その目に映る未来は、ひとつではない   作:並行世界とかという概念最高

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妄想を具現化させましたV


序章 未来に縋る男

その少年を探して

 佐々木未来は、何度目になるかわからない資料の束を机に置いた。

 紙の端が揃っていない。

 普段なら気になるはずの些細な乱れを、今の彼は直そうともしなかった。

 頭の中に焼きついているのは、ひとつの未来だった。

 オールマイトの死。

 何度確認しても、何度考え直しても、そこへ至る道筋は変わらない。彼の個性が示した未来は、あまりにも明瞭で、そして残酷だった。

 未来を予知する。

 それが佐々木未来の持つ個性であり、ヒーローとして活動するうえで、幾度となく仲間を救ってきた力だった。

 しかし、今回ばかりは違った。

 見えた未来を変えられない。

 変えようとするほど、予知の結果に縛られていく。

 彼はその現実を受け入れられなかった。

「……何か、方法があるはずだ」

 呟きは、誰に聞かせるものでもなかった。

 机の上には、いくつかの調査資料が広げられている。個性に関する記録、過去の事件報告、医療機関から得られた情報。そして、信憑性の低い噂話。

 その中に、ひとつだけ異質な記述があった。

 ――未来を見ているような目を持つ子供がいる。

 最初に聞いたとき、佐々木は相手にしなかった。

 未来予知に類する個性は珍しいが、存在しないわけではない。目に関する個性も、観察能力を高める個性も、これまでにいくらでも確認されている。

 それだけなら、わざわざ調べる価値はなかった。

 だが、その子供についての話は、奇妙な方向へ広がっていた。

 見たことのない場所について、まるで知っているかのように話す。

 まだ起きていない出来事ではなく、どこか別の場所で起きた出来事を語る。

 時には、自分と同じ顔をした誰かについて話すことさえあるという。

 もちろん、伝聞だ。

 子供の空想かもしれない。周囲の大人が面白がって話を膨らませた可能性もある。

 それでも。

 もし、未来を予知するのではなく、未来以外の何かを見ているのだとしたら。

 もし、佐々木が見ている未来とは異なる可能性を、その子供が知っているのだとしたら。

 彼の個性では届かない場所に、何かがあるのではないか。

 そう考えてしまった時点で、佐々木はもう引き返せなくなっていた。

 調査を進めるほど、手掛かりは断片的になった。

 噂の出所は遠く離れた地方。記録の残り方にもばらつきがあり、個性の登録情報にも、彼が求めているような明確な記述はない。

 それでも、わずかな証言を繋ぎ合わせていくうちに、ひとつの場所へ行き着いた。

 山あいの町にある、小さな児童養護施設。

 雄英高校のある地域からも、佐々木が普段ヒーロー活動を行っている地域からも遠い場所だった。

 交通の便は良くない。周辺に大きな都市もなく、著名なヒーローが頻繁に訪れるような土地でもない。

 なぜ、そんな場所にいる子供の話が、自分のもとへ届いたのか。

 偶然だと片づけることもできた。

 だが、今の佐々木にとって、偶然という言葉は何の慰めにもならなかった。

「……頼む」

 彼は資料を握りしめた。

 誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。

 その子供にか。

 まだ見つかっていない何かにか。

 それとも、変えられないと告げられた未来そのものにか。

 翌朝、佐々木未来は普段の活動地域を離れ、遠方の児童養護施設へ向かうことを決めた。

 確かな保証はない。

 会ったところで、何も得られないかもしれない。

 それでも彼は、そこにいるという少年を探しに行った。

 縋るように。

 未来を変えられるかもしれない、という、たったひとつの可能性に。

 その時の佐々木は、まだ気づいていなかった。

 自分が求めているのは、未来を変える方法だけではない。

 変えられないと知った未来を、否定してくれる誰かでもあるのだということに。

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