「…ガードスキル、ハンドソニック」
「嘘だろ…」
天使が喋ると同時に彼女の腕が鋭利な刃に変わる。戦線がこれだけ警戒する理由がようやく分かった。音無が刺されたと言っていたのも恐らくあれだろう。あの刃を見た瞬間に音無の銃の震えが更に大きくなる。そして、
「うわああああ!!」
恐怖の限界が来たのだろう。音無が叫び声を上げながら何発も天使に向かって銃を撃つ。しかし、彼女へ撃たれた銃弾は彼女が振るった刃に全て弾かれてしまった。
「なっ、そんなのありかよ!」
「音無!一度てった…なんだ!?」
言い切る前に僕等の背後から何かが天使の元へと飛んでいき、またあの刃で弾かれてしまう。
「ちっ!外したか!」
「待たせたな!」
後ろから現れたのは野田に日向、そして次々と戦線メンバーが集まってくる。野田が投げていたという事はさっきのはあのでかい斧か。相当の重量だろうに、あんなに勢い良く投げたのか?とんでもないな。
「一番よえーとこ狙われたんじゃねーか!?」
「まだハンドソニックだけだよ!」
「後退しながら多重攻撃!」
「了解」
流石天使と闘い慣れているだけあって対応が迅速だ。すぐさま銃弾の波状攻撃を天使に浴びせる。しかし…
「ガードスキル、ディストーション」
天使へ撃たれた弾は全て届かず、何かにぶつかった様に目の前であらぬ方向へと弾かれてしまう。ゆっくりと、しかし確実に天使はこちらへと歩みを進めていく。
「これだから銃は!」
「なんなんだよあいつは…!?」
「ふんっ!」
横から現れた椎名がクナイを投げると天使は歩みを止め、ガードソニックで弾き返した。クナイはあの壁で止められ無いようだ。一度は止まるが、またすぐに進行を再開する天使。刻一刻と天使との距離が詰まっていく中、講堂の方から大量に白い何かが降ってくる。
「なんだ?紙?」
思わず手に取り、それを改めて見てみるとそこには
日替わり定食 350円
「それで良いのか?ほら行くぞ!」
「うお!?」
それが食券なのだと理解すると同時に日向に勢い良く後ろに引っ張られ、僕も日向の後に続く。音無も同じ様に引っ張られている。作戦はこれにて完了という事なのだろう。他のメンバーも一人残らず、校舎へと走っているのが見えた。天使が気になり、後ろを振り向けば相変わらずの無表情だが、戦意は既にないようだ。その場から動かず、こちらをただただ見ていた。一人その場に残り続けるその姿は少し寂しそうにも見えた。
食堂にて、メンバー全員が揃っての食事を終え、僕は寮監の教師に教えてもらった自分の部屋へと向かっていた。教師も当然NPCであり、部屋の場所を尋ねれば
「自分の部屋を忘れるなんて、天然さんだねぇ」
と笑われてしまった。今日、この世界に流れ着いた僕がまるで以前からここの住人だった様に扱われるのは違和感しかない。ともあれ聞いていた部屋番号をようやく見つけ、部屋に入る。
「遅かったですね。ずっと待っていたんですよ?」
僕を出迎えてくれたのはこの世界の標準的な学生服を着た男子生徒。黒髪を適度に伸ばし、細身な体型、その姿は模範的な学生と言っていいだろう。彼はこの部屋に二つ置かれている内の手前側の質素なベッドに腰掛け、こちらに顔を向けている。どうやらNPCと相部屋らしい。
「ああ、待たせてすまない。えっと…」
「石田です。僕の名前忘れちゃいましたか?」
「…そうだったね。ごめんごめん」
そもそも初対面なのだから名前などわかるはずが無いのだが、そういう世界なのだと割り切り、それらしく返事をする。以前から仲が良かったかのように。
「…ちょっと今日は疲れてるからシャワーを浴びたらすぐに寝ようかな」
「そうですか。それなら僕も早めに寝るとしましょう」
NPC相手に仲良くする必要もないだろう。それよりもさっさと体を休めたかった。この世界に流れ着き、初めての作戦参加に天使との戦闘。思ったより気疲れしていたのかもしれない。布団に入ればすぐに眠ってしまっていた。