BLEACH世界に転生した俺は初代剣八になるらしい 真世界編 作:まいちー
卯ノ花が消えた防壁を、織姫はいつまでも見つめていた。
壁の向こうでは、今も戦いが続いている。時折響く轟音に足元の土が震え、そのたびに織姫は肩を揺らした。
「……井上サン」
浦原に呼ばれ、ようやく振り返る。
「少し、場所を変えましょうか。ここは落ち着いて話せるところじゃありませんから」
織姫は頷こうとして、途中で動きを止めた。
「浦原さんは……知ってたんですか?」
「何を、です?」
「卯ノ花隊長が、あんなことを言うって」
浦原はすぐには答えなかった。帽子のつばの下で、目が細められる。
「卯ノ花サンに頼んだのは、アタシです」
「それは、聞きました。でも……」
「どんな条件を出すかまでは、聞いていませんでしたよ」
織姫は俯いた。浦原の言葉を疑いたいわけではない。それでも、胸の中に残ったものをどうしていいのか分からなかった。
「……千人ですよ」
「ええ」
「千人の人の首を、持ってこいって……。何も悪いことをしてない人たちの……」
声に出すと、あの要求がいっそう恐ろしいものに思えた。戦場で見た卯ノ花の刀は、虚を次々と斬り伏せていた。その姿は確かに強く、浦原が彼女を頼った理由も分かる。けれど、あの穏やかな笑顔のまま告げられた言葉だけは、どうしても受け入れられない。
「浦原さん。私、黒崎くんを助けたいんです」
「知ってます」
「でも、そのために、知らない人を傷つけなきゃいけないんですか?」
浦原は答えず、少し離れた防壁を見た。
「……アタシから、卯ノ花サンの考えを説明することはできません。ただ、一つだけ言えるのは、あの人は冗談であんなことを言う人じゃないってことです」
「……はい」
「だからこそ、井上サンがどうするかは、井上サン自身で決めなきゃいけない」
織姫は唇を結んだ。
答えなら、もう出ているはずだった。罪のない人を傷つけることなど、できない。それなのに、卯ノ花の前では「考えてみます」と言ってしまった。
あの場で断れば、もう教えてもらえないと思ったからだ。
そう考えた自分が、ひどく卑怯に思えた。
◇
防壁から離れたところに、かつて何かの詰所だったらしい建物が残っていた。壁には補修の跡が幾重にも重なり、窓の半分は板で塞がれている。浦原に案内されて中へ入ると、古い机と椅子があり、奥では湯を沸かす音がしていた。
久しぶりに屋根の下で腰を下ろした途端、織姫の身体から力が抜けた。
逃げ続けている間は、疲れを感じる余裕さえなかった。眠れば見つかるかもしれない。食べ物を探しに出れば、誰かに顔を見られるかもしれない。そう思うだけで足が動き、気がつけば次の隠れ場所を探していた。
浦原が差し出した椀には、温かい汁が入っていた。
「今は、これくらいしか用意できませんけど」
「……ありがとうございます」
両手で受け取る。椀の熱が指先に染みた。具は少なく、味も薄い。それでも一口飲んだだけで、喉の奥が詰まりそうになった。
誰かが自分のために食べ物を用意してくれたのは、いつ以来だろう。
「ゆっくり食べてください。追い立てるつもりはありませんから」
浦原は向かいに腰を下ろしたが、それ以上は何も尋ねなかった。
織姫は椀を見つめながら、少しずつ汁を飲んだ。飲み終わる頃には、身体の冷えが幾分和らいでいた。
「……浦原さん」
「はい」
「私、ここにいてもいいんでしょうか」
「もちろん。少なくとも、今夜は休んでください」
「でも、私がいたら……」
追っ手が来るかもしれない。そう言いかけたところで、浦原が首を振った。
「その心配は、今はアタシに預けてください」
言葉に甘えてしまいたかった。けれど、織姫は椀を握る手に力を込めた。
浦原に見つけてもらい、ようやくここまで来た。守ってもらうためではない。一護を助けるために、何かを変えたかったのだ。
「……私、明日、外へ行ってみます」
「外へ?」
「卯ノ花隊長に言われたこと、考えたいんです。ここに座ってるだけじゃ、きっと何も分からないから」
浦原は織姫の顔を見た。
「一人で行くつもりですか」
「……はい」
「危険ですよ」
「分かってます」
そう答えながら、織姫は本当に分かっているのだろうかと思った。五十年も逃げ続けて、危険な目には何度も遭った。けれど、今度は追われる側ではなく、自分から誰かに近づかなければならない。
「……何かあったら、戻ってきてもいいですか」
浦原は、少しだけ表情を和らげた。
「ええ。帰ってくる場所くらい、用意しておきますよ」
◇
翌朝、織姫は防壁から遠ざかる道を歩いていた。
外苑の周囲には、人の暮らしがあった。粗末な家々が並び、畑のようなものが広がり、荷を積んだ車が土の道を行き交っている。遠くには崩れた建物の残骸が見えたが、その傍らにも新しい住居が建っていた。
死のない世界になっても、人は食べ、働き、眠る。怪我をすれば痛みを感じ、寒ければ火を焚く。織姫が逃亡中に見てきたのと変わらない光景だった。
ただ、以前とは違うものもある。
道端で言い争っていた男たちの一人が、相手を殴り倒した。倒れた男は顔を押さえて呻き、殴った方は罵声を浴びせながら去っていく。周囲の人々はちらりと目を向けただけで、すぐに自分の用事へ戻った。
織姫は足を止めた。
倒れた男はしばらくして起き上がった。血の滲む口元を拭い、よろめきながら歩き出す。
死なない。
けれど、痛くないわけではない。
卯ノ花は、首を斬られた人間もすぐには死なないと言っていた。身体は時間をかけて元に戻る。それまでの苦痛が消えるわけではない、とも。
織姫は自分の手を見た。
この手で、人の首を斬る。
想像しようとしても、そこから先へ考えが進まなかった。
斬るための刃物さえ持っていない。そもそも、持っていたところで振り下ろせるはずがない。そう思う一方で、千人という数だけが頭の中から離れなかった。
最初の一人を傷つけることもできないのに、千人。
卯ノ花は、どうしてそんな条件を出したのだろう。
道の先で、小さな子供が転んだ。抱えていた籠から野菜が転がり、乾いた土の上に散らばる。子供は膝を押さえて泣き出したが、近くにいた女性が駆け寄り、野菜を拾い集めながら声をかけていた。
織姫も思わず歩み寄った。
「大丈夫?」
子供は涙の浮かんだ目で織姫を見上げた。
「……いたい」
「うん。痛かったね」
膝には擦り傷ができていた。織姫は手を伸ばしかけ、途中で止めた。ここで力を使えば、目立つかもしれない。自分を探している者に気づかれるかもしれない。
その迷いが恥ずかしかった。
織姫はしゃがみ込み、子供の膝へ手をかざした。
「双天帰盾」
淡い光が傷を包み、擦りむけた皮膚が元へ戻っていく。子供は驚いて泣きやみ、何度も自分の膝を確かめた。
「……いたくない!」
「よかった」
織姫が笑うと、子供も笑った。
傍らの女性が礼を言い、子供の手を引いて歩き出す。二人が人混みに紛れるまで見送ってから、織姫は立ち上がった。
助けられた。
ほんの小さな怪我でも、自分には治せる。
そのことが嬉しいはずなのに、胸の奥は重いままだった。
あの子の首を持ってこいと言われたら。
そう考えた瞬間、織姫は激しく首を振った。
そんなこと、考えたくもない。
◇
昼を過ぎる頃、織姫は人の多い市へ出た。
露店が軒を連ね、食べ物や布、古い道具が並んでいる。行き交う人々の声に混じって、値をまけろと交渉する声や、荷車の車輪が軋む音が聞こえた。
織姫は頭巾を深く被り直した。
顔を見られるのが怖い。誰かが自分を指差すのではないか。滅却師を呼びに走るのではないか。そんな思いが足を鈍らせた。
けれど、今日は逃げるために来たのではなかった。
織姫は店先で包丁を研いでいる老人に目を向けた。砥石の上を刃が往復するたび、水に混じった黒い筋が流れていく。
あれを使えば、人を傷つけることができる。
考えただけで、喉が乾いた。
「何か用かい?」
老人が顔を上げた。
「えっ……あ、いえ、その……」
「刃物を探してるのか?」
織姫は答えられなかった。老人は不思議そうに首を傾げたが、やがて再び手元へ目を戻した。
「買わないなら、そこを空けておくれ」
「……すみません」
織姫は頭を下げ、その場を離れた。
何をしているのだろう。
千人の首を持っていくと決めたわけではない。決められるはずもない。それなのに刃物を探している自分がいた。
強くなるためには、まず誰かを傷つけなければならない。
そう言われたからといって、本当にそうなのだろうか。
盾舜六花には、攻撃を防ぐ力がある。傷を拒絶する力がある。そして、相手を斬る力も。
孤天斬盾。
これまで織姫は、その力を使うことを恐れてきた。誰かを傷つけるための力だと思うと、どうしても躊躇してしまう。戦いの中では何度も、その迷いが自分の動きを止めた。
だから卯ノ花は、首を持ってこいと言ったのか。
織姫はすぐに、その考えを打ち消した。
卯ノ花の言葉を、都合よく解釈してはいけない。あの人は本気だった。誰かを傷つけることを求め、できなければ教えないと言ったのだ。
織姫は市場の端で立ち止まり、通りを見渡した。
買い物をする人。荷物を運ぶ人。子供を叱る人。疲れた顔で腰を下ろす人。
誰も、自分が今どんなことを考えているか知らない。
それが恐ろしくなった。
もし、ここにいる誰かが自分の心を覗けたら、きっと逃げ出すだろう。
◇
日が傾き始めた頃、織姫は市場を離れた。
何もできなかった。
人を傷つけることはもちろん、刃物を買うことさえできなかった。何度も人の顔を見て、そのたびに目を逸らしただけだった。
戻ろう。
そう思って歩き出したところで、路地の奥から怒鳴り声が聞こえた。
「返せって言ってるだろ!」
織姫は足を止めた。
狭い路地で、若い男が別の男の襟を掴んでいた。掴まれた男は痩せていて、手には小さな袋を握っている。足元には食べ物がいくつか散らばっていた。
「盗んだんじゃねえか!」
「違う、俺は……!」
言い終えるより早く、拳が頬を打った。痩せた男は壁にぶつかり、ずるずると座り込む。
織姫の足が動いた。
「やめてください!」
二人が同時にこちらを見る。
「何だ、お前」
「もう、やめてください。その人、怪我してます」
「こいつが盗んだんだ。口を出すな」
若い男は織姫を睨みつけた。織姫は怖くなったが、引き下がれなかった。
「でも、殴らなくても……」
「お前に関係あるのか?」
若い男が一歩近づく。織姫は反射的に身構えた。
その瞬間、男の視線が織姫の顔へ向いた。ずれた頭巾の下を覗き込み、眉を寄せる。
「……お前、どこかで」
背筋が冷えた。
織姫は慌てて頭巾を引き下ろす。男は何か思い出そうとするように顔をしかめ、それから口元を歪めた。
「そうか。お前、あの……」
最後まで聞かず、織姫は走り出していた。
背後で怒鳴り声がした。追ってくる足音があるような気がして、振り返ることもできない。曲がり角をいくつも抜け、人の少ない道へ出ても、足は止まらなかった。
助けようとしたのに。
また逃げてしまった。
痩せた男はどうなっただろう。殴られ続けているかもしれない。傷ついて、痛みに耐えているかもしれない。
それでも戻れない自分がいた。
織姫は建物の陰に身を隠し、荒い息を整えた。胸が痛いほど鼓動している。誰も追ってきていないことを確かめても、震えは収まらなかった。
卯ノ花なら、どうしただろう。
相手が襲ってきたら、迷わず斬るのだろうか。助けたい人を守るためなら、邪魔をする者を傷つけられるのだろうか。
自分には、できなかった。
戦う力がまったくないわけではない。それでも、誰かを傷つけることを恐れ、結局は逃げるしかなかった。
黒崎くんを助けたいと言いながら。
織姫は両手で顔を覆った。
◇
辺りが暗くなっても、織姫は詰所へ戻らなかった。
浦原は帰ってくる場所を用意すると言ってくれた。そこへ戻れば、きっと食べ物も、休む場所もある。誰かに追われることを恐れず眠れるかもしれない。
けれど、戻って何と言えばいいのだろう。
何もできませんでした、と。
そんなことは、出かける前から分かっていたはずなのに。
織姫は人気のない道を歩き続けた。足元の石につまずき、膝をつく。掌に細かな傷ができたが、治そうとは思わなかった。
痛みはすぐに消えない。
この世界では、それでも死なない。
卯ノ花に求められた千人の首は、斬ったところで終わりではない。傷つけた相手は生き続ける。自分が与えた苦痛を抱えたまま、いつか身体が戻るまで待つことになる。
そんなことを、千人に。
織姫は地面を見つめた。
「……できないよ」
声に出すと、胸の奥に押し込めていたものが溢れそうになった。
「そんなこと、できない……」
自分にはできない。そう言ってしまえば簡単だった。けれど、そこで諦めれば、黒崎くんはどうなるのだろう。
今も、あの場所にいる。
自分の声は届かない。手を伸ばしても触れられない。どれだけ時間が過ぎても、あの人は世界を支えるための楔のままだ。
織姫は、最後に見た一護の姿を思い出そうとした。
顔も、声も、覚えている。忘れたことなど一度もない。けれど、思い出すたびに、その姿が遠くなっていくようで怖かった。
「……黒崎くん」
返事はない。
そんなことは分かっていた。それでも、呼ばずにはいられなかった。
「私、どうしたらいいの……?」
誰も答えてくれない。
織姫は膝を抱えた。涙が落ち、土に小さな染みを作る。拭っても次々と溢れてきて、やがて声を押し殺すこともできなくなった。
助けたい。
あの人を助けるためなら、何だってしたい。
そう思っていた。
けれど、何だってできるわけではなかった。
今日見た子供の笑顔が浮かんだ。市場を行き交う人々の顔が浮かんだ。路地で殴られていた男も、殴っていた男も、みんな生きていた。
その人たちを傷つけてまで、一護を助けようとする自分を、織姫は想像できなかった。
それなのに、諦めることもできない。
どうしようもない思いを抱えたまま、織姫は泣き続けた。
◇
「……そんなところにいては、身体が冷えますよ」
声がした。
織姫は顔を上げた。
いつからそこにいたのだろう。少し離れた場所に、白い隊長羽織をまとった女性が立っていた。
「……卯ノ花、隊長……」
卯ノ花は織姫を見下ろし、静かに目を細めた。
「随分と、泣いていらしたようですね」
織姫は慌てて頬を拭った。こんな姿を見られたくなかった。何もできずに戻ってきたと知られたくなかった。
「……すみません」
「謝ることではありません」
卯ノ花は近づいてきたが、すぐには手を差し伸べなかった。
「首は、持ってこられましたか?」
その問いに、織姫の身体が強張った。
卯ノ花の声は昨日と変わらない。責めるでも、慰めるでもなく、ただ約束したことを確かめているようだった。
「……いいえ」
「そうですか」
「私……」
言葉が続かなかった。何か説明しなければと思うのに、口を開けば泣き声になってしまう。
卯ノ花は待っていた。
その沈黙がかえってつらく、織姫は俯いたまま、ようやく言葉を絞り出した。
「……できませんでした」
「ええ」
「人が、いっぱいいて……みんな、普通に暮らしてて……。私、誰かを傷つけようなんて、思えなくて……」
涙がまた溢れた。
「でも、黒崎くんを助けたいんです。助けたいのに……私、何もできなくて……!」
織姫は両手を握りしめた。爪が掌に食い込む。自分を痛めつけたところで何も変わらないと分かっていても、力を緩められなかった。
「どうして、こんなに弱いんでしょう……」
卯ノ花はその手元へ目を落とした。
「井上さん」
呼ばれても、織姫は顔を上げられなかった。
「あなたは、誰かを傷つけることが怖いのですね」
「……はい」
「それでも、黒崎一護さんを救いたい」
「……はい」
「どちらかを捨てれば、楽になるでしょう」
織姫は息を呑んだ。
卯ノ花は淡々と続けた。
「救うことを諦めれば、誰も傷つけずに済みます。人を斬ることを受け入れれば、私から戦う術を学べる。あなたが苦しんでいるのは、そのどちらも手放せないからです」
「……そんなの」
織姫は顔を上げた。
「そんなの、選べません……!」
卯ノ花は何も言わなかった。
「黒崎くんを助けたいんです。でも、だからって……誰かを傷つけるのは、嫌なんです……!」
卯ノ花の目が、僅かに細められた。
「そうですか」
織姫は唇を噛んだ。これで終わりだと思った。昨日と同じように、教えることはないと言われるのだろう。
それでも、今度は嘘をつきたくなかった。
「……私、千人の首は持ってこられません」
言い切ると、胸の奥が痛んだ。
「ごめんなさい……」
卯ノ花はしばらく織姫を見つめていた。
やがて、その場に膝を折る。
目の高さが近づき、織姫は驚いて顔を上げた。
「謝る必要はありません。私が出した条件を、あなたは果たせなかった。それだけのことです」
「……はい」
「ですが」
卯ノ花は、織姫の握りしめた手に目を向けた。
「あなたは、それでも私のところへ来たのでしょう?」
「……え?」
「帰る場所は、他にもあったはずです」
織姫は浦原の顔を思い出した。帰ってくる場所を用意しておくと言ってくれた人の顔を。
自分でも気づかないうちに、防壁のある方角へ歩いていたのだろうか。
「……分かりません。どこへ行けばいいのか、分からなくて……」
「そうですか」
卯ノ花は静かに立ち上がった。
「では、いらっしゃい」
織姫は顔を上げた。
「……どこへ、ですか?」
「いつまでも、ここで泣いているわけにはいかないでしょう」
差し出された手を、織姫は見つめた。
昨日、千人の首を要求した手だった。今日もその言葉を撤回しなかった人の手だった。
怖くないと言えば嘘になる。
けれど、卯ノ花は急かさず、ただ待っていた。
織姫は何度か息を整え、ようやくその手を取った。
引き起こされると、長く座り込んでいたせいで足が痺れていた。よろめく織姫を、卯ノ花が軽く支える。
「歩けますか?」
「……はい」
「では、参りましょう」
卯ノ花は歩き出した。
織姫はその隣に並ぶことができず、半歩ほど後ろをついていった。どこへ連れていかれるのかも、これから何を言われるのかも分からない。
千人の首を持ってこられなかったことは変わらない。
誰かを傷つける覚悟ができたわけでもない。
それでも、卯ノ花の背中を見失わないように、織姫は足を動かした。
遠くで、虚淵の方角から轟音が響いた。
卯ノ花は一度だけそちらへ目を向け、歩調を緩めず進んでいく。
織姫は涙の残る頬を拭い、その後を追った。