ようこそ死後の世界へ 作:和崎
チャイムが鳴り、授業が終わる。その間、この教室で真面目に授業を受けた者などいなかったが、茶柱先生は対して気にもしていないようだ。
「少し私語が多かった気がするが、出席してくれるだけまだ良い。この調子で他の授業も出席だけはしてくれ」
授業中の私語が許されるくらいに欠席しているんだな、このクラスは。茶柱先生が退出した後に須藤が茶柱先生の動向を教室の外まで行って、観察している。
「見えなくなったぞ。今が逃げるチャンスだ」
「よし、じゃあ行きましょう」
もう出るのか。オレはもう少し授業を受けても良かったが、消えたくはないしな。大人しくついていくとするか。
「綾小路君、良かったらこの学校を案内するけど」
「おぉ、それは助かるな。正直なところ、どこに行こうか迷っていたところだ」
堀北が案内をしてくれるというのなら、大人しくそれに従おう。どこに何があるのかが分かれば、暇を潰すために立ち寄りやすくなるしな。
「なら、ここの校舎からは急いで出ましょう」
堀北はそう言うと教室の扉を開けて歩き出した。そういえば、ハンマーの仕掛けは作動しないようで茶柱先生や堀北が出て行っても襲いかかってくることはなかったな。おっと、先生が来る前にオレもさっさと逃げるか。
下駄箱で靴を履き、外に出ると久しぶりに外に出たような感覚がした。久しぶりと言っても一時間ぶりくらいなのだが。どうやら堀北はこの校舎ではなく、外を案内してくれるようだ。まぁ、この校舎にいれば、先生に見つかる可能性が高いから仕方ないが。
「まず、ここが授業を受けるための教室とかがある棟ね。図書館とかもあるから気になるなら行ってみなさい」
「図書館か。どんな、本があるんだ?」
「何でもあるわよ。文庫本や雑誌、更には漫画まで。私も時々、利用するわ」
そうなのか。もしかしたら、暇を潰すとしたらそこが良いかもな。今度、行ってみることにしよう。
「そして、あっちが特別棟。理科室とか特別な授業をするための棟ね。昼間は授業をやっていることも多いからあまり、暇を潰すことはできないわ」
「そうらしいな」
「そして、私達には縁がない場所だけどショッピングモールがあったりするわ」
「縁がないって。金さえあれば、欲しい物とかあるだろうに」
「残念なことにそのお金がないのよ、私達はね。ちょうど良いし、Sシステムについて話しましょうか」
堀北がSシステムとやらを説明してくれた。簡単に言えば、学生証と一体化したポイントカードで何でも買うことができるという物だ。ポイントは毎月、一日に支給されるらしい。
「そして、この後が重要なのだけれどこれはクラスのポイントに連動して支給されるらしいの。肝心の私達のポイントは0よ」
「0って……何でそうなった?」
「理由は簡単よ。このポイントは特殊なことがなければ、減点方式なの。そして、減点対象は遅刻や欠席、私語や居眠りなど授業を受けるのに相応しくないと判断されるものよ」
「どうやって暮らしているんだ?」
「この学校には森があるの。そこに木の実や河川があるのだけど、生態系が壊れる心配はないから遠慮なく利用させてもらっているわ」
小遣いは欲しいだろうが、真面目に授業を受けてもこの世界から消える可能性があるんだもんな。であれば、小遣いなんかなくても生活できる術を身につけた方がマシか。
「後は食堂に無料商品があるけど、とても質素な食事だから気が向いた時だけ食べるようにしてるの」
「毎日、サバイバルみたいなことをして辛くはないのか?」
「サバイバル? 何か勘違いしているみたいだけど、この世界には寮があって私達は普段、そこで暮らしているの。電気代や水道代は無料だからそこは利用させてもらっているし、携帯も配られるからそれで暇も潰せるしね」
「オレは携帯、貰ってないけど」
「携帯は部屋に置いてあるわ」
そうか、部屋か。オレは自分の部屋のことを知らないんだけどな。管理人に聞けば、自分の部屋について分かったりするのだろうか。
「さて、せっかくだから川にも案内してあげる。食事はそこで釣れた魚を食べることも多いし」
「オレは釣竿を持っていないぞ」
「釣竿なら川に置きっぱなしになっている物が何本かあるから皆、交代でそれを使っているの。餌に関しても心配しなくて良いわ、ルアーだから」
そうして、オレ達は川を目指した。道中、植物園のような物があったが、誰かがこんなところまで来て管理をしているのだろうか。
◇
川に着いたオレ達は釣竿を拾い、釣りを開始する。先客もいたが、自己紹介の時にいた奴だ。確か、名前は池とか言ったか。アウトドアが得意らしいとは聞いていたが、オレ達よりも早くここに来ていたとはな。
「全く釣れないな」
「来たばかりよ。そう簡単に釣れると思っちゃダメ」
「だが、池は釣れているみたいだぞ」
「彼はアウトドアが得意だから、釣りも得意なのよ。彼に追いつこうとしても時間の無駄になるだけね」
池がこの世界に来てから何年経つのかは知らないが、その時間をアウトドアに費やしていたのだとすれば、素人では追いつくことは無理だろう。
「なぁ、堀北はこの世界に何年いるんだ?」
「この世界では歳は取らないから正確には分からないけど、私は何十年かはいるわね」
「その時間、退屈じゃなかったか? 代わり映えのしない日々を過ごしてきて」
「色々あったもの。退屈はしてないわ。してたら、暇つぶしに授業には出てるもの」
消えるかもしれなくても退屈な日々は選ばないということか。これはオレの勝手な想像だが、退屈にならないために色々なことをしてきたのだろうな。
「ん? 堀北に綾小路じゃないか。いつ、ここに来てたんだ?」
「つい、さっきよ。ここはよく使うし、どこだか分からないかもしれないから、私が案内しておいた方が良いかなと思ってね」
「そうか。確かにここをよく使う奴はいるからな。綾小路もそうなるかもしれないし、案内をしておいて正解だろう。それにしても運が悪いのか、まだ一匹も釣れてないじゃないか」
「ついさっき来たばかりだって言ったでしょう。まだまだこれからよ」
そんなことを言っていると、堀北の釣竿が引く。堀北もここに来たからには一匹でも釣りたかったのだろう。目を輝かせながら、魚を釣っていく。
「池君、これは何て魚?」
「これは鮎だな。塩焼きにすれば絶品だが、一品じゃ足りないだろう。釣りを継続することをオススメするぜ」
「言われなくてもそのつもりよ」
この世界の魚は現実にいる魚と大差ないんだな。てっきり、オレが見たこともない魚がいるとばかり思っていたが、流石にそんなことはないか。
「綾小路、お前の釣竿も引いているぞ」
「本当だ……意外と重いんだな」
「魚が竿を引く力というのは意外と馬鹿にできないものだからな。釣りは経験がないのか?」
「覚えていない」
「記憶喪失か。まぁ、この世界に来たばかりの人だとよくあることだな」
生徒会長も言っていたな。生前の記憶を覚えていないのはよくあることだって。死んだという感覚のみを分かっているオレが珍しいみたいなことも言っていたか。
「おっと、一人で引っ張るのは無理なくらいには重くなってきたのだが。それとよく見ると川に渦もできているぞ」
「これは……川のヌシか! 綾小路、釣竿を離せ! 撤収するぞ!」
堀北は大人しくその指示に従って、釣竿を地面に置いた。オレも従った方が良いらしいな。オレは釣竿を離して、堀北と池について行こう。
「なぁ、何で撤収するんだ?」
「川のヌシを釣ることはできないし、奴が現れると他の魚も釣れなくなるからな。だから、川のヌシが現れた時には撤収することにしている。あぁ、場所を移しても無駄だぞ。川のヌシの行動範囲は広いから、そこにもやって来る可能性がある」
「川のヌシのことはメールで伝えておくわ」
「助かる」
しばらくは釣りができないというアナウンスなのだろう。確かに釣竿をまた一本失う可能性があるのであれば、告げておいた方が良いか。
「結局、オレは一匹も釣れなかったな」
「俺のを分けてやるよ。どうせ、一人じゃ食い切れない量だし。堀北もそれで良いか?」
「勿論、良いわよ。私も一匹だけじゃ足りないし」
今更ながらに思ったのだが、堀北達はどこに向かっているのだろうか。この方向は建物のある方向ではない。すると、到着したのか堀北達は足を止める。
「綾小路君はここは初めてよね。ようこそ、私達D組の秘密基地へ」
「秘密基地?」
「えぇ。普段はここで天使に対する作戦を立てたりするの。今は誰もいないみたいだけど」
オレの目の前には大きな家が建っていた。そこまで綺麗なものではないが、秘密基地として利用する場所としては問題ない。ここに来たということはここで調理ができるということなのだろう。
「綾小路に堀北、着火剤はあるから薪を拾ってきてほしい。なるべく、乾燥しているやつをな。焚き火料理というものを披露してやる」
「了解だ」
薪と言っても木の枝を集めるだけで良いだろう。この辺りは日光もよく当たるため、雨でも降ったのでなければ乾いたものはすぐに見つかるはずだ。
オレは何本か木の枝を見つけると、このくらいで良いだろうと考えて秘密基地に戻ることにした。秘密基地に戻ると堀北も既に薪を集めてきていたのか、戻ってきている。
「よし、これだけあれば充分だな。焚き火料理は焚き火が無ければできない。だから、まずは着火剤に火をつけて、細い薪から焚べる。空気が通るように隙間を作りながら、段々と太い薪にしていくんだ」
池は着火剤である松ぼっくりに火をつけ、言葉通りの手順で焚き火を作っていく。しばらくすると火が燃え上がり、焚き火が完成した。
「これで焚き火が出来上がったわけだが、この状態でやってもすぐに焦げちまうからな。少し、火が弱まるのを待とう」
「その間に何かすることはあるか?」
「薪を取りに行かせている時に魚の下処理は済ませちゃったからな。折角だし、俺の過去でも話そうか?」
「いや、今はいい。報われなかった人生は今、聞いたら食べにくくなる」
「それもそうだな。なら、この話はまた別の機会にしよう」
池の過去は想像がつかないが、本人が後で話すと言った以上、いつかは聞くことにはなるのだろう。それに誰かの過去を聞くのは自分の過去と向き合うためにも必要だ。オレも覚悟を決めておかないとな。
「そろそろ火が弱まってきたな。この網を使って焼いていこう。あぁ、この網はここにあるものだから、好きに使ってくれて構わないぞ」
池は下処理を済ませておいた魚を網の上にトングで置き、焼き始める。魚は網の大きさの都合上、三つまでしか置けないが、足りなくなったら池が追加で焼いてくれるだろう。
「堀北、皿と箸を持ってきてくれないか? 俺は調理で忙しいし、綾小路は場所を知らないだろうからな」
「分かったわ」
堀北は池に言われた通り、秘密基地の中に入る。堀北が皿と箸を持ってきた頃には魚は丁度良い具合にまで焼けていた。
「よし、そろそろ良いだろう」
「外での食事は何だか新鮮だな」
「Dクラスとして過ごしていけば、すぐに慣れるさ」
池は魚を取り分けると、網をどけて余っていた薪を焚べる。次の魚を料理するために火を消さないでおきたいのだろう。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
オレ達は一斉に魚に齧り付いた。程よい塩味が魚とマッチしている。上手くは言えないが、ここに来て初めての食事がこれで良かったと思う。
「どうだ、味は?」
「美味いな。池はいつもこれを作っているのか?」
「流石にいつも魚を食っているわけじゃないさ。料理はいつもしているがな」
アウトドアといえば、外での料理は必須なのだろう。アウトドアを極めた人の料理がこんなにも美味しいとは思わなかった。オレは池に料理でも勝てそうにないな。
この後、すぐに食べ終わってしまったオレ達に池は再び、料理を作ってくれた。流石に食材があまりないらしく、違う料理は作れなかったらしいが。
しばらくは絆イベントのようなものをやりつつ、ストーリーを進めていくつもりです。
⚪︎池寛治
・絆レベル0→1(料理を作ってもらえるようになった)