SSランク冒険者の異世界フルコースの旅   作:ヴァレリー

1 / 3
プロローグ

 

ここはアルカニア。

 

魔法と魔物が息づく世界。

 

夜になれば凶悪な魔物が跋扈(ばっこ)し、昼間は比較的弱い魔物が活動する。

 

そんな魔物たちを討伐する者たちが集う場所――それがギルドだ。

 

人間以外にも多様な種族が存在するこの世界で、レイルシュタット王国という国の王都にある「ラギアスギルド」には、一人の生ける伝説がいた。

 

ヴァレリー・レイヴンウッド。

 

1000年という果てしない時を生きる竜人族の女性であり、ギルド最高峰のSSランクに君臨する凄腕の冒険者。

 

しかし、今日の彼女に鋭い殺気はない。

 

「うーん、やっぱり休日の散歩は最高だな」

 

普段の激務から解放されたヴァレリーは、お気に入りの森をぶらぶらと歩いていた。

 

美しい髪をなびかせ、のんびりと木漏れ日を浴びる。

 

「まあ……何もないよな……ん? あっちにあるのは……」

 

ふと、茂みの奥に何かを見つけたヴァレリーは、好奇心から笑みを浮かべて歩み寄る。

 

だが、近づくにつれてその笑顔は怪訝(けげん)なものへと変わった。

 

「ん? なんだ……これ……」

 

そこに佇んでいたのは、禍々しい気配を放つ「黒いゲート」だった。

 

魔物の仕業か、あるいは古代の失われた魔法か。

 

ヴァレリーが警戒した瞬間、ゲートが爆発的な光を放つ。

 

「くっ……!?」

 

思わず腕で目を覆い、強烈な光に視界を奪われる。

 

やがて光が収まり、ゆっくりと目をあけると――そこは、さっきまでいた見慣れた森ではなかった。

 

「……あいつ、どこに行った?」

 

「大変だ! 逃げ出した『ガララワニ』がこっちに向かっているぞ!」

 

耳に飛び込んできたのは、聞いたこともない魔物の名前と、騒がしい人間の声。

 

見上げれば、見たこともない巨大なマッシュルームのような形をした木々が生い茂り、空気中にはなぜか、じゅわっと焼けた極上のステーキのような、芳醇で美味そうな匂いが漂っている。

 

「魔法の気配がまるで違う……。それにこの匂い、何だ? 腹が減ってくるじゃないか……」

 

クスクスと不敵に笑うヴァレリー。

 

1000年を生きた竜人族の直感が告げていた。

 

どうやら、とんでもなく、そして最高に「美味い」異世界に迷い込んでしまったらしい、と――。

 

 

「ここは魔法やスキルが、他にもちゃんと使えるかどうかが問題だな……」

 

ヴァレリーは少し困ったような顔をしながらも、自身の相棒でもあるフェンリルの名前を呼んだ。

 

「――白銀」

 

空間が揺らぎ、姿を現したのは、眩いほどに美しい白銀の毛並みを持ったフェンリルだった。

 

『主、いきなりでびっくりしたぞ。急にお前の魔力の気配が消えたのだからな』

 

もの凄く大きな体をした白銀は、ヴァレリーに甘えるようにじゃれつきながら言った。

 

「すまない……。黒のゲートを見つけたと思ったら突然光って、気づいたらここにいたのだ」

 

ヴァレリーは優しく笑いながら、白銀の豊かな毛並みを撫でる。

 

『そういえば……ここはどこだ?』

 

白銀はふんふんと鼻を鳴らし、周囲の匂いを嗅ぎながら尋ねた。

 

「知らんな……。ただ、どうやらとんでもなく『美味しそうな世界』に巻き込まれた、ということだけは確かだ。色々調べる必要がありそうだな。どうやって元の世界に帰れるかも分からないし。とりあえず……この世界には『ガララワニ』という魔物がいるらしい。そいつを討伐しに行くぞ、白銀」

 

ヴァレリーがもの凄く楽しそうな笑顔で言うと、白銀はやれやれと呆れたように首を振った。

 

『了解だ、主』

 

白銀が深く頷く。

 

ヴァレリーは亜空間から愛用の剣を取り出すと、魔法を使ってふわりと空へ浮かび上がった。

 

それは白銀も同じで、主の隣へと並ぶようにして空を駆けていく。

 

 

 

そこには、ガララワニを狙う密猟者の男たちが集まっていた。

 

そこへ突然、白銀の長い髪をなびかせた女が空から舞い降りてくる。

 

男たちは皆、その女の顔を見て呆然とした。

 

息を呑むほどに、もの凄く美しかったからだ。

 

だが次の瞬間、男たちは全く「違った意味」で言葉を失うことになる。

 

突如として姿を現した巨大なフェンリルにも驚いたが、それ以上に、その美女がまるで舞うかのような鮮烈な剣技で、瞬く間にガララワニを討伐してしまったのだ。

 

しかも彼女は、楽しそうに笑みを浮かべながら、その恐ろしい猛獣を無慈悲に屠ってみせた。

 

あまりの美しさと、笑いながら命を奪う圧倒的な強さ。

 

その強烈なギャップは、その場にいた男たちの心に、決して消えない深いトラウマとして刻み込まれたという……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。