魔法科高校の剣聖   作:1番道路

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剣也との手合わせを希望していた千葉エリカ。

名門千葉家の剣士である彼女は、世界的な剣聖の実力を自分の目で確かめようとする。

一方、剣也にとっても、同年代の剣士との交流は高校生活の楽しみの一つだった。


第六話 入学編Ⅵ 剣聖と千葉の剣士

四月七日。

 

第一高校では、新入部員勧誘週間が続いていた。

 

昨日に比べれば、生徒たちも少しずつ落ち着きを取り戻している。

 

とはいえ、各部活動の勧誘活動は依然として活発だった。

 

そんな日の昼休み。

 

「剣也!」

 

一年A組の教室に、元気な声が響いた。

 

剣也が顔を上げる。

 

入口には千葉エリカが立っていた。

 

「よう、エリカ」

 

「ちょっと時間ある?」

 

「昼休みならあるけど」

 

「じゃあ、来て!」

 

「……どこに?」

 

「いいから!」

 

エリカは楽しそうに笑った。

 

剣也は隣の雫へ視線を向ける。

 

「ちょっと行ってくる」

 

「うん」

 

雫は頷いた。

 

そして、エリカを見る。

 

「千葉さん」

 

「ん?」

 

「剣也、午後も風紀委員の仕事があるから」

 

「分かってるわよ。長くは取らないから」

 

「なら、いい」

 

剣也は思わず笑った。

 

「雫、俺の予定管理してるみたいだな」

 

「約束を忘れそうだから」

 

「忘れないって」

 

「本当?」

 

「……たぶん」

 

「ほら」

 

雫は小さく頷いた。

 

エリカが吹き出す。

 

「あはは! 何それ、もう夫婦みたいじゃない!」

 

「は?」

 

剣也が目を丸くする。

 

雫も僅かに動きを止めた。

 

「……違う」

 

「分かってるわよ、冗談!」

 

エリカは笑いながら剣也を連れ出した。

 

◇◇◇

 

剣道場。

 

そこには、何人かの生徒が集まっていた。

 

達也、レオ、美月。

 

そして剣道部の上級生たちだった。

 

「……なるほど」

 

剣也は周囲を見渡した。

 

「こういうことか」

 

エリカが胸を張る。

 

「そういうこと!」

 

「手合わせの約束、今日だったか?」

 

「今日がいいかなって」

 

「随分急だな」

 

「嫌?」

 

「いや、別に」

 

剣也は笑った。

 

「場所の使用許可は?」

 

「取ってあるわよ」

 

「なら問題ないな」

 

達也が近づいてくる。

 

「九條」

 

「よう、司波」

 

「エリカに頼まれて立会人をすることになった」

 

「そうなのか」

 

「ああ」

 

達也はエリカへ視線を向けた。

 

「ただ、無理はするなよ」

 

「分かってるって!」

 

エリカは少し不満そうに答えた。

 

剣也は苦笑する。

 

「大丈夫だよ。危ないことはしない」

 

「お前がそう言うなら安心だが」

 

「信用されてるな」

 

「少なくとも、技量についてはな」

 

剣也は笑った。

 

◇◇◇

 

道場の中央。

 

剣也とエリカが向かい合う。

 

二人の手には木刀が握られていた。

 

魔法は使用しない。

 

純粋な剣術による手合わせである。

 

「準備はいい?」

 

エリカが尋ねた。

 

「ああ」

 

「じゃあ、遠慮なくいくわよ!」

 

「どうぞ」

 

剣也は自然体で立っていた。

 

構えらしい構えはない。

 

木刀を片手で軽く保持し、相手を見ている。

 

エリカは目を細めた。

 

(……隙だらけ?)

 

いや。

 

違う。

 

一見すると無防備。

 

しかし、どこから攻めても対応されるような感覚がある。

 

(何よ、これ……)

 

エリカは息を整えた。

 

そして踏み込む。

 

鋭い斬撃。

 

千葉家で鍛えられた剣技だった。

 

だが。

 

「……っ!」

 

木刀が空を切った。

 

剣也は僅かに身体を動かしただけだった。

 

大きく避けたわけではない。

 

ほんの数センチ。

 

それだけで、エリカの攻撃は完全に外れていた。

 

「まだまだ!」

 

エリカは連続して斬り込む。

 

上段。

 

袈裟。

 

横薙ぎ。

 

突き。

 

いずれも鋭い。

 

普通の高校生であれば、最初の一撃すらまともに捉えられないだろう。

 

しかし剣也は、すべてを最小限の動作で回避していた。

 

時には木刀で受け流し。

 

時には足運びだけで間合いを外す。

 

そして。

 

「ここ」

 

剣也の木刀が、エリカの肩口へ軽く触れた。

 

「……!」

 

エリカが動きを止める。

 

一本。

 

明確な決着だった。

 

◇◇◇

 

「……参ったわ」

 

エリカは大きく息を吐いた。

 

剣也は木刀を下ろす。

 

「いい動きだったよ」

 

「慰め?」

 

「いや、本心」

 

剣也は首を振った。

 

「踏み込みも速いし、連撃のつなぎも上手い。千葉家の剣術って、やっぱりよくできてるな」

 

エリカは少し驚いた。

 

「……本当にそう思う?」

 

「ああ」

 

剣也は頷いた。

 

「ただ、攻撃するときに少し重心が前へ出すぎる癖があるな」

 

「重心?」

 

「うん。速く踏み込もうとして、次の動作への余裕が少なくなってる」

 

エリカは考え込んだ。

 

「……なるほど」

 

「まあ、エリカの戦い方なら、それを利用する手もあるけど」

 

「例えば?」

 

剣也は木刀を構えた。

 

「こういう感じ」

 

次の瞬間。

 

剣也の身体が滑るように前へ進んだ。

 

踏み込みは鋭い。

 

しかし、重心は崩れていない。

 

一撃を放つ直前で動きを止め、そのまま反対方向へ切り返す。

 

「……すご」

 

エリカが呟いた。

 

「これなら、攻撃が外れても次につなげやすいだろ」

 

「確かに……」

 

エリカは真剣な表情で頷いた。

 

「もう一回、お願い!」

 

「いいよ」

 

二人は再び向かい合った。

 

◇◇◇

 

道場の隅。

 

レオが呆然と呟いた。

 

「……何だ、あれ」

 

美月も驚いていた。

 

「すごいですね……」

 

達也は静かに二人を見ていた。

 

(……なるほど)

 

九條剣也。

 

世界的な剣聖。

 

その異名が単なる誇張ではないことは、既に知っていた。

 

しかし、実際の剣技を目の当たりにすると、改めて異常さが分かる。

 

剣也の動きには、無駄がない。

 

それだけではない。

 

相手の動作を読み、必要な位置へ必要なだけ移動する。

 

しかも、その判断が極めて速い。

 

魔法による補助は一切ない。

 

純粋な身体操作と剣術。

 

(……これが剣聖か)

 

達也は僅かに目を細めた。

 

エリカの実力も高い。

 

しかし、剣也との間には明確な差があった。

 

そして剣也は、その差を見せつけるために戦っているわけではない。

 

エリカが学べるよう、動きを調整している。

 

(教えるのも上手いな)

 

達也はそう評価した。

 

◇◇◇

 

手合わせが終わった頃。

 

剣道場の入口から声がした。

 

「……随分と楽しそうだな」

 

渡辺摩利だった。

 

「渡辺先輩」

 

剣也が振り返る。

 

摩利は道場の中央を見た。

 

「九條。エリカと手合わせしていたのか」

 

「はい」

 

「そうか」

 

摩利の口元に笑みが浮かんだ。

 

「私との約束も忘れていないだろうな?」

 

「もちろんですよ」

 

「なら、近いうちに頼むぞ」

 

「ええ」

 

摩利は満足そうに頷いた。

 

エリカが横から口を挟む。

 

「渡辺先輩も剣也と手合わせするんですか?」

 

「ああ」

 

「……大変ですよ」

 

「分かっている」

 

摩利は笑った。

 

「だからこそ、楽しみなんだ」

 

剣也は苦笑した。

 

(……本当に剣士って、こういう人が多いよな)

 

もっとも。

 

自分も同類であることは、否定できなかった。

 

◇◇◇

 

放課後。

 

剣也が教室へ戻ると、雫が待っていた。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

「どうだった?」

 

「何が?」

 

「千葉さんとの手合わせ」

 

「ああ。楽しかったよ」

 

雫は頷いた。

 

「そう」

 

「エリカ、結構強いな」

 

「剣也がそう言うなら、相当なんだね」

 

「そうだな」

 

雫は少し考えた。

 

「私も見てみたかった」

 

「俺の剣術?」

 

「うん」

 

剣也は笑った。

 

「なら、今度見せるよ」

 

「本当?」

 

「ああ」

 

「約束」

 

「了解」

 

雫は満足そうに微笑んだ。

 

その表情を見て、剣也も自然と笑みを浮かべる。

 

高校生活が始まって、まだ数日。

 

それでも、彼の日常は少しずつ賑やかになっていた。

 

そして。

 

それは剣也にとって、決して悪い変化ではなかった。




第六話では、剣也の純粋な剣術を中心に描きました。

剣也は魔法なしでも世界最高峰の剣士であり、相手に合わせて戦い方を変えられる万能型です。

エリカとの交流、摩利との手合わせの約束も今後につながります。
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