ゴジラVS『WW2』~枢軸国と連合国が手を取り合う日~ 作:甲斐田 悠人
「人類の最も古く、最も強い感情は恐怖である。そして、最も古く、最も強い恐怖は、未知に対する恐怖である。」
―― H.P.ラヴクラフト(1927年『文学における超自然の恐怖』より)
1941年5月20日ベルリンにて。
地下壕でアドルフ・ヒトラーは来月に行うバルバロッサ作戦の確認を将校たちと行っていた。
バルバロッサ作戦とはソ連西部を征服してドイツ人を再増加させるというナチス・ドイツの思想的目標であり、それは不可侵条約を結んだソ連への大規模な奇襲侵攻作戦でもあった。
この作戦は絶対に成功させなければならない。
ドイツ人がヨーロッパの支配を絶対的なものにするため、憎き共産主義者を駆逐するためにも。
ヒトラーはそう意気込んでいた。
そんな時、一通の電報が飛んでくる。
電報を手にした通信兵がヒトラーの元へ血相を変えてやってくる。
「総統閣下、ビスマルクが北大西洋で何者かに沈められたようです!」
「なんだと!? イギリスの仕業か!?」
「わかりません。逃げ出した乗員によると巨大な怪物が火を噴き、戦艦が真っ二つになったと」
それを聞いたヒトラーは怒りに震えた。
彼は即座に報告を嘘だと思った。
子供の空想物語でも言わないようなことだからだ。
「そんな馬鹿なことがあるものか! ドイツ人がイギリス軍に負けた言い訳にこのような馬鹿げた話をするなど銃殺刑にしろ。貴様もこの程度の嘘もわからんのか!」
「わ、私は電報を報告しただけで」
「もういい。戯言など聞きたくない。職務に戻れ」
今度は別の通信兵がやってくる。
「総統閣下。巨大な怪物がドイツの防衛線を突破したようです」
「また巨大な怪物か。そんな馬鹿なことがあるものか!」
今度は先ほどの通信兵がやってくる。
「ビスマルクを沈没させたと思わしき怪物がハンブルクの街を火の海に変えたそうです」
ここまで次々と報告がやってきて、さすがのヒトラーも疑念を抱かざるを得なかった。
いったい、ドイツでなにが起きている?
火を噴く巨大な怪物とはなんだ?
新約聖書のヨハネの黙示録の赤い竜でも現れたというのか。
馬鹿な、そんなのは現実的ではない。
ドシンと奇妙な地響きがするようになった。
地響きは一定間隔で続き、まるで巨人が歩いてるかのように大地が揺れていた。
なんだ? この地響きは?
ヒトラーが地下壕の出口に目をやるとちょうどそこに外から将官がやってきた。
そして、大慌てで体を壁にぶつけながらも口を開いた。
「総統閣下、ベルリンに、ベルリンに巨大な怪物がやってきています!」
ヒトラーは沈黙した。
彼の頭の中で起こりうる最悪の事態を超越した出来事だったからだ。
「怪物は今、ベルリンを破壊しつくし、この地下壕までやってきています」
「ありえん。この目で確かめてやる」
そう言うもヒトラーは心の中で疑いが確信に変わりつつあった。
怪物は実在すると。
なぜなら、今なお地響きが収まらないのだから。
報告しにきた将官を押しのけて地下壕から外に出たヒトラーはとんでもないものを目にした。
それは『絶望』という言葉を体現したような存在だった。
ドイツのどんな建物よりも大きく、山のように巨大な存在がベルリンを踏み荒らしていた。
家を壊し、青い火を噴く、羽根を持たない黒い竜。顔は怒りに満ちていた。
堅い鱗に覆われ、岩が生えているかのようにギザギザの背びれ。
巨大な尻尾を払うと簡単にドイツ人の家を破壊していく。
ドイツの都市ベルリンは今、火の海へと変わっていた。
読書家のヒトラーには心当たりがあった。
聖書にあるリヴァイアサンの記述だ。
鱗をもち、火を噴く巨大な海にいる竜。
だが、あれは蛇だったはずだ。
では、今このドイツを、ベルリンの都市を焼いているこの怪物はなんなのか。
戦闘機メッサーシュミットが怪物を倒そうと機銃掃射する。
だが、分厚い鱗に阻まれ、弾丸は怪物の内部にまで届いていないようだ。
羽虫にたかられたようにうっとおしく感じたのか、怪物は火を噴いて迎撃する。
メッサーシュミットたちは火に近づきすぎた蛾のように燃えて、地上へと落ちていく。
近づいていく戦車たち。
ドイツが誇るIV号戦車たちだ。
砲塔を向けて、砲弾を発射する。
よし! これであの怪物も大人しくなる。
ヒトラーは空に向かって握りこぶしを突き上げた。
だが、怪物は怯みはしたものの、怪我を負うことすらなかった。
分厚い鱗はIV号戦車の砲弾すら通さなかったのだ。
怪物はお返しとばかりにIV号戦車を踏みつけた。
IV号戦車はぺしゃんことなり、踏みつけられたトマトのように血とオイルが噴き出した。
ヒトラーは言葉を失った。
ゲルマン民族の栄光は怪物の手によって無に帰ろうとしていた。
「総統閣下、指示をください。あの怪物をいったいどうやって倒せばいいか指示を!」
「これは悪夢だ。現実ではない。神がドイツを見捨てるはずはないのだ」
「総統閣下?」
ヒトラーは拳銃を取り出し、自らのこめかみに当てた。
「あとは任せた」
引き金を引き、ヒトラーは自ら命を絶った。
ドイツ第三帝国は謎の怪物によって滅びようとしていた。
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