その日は、ゴン、キルア、クラピカ、ビスケ、そしてシューレの五人で行動していた。
特に目的があるわけでもなく、適当に山道を歩いていた。
ゴンが先頭で歩き、キルアとクラピカがその後ろ。
ビスケはシューレと並んで歩いている。
「ねぇ、シューレ」
「はぁい?」
「今日は何するの?」
ゴンが振り返る。
シューレは少し考えた。
「んー……」
そして、何かを思いついたように顔を上げる。
「あ」
「?」
「そうですわ」
シューレは立ち止まった。
全員が振り返る。
シューレはいつもの調子で、にこっと笑った。
「今度は追いかけっこしましょう」
ゴンの顔が明るくなる。
「追いかけっこ?」
「はい」
キルアも少し興味を持つ。
「普通の?」
「ですわ」
クラピカが嫌な顔をする。
「……シューレ」
「はい?」
「その『普通』という言葉は、以前にも聞いた気がするのだが」
「あー」
シューレは笑った。
「そういえばそうですわね」
ビスケが嫌な予感を覚える。
「……で?」
シューレは一歩前に出た。
そして、妙に丁寧な口調で言った。
「では、今度は――」
一同を見る。
「アタクシ基準で普通の運動をする程度に、捕まえにかかりますので。」
一拍。
「1時間逃げていただきますわ。」
「「「「え゛っ!?」」」」
ゴン、キルア、クラピカ、ビスケの声が綺麗に重なった。
シューレは首を傾げる。
「?」
キルアが即座に食いつく。
「待て待て待て!」
「はい?」
「『普通の運動』って何だよ!?」
「普通に走るだけですわよ?」
「前回の『優しめ』がアレだったんだぞ!?」
「あれは訓練でしたもの」
「じゃあ今回は!?」
「運動、ですわ」
「余計怖ぇよ!!」
ビスケもシューレの肩を掴む。
「ちょっと待ちなさい!」
「はい」
「アンタの『普通』って、どのくらい!?」
シューレは少し考える。
「んー……」
そして、
「全力疾走を一時間程度でしょうか?」
「それは普通じゃないッ!!」
ビスケが即座に叫んだ。
シューレは首を傾げる。
「・・・?」
クラピカが真顔になる。
「シューレ」
「はい」
「君にとって『普通』とは何だ?」
「日常生活?」
「…………」
クラピカは黙った。
キルアが小声で言う。
「ダメだ。こいつの基準に付き合っちゃいけない」
ゴンは逆に目を輝かせている。
「でも面白そう!」
「ゴン!?」
「だってシューレから一時間逃げ切れたら、すごくない?」
シューレが頷く。
「結構すごいですわね」
「じゃあやる!」
キルアが頭を抱える。
「お前なぁ……」
ビスケもため息をついた。
「……仕方ないわねぇ」
クラピカは諦めたように言う。
「では、ルールを確認しよう」
シューレが説明する。
「範囲はこの山一帯ですわ」
「広すぎる!」
「逃げる側はあなた方四人」
「アタシもなの!?」
ビスケが驚く。
「ええ」
「アタシも!?」
「もちろんですわ?」
「……」
ビスケはシューレを睨む。
「アンタ、本当にアタシのこと何歳だと思ってるの?」
「ビスケ」
「何?」
「逃げるの得意そう」
「そういう問題じゃないのよ!」
ゴンが笑う。
「じゃあ、スタート!」
「待てゴン!」
しかし、もう遅い。
四人が一斉に走り出した。
シューレはその場に立ったまま、時計を見る。
「……」
五秒。
十秒。
シューレがゆっくり走り出す。
「では、行きますか」
――ズンッ。
地面が僅かに震えた。
「「「「うわぁぁぁぁ!!」」」」
遠くから四人の悲鳴が聞こえる。
シューレは普通に走っている。
本人にとっては、本当に普通だった。
一方。
ゴン。
「速い!!」
キルア。
「来るの早すぎるだろ!!」
クラピカ。
「まだ開始して一分も経っていないぞ!?」
ビスケ。
「だから言ったでしょうがぁぁぁ!!」
四人が山を駆け下りる。
その後ろから、
ドドドドドドドド……
と地響きのような足音が近づいてくる。
ゴンが振り返る。
「シューレ、笑ってる!」
キルアも振り返る。
「なんで楽しそうなんだよ!?」
シューレは遠くから叫ぶ。
「お待ちになってー!」
「待つわけないでしょ!!」
ビスケが叫び返す。
シューレはさらに速度を上げる。
「では追いつきますわー!」
「それが怖いのよ!!」
そして、その日。
四人は、
「シューレ基準の普通の運動」
という言葉の恐ろしさを、身をもって理解することになった。
ちなみに一時間後。
シューレは汗をほとんどかいていなかった。
四人は全員、地面に倒れていた。
シューレは四人を見下ろして、
「楽しかったですわね」
と言った。
ビスケが地面に突っ伏したまま答える。
「……アンタだけでしょうが……」
シューレは満足そうに頷いた。
「はぁい!」
「認めるな!!」