ようこそ死後の世界へ 作:和崎
オレが目を覚ますと知らない景色が広がっていた。見たこともないところだが、ここが外であることは一瞬で分かった。
「どこだ……ここは」
辺りを見回してみるとどこかの学校にであることは分かる。しかし、この校舎は見覚えがない。つまり、自分は不法侵入者であることが結論づけられる。
「とりあえず、ここを出るか」
自分に言いつけるかのように独り言を呟くとそのまま、歩き出そうとした。歩き出そうとしたということは結局、歩き出せなかったということだが。
「動くな」
後ろからそのような声が聞こえてくる。振り返ると、眼鏡をかけた男子生徒がこちらを見ているではないか。
(早速、見つかったか。こうなったら、逃げるしかない)
オレは自身のスピードに自信があった。同年代であれば、誰にだって負けることはない。そのように自負していたからだ。オレは早速走り出そうとしたが、衣服の襟をそれよりも早く掴まれてしまった。
「俺を見て逃げようとは良い度胸じゃないか。さては、不法侵入者か?」
どのように言い訳をしようかと考えていたが、目の前の男子生徒が冗談だと言い、襟から手を離した。
「俺はこの学校の生徒会長だ。ようこそ新入生。高度育成高等学校へ」
「オレが新入生?」
「あぁ、その証拠にお前はここの制服を着ている。学生証もポケットに入っているだろう」
ポケットを探ってみると確かにオレの学生証があった。綾小路清隆と書いてある。確かにオレの名前だ。
「だが、オレはここに入学した覚えはないぞ」
「では何故、お前の学生証がある。その学生証こそお前がここに入学した証なんだぞ」
言い返す言葉を見つけられなかった。不法侵入者として捕まえられなかったのは良かったのだが、自分が新入生であるなどとは思いもしなかったのだ。
「綾小路、お前は一年Dクラスに所属することが決定している。早速、来てもらおうか」
「まるでオレがここにいることを知っていたみたいですね」
「まるでではなく、知っていたのだ。今日、この時間にお前が来ることはな」
オレには聞きたいことが山ほどあった。何故、自分がここに入学することになったのかということや何故、自分がここに来ることが分かっていたのかということだ。だが、それよりも疑問に思うことがあった。
「オレは死んだような気がしていたのだが、気のせいだったのか?」
独り言のように呟いたそれは当然、目の前にいた生徒会長に届いていた。彼はその言葉に驚くような様子を見せる。
「普通、自分が死んだという記憶は言われても思い出せないものなのだがな。お前は例外というわけか」
「つまり、ここは死後の世界だと?」
「あぁ、その通りだ。自覚しているというのなら話は早い。ここの学校は死んだ者達が通うことになっている。皆、報われなかった人生を歩んでな」
「報われなかった?」
「お前にもあるのではないか? 報われなかった人生というやつが」
生憎だが、オレが思い出せるのは自身が死んだというところまでであって、報われなかった人生を歩んだことまでは思い出せなかった。
「その様子では、そこまでは思い出せていないということだな。まぁ、よくあることだ。学園生活の中で徐々に思い出していけば良い」
「発狂したりしないのか?」
「しない。それは断言できる。この世界では精神的なダメージはあるにはあるが、発狂まではしないようにできている。俺達がその経験者だ」
そういえば、ここには報われなかった人生を歩んだ者達が来ると言っていたな。となると、生徒会長も報われなかった人生と向き合ったということか。
「では、話も済んだところでお前のクラスに案内しよう」
生徒会長は歩き出したので、オレもついていくことにした。別の場所に走り出すこともできたが、何を言われるか分からないし、もしかしたらオレよりも早い可能性がある。今は焦らないようにしなくてはな。
◇
「お前のクラスは問題児ばかりだから、注意してほしい」
「何故、そのクラスにオレを?」
「そのクラスは問題児ばかりが集められるクラスだからな。お前もその問題児の内の一人なのだろう」
問題児と言われてもどのくらい問題児なのかは分からない。授業中の態度が悪いクラスなのか、暴力沙汰を起こすようなクラスなのか。どちらにしろ、入ってからのお楽しみというやつだろう。
「着いたぞ、ここが一年Dクラスだ」
そう言って生徒会長が扉を開けた瞬間、天井から巨大なハンマーが襲いかかってくる。生徒会長は片手でそれを受け止めた後、ため息をこぼす。
「ちっ、ハンマー攻撃が失敗したぞ!」
「構うもんか! 死ねぇ!!」
中から生徒がハルバードらしきものを持って生徒会長に突撃をする。問題児ってこういう意味かよ。
「ハンドソニック」
そんなことを言った生徒会長の腕から剣が出現する。おそらく、手甲剣だろう。生徒会長はハルバードの攻撃を防ぎきり、手甲剣で相手の胸を貫く。容赦ねぇな。
「須藤が死んだぞ!」
「奴の犠牲を無駄にするな! 数で押し切れ!」
教室の中から生徒が生徒会長のいる出入り口に向かって走り出すが、出入り口は同時に一人以上は出てこれないため、自然と一対一になる。そうなると、数で押し切るという作戦は無駄になり、結果として一年Dクラスの生徒はオレを除いて全滅した。
「見苦しいものを見せたな」
「別に構わないが、そいつらはどうするんだ?」
「放っておいてもその内、蘇る。それよりも、お前はこういう現場に驚かないのだな」
「あぁ、かなり凄惨な光景のはずなのに、何の恐怖も感じないな。不思議なことではあるが」
となると、過去のオレはこういう現場をよく見ていたりしたのだろうか。人を殺した経験などあるとは思えないのだがな。
「お前は過去と向き合えば、別人のように変わるだろう。もしも、そんな自分を嫌になったら生徒会を頼ると良い」
生徒会長が去り、その場に残ったのは血溜まりと死体の山だけであった。まるで、地獄にいるみたいだな。
「入るか」
ここでいつまでも死体を見ていても仕方がない。ここは大人しく教室に入るとしよう。幸いにも教室の片方の出入り口にしか死体はない。つまり、逆から入れば……いや、やめよう。ハンマーとかが仕込んであったら大変だ。
「上履きが血塗れになってしまった」
そこを選んで通ってきている以上、仕方のないことではあるが。程なくして教師らしき女性がやって来ると死体を避けるためにもう一つの出入り口を開ける。すると、ハンマーが彼女に襲いかかってくるが、生徒会長と同じように素手で止めた。地位の高い人間というのはこうも強いものなのか。
「全く、この不良品どもが」
呆れた様子でため息を吐く。おそらく、毎度のことなのだろう。彼女はオレに気がつくと自己紹介を始める。
「私はこの不良品共の担任をしている茶柱佐枝という。まぁ、この学校はクラスが変わることも学年が変わることもないのでな。お前の担任は私で変わることはないだろう」
学年が変わることはないということはどういうことだろうか。クラスが変わらないというのならば、まだ分かる。だが、進級しないということがあるわけがない。
「お前の考えていることはよく分かるぞ。だが、この学校は特殊だ。何年経っても卒業できない奴はいつまでも卒業しないし、一年足らずで卒業する奴もいる。まぁ、覚えておいて損はないだろう」
「卒業ってもしかして」
「消えるのよ。この世界からね」
先程まで死体だった生徒が起き上がる。どうやら、もう蘇生したらしい。他の生徒も次々と起き上がる様はまるでゾンビ映画のようだ。傷は元通りになるようだが、撒き散らされた血まではなくならないようで、後で掃除をする必要性があるだろう。
「そして、私達はそうならないために戦っているの」
「誰と?」
「無論、天使達とよ。そして、最終的には神を打ち滅ぼす。理不尽な人生を強いた神をね」
少女がそのように力説するが、それを聞いていた茶柱先生は呆れたようにため息を吐く。これも何度か繰り返されたことらしい。
「お前の妄言を新入生に聞かせるな。影響されたらどうする」
「いいえ、神はいます。こんな世界があることが神がいることの証明になると思うのですが」
「お前が思うのは勝手にしろ。だが、他人を巻き込むな。とりあえず、新入生への自己紹介を済ませたら授業の準備をしろ。いいな」
茶柱先生が退出し、残されたのはオレ達生徒だけとなった。とりあえず、授業の準備でもしておくか。
「私は堀北鈴音。一応、ここのリーダーをやっているわ。よろしくね」
茶柱先生の言っていた通り、自己紹介をするようだ。てっきり、先生の話は無視するのだとばかり思っていたから意外だな。
「時間がないから今、ここにいる生徒だけでも紹介しておくわね。真っ先にあの天使に突撃したのが、須藤健。バスケが得意なの」
「よろしくな」
怖そうな見た目だが、挨拶はしっかりとしてくれるらしい。人は見た目によらない、という言葉通りの人だな。
「次に彼が池寛治。アウトドアが得意だから世話になることもあるかもね」
「この学校では年に一度は必ず、バカンスがある。その時が俺の腕の見せ所だ」
この学校はバカンスに行けるのか。それは知らなかった。こいつらは何回バカンスに行っているのだろうか。もしかして、そのために卒業してないとかじゃないよな。
「そして、彼は山内春樹。嘘つきの卑怯者よ」
「その紹介はないだろ、堀北」
自己紹介でそう紹介されるということは本当にそうなのだろう。こいつの世話になる日は来ないだろうな。
「そして、最後に彼女が櫛田桔梗。裏表が違いすぎるから注意して」
「それを先に言っちゃ意味ないでしょ! 君はよろしくね」
裏表というのはどんな人間にだってあるものだが、自己紹介でそう言ってくるということは本当に同一人物かと疑いたくなるほどに違うのだろう。
「ここにいるメンバーは以上ね。後は皆、サボりよ」
「サボり? サボりが許されるのか?」
「許されるかそうでないかと聞かれれば、間違いなく許されないでしょうね。でも、授業を受け続けているとこの世界から消える。つまり、卒業しちゃうこともあるのよ。だから、皆は自衛のために授業を受けてないの」
「なら、今すぐここを出た方が良いんじゃないか?」
「そうしたいところだけど、もう先生が来ちゃうから抜け出すことができないの。やるんだとしたら、この授業が終わってからね」
じゃあ、こいつらは危険を承知でオレの歓迎のために来てくれたのだろうか。いや、きっと案内してくる生徒会長を殺すためだろうな。
「ところで、さっき言っていた天使っていうのは何だ?」
「あら、ちゃんと聞いていたの。その耳は飾りじゃなかったみたいね。天使って言うのは生徒会長のこと。神の使いだから天使。私達はそう呼んでいるわ」
「神の使いだっていう根拠はあるのか?」
「ないわ。でも、あんなすごい力を使えるってことは神と通じているって考える方が自然よ」
確かにそうなのかもしれない。だが、そうでない可能性もある。その時にこいつらはどうするのだろうか。
「そういえば、貴方の名前を聞いてなかったわね」
「オレの名前は綾小路清隆だ。よろしくな」
「えぇ、よろしく」
「ところで最初の授業というのは何だ?」
「日本史、つまり茶柱先生の授業ね」
なるほど、そりゃあ逃げ出すのは難しそうだ。オレ達は素直に授業の準備をして席に座る。ちなみにオレの隣の席は堀北だった。
「授業は真面目に受けない方が良いわ。私語、居眠り、欠席。好きなのを選んでちょうだい」
「なら、少し話そう。オレはここのことを何も知らないからな」
しばらくして、茶柱先生がやって来る。茶柱先生は誰も逃げ出さなかったことに感心していたらしく、少し涙を流していた。何か話すのが、申し訳なくなってくるな。
今回、人数を絞った理由は最初に多く人数を出してもまとめきれないと感じたからです。今回出てこなかったキャラクターも存在はするので、安心してください。