『ちょっとだけ、イヤ』
山での鍛練を終えた夕方。
ゴンは、ずっと気になっていたことを尋ねた。
「ねえ、シューレ!」
「はい〜?」
「シューレが本気でリボルバーとかショットガンとかスナイパーを撃ったら、どのくらい強いの?」
「…………」
シューレが瞬きをする。
「本気の威力、ですか〜?」
「うん!」
キルアが顔を上げた。
「……おい、ゴン」
「なに?」
「いや、気になるのは分かるけどさ……」
クラピカも興味を示した。
「確かに、これまで見たものは、いずれも彼女が出力を調整した攻撃だ。最大出力となれば、どの程度になるのか……」
「俺も気になる!」
レオリオまで乗ってきた。
ビスケは腕を組み、シューレを見つめる。
「まあ、知っておくこと自体は悪くないわね」
当のシューレは、少し困ったような顔をしていた。
「う〜ん……」
珍しく、即答しない。
「本気で撃つと、反動で痛いんですのよね〜」
「……反動?」
キルアが聞き返した。
「はい」
シューレは右手を軽く振る。
「腕や肩に負担が来ますし、両手を使うと、なおさらですわ〜」
そして、少しだけ眉を下げた。
「ですから、ちょっとだけイヤですわ」
「…………」
ゴンが首を傾げる。
「痛いんだ?」
「はい〜」
「そっか……」
ゴンは素直に頷いた。
その反応を見て、シューレは少し安心したように笑う。
「まあ、撃つ必要がないなら、普段は撃ちませんわね〜」
「でも、威力は教えてくれる?」
「ええ。説明だけなら構いませんわ〜」
全員が聞く姿勢になった。
そしてシューレは、まるで料理のレシピでも説明するかのように、最初の一つを口にした。
⸻
① リボルバー
「まず、リボルバーですわね〜」
シューレは右手を掲げる。
「念をすべて防御に回したウボォーギンさんを、三人、縦一列に並べたとします」
「…………」
ゴンは頷く。
「うん」
「その状態で本気のリボルバーを撃つと――」
シューレは指先を軽く動かした。
「三人とも、弾が当たった部分を中心に、ハジケさせることができますわ〜」
「…………」
沈黙。
ゴンがゆっくりと瞬きをした。
「……三人とも?」
「はい〜」
「ウボォーギンを?」
「はい〜」
「念を全部、防御に回してても?」
「はい〜」
キルアが口を開く。
「……ちょっと待て」
シューレは彼を見る。
「はい?」
「ウボォーギンって、あのウボォーギンだよな?」
「おそらく、キルアさんが知っている方ですわ〜」
「他に何人もいてたまるか!」
レオリオが叫んだ。
「一人でも十分おかしいだろうが!!」
シューレは首を傾げる。
「そうですか〜?」
クラピカは額に手を当てた。
「……あの男の防御力を考慮した上で、それなのか」
「はい〜」
「…………」
クラピカは、それ以上の質問を一度飲み込んだ。
⸻
② ショットガン
「では、ショットガンは?」
ビスケが尋ねる。
シューレは左手を掲げた。
「こちらは、ウボォーギンさんを五人横一列、三列に並べます」
「……十五人?」
ゴンが確認する。
「はい。五人横列を、三列ですわ〜」
「全員、念を防御に回しているんだよね?」
「もちろんですわ〜」
シューレはにこやかに答えた。
「その十五人全員を、仕留められますわ」
「…………」
今度は、誰もすぐに反応できなかった。
五人横列。
それが三列。
十五人のウボォーギン。
全員が念を防御に集中させている。
その全員を、一発で仕留める。
ゴンが小さく呟く。
「……すごい」
キルアがゴンの肩を掴んだ。
「すごい、じゃねえんだよ」
「え?」
「お前、今の話を本当に理解してるか?」
「うん。ショットガンは広い範囲を攻撃できるんだね!」
「そういう話ではあるけど、そういう話じゃねえ!!」
ビスケがこめかみを押さえる。
「十五人のウボォーギンを、まとめて……ねえ」
シューレは頷いた。
「はい〜。ですから、複数の相手にはショットガンのほうが向いていますわね」
「……使い分けの説明が、あまりにも物騒なのよ」
ビスケの言葉に、シューレは不思議そうな顔をした。
⸻
③ スナイパー
最後に、クラピカが尋ねた。
「では、スナイパーはどうなる?」
シューレは両手を揃えた。
「スナイパーは、少し性質が違いますわね〜」
「というと?」
「念をすべて、念弾が当たる部分の防御に回したウボォーギンさんを、十人、縦一列に並べます」
レオリオが、思わず指を折った。
「十人……」
「はい〜」
シューレは続ける。
「その十人全員を、貫通させることができますわ」
「…………」
今度こそ、完全に沈黙した。
リボルバーは三人をハジケさせる。
ショットガンは十五人を仕留める。
そしてスナイパーは、十人を縦に貫通する。
しかも全員、念による防御を最大限に集中させたウボォーギン。
キルアが、ゆっくりとシューレを振り返った。
「……なあ」
「はい〜?」
「お前、普段の訓練で撃ってるやつは?」
「威力をかなり落としていますわ〜」
「……どのくらい?」
「本気とは比べものになりませんわね」
「…………」
キルアは両手で顔を覆った。
「そりゃそうだろうな……」
ゴンは、まだ真剣に考え込んでいた。
「ねえ、シューレ」
「はい?」
「それって、全部本当にできるの?」
シューレは少しだけ首を傾げた。
「できますわよ〜」
あまりにも自然な返事。
誇張も、自慢も、気負いもない。
ただの事実確認に対する返答だった。
「ただし」
シューレは右肩を軽く回した。
「反動が痛いので、あまり撃ちたくありませんわ〜」
「…………」
レオリオが、とうとう叫んだ。
「理由そこなのかよ!!」
「はい?」
「いや、もっとこう……! 威力が大きすぎるとか、危険すぎるとか、そういう理由があるだろうが!!」
シューレは少し考えた。
「もちろん、周囲への被害が大きくなりますから、撃つ場所は選びますわ〜」
「それはそうだが!!」
「でも、ワタクシ自身の理由としては、反動が痛いので」
「そこに戻るな!!」
ゴンは、ふと何かに気づいたように顔を上げた。
「じゃあ、普段の鍛練で撃ってくるショットガンって、僕たちが避けられるように、すごく弱くしてくれてるんだね!」
「はい〜」
「そっか! ありがとう、シューレ!」
「どういたしましてですわ〜」
キルアがゴンを見る。
「……お前、感謝するところなのか?」
「だって、本気で撃たれたら大変でしょ?」
「本気じゃなくても、撃たれるのは大変なんだよ!!」
クラピカは深く息を吐いた。
「……少なくとも、彼女が本気の射撃を使わずに済む状況を維持することが、我々にとっても周囲にとっても最善なのだろう」
ビスケが頷く。
「同感だわさ」
レオリオは遠い目をした。
「俺、今までこいつの射撃を避ける訓練してたんだよな……?」
「はい〜」
「……本気の威力を知ったあとだと、なんか別の意味で怖くなってきたぞ……」
シューレは、そんな一同を眺めて微笑んだ。
「大丈夫ですわ〜」
「普段は、あんな威力で撃ちませんから」
「…………」
全員が、ほぼ同時に思った。
『普段は』という言葉を、これほど信用したくない相手も珍しい。
そしてゴンは、最後にもう一つだけ尋ねた。
「シューレ、スナイパーって撃つとき、両腕とも痛くなるの?」
「ええ。結構きますわね〜」
「そっかぁ……」
ゴンは少し心配そうな顔をした。
「じゃあ、無理して撃たないでね!」
シューレは一瞬きょとんとしたあと、ふわりと笑った。
「ありがとうございますわ〜」
キルアが小声で呟く。
「……ゴンって、ほんとそういうとこだよな」
クラピカも小さく頷いた。
そしてビスケは、シューレの肩を見ながら思う。
――この子が本気の射撃を使う日は、反動を気にしている場合ではないほどの事態なのだろう。
そう考えると、少しだけ背筋が寒くなった。
シューレ本人は、もうすっかり別のことを考えていた。
「……今日は肩を揉んでいただこうかしら〜」
「本気で撃ってもいないのに、もう反動の心配してんのかよ!!」
レオリオのツッコミが、山に響き渡った。