『一年かけて、ゆっくりめに』
ゴン、キルア、クラピカ、ビスケ、シューレが一緒に行動していたある日。
少し離れたところから、聞き慣れた声がした。
「おーい! お前らー!」
ゴンが振り返る。
「あっ、レオリオ!」
「よう!」
レオリオが駆け寄ってくる。
久しぶりに顔を合わせた一行だったが、レオリオはすぐに違和感に気づいた。
「……ん?」
ゴンを見る。
次にキルア。
そしてクラピカ。
「お前ら……」
三人を順番に見ながら、レオリオの顔が変わっていく。
「なんか……前より明らかに強くなってねぇか?」
ゴンが嬉しそうに笑う。
「分かる?」
「分かるも何も!」
レオリオはゴンの肩を掴む。
「身体つきも違うし、立ち方も違うぞ! 特にキルア、お前なんか前より隙がねぇじゃねぇか!」
キルアが微妙な顔をする。
「まあ……色々あってな」
レオリオが三人を見る。
「まさか……誰かに鍛えてもらったのか?」
ゴンがシューレを指差す。
「うん! シューレに!」
「……」
レオリオの目が輝いた。
シューレを見る。
「アンタか!」
「えぇ」
「頼む!」
シューレの前に立つ。
「俺にもその鍛錬をつけてくれ!」
キルアの顔が引きつった。
「…………」
そして、小声で、
「やめとけ」
レオリオは聞いていない。
「俺ももっと強くなりてぇんだ! ゴンたちにここまで差をつけられたままじゃ、医者を目指すにしても――」
「レオリオ」
キルアが肩を掴む。
「マジでやめといた方がいい」
「なんでだよ?」
「お前、シューレの『優しめ』を知らないだろ」
「優しめ?」
シューレが頷く。
「はい。三人には結構優しくしましたわ」
キルアの笑顔がさらに引きつる。
「……あれが?」
クラピカも遠い目をする。
「『優しめ』だったな……」
ゴンも笑顔で頷く。
「うん!」
ビスケは何も言わず、そっと目を逸らした。
レオリオは全員の反応を見て、一瞬だけ考える。
そして、
「……つまり、かなり厳しいってことだな!」
「違う!」
キルアが叫ぶ。
「そういう意味じゃねぇ!!」
しかし、レオリオはすでにシューレの前に立っていた。
「頼む! 俺にも鍛錬をつけてくれ!」
シューレはレオリオをじっと見る。
「…………」
少し歩き回りながら、レオリオを観察する。
腕。
脚。
姿勢。
オーラ。
そして、しばらく考えたあと。
「ふむ」
レオリオが期待の眼差しを向ける。
シューレはにこやかに言った。
「では、一年かけてゆっくりめに、という判断をさせていただきますわ〜」
「一年!?」
「はい」
レオリオが少し驚く。
しかし、キルアは別のところに反応していた。
「……『ゆっくりめ』?」
シューレは続ける。
「どちらかと言うと、貴方は回復系や援護系のようにお見受けしますわ」
「回復系や援護系?」
レオリオが聞き返す。
「はい」
シューレは頷く。
「前に出て殴り合うより、仲間を支えたり、傷を治したり、状況に応じて援護するほうが向いているように感じますわ」
レオリオは腕を組んだ。
「なるほど……」
そして、
「だったらなおさら鍛えてくれ!」
「…………」
キルアが頭を抱える。
「聞けよ……」
レオリオは気づかない。
「俺だって仲間を守れるくらい強くなりてぇんだ!」
ゴンが嬉しそうに笑う。
「レオリオも一緒に修行するんだ!」
「おう!」
キルアがゴンの肩を掴む。
「お前も喜ぶな!」
「なんで?」
「一年だぞ!?」
クラピカも苦笑する。
「まあ……シューレが『ゆっくりめ』と言っているのなら、今回は以前よりは――」
シューレが口を挟む。
「そうですわね」
「ほら」
キルアが少し安心する。
「今回は――」
「一年間、毎日少しずつ負荷を上げていく予定ですわ」
キルアの顔が固まる。
「…………」
ビスケが小さく呟く。
「それ、『ゆっくり』って言わないんじゃない?」
シューレは首を傾げる。
「そうですか?」
レオリオは拳を握った。
「よし!」
「……」
キルアはレオリオを見る。
そして、何とも言えない引き攣った笑顔になった。
「……まあ……頑張れよ、レオリオ」
「おう!」
「俺、ちゃんと止めたからな」
「何をだ?」
「…………」
キルアは遠くを見る。
「もういい」
その横でシューレが楽しそうに言う。
「では、明日から始めましょうか」
レオリオ。
「おう!」
ゴン。
「楽しみだね!」
クラピカ。
「よろしく頼む」
ビスケ。
「……私は見学だけにしておこうかしら」
キルア。
「それが正解だよ」
シューレは笑った。
「大丈夫ですわ〜。レオリオさんには、アタクシ基準でゆっくりめにしておきますから」
キルアはその言葉を聞いて、もう何も言わなかった。
――そして翌日から。
レオリオの一年間の「ゆっくりめ」の鍛錬が始まった。