SSランク冒険者の異世界フルコースの旅 作:ヴァレリー
ここはアルカニア。
魔法と魔物が息づく世界。
夜になれば凶悪な魔物が
そんな魔物たちを討伐する者たちが集う場所――それがギルドだ。
人間以外にも多様な種族が存在するこの世界で、レイルシュタット王国という国の王都にある「ラギアスギルド」には、一人の生ける伝説がいた。
ヴァレリー・レイヴンウッド。
1000年という果てしない時を生きる竜人族の女性であり、ギルド最高峰のSSランクに君臨する凄腕の冒険者。
しかし、今日の彼女に鋭い殺気はない。
「うーん、やっぱり休日の散歩は最高だな」
普段の激務から解放されたヴァレリーは、お気に入りの森をぶらぶらと歩いていた。
美しい髪をなびかせ、のんびりと木漏れ日を浴びる。
「まあ……何もないよな……ん? あっちにあるのは……」
ふと、茂みの奥に何かを見つけたヴァレリーは、好奇心から笑みを浮かべて歩み寄る。
だが、近づくにつれてその笑顔は
「ん? なんだ……これ……」
そこに佇んでいたのは、禍々しい気配を放つ「黒いゲート」だった。
魔物の仕業か、あるいは古代の失われた魔法か。
ヴァレリーが警戒した瞬間、ゲートが爆発的な光を放つ。
「くっ……!?」
思わず腕で目を覆い、強烈な光に視界を奪われる。
やがて光が収まり、ゆっくりと目をあけると――そこは、さっきまでいた見慣れた森ではなかった。
「……あいつ、どこに行った?」
「大変だ! 逃げ出した『ガララワニ』がこっちに向かっているぞ!」
耳に飛び込んできたのは、聞いたこともない魔物の名前と、騒がしい人間の声。
見上げれば、見たこともない巨大なマッシュルームのような形をした木々が生い茂り、空気中にはなぜか、じゅわっと焼けた極上のステーキのような、芳醇で美味そうな匂いが漂っている。
「魔法の気配がまるで違う……。それにこの匂い、何だ? 腹が減ってくるじゃないか……」
クスクスと不敵に笑うヴァレリー。
1000年を生きた竜人族の直感が告げていた。
どうやら、とんでもなく、そして最高に「美味い」異世界に迷い込んでしまったらしい、と――。
「ここは魔法やスキルが、他にもちゃんと使えるかどうかが問題だな……」
ヴァレリーは少し困ったような顔をしながらも、自身の相棒でもあるフェンリルの名前を呼んだ。
「――白銀」
空間が揺らぎ、姿を現したのは、眩いほどに美しい白銀の毛並みを持ったフェンリルだった。
『主、いきなりでびっくりしたぞ。急にお前の魔力の気配が消えたのだからな』
もの凄く大きな体をした白銀は、ヴァレリーに甘えるようにじゃれつきながら言った。
「すまない……。黒のゲートを見つけたと思ったら突然光って、気づいたらここにいたのだ」
ヴァレリーは優しく笑いながら、白銀の豊かな毛並みを撫でる。
『そういえば……ここはどこだ?』
白銀はふんふんと鼻を鳴らし、周囲の匂いを嗅ぎながら尋ねた。
「知らんな……。ただ、どうやらとんでもなく『美味しそうな世界』に巻き込まれた、ということだけは確かだ。色々調べる必要がありそうだな。どうやって元の世界に帰れるかも分からないし。とりあえず……この世界には『ガララワニ』という魔物がいるらしい。そいつを討伐しに行くぞ、白銀」
ヴァレリーがもの凄く楽しそうな笑顔で言うと、白銀はやれやれと呆れたように首を振った。
『了解だ、主』
白銀が深く頷く。
ヴァレリーは亜空間から愛用の剣を取り出すと、魔法を使ってふわりと空へ浮かび上がった。
それは白銀も同じで、主の隣へと並ぶようにして空を駆けていく。
そこには、ガララワニを狙う密猟者の男たちが集まっていた。
そこへ突然、白銀の長い髪をなびかせた女が空から舞い降りてくる。
男たちは皆、その女の顔を見て呆然とした。
息を呑むほどに、もの凄く美しかったからだ。
だが次の瞬間、男たちは全く「違った意味」で言葉を失うことになる。
突如として姿を現した巨大なフェンリルにも驚いたが、それ以上に、その美女がまるで舞うかのような鮮烈な剣技で、瞬く間にガララワニを討伐してしまったのだ。
しかも彼女は、楽しそうに笑みを浮かべながら、その恐ろしい猛獣を無慈悲に屠ってみせた。
あまりの美しさと、笑いながら命を奪う圧倒的な強さ。
その強烈なギャップは、その場にいた男たちの心に、決して消えない深いトラウマとして刻み込まれたという……。