ONE PIECE IF ~天災の副船長~   作:ななみん@サメメイド

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第5話『悪魔の実の噂』

一、港に来た珍客

クロガネ島の朝は、寒い。

特に冬の終わり頃は、海から吹きつける風が容赦なく頬を刺す。

「……さっむ」

カイル・D・ヴェインは、薪を抱えながら呟いた。

五歳。

ゲンザ・クロガネに引き取られてから、すでに数か月が過ぎている。

当初は山道を少し走っただけで倒れていたが、最近は往復できる距離も伸びた。

もっとも、まだ五歳児の体力である。

「……重てェ」

抱えていた薪が、ずるりと滑る。

慌てて持ち直した。

そのとき。

「ガハハハハ!」

背後から笑い声が響いた。

「どうしたカイル! もうへばったか!」

ゲンザだった。

片手には、カイルの何倍もある巨大な薪の束。

もう片方の手には、朝食用の魚が三匹。

それでも、まるで重さを感じていない。

「……親父」

「おう!」

「それ、何キロあんの?」

ゲンザは薪を見た。

「知らん!」

「……測ったことないの?」

「持てりゃ十分だろ!」

カイルは、深くため息をついた。

(……そういう問題じゃねェんだよな)

ゲンザは笑いながら薪を下ろした。

「よし! 朝飯にするぞ!」

カイルの顔色が変わった。

「待って!」

「何だ?」

「魚は俺が焼く!」

ゲンザが眉を上げる。

「何でだ?」

カイルは即答した。

「家を燃やしたくないから」

「ガハハハハ!」

「失礼なガキだな!」

「前科三犯だろ!!」

そのとき。

遠くの港から、鐘の音が響いた。

カン、カン、カン。

ゲンザの笑い声が止まる。

「……ん?」

カイルも顔を上げた。

港の鐘が鳴るのは、船が入港したときか、何か異常が起きたときだ。

だが、警報のような連打ではない。

間隔を置いた、穏やかな鐘。

ゲンザは、少しだけ笑った。

「……商船か」

カイルが眉を上げる。

「珍しいの?」

「ああ。この季節は海が荒れるからな」

ゲンザは薪を担ぎ直した。

「よし、見に行くか!」

カイルは魚を見た。

「……朝飯は?」

「帰ってからだ!」

「……マジか」

ゲンザは豪快に笑った。

「ガハハハハ!!」

二人は山道を下り、港へ向かった。

 

二、海の向こうの宝物

港には、見慣れない商船が停泊していた。

帆には、赤い羅針盤の紋章。

船体には無数の補修跡があり、長い航海を経てきたことが分かる。

船からは木箱が次々と運び下ろされていた。

香辛料。

布。

保存食。

薬品。

そして、珍しい書物。

港の商人たちは、久しぶりの入港に沸き立っていた。

「おお、ゲンザさん!」

船長らしき男が声を上げた。

髭を蓄えた、陽気な中年男。

ゲンザは片手を上げる。

「おう、久しぶりだな!」

「まだこの島にいたのか!」

「俺の家だぞ!」

「ハハハ! そうだった!」

二人は豪快に笑い合った。

カイルは、ゲンザの隣で荷物を眺めていた。

(……結構いろんなもん売ってるな)

前世の日本と違い、この世界の島々では物流そのものが命懸けだ。

海賊。

海王類。

異常気象。

海軍の検問。

それらを越えて運ばれる品物には、相応の価値がある。

カイルは、本が積まれた箱へ目を向けた。

「……親父」

「何だ?」

「本、見てもいい?」

ゲンザは頷いた。

「おう!」

船長も笑った。

「好きに見な、坊主!」

カイルは、箱へ近づいた。

海図。

航海術。

薬草の図鑑。

古い冒険記。

そして。

一冊だけ、表紙に奇妙な果実の絵が描かれた本があった。

(……ん?)

カイルの手が止まる。

本を持ち上げる。

表紙には、こう書かれていた。

『悪魔の実について』

その瞬間。

カイルの胸が高鳴った。

 

三、悪魔の実

「……これ」

カイルは、本を持ってゲンザのもとへ戻った。

「買っていい?」

ゲンザが表紙を見る。

「……悪魔の実?」

「ああ」

ゲンザは、少しだけ眉を上げた。

そして、船長へ尋ねる。

「おい、これいくらだ?」

船長は本を見ると、苦笑した。

「それか?」

「おう」

「古い写本だ。内容も全部が正しいとは限らんぞ」

カイルは眉を上げた。

「……そうなの?」

船長は頷く。

「悪魔の実なんて、実物を見る機会がほとんどないからな」

そして、笑った。

「ほとんど伝聞だよ」

カイルは、本の表紙を見つめた。

(……まあ、そうだよな)

悪魔の実。

食べた者に、特殊な能力を与える果実。

代償として、海に嫌われる。

泳げなくなる。

前世では、漫画の設定として知っていた。

だが、この世界では違う。

実際に存在する、不思議な果実。

カイルは、ゆっくりページをめくった。

そこには、いくつもの種類が紹介されていた。

超人系。

動物系。

自然系。

それぞれの特徴。

能力者の噂。

そして、海楼石についての記述。

(……おお)

知っている情報も多い。

だが、前世で読んだ物語とは異なり、この本には多くの誤解や憶測も混じっていた。

『能力者は雨に触れても動けなくなる』

『悪魔の実を二つ食べると、必ず爆発する』

『悪魔の実には、海の悪魔が封じられている』

(……いや、雨は普通に平気だろ)

カイルは、内心で突っ込んだ。

だが、そのほかの記述には、知らない話もあった。

「……親父」

「何だ?」

「悪魔の実って、本当にあるの?」

ゲンザは、あっさり頷いた。

「あるぞ」

カイルの目が輝いた。

「……見たことある?」

「おう」

「……食べたことは?」

「ねェな」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

そして、少しだけ真面目な顔になる。

「だが、能力者とは何度も戦った」

カイルは、顔を上げた。

「……強かった?」

ゲンザは、少し考えた。

「強ェ奴もいりゃ、弱ェ奴もいた」

「……へえ」

「悪魔の実を食えば、誰でも強くなれると思うなよ」

ゲンザは、カイルの頭へ大きな手を置いた。

「能力は、道具だ」

「……道具?」

「ああ」

その目が、少しだけ鋭くなる。

「使いこなせなきゃ、ただの厄介な力だ」

カイルは、静かに頷いた。

(……確かに)

前世で知っていた能力者たちを思い出す。

ルフィ。

エース。

白ひげ。

カイドウ。

ビッグ・マム。

強さの理由は、悪魔の実だけではない。

覇気。

身体能力。

戦闘経験。

そして、本人の意思。

そのすべてが、強さを作っている。

カイルは、本を胸へ抱えた。

「……俺も、いつか食べてみたい」

その言葉に。

ゲンザの眉が、少しだけ動いた。

 

四、黒鬼の忠告

帰り道。

カイルは、買ってもらった本を読みながら歩いていた。

ゲンザは、隣で巨大な荷物を担いでいる。

「……カイル」

「ん?」

「悪魔の実が欲しいのか?」

カイルは頷いた。

「……ああ」

ゲンザは、少しだけ黙った。

そして。

「理由は?」

カイルは、歩きながら考えた。

(……強くなりたいから)

それが、一番の理由だった。

ベルナード島。

両親。

ミーナ。

あの日、何もできなかった自分。

もう二度と、同じ思いをしたくない。

だが。

カイルは、本を閉じた。

「……強くなるため」

ゲンザは頷いた。

「……そうか」

そして。

「なら、なおさら慎重になれ」

カイルが顔を上げる。

「……何で?」

ゲンザは、海を指差した。

「悪魔の実を食えば、泳げなくなる」

「……知ってる」

「海で生きるなら、それはでけェ弱点だ」

カイルは黙った。

ゲンザは続ける。

「船から落ちたら、誰かに助けてもらわなきゃならねェ」

「……ああ」

「海楼石にも弱くなる」

「……」

「しかも、何の能力が出るか分からねェ場合もある」

カイルは、静かに頷いた。

「……そうだな」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「ガハハ!」

「だから、焦って食うな」

そして。

「食うなら、自分で選べ」

カイルは、しばらく黙った。

やがて。

「……分かった」

頷いた。

「ちゃんと考える」

ゲンザは満足そうに笑った。

「おう!」

 

五、黒い外套の男

その日の夕方。

ゲンザの家へ、一人の男が訪れた。

黒い外套。

腰には細身の剣。

片方の耳には、小さな金色の耳飾り。

年齢は三十代半ばほど。

男は玄関の前で立ち止まった。

「……久しぶりだな、黒鬼」

ゲンザの表情が変わった。

「……お前か」

カイルは、二人を見比べた。

(……知り合い?)

男は、静かに笑った。

「相変わらず、こんな辺境に住んでいるのか」

ゲンザは鼻を鳴らした。

「俺の勝手だろ」

男は、カイルへ目を向けた。

「……その子は?」

ゲンザの目が細くなる。

「俺の息子だ」

男は、わずかに眉を上げた。

「……息子?」

「ああ」

ゲンザは、はっきり答えた。

「カイルだ」

カイルは、軽く頭を下げた。

「……どうも」

男は、しばらくカイルを見つめた。

そして。

「……そうか」

静かに微笑んだ。

「いい息子を持ったな」

ゲンザは胸を張った。

「ガハハ!」

「だろ!」

だが、男は続けた。

「……しかし、黒鬼」

その声が、少しだけ低くなる。

「世界政府は、まだお前を忘れていないぞ」

ゲンザの笑みが消えた。

カイルも、顔を上げた。

「……世界政府?」

男は、静かに頷いた。

「元海軍大将が、命令を拒否して辞職した」

「……」

「政府にとっては、面白くない話だ」

ゲンザは鼻を鳴らした。

「知ったことか」

男は、少しだけ笑った。

「相変わらずだな」

そして。

「……気をつけろ」

ゲンザは、男を見つめた。

「……何に?」

男は、静かに答えた。

「政府の連中は、忘れた頃に動く」

その言葉に、ゲンザは黙った。

やがて。

「……分かってる」

短く答えた。

男は、それ以上何も言わなかった。

「……じゃあな」

踵を返す。

そして、山道を下っていった。

カイルは、しばらく後ろ姿を見つめた。

「……親父」

「何だ?」

「あの人、誰?」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「昔の知り合いだ」

「……海軍?」

「ああ」

そして。

「今は違うらしいがな」

カイルは、ゆっくり頷いた。

(……なるほど)

ゲンザは、玄関の扉を閉めた。

だが。

その表情には、わずかな警戒が残っていた。

 

六、悪魔の実の価値

翌日。

カイルは、港へ向かった。

昨日の商船が、まだ停泊していたからだ。

船長は、荷物の整理をしていた。

「おっ、坊主!」

「……どうも」

「昨日の本はどうだった?」

カイルは頷いた。

「面白かった」

船長は笑った。

「そりゃよかった!」

カイルは、少しだけ考えた。

そして。

「……一つ聞いていい?」

船長が眉を上げる。

「何だ?」

「悪魔の実って、いくらするの?」

船長の手が止まった。

そして。

「……高いぞ」

カイルは眉を上げた。

「……どれくらい?」

船長は、指を一本立てた。

「最低でも、一億ベリーと言われてる」

カイルは、目を見開いた。

(……一億!?)

前世で知っていた数字ではある。

だが、今の自分にとっては天文学的な金額だった。

船長は笑った。

「しかも、珍しい能力ならもっと高い」

「……へえ」

「幻獣種なんざ、金を積んでも見つからんだろうな」

カイルの指が止まった。

(……幻獣種)

その言葉に、胸が高鳴った。

動物系の中でも、極めて希少な存在。

不死鳥。

大仏。

九尾の狐。

そして、青龍。

前世で知っている能力だけでも、その強さは桁違いだった。

カイルは、少しだけ笑った。

「……夢があるな」

船長も笑った。

「ハハハ! そうだな!」

しかし。

船長は、すぐに真面目な顔になった。

「……ただし、坊主」

「……ん?」

「悪魔の実ってのは、持ってるだけで狙われることもある」

カイルは顔を上げた。

「……どういう意味?」

船長は、港の方角を見た。

「海賊も、貴族も、海軍も、欲しがる奴がいる」

「……」

「特に珍しい実ならな」

カイルは、静かに頷いた。

(……そりゃそうだ)

この世界では、力そのものが価値になる。

その力を手に入れるために、人を殺す者だっている。

カイルは、本を胸へ抱えた。

「……気をつける」

船長は、少しだけ笑った。

「おう!」

 

七、見知らぬ海の話

商船の出航前。

カイルは、船長からいくつかの話を聞いた。

偉大なる航路。

新世界。

海王類の棲む海域。

そして、数え切れないほどの海賊たち。

船長は、特に新世界の話をするとき、声を落とした。

「……あっちの海には、怪物がいる」

カイルは眉を上げた。

「……怪物?」

「ああ」

船長は、少しだけ笑った。

「人間の形をした怪物だ」

その言葉に、カイルは前世の記憶を思い出した。

ロジャー。

白ひげ。

ビッグ・マム。

カイドウ。

そして。

ロックス。

カイルは、静かに尋ねた。

「……ロックスって海賊、知ってる?」

船長の目が細くなった。

「……どこで聞いた?」

「新聞」

カイルは答えた。

船長は、しばらく黙った。

そして。

「……ああ」

低く頷いた。

「知ってる」

カイルの胸が高鳴った。

「……強いの?」

船長は、静かに答えた。

「俺は会ったことがない」

「……」

「だが、あの男の噂を聞いた船乗りは、みんな同じことを言う」

カイルが顔を上げる。

「……何て?」

船長は、海を見つめた。

そして。

「……世界を欲しがってる男だってな」

カイルは、しばらく黙った。

世界の王。

ロックス・D・ジーベック。

いつか、自分が出会うことになる男。

だが、今はまだ、遠い海の噂にすぎなかった。

 

八、選ぶ力

その夜。

カイルは、買ってもらった本を机へ広げていた。

悪魔の実。

その分類。

能力。

弱点。

そして、伝説。

ページの中には、奇妙な挿絵がいくつも並んでいる。

(……幻獣種、か)

カイルは、ぼんやりと考えた。

前世の記憶には、数え切れないほどの怪物たちがいる。

ゲームで戦った龍。

神話に登場する生物。

世界を滅ぼすほどの力を持つ存在。

その中でも、特に忘れられない姿があった。

白い鱗。

巨大な翼。

長く伸びた角。

そして、全身を走る紅い雷。

ミラルーツ。

モンスターハンターに登場する、伝説の古龍。

かつてゲームの中で、その圧倒的な存在感に魅了されたことを覚えている。

(……あんな力があったら)

カイルは、少しだけ笑った。

(……そりゃ強ェだろうな)

だが、すぐに首を横へ振った。

(……いやいや)

そんな都合のいい悪魔の実が、この世界にある保証などない。

そもそも、モンスターハンターは前世のゲームだ。

ONE PIECEの世界とは、別の物語。

(……もしあったら、って話だな)

カイルは、本を閉じた。

そして、木剣を手に取る。

悪魔の実を手に入れられるかどうかは、分からない。

だが。

自分の身体を鍛えることは、今すぐできる。

カイルは、静かに笑った。

「……よし」

そのまま庭へ出た。

月明かりの下。

木剣を構える。

一回。

二回。

三回。

小さな身体で、何度も振り続けた。

 

九、父の教え

その様子を、ゲンザが家の入口から眺めていた。

「……カイル」

少年が振り返る。

「……親父?」

「こんな時間まで何してんだ」

カイルは、少しだけ笑った。

「……修行」

ゲンザは、しばらく黙った。

そして、ゆっくり近づいてきた。

「……悪魔の実の本、面白かったか?」

カイルは頷いた。

「ああ」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「そうか」

そして。

「……で?」

カイルが眉を上げる。

「……ん?」

「お前は、どうしたい?」

カイルは、少し考えた。

そして。

「……強くなりたい」

ゲンザは頷いた。

「知ってる」

「……え?」

「それは、前から聞いてる」

ゲンザは、しゃがみ込んだ。

そして、カイルと目線を合わせた。

「俺が聞いてんのはな」

その声は、少しだけ真剣だった。

「どんな強さが欲しいかだ」

カイルは、言葉を失った。

(……どんな強さ?)

ゲンザは続けた。

「海賊を斬れる力か?」

「……」

「海軍を倒せる力か?」

「……」

「それとも、誰にも負けねェ力か?」

カイルは、しばらく考え込んだ。

ベルナード島。

父と母。

ミーナ。

そして、燃える故郷。

あの日。

何もできなかった自分。

カイルは、ゆっくり口を開いた。

「……もう」

ゲンザは黙って聞いていた。

「……誰にも、奪われたくない」

その声は、小さかった。

だが、はっきりしていた。

「自分の大事なものを」

ゲンザは、しばらくカイルを見つめていた。

そして。

「……そうか」

大きな手を、少年の頭へ置いた。

「なら、覚えとけ」

カイルが顔を上げる。

ゲンザは、静かに続けた。

「どれだけ強くなっても、全部守れるとは限らねェ」

「……」

「どれだけ強い剣士でも、届かねェ場所はある」

カイルは、唇を噛んだ。

ゲンザは続けた。

「だからこそ、後悔しねェように生きろ」

カイルは、静かに頷いた。

「……分かった」

ゲンザは、豪快に笑った。

「ガハハハ!」

そして。

「よし! 明日はもっと厳しくするぞ!」

カイルの表情が固まった。

「……何で!?」

ゲンザは、腹を抱えて笑った。

「強くなりてェんだろ!」

「……そうだけどさァ!!」

 

終章 まだ見ぬ白龍

夜。

クロガネ島。

カイルは、ベッドへ横たわっていた。

枕元には、悪魔の実についての本。

そして、木剣。

窓の外では、月が輝いている。

少年は、静かに目を閉じた。

(……悪魔の実)

その存在を知った今。

世界は、以前より少しだけ広く感じられた。

悪魔の実を食べれば、未知の力を手に入れられる。

だが、それだけで最強になれるわけではない。

ゲンザが言ったとおりだ。

力は、使い方次第。

(……まずは、剣だな)

カイルは、少しだけ笑った。

そして、眠りについた。

 

同じ頃。

世界のどこか。

荒れ狂う海。

一隻の古い海賊船が、巨大な嵐の中を進んでいた。

船倉の奥。

鍵の掛けられた木箱が、一つ。

その中には、奇妙な果実が収められていた。

白銀の表皮。

渦を巻く紋様。

赤く染まった蔓。

普通の果実とは、明らかに違う。

船長は、木箱を見つめていた。

「……本当に、こんなものが?」

隣の男が頷く。

「古い航海記録に載っていました」

「……何の実だ?」

男は、しばらく黙った。

そして。

「……分かりません」

船長は眉をひそめる。

「……何?」

「ただし、記録にはこう書かれていました」

男は、古い紙片を取り出した。

そこには、かすれた文字。

『白き古龍』

『雷を纏う災厄』

『空を裂き、海を震わせるもの』

船長は、静かに息を呑んだ。

「……まさか」

そのとき。

空で、雷が鳴った。

轟ッ!!

船体が、激しく揺れる。

船長は木箱を抱えた。

「……守れ!」

叫んだ。

「何があっても、この実だけは失うな!!」

嵐の中。

古い海賊船は、暗い海を進んでいった。

その果実が、やがて一人の少年の運命を変えることになるとは。

まだ、誰も知らなかった。

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