ようこそ死後の世界へ 作:和崎
食事を終え、池と別れたオレ達はスポーツセンターにいた。ここは学内の人であれば無料で利用することができるそうで、食後の運動として案内されたというわけだ。
「色々なスポーツができそうだな。ここに案内するということは、堀北は何かスポーツをやっていたのか?」
「ここに来てからは色々なスポーツに触れてきたわ。スポーツが得意なクラスメイトの人となりを知るためにね」
堀北はDクラスのリーダーだって言っていたし、周りもそれを否定していなかったからリーダーとしての仕事はしているんだろうな。
「さて、綾小路君はどんなスポーツが得意なのかしら?」
「得意なスポーツはない……というよりも思い出せないんだ」
「そういえば、そんなことを言ってたわね。でも、折角ここに来たんだもの。何かやりたいスポーツはあるかしら?」
「それなら須藤の言っていたバスケというものがやりたいな」
「分かったわ。この時間なら須藤君もいると思うし、教えてもらいましょうか」
オレ達はバスケットボールコートのある場所に移動する。移動する前に地図を見たが、ここはスポーツセンターという名前の通り、色々なスポーツができるらしい。バスケの他にも野球にサッカー、水泳などの施設まである。
「着いたわ」
「おぉ、意外と広いんだな」
「ここでなら、正式な試合が行えると思うわ。まぁ、そんな機会はないでしょうけど」
この世界には他の高校なんて存在していないだろうからな。正式な試合なんてできないだろう。コートの方を見ると一人で練習している須藤の姿が見えた。
「さて、私達も着替えましょうか。こんな格好で運動するわけにもいかないもの」
「それはいいが、着替えはどうするんだ? オレは持ってきていないぞ」
「安心しなさい。ここに着いた時、受付の人から借りてきたの。勿論、無料よ」
オレは着替えを受け取ると更衣室に入って着替える。ずっと制服のままだったからなんか新鮮な気分だな。そういえば、これは返す時にどうすれば良いのだろうか。
オレは着替え終わり、更衣室を出ると外で堀北が待っていた。薪集めの時もそうだったが、堀北は行動が早いんだな。流石に須藤に声をかける時間まではなかったみたいだが。
「じゃあ、行きましょうか」
堀北はそう言うと、コートにいる須藤に声をかけた。須藤の方は堀北やオレに気付き、練習の手を止める。
「おう、堀北が来るなんて珍しいじゃねぇか」
「綾小路君の案内のついでに来ただけよ」
「そうか。綾小路はどうしてここに来たんだ?」
「須藤が言っていたバスケってやつをやってみたいと思ってな」
「バスケをやるのは初めてか。なら、俺が教えてやろう。こんなにも早く教える日が来るとは思わなかったがな」
バスケの経験者が教えてくれるのであれば、少なくとも一人でやるよりは伸びるだろう。須藤はまず、シュートのやり方について教えてくれるようだ。
「ドリブルから教えなくて良いの?」
「あぁ、ここじゃあ一人でやることの方が多い。そうなるとまずはシュートができるようになっておいた方が良いと思ってな」
「なるほど」
確かに一人でやる分にはドリブルの練習よりもシュートの練習の方がやるかもしれないな。というよりも、須藤はバスケ部に所属したりしないのだろうか。
「じゃあ、まずボールの持ち方だが、利き手の指先と指の付け根でボールを掴むようなイメージで持て。そして、もう片方の手は軽く添えるだけ。そして、シュート。どうだ、簡単だろ」
須藤はそれを簡単にするためにどのくらい練習したのだろうか。堀北がここに来てから何十年も経っていると言っていたことから、須藤もそのくらい練習しているのかもしれない。
その後、須藤に教えてもらった通りにやってみたところ、なんと一発でシュートが決まった。これにはオレも驚いたが、教えた須藤や見ていた堀北も驚いている。
「やるなぁ。折角だし、1on1でもしないか? 俺がディフェンスをやろう」
「オレが攻め手で良いのか?」
「まだ、ブロックの方法は教えていないからな。それに、お前の場合は実際に見せた方が伸びそうだ」
確かにさっきのシュートも実例を見たからこそ、一発でできたのかもしれない。つまり、これからディフェンスを教えるということか。
「じゃあ、遠慮なく打ってこい」
先ほど、須藤に習った通りにシュートを打つ。すると、須藤は高く跳び上がり、ボールを防いでみせた。
「正確にシュートが決まるなら、球の軌道は読みやすいからな。後はそこを狙って防げば良いだけだ。ちなみにゴールテンディングっていうのがあるから、落下中のボールは防げないんだけどな」
なるほど、須藤の球の軌道を読む能力は経験によるものだろうな。すると、過去に須藤と一緒にバスケをしていた人がいたということだろうか。
「それで、ブロックはできるようになったか?」
「そのブロックは球の軌道を読むことが前提のものじゃないか。今のオレにはできないさ」
「そうだよな、すまねぇ。ちょっとまだ、早すぎたか」
さっき、一発でシュートを決めたから出来ると思ったのだろうが、あれはまぐれだろう。普通は失敗を繰り返して成長していくものだ。教わったからと言って一発で成功できるわけがない。オレがそういう方向での天才じゃない限りな。
「じゃあ、普通のブロックのやり方を教えてやる……と言いたいところだが、今日はもう時間だな」
「時間?」
「この後、ここを利用する奴らがいるんだよ。俺は鉢合わせしたくねぇからトンズラさせてもらうぜ」
須藤はその場から逃げるように立ち去り、堀北とオレだけが残った。奴らということは団体であり、ここを利用するということはバスケ部の人達である可能性が高い。であれば、バスケ部の邪魔にならないようにオレ達も移動するとしよう。
◇
受付に着替えを返却し、オレ達は学生寮に来ていた。ちなみに食堂は夜でも空いているらしく、夕食はそこの無料メニューで済ませるつもりだ。
入寮したばかりであるため、管理人から自分の部屋の鍵を受け取る。驚いたことではあるが、この学校の学生寮は男女共用らしい。階で区切っているそうだ。
「じゃあ、また会いましょう」
「おう、またな」
Dクラスが授業をサボっている都合上、学内で会うことはほとんどないだろう。それでもどこかで暇を潰していれば、会うこともあるはずだ。オレ達はそういう関係性なのだから。
部屋に入ると必要となるであろう家具と携帯が置かれている光景を目の当たりにする。今日からここがオレの暮らす場所になるわけだ。とりあえず、携帯で暇でも潰すか。そう思っていたところで部屋のチャイムが鳴る。
「誰だ?」
そんなことを言ってみたが、この場所を知っている人はオレと堀北くらいしかいない。なので、ここを訪ねてきた人は堀北なのだろうと思い、扉を開ける。
「やっほー、綾小路君。今朝ぶりだね」
「櫛田か。何故、この場所が分かった?」
「場所は堀北さんに聞いたの。アドレスの交換をしたいって言ったらすぐに教えてくれたんだ。一人でもアドレスを持っている人がいた方が良いしね。堀北さんも後で来ると思うよ」
オレにはメールをする手段がなかったが、堀北にはあるのだったな。すっかり、失念していた。オレは携帯を操作し、櫛田と連絡先を交換したが、櫛田は帰ることなくオレの部屋に入る。
「ちょっと、堀北さんが来るまで話したいことがあってね。綾小路君さえ良ければだけど」
「あぁ、全く問題ない」
勝手に部屋に入ったのは良くないと思いつつも、話くらいなら聞いてあげても良いかと考える。どうせ、堀北が来るまでここにいないといけないのだし。
「ありがとう。綾小路君さ、今が何月か分かる?」
「新入生という言葉から推測するに四月じゃないのか?」
「そう思うよね。でも、この学校の新入生がいつ入ってくるかは完全にランダムなの。だから、今は五月なんだ」
確かに新入生という言葉を使ってはいるが、ここではこの世界に来たばかりであることを意味する言葉だ。十二月だろうとこの世界に来たばかりの人は新入生と言われるのだろう。
「それで、五月の学校行事といえば定期テストがあるんだけど、綾小路君は真面目に受けるつもりはある?」
「ないな。授業を真面目に受けるつもりがないんだし」
「それはそうなんだけど、私達にとって定期テストは真面目に受けないといけないの。じゃないとバカンスには行けなくなっちゃうから」
そういえば、池が自己紹介の時にバカンスがあるとか言っていたな。バカンスと言うからには楽しいことをするのだろう。学校ではない別の場所で。
「バカンスに行くことのできる権利のある人は定期テストで合格点を取った人だけなの。勿論、行かない人はテストを受ける必要はないんだけどね」
「つまり、消えるかもしれないテストを真面目に受けろということか?」
「そういうことだね。私達は楽しむために少しの我慢をしなくちゃいけないってこと」
まぁ、学校が行うバカンスだ。学校の授業に出れている人限定でもおかしくないのに、合格点を取れた人限定としたのはそれだけで温情があるのかもしれない。
「試験範囲はどうやって把握するんだ?」
「試験範囲自体は毎年、変わらないの。だから、この時期はこの試験範囲だってある程度分かるんだ。私達はこの学校にかなりいるからね」
「試験範囲が変更したりしたら、どうするんだ?」
「そうしたら、お手上げだって言いたいところだけど、私達が勉強する必要があるところは高校一年生だけだからね。私みたいに長く高校生活を送っている人は授業を覚えているんじゃないかな」
「授業を受けていた時期があったのか?」
「堀北さんがこの学校に来る前まではね。それ以降にDクラスに来たのは綾小路君だけかな」
つまり、ピンチなのはオレだけということか。真面目に授業を受けるという手段もあるが、それでは消えてしまう可能性が高まるだけだ。櫛田からテスト範囲を聞くだけ聞いて、後は勉強する方が無難だろうな。
「それで、試験範囲はどこなんだ?」
「それなら、メールで送るよ。保存しやすいでしょ」
そう言って櫛田はメールを送信してきた。そのメールには試験範囲が書かれており、これを勉強しておけば、少なくとも赤点を取ることはないだろう。
「それにしても、Dクラスが問題児ばかりだっていうのは聞いていたんだが、テストは真面目に受けるというのは教員も頭を抱えるだろうな」
「それはそうかも。しかも、合格点を取ることができるのなら、授業をサボっても問題ないってことになるからね」
櫛田はクスッと笑う。Dクラスは問題児が多いと聞いていたが、こんな子もいるんだな。そう思いかけるが、自己紹介の時に彼女は裏表が違いすぎるという話を聞いたことを思い出す。彼女の問題はその裏の性格にあるのだろう。
「何か今、失礼なことを考えなかった?」
「いや、考えてないぞ」
「ふーん。それなら良いけど」
どうやら、櫛田は人が何を考えているのかはある程度ではあるが、分かるようだ。今後、櫛田の前で変なことを考えないようにしないとな。
「この世界では殴る蹴るは当たり前なんだから、そんなことをされるような素振りは見せないようにね」
「当たり前って……いや、そういえば生徒会長を殺そうとしていたんだったな」
「まぁ、あれは挑戦的な意味合いが強いんだけどね。天使に勝てたことなんて一度もないし」
「それでも挑む理由は神を打ち滅ぼすためだったか?」
「うん、そうだよ。気に食わないからね」
この世界に来た人は大なり小なり自分の人生に対して不満の気持ちがあるのだろう。櫛田もその一人のようだ。まぁ、救われない人生を歩んでいるのなら当然か。
「そういえば、Dクラスは問題児ばかりだって話だったが、他のクラスはどうなんだ? 生徒会長に挑むような奴はいたりするのか?」
「そうだなぁ……Cクラスの龍園君なんかは天使に挑みそうな感じはするかな。BクラスやAクラスは挑みそうな感じはしないし」
「その龍園って奴はなんでDクラスじゃないんだ?」
「私達よりも賢いからじゃないかな。優秀な人順にクラス分けされているみたいだし」
それってDクラスは一番勉強ができないということじゃないか。自分の心配だけしてたけど、オレ以外の人も結構ピンチの可能性はあるな。
そんな話を堀北が来るまで櫛田と話をしていた。その会話の中でほんの少しだけではあるが、櫛田の人間性を知れた気がする。
私にバスケの知識はなかったので、ネットで調べながらこの話を書きました。前回の釣りも同じです。
⚪︎須藤健
・絆レベル0→1 (バスケで遊んでくれるようになった)
⚪︎櫛田桔梗
・絆レベル0→1 (お願いができるようになった)