俺は魔法使いじゃ無い〝パティシエ〟だ 作:ルナ・クリア・エアル
カランカラン、とドアベルが冷たく鳴り響き、再び静まり返る店内。
「くそっ……! 待てって言ってるだろ!!」
リオはエプロンをなびかせ、少年の小さな背中を追いかけてお店から外の通りへと激しく飛び出した。
シエルたちを見送ったばかりの、まだお昼前の午前中。しかし、少年は驚くほどの速さで路地の雑踏へと消えてしまい、リオは見失ってしまう。
(あいつ、どこへ行きやがった……!)
リオはあちこちの通りを走り回り、必死に少年の行方を探した。道行く街の人々や、近所の住人に少年の特徴を伝えて必死に聞き込みを続ける。名前を知れたのは良いが、返ってくるのは冷たい言葉ばかりだった。
「ああ、あの子ね。最近、急に変なことばっかり言うようになってね。お菓子なんて大嫌いだとか、意地悪な嘘ばっかりつく悪い子になっちゃったのよ」
周りの大人たちはみんな、あの子を「嘘つきの悪い子」だと決めつけ、眉をひそめて避けていた。だが、リオだけは知っている。あの子がコルネを食べて流した本物の涙を。本当は「美味しい」と言いたくて、誰かに「助けて」と叫びたかったその本心を。
(悪い子なわけねぇだろ……! あいつはただ…!)
焦燥感に背中を押されながら、リオは午前中から、街がオレンジ色の夕闇に染まるまで、あちこちを文字通り必死で探し回った。
——そして夕暮れ時。
ようやく街の片隅の薄暗い路地裏で、ポツンと一人、うずくまっている少年の姿を捉えた。
「おい、ちびすけ……! やっと見つけた……」
息を切らせたリオが近づいていく。すると、リオの足音に気づいた少年は、ビクリと肩を震わせて顔を上げた。その瞳は恐怖と絶望に涙で濡れており、リオの方へ今すぐ駆け寄りたいかのように、小さな両手を必死に伸ばしかける。
だが、首元のペンダントがギラリと最も禍々しく明滅した瞬間、少年の口から飛び出したのは、最悪の拒絶の叫びだった。
「来ないで! 来ないでよ……っ!!」
必死に首を振り、リオを激しく拒む少年。だが、ピカリオの目は誤魔化せなかった。その言葉は、やっぱり、どうしようもない『嘘』だった。「来ないで」と叫びながらも、少年の泣きじゃくる瞳は、「見捨てないで」「助けて」と、血を吐くような本心でリオを必死に引き止めていた。
「嘘ばっかりつきやがって……! お前、本当はそう思ってねぇだろ!!」
リオが構わず真っ直ぐに手を伸ばした、その瞬間だった。少年の本心を無理やり塗り潰すように、ペンダントからどす黒い光が爆発的に噴き出した。
「な、なんだこれ……っ!? わ、ちびすけ!!」
ピカリオの叫びも虚しく、少年から溢れ出た過去闇の濁流は、リオの全身をも一瞬で呑み込んでいく。あまりにも深く、冷たい悪意の質量に抗う術もなく、リオはそのまま深い暗闇の底へと意識を失って沈んでいった。