二階堂ヨウは椎名ツムギを捕まえたい!   作:ペンナナ

3 / 3
椎名ツムギを自分のものにしようと頑張る研究者気質のヤンデレ後輩ちゃん物語、第三話です!


二階堂ヨウは椎名ツムギを捕まえたい!──第3話──

「ダメだ……何度考えてもわからない」

 

椎名ツムギの研究を始めてからしばらく経ったが、未だに彼女の性格を掴みかねていた。特に一番わからないのが、彼女が私に対して全く警戒心を懐いていないことである。そもそもオカルト関係に無遠慮に首を突っ込んでいたり、勝手に学園を抜け出し野宿していたりと警戒心が薄いと言われればそうなのだが……だからといって向

こうから私に接近してくるのは、理由がよくわからないのだ。

 

「き、昨日もなぜか移動教室で偶然出会ったときに話しかけてきたし……心臓が飛び出るかと思ったよ」

 

やはりもっと椎名ツムギの研究を進めるしかないようだ。ある夜、彼女はまたこっそり学園を出て、外でインスピレーション探しを始めた。そんな彼女の後をつけてこっそり学園を抜け出すのも今では慣れたものである。彼女はまた公園まで来て、星を見上げながらすっかり寝てしまった。

 

「全く……無警戒に寝ているな。人も少ないし、連れ去ってしまおうか?だが連れ込む先がないな……」

 

などと、私が犯行の手順を考えていると、向こうから大人と少女の二人組がやって来た。

 

「むぅ……人が来てしまったか」

 

まだ別に何をしている訳でもないが、私はとっさに茂みに姿を隠した。そして茂みからこっそり覗き込んでみれば、なんとその少女たちが起きたツムギと会話しているではないか。

 

「あれが……噂のシャーレの先生?それに、もう一人はアイリというのか」

 

会話を聞く限り、二人はツムギを探してここまで来たらしい。しかも、話を聞く限り謝肉祭で高い評価を取れそうな楽曲を教えて欲しいとのことだ。あろうことかツムギは曲を教えて、しかも助言までしており、二人は感謝して帰って行った。

二人が帰った後、私は茂みの中から姿を現し、ツムギに声をかける。

 

「……なんであんなよくわからない連中に手を貸すんだい?」

 

ツムギは急に私が現れたことにまるで驚く様子もなく、言葉を返す。

 

「……ふむ?まるで手を貸してはいけない理由があるみたいじゃないですか」

「君は自分の価値というものをわかっていないのか!君はチケットを売りステージに人を集める、いわばプロと言っても差支えない存在なんだぞ!いや、私にとってはその程度の言葉で表せる存在ではないが……それなのにあんな、よくわからんド素人に頼まれたからといって気軽に手を貸すだなんて……」

「彼女の物語にとって、彼女が初心者かどうかは関係ありませんので。アイリさんは真剣に悩み、私を探して、ついに見つけたのです。綺麗な物語のためにはその頑張りに報いるべきではありませんか────『ラブ&ピース』、の精神は大事ですので」

「博愛精神か……大したものだね」

「それに、彼女は音楽の楽しみ方を見つける過程にあります。そんな彼女の手助けになれるというならば、こんなに光栄なことはありませんので」

「音楽の楽しみ方……?」

「ええ、音楽は楽しんでこそですから……彼女が抱えている物を真に理解した時、飛び立つことができるでしょう。彼女にはそれだけの価値と魅力があります」

「少し話しただけなのに、彼女のこと随分と気に入ったみたいだね」

「勝手ながら私は彼女が美しい物語を紡ぐことを、期待しています」

 

私はぽっと出の女がツムギに気に入られているという事実から嫉妬に狂いそうになったが、彼女を狙ったところでツムギの楽曲に悪影響しか与えないことは明白なので、自分を制御してこの機会も研究に役立てることにした。

その日以来、私は定期的に学園を抜け出し、栗村アイリという少女について調べ始めた。彼女について調べることで、ツムギの価値観が分かる気がしたからだ。ワイルドハントを抜けてトリニティまで調べに行くのは骨が折れたが、今までツムギの調査をしていた経験からそんなに難しいことではなかった。

彼女は普通の生徒であり、彼女たちの部活はバンドの練習を順調に進めていき、初心者ながらも確実にバンドとして形になっていく。

 

(なるほど……確かに彼女たちの才能は中々のものだ……が、ツムギは彼女の音楽を聴かずに彼女の魅力を語っていた。つまりここはツムギにとって大事な部分ではないのか?)

 

他の部員が帰った後も、栗村アイリは一人練習を続けていた。先ほどやっていた部分がどうしても自分としては気に入っていないようだ。

 

「もっと……みんなに追いつけるように頑張らなきゃ!」

(……そういえば、私にもあんな時期あったな)

 

音楽家一家として、周囲から期待を寄せられたのに、上手く演奏できない自分に失望した時。辛くて苦しくてただひたすら練習していた時期。そんな時期もあった。彼女の姿は昔の私そっくりであった。

彼女のそんなひたむきさが気に入ったのか?だから私に大しても、優しく接してくれていたのか?そのような考察をしながらまた学園を抜け出したある日、栗村アイリだけいなかった。最初は風邪か何かだと思ったが、残った三人の会話からそれが違うとわかった。

 

「アイリは?」

「またいないや……」

「学校にも来てないもんね……連絡も繋がらないし」

(そうか……彼女はきっと自分が周囲に比べ遅れているという感覚に耐えられなくなったのか)

 

普段の考察は中々ピンとくる答えが見つからなかったが、今回だけは一瞬で理解できた。それは、自分も陥った経験のある絶望。自分だけ周囲に比べ劣っていると思い込み、回り全ての言葉が、自分自身が信じられず潰れてしまう現象。今では周囲に認められるほどに実績を積むことで天才を自称できるまでになったが、私だってもし今ある実績を失ってしまったら……

 

「くそっ!なんで私がこんなことを!」

 

気づけば私は走りだしていた。黄昏時のトリニティをがむしゃらに走って彼女の姿を探すが、どこまで走っても見つからない。

 

(ぐぐぐ!トリニティは広すぎる上に、私は地理感が無い!落ち着け。こういう時こそ、しばらく彼女を研究していた成果を出すんだ!今、彼女が行きたい場所は……)

 

一つ、たった一つだけ場所が思い浮かび、そこに賭けることにした。果たしてそこに彼女は……いた。ツムギとアイリが初めて会った公園。そこで彼女は一人泣いていた。

 

「……はぁ。やっぱりここにいたのか。しかしどうしたものかね。今のところ一方的に知っているだけの存在だ。ここで話しかけるのも変だし……」

 

マキ曰く、私のコミュニケーションは変らしいので、猶更話しかけるのはためらわれる。となるとやはり……

 

「これしか、ないか」

 

私はヴァイオリンを取り出し、クラシックを演奏をする。演奏するのはグリーグのペール・ギュント、第一組曲より『朝』。自律神経を整え心を落ち着ける効果があるとされる曲であり、私自身も落ち着きたいときによく演奏する曲だ。アイリは近場で突然演奏される曲が気になったのだろう。想定通りやってきた。一曲演奏し終えた後、私は彼女に声をかける。

 

「君、泣いているみたいだが大丈夫かい?」

「あ……すみません。でも、綺麗な音を聴いてたら、少し落ち着きました。私も、こんな綺麗な演奏ができたらなぁ……」

「……誰かを羨む気持ちはとてもわかる。自分が劣っているんじゃないかと焦る気持ちも。だが、そういう時は自分が何を持っているか確認してみるべきだよ」

「私が持っている……もの?」

「そうだ。君は果たして何も持っていないのか?自分が持っているモノを本当に全て使っているのか?」

「私が持っているモノなんて何も……」

「……私にはよくわからないが、バンドというのは一人じゃあないんじゃないのか?仲間と演奏している君の姿は、いつも一人で演奏している私には羨ましく見えたぞ」

「……みんな!……あれ?なんで私がバンドのことで悩んでるってわかったんですか?」

「おっと……話過ぎたかな。落ち着いたなら仲間の元に早く帰ってやることだな」

 

私はその場から去り、公園から出たところで向こうから走ってくる先生と蜂合わせた。

 

”はぁはぁ……黒髪が綺麗なチョコミント色の上着を着た女の子を見なかった?”

「……その少女なら、向こうの公園の方で見かけたよ。泣いていたみたいだから、早く行ってあげな」

”ありがとう!急いで行くよ!”

(果たしてこの大人に任せて大丈夫なものか……)

 

先生が走っていくのを見て、結局私は心配になって出戻り様子を見ていると、何か連絡が来たらしく二人は走って学園の方に走っていく。

 

「全く……今日はずっと走りっぱなしだな!」

 

トリニティ総合学園に着いた時は、どうやら大騒ぎになっていた。なんでも、栗村アイリの友人たちが優勝景品を狙って暴れたと。それで二人は呼び出されたらしい。今は手続きをして三人と会うために待機中だそうだ。

 

「全く……とんでもないことをする奴等だな。まぁ、誘拐監禁している私が言えたことではないが」

”君……もしかして追いかけてきたの?後ろからずっと気配するなって思ったけど”

 

木の裏に隠れていた私は先生に見つかってしまった。どうやら先生は思ったよりも鼻が利くようだ。私はとっさに誤魔化すために適当に言葉を返す。

 

「まぁ……ちょっと気になって」

”泣いてた子を気にして追いかけるなんて、優しい子だね。ワイルドハント生だよね。ダメ元で聞いてみるけれど、椎名ツムギって生徒と連絡取れたりしないかな?”

「……」

私はメモ帳にサラサラと一度も使ったことがない電話番号を書き、乱雑に破って紙を先生に渡す。

「この電話番号にかけて。私からはかけられないので」

”え……?まぁ、ここにかければツムギに繋がるってことだよね。ありがとう!君の名前は?”

「二階堂ヨウ。それが私の名前。それでは」

 

その後、聞き耳を立てる限りアイリと友人たちは和解し、いつの間にか到着したツムギは先生と話していた。細かい内容は覚えていない。走り続けた上に心配だらけだった私はアイリが立ち直った時点ですっかり疲れ果てて座り込んでしまった。どれほど時間が経っただろうか。茂みの裏でぼーっとしている私に声をかけたのは、ツムギであった。

 

「先生から聞きましたよ。あなたが電話番号を教えてくれたとか」

「勝手に教えたのは悪かったが、君を呼んだ方がいい気がしてね」

「感謝します。おかげで美しいものが見れました。あなたにとっても、素晴らしい1ページになったのではないでしょうか?ヨウさん」

「さぁね……ただ、昔を思い返すことができたよ」

昔、全然上手くいかなくて悔しくて、それでも努力して楽しくなるまで頑張った1ページ。バンドを組んでいた彼女には彼女なりの辛さがあっただろうが、彼女なりの立ち直りができたみたいだ。

「それにしても、別にあなたから直接電話してくれればよかったのに」

「……君は何を考えてるんだい?私に呼び出された場所なんて十中八九罠に決まっているだろう?」

「あなたはそんなに悪い人には見えませんから。純粋な好奇心が強いだけで」

「犯罪者相手に何を言ってるのか……」

「おや?アイリさんの友達も犯罪をしようとしましたが、それでも彼女の最高の友人ですよ?」

「それはまた色々違うだろう……」

「ふふっ、あなたがなぜ私がアイリさんのことを気にかけているのか聞いた時、楽しみを見つける過程にあるからというのは説明したと思います」

「そうだね」

「そして私の予想通り、彼女は音楽を通じて素晴らしい光となりました。今の彼女ならきっと音楽を楽しめるはずです」

「まぁ、そこは同意するよ」

「それと同じように、私はあなたがとても楽しそうで光を感じたから気に入ったんです」

「楽しそうだから……?」

「ええ、私と話している時のあなたは、音楽を語る時のあなたは、誰よりも楽しそうだったので。だから、また今度あなたの音楽を聴かせてくださいね。ずっと楽しみにしてるんですよ?」

「なっ!?」

 

彼女からどう思われているか理解すると同時に、自分の音楽を楽しみにしていると言われてしまい顔が熱くなる。どうやら彼女からの好感度は思っている以上に高かったようだ。

 

「さて、それじゃあ帰りましょうか。それとも、今日はトリニティで野宿してみますか?」

「き、君はだから警戒心が無いのか!私に攫われても知らないよ!?」

 

私はツムギと並んでワイルドハントに帰っていく。アイリたちはもう大丈夫だろうと互いに確信していたのか、自然と帰っていく間話題には出なかった。




気が向いたら評価お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生ワンオペゲマトリア黒服概念(作者:地霊殿の壁)(原作:ブルーアーカイブ)

タイトル通り、元先生、現ゲマトリアの黒服となった憑依転生者がたった一人の(ワンオペ)ゲマトリアとして、全方位ヘイトタンク兼世界の調整役としての責務を果たすだけの話。▼その結果、極少数を除く全世界から身に余る程の憎悪と殺意、そして嫌悪感を抱かれようとも───▼-作品・更新情報-▼{更新中}


総合評価:4165/評価:8.65/連載:9話/更新日時:2026年10月13日(火) 23:01 小説情報

あの子だけ先生との距離感がおかしい!!(作者:炊き込みご飯くん)(原作:ブルーアーカイブ)

「では、先生へのサービスとして、少し大胆なポーズはいかがでしょう」▼「き、際どすぎるッ!! 男の夢だよッ!!」▼先生が、ある一人の美少女にだけ距離を縮め、衣装を褒め、際どいポーズにまで大喜びしている。▼どうして、あの子にだけ。どうして、私たちには見せない顔をするのか。▼誰も知らない、その子が男の娘なのだとッ!!▼キヴォトス唯一の男子生徒が、まさかの重度の女装…


総合評価:7124/評価:8.73/連載:7話/更新日時:2026年08月04日(火) 00:26 小説情報

成り代わりセイアは未来が分からない(作者:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。)(原作:ブルーアーカイブ)

なお本人はかなり楽観的。それに加えてセイアエミュのクオリティはお察しのため順調に原作と異なるルートを辿っている模様。


総合評価:10874/評価:8.9/連載:10話/更新日時:2026年11月02日(月) 15:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>