百合を背後から見守る──そんな存在に、俺はなりたい(叶わぬ願い) 作:百合の間に男を挟めたい男
『──助けて?そないなこと気軽に言えるのが私の娘やなんて、ほんま驚きやわ。この世で頼れるんは自分一人や言うたよな?』
かつて、母はそう説いた。
母の言葉がすべて正しいと、盲信していたわけではない。
ただ、私が勝手にその言葉を真に受けてしまっただけ。母という存在の偉大さに、目が眩んでいただけなのだ。
それでも、母が誰よりも強い存在だったことだけは確かだった。
だって私は、母が誰かに頼る姿など、一度たりとも見たことがなかったのだから。
母ができるのなら、私も
『彩葉はさ、もっと人に頼ることを覚えた方がいいと思うよ。親の言うこと聞くのも大事だけどさ、もっと自分を労ってもいいんじゃない?』
その呪縛を解いてくれたのは、あいつの何気ない一言だった。
あれは小学五年生の頃だったか。滅多に風邪をひかない私だったが、無理が祟って病原菌の侵入を許してしまったことがある。
高熱と咳。学校から早退した私に、凛廻は「心配だから」と一緒に帰宅してくれて、身内が帰ってくるまで看病してくれた。
『…………ええよなぁ、凛廻は。お父さんも、お母さんも優しゅうて。お父さんもおるし……………
色々と弱っていたんだと思う。
父が亡くなり、その心の傷も癒えぬまま、頼りにしていた兄も上京してしまった。
そんな状況に加え、幼馴染である彼がそばにいて、私にとって世界で一番安全な場所である自分の部屋にいたこと。そして、病気で心身ともに弱っていたこと。そうしたいくつもの条件が重なったからこそ、あのとき、思わずこぼれてしまった
『…………じゃあ、今日から
『え?』
『朝久さんや朝日さんの代わりにはなれないけど、俺は絶対彩葉を一人になんかさせないから。辛かったら、そばで話を聞いてやるから。どうしようもない時は、俺に言え。助けるから』
あぁ、思えば、この日から。ただの幼馴染同士だった二人の関係に、少しずつ綻びが生じ始めたのかもしれない。
『──
今もなお、彼の言葉が私の生きる指針となっている。
◇◆
拝啓、父上、母上。お元気でしょうか?
俺はというと、人生で一番と言っても過言ではないほど元気に過ごしています。何故なら───
「あっ、ごめん急に来ちゃって……!なんて言ったら分かんないんだけど……で、電柱から赤ちゃんが出てきて!それでその………なんでそんなニコニコしてんの!?!?」
俺は今───
◇◆
とうとうやって来た原作開始。この瞬間をどれほど待ち侘びてきたか……感動で泣きそうになる。
彩葉の腕には、すやすや眠る小さな赤子がいた。この子が俺のもう一人の推し──かぐや。月からきたマジもんのかぐや姫だ。
ぐっすり眠っちゃって……。もしかして、もうこの歳にして、運命の人に抱っこされてることを察しちゃったのかな……?(厄介ヲタク)
………さて、感傷に浸るのもここまでとしよう。
実はかねてより、もしこの場面に遭遇したらやってみたいことがあったのだ。
というわけで──
「彩葉………誰との子!?」
「ッいや、これは───」
「なーんて、冗談冗談。幼馴染ジョーク」
「………まじでムカつく」
やけに焦っちゃって。そんなに誤解されるのが嫌だったのかね?
「しかし、かぐ──この赤ん坊、全然泣かないのな。さすが電柱からパッカーンしてきただけあるぜ」
「さっきまでギャン泣きだったんだけど、ヤチヨの曲聞かせたら寝ちゃって……。というか、信じてくれるの?自分でも結構荒頓着な話だと思うんだけど……」
「もちろん」
「だって原作知ってるからね^^」──とは言うわけにもいかないので、当たり障りなくそう返す。
すると、頬を赤らめて嬉しそうに笑う彩葉の顔が目に入り、なにかとんでもないものを踏んでしまったのではないかと、全身が虫の知らせを告げてやまない。
「それで、どうするの?この子」
「…………け、警察に届ける、とか?」
「いい案かもだけど、そうすると今週の休日どころか数ヶ月は警察署に通うことになるかもね」
「そんなぁ……」
ひどく落胆する彩葉。まぁ、今の彼女からしたら完全に巻き込まれた状態だから仕方ないと思うけど。
それでも決して「拾わなきゃよかった」とか、「そこら辺に捨てよう」とか言わないのは素晴らしい。流石は俺の
「わ、私はどうしたら……」
「おぉ、迷える仔羊よ。そんなあなたに提案です。この子を育ててみるのはいかがかな?」
「……育てる?私が?……………無理、無理無理無理!育児なんてやったことないし!」
うんうんうん辛いよね分かる分かる分かる。(建前)
でも、君がやらないと───子育て百合が見れないじゃないか!(本音)
「大丈夫。もう必要なものは揃ってるから」
「………ん?え?なんで揃ってんの?」
「こんなこともあろうかと思って」
「こんなこと想定してたの!?そ、それって……」
……?急に口もごもごさせてどうしたんだろう。うがいしてんのか?
「あくまで勘だが、この三日間凌げれば何とかなるような気がするんだ」
「そう……?」
「それに、子供をあやす彩葉のこと見たいし(欲深怪獣)」
「こいつ…………」
これまた「だって原作知ってるからね^^」案件だが、んなこといちいち説明してらんないので、俺の勘ということで説明しておく。ついでに俺の欲望も説明しておく。
「………はぁ、分かった。拾った責任もあるし、三日間凌いでみる」
よしッッッ!!ぶっちゃけここの説得が一番難しいと思っていたが、なんとか納得してくれたようだ。
クフフっ、ここさえ乗り越えればあとは楽園よ。二人の運命はここから始まったのだ!
というわけで、
「じゃあこの部屋は自由に使っていいから。食器とか諸々の場所は分かるね?俺は公園で寝てるんで、なにかあったら連絡してくれ。じゃ!!」
「え?なに言ってんの?あんたも一緒でしょ?」
「え?」
「は?」
肩を掴まれ、身動きを封じられる。
恐ろしいほど
「凛廻は一緒にいてくれないの?」
「そりゃあ……幼馴染とはいえ異性と一緒に半同棲するのは不安だろうし……。それに女の子同士の百合園に男が入り込むなど言語道断だし……」
「こんな時でも相変わらずぶれないの逆に尊敬するわ……というかこの子女の子だったんだ」
「そう、だから諦めて子育てしてほしい」──そんな願いを込めて口にした言葉だったが、彩葉はなぜか、逆に焚き付けられたような様子を見せた。
「……不安なんかじゃないよ。そりゃ他の男子だったら嫌だけど、相手は凛廻だし」
全幅の信頼。その目が、その言葉がグサグサと俺の良心と百合心に突き刺さる。
「それに……覚えてる?私が学校で熱を出して、凛廻に看病してもらった日のこと」
「ん?彩葉が熱を?……………………あっ」
あぁ、覚えてる。覚えてるとも。
そもそも彩葉が熱を出すこと自体、片手で数えられる程度しかなかったから、めちゃくちゃ絞り込みやすかったのもあるけど。
何よりあの日は、百合の守護者としてあるまじき、くっさい台詞を吐きまくった日なのだから。
彩葉が無理をしてなんでもやろうとしていたのは知っていた。知っていたが、あの瞬間まではなにも言わなかった。彼女の辛い過去があるからこそ、
でも、目の前で倒れた
「──『朝久さんや朝日さんの代わりにはなれないけど、俺は絶対彩葉を一人になんかさせないから。辛かったら、そばで話を聞いてやるから。どうしようもない時は、俺に言え。助けるから』……ずっと覚えてるから」
「ぐふっ!(吐血)」
そんなこと言ったわぁ!言っちゃったわぁ!言っちゃってたね俺!くしょがよぉ……
「助けて………くれる?」
赤ん坊を抱きしめながら、上目遣いで見上げるその姿は、まさに新婚ホヤホヤの新妻そのもので───
「ふんっ!!!」
「ちょっ!?なにしてんの!?」
「大丈夫大丈夫、ちょっと自分を律しただけだから」
漫画の表現だけかと思ったけど、結構ちゃんと効果あるんだね、壁に頭うつの。
「それで?協力してくれるの?してくれないの?どっち?」
「…………わ、わ………分かっ………た………!!協力、します……!!」
「はぁ……よかった」
百合の守護者は推しに嘘など吐かない。
大変遺憾だが……本当に全くもって本意ではないが……なんなら今すぐ切腹したいぐらいだが、今回ばかりは血涙飲んで協力しよう……
あぁ、せっかく貴重な赤ちゃんかぐや&彩葉の百合が……
後にも先にもこの三日間しか見れないと言うのに……
「じゃあ役割分担しましょ。早く紙持ってきて」
「はいはい仰せのままに……」
というか、なんかさっきより断然機嫌がよさそう……
……もしやかぐやを育てることにときめきを感じてしまったとか?!
百合の波動を感じる……(唯一の希望)
◇◆
それからの三日間は、まさに地獄のような日々だった。
子育てに苦戦したわけではない。だってこちとら超人コンビ揃ってるし、多少無理しても大丈夫な体だからな。
ならばなにが地獄だったのか。
───百合の間に男がいることに決まってんだろ殺すぞ。(豹変)
あらかじめ用意していたオムツなどが底をつき、二人で西竹屋へ買い出しに出かけ、店員さんから生暖かい目を向けられたときなんか、まさに拷問を受けているような気分だった。
俺はただの幼馴染なんです!この子の運命の人はこの赤ん坊なんです!信じてください!
ただ良いこともあった。それは間近で百合を見れたことだ。
本来なら遠巻きに百合を眺めているはずだったのに、こうも間近で百合を浴びせられては、致死量に達して死んでしまうところだったが。
そんなこんなで三日後───
「うへへ〜……りんねのお腹あったか〜〜い……」
「ねぇ、誰そいつ?いつ連れ込んだの?」
「いや、違くて。この子はあの赤ん坊で───って包丁は待て!?お願い待って!?ちゃんと話し合おう!」
何故か修羅場になってました。意味わからん。