ONE PIECE IF ~天災の副船長~   作:ななみん@サメメイド

10 / 15
第11話『名刀と剣士』

一、折れた刀

「……何だ、これ」

鍛冶場の作業台に置かれたものを見て、カイルは首を傾げた。

刀だった。

ただし、刃は半ばから折れている。

錆びた鍔。

欠けた柄。

鞘もなく、刀身には無数の傷が刻まれていた。

お世辞にも、立派な刀とは言えない。

「拾い物だ」

ゲンザ・クロガネが答えた。

その隣で、鍛冶屋のバルドが折れた刃を調べている。

「拾い物って……」

カイルはゲンザを見上げた。

「どこで?」

「海岸だ」

「海岸?」

「ああ。難破船の残骸に引っかかってた」

ゲンザは豪快に笑った。

「ガハハ! まだ使えそうだったんでな!」

バルドが、呆れたように鼻を鳴らした。

「どこが使えるんだ」

「直せるだろ?」

「簡単に言うな」

バルドは折れた刀身を持ち上げ、明かりへかざした。

「刃の半分がねェ。これを元どおりにするくらいなら、別の刀を打った方が早い」

ゲンザは頭をかいた。

「そうかァ?」

「そうだ」

二人の会話を聞きながら、カイルは折れた刀を見つめていた。

(……何でこんなになるまで)

刃には、激しく打ち合った痕跡が残されている。

刃こぼれ。

細かな亀裂。

そして、根元近くの深い傷。

カイルは、思わず尋ねた。

「……これ、戦いで折れたのかな」

バルドが顔を上げる。

「だろうな」

「……強い奴が使ってた?」

「それは分からん」

バルドは刀を作業台へ置いた。

「立派な刀を持ってるからって、使い手まで立派とは限らねェからな」

その言葉に、カイルは少しだけ考え込んだ。

ゲンザが、にやりと笑う。

「ちょうどいい」

「……何が?」

「今日は刀の勉強だ!」

バルドが顔をしかめた。

「俺の鍛冶場で勝手に授業を始めるな」

「ガハハハ!」

「笑って誤魔化すな!」

カイルは二人を見比べた。

(……この二人、意外と似てるよな)

言えば怒られそうなので、黙っておいた。

 

二、刀にも格がある

バルドは棚から三振りの刀を取り出した。

一本は、ごく普通の鉄製の刀。

一本は、装飾の施された立派な刀。

そして最後の一本は、使い込まれた古い刀だった。

「坊主。どれが一番いい刀だと思う?」

カイルは三振りを見比べた。

装飾された刀は、見た目が美しい。

普通の刀は、特に目立った特徴がない。

古い刀には、何度も研ぎ直された跡がある。

(……これ、引っかけ問題だろ)

カイルは、古い刀を指差した。

「……これ」

バルドが眉を上げる。

「理由は?」

「よく使われてるから」

「それだけか?」

カイルは、少し考えた。

「……ちゃんと手入れされてる」

バルドは、わずかに口元を緩めた。

「悪くねェ答えだ」

そして、三振りの刀を順番に指差した。

「だが、正解とは限らん」

カイルが首を傾げる。

「……え?」

「刀の良し悪しは、見た目だけじゃ決まらねェんだよ」

バルドは古い刀を鞘から抜いた。

「こいつは業物だ」

カイルの目が輝いた。

「……業物!」

前世の記憶が反応する。

この世界には、刀の位列が存在する。

業物。

良業物。

大業物。

そして、最上大業物。

世界でも屈指の名刀には、特別な評価が与えられていた。

バルドは続けた。

「こっちの飾り刀は、見た目だけの安物だ」

カイルは驚いた。

「……そうなの?」

「ああ。高そうに見せるための装飾に金をかけてるだけだ」

そして、普通の刀を手に取った。

「こいつは名刀じゃねェが、まともな鍛冶師が丁寧に打った刀だ」

カイルは、ゆっくり頷いた。

バルドは言った。

「刀を選ぶときは、名前や値段だけで決めるな」

「……うん」

「握って、重さを知って、刃を見ろ」

カイルは、三振りの刀を改めて見つめた。

(……なるほどな)

有名な刀なら強い。

そんな単純な話ではないらしい。

 

三、最上大業物

「……じゃあさ」

カイルはゲンザへ顔を向けた。

「天哭って、どれくらいすげェの?」

ゲンザは、腰に差した刀を見た。

永久黒刀『天哭』。

最上大業物十二工の一振り。

黒い鞘は、長い年月を経て少し色褪せていた。

だが、その中に収められた刃は、今もなお恐ろしいほどの切れ味を持つ。

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「最高の刀だ!」

バルドが頷く。

「……それは間違いねェ」

カイルは、バルドを見た。

「そんなに?」

老人は、深く息を吐いた。

「最上大業物十二工。そのうえ永久黒刀だぞ」

「……うん」

「刀鍛冶なら、一生に一度拝めるかどうかって代物だ」

カイルは、改めて天哭を見つめた。

(……やっぱ、とんでもねェ刀なんだな)

ゲンザが刀を抜く。

きぃん。

静かな金属音。

現れた刃は、深い黒色をしていた。

カイルは息を呑んだ。

何度見ても、美しい。

そして、どこか恐ろしい。

ゲンザは刀を水平に構えた。

「……だがな、カイル」

「……ん?」

「この刀を持ったからって、誰でも俺みてェに戦えるわけじゃねェ」

カイルは頷いた。

「……分かってる」

「本当か?」

「……多分」

ゲンザは、豪快に笑った。

「ガハハハ!」

そして、刀を鞘へ納めた。

「なら、試してみるか?」

カイルは眉を上げた。

「……何を?」

「名刀と剣士の違いだ」

 

四、木剣一本

午後。

クロガネ島の山中。

いつもの訓練場。

ゲンザは、二本の木剣を持っていた。

一本は、カイルが普段使っているもの。

もう一本は、少し太く、重い木剣。

ゲンザは太い方をカイルへ渡した。

「……ほれ」

カイルは受け取った。

「……重っ!」

ゲンザが笑う。

「ガハハ!」

「そいつは、俺が昔使ってた訓練用だ」

カイルは、木剣を見つめた。

「……親父の?」

「おう!」

そして、ゲンザはカイルの木剣を手に取った。

「今日は俺がこっちを使う」

カイルは、少しだけ眉をひそめた。

「……俺の方が強そうだけど」

「そうだな」

ゲンザは頷いた。

「丈夫さも重さも、お前の持ってる方が上だ」

カイルは、木剣を構えた。

「……じゃあ、勝てるかもな」

ゲンザは、にやりと笑った。

「来い!」

カイルは踏み込んだ。

重い木剣を振り下ろす。

だが。

ひゅっ。

ゲンザが身体を横へずらした。

木剣は空を切る。

次の瞬間。

こつんっ。

カイルの額へ、軽い一撃。

「いってェ!」

ゲンザは笑った。

「一本!」

カイルは、唇を尖らせた。

「……もう一回!」

再戦。

今度は横薙ぎ。

だが、また避けられる。

こつんっ。

「一本!」

三戦目。

四戦目。

五戦目。

結果は、すべて同じだった。

カイルは、肩で息をしながら木剣を下ろした。

「……無理だろ、これ」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「そうか?」

「武器の性能、関係ねェじゃん」

「そのとおりだ」

カイルが顔を上げる。

ゲンザは、静かに続けた。

「名刀は、持ち主を強くしてくれる」

「……」

「だが、名刀が勝手に敵を斬ってくれるわけじゃねェ」

カイルは、ゆっくり頷いた。

「……ああ」

ゲンザは、木剣を肩へ担いだ。

「強ェ剣士が持つからこそ、名刀は生きるんだ」

カイルは、手にした木剣を見つめた。

重い。

扱いづらい。

それでも、今の自分には、まだ使いこなせないだけなのかもしれない。

(……なるほどな)

カイルは、少しだけ笑った。

「……じゃあ」

ゲンザが眉を上げる。

「ん?」

「俺がもっと強くなれば、この木剣でも親父に勝てるってことか」

ゲンザは、目を細めた。

そして。

「ガハハハハ!!」

豪快に笑った。

「上等だ!」

「いつか勝ってやる!」

「楽しみにしてるぞ!」

 

五、強い刀の弱点

夕方。

鍛冶場へ戻ったカイルは、バルドの仕事を手伝っていた。

炉の火が、赤々と燃えている。

かんっ。

かんっ。

かんっ。

金属を打つ音が響く。

カイルは、ふと尋ねた。

「……バルドさん」

「何だ」

「強い刀って、絶対折れないの?」

バルドは、槌を止めた。

「……何でそう思う」

カイルは、作業台に置かれた折れた刀を指差した。

「これ、戦いで折れたんだろ?」

「……ああ」

「じゃあ、もっと強い刀なら折れなかったのかなって」

バルドは、しばらく黙った。

そして。

「……絶対なんてねェよ」

カイルが顔を上げる。

「……そうなの?」

「どんな名刀でも、使い方を間違えりゃ傷む」

バルドは、古い刃を手に取った。

「刀は鋼だ」

「……」

「鋼には、限界がある」

カイルは、静かに聞いていた。

バルドは続けた。

「だから鍛冶師がいる」

「……?」

「曲がれば直す。欠ければ研ぐ。傷めば手入れする」

カイルは、ゆっくり頷いた。

「……ああ」

バルドは、折れた刀を見つめた。

「だが、折れちまったもんは元どおりにはならねェこともある」

その言葉に。

カイルの胸が、わずかに痛んだ。

失ったもの。

二度と戻らないもの。

ベルナード島。

父と母。

その記憶が、頭をよぎった。

バルドは、カイルの表情を見た。

そして、少しだけ声を和らげた。

「……坊主」

「……ん?」

「だからって、全部が無駄になるわけじゃねェ」

カイルは顔を上げる。

バルドは、折れた刀を作業台へ置いた。

「こいつも、材料としてはまだ使える」

「……」

「形は変わっても、次の何かにはなれる」

カイルは、しばらく黙っていた。

やがて。

「……そっか」

小さく頷いた。

 

六、折れた刀の持ち主

数日後。

鍛冶場に、一人の老人が訪れた。

白髪。

深い皺。

そして、左手には古い傷跡。

老人は、作業台に置かれた刀を見て足を止めた。

「……その刀」

バルドが顔を上げる。

「ん?」

老人は、ゆっくり近づいた。

そして、折れた刃へ手を伸ばす。

「……どこで見つけた?」

カイルは、少しだけ驚いた。

「……知ってるの?」

老人は頷いた。

「……ああ」

そして、静かに答えた。

「息子の刀だ」

鍛冶場が、静まり返った。

バルドは、ゲンザが海岸で拾ったことを説明した。

老人は、しばらく刀を見つめていた。

そして。

「……そうか」

小さく呟いた。

「……やっぱり、帰ってこなかったか」

カイルは、何も言えなかった。

老人は、静かに続けた。

「息子は、商船の護衛をしていた」

「……」

「何年も海を渡っていたが、最後の航海から戻らなかった」

カイルは、折れた刀を見つめた。

(……護衛)

誰かを守るために、剣を握った人間。

その刀が、こうして海岸へ流れ着いた。

老人は、ゆっくり刃を撫でた。

「……あいつ、剣が好きでな」

少しだけ笑う。

「子供の頃から、毎日振ってた」

カイルは、静かに聞いていた。

「いつか強い剣士になるって、よく言ってたよ」

老人は、刀から手を離した。

そして、バルドへ尋ねた。

「……これ、直せるか?」

バルドは、しばらく刀を見つめた。

「元の長さには戻せねェ」

老人は頷いた。

「……ああ」

「だが、短く打ち直すことならできる」

その言葉に、老人の目が揺れた。

「……本当か?」

バルドは、静かに頷いた。

「おう」

老人は、深く頭を下げた。

「……頼む」

その声は、震えていた。

カイルは、折れた刀を見つめた。

(……帰ってきたんだな)

持ち主は、帰ってこなかった。

けれど。

刀だけは、海を越えて戻ってきた。

 

七、受け継がれる刃

それから数日。

バルドは、折れた刀を短刀へ打ち直した。

カイルも、できる範囲で手伝った。

道具を運ぶ。

炉の管理を手伝う。

砥石を準備する。

そして、何度も作業を見守った。

かんっ。

かんっ。

かんっ。

折れた刀が、少しずつ新しい形へ変わっていく。

やがて。

一本の短刀が完成した。

刃は短い。

だが、丁寧に研がれ、光を反射している。

老人は、それを受け取った。

しばらく、何も言わなかった。

そして。

「……ありがとう」

小さく呟いた。

バルドは鼻を鳴らした。

「仕事だ」

老人は、少しだけ笑った。

「……そうか」

そして、カイルへ目を向けた。

「坊主」

カイルが顔を上げる。

「……はい」

「手伝ってくれたんだってな」

カイルは、少しだけ首を振った。

「……大したことは」

老人は、優しく笑った。

「ありがとう」

カイルは、静かに頷いた。

「……うん」

老人は短刀を抱え、鍛冶場を出ていった。

その背中を、カイルは長い間見送っていた。

 

八、剣を持つ者

その夜。

ゲンザの家。

カイルは、食卓で考え込んでいた。

ゲンザが声をかける。

「……どうした?」

カイルは顔を上げた。

「……親父」

「ん?」

「今日、折れた刀を直したんだ」

ゲンザは頷いた。

「おう。聞いたぞ」

カイルは、少しだけ黙った。

そして。

「……剣ってさ」

ゲンザが顔を上げる。

「……ああ」

「強いだけじゃ、駄目なんだな」

ゲンザは、しばらく黙っていた。

やがて。

「……そうだな」

カイルは続けた。

「誰かを守るために振っても、負けることはある」

「……」

「名刀を持ってても、死ぬことはある」

ゲンザは、静かに頷いた。

「……ああ」

カイルは、拳を握った。

「……俺、絶対に負けたくねェ」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「ガハハ」

そして。

「なら、強くなれ」

カイルは顔を上げる。

ゲンザは続けた。

「だがな」

その声は、真剣だった。

「強くなった先で、何をするかも考えろ」

カイルは、静かに頷いた。

「……ああ」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「よし」

そして、突然。

「じゃあ明日は素振り二千回だ!」

カイルの表情が固まった。

「……は?」

ゲンザは、豪快に笑った。

「ガハハハハ!」

カイルは、椅子から立ち上がった。

「何でそうなるんだよ!!」

 

九、名刀を持つ資格

数日後。

カイルは、庭でゲンザと向かい合っていた。

互いに木剣。

ゲンザは、いつものように笑っている。

「来い!」

カイルは、深く息を吐いた。

(……よく見ろ)

足。

腰。

肩。

視線。

そして、呼吸。

ゲンザの動きは、相変わらず隙がない。

だが。

以前より、ほんの少しだけ分かることが増えていた。

(……今だ)

カイルは踏み込んだ。

木剣を振る。

ゲンザが受ける。

こつんっ。

木剣が交差する。

カイルは、そのまま身体を沈めた。

そして、素早く横へ回り込む。

ゲンザが笑った。

「……ほう!」

カイルは、逆方向から木剣を振った。

だが。

ぱしっ。

ゲンザの木剣が、それを受け止めた。

「……っ!」

次の瞬間。

こつんっ。

額に一撃。

カイルは、ゆっくり尻餅をついた。

「……くそ」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「惜しかったな!」

カイルは、額を押さえた。

「……毎回言ってねェ?」

「毎回惜しいからな!」

「絶対嘘だろ!!」

ゲンザは大笑いした。

そして、木剣を下ろした。

「……カイル」

「……ん?」

「お前、少しずつ強くなってるぞ」

カイルは、顔を上げた。

「……本当?」

「ああ」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「俺の動きを、前より見られるようになった」

カイルは、静かに頷いた。

「……うん」

「それでいい」

ゲンザは、少年の頭を撫でた。

「焦らず続けろ」

カイルは、歯を見せて笑った。

「……分かった!」

 

終章 刀に宿るもの

その夜。

カイルは、自分の机へ紙を広げていた。

そこには、以前描いた刀の設計図。

まだ、未完成。

線は歪。

寸法も曖昧。

けれど。

カイルは、何度も書き直していた。

刃の長さ。

柄の形。

重さ。

そして、鞘の色。

(……いつか)

自分だけの刀を作る。

それは、ただ強い刀であればいいわけではない。

自分の手で打ち。

自分の手で振り。

自分の意思で使う刀。

そんな一本を作りたかった。

カイルは、鉛筆を置いた。

そして、窓の外を見た。

月が輝いている。

遠くでは、波の音。

家の中からは、ゲンザの大きないびきが聞こえていた。

「……うるせェな、親父」

小さく笑う。

机の上には、歪な釘抜き。

壁には、誕生日にもらった木剣。

そして、開かれた海図。

カイル・D・ヴェイン。

七歳。

少年は、まだ知らない。

自分がこれから、どれほど多くの剣士たちと出会うことになるのかを。

そして。

いつか、自らの手で打った刀を携え、大海原へ出る日が来ることを。

今は、ただ。

一歩ずつ。

強くなるために、歩き続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。