死んだ世界戦線への入隊を決め、他のメンバーとの自己紹介を終えた僕は戦線のリーダーであるゆりと学園の屋上にいた。
「わざわざ僕だけを呼びだしたのは、何故だ?」
同じく新参者である音無は校長室での待機を命じられていた。何かしらの意図があるのだと思う。しかし、質問した僕を無視してゆりは柵に体を預け、眼下に広がるグラウンドを眺め始めた。僕も隣に並び、グラウンドを見つめる。
夕日に輝くグラウンドでは、部活動に勤しむ何人もの生徒達の姿が見えた。
「…一つ確認したいんだけど、記憶喪失というのは本当なの?」
「ああ、間違いない。名前以外は何も思い出せないんだ」
「そう…」
ようやく口を開いたかと思えば、それだけの問答でまた黙り込んでしまった。
どうにも、彼女は初めて会った時から随分と思わせぶりな態度が多い気がする。校長室での件やここに僕だけを呼びつけた事など。
「随分と僕の事を気にするんだな?」
「…何が言いたいの?」
彼女は僕に顔だけを向け、心外だとばかりに睨みつける。無理矢理作ったような表情にも見えなくもないが、詳しくは読み取れない。
「君はやはり僕の事を知ってるんじゃないのか?生前に会ったことがあるとか?」
「ッ!…あなたの生前なんて私は全く知らないわ。ただ…そう、記憶喪失の人間がまとめて迷い込んできたから気になっただけよ」
「記憶喪失はよくある事と言っていた筈だけど」
「2人同時になんて事は流石に今までは無かったわよ!」
どうやら、珍しくはないけれど頻繁には起こらない事らしい。ゆりの態度はまだ気になるけれど、これ以上は聞き出せない気がする。僕は早々に話を切り上げる事にした。
「本当に大きい学園なんだなここは。生徒もかなり多いみたいだし」
「ほとんどが人間じゃないけどね。人の形をしているけれど、無個性な人形みたいなものよ。私達はNPCと呼んでる」
「NPC?」
「ノンプレイヤーキャラクターの略よ。ゲームやらないの?」
「…ゲーム?」
「え、そこから?」
聞き慣れない単語に首を傾げる僕と頭を押さえるゆり。彼女は堂々とため息を吐くと、簡単にNPCやゲームについて説明してくれた。省略するとかがくのちからって、スゲー!らしい。正直、よくわからない。
「もしかして結構古い人?」
「…かもしれない」
僕の記憶の謎は深まるばかりだった。
「…あなたにはこの世界はどう見えているの?」
「そんなことを聞いてどうする?」
「聞いてるのはこっちよ!良いから答えなさいよ」
また突拍子も無い事を聞いてきたなと思うと同時に、改めて考えてみる。
死んでもまた生き返るという有り得ない世界。
その世界で暴れまわっているという死んだ世界戦線。
そんな非日常の中で、毎日同じ生活を繰り返すNPCと呼ばれる一般生徒。
あまりにも不可思議で、荒唐無稽な世界が僕には…
「灰色に見える。色を失った様に全てが同じに見える…かな」
可笑しな話だ。普通ならもっと困惑してもおかしくない状況のはずなのに、僕はこの状況を簡単に受け入れていた。記憶喪失だった為に、生前の前提が無かったからというのも大きいのだろうが、それ以上に深く考える事を頭が拒絶していた。全てを受け入れるかの様に。疲れ切っているかの様に。
「ごめん、今のは忘れてくれ…どうしたゆり?」
返事の無い彼女は気づけばこちらを驚いた顔をしながら見つめていた。変な事は言ったかもしれないけど、その反応はおかしいような…
「へっ?あ、いやなんでも無いのよ!気にしないで!それじゃ、私は先に戻るから!」
「え?」
「そろそろミーティングするからあなたも早く戻ってきてね!」
それだけ言って、ゆりは足早に屋上から去っていった。
「そんなに変な事言ったかな」
僕の独り言は風に溶けていった。
エタッてる間もロスカラ2は出ませんでした…