ONE PIECE IF ~天災の副船長~   作:ななみん@サメメイド

6 / 11
第6話『黒鬼の旧友』

一、差出人不明の手紙

クロガネ島の朝。

「おい、カイル!」

台所から、ゲンザの大声が響いた。

「飯はまだかァ!」

カイル・D・ヴェインは、フライパンを握ったまま振り返った。

「あと五分!」

「腹が減って死にそうだ!」

「昨日も同じこと言ってただろ!」

「昨日は昨日だ!」

「子供より我慢できねェのかよ!」

ゲンザは豪快に笑った。

「ガハハハ!」

五歳のカイルと、元海軍大将ゲンザ・クロガネ。

血のつながらない二人の生活は、すっかり騒がしいものになっていた。

もっとも、料理だけはカイルが担当することが増えていた。

ゲンザに任せれば、家が燃える。

すでに二度ほど、台所の壁を修理している。

(……元大将って、もっと完璧な人間だと思ってたんだけどな)

そんなことを考えながら、カイルが皿を並べていたとき。

こんこん。

玄関が叩かれた。

「ゲンザさーん!」

聞き慣れた声。

村の郵便配達人だった。

ゲンザは大きな椅子から立ち上がった。

「おう!」

扉を開ける。

そこには、白髪混じりの男が立っていた。

「手紙ですよ」

「俺にか?」

「ええ。ずいぶん変わった差出人ですが」

ゲンザは封筒を受け取った。

そして、表面を見た瞬間。

「……あ?」

その眉が、ぴくりと動いた。

カイルは、台所から顔を覗かせる。

「……どうした?」

ゲンザは、しばらく封筒を見つめていた。

やがて。

「……ガハハハハ!!」

突然、大笑いした。

「何年ぶりだ、あの馬鹿!」

カイルは眉をひそめた。

「……誰?」

ゲンザは封筒を掲げた。

「ガープだ!」

カイルの手から、皿が滑りかけた。

「……は?」

「モンキー・D・ガープ!」

ゲンザは、嬉しそうに笑っていた。

「昔の悪友だ!」

(……いやいやいや)

カイルは、ゆっくり皿を置いた。

(モンキー・D・ガープって)

(あのガープ!?)

海軍の英雄。

海賊王ロジャーと幾度も戦った男。

そして、後にルフィの祖父として知られる人物。

その名前が、まるで近所の飲み友達のように出てきた。

(……親父の人脈、どうなってんだよ)

ゲンザは封筒を破いた。

「どれどれ……」

読み始める。

数秒後。

「……は?」

ゲンザの表情が固まった。

カイルは首を傾げた。

「……何?」

ゲンザは、ゆっくり顔を上げた。

「……あの野郎」

そして。

「今日来るって書いてやがる!!」

カイルは目を見開いた。

「……今日!?」

その瞬間。

遠くの港から、鐘が鳴った。

カン、カン、カン。

ゲンザは、窓の外を見た。

そして、額を押さえた。

「……もう来たな、あの馬鹿」

 

二、拳骨の男

クロガネ島の港。

一隻の海軍軍艦が、ゆっくり入港していた。

船首には、大きな犬の頭を模した飾り。

帆には、海軍の紋章。

甲板では、海兵たちが慌ただしく動いている。

そして。

「ぶわっはっはっは!!」

巨大な笑い声が響いた。

「懐かしい島じゃのう!!」

甲板に立つのは、筋骨隆々の男。

短い黒髪。

鋭い目つき。

白い歯を見せた豪快な笑顔。

海軍中将。

モンキー・D・ガープ。

まだ、海軍の英雄として世界中へ名を轟かせる前の時代。

だが、その実力はすでに海軍内でも屈指だった。

ガープは船から飛び降りた。

どんっ!!

港の地面が、わずかに揺れた。

近くにいた漁師たちが、驚いて振り返る。

ガープは周囲を見渡した。

「さて!」

そして、大声で叫んだ。

「ゲンザァァ!! どこじゃァァ!!」

港中に声が響いた。

そのとき。

山道の方角から、別の大声。

「うるせェぞ、ガープ!!」

ゲンザだった。

黒い外套を羽織り、カイルを隣に連れて歩いてくる。

ガープの顔が輝いた。

「おおお!!」

そして。

「ぶわっはっはっは!!」

大笑いしながら走り出した。

ゲンザも笑った。

「ガハハハハ!!」

カイルは、嫌な予感がした。

(……待て)

二人が近づく。

(……まさか)

ガープが拳を握る。

ゲンザも拳を握る。

(……おいおい)

次の瞬間。

どごおおおん!!

二人の拳が、真正面から激突した。

衝撃が、港へ広がる。

積まれていた木箱が倒れ、海面に大きな波紋が走った。

「ぶわっはっはっは!!」

「ガハハハハ!!」

二人は笑っていた。

カイルは、風に吹き飛ばされそうになりながら叫んだ。

「挨拶で港壊すなァァ!!」

 

三、黒鬼と拳骨

「久しぶりじゃのう、ゲンザ!」

ガープが、ゲンザの肩を叩いた。

どんっ!!

「おう!」

ゲンザも、ガープの肩を叩き返す。

どんっ!!

互いに、一歩も動かない。

カイルは、少し離れた場所から眺めていた。

(……怪物二匹)

ガープが笑った。

「相変わらず元気そうじゃ!」

ゲンザも笑う。

「ガハハ! てめェもな!」

「ぶわっはっはっは!」

そのとき。

ガープが、カイルへ目を向けた。

「……ん?」

カイルは身体を強張らせた。

ガープは、じっと見つめる。

そして。

「……誰じゃ?」

ゲンザは胸を張った。

「俺の息子だ!」

ガープの目が見開かれた。

「……息子ォ!?」

「おう!」

「お前、いつ結婚したんじゃ!?」

ゲンザは笑った。

「してねェ!」

ガープは、しばらく黙った。

そして。

「……どういうことじゃ?」

ゲンザは、カイルの頭へ手を置いた。

「引き取ったんだよ」

ガープの表情が、少しだけ変わった。

「……そうか」

そして、しゃがみ込んだ。

カイルと目線を合わせる。

「名前は?」

カイルは、少し迷った。

目の前にいるのは、海軍中将。

あの日、故郷を滅ぼした海軍と同じ制服の男。

頭では、分かっている。

すべての海兵が、あの事件へ関わっていたわけではない。

だが。

胸の奥が、ざわついた。

「……カイル」

小さく答えた。

ガープは笑った。

「カイルか!」

そして、大きな手を差し出した。

「わしはガープじゃ!」

カイルは、差し出された手を見つめた。

一瞬だけ。

ベルナード島の光景が浮かぶ。

銃を向ける兵士。

倒れる母親。

燃える故郷。

カイルの指が、わずかに震えた。

ガープは、その様子を見ていた。

だが。

急かすことはなかった。

しばらくして。

カイルは、ゆっくり手を伸ばした。

「……よろしく」

ガープは、少しだけ笑った。

「おう!」

大きな手が、小さな手を包んだ。

その手は、驚くほど温かかった。

 

四、消された島の話

その日の昼。

ゲンザの家。

食卓には、大量の料理が並んでいた。

焼き肉。

魚。

パン。

野菜のスープ。

そして、山盛りの米。

ガープは、それを見て目を輝かせた。

「おおお!!」

「うまそうじゃのう!!」

ゲンザは胸を張った。

「ガハハ!」

「俺の息子が作ったんだ!」

ガープは、カイルを見た。

「……お前が?」

カイルは頷いた。

「……ああ」

ガープは笑った。

「ぶわっはっはっは!」

「大したもんじゃ!」

そして、料理へ手を伸ばした。

一口。

二口。

三口。

数秒後。

皿が空になった。

カイルは、目を見開いた。

「……は?」

ガープは、満足そうに笑った。

「うまい!!」

そして。

「おかわりじゃ!」

カイルは、ゆっくりゲンザを見た。

「……親父」

「何だ?」

「この人、何人前食うの?」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「俺より食うぞ!」

カイルは、天井を仰いだ。

(……食費が死ぬ)

 

食事が終わる頃。

ガープは、ようやく真面目な顔になった。

「……ゲンザ」

「ん?」

「少し、話がある」

ゲンザは、カイルを見た。

「……カイル」

「……何?」

「ちょっと外で遊んでこい」

カイルは、二人を見比べた。

(……大人の話、か)

少し迷ったが、頷いた。

「……分かった」

そして、家を出ていった。

扉が閉まる。

ガープは、静かに口を開いた。

「……ベルナード島の件じゃ」

ゲンザの表情が変わった。

「……ああ」

ガープは、拳を握った。

「調べた」

「……」

「だが、記録がほとんど残っとらん」

ゲンザは、黙っていた。

ガープは続けた。

「正式な討伐命令もない」

「……」

「海軍の作戦記録にも、妙な空白がある」

ゲンザは、静かに目を細めた。

「……消されたか」

ガープは頷いた。

「その可能性が高い」

沈黙。

暖炉の火が、ぱちぱちと鳴った。

ゲンザは、低く呟いた。

「……あの島には、ただの住民しかいなかった」

「……ああ」

「子供もいた」

ガープは、拳を握り締めた。

「……分かっとる」

ゲンザは、静かに続けた。

「俺はな、ガープ」

「……」

「昔、政府の命令が間違ってると思って、海軍を辞めた」

ガープは黙って聞いていた。

「だが、辞めたところで」

ゲンザの声が、少しだけ低くなる。

「何も変わっちゃいねェ」

ガープは、しばらく黙った。

そして。

「……わしは、まだ海軍におる」

ゲンザが顔を上げる。

「……ああ」

「だからこそ、できることもある」

ゲンザは、ガープを見つめた。

ガープは、静かに言った。

「……あの島で何が起きたのか」

そして。

「必ず、突き止める」

ゲンザは、少しだけ笑った。

「……そうか」

ガープは頷いた。

「おう」

そして。

「……お前の息子のためにもな」

ゲンザは、しばらく黙っていた。

やがて。

「……ありがとな」

短く呟いた。

ガープは、鼻を鳴らした。

「気持ち悪いこと言うな!」

ゲンザは、豪快に笑った。

「ガハハハハ!!」

 

五、海軍の正義

夕方。

カイルは、庭で木剣を振っていた。

ガープは、少し離れた場所から眺めている。

「……ほう」

カイルは、振り返った。

「……何?」

ガープは腕を組んだ。

「剣の修行か?」

「ああ」

「誰に習っとる?」

「親父」

ガープは、にやりと笑った。

「……ゲンザか」

そして。

「一つ、見せてみろ」

カイルは、少しだけ迷った。

だが、頷いた。

「……分かった」

木剣を構える。

正面。

踏み込み。

振り下ろし。

ガープは、黙って見ていた。

やがて。

「……なるほどのう」

カイルが顔を上げる。

「……どう?」

ガープは笑った。

「ぶわっはっはっは!」

「悪くない!」

カイルは、少しだけ安心した。

だが。

ガープは続けた。

「ただし!」

カイルの顔が固まる。

「……何?」

「まだまだじゃ!」

そして。

「ゲンザには、百年早いわ!」

カイルは、ゆっくり顔を覆った。

「……親父と同じこと言ってる」

ガープは大笑いした。

「ぶわっはっはっは!!」

 

その後。

ガープは、庭の大きな岩を指差した。

「……カイル」

「……ん?」

「強くなりたいんじゃろ?」

カイルは頷いた。

「ああ」

ガープは、拳を握った。

そして。

「なら、よく見とけ」

カイルの目が輝いた。

(……まさか)

ガープの拳。

後に、巨大な軍艦すら拳だけで破壊する男。

その実力を、目の前で見ることになる。

ガープは、岩へ向かって歩いた。

そして。

軽く拳を振った。

どごんっ!!

巨大な岩が、粉々に砕け散った。

カイルは、呆然とした。

「…………」

ガープは笑った。

「ぶわっはっはっは!」

「どうじゃ!」

カイルは、ゆっくり顔を上げた。

「……いや」

そして。

「あんたら、岩に恨みでもあんの!?」

ガープは腹を抱えて笑った。

「ぶわっはっはっは!!」

 

六、海軍を憎む少年

日が傾き始めた頃。

カイルは、庭の端に座っていた。

ガープが隣へ腰を下ろす。

「……よう」

カイルは、少しだけ顔を上げた。

「……何?」

ガープは、しばらく海を眺めていた。

そして。

「……海軍が嫌いか?」

カイルの身体が、わずかに強張った。

「……」

ガープは急かさなかった。

ただ、返事を待った。

カイルは、ゆっくり拳を握った。

「……嫌いだ」

ガープは頷いた。

「……そうか」

カイルは、唇を噛んだ。

「……俺の」

声が震える。

「俺の父さんと母さん、海軍に殺された」

ガープは、黙って聞いていた。

カイルは続けた。

「……島だって」

「……」

「何も悪いことしてねェのに」

涙が落ちた。

「……みんな、殺された」

ガープは、しばらく黙っていた。

そして。

「……すまん」

短く呟いた。

カイルは、顔を上げた。

「……何で、あんたが謝るんだよ」

ガープは、静かに答えた。

「わしも、海軍じゃ」

「……」

「同じ旗を背負っとる」

カイルは、黙った。

ガープは続けた。

「だが、わしはあの島で何があったのか、すべてを知っとるわけじゃない」

「……」

「知らんまま、綺麗事を言うつもりもない」

カイルは、静かに聞いていた。

ガープは、少年を見た。

「……お前が海軍を憎むのも、無理はない」

その言葉に、カイルの目が見開かれた。

「……でもな」

ガープは、少しだけ笑った。

「わしは、目の前で困っとる奴がおったら助ける」

「……」

「それだけは、変えん」

カイルは、しばらく黙っていた。

そして。

「……そうか」

小さく答えた。

ガープは、少しだけ笑った。

「おう」

二人は、しばらく海を眺めていた。

 

七、拳骨と黒刀

翌朝。

ガープが帰る前。

ゲンザは、突然こんなことを言い出した。

「……おい、ガープ」

「何じゃ?」

「久しぶりに、やるか?」

ガープの口元が、にやりと歪んだ。

「……ほう?」

カイルは、嫌な予感がした。

「……親父?」

ゲンザは、腰の刀へ手を置いた。

「軽く一勝負だ」

ガープは、拳を鳴らした。

「ぶわっはっはっは!」

「望むところじゃ!」

カイルは、慌てて叫んだ。

「ここでやるなよ!?」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「分かってる!」

ガープも笑う。

「ぶわっはっはっは!」

「山へ行くぞ!」

(……山ならいいって問題じゃねェんだけど)

カイルは、深くため息をついた。

 

山の奥。

広い岩場。

ゲンザとガープは、向かい合っていた。

カイルは、遠く離れた丘の上から見守っている。

ゲンザが刀を抜いた。

永久黒刀『天哭』。

漆黒の刃が、太陽の光を受けて鈍く輝く。

ガープは、拳を握った。

「……相変わらず、いい刀じゃのう」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「羨ましいか?」

ガープは鼻を鳴らした。

「わしには拳がある!」

「そうだったな!」

二人が笑う。

そして。

一瞬。

空気が変わった。

カイルの背筋が、ぞくりと震えた。

(……っ!?)

ゲンザの姿が、消えた。

いや。

消えたように見えた。

次の瞬間。

ガープの目の前。

漆黒の刃が、振り下ろされる。

ガープは、拳を突き出した。

ぎぃんっ!!

金属と拳がぶつかる音。

衝撃波が、周囲へ広がる。

岩が割れた。

地面が抉れた。

カイルは、必死に踏ん張った。

(……やべェ)

二人は、一瞬で距離を取った。

そして。

再び激突する。

どごんっ!!

ぎぃんっ!!

ばきぃっ!!

剣と拳。

黒鬼と拳骨。

常人には、見えない速度。

カイルは、目を見開いたまま動けなかった。

(……これが)

(……世界の頂点にいる奴らの戦い)

自分が木剣を振っていることさえ、馬鹿らしく思えるほどの差。

だが。

不思議と、絶望はしなかった。

(……いつか)

カイルは、拳を握った。

(……俺も、あそこへ行く)

 

八、勝敗

数分後。

二人の戦いは、唐突に終わった。

ゲンザが刀を納める。

ガープも拳を下ろす。

周囲の岩場は、ほとんど原形を留めていなかった。

カイルは、ゆっくり近づいた。

「……終わった?」

ゲンザは笑った。

「ガハハ!」

「おう!」

ガープも笑う。

「ぶわっはっはっは!」

カイルは、二人を見比べた。

「……どっちが勝った?」

ゲンザは、即答した。

「俺だ!」

ガープも、同時に答えた。

「わしじゃ!」

沈黙。

二人が顔を見合わせる。

そして。

「何ィ!?」

「何じゃと!?」

また言い争いが始まった。

カイルは、ゆっくり天を仰いだ。

「……もう引き分けでいいだろ」

だが、二人は聞いていない。

「俺の一撃の方が速かった!」

「わしの拳の方が重かった!」

「ガハハ!」

「ぶわっはっはっは!」

カイルは、深くため息をついた。

(……強さと精神年齢って、関係ねェんだな)

 

九、別れの拳骨

港。

ガープの軍艦が、出航の準備をしていた。

ゲンザとカイルは、見送りに来ていた。

ガープは、二人を見て笑った。

「世話になったのう!」

ゲンザも笑う。

「ガハハ!」

「今度は手紙を早めによこせ!」

ガープは鼻を鳴らした。

「面倒じゃ!」

「だったら突然来るな!」

「ぶわっはっはっは!!」

二人は、最後まで騒がしかった。

そのとき。

ガープが、カイルへ目を向けた。

「……カイル」

少年が顔を上げる。

「……何?」

ガープは、しゃがみ込んだ。

そして、拳を差し出した。

「……強くなれよ」

カイルは、少しだけ目を細めた。

「……ああ」

ガープは、笑った。

「ゲンザは強ェぞ」

「……知ってる」

「簡単には超えられん」

カイルは、歯を見せて笑った。

「……でも、超える」

その言葉に。

ガープは、少しだけ驚いた。

そして。

「……ぶわっはっはっは!!」

豪快に笑った。

「いいじゃねェか!!」

カイルは、拳を握った。

そして、ガープの拳へ軽く当てた。

こつんっ。

小さな音。

だが。

その瞬間。

カイルは、確かに思った。

(……海軍でも)

(……こういう奴は、いるんだな)

すべてを許せたわけではない。

憎しみが消えたわけでもない。

それでも。

目の前の男を、嫌いにはなれなかった。

 

終章 黒鬼の背中

軍艦が港を離れたあと。

カイルとゲンザは、山道を歩いていた。

ゲンザは、どこか楽しそうだった。

「ガハハ!」

「久しぶりに暴れたな!」

カイルは、呆れた顔をした。

「……島壊すなよ」

「壊してねェ!」

「岩場なくなってたけど」

「岩はまた生えてくる!」

「生えてこねェよ!!」

ゲンザは大笑いした。

「ガハハハハ!!」

しばらく歩いたあと。

カイルは、静かに口を開いた。

「……親父」

「何だ?」

「ガープって、強いな」

ゲンザは頷いた。

「……ああ」

その声には、はっきりとした敬意があった。

「強ェぞ」

カイルは、少しだけ考えた。

そして。

「……親父と、どっちが強い?」

ゲンザは、にやりと笑った。

「……知りてェか?」

カイルは頷いた。

「ああ」

ゲンザは、しばらく黙った。

そして。

「……どっちも強ェ」

カイルは、目を細めた。

「……答えになってねェ」

ゲンザは大笑いした。

「ガハハハハ!」

そして、カイルの頭を撫でた。

「勝ち負けだけが、強さじゃねェんだよ」

カイルは、少しだけ眉をひそめた。

「……どういう意味?」

ゲンザは、海を見た。

「……いつか分かる」

カイルは、しばらく黙っていた。

そして。

「……じゃあ」

木剣を握り直した。

「いつか、俺が二人とも倒す」

ゲンザは、目を見開いた。

数秒。

そして。

「ガハハハハハ!!」

腹を抱えて笑った。

「上等だァ!!」

その大きな笑い声が、山道へ響いた。

カイルも、少しだけ笑った。

世界は広い。

強者は、数え切れないほどいる。

だが。

その背中を追いかけることが、今は楽しかった。

失ったものは、戻らない。

それでも。

新しく得たものは、確かにあった。

カイル・D・ヴェイン。

五歳。

元海軍大将『黒鬼』の息子。

少年は、今日も剣を握る。

いつか、自分の足で大海原へ踏み出す、その日のために。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。