そこへ達也とほのかも加わり、四人は魔法理論について意見を交わすことになる。
戦闘とは異なる場面で、それぞれの才能が発揮されていく。
四月八日。
第一高校。
放課後の校内は、新入部員勧誘週間の喧騒が少しずつ収まり始めていた。
そんな中、校内の共有学習スペースに四人の生徒が集まっていた。
九條剣也。
北山雫。
光井ほのか。
そして司波達也。
「それじゃ、始めようか」
剣也が言った。
雫は頷く。
「うん」
ほのかは少し緊張した様子だった。
「何だか、本格的な研究会みたいだね」
「そんな大げさなものじゃないよ」
剣也は笑った。
「気になったことを話し合うだけだし」
達也が端末を操作する。
「まず、何から始める?」
「振動系魔法について考えてたんだ」
雫が答えた。
画面には、以前から彼女が検討していた演算モデルが表示されている。
複数対象への振動系魔法の同時作用。
その際に生じる演算負荷を、どのように軽減するか。
剣也は画面を見ながら説明した。
「基本的な考え方は、共通する処理をまとめることだな」
達也が頷く。
「なるほど。対象ごとに独立した処理を行うより、共通部分を利用する方が効率的というわけか」
「そう。ただし、対象ごとの条件が違いすぎると逆効果になる」
雫が補足した。
「だから、共通処理と個別処理を分けてみた」
「見せてもらっていいか?」
達也が尋ねる。
「うん」
雫は端末を差し出した。
達也はしばらく画面を眺めていた。
そして。
「……面白いな」
「どう?」
「基本構造は合理的だと思う。ただ、ここは処理の順番を変えた方がいいかもしれない」
達也が指摘した部分を、雫が確認する。
「……なるほど」
剣也も画面を覗き込んだ。
「ああ、確かに。司波の言うとおりだな」
「そうか?」
「うん。俺は別の部分を見てたから、そこは気づかなかった」
達也は僅かに目を細めた。
「お前でも見落とすことがあるんだな」
「そりゃあるだろ」
剣也は笑った。
「万能って言われても、何でも最初から知ってるわけじゃないし」
雫が頷いた。
「だから、話し合う意味がある」
「そういうこと」
◇◇◇
しばらくして。
話題は、CADの役割へ移っていた。
「剣也って、本当にCADなしで現代魔法を使えるんだよね?」
ほのかが尋ねた。
「ああ」
「どういう感覚なの?」
「どういう感覚か……」
剣也は少し考えた。
「難しいな」
「剣也でも説明しにくいんだ」
「できることと、説明できることは別だからな」
達也が口を開いた。
「CADを使わずに起動式を構築する場合、演算処理はどうなる?」
「俺の場合は、必要な情報を直接組み立てる感じだな」
「……直接?」
「ああ。もちろん、普通の魔法師が使う魔法式と原理的に無関係ってわけじゃない」
剣也は端末へ簡単な図を描いた。
「CADは起動式を供給して、魔法式の構築を補助するだろ」
「そうだな」
「俺はその補助がなくても、必要な構造を組み立てられる」
達也は考え込んだ。
「つまり、起動式の供給過程を外部装置に依存しないわけか」
「そんなところ」
「……興味深い」
達也の目が真剣になる。
雫も同じだった。
ほのかは二人を見比べる。
「……何だか、すごい話になってきたね」
剣也は笑った。
「ほのかも分からないところがあったら聞いてくれよ」
「うん!」
◇◇◇
研究会は、予想以上に盛り上がった。
振動系魔法。
CADの起動式。
魔法式の構築。
複数魔法の同時制御。
それぞれが得意とする分野について、意見を交わしていく。
特に剣也と達也の議論は、時折かなり高度な内容へ発展した。
「その場合、干渉力の配分はどうする?」
達也が尋ねる。
「対象ごとに変える。全部を同じ出力にする必要はないだろ」
「なるほど。だが、それでは演算負荷が増える」
「そこは共通処理を利用する」
「……そういうことか」
雫が静かに聞いていた。
そして、あるところで口を開いた。
「でも、それだと精度が落ちる可能性がある」
剣也が振り返る。
「どこ?」
雫は画面を指した。
「ここ」
剣也は数秒考えた。
「……ああ」
達也も頷いた。
「確かに」
雫は小さく微笑んだ。
「よかった」
「いや、助かったよ」
剣也は素直に言った。
「俺と司波、効率ばっかり考えてたな」
「そうだな」
達也も認めた。
ほのかが笑う。
「雫、すごい!」
「別に」
雫は首を振った。
「二人が話してたから気づいただけ」
「それが大事なんだよ」
剣也が言った。
「一人で考えてたら、気づかないこともあるからな」
雫は剣也を見た。
「……うん」
◇◇◇
夕方。
研究会は一区切りを迎えた。
「今日はここまでにするか」
剣也が言った。
達也は端末を閉じる。
「ああ。十分な収穫があった」
「司波がそう言うならよかった」
「お前の話も参考になった」
「俺もだよ」
二人は軽く笑った。
ほのかが伸びをする。
「はあ……頭使った!」
雫は端末を見つめていた。
「……楽しかった」
剣也が振り返る。
「雫?」
「また、やりたい」
「もちろん」
剣也は即答した。
「俺も楽しかったし」
雫は小さく頷いた。
「じゃあ、また」
「約束な」
「うん」
◇◇◇
帰り道。
剣也と雫は、少しだけ二人で歩いていた。
ほのかは別の用事で先に帰り、達也も風紀委員会の報告へ向かったためだ。
「剣也」
「ん?」
「今日、ありがとう」
「何が?」
「研究会」
「ああ」
剣也は笑った。
「俺も楽しかったよ」
雫は少し考えた。
「剣也って、すごい魔法師なのに」
「うん?」
「人の話をちゃんと聞くよね」
剣也は首を傾げた。
「普通じゃないか?」
「そうでもないと思う」
「そうかな」
「うん」
雫は静かに答えた。
「自分の考えが正しいって決めつける人もいるから」
「まあ、いるだろうな」
剣也は頷いた。
「でも、俺が知らないことなんて山ほどあるし」
「……うん」
「それに、雫の考え方は面白いよ」
雫が顔を上げた。
「私の?」
「ああ。細かいところまでよく見てるし、簡単に結論を出さないだろ」
「そうかな」
「そうだよ」
剣也は笑った。
「だから、一緒に研究してて楽しい」
雫はしばらく黙っていた。
そして。
「……私も」
小さく答えた。
「剣也と話すの、楽しい」
その言葉に、剣也は自然と笑みを浮かべた。
「そっか。よかった」
二人は再び歩き始めた。
春の夕暮れ。
まだ出会って一週間も経っていない二人。
それでも、互いにとって話しやすい相手になり始めていた。
その関係がどのように変化していくのか。
今はまだ、誰にも分からなかった。
第七話では、剣也・雫・達也・ほのかによる魔法研究を描きました。
剣也は万能型の天才ですが、他人の意見を尊重し、研究を通じて学ぶ姿勢も持っています。
雫との関係も、共通の興味を通じて少しずつ深まっていきます。