『撃てば済むでしょう?』
賞金首の襲撃から数日後。
ゴンたちは、シューレの能力について話していた。
「シューレってさ、やっぱり遠距離戦が得意なんだよね?」
ゴンの質問に、シューレは首を傾げた。
「遠距離戦……?」
「ほら、リボルバーとかショットガンとか、スナイパーとか」
「ああ〜」
シューレは納得したように頷く。
「まあ、そうですわね〜」
キルアが腕を組む。
「実際、あれだけの火力があるなら、わざわざ近づく必要もないしな」
「そうですわね〜。撃てば済みますもの」
あまりにもあっさりした返事だった。
クラピカが、ふと尋ねる。
「では、肉弾戦は苦手なのか?」
「いいえ?」
即答だった。
「普通にできますわよ〜」
「……普通に?」
「はい〜」
レオリオが嫌な顔をする。
「お前の『普通』って言葉、もう信用できねえんだけど……」
シューレは不思議そうに首を傾げた。
「どうしてですの?」
「今までの行動を振り返ってみろ!!」
ビスケが横から口を挟む。
「まあ、でも実際どうなのかしらね。念弾を撃つのと、直接殴るのじゃ勝手も違うでしょう?」
「そうですわね〜」
シューレは軽く拳を握った。
「では、少しだけお見せしましょうか〜」
キルアが即座に反応する。
「待て。少しだけって、どのくらいだ?」
「普通に殴る程度ですわ」
「だから、その普通が――」
言い終わる前に。
シューレは近くの岩へ歩み寄った。
人間が両腕で抱えられるほどの大きさ。
シューレはその前に立ち、拳を引く。
「では――」
軽く。
本当に軽く見える動作で。
「えい」
――ドゴォォォンッ!!
轟音。
岩が砕け散った。
粉塵が舞い上がる。
地面が震え、細かな破片が周囲へ飛び散る。
一瞬、全員の思考が止まった。
「…………」
シューレは拳を見つめる。
「ふむ」
そして、満足そうに頷いた。
「こんな感じですわ〜」
「…………」
ゴンが、砕けた岩を見る。
「……え?」
キルアが、岩だったものを見る。
「……は?」
クラピカは粉塵の向こうを見つめたまま、言葉を失っている。
レオリオは口を開けて固まっていた。
ビスケだけが、ゆっくりとシューレへ視線を戻す。
「……シューレ」
「はい?」
「今の、どのくらい力を入れたの?」
シューレは少し考えた。
「普通ですわ〜」
「…………」
「手打ちですわよ?」
「本気じゃないの!?」
レオリオの絶叫が響いた。
シューレはきょとんとしている。
「はい。あれくらい、普通に殴るときの力ですから〜」
キルアが頭を抱えた。
「……おい、クラピカ」
「何だ」
「ウボォーギンって覚えてるよな?」
「忘れるわけがない」
「アイツの本気のパンチって、あんな感じだったよな……?」
クラピカは黙った。
少ししてから、慎重に答える。
「……少なくとも、あの破壊力を見れば、比較対象として挙げるのは不自然ではない」
ビスケが眉を寄せた。
「いや、待ちなさいよ。あれが本当に普段の力なら……」
シューレは、あっけらかんと言った。
「ウボォーギンさんの本気と同じくらいですわね〜」
「…………」
沈黙。
ゴンが恐る恐る尋ねる。
「シューレ、ウボォーギンと戦ったことあるの?」
「いいえ〜。直接はありませんわ」
「じゃあ、どうして分かるの?」
「以前、あの方の攻撃を見たことがありますので」
シューレは指を折りながら説明した。
「大きな一撃を撃つより、リボルバーで撃ったほうが早いですし、ショットガンなら広く攻撃できますし、スナイパーなら遠くから狙えますでしょう?」
「……まあ、そうだな」
キルアが答える。
「ですから、わざわざ殴り合う理由がないのですわ〜」
シューレはにこりと笑った。
「撃てば済みますもの」
「…………」
キルアが天を仰いだ。
「そりゃそうだけどよ……」
クラピカが冷静さを取り戻そうと、質問を重ねる。
「つまり、君は肉弾戦を避けているのではなく、単純に射撃のほうが合理的だから使っている、と?」
「はい〜」
「では、肉弾戦を強いられた場合は?」
「普通に殴りますわ」
「その『普通』が、ウボォーギンの本気と同等なのだな?」
「はい〜」
「…………そうか」
クラピカは静かに目を閉じた。
レオリオが震える声で呟く。
「俺たち、今まで何を相手に鍛えられてたんだ……?」
ビスケは深々とため息をつく。
「……念能力の種類がどうこうって話じゃないわね、もう」
ゴンは砕けた岩を見つめていた。
そして、ぱっと顔を上げる。
「ねえ、シューレ!」
「はい?」
「今度、肉弾戦も教えてよ!」
「いいですわよ〜」
キルアがゴンの肩を掴んだ。
「待て待て待て!」
「え?」
「お前、今の見ただろ!?」
「うん!」
「うん、じゃねえ!!」
シューレは楽しそうに笑った。
「大丈夫ですわ〜。ワタクシ基準で、優しめにいたしますから」
その瞬間。
ゴンの笑顔が固まった。
キルアの顔から血の気が引いた。
クラピカは額を押さえ、レオリオはその場にしゃがみ込む。
ビスケだけが、はっきりと断言した。
「その言葉だけは、絶対に信用しちゃダメだわさ。」
「ええ〜? どうしてですの?」
シューレは本気で不思議そうだった。
彼女にとって、拳で岩を砕くのも。
ウボォーギンの本気に匹敵する力を出すのも。
そして、その力を「普通」と呼ぶのも。
特別なことではない。
だからこそ、普段は射撃で済ませている。
――そのほうが、ずっと手軽だから。
キルアは、心の底から思った。
頼むから、その『手軽』の基準をこっちに持ち込まないでくれ。