その目に映る未来は、ひとつではない 作:並行世界とかという概念最高
その少年を探して
佐々木未来は、何度目になるかわからない資料の束を机に置いた。
紙の端が揃っていない。
普段なら気になるはずの些細な乱れを、今の彼は直そうともしなかった。
頭の中に焼きついているのは、ひとつの未来だった。
オールマイトの死。
何度確認しても、何度考え直しても、そこへ至る道筋は変わらない。彼の個性が示した未来は、あまりにも明瞭で、そして残酷だった。
未来を予知する。
それが佐々木未来の持つ個性であり、ヒーローとして活動するうえで、幾度となく仲間を救ってきた力だった。
しかし、今回ばかりは違った。
見えた未来を変えられない。
変えようとするほど、予知の結果に縛られていく。
彼はその現実を受け入れられなかった。
「……何か、方法があるはずだ」
呟きは、誰に聞かせるものでもなかった。
机の上には、いくつかの調査資料が広げられている。個性に関する記録、過去の事件報告、医療機関から得られた情報。そして、信憑性の低い噂話。
その中に、ひとつだけ異質な記述があった。
――未来を見ているような目を持つ子供がいる。
最初に聞いたとき、佐々木は相手にしなかった。
未来予知に類する個性は珍しいが、存在しないわけではない。目に関する個性も、観察能力を高める個性も、これまでにいくらでも確認されている。
それだけなら、わざわざ調べる価値はなかった。
だが、その子供についての話は、奇妙な方向へ広がっていた。
見たことのない場所について、まるで知っているかのように話す。
まだ起きていない出来事ではなく、どこか別の場所で起きた出来事を語る。
時には、自分と同じ顔をした誰かについて話すことさえあるという。
もちろん、伝聞だ。
子供の空想かもしれない。周囲の大人が面白がって話を膨らませた可能性もある。
それでも。
もし、未来を予知するのではなく、未来以外の何かを見ているのだとしたら。
もし、佐々木が見ている未来とは異なる可能性を、その子供が知っているのだとしたら。
彼の個性では届かない場所に、何かがあるのではないか。
そう考えてしまった時点で、佐々木はもう引き返せなくなっていた。
調査を進めるほど、手掛かりは断片的になった。
噂の出所は遠く離れた地方。記録の残り方にもばらつきがあり、個性の登録情報にも、彼が求めているような明確な記述はない。
それでも、わずかな証言を繋ぎ合わせていくうちに、ひとつの場所へ行き着いた。
山あいの町にある、小さな児童養護施設。
雄英高校のある地域からも、佐々木が普段ヒーロー活動を行っている地域からも遠い場所だった。
交通の便は良くない。周辺に大きな都市もなく、著名なヒーローが頻繁に訪れるような土地でもない。
なぜ、そんな場所にいる子供の話が、自分のもとへ届いたのか。
偶然だと片づけることもできた。
だが、今の佐々木にとって、偶然という言葉は何の慰めにもならなかった。
「……頼む」
彼は資料を握りしめた。
誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。
その子供にか。
まだ見つかっていない何かにか。
それとも、変えられないと告げられた未来そのものにか。
翌朝、佐々木未来は普段の活動地域を離れ、遠方の児童養護施設へ向かうことを決めた。
確かな保証はない。
会ったところで、何も得られないかもしれない。
それでも彼は、そこにいるという少年を探しに行った。
縋るように。
未来を変えられるかもしれない、という、たったひとつの可能性に。
その時の佐々木は、まだ気づいていなかった。
自分が求めているのは、未来を変える方法だけではない。
変えられないと知った未来を、否定してくれる誰かでもあるのだということに。