『ちょっと厳し目』
ある日のこと。
シューレは、ふと思った。
「…………」
ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ。
そしてビスケ。
全員の顔を眺める。
「皆さん、最近かなり強くなりましたわね〜」
ゴンが嬉しそうに笑う。
「うん!」
キルアも頷く。
「まあ、昔よりはな」
クラピカは腕を組む。
「シューレの鍛練を受けていれば、それなりにはな」
レオリオは苦笑する。
「それなりどころじゃねえだろ……」
ビスケも頷く。
「確かに、みんなかなり仕上がってるわね」
シューレは満足そうに頷いた。
そして。
「では――」
一同を見る。
「もう一年ほど、鍛練いたしましょうか〜」
「…………」
全員が固まった。
「……一年?」
キルアが聞き返す。
「はい」
「また?」
「はい〜」
レオリオが頭を抱える。
「俺、もう十分鍛えたと思うんだけど……」
シューレは少し考える。
「では、今回は――」
ニコッ。
「ワタクシ基準で、『ちょっと厳し目』にいたしましょう」
「…………」
ビスケの眉がピクリと動いた。
「ちょっと……?」
シューレは頷く。
「ええ」
そして翌朝。
まだ日の出前。
一行は眠っていた。
ゴンはぐっすり。
キルアも布団にくるまっている。
クラピカも熟睡。
レオリオに至っては、
「……あと五分……」
と寝言を言っている。
ビスケも静かに眠っていた。
そこへ。
シューレがやって来る。
「…………」
全員を見渡す。
そして。
「ほら、やりますわよ!」
一行、
「…………」
起きない。
シューレは少し声を大きくする。
「起きなさい!」
「…………」
まだ起きない。
シューレはにっこり笑った。
「ほぉ〜ら――」
右手を構える。
「ショットガン!」
「「「「「うわぁあああああ!!」」」」」
――バンッ!!
一同、文字通り飛び起きた。
ゴンは布団を蹴飛ばし、
キルアは転がり、
クラピカは即座に戦闘態勢。
レオリオはベッドから落ち、
ビスケは髪を振り乱しながら叫ぶ。
「ちょっとシューレ!!」
シューレは満面の笑み。
「おはようございますわ〜」
「おはようじゃないわよ!!」
ビスケが怒鳴る。
キルアも叫ぶ。
「朝っぱらからショットガン撃つな!!」
シューレは首を傾げる。
「ですが、皆さん起きましたわ」
「起こし方の問題だ!!」
レオリオも床から起き上がる。
「心臓止まるかと思ったぞ!!」
シューレは満足そうに頷く。
「素晴らしい反応ですわ〜」
「褒めてる場合か!」
そしてシューレは時計を見る。
「では、準備運動として――」
一同の顔が引きつる。
「山を走りましょうか〜」
「どのくらい?」
ゴンが尋ねる。
シューレは普通に答えた。
「ワタクシの歩く速度で、二時間ほど」
「…………」
キルアが遠い目をする。
「それ……走るって言うんじゃなくて、シューレについていくって言うんだよな」
「はい〜」
「認めるのかよ!」
シューレは楽しそうに続ける。
「その後は基礎鍛練」
「それから実戦形式」
「最後にワタクシから逃げていただきます」
レオリオが震える。
「……最後のやつ、前にもやったよな?」
「今回はちょっと厳し目なので、二時間ですわ〜」
「前より長ぇ!!」
ビスケが頭を抱える。
「ねぇシューレ」
「はい?」
「アンタの言う『ちょっと』って、何を基準にしてるの?」
シューレは少し考える。
「ワタクシですわ」
「やっぱりそうよね!!」
ゴンはなぜか楽しそうだった。
「一年間かぁ……!」
キルアが横から言う。
「ゴン、お前ちょっと楽しんでない?」
「うん!」
「……マジかよ」
クラピカもため息をつく。
「しかし、ここまで来た以上、付き合うしかあるまい」
レオリオは空を仰ぐ。
「また一年か……」
ビスケがポン、とレオリオの肩を叩く。
「大丈夫よ」
「……本当か?」
「魔法美容師があるもの」
「それだけが頼りだ……」
シューレは全員を見渡す。
そして。
「では、行きますわよ〜!」
「「「「「おー……」」」」」
一同、力なく拳を上げる。
シューレは笑顔で先頭に立った。
「今日は『ちょっと厳し目』ですからね〜」
キルアが小声で呟く。
「……絶対、ちょっとじゃない」
ビスケも小声で返す。
「アタシもそう思うわ」
そして二人は、ほぼ同時にシューレを見る。
シューレは楽しそうに歩いている。
その歩幅は――
すでに一行の全力疾走に近かった。
「「……やっぱりな」」
こうして。
シューレ基準の、
「ちょっと厳し目な一年間」
が始まったのであった。