ゴジラVS『WW2』~枢軸国と連合国が手を取り合う日~ 作:甲斐田 悠人
エルヴィン・ロンメルは耳を疑った。
「私が総統閣下の代わりになるんですか?」
ロンメルが相手にしているのはヘルマン・ゲーリング元帥。
かつてのドイツの英雄にして、今やヒトラー亡き後の臨時政府の総統代理だ。
上司にあたる彼にロンメルはうやうやしく敬語を使う。
ただの上司というだけだからではない。
第一次世界大戦の撃墜王にして英雄たる彼に対する敬意があったからだ。
そんなゲーリングの信じがたい言葉にロンメルは思わず聞き返した。
「そうだ。君がこのナチスドイツを率いるんだ」
「待ってください。総統閣下はもしもの時にはあなたにこの国を率いるよう頼んでいました。なのに、私に総統になれと言うんですか」
「そうだとも。君をここカリンハルに呼んだのもその為だ」
カリンハル。
ゲーリング国家元帥が所有している、広大な森の中に建つ豪華な大邸宅。
邸宅でありながら、空軍の通信設備や防空壕も完備されている。
今、ドイツの臨時政府はこの邸宅の中で活動していた。
ベルリンが壊滅した今、安全で破壊されていない場所はここしかなかったからだ。
「わかりません。なぜ、私なんですか?」
「君が英雄だからだよ。アフリカの英雄。今、ドイツ国民たちは英雄を求めている。かの怪物を倒してくれる英雄を」
「あなただって英雄でしょうに」
「私はもうドイツにとっては古い英雄だ。怪物の手によって破壊されたドイツを再び立ち上がらせる力などない。だが、君が指導者になってくれるならばドイツ人たちは再びあの脅威から立ち上がるはずだ」
「無理です。私に総統の代わりなんて。第一、私は政治のことなんて何も知らない」
「私だって、そこまで詳しいわけではないよ。大丈夫、君を補佐してくれる人間はたくさんいる」
「ですが……」
ロンメルは必死に自分が総統にふさわしくない点を探そうとする。
俺に総統の代わりなんて務まるわけがない。
それがロンメルの本音だった。
ゲーリング元帥はロンメルの肩を優しく叩いた。
「君はあの怪物を見て、どう思った? イタリアで見たんだろう?」
「どう思ったと言いますと?」
「率直な感想でいい」
「あの怪物なら、たしかにドイツ軍を倒したというのも納得がいきます。あんなに大きく、火を吐く生き物なんて見たことがない」
「それで倒せると思ったかね?」
ロンメルはどう答えようか迷ったが、首を縦に振った。
「アレが生き物である限り、必ず死は訪れます。どんな偉大な人物もやがて老いて死ぬように、あの怪物も殺せるはずです」
「素晴らしい返答だ。やはり、君しかいないよ」
ゲーリングは机の上に置かれていたガラスの器にワインを注ぐ。
器をロンメルの方まで持ってきて、二人で乾杯をする。
ロンメルはゲーリングの意図を把握しかねていた。
頭の中の疑問に答えるようにゲーリングは口を開いた。
「私はアレを見たとき、正直手に負えないと思ったよ。ドイツは悪魔の手によって、いや、これまでやってきたことを考えると神の逆鱗に触れたのかとすら思った。アレをただの生き物だと思うなんて大胆な発想なんてとてもじゃないができなかった。はっきり言えば、腰がすくんだよ。ありとあらゆる戦場を戦闘機と共に駆け抜けてきた私ですらだ。でも、君は……アレを倒そうと考えている。それで十分なんだ。ドイツの総統にはそういった決して怯まぬ闘志を持っているものこそがふさわしい。私と違って、君は本物英雄だよ。そして、ドイツ国民が欲している英雄だ」
「そんな、ご謙遜を……」
「事実だ。アレを見てから震えが止まらなくてね。抑えるのに必死だよ」
見れば確かにゲーリング元帥はガラスの器を震わせ、ワインがあっちに行ったりこっちに行ったりと動いている。
ロンメルはゲーリング元帥のその様子を見て覚悟を決めた。
「わかりました。そこまで言うなら、このエルヴィン・ロンメル。総統になりましょう」
「ああ、頼んだよ。これでようやくドイツ国民たちも安眠できる。記者たちにも伝えないとな」
ゲーリング元帥は安堵した表情を浮かべる。
ロンメルは彼にはあの怪物と戦う総統という立場は肩の荷が重かったのかもしれないと考えた。
「あの怪物。怪物、怪物と言うのも変ですね。名前をつけましょうか」
「ああ、それならアレにはもう名前があるんだ。アーネンエルベが調べたところ、古代のヴァイキングたちはすでにあの怪物に接触したことがあるらしいんだ」
「本当ですか、それは」
「ああ、本当だ。特徴が似ているから、おそらく同一個体かその子孫だ」
アーネンエルベ。
ナチス親衛隊傘下の古代遺産研究協会。
古代ゲルマン人の遺跡や古文書を研究している組織だ。ヴァイキングのルーン文字など、オカルト的な領域まで研究している。
ゲーリング元帥は神妙な面持ちで話を続ける。
「アーネンエルベの報告によると、北海には元々あの怪物が現れることがあって、ヴァイキングたちは知っていたんだ。彼らは怪物をヨルムンガンドの兄弟だと考え、こう呼んだ。『ゴジラ』と」
「ゴジラ……。それがあの怪物の名前ですか」
やっと倒すべき相手の名前がわかった。
ゴジラ。
ドイツを破壊したあの怪物ゴジラの息の音を止めてやる。
「総統になったからには連合国とは停戦をします。我々はどんな手を尽くしてもゴジラを倒します。必ず死んだドイツ人たちの仇を取ります」
「君を選んで正解だったよ。その燃えるような目、ゴジラを見た後でそんな目をしていられるのは君しかいない」
ロンメルは最優先目標にゴジラ討伐を設定した。
後日、記者たちは新聞で新しいドイツの総統にロンメルがついたこと。
そして、新総統ロンメルはゴジラ討伐に全力を尽くすことを報じた。
絶望していたドイツ国民たちは歓喜の声をあげた。
ドイツの英雄がゴジラ討伐に立ち上がったと。
ゴジラは一人の戦場の英雄を怒らせた。
そのツケは決して安くはすまないだろう。
続きは来週の日曜日になります。