯一の抗議だった。
二、カイル・D・ヴェイン
「名前は決めたの?」
ベッドに横たわる女性が尋ねた。
柔らかな金髪。
穏やかな緑色の瞳。
疲れた顔をしているが、その表情は幸せそうだった。
エレナ・ヴェイン。
少年の母親となる女性だった。
男は、大きく頷いた。
「おう!」
そして、抱きかかえた赤ん坊を見つめる。
「カイルだ」
エレナが微笑んだ。
「カイル……」
「ああ」
男は、嬉しそうに笑う。
「カイル・D・ヴェイン」
それが、少年の名前になった。
男の名は、レオン・ヴェイン。
海辺の町で働く船大工だった。
決して裕福ではない。
だが、自分の手で家を建て、妻と暮らし、子供が生まれる日を待ち続けていた。
そんな、ごく普通の男だった。
「なあ、エレナ」
「何?」
「こいつが大きくなったら、一緒に船を作りてェな」
エレナは苦笑した。
「まだ生まれたばかりよ?」
「分かってる!」
レオンは笑った。
「でもよ、俺が船を作って、カイルが帆を張って……」
「私も乗せてくれる?」
「当たり前だろ!」
レオンは胸を張った。
「家族三人で、世界中を旅するんだ!」
エレナは、少しだけ目を細めた。
「素敵ね」
そして、赤ん坊の小さな手に指を差し出す。
少年は、反射的にその指を握った。
エレナの表情が、柔らかくなる。
「……カイル」
優しい声。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
その言葉の意味を、このときの少年はまだ理解できなかった。
ただ。
母親の声を聞くと、不思議と安心した。
そして、父親の大きな手に包まれると、温かかった。
それが、カイルにとって最初の世界だった。
三、ベルナード島
ベルナード島。
世界政府に加盟していない、小さな島国。
豊かな森。
穏やかな海。
山の麓に広がる畑。
そして、海沿いには白い壁と赤い屋根の家々が並んでいた。
国と呼ぶには小さい。
だが、ここに暮らす人々にとっては、それで十分だった。
ベルナード島には、巨大な軍隊もなければ、立派な王宮もない。
島の代表者は住民たちの話し合いで選ばれ、港の管理も町の人間が協力して行っていた。
もちろん、争いがないわけではない。
漁場を巡って喧嘩する漁師もいれば、酒場で大暴れして追い出される船乗りもいる。
海賊船が近づけば、港の見張りが鐘を鳴らした。
それでも、この島には確かに平穏があった。
その島の南側。
海を見下ろす丘の上に、ヴェイン一家の家が建っていた。
木造二階建て。
庭には小さな畑。
裏手には、レオンが仕事で使う作業小屋。
家の前には、一本の大きな木が立っていた。
春になれば白い花を咲かせ、夏には涼しい木陰を作る。
その木の下で、幼いカイルはよく昼寝をしていた。
「カイル!」
父親の声が響く。
「おーい! どこ行った!」
庭の木の下。
二歳になったカイルは、地面にしゃがみ込んでいた。
小さな蟹を見つめている。
「……かに」
蟹が横へ歩く。
カイルも横へ歩く。
蟹が止まる。
カイルも止まる。
「……かに」
そこへ、レオンがやってきた。
「おっ、何してんだ?」
カイルは蟹を指差した。
「かに!」
「おお! 蟹か!」
レオンは豪快に笑う。
「よし、捕まえてやる!」
手を伸ばす。
次の瞬間。
ぱちんっ!
「いってェ!!」
蟹が、レオンの指を挟んだ。
カイルは目を丸くした。
そして。
「……ぷっ」
笑った。
レオンは指を振りながら叫んだ。
「おい! 父ちゃんを笑うな!」
「かに! つよい!」
「蟹より父ちゃんの方が強ェよ!!」
家の窓から、エレナの声が響く。
「レオン! 子供相手に何を張り合ってるの!」
「ち、違うんだ! 蟹がよ!」
「はいはい。手を洗ってきて」
「……おう」
カイルは、父親の指を見つめた。
そして。
「とーちゃん、まけ」
レオンは膝から崩れ落ちた。
「息子に負け判定された……!」
エレナの笑い声が、庭へ響いた。
四、幼馴染
三歳になった頃。
カイルには、よく一緒に遊ぶ友達ができた。
名前は、ミーナ。
隣町に住む少女だった。
少し赤みがかった茶色の髪を肩まで伸ばし、大きな琥珀色の瞳をしている。
活発で、負けず嫌い。
そして、カイルより少しだけ口が達者だった。
「カイル!」
ある日の午後。
ミーナが庭へ駆け込んできた。
「海、行こ!」
カイルは、木の枝を握っていた。
「……いま、いそがしい」
ミーナが眉をひそめる。
「何してるの?」
「けんの、れんしゅう」
枝を振る。
ぶんっ。
「……」
ミーナは、しばらくカイルを見つめた。
そして。
「へた!」
カイルの動きが止まった。
「……へたじゃない」
「へた!」
「……」
「ぜんぜん、かっこよくない!」
カイルは枝を握り直した。
「……みてろ」
今度は、大きく振り上げる。
勢いをつけて。
ぶんっ!!
そのまま身体ごと回転した。
「……あ」
足がもつれた。
どさっ。
カイルは尻餅をついた。
ミーナは、腹を抱えて笑った。
「あはははは!!」
カイルは、地面に座ったまま彼女を睨んだ。
「……わらうな」
「だって!」
ミーナは笑いながら言った。
「カイル、ころんだ!」
「……ころんでない」
「ころんだよ!」
「……ちがう」
「じゃあ、なに?」
カイルは、少し考えた。
そして。
「……さくせん」
ミーナは、もう一度笑った。
その日の夕方。
二人は結局、海へ行った。
浜辺で貝殻を拾い、浅瀬で魚を追いかけ、砂の城を作った。
帰る頃には、全身が砂だらけだった。
「カイル!」
ミーナが手を振る。
「またあした!」
カイルも手を振った。
「……おう!」
その頃の二人にとって、明日とは必ずやってくるものだった。
今日と同じように。
また笑って。
また遊んで。
また喧嘩をする。
そんな日々が、ずっと続くのだと信じていた。
五、四歳の誕生日
四歳の誕生日。
その日は、朝から雨が降っていた。
窓を叩く雨音。
遠くで鳴る雷。
カイルは、ベッドの上で目を覚ました。
「……ん」
まだ眠い。
毛布を頭まで被り、もう一度眠ろうとする。
だが、そのとき。
奇妙な感覚があった。
頭の奥に、何かが引っかかっている。
知らないはずの景色。
聞いたことのない音。
見覚えのない建物。
突然。
視界の奥で、何かが弾けた。
(……っ!?)
大量の記憶が流れ込んでくる。
高い建物。
夜の街。
無数の車。
光る画面。
電車。
スマートフォン。
そして。
日本。
(……日本?)
カイルは、ベッドの上で身体を起こした。
頭が痛い。
息が荒くなる。
(……待て)
(俺は……)
記憶が、次々と戻ってくる。
仕事。
休日。
ゲーム。
漫画。
アニメ。
友人との会話。
そして。
二十九歳まで生きた、一人の日本人男性の人生。
(……そうだ)
カイルは、震える手を見つめた。
小さな手。
四歳の子供の手。
(……俺)
(転生、したのか?)
心臓が激しく鳴っていた。
信じられない。
だが、記憶は確かだった。
この世界へ生まれる前。
自分は、別の人生を送っていた。
(……マジかよ)
言葉が出なかった。
そして、最初に浮かんだのは。
(……何で今なんだよ)
という、ひどく間の抜けた疑問だった。
六、知らない世界のはずだった
その日の昼。
カイルは、食卓で静かにスープを飲んでいた。
普段なら、レオンの話に適当な返事をしながらパンを頬張っている。
しかし、今日は違った。
頭の中が、整理できない。
前世の記憶。
今世の記憶。
両方が、確かに存在している。
レオンとエレナの顔を見る。
(……父さんと母さん)
この四年間。
自分を育ててくれた人たち。
記憶を取り戻したからといって、その事実が消えるわけではない。
むしろ。
(……変な感じだな)
前世では、自分は二十九歳だった。
しかし、今は四歳。
身体は子供。
そして、この両親に甘えてきた四年間も、間違いなく自分の人生だった。
「……カイル?」
エレナが声をかける。
カイルは顔を上げた。
「……なに?」
「今日は静かね」
「……そう?」
「ええ。具合でも悪い?」
カイルは、少し考えた。
そして。
「……だいじょうぶ」
笑った。
エレナは、安心したように微笑んだ。
「そう。ならよかった」
レオンが口を挟む。
「誕生日だから緊張してんだろ!」
カイルが眉を上げる。
「……なんで?」
「大人に一歩近づいたからだ!」
エレナがため息をついた。
「四歳よ?」
「四歳だって立派な男だ!」
レオンは胸を張った。
「なあ、カイル!」
カイルは、しばらく父親を見つめた。
そして。
「……とーちゃん」
「おう!」
「かにには、かった?」
沈黙。
エレナが吹き出した。
レオンは椅子から立ち上がった。
「まだ覚えてんのかよ!!」
カイルも笑った。
その瞬間。
胸の奥にあった不安が、少しだけ和らいだ。
(……そうだな)
前世の記憶が戻ったからといって。
今の家族が、他人になるわけじゃない。
自分は確かに、カイル・D・ヴェインなのだ。
七、海賊の名前
数日後。
町の中心にある市場。
カイルは、エレナと買い物に来ていた。
魚屋。
八百屋。
パン屋。
港から運ばれた珍しい品物。
ベルナード島の市場には、さまざまな店が並んでいる。
「カイル、離れちゃ駄目よ」
「……うん」
エレナの手を握りながら、カイルは周囲を眺めていた。
そのとき。
一軒の新聞売りの前で、足が止まった。
「……ん?」
店先に、一枚の新聞が広げられている。
そこには、大きな見出し。
『新世界で海賊同士の大規模衝突』
その下に、複数の海賊の名前。
そして。
『海軍、鎮圧に失敗』
カイルは、新聞を見つめた。
(……海賊?)
それ自体は珍しくない。
この世界には、海賊がいる。
海軍もいる。
悪魔の実と呼ばれる不思議な果実の噂も聞いたことがある。
だが。
前世の記憶を取り戻した今。
その言葉の意味は、まったく違っていた。
(……待てよ)
カイルは、周囲を見回した。
港の方角。
遠くの海。
そして、新聞。
(……まさか)
店主が新聞を畳もうとした瞬間。
カイルは、一つの文字を見つけた。
『世界政府』
その隣には。
『海軍本部』
さらに。
新聞の端に載っていた、小さな記事。
そこには、ある海賊の名前が記されていた。
ゴール・D・ロジャー。
カイルの呼吸が止まった。
(…………は?)
知っている。
その名前を、知っている。
漫画で読んだ。
アニメで見た。
何度も耳にした。
後に、海賊王と呼ばれる男。
(……ロジャー?)
カイルは、震える指を握り締めた。
(……嘘だろ)
だが。
新聞には、確かにその名が記されている。
そして、今まで聞き流していた言葉の数々が、頭の中でつながった。
世界政府。
海軍。
海賊。
悪魔の実。
偉大なる航路。
(……ONE PIECE)
カイルは、ゆっくり顔を上げた。
(……俺)
(ワンピースの世界に転生したのか!?)
八、海賊王より前の時代
その夜。
カイルは、自分の部屋で考え込んでいた。
窓の外では、虫が鳴いている。
机には、昼間の新聞。
エレナに頼み込んで、買ってもらったものだった。
(……落ち着け)
カイルは、何度も深呼吸した。
(まず、確認だ)
ゴール・D・ロジャーは、まだ海賊王になっていない。
新聞では、すでに新世界で名を上げ始めた海賊として紹介されていた。
しかし、後に知られる大航海時代は、まだ始まっていない。
(……つまり)
カイルは、ゆっくり目を細めた。
(ロジャーが処刑されるより、ずっと前)
それだけではない。
新聞に掲載された別の名前。
海賊たちの間で噂される、危険な男。
ロックス・D・ジーベック。
まだ、世界中の誰もが知る大海賊というわけではない。
だが、その名前を聞いた瞬間。
カイルの背筋に、冷たいものが走った。
(……ロックス)
ゴッドバレー事件。
ロックス海賊団。
白ひげ。
ビッグ・マム。
カイドウ。
そして、後に世界を揺るがす怪物たち。
(……マジかよ)
カイルは、天井を見上げた。
(よりによって、あの時代か)
前世で読んだ物語では、ロックス海賊団は歴史の中で語られる存在だった。
だが。
今、この世界では。
まだ生きている。
まだ、海を渡っている。
カイルは、しばらく黙っていた。
そして。
「……やべェな」
小さく呟いた。
(……この世界、普通に危なすぎるだろ)
海賊。
海軍。
世界政府。
天竜人。
そして、怪物のような強者たち。
自分は、ただの四歳児。
悪魔の実も食べていない。
剣術も知らない。
覇気など、使えるはずもない。
(……詰んでね?)
数秒の沈黙。
カイルは、深くため息をついた。
(……いや)
(まだだ)
少なくとも、今は平和な島にいる。
両親もいる。
友達もいる。
世界の危険を知っているなら、それに備えることもできる。
カイルは、ゆっくり拳を握った。
(……まずは、強くなろう)
それが、四歳の少年にできる唯一の決意だった。
九、父の作業小屋
翌朝。
「とーちゃん!」
作業小屋に、カイルの声が響いた。
レオンは木材を削っていた。
「おう! どうした!」
カイルは、真剣な顔で言った。
「けん、つくって!」
レオンの手が止まる。
「……剣?」
「うん!」
「何でだ?」
カイルは、少し考えた。
そして。
「つよくなりたい!」
レオンは、しばらく息子を見つめた。
やがて。
「……そうか」
にやりと笑った。
「男だなァ!」
奥からエレナの声が響く。
「レオン! 本物の剣なんて作らないでよ!」
「分かってるよ!」
レオンは笑った。
「木剣だ、木剣!」
そして、作業台から一本の木材を取り出した。
丁寧に削り、角を丸くする。
子供の手でも握れるように、柄を細くした。
やがて。
小さな木剣が完成した。
「ほらよ!」
レオンが差し出す。
カイルは、両手で受け取った。
「……おお」
軽い。
だが、ちゃんと剣の形をしている。
「どうだ!」
レオンが胸を張る。
「父ちゃん特製だぞ!」
カイルは、木剣を見つめた。
そして。
「……ありがと!」
満面の笑みで答えた。
レオンは、その笑顔を見て。
「おおおお!!」
突然、叫んだ。
「エレナ! カイルが喜んでるぞ!!」
「聞こえてるわよ!」
カイルは、思わず笑った。
その日の午後。
庭の大きな木の下。
カイルは、木剣を構えていた。
前世で知っていた剣術の知識。
ゲームで見た動き。
漫画の技。
そのほとんどは、実際の戦いには使えない。
それでも。
(……何もしないよりはマシだろ)
カイルは、木剣を振った。
一回。
二回。
三回。
十回。
二十回。
腕が疲れる。
息が上がる。
身体が小さい。
筋力も足りない。
思いどおりに動かない。
(……くそ)
それでも。
カイルは、木剣を振り続けた。
やがて、レオンが庭へ出てきた。
「……おいおい」
その姿を見て、眉を上げる。
「そんなに頑張って、どうした?」
カイルは、木剣を下ろした。
「……つよくなる!」
レオンは、少しだけ笑った。
「そうか」
そして、カイルの頭を撫でた。
「でもな」
「……ん?」
「強くなる前に、ちゃんと飯を食え」
カイルは、目を丸くした。
レオンは笑う。
「腹が減ってちゃ、誰にも勝てねェぞ!」
その言葉に。
カイルは、少しだけ笑った。
「……うん!」
十、家族の約束
夕方。
食卓には、エレナの作った料理が並んでいた。
焼き魚。
野菜のスープ。
焼きたてのパン。
レオンは、いつもどおり豪快に食べている。
「うめェ!!」
エレナが呆れたように笑う。
「毎日同じこと言ってるわね」
「毎日うめェからな!」
カイルは、二人の会話を聞きながら食事をしていた。
ふと、レオンが口を開いた。
「……なあ、カイル」
「……ん?」
「お前、大きくなったら何になりてェ?」
カイルは、少しだけ考えた。
(……何になりたい、か)
海賊。
海軍。
冒険家。
剣士。
この世界には、いろいろな生き方がある。
だが、今の自分には、まだ分からない。
前世の記憶が戻ったばかりなのだ。
それでも。
一つだけ、確かなことがあった。
「……じゆうに」
レオンが眉を上げる。
「……自由?」
カイルは頷いた。
「じゆうに、いきたい!」
少しの沈黙。
そして。
レオンが笑った。
「……いいじゃねェか!!」
エレナも微笑んだ。
「素敵ね」
レオンは、カイルの頭を撫でた。
「なら、好きなように生きろ!」
「……うん!」
「ただし!」
レオンが指を立てる。
「自分で選んだことから、逃げるんじゃねェぞ!」
カイルは、真剣に頷いた。
「……うん!」
エレナが優しく続ける。
「それと、困ったときはちゃんと頼るのよ」
「……?」
「一人で全部できなくてもいいの」
彼女は、カイルの頬へ手を添えた。
「お父さんも、お母さんもいるんだから」
カイルは、しばらく二人を見つめた。
そして。
「……うん!」
笑った。
その日。
カイルは、心の底から思った。
(……この世界で、よかった)
危険な世界。
未来には、大きな戦いが待っている。
自分には、前世の記憶がある。
だが。
そんなことは、今はどうでもよかった。
目の前には、温かい食事。
優しい母親。
騒がしい父親。
そして、明日も一緒に遊ぶ友達がいる。
それだけで、十分だった。
十一、遠い海の黒い帆
同じ夜。
ベルナード島から遠く離れた海域。
一隻の軍艦が、暗い海を進んでいた。
甲板には、海軍の将校たち。
その一人が、封筒を開いた。
中には、一枚の命令書。
『ベルナード島』
『調査対象』
『世界政府非加盟』
『対応方針:上層部判断待ち』
将校は、静かに眉をひそめた。
「……また、非加盟国か」
隣の兵士が尋ねる。
「どうなさいますか?」
将校は、封筒を閉じた。
「命令が来るまで待機だ」
「……はっ」
軍艦は、静かに進み続けた。
まだ、誰も知らない。
この小さな島で、何が起きようとしているのか。
ベルナード島。
丘の上の家。
カイルは、ベッドの中で眠っていた。
枕元には、父親が作ってくれた木剣。
窓の外では、月が輝いている。
寝室の扉が、静かに開いた。
エレナだった。
息子の寝顔を見て、微笑む。
「……おやすみ、カイル」
毛布を掛け直す。
そして、そっと扉を閉めた。
その温もりを感じながら、カイルは眠り続けた。
まだ、知らなかった。
この平穏な日々が、永遠には続かないことを。
そして。
自分がやがて、世界の王を目指す男と出会い、歴史に名を刻むことになるなど。
夢にも思っていなかった。
お読みいただきありがとうございます。
原作の世界観を大切にしながら、オリジナル主人公カイルの人生を描いていきます。
次回もよろしくお願いいたします。