魔法科高校の剣聖   作:1番道路

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第一高校での生活が始まり、一週間。

剣也は京都の九條家本邸で、祖父の宗玄と高校生活について語り合う。

一方、九條家と四葉家の親密な関係は、表に出ないところでも続いていた。


第九話 入学編Ⅸ 剣聖の休日

四月十日。

 

京都。

 

九條家本邸。

 

広大な日本庭園には、春の穏やかな空気が漂っていた。

 

その一角にある道場で、九條剣也は木刀を振っていた。

 

「……ふっ」

 

鋭い一閃。

 

続けて、返す刀。

 

足運びは滑らかで、重心に乱れがない。

 

魔法は使っていない。

 

純粋な剣術。

 

しかし、その完成度は常人の理解を超えていた。

 

数十回の素振りを終えたところで、剣也は木刀を下ろした。

 

「……こんなところか」

 

そのとき。

 

「相変わらず見事じゃな」

 

背後から声がした。

 

「爺さん」

 

九條宗玄だった。

 

九條家現当主。

 

日本古式魔法界の盟主にして、元老院の有力者。

 

国家の裏側にまで影響力を持つ人物である。

 

しかし、孫の前では気さくな祖父だった。

 

「おはよう、剣也」

 

「おはよう」

 

宗玄は道場へ足を踏み入れた。

 

「高校生活はどうじゃ?」

 

「楽しいよ」

 

剣也は即答した。

 

宗玄は少し驚いたように眉を上げる。

 

「ほう。随分と早い返事じゃな」

 

「実際、楽しいからな」

 

「友人はできたか?」

 

「ああ」

 

剣也は笑った。

 

「結構できたよ」

 

「それは何よりじゃ」

 

宗玄は満足そうに頷いた。

 

◇◇◇

 

朝食後。

 

剣也と宗玄は、庭園に面した部屋で茶を飲んでいた。

 

「それで、風紀委員になったそうじゃな」

 

「ああ」

 

「渡辺摩利という娘が委員長だったか」

 

「知ってるのか?」

 

「名前くらいはな」

 

宗玄は笑った。

 

「なかなか優秀な武術家と聞いておる」

 

「実際、強かったよ」

 

「ほう。手合わせしたのか」

 

「昨日な」

 

宗玄は興味深そうに身を乗り出した。

 

「どうじゃった?」

 

「技量も高いし、判断力もある。いい剣士だった」

 

「お前がそう評価するなら、相当じゃな」

 

「そうだな」

 

宗玄は満足そうに頷いた。

 

「よい経験になったようじゃ」

 

「まあな」

 

剣也は茶を一口飲んだ。

 

「あと、司波って奴が面白い」

 

宗玄の手が、ほんの僅かに止まった。

 

「……ほう」

 

「前にも話しただろ」

 

「ああ。覚えておる」

 

「昨日も色々話したけど、魔法理論にかなり詳しいんだよ」

 

宗玄は静かに聞いていた。

 

「普通の魔法師とは、考え方が少し違う」

 

「そうか」

 

「それに、実戦能力も高い」

 

宗玄は頷いた。

 

「お前が認めるほどか」

 

「ああ」

 

剣也は笑った。

 

「友達になれそうだよ」

 

その言葉に、宗玄は穏やかな表情を浮かべた。

 

「それはよかった」

 

彼は、司波達也の背後にある事情をある程度知っている。

 

四葉家。

 

そして、四葉真夜。

 

だが、その秘密を孫へ伝えるつもりはなかった。

 

剣也が達也を一人の友人として評価している。

 

それで十分だった。

 

◇◇◇

 

「ところで」

 

宗玄が口を開いた。

 

「北山家の娘とは、どうなっておる?」

 

剣也は眉をひそめた。

 

「……何だよ、急に」

 

「気になっただけじゃ」

 

「普通に仲良くしてるよ」

 

「ほう」

 

「魔法研究とか、一緒にやってる」

 

「ほほう」

 

「……その顔やめろって」

 

宗玄は愉快そうに笑った。

 

「何も言っておらんぞ」

 

「顔が言ってる」

 

「気のせいじゃ」

 

「絶対違うだろ」

 

二人は笑い合った。

 

宗玄は茶を置く。

 

「まあ、よい。大切にすることじゃ」

 

「何を?」

 

「友人との縁を、じゃよ」

 

宗玄の声が少し穏やかになった。

 

「お前は生まれながらにして、多くのものを持っておる」

 

「……ああ」

 

「才能、家柄、立場。望まずとも、人はお前を特別な存在として扱う」

 

剣也は黙って聞いていた。

 

「じゃが、そうしたものを抜きにして付き合える相手は、決して多くない」

 

宗玄は孫を見た。

 

「大事にするのじゃぞ」

 

剣也は小さく笑った。

 

「分かってるよ」

 

◇◇◇

 

同日午後。

 

九條家本邸の書斎。

 

宗玄は一人、通信端末を操作していた。

 

画面には、四葉真夜からの連絡が表示されている。

 

九條家と四葉家。

 

両家は長年にわたって親密な友好関係を維持してきた。

 

九條家は古式魔法界の盟主であり、元老院にも強い影響力を持つ。

 

四葉家は、日本最強格の特殊戦力を保有する名門。

 

政治力や組織力では九條家が一段上に位置するものの、両家は互いを独立した名門として尊重していた。

 

「……ふむ」

 

宗玄は通信内容を確認した。

 

共同研究に関する連絡。

 

そして、近況についての短い挨拶。

 

宗玄は返信を作成する。

 

『共同研究の件、承知した。詳細は担当者同士で調整させよう』

 

少し考えた後、文章を加えた。

 

『剣也も第一高校での生活を楽しんでおる。そちらの子供たちも、健やかに過ごしておることを願う』

 

送信。

 

宗玄は椅子にもたれた。

 

「……さて」

 

窓の外へ視線を向ける。

 

「若い者たちの時代、か」

 

彼は小さく笑った。

 

◇◇◇

 

夕方。

 

剣也は自室で端末を操作していた。

 

画面には、雫から届いた研究資料が表示されている。

 

振動系魔法の演算モデル。

 

先日の議論を踏まえ、さらに改良されたものだった。

 

「……へえ」

 

剣也は感心した。

 

「もうここまで進めたのか」

 

返信を送る。

 

『資料見たよ。かなりよくなってるな』

 

すぐに返事が来た。

 

『ありがとう。まだ気になるところがある』

 

『どこ?』

 

『対象ごとの微調整』

 

『ああ、そこか』

 

剣也は少し考えた。

 

『明日、学校で一緒に考えるか?』

 

数秒後。

 

『うん。お願い』

 

剣也は笑った。

 

『了解』

 

端末を閉じる。

 

窓の外では、夕日が庭園を赤く染めていた。

 

「……明日も楽しみだな」

 

剣也は小さく呟いた。

 

世界的な剣聖。

 

九條家の後継者。

 

国家の権力中枢にもつながる少年。

 

だが、今の彼が楽しみにしているのは、友人と魔法研究をすることだった。

 

そんな普通の高校生活を、彼は心から楽しんでいた。




第九話では、九條家の日常と宗玄の人物像を描きました。

九條家と四葉家の関係は、これまでの設定どおり親密な友好関係です。

また、宗玄は達也と四葉家の関係をある程度把握していますが、剣也には秘密を明かしていません。
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