ある日。
ゴン、キルア、クラピカの三人がシューレのところに集まっていた。
シューレは三人を眺めながら、しばらく黙っていた。
「…………」
ゴンが首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ」
シューレは腕を組む。
「なんとなく」
「なんとなく?」
「はい」
少し考えてから、シューレは言った。
「アナタ方を、鍛えてさしあげようかしら、と」
三人が固まった。
キルアが眉をひそめる。
「……急に?」
「気が向きましたわ」
「理由それだけ?」
「ええ」
クラピカは嫌な予感がした。
以前、自分がシューレに修行を頼んだときのことを思い出す。
――『今のアナタに教えても、あんまり面白くないですわ』
そう言われた。
そして、その直後。
ほとんど力を入れていないように見える一撃で吹き飛ばされた。
クラピカは慎重に尋ねる。
「……どの程度の訓練をするつもりだ?」
シューレは少し考えた。
「んー……」
そして、にっこり笑う。
「アタクシ基準で、優しめ」
三人の顔から血の気が引いた。
⸻
翌日。
シューレの「優しめの特訓」が始まった。
最初の内容は単純だった。
山道を走る。
ただし、シューレが普通に歩く速度についていく。
「よーい、スタート」
シューレが歩き出す。
三人も走る。
最初の十分。
ゴンはまだ余裕。
キルアも余裕。
クラピカもついていける。
三十分。
ゴン「ハァ……ハァ……!」
キルア「ちょっと待て……!」
クラピカ「……これは……歩いている速度なのか……?」
シューレは振り返った。
「何をだらだらモタモタしているんですの?」
三人。
「「「…………」」」
シューレは本当に不思議そうだった。
⸻
一週間後。
三人は「基礎体力がついた」と思っていた。
シューレは次の段階へ進んだ。
「では、今日は避ける練習を」
「何を?」
ゴンが聞く。
シューレは右手を上げた。
「アタクシの攻撃ですわ」
「…………」
キルアが即座に叫ぶ。
「待て!!」
シューレの指先から、小さな放出弾が飛んだ。
ドンッ!
三人が散開する。
「今の、小さいやつですわ」
「小さいって何!?」
「本当に小さいんですの」
シューレは淡々と続ける。
「当たっても死なない程度にしてありますから、頑張ってくださいませ?」
クラピカが叫ぶ。
「当たっても!?」
「ええ」
「それを訓練として撃つのか!?」
「はい」
シューレは少し考えた。
「……あ、安心してください。今日は右手だけですわ」
キルアの顔が引きつった。
「『だけ』って何だよ……」
⸻
一ヶ月。
三人は明らかに強くなっていた。
身体能力。
反応速度。
オーラ操作。
戦闘時の判断力。
そして何より、シューレの攻撃を避ける能力。
ゴンは真正面から攻撃を受け止めるだけでなく、攻撃の軌道を見切れるようになった。
キルアはシューレの視線や肩の動きから次の攻撃を予測するようになった。
クラピカは冷静に距離を取り、状況を組み立てるようになった。
シューレは満足そうに頷く。
「おー。だいぶマシになりましたわね?」
ゴンが嬉しそうに笑う。
「本当!?」
「はい」
キルアも少し得意げになる。
「俺たち、結構強くなっただろ?」
「ですわね」
クラピカも尋ねる。
「では、そろそろ次の段階か?」
シューレは答えた。
「もちろん」
三人が身構える。
「じゃあ、明日から左手もちょくちょく増やしますわ」
「「「…………」」」
⸻
三ヶ月。
シューレは三人を褒めることが増えてきた。
「ゴン、今のいいですわね」
「ほんと!?」
「前よりずっと速いですわ」
「やった!」
「キルアも、判断がよくなりましたわ」
「……へへ」
「クラピカ、アナタは考えすぎるところがありますが、そこを戦闘に使えるようになってきましたわね」
「……!」
クラピカは少し嬉しそうにする。
ただし、その直後。
シューレが、
「では、今日はちょっと強く致しますわ」
と言う。
三人は一斉に嫌な顔をした。
「褒めた意味ある!?」
「ありますわよ」
「どこに!?」
「アタクシが褒めるくらい上達したってことですわ」
「そういう問題じゃねぇ!」
シューレは笑っていた。
⸻
五ヶ月目。
三人は、もう最初とは別人だった。
ゴンは自分より遥かに強い相手に対しても怯まず、攻撃の中に入っていけるようになった。
キルアはシューレの攻撃を何度も紙一重でかわす。
クラピカは三人の中で最も戦術的に動き、シューレの行動を先読みするところまで来ていた。
ある日。
三人はついに、シューレを相手にして数秒間、一方的に逃げ続けることに成功した。
シューレは立ち止まった。
「…………」
三人も止まる。
シューレが言う。
「すごいですわね」
ゴンが笑う。
「やった!」
キルアも息を切らしながら笑う。
「やっとか……!」
クラピカも静かに息を吐く。
「……長かった」
シューレは三人を見る。
そして、
「では、そろそろ普通にやってもよろしいでしょうか?」
三人の笑顔が消えた。
「「「……え?」」」
「今まで結構気を遣っておりましたから」
キルアが固まる。
「……結構?」
「ええ」
「どれくらい?」
シューレは少し考えた。
「んー……」
「……」
「自分基準で、かなり優しめ」
三人は沈黙した。
クラピカが震える声で言う。
「……半年間、我々は……」
シューレが頷く。
「ですわ」
「『優しめ』の訓練を?」
「はい」
ゴンが目を輝かせた。
「じゃあ、本気のシューレの特訓って、もっとすごいの!?」
シューレは少し笑った。
「そうですわ」
キルアが即答する。
「俺、今のままでいい」
クラピカも頷いた。
「私も同意する」
ゴンだけが、
「えー!」
と残念そうな声を上げた。
シューレは三人を見て笑った。
「まあ、いいですわ」
「?」
「半年間よく頑張ってくれましたし」
そして、シューレは三人の頭を軽く撫でた。
「卒業」
三人は顔を見合わせる。
ゴンが笑う。
「ありがとう、シューレ!」
キルアも少し照れながら、
「……まあ、感謝はしてる」
クラピカは静かに頭を下げた。
「ありがとう。君に鍛えてもらったことは、決して忘れない」
シューレは、
「忘れてもらっては困りますわね?」
とだけ答えた。
それから少し考えて、
「じゃ、明日から普通に遊びましょうか」
三人は一斉に頷いた。
――その翌日。
シューレが何気なく言った。
「そうだ。遊びついでに、ちょっとだけ模擬戦などどうでしょう?」
三人。
「「「しない!!」」」
シューレは笑った。
「残念ですわー」