ONE PIECE IF ~天災の副船長~ 作:ななみん@サメメイド
一、夜明け前の怪物
「起きろォォォ!!」
どごんっ!!
寝室の扉が勢いよく開いた。
「うわああっ!?」
カイル・D・ヴェインは、毛布ごとベッドから転げ落ちた。
窓の外は真っ暗。
鳥すら鳴いていない。
扉の前には、巨大な男が立っていた。
ゲンザ・クロガネ。
元海軍大将『黒鬼』。
そして現在、カイルの養父である。
「ガハハハ! 朝だぞ!」
カイルは床から顔を上げた。
「……親父」
「おう!」
「今、何時?」
「三時だ!」
「夜じゃねェか!!」
ゲンザは腹を抱えて笑った。
「ガハハハ!」
「強ェ剣士は早起きなんだよ!」
「魚屋だってまだ寝てるわ!!」
カイルは毛布を引っ張り、ベッドへ戻ろうとした。
だが。
ひょいっ。
身体が持ち上がった。
「……あ」
ゲンザが片手でカイルを担ぎ上げていた。
「よし! 行くぞ!」
「待て待て待て!!」
「まずは山道を走る!」
「俺、まだ着替えてねェ!!」
「ガハハ! 細けェことは気にすんな!」
「気にするわ!!」
その日。
カイルは、修行の厳しさを知った。
というより。
ゲンザの生活習慣がおかしいことを、改めて理解した。
二、千回の素振り
夜明け。
クロガネ島の山道。
「……はっ……はっ……!」
カイルは、小さな身体で坂道を走っていた。
足は泥だらけ。
額から汗が流れる。
背後では、ゲンザが悠々と歩いている。
「ガハハ! 遅ェぞ、カイル!」
「……っ!」
「そんなんじゃ海賊どもに追いつかれちまうぞ!」
カイルは、歯を食いしばった。
(……知ってるよ)
海賊の恐ろしさも。
海軍の強さも。
そして、世界政府の非情さも。
すでに知っている。
だからこそ、強くなりたかった。
(……負けたくねェ)
カイルは、足を前へ出した。
一歩。
また一歩。
息が苦しい。
それでも、止まらない。
やがて。
「……よし!」
ゲンザが声を上げた。
「今日はここまでだ!」
カイルは、その場へ倒れ込んだ。
「……し、死ぬ……」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
そして、腰の水筒を差し出した。
「飲め!」
カイルは、両手で受け取った。
「……ありがと」
冷たい水が、喉を通る。
ゲンザは、少しだけ笑った。
「……よく頑張ったな」
カイルは、顔を上げた。
「……え?」
「昨日より、少し遠くまで走れた」
「……」
「それで十分だ」
カイルは、しばらく黙った。
そして、少しだけ笑った。
「……そっか」
ゲンザは頷いた。
「おう!」
しかし。
その直後。
「じゃあ、次は素振り千回だ!」
カイルの笑顔が凍りついた。
「……は?」
ゲンザは豪快に笑った。
「ガハハハハ!!」
「まだ朝飯前だぞ!」
「その朝飯を先に食わせろォ!!」
三、剣士の足
数日後。
庭に、三本の丸太が立てられた。
ゲンザが作った訓練用の標的だった。
ただし、三本とも位置が微妙に違う。
一本は正面。
一本は右。
もう一本は、カイルの背後。
カイルは木剣を握り、首を傾げた。
「……何これ」
ゲンザは、丸太を指差した。
「敵だ!」
「見りゃ分かるよ」
「一人じゃねェ」
ゲンザは笑った。
「三人だ!」
カイルは、背後の丸太を見た。
「……囲まれてるじゃねェか」
「そうだ!」
ゲンザは、木剣を肩へ担いだ。
「さあ、どうする?」
カイルは、少し考えた。
そして、正面の丸太へ踏み込んだ。
ぶんっ!!
木剣が振り下ろされる。
しかし、その瞬間。
こつんっ。
背後から、ゲンザの木剣が頭を叩いた。
「いってェ!」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
「後ろが空いてるぞ!」
「丸太は動かねェだろ!!」
「敵は動くんだよ!」
カイルは、頭を押さえながら唸った。
「……くそ」
ゲンザは、しゃがみ込んだ。
そして、地面へ一本の線を引く。
「いいか、カイル」
「……ん?」
「剣士は、刀だけで戦うんじゃねェ」
「……?」
「足で戦うんだ」
ゲンザは立ち上がった。
そして、ゆっくり歩く。
正面の丸太へ近づく。
だが、斬らない。
右へ回り込む。
そのまま背後の丸太との位置関係を変える。
三本の丸太が、一直線に並んだ。
カイルの目が見開かれた。
「……おお」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
「こうすりゃ、一度に三人の相手をしなくて済むだろ?」
カイルは、ゆっくり頷いた。
(……なるほど)
前世で遊んだゲームでも、似たようなことはあった。
敵を正面へ集める。
囲まれない位置へ動く。
広い場所で戦う。
だが。
実際に身体を使ってみると、難しさがまるで違う。
「……親父」
「何だ?」
「もう一回、やってみる」
ゲンザは、歯を見せて笑った。
「おう!」
そして、木剣を構えた。
「今度は俺も動くぞ!」
カイルの顔が引きつった。
「……それ、難易度上がりすぎだろ」
「ガハハハ!」
四、海軍大将という男
ある日の午後。
ゲンザの家へ、一人の客が訪れた。
港町から来た、年配の商人だった。
「ゲンザさん!」
「おう!」
ゲンザは玄関を開けた。
「どうした!」
商人は、深々と頭を下げた。
「以前、海賊から助けていただいた件ですが……」
「ああ、あれか!」
「お礼を持ってきました」
商人が差し出したのは、大きな木箱。
中には高級な酒瓶が並んでいた。
ゲンザの目が輝いた。
「おおお!!」
「いい酒じゃねェか!!」
カイルは、台所から顔を出した。
「……親父」
「何だ?」
「昼から飲む気?」
「ガハハ!」
「客が来たんだから仕方ねェだろ!」
「酒を飲む理由になってねェよ!」
商人は、二人のやり取りを見て笑った。
そして、カイルへ目を向ける。
「……こちらが、噂の?」
ゲンザは胸を張った。
「おう!」
「俺の息子だ!」
カイルは、少しだけ照れた。
「……どうも」
商人は微笑んだ。
「ゲンザさんが子供を引き取ったと聞いたときは、驚きましたよ」
「ガハハ!」
「俺だって驚いた!」
カイルが睨む。
「……本人の前で言う?」
ゲンザは、大笑いした。
その後、商人は少しだけ真面目な顔になった。
「……それにしても」
ゲンザが顔を上げる。
「ん?」
「昔は、海軍本部の大将だった方が、こんな島で暮らしているなんて」
カイルの手が止まった。
(……大将)
頭では分かっていた。
だが、他人の口から聞くと、不思議な重みがある。
商人は続けた。
「当時の海では、黒鬼の名を知らない者などほとんどいませんでした」
ゲンザは鼻を鳴らした。
「昔の話だ」
「海賊たちは恐れ、海兵たちは憧れた」
「……」
「あなたが前線へ出れば、戦況が変わるとまで言われていた」
カイルは、静かにゲンザを見た。
普段は料理を焦がしている男。
酒が好きで、よく笑う男。
その男が、かつて世界中の海賊に恐れられていた。
(……やっぱ、すげェ人なんだな)
商人が尋ねる。
「……戻るおつもりはないのですか?」
その瞬間。
ゲンザの笑みが、消えた。
「……ねェよ」
短い答え。
商人は、静かに頷いた。
「……そうですか」
ゲンザは酒瓶を持ち上げた。
「今の方が、ずっと面白ェからな」
そして。
「ガハハハハ!!」
また、いつもの笑顔へ戻った。
だが。
カイルは、その一瞬の表情を忘れなかった。
五、正義の旗
その夜。
カイルは、ゲンザへ尋ねた。
「……親父」
「何だ?」
「何で海軍を辞めたの?」
ゲンザの手が止まった。
居間には、暖炉の火が揺れていた。
外では、雨が降っている。
ゲンザは、しばらく黙っていた。
そして。
「……嫌になったからだ」
カイルは眉を上げた。
「……何が?」
「命令だよ」
「……命令?」
ゲンザは酒杯を置いた。
「海軍には、いい奴も大勢いる」
「……」
「本気で人を助けたいと思ってる奴もな」
カイルは、静かに聞いていた。
ゲンザは続けた。
「だが、海軍は世界政府の下にある」
「……ああ」
「政府の命令が、いつも正しいとは限らねェ」
カイルの指が、わずかに動いた。
ベルナード島。
燃える町。
撃たれた父と母。
あの日の光景が、頭をよぎる。
ゲンザは、それに気づいたようだった。
「……悪ィ」
カイルが顔を上げる。
「……何が?」
「嫌なこと思い出させたな」
カイルは首を振った。
「……別に」
ゲンザは、しばらく少年を見つめていた。
そして。
「……俺はな」
静かに口を開く。
「正義って言葉が嫌いなわけじゃねェ」
「……」
「だが、その言葉を使って何でも許されると思ってる奴は嫌いだ」
カイルは、黙っていた。
ゲンザの目が鋭くなる。
「誰かを助けるために剣を抜いたはずなのに、いつの間にか命令を守るために剣を抜くようになっちまう」
一拍。
「俺は、それが嫌だった」
カイルは、静かに頷いた。
「……そうか」
ゲンザは、少しだけ笑った。
「ガハハ」
そして。
「だから辞めた!」
カイルは、少しだけ口元を緩めた。
「……親父らしいな」
「おう!」
ゲンザは胸を張った。
「俺は俺の正義で生きる!」
その言葉に。
カイルは、ほんの少しだけ救われた気がした。
六、見えない鎧
数か月後。
ゲンザは、修行の内容を変え始めた。
その日、庭には大きな岩が置かれていた。
カイルは、首を傾げる。
「……今度は何?」
ゲンザは、岩の前へ立った。
「覇気だ!」
カイルの目が輝いた。
「……!」
ついに来た。
前世の記憶にある、ONE PIECEの戦闘技術。
武装色。
見聞色。
覇王色。
その存在を知っていても、使い方までは分からない。
ゲンザは、拳を握った。
「よく見とけ」
そして、岩へ軽く拳を当てた。
どんっ。
小さな音。
だが。
次の瞬間。
ばきぃっ!!
岩の内部へ、無数の亀裂が走った。
カイルは、目を見開いた。
「……え?」
ゲンザは、拳を下ろす。
「これが武装色の覇気だ」
カイルは岩を見つめた。
表面には、大きな傷がない。
だが、内部が砕けている。
(……内部破壊!?)
前世で見た、流桜の応用。
覇気を外へ流し、内部へ通す技術。
カイルは、ゆっくり顔を上げた。
「……すげェ」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
「だが、勘違いすんなよ」
「……何?」
「今日からこれを使えるようになるわけじゃねェ」
カイルの表情が固まる。
「……え?」
ゲンザは、しゃがみ込んだ。
そして、カイルの胸へ軽く拳を当てた。
「まず、自分の身体を知れ」
「……?」
「どこへ力を入れて、どこで抜くのか」
「……」
「自分の身体すら満足に扱えねェ奴が、見えねェ力を扱えるわけねェだろ」
カイルは、しばらく考えた。
そして。
「……つまり?」
ゲンザは満面の笑みになった。
「ガハハ!」
「今日も基礎修行だ!!」
カイルは、天を仰いだ。
「……ですよねー!!」
七、見聞色の入り口
別の日。
ゲンザは、カイルへ目隠しを渡した。
「……何これ」
「つけろ」
カイルは眉をひそめた。
「……何する気?」
「修行だ」
「嫌な予感しかしねェ」
それでも、目隠しをつけた。
視界が真っ暗になる。
ゲンザの声が響いた。
「いいか、カイル」
「……ん?」
「目だけで相手を見るな」
「……?」
「音を聞け」
風が吹く。
木々が揺れる。
「足音を聞け」
ゲンザが歩く。
砂利を踏む音。
「気配を感じろ」
カイルは、静かに息を吐いた。
(……見聞色か)
前世の記憶が、頭をよぎる。
だが。
今は、ただの子供。
何となく使えるほど、甘い力ではない。
「……行くぞ」
ゲンザの声。
次の瞬間。
こつんっ。
額を叩かれた。
「いってェ!」
ゲンザが笑う。
「ガハハ!」
「今のが見聞色だ!」
「いや、ただ殴られただけだろ!!」
「違う!」
ゲンザは笑った。
「殴られる前に分かるようになれ!」
カイルは、目隠しの下で顔をしかめた。
(……無茶言いやがる)
だが。
その修行を、何度も繰り返した。
最初は、何も分からなかった。
ただ、額を叩かれるだけ。
しかし。
何十回。
何百回。
繰り返すうちに。
ある日。
ひゅっ。
風の音。
カイルは、わずかに首を傾けた。
こつんっ。
木剣が、肩へ当たった。
「……いってェ!」
ゲンザが笑う。
「ガハハ!」
「惜しかったな!」
カイルは、目隠しを外した。
「……今、避けかけた?」
ゲンザは頷いた。
「おう!」
「……見聞色?」
ゲンザは、少しだけ笑った。
「まだ違う」
「……え?」
「音を聞いて、勘で動いただけだ」
カイルは、少しだけがっかりした。
だが。
ゲンザは続けた。
「それでいいんだ」
カイルが顔を上げる。
「……?」
「最初は、全部そこからだ」
ゲンザは、カイルの頭へ手を置いた。
「焦るな」
そして。
「強ェ奴ほど、基礎を馬鹿にしねェんだ」
カイルは、静かに頷いた。
「……分かった」
八、鬼の過去
ある夜。
ゲンザは、久しぶりに古い写真を取り出していた。
カイルが覗き込む。
「……誰?」
写真には、三人の男が写っていた。
一人はゲンザ。
若い頃の姿。
今より少しだけ細身だが、その笑顔は変わらない。
隣には、大きな拳を突き上げた男。
さらに、厳しい顔立ちの男。
カイルは、思わず息を呑んだ。
(……マジか)
知っている顔だった。
前世で何度も見た。
モンキー・D・ガープ。
そして。
センゴク。
カイルは、写真を見つめた。
「……この人たち」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
「昔の知り合いだ!」
「……友達?」
「おう!」
ゲンザは酒杯を持ち上げた。
「ガープって馬鹿がいてな!」
カイルの目が細くなる。
(……ガープを馬鹿呼ばわりできるのかよ)
ゲンザは続けた。
「あいつは昔っから、とにかく無茶苦茶でよ!」
そして、もう一人を指差す。
「こっちはセンゴクだ!」
カイルは頷いた。
「……うん」
ゲンザは鼻を鳴らした。
「頭はいいが、説教が長ェんだ!」
カイルは、思わず笑った。
「……はは」
ゲンザも笑う。
「ガハハ!」
だが。
その直後。
ゲンザの笑みが、少しだけ薄くなった。
「……あいつらは、まだ海軍にいる」
カイルは黙った。
ゲンザは写真を見つめた。
「……俺だけ、先に降りちまった」
その声には、わずかな寂しさがあった。
カイルは、少し考えた。
そして。
「……会いたい?」
ゲンザが顔を上げる。
「……何?」
カイルは、写真を指差した。
「その人たちに」
ゲンザは、しばらく黙った。
そして。
「……ガハハ!」
笑った。
「会えば、また喧嘩になるだろうな!」
カイルは、少しだけ笑った。
「……そうなんだ」
ゲンザは写真をしまった。
そして。
「いつか、お前にも会わせてやるよ」
カイルの目が見開かれた。
「……いいの?」
「おう!」
ゲンザは胸を張った。
「俺の息子だって、自慢してやる!」
カイルは、少しだけ顔を赤くした。
「……やめろよ」
ゲンザは大笑いした。
「ガハハハハ!!」
九、世界の広さ
季節が巡った。
春が過ぎ。
夏が来て。
秋になり。
冬が近づく。
カイルは、毎日修行を続けていた。
剣術。
体術。
走り込み。
水泳。
そして、時々覇気についての授業。
もちろん。
まだ、覇気を自在に扱えるわけではない。
悪魔の実も食べていない。
それでも。
確実に、身体は変わり始めていた。
以前より長く走れる。
木剣を振っても、すぐに疲れなくなった。
ゲンザの動きも、ほんの少しだけ見えるようになった。
もっとも。
勝負では、相変わらず一度も勝てない。
「……親父」
「何だ?」
「俺、強くなってる?」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
「なってるぞ!」
カイルは、少しだけ安心した。
「……そっか」
ゲンザは続けた。
「ただし!」
カイルが顔を上げる。
「……ん?」
「俺には、まだ百年早ェ!」
カイルは、木剣を握り直した。
「……百年も生きてねェよ!!」
ゲンザは大笑いした。
「ガハハハハ!!」
十、受け継がれるもの
冬の夜。
暖炉の前。
カイルは、ゲンザの刀を眺めていた。
永久黒刀『天哭』。
その漆黒の刀身は、火の光を鈍く反射している。
ゲンザは、丁寧に刃を拭っていた。
「……親父」
「何だ?」
「その刀って、どうやったら黒くなるの?」
ゲンザの手が止まった。
そして、少しだけ笑った。
「……知りてェか?」
カイルは頷いた。
「ああ」
ゲンザは、黒刀を見つめた。
「刀ってのはな」
静かに口を開く。
「使い手と一緒に、長ェ時間をかけて変わっていく」
「……」
「何度も斬り結び、覇気を込め、戦い抜く」
カイルは、真剣に聞いていた。
ゲンザは続けた。
「そうして、いつか黒刀へ成ることがある」
カイルが目を輝かせた。
「……じゃあ、俺も?」
ゲンザは笑った。
「ガハハ!」
「なれるかもしれねェな!」
「……本当!?」
「ただし!」
ゲンザは、刀を鞘へ納めた。
「簡単じゃねェぞ」
カイルは、静かに頷いた。
「……分かってる」
ゲンザは、しばらく少年を見つめた。
そして。
「……カイル」
「ん?」
「いつか、自分の刀を持て」
カイルが眉を上げる。
「……自分の刀?」
「ああ」
ゲンザは、少しだけ笑った。
「誰かに借りた力じゃねェ」
「……」
「自分の手で選んだ剣を振れ」
カイルは、しばらく考えた。
そして。
「……分かった」
小さく頷いた。
「いつか、すげェ刀を作る」
ゲンザの目が細くなる。
「……作る?」
「ああ!」
カイルは、歯を見せて笑った。
「自分で作りたい!」
ゲンザは、少しだけ驚いた。
そして。
「……ガハハハハ!!」
豪快に笑った。
「いいじゃねェか!」
そして。
「なら、鍛冶も覚えねェとな!」
カイルは、少しだけ笑った。
「……おう!」
その日。
カイルは、もう一つの目標を見つけた。
いつか、自分の刀を作る。
そして、その刀で世界を渡る。
まだ名前もない。
形も決まっていない。
だが。
その夢は、確かに少年の胸へ刻まれた。
終章 小さな剣士
雪の降る朝。
クロガネ島。
山の中腹にある家の庭で、カイルは木剣を振っていた。
一回。
二回。
三回。
その動きは、初めて木剣を握った頃とはまるで違っていた。
足運び。
呼吸。
重心。
すべてが、少しずつ整っている。
ゲンザは、家の入口からその姿を眺めていた。
「……ガハハ」
小さく笑う。
「やっぱり、面白ェ息子だ」
その声に、カイルが振り返った。
「……親父!」
「おう!」
「今日こそ一本取るぞ!」
ゲンザは、木剣を肩へ担いだ。
「ガハハハ!」
「来い!!」
カイルは、笑った。
そして、踏み込んだ。
雪が舞う。
木剣が交差する。
まだ、世界は広い。
知らないことばかりだ。
だが。
カイルには、進む道があった。
強くなる。
自分の力で生きる。
そして、いつか。
誰にも縛られず、自由に海を渡る。
その夢を胸に。
少年は、今日も剣を振っていた。