犯罪奴隷から始まる逆転人生〜テイムスキルが異常に強かったので裏社会を支配できた件〜 作:城之内
家の中の惨状に目を剥いた二人の騎士は、僕の両手首に迷いなく手錠をかけた。
それから騎士団の詰所に連れて行かれた僕は、嘘偽りなく全てを話した。
母親もお前が殺したんだろと笑いながら迫る騎士には殺意が芽生えたが、無力な僕は怯えた演技をしながら同情を誘いつつ否定した。
ただ僕の言い分は何一つ聞いてもらえない。
取り調べを担当したニヤケ面の赤髪騎士が言うには、貴族殺しは通常極刑らしい。親殺しを含めた殺人も極刑だ。
父は元貴族なので前者は当てはまらない。
ただ僕が十歳の子供だという事を加味されても相当重くなるに違いない。そう嬉々として告げられた。
ちなみに剣と魔法のファンタジー世界にあるこの国では、懲役や刑務所といった概念がない。
三日間の勾留の後、僕の処遇は決まったようだ。
軽犯罪者は強制労働か罰金処分、僕のような子供はと言えば、
「うむ。容姿も良い。元貴族の子だけあって栄養状態も申し分ない。これは高値で売れるぞ!」
必然的に犯罪奴隷に落とされる。
僕は今、首輪と手枷を嵌められ、騎士団の屯所にある牢から移送されるところである。
三日に渡る勾留期間を経て久しぶりに日の光を浴びたが、解放されるわけではない。
迎えに来たのは、髭が似合う恰幅がいい中年の男だ。
白髪混じりの頭髪にハットを被り、衣服は白シャツにベストを合わせ、更に上には仕立ての良い茶色のスーツを羽織っている。
取手部分が金属で加工された木製のステッキで地面を突き、しげしげと髭を触りながら僕を観察していた。
「
「いや、金が足りなくて受けてないらしい」
「なるほど、なるほど。まあ持っていなくても文句ない」
奴隷商と騎士のやり取りに興味が惹かれる。
「今すぐ私が引き取ろう。ラズ、馬車に載せろ」
「分かりやした。マルキスの旦那」
奴隷商人マルキスが呟くと、御者をしていた男が降りてきて僕の両脇に手を差し込んで持ち上げた。
彼は帯剣しているが、騎士ではない。統一感がない装備を身につけている。用心棒の類か。
「金があればなぁ、俺もコイツみたいなガキでヤッちまいたいが……」
男の獣欲に満ちた眼差しに僕は鳥肌が立った。生きる希望は無くしたが、流石に自分の行く末に不安を抱く。
この男のような性癖を持つ変態貴族の愛玩用ペットにされるのは御免だ。
ただこの場で暴れたら扱いが悪くなる。逃げ出せる明確な確証がなければ、動いても意味がない。
「おい、そいつは男だぞ」
引き渡し役の騎士の一人が引き気味に告げた。
「それが良いんすよ、騎士サマ。無垢な男のガキが一番良い……」
「妙な真似はするなよ、ラズ。さっさと仕事をしろ」
「へいへい」
奴隷商人マルキスが苦言を飛ばした。
ラズと呼ばれたガタイが良い男は持ち上げた僕を黒い布で隙間なく覆われた辻馬車の荷台に放り込む。
そこは檻だった。冷たい鉄で覆われた檻の中には、僕以外にも奴隷が十一人いた。
僕と同じ商品になる者達だけあって、皆生きる希望などないように暗い目をしている。
彼らは放り込まれた僕を一瞥しただけで、興味を示さなかった。
落ち着きなく必死に祈りを捧げる女性や盗賊の頭目のような風貌の男、目を閉じて動かない青年、体育座りをして膝の間に顔を埋めている子供と年齢層はバラバラだが、老人の類はいない。
奴隷達の様子を観察していると、御者の掛け声と共に馬車が発進した。
まだ逆転の目はある。僕の運命は決まっていない。
唯一の希望。
体感で十分弱走行した後、静かに馬車は停止した。
前には貴族街にある僕が暮らしていた邸宅より立派なレンガ造りの商館が鎮座している。
石畳で舗装された広い通りにあり、三階建ての重厚な店構えから奴隷商マルキスの格がまじまじと伝わってきた。
檻から出された奴隷達はラズの先導で両開き扉を潜り入店した。
絨毯が敷かれた床に、壁には絵が飾られており、内装も充実している。
「逃げようとしても良いが、その時は問答無用で剣を抜かせてもらう。顧客には身体が欠損した奴隷を所望される奴もいるからな。そうなりたいなら今すぐ言え」
ラズは奴隷達を冷徹に睥睨しながら口角を上げた。
何故か僕にウインクしてくる。
気持ち悪い。
「今回の仕入れは犯罪奴隷二人、後は借金奴隷だ。全員未鑑定」
別の馬車の客車から降りてきたマルキスは出迎えに来た髪を七三分けにしている店員にそう告げる。
店員は仕立ての良いタキシードを着ており、前世の高級ホテルを思い出す装いだった。
「鑑定士を呼べ。もし
「マルキス様。必要になると思って既に呼んでおります」
「ご苦労」
僕は唇を舐めた。
奴隷達はエントランスを抜け、一階にある別室に移動した。そこで手錠と首輪を奴隷商館にあった特別な物と取り換え、その後に
老人は椅子に浅く座っており、前にある卓の上に広げた書類にペンを使って記入していた。
「これはまた高値で売れそうな者達だ。マルキス殿、全員未鑑定かな?」
「そうだ、フロッド。始めてくれ」
「よぉし、全員で百二十万ゴールドで承った」
「……金の亡者が」
「嫌なら他の鑑定士に話を持っていくんだな。だが、儂と並ぶ七等級以上の鑑定の
「分かっている」
渋々マルキスはその申し出を受けた。店員を呼び寄せ、ぎっしり金貨が詰まった袋ごと渡した。
「金貨百二十枚丁度ある」
ちなみにお金の価値は簡単で、一万ゴールドで金貨一枚。千ゴールドで銀貨一枚。百ゴールドは銅貨一枚で、十ゴールドが鉄貨一枚だ。
整列した十一人程の奴隷達は一様に死んだような目をしているが、僕は違う。
恐らくキラキラと希望に目を輝かせているはずだ。
流石に転生者なのだから何か才能がないとやっていられない。
ここまでの不幸は、この瞬間のためにあったのだとそう信じたい。