魔法科高校の剣聖   作:1番道路

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風紀委員長の渡辺摩利は、以前から剣也との手合わせを希望していた。

世界的な剣聖と、第一高校屈指の武術家。

二人の模擬戦は、単なる勝敗を超えた技術交流となる。


第八話 入学編Ⅷ 風紀委員長の挑戦

四月九日。

 

第一高校。

 

休日の校内は、平日とは違った静けさに包まれていた。

 

もっとも、すべての生徒が休んでいるわけではない。

 

部活動の練習。

 

自主的な魔法訓練。

 

そして、風紀委員会の活動。

 

その一角にある演習施設では、少し変わった集まりが開かれようとしていた。

 

「……本当にやるんですね」

 

剣也が言った。

 

目の前には渡辺摩利が立っている。

 

「当然だ」

 

摩利は笑った。

 

「約束しただろう?」

 

「しましたけど」

 

「何だ。不満か?」

 

「いや、むしろ楽しみですよ」

 

剣也は肩をすくめた。

 

「ただ、渡辺先輩も忙しいでしょうに」

 

「時間は作るものだ」

 

「なるほど」

 

剣也は笑った。

 

「それは正論ですね」

 

◇◇◇

 

演習施設には、数人の見学者がいた。

 

七草真由美。

 

市原鈴音。

 

司波達也。

 

そして千葉エリカ。

 

「いやあ、楽しみね!」

 

エリカは明らかに興奮していた。

 

「渡辺先輩と剣也の手合わせなんて、滅多に見られないわよ!」

 

達也は静かに頷いた。

 

「そうだな」

 

真由美が微笑む。

 

「摩利ったら、随分張り切っているのよ」

 

鈴音は端末を操作していた。

 

「安全管理は確認済みです。双方の実力を考慮し、魔法使用を制限した模擬戦とします」

 

「ありがとうございます、市原先輩」

 

剣也が頭を下げた。

 

鈴音は頷く。

 

「今回は技術交流が目的です。勝敗にこだわりすぎないようお願いします」

 

「もちろんです」

 

摩利も頷いた。

 

「分かっている」

 

◇◇◇

 

演習場中央。

 

剣也と摩利が向かい合った。

 

双方の手には、訓練用の武器が握られている。

 

今回は魔法を使用しない。

 

純粋な武術による手合わせだった。

 

「準備はいいか?」

 

摩利が尋ねる。

 

「いつでも」

 

剣也は自然体で立っていた。

 

摩利はその姿を見て、目を細めた。

 

(……なるほど)

 

世界的な剣聖。

 

その異名は知っている。

 

だが、実際に向かい合うと、改めて異様さが分かる。

 

構えに隙がない。

 

いや。

 

正確には、構えそのものが定まっていない。

 

どの方向にも動ける。

 

どの攻撃にも対応できる。

 

そんな印象だった。

 

「……面白い」

 

摩利は笑った。

 

「では、行くぞ!」

 

踏み込み。

 

鋭い攻撃。

 

第一高校の風紀委員長にふさわしい、洗練された武術だった。

 

しかし。

 

剣也は動かない。

 

いや。

 

動いていないように見えるだけだった。

 

ほんの僅かな重心移動。

 

それだけで、摩利の攻撃は空を切った。

 

「……っ!」

 

摩利は即座に切り返す。

 

剣也はそれを受け流した。

 

木製の訓練武器が軽く触れ合う。

 

乾いた音が響いた。

 

「なるほど……!」

 

摩利の目が輝いた。

 

「これが剣聖の技か!」

 

「まだ始まったばかりですよ」

 

剣也は笑った。

 

◇◇◇

 

数分後。

 

摩利は大きく息を吐いた。

 

「……参った」

 

剣也は武器を下ろす。

 

「ありがとうございました」

 

「こちらこそだ」

 

摩利は笑った。

 

「いや、予想以上だった」

 

「そうですか?」

 

「ああ」

 

摩利は頷いた。

 

「正直に言えば、技量の差は覚悟していた。だが、ここまでとはな」

 

剣也は少し困ったように笑った。

 

「渡辺先輩も相当強いですよ」

 

「慰めは不要だ」

 

「本心です」

 

剣也は真面目に答えた。

 

「攻撃の組み立ても、間合いの取り方も優秀でした。特に相手の動きを誘導する技術は、かなり高度です」

 

摩利は少し驚いた。

 

「……ほう」

 

「ただ、俺に対しては少し慎重になりすぎてましたね」

 

「それは仕方ないだろう」

 

「まあ、そうかもしれません」

 

二人は笑った。

 

◇◇◇

 

見学していたエリカが駆け寄ってきた。

 

「すごかった!」

 

「ありがとう」

 

剣也が答える。

 

「渡辺先輩も、やっぱり強いですね!」

 

「ああ」

 

摩利は頷いた。

 

「だが、九條には遠く及ばんな」

 

「それは……まあ」

 

エリカは苦笑した。

 

「私もこの前、思い知らされましたから」

 

達也が近づいてくる。

 

「九條」

 

「ん?」

 

「今の手合わせ、非常に参考になった」

 

「そうか?」

 

「ああ。特に、相手の動きに対する反応がな」

 

剣也は少し笑った。

 

「司波なら、別の方法で対応するんだろうな」

 

「そうかもしれない」

 

達也は頷いた。

 

「お前とは戦い方が違うからな」

 

「だな」

 

二人は互いに笑った。

 

◇◇◇

 

その後。

 

真由美が剣也へ声をかけた。

 

「九條君」

 

「はい」

 

「あなた、本当に何でもできるのね」

 

「何でもってわけじゃないですよ」

 

「でも、剣術も魔法も世界最高峰なんでしょう?」

 

「まあ、得意ではありますけど」

 

真由美は楽しそうに笑った。

 

「随分控えめなのね」

 

「自分で自分を褒めても仕方ないですし」

 

「ふふっ」

 

真由美は少し考えた。

 

「ところで、九條君」

 

「何ですか?」

 

「九校戦には興味ある?」

 

剣也は首を傾げた。

 

「九校戦ですか?」

 

「ええ」

 

全国九つの魔法科高校が競い合う、魔法競技の大会。

 

第一高校にとっても重要な行事である。

 

「まあ、興味はありますよ」

 

「そう」

 

真由美は微笑んだ。

 

「なら、いずれ詳しく話しましょう」

 

剣也は頷いた。

 

「分かりました」

 

ただし、この時点で出場競技が決まったわけではない。

 

剣也の実力だけでなく、競技規則や他の選手との兼ね合いも考慮する必要がある。

 

真由美も、それを理解していた。

 

◇◇◇

 

夕方。

 

剣也は帰宅の準備をしていた。

 

端末に通知が届く。

 

差出人は雫だった。

 

『今日の練習、どうだった?』

 

剣也は少し笑った。

 

『楽しかったよ。渡辺先輩、かなり強かった』

 

すぐに返信が来た。

 

『剣也がそう言うなら、すごい人なんだね』

 

『そうだな』

 

少し間が空く。

 

そして。

 

『今度、私にも見せて』

 

剣也は笑った。

 

『もちろん。約束してたしな』

 

『うん。楽しみ』

 

短いやり取りだった。

 

だが、剣也にとっては心地よい時間だった。

 

「……さて」

 

端末を閉じる。

 

「帰るか」

 

剣也は演習施設を後にした。

 

剣聖としての実力。

 

魔法師としての才能。

 

九條家の後継者としての立場。

 

それらは彼にとって、切り離せないものだった。

 

しかし。

 

今、彼が楽しみにしているのは、友人たちと過ごす高校生活だった。

 

そして、その日常はまだ始まったばかりだった。




第八話では、剣也と摩利の手合わせを描きました。

剣也の圧倒的な技量を維持しつつ、摩利の実力や経験も尊重しています。

また、九校戦への伏線を配置しました。出場競技については、今後の物語で合理的に決定していきます。
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