ONE PIECE IF ~天災の副船長~   作:ななみん@サメメイド

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第13話『海を知らぬ剣士』

一、出航の朝

「カイル! 荷物は積んだか!」

「積んだ!」

「水は!」

「樽三つ!」

「食料は!」

「一週間分!」

「酒は!」

「置いてきた!」

「何ィィィ!?」

港にゲンザの叫び声が響き渡った。

カイル・D・ヴェインは、船の甲板から呆れた顔を向けた。

「三日分くらい積んであるだろ!」

「三日でなくなったらどうする!」

「飲まなきゃいいだろ!!」

「そんな馬鹿な!」

「馬鹿はそっちだ!!」

「ガハハハハ!」

ゲンザは腹を抱えて笑った。

その様子を見ていた港の漁師たちも、呆れたように笑っている。

七歳のカイルと、元海軍大将『黒鬼』ゲンザ・クロガネ。

二人は、久しぶりに島を離れることになっていた。

目的地は、クロガネ島から数日ほど離れた場所にあるカザン島。

刀鍛冶や船大工が集まる、中規模の港町がある島だった。

今回の旅には、カイルが世話になっている鍛冶師バルドも同行する。

「おい、坊主!」

船へ乗り込んできたバルドが、大きな木箱を指差した。

「この箱は絶対に倒すなよ」

カイルは頷いた。

「中身は?」

「注文品の刃物だ」

「……そんな大事なもの、俺の近くに置いて平気?」

「お前が勝手に触らなきゃな」

「信用ねェなァ」

「七歳児を信用して船荷を預ける方が問題だろうが」

カイルは反論できなかった。

もっともな話だった。

ゲンザは船首に立ち、腕を組んだ。

「よし!」

そして、豪快に叫んだ。

「出航だァ!」

「まだ係留索が結んである!」

バルドの怒鳴り声が響いた。

「ガハハハ!」

「危ねェ危ねェ!」

カイルは、額を押さえた。

(……本当にこの船、大丈夫か?)

そんな不安を抱きながら。

小型帆船『鬼丸』は、ゆっくり港を離れていった。

 

二、海の上の剣術

出航から二日目。

海は穏やかだった。

ゲンザは甲板の中央に立ち、木剣を構えていた。

その向かい側には、カイル。

「……まさか」

カイルは眉をひそめた。

「船の上でも修行するの?」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「当たり前だ!」

「休暇じゃなかったのかよ!」

「航海だ!」

「だから何だよ!」

ゲンザは、甲板を木剣で軽く叩いた。

「陸と船じゃ、足場が違う」

カイルは足元を見た。

船は小さく揺れている。

「……確かに」

「その状態で戦えるようになれ」

ゲンザは、にやりと笑った。

「さあ、来い!」

カイルは木剣を構えた。

踏み込む。

だが。

ぐらっ。

船が傾いた。

「うわっ!?」

体勢が崩れる。

その瞬間。

こつんっ。

木剣が額へ当たった。

「一本!」

「今の船のせいだろ!」

ゲンザは豪快に笑った。

「ガハハ!」

「敵は船が揺れるのを待ってくれねェぞ!」

カイルは歯を食いしばった。

「……もう一回!」

再び構える。

今度は、船の揺れに合わせて膝を曲げた。

足を広げすぎない。

重心を低くする。

船が傾く。

それに合わせて身体を動かす。

(……なるほど)

陸での戦いとは、まるで違う。

地面そのものが動く。

踏み込むタイミングを間違えれば、剣を振る前に転ぶ。

カイルは慎重に距離を詰めた。

そして。

ひゅっ。

木剣を振る。

ゲンザは、軽く受け止めた。

「……おう」

カイルは、そのまま身体を回転させる。

だが。

こつんっ。

また、額。

「いってェ!」

ゲンザは笑った。

「少しは良くなったぞ!」

カイルは額を押さえた。

「……その褒め方、そろそろ変えてくれ」

 

三、カザン島

三日目の昼。

目的地が見えてきた。

カザン島。

島の中央には、黒い岩肌の山がそびえている。

その周囲には、赤茶色の屋根を持つ建物が並んでいた。

港からは、絶えず煙が上がっている。

鍛冶場の炉だ。

島へ近づくにつれ、金属を打つ音が聞こえ始めた。

かんっ。

かんっ。

かんっ。

カイルは、目を輝かせた。

「……すげェ!」

バルドが鼻を鳴らす。

「ここは昔から鍛冶師の多い島だからな」

「……何で?」

「山から良質な鉄が採れる」

「なるほど」

バルドは続けた。

「それに、港がある」

カイルは頷いた。

「……運ぶのに便利だから?」

「そうだ」

バルドは、少しだけ笑った。

「刀も道具も、作るだけじゃ商売にならねェからな」

カイルは、島を見つめた。

(……鍛冶師の町、か)

クロガネ島とは違う。

ここでは、鉄を打つ音が生活そのものになっている。

カイルの胸が、高鳴った。

 

四、若い剣士

港に着いてから、三人は町を歩いた。

バルドは取引先の鍛冶場へ。

ゲンザは宿の手配へ。

カイルは、二人に許可をもらい、近くの広場を見て回ることになった。

「遠くへ行くなよ!」

ゲンザが叫ぶ。

「分かってる!」

「知らねェ奴について行くな!」

「分かってるって!」

「腹が減ったら飯を食え!」

「それは親父だろ!!」

ゲンザの笑い声を背に、カイルは広場へ向かった。

そこには、何人もの剣士が集まっていた。

木剣を振る者。

型の練習をする者。

そして、互いに手合わせをする者たち。

カイルは、興味深そうに眺めていた。

(……へえ)

クロガネ島では、剣術を習っている者はあまり多くない。

だが、この島では違うらしい。

そのとき。

「おい、坊主」

背後から声がした。

振り返る。

そこには、十代後半ほどの青年が立っていた。

茶色の短髪。

日に焼けた肌。

腰には二本の刀。

青年は、カイルを見下ろしていた。

「……何だ?」

カイルが尋ねる。

青年は、カイルの腰に下げられた木剣を見た。

「お前も剣士か?」

カイルは少し考えた。

そして。

「……見習い」

青年は、にやりと笑った。

「そうか」

そして、広場の中央を指差した。

「なら、手合わせしようぜ」

カイルは眉を上げた。

「……俺と?」

「ああ」

青年は笑った。

「ちょっとした遊びだ」

カイルは、少しだけ考えた。

相手は自分より十歳ほど年上。

体格も違う。

剣術の腕も分からない。

だが。

(……面白そうだな)

カイルは、ゆっくり頷いた。

「……いいぜ」

 

五、勝負の条件

広場の中央。

青年は木剣を一本手に取った。

「俺はロアンだ」

カイルも木剣を構える。

「カイル」

「よろしくな、カイル」

ロアンは笑った。

「一本先取でいいか?」

カイルは頷いた。

「ああ」

周囲にいた剣士たちが、興味深そうに集まってきた。

「おっ、ロアンが子供と勝負するのか?」

「手加減してやれよ!」

「怪我させんなよ!」

ロアンは笑った。

「分かってるって!」

カイルは、静かに息を吐いた。

(……さて)

七歳の自分が、年上の剣士へどこまで通じるのか。

ゲンザとは、毎日手合わせしている。

だが、あの男は強すぎる。

普通の剣士と戦うのは、初めてに近い。

ロアンが木剣を構えた。

「準備はいいか?」

カイルは頷いた。

「……ああ」

「じゃあ、行くぞ!」

ロアンが踏み込んだ。

速い。

だが。

(……見える)

ゲンザほどではない。

カイルは、身体を半歩ずらした。

ひゅっ。

木剣が空を切る。

ロアンの目が見開かれた。

「……っ!?」

カイルは、すぐに踏み込んだ。

狙いは胴。

だが、ロアンも反応する。

ぎんっ。

木剣がぶつかった。

その瞬間。

カイルは、思った。

(……軽い)

ゲンザの剣と比べれば、圧倒的に軽い。

もちろん、年齢差による腕力はある。

だが。

技術の精度が違った。

カイルは、木剣を滑らせるように動かした。

そして。

こつんっ。

ロアンの脇腹へ、木剣が触れた。

沈黙。

周囲の剣士たちが、目を丸くした。

「……え?」

ロアンも、固まっていた。

カイルは、ゆっくり木剣を下ろした。

「……一本?」

その瞬間。

広場が、どっと沸いた。

 

六、七歳の勝利

「マジかよ!」

「ロアンが負けた!?」

「相手、子供だぞ!」

周囲の剣士たちが騒ぎ始めた。

ロアンは、しばらく自分の脇腹を見つめていた。

そして。

「……はは」

小さく笑った。

「やられたな」

カイルは、少しだけ驚いた。

「……怒らねェの?」

ロアンは、眉を上げた。

「何で?」

「……いや」

ロアンは笑った。

「負けたのは俺だ」

そして、木剣を下ろした。

「お前、誰に習ってんだ?」

カイルは、少しだけ考えた。

「……親父」

ロアンが眉を上げる。

「親父さん?」

「ああ」

「強いのか?」

カイルは、少しだけ笑った。

「……めちゃくちゃ」

ロアンは、豪快に笑った。

「ははは!」

「そりゃ会ってみてェな!」

カイルは、内心で思った。

(……やめとけ)

本気で勝負したら、この広場が消える。

そんなことを考えていると。

背後から、聞き慣れた笑い声が響いた。

「ガハハハハ!!」

カイルの肩が跳ねた。

「……あ」

振り返る。

そこには、ゲンザが立っていた。

満面の笑み。

「カイル!」

そして。

「一本取ったらしいな!」

カイルは、少しだけ照れた。

「……見てたのかよ」

「おう!」

ゲンザは笑った。

「よくやった!」

ロアンが、ゲンザを見上げた。

そして。

「……あれ?」

その顔が、固まった。

「……まさか」

ゲンザは眉を上げる。

「ん?」

ロアンは、ゆっくり後ずさった。

「……黒鬼?」

ゲンザは、にやりと笑った。

「昔はそう呼ばれてたな」

ロアンの顔が、真っ青になった。

「……元海軍大将!?」

周囲の剣士たちも、ざわつき始めた。

カイルは、深くため息をついた。

(……ほらな)

 

七、強さの差

ロアンは、しばらくゲンザを見つめていた。

そして。

「……あの!」

ゲンザが眉を上げる。

「何だ?」

「一度、手合わせしていただけませんか!」

カイルの顔が引きつった。

(……言っちゃったよ)

ゲンザは、少しだけ目を細めた。

そして。

「……いいぜ」

カイルは慌てた。

「親父!?」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「遊びだ、遊び!」

ロアンは木剣を構えた。

真剣な表情。

周囲の剣士たちが距離を取る。

ゲンザは、木剣を一本受け取った。

「……来い!」

ロアンが踏み込む。

先ほどより、速い。

真っすぐな斬撃。

だが。

こつんっ。

次の瞬間。

木剣がロアンの額へ当たった。

「……え?」

ロアンは、固まった。

ゲンザは笑った。

「一本!」

カイルは、ゆっくり頷いた。

(……だよな)

ロアンは、しばらく黙った。

そして。

「……もう一回!」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「いいぜ!」

再戦。

ロアンは、全力で踏み込んだ。

だが。

こつんっ。

また、額。

「……っ!」

ゲンザは笑った。

「まだまだだな!」

ロアンは、肩で息をしていた。

「……すげェ」

そして、ゲンザを見上げた。

「……本物だ」

カイルは、少しだけ笑った。

(……そうだろ)

この男が、自分の親父だ。

そう思うと。

少しだけ、誇らしかった。

 

八、知らない強さ

その夜。

宿の食堂。

カイルは、ゲンザと向かい合って座っていた。

バルドも隣にいる。

食卓には、海鮮料理が並んでいた。

ゲンザは、相変わらず豪快に食べている。

「うめェ!!」

バルドが呆れた。

「少しは静かに食え」

「ガハハ!」

カイルは、笑いながら魚を口へ運んだ。

そのとき。

ゲンザが、ふと尋ねた。

「……カイル」

「ん?」

「今日の勝負、どうだった?」

カイルは、少し考えた。

「……勝てた」

「そうだな」

「……でも」

カイルは、少しだけ眉をひそめた。

「親父には、全然勝てねェ」

ゲンザは、静かに頷いた。

「……ああ」

カイルは続けた。

「ロアンには勝てたのに、親父には一本も取れねェ」

「……」

「何が違うんだろうな」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「……経験だ」

カイルが顔を上げる。

「……経験?」

「ああ」

ゲンザは箸を置いた。

「剣術ってのは、知ってる技の数じゃねェ」

「……」

「何をいつ使うか。それを、どれだけ正確に判断できるかだ」

カイルは、静かに聞いていた。

ゲンザは続けた。

「ロアンは、お前より体格も筋力も上だ」

「……ああ」

「だが、お前は俺との修行で、速い剣を何度も見てきた」

カイルは頷いた。

「……うん」

「だから、あいつの剣を見切れた」

カイルは、少しだけ納得した。

(……なるほど)

ゲンザは、さらに続けた。

「だがな」

その声が、少しだけ低くなる。

「世の中には、俺より強ェ奴だっている」

カイルの目が見開かれた。

「……マジ?」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「ガハハ」

「当たり前だろ」

カイルは、しばらく黙った。

元海軍大将。

最上大業物を持つ剣豪。

そのゲンザより強い存在。

(……そりゃ、いるよな)

前世で知っている。

ロジャー。

白ひげ。

ロックス。

そして、まだ出会っていない無数の怪物たち。

ゲンザは、カイルの頭を撫でた。

「だから、調子に乗るなよ」

カイルは、少しだけ笑った。

「……分かってる」

 

九、夜の海

翌日。

カイルは、一人で港へ来ていた。

夕方。

夕日が、海面を赤く染めている。

カザン島の港には、多くの船が停泊していた。

商船。

漁船。

そして、旅の剣士たちが乗る小型船。

カイルは、静かに海を見つめた。

(……世界は広いな)

クロガネ島では、ゲンザが圧倒的に強い。

だが、島を離れれば、さまざまな人間がいる。

ロアンのような若い剣士。

バルドのような鍛冶師。

そして、海を渡る船乗りたち。

それぞれが、自分の人生を生きている。

カイルは、ゆっくり木剣を握った。

(……俺も、いつか)

自分の刀で。

自分の船で。

この海へ出る。

そして、まだ知らない世界を見る。

そんなことを考えていると。

「……おい、坊主」

背後から声がした。

振り返る。

ロアンだった。

「……あ」

ロアンは、少しだけ笑った。

「昨日はありがとな」

カイルは首を傾げた。

「……何が?」

「手合わせだよ」

カイルは、少しだけ笑った。

「……ああ」

ロアンは、海を見つめた。

「俺、もっと強くなるよ」

カイルが顔を上げる。

ロアンは続けた。

「昨日、お前に負けた」

「……」

「で、お前の親父さんには、まるで歯が立たなかった」

カイルは、静かに聞いていた。

ロアンは笑った。

「……悔しかった」

そして。

「だから、もっと強くなる」

カイルは、少しだけ笑った。

「……俺もだ」

ロアンは、拳を差し出した。

「また会ったら、勝負しようぜ」

カイルは、その拳へ自分の拳を当てた。

こつんっ。

「ああ」

そして、笑った。

「次も勝つ」

ロアンは、豪快に笑った。

「ははは!」

「言ってくれるな!」

 

終章 新しい海

数日後。

カイルたちは、カザン島を出航した。

船は、穏やかな海を進んでいく。

甲板では、ゲンザが大きないびきをかいていた。

「ぐごおおお……!」

カイルは、舵輪を握りながら顔をしかめた。

「……寝るなよ、親父」

返事はない。

バルドが、隣で海図を広げていた。

「坊主」

「……ん?」

「次の島が見えたら教えろ」

カイルは頷いた。

「分かった」

海は広い。

そして、強い奴も多い。

カイルは、少しだけ笑った。

(……面白くなってきた)

前世では、画面越しに眺めていた世界。

今は、自分の足で歩いている。

その実感が、少しずつ強くなっていた。

カイル・D・ヴェイン。

七歳。

まだ、海を知らない剣士。

だが。

その目は、確かに大海原を見つめていた。

いつか、世界中の強者たちと剣を交える、その日のために。

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