術式:ドラゴンクエスト 作:9リメイク希望
禪院真希とパンダに出会ってから数時間後。俺は黒塗りの高級車に乗せられて呪術高専へとやって来ていた。
車を降りて案内された先で俺は1人の男性と対面していた。白髪に黒い目隠し。顔立ちは整っているが胡散臭い雰囲気が漂っている。もしかして彼は……。
「君が勇崎竜斗くんだね」
「そうです。ところで貴方は……」
「僕は五条悟。呪術高専の教師さ」
やはり彼だったか。五条悟。それは現代最強の呪術師の名である。作中でも別格の実力を持ち数々の強敵を圧倒していた人物だ。
「真希とパンダから呪いに関する事情は聞いてるよね?」
「はい」
「じゃあ、単刀直入に行こうか。君、呪術高専に入学しない?」
そう言われるのは想定の範疇だ。なにせ呪術師は年中人手不足だからな。
正直、呪術師になるのは抵抗はない。危険な仕事だがドラクエの呪文や特技を思いっ切り使えるのは気分が良いからな。
……もしかして俺って割と異常者なのでは?
それはともかく、呪術高専に入れば『呪術廻戦』の物語に本格的に介入することになる。そうなると何が起こるのかは分からない。俺の行動によっては原作より良い方向にも悪い方向にも転がるだろう。
いや、そもそも転生者という異物が存在している時点で今更か。
呪術師として活動する以上、いつかは原作に関わることになる。だったら巻き込まれるより自分から飛び込んだ方がいい。
それに強くなる為の環境として呪術高専は申し分ないはずだ。
「分かりました。呪術師になります……いえ、ならせてください」
「いいね、やる気があるのは嫌いじゃないよ。でも気が変わったら遠慮なく言ってね」
俺が頭を下げると五条さんは楽しそうに笑みを浮かべた。
「まずは君の術式を確かめようか」
そう言うと五条さんは目隠しを外して俺の顔を凝視する。
「んー、よく分からないね。術式があるのは確かなんだけど」
しばらく俺を観察した後、五条さんは首を傾げた。流石の六眼も神様から授かった転生特典は見通せなかったらしい。
「君は何が使えるのか分かってる?」
「俺はドラクエの魔法と特技が使えます」
「……マジで?」
この世界にもドラゴンクエストというゲームは存在している。スマブラやデジモンもあるのだから別に不思議なことではない。
「今から証明しますね。メラ!」
俺は手の平を前に向けて呪文を唱える。すると赤々と燃える火の玉が出現した。
「へえ、面白いね。金次の領域展開も漫画を具現化してるし、そういう能力があってもおかしくはないかな」
秤金次の領域展開は私鉄純愛列車という漫画のパチンコ台の再現だ。ならばゲームが元ネタの術式が存在してもおかしくはない。
いわば『術式:ドラゴンクエスト』というわけか。
「他には何が使えるのかな?」
「回復呪文のホイミです」
「つまり反転術式がデフォルトで組み込まれてるわけか。これは将来有望だ」
まあ初級呪文なので回復量は相応に少ないけどな。もっとレベルを上げてベホマなどの上位呪文を習得する必要がある。
「次は親御さんの許可と諸々の手続きだね。そこら辺は伊地知に丸投げするから安心してね」
伊地知さん可哀想。
◇ ◇ ◇
2018年 3月 █日
呪術師になることを了承した次の日。俺は伊地知さんと一緒に我が家へ向かった。
そして両親に呪いについての説明をしたが割と簡単に納得してくれた。何でも父親がボケ始めた祖父から呪術師の家で生まれ育ったことを聞かされていたらしい。衝撃の事実である。
当然、両親は俺が呪術師になることに難色を示した。なにせ危険な仕事だからな。しかし俺が真剣な表情で頼み込むと最終的には了承してくれた。
親不孝はしたくないので何が何でも生き残らないとな。
◇ ◇ ◇
昼下がりの呪術高専。雲一つない快晴の空の下、俺は五条さんと並んで参道を歩いていた。
周囲には立派な木々が立ち並び、その先には寺社仏閣を思わせる建物が見える。ここが呪術師を育成する学校だと言われなければ由緒正しい神社か何かだと思っただろう。
「今から学長と面接だよ。下手打つと入学拒否られるから気張ってね」
「……面接させるなら事前に言ってくださいよ」
「考える暇を与えないことで本心を引き出すというわけさ」
「それは本当です?」
たぶん言うのを忘れていただけだな。まあ今さら文句を言っても仕方がないか。俺は気持ちを切り替えて目の前の建物へと視線を向けた。
「さ、到着したよ。こん中に学長いるから頑張ってね」
本殿の前で足を止めた五条さんはノックせずに扉を開けた。
「五条でーす。新入生を連れてきました」
本殿の中にいたのはファンシーなぬいぐるみに囲まれたグラサンをかけたオッサンだった。その手には製作途中と思しきぬいぐるみが握られている。
「遅いぞ悟。5分遅刻だ。責めるほどでもない遅刻をする癖、直せと言ったはずだぞ」
「責めるほどじゃないなら責めないでくださいよ。どーせ人形作ってんだからいいでしょ」
「それで……彼が入学希望者だな。俺は呪術高専東京校の学長、夜蛾正道だ」
「初めまして。勇崎竜斗です」
「早速だが、なぜ君は呪術師を目指す?」
どうやら既に面接は始まっているらしい。ここで嘘をつくのは逆効果だ。ならば変に取り繕わずに本音を言おう。
「ぶっちゃけ人助けとかは興味ありません」
「……ほう」
そう言うと夜蛾さんが僅かに眉を上げた。
普通なら『困っている人を救いたいからです!』とでも答えるところなのだろう。だが俺は勇者のように誰かを救う為に自分の命を懸けるような立派な人間ではない。
「志望動機は鍛え上げて身に付けた強大な力で相手を倒すと気持ちがいいからです」
「力を得ること自体が目的か?」
「そうですね」
これはRPGのプレイヤーとしての本音だ。
レベルアップして強くなり以前は苦戦したモンスターを圧倒する。新しい呪文や特技を覚えて戦い方の幅が広がっていく。
あの達成感が好きだからこそ俺はドラクエというゲームを遊んでいる。
そして今世ではゲームの中でしか出来なかったことを実際に体験できるのだ。これがワクワクせずにいられるか。
「だが世の中には君よりも強い相手がいる。彼らに遭遇した時はどうする?」
「全力で足掻きます。誰だって死にたくありませんからね」
強くなりたいからといって無謀な戦いをしたいわけではない。
勝てない相手に遭遇したら逃げる。逃げられないなら何とかして生き残る方法を探す。最後の最後まで諦めない。
それでも駄目そうなら、その時はその時だ。
「……幼稚でイカれた考えだが大義や他人の指図を理由にしないのは気に入った。それなら全力で足掻いてみせろ」
そう言って夜蛾さんは手に持っていたぬいぐるみを脇へ置いた。すると部屋の隅にある寸胴のような見た目の河童人形へと手を翳す。
次の瞬間、人形がむくりと起き上がった。あれは原作で虎杖と戦った呪骸だな。つまり俺も同じ様に戦えというわけか。
「メラ!」
そう唱えると俺の手の平に炎が滾る。相手は布と綿で出来た人形だから良く燃えるはずだ。
「喰らえッ!」
俺は生み出した火の玉を発射する。それは狙い違わず呪骸に命中した。炎が相手の身体を包み込み勝利を確信する。
「ん?」
しかし炎が消えた後に残ったのは表面が少しだけ焦げた呪骸の姿だった。多少のダメージはあるようだが何事もなかったかのように立っている。
「当然、弱点の対策はしている」
夜蛾学長が淡々と告げる。
おそらく事前に防炎スプレーでも塗布していたのだろう。
呪術高専の学長が製作した呪骸なだけあって一筋縄ではいかないか。
「上等!」
炎は通じない。綿の詰まった身体は衝撃を吸収するので殴っても決定打にならない。刃物でもあれば切り裂けたのだろうが生憎そんなものは持ち合わせていない。
このままではジリ貧だ。状況を打開するには何か新しい技を習得するしかない。しかし都合のいいタイミングで新技を覚えられるものだろうか。
……いや、待てよ。
俺はドラクエの呪文と特技を使える術式を持っている。メラは炎を生み出す呪文でホイミは傷を治す呪文だ。
そして呪術廻戦の世界では傷を治すのに反転術式を使う。もし俺のホイミが反転術式に相当するものだとしたら、俺は正のエネルギーを扱えるということになる。
ならば、もう一歩踏み込めないか?
五条さんは学生時代、反転術式を習得したことでアレを使えるようになった。それなら俺にも出来る可能性がある。
もちろん理屈が正しい保証はない。だが考えている暇はない。
出来るかじゃない。やるんだよ。
俺は迫り来る呪骸を見据えて腕を突き出した。
「術式反転ヒャド!」
その呪文を詠唱すると掌から冷気が迸った。空気が凍りつくような感覚と共に巨大な氷の刃が形成される。それは一直線に飛翔し呪骸の身体をズタズタに切り裂く。これにより呪骸の動きが完全に停止した。つまり俺の勝利である。
ヒャドは炎を生み出すメラとは違い冷気を生み出す呪文だ。ただし術式反転によって出力が倍増している。純粋な威力だけならヒャダルコに匹敵しているはずだ。
テレレッテッテッテー♪
すると親の声よりも聞いたレベルアップの効果音が脳内に鳴り響いた。もっと親の効果音を聞かないとな。
そして視界の隅にはレトロなウインドウが表示される。
あらたに まじんぎりを おぼえた!
魔神斬りは当たると会心の一撃が出るがミスすることが多い博打技だ。その性質からメタル狩りに重宝されている。
当たり前だが呪術廻戦の世界にメタル系のモンスターは存在しない。要するに使い勝手が悪いだけの特技だ。
「……見事だ。勇崎竜斗。君を歓迎しよう。ようこそ呪術高専へ。悟、彼を寮に案内してやれ」
「了解です」
こうして俺は東京都立呪術高等専門学校への入学を認められた。
中々、ハードな面接だったな。しかし新しい技を覚えられたから大満足である。
「合格おめでとさん。じゃあ次は寮に案内するから。荷物は既に届いてるよ」
五条先生にしては随分と用意がいいな。きっと伊地知さんが一晩でやってくれたのだろう。
「今後ともよろしくお願いします。五条先生、夜蛾学長」
俺は夜蛾学長と五条先生に向き直り深く頭を下げた。
誰か続きを書いてくれい。