ようこそ死後の世界へ 作:和崎
この世界に来てから二日目の朝。授業には出ないように言われたから何をすれば良いのか、判断に困るな。学生は勉強をするのが本分だと言われているのだから尚更だ。
朝食はまだ済ませていなかったので、秘密基地で池の料理をご馳走してもらおうと寄ってみたのだが、いたのは池ではなく嘘つきで卑怯者と言われている山内だった。
「おぉ、綾小路か。ここに来たってことは池の料理が食べたくなったんだろうが、残念ながらここにはいないぞ」
「……みたいだな、仕方ない。釣りは時間がかかるし、何か木の実でも取ってくるか」
「場所に心当たりはあるのか? ないとここじゃ彷徨った末に餓死するぞ」
「……冗談だろ?」
「いや、マジだって。ここで死んでも大したことはないけど、餓死は辛いぞ」
そう言いながら、自分で取ってきたであろう木の実を山内は食べている。分けてもらいたいところではあるが、前評判からそういうことはしないタイプだろう。
「場所を教えてやっても良いが、少しだけ話に付き合え。折角、新しくできた仲間だ。できるだけ、仲良くはしておきたい」
どこまでが本当なのかは分からないが、オレはここの世界のことをよく知らないからな。できる限り、情報収集をしておいた方が良いだろう。オレがその誘いを受けると、山内はオレに座るように促した。
「まず、この世界のことをどこまで知ってる?」
「死後の世界ということと、バカンスに行くためにはテストを突破する必要があることくらいだな」
「……まぁ、今はそこまで知っていれば充分か」
まるでそれ以上の何かがあるように感じるな。だが、山内がすぐに口を割るような奴だったら、あんな前評判ではないはずだ。
「そういえば、昨日は堀北が一緒だったらしいが、今日はいないのか?」
「あいつとは昨日会ったばかりだが、いつも一緒にいるようなタイプじゃないだろ。昨日は案内をするために一緒だっただけだろうさ」
「そういうもんか。あの堀北が誰かと一緒に行動すること自体が珍しいから、よく分からないが」
「堀北はお前達と行動しているんじゃないのか? 昨日は一緒にいただろ?」
「作戦を立てる時とかはな。私生活では誰かと一緒に行動していることは珍しいんだよ。特にこの時期はな」
「この時期……テストの勉強でもしているのか?」
生徒会長を天使だと言って、倒そうとするような奴が勉強好きとは思えないが。いや、それは全員に言えることか。
「山内、そういうお前は一緒に行動する奴とかはいないのか?」
「俺か? そうだな……池や須藤とは一緒に行動することがあるぞ。女子だとたまに佐倉と行動することはあるけど」
「佐倉?」
自己紹介の場には姿を見せなかったはずだ。昨日、会ったことのないクラスメイトに自己紹介をする機会があれば良いのだが。
「あぁ、佐倉愛里って言ってな。目立つことを嫌うタイプではあるんだが、グラビアアイドルをやっていたらしいんだ」
「グラビアアイドル……ってことはスタイルは良いのか?」
「あぁ、伊達メガネをしているから分からないがめっちゃ美人だし、おっぱいもデカい! そして、性格も良いから本当に最高の女だぜ!」
「へぇ」
オレは佐倉のことを知らないが、今の言葉を佐倉が聞いたら距離を取られると思う。それくらいのことを大声で言ってたぞ。
「オレにも会う機会があるだろうか?」
「おぉ、俺からの紹介で良ければ、今度紹介してやるぜ。ただし、手は出すなよ」
「……佐倉のこと、好きなのか?」
「そんなんじゃねぇよ。まぁ、そんな時期もあったけどな」
好きではないけど、一緒にいるということはただの友人ということか。手を出すなっていうのも友人としての警告かもな。
「さて、話も終えたことだし、木の実がある場所へと案内しよう。ただし、俺が教えるのはクサイチゴっていう五月〜六月頃に実がなるものだけだ」
「つまり、ちょうどこの時期か。念のために聞きたいんだが、木の実って取りすぎても大丈夫なのか?」
「あぁ、ここにある木の実は不思議でな。採った後、一日もすればまた実が生えてくるんだ。ただし、実がなる時期というものはあるがな」
「それで今回はクサイチゴっていうわけか。オレも図鑑とかでしか見たことないから、味は楽しみだ」
オレのその言葉を聞くと、山内は驚いたように目を開く。まるで、聞いていいことだったのか悩んでいるようだ。
「どうした、山内?」
「いや、クサイチゴって公園とかにも生えているものだったりするんだが……余程、悲惨な人生を送ったんだな。まぁ、この世界じゃよくある話でもあるが」
返答をミスったのかと思ったが、どうやらオレの過去はこの世界じゃ普通らしい。オレの悲惨な過去とやらについて思い出せるのなら、気軽に話せるのだがな。
「山内、手に持っている二つの茶碗はなんだ?」
「決まってるだろ? クサイチゴをいっぱい採るためだ。単体だと小さいからな。その分、いっぱい入れる必要があるんだよ」
「まだ、食べるつもりなのか?」
「当然。俺達にとって、この世界で朝と言えば、木の実だ。まぁ、あんまり腹は膨れないからおかわりをすることも多々ある」
「秘密基地にいた理由は?」
「それは池に料理を作ってもらいたかったからだ。あいつは大体、秘密基地にいるからな。だが、今はいないってことは釣りの最中か?」
確か、池に初めて料理を作ってもらった時にも釣りをしていたな。アウトドアが得意だって言っていたし、そういうのが好きなのだろう。
「俺らがこれから採るクサイチゴについて説明するとだな、低木で高さが20センチ〜50センチほどだ。だから、足元に注意だな」
「なるほど、それで味は?」
「酸味が少ないからか甘く、みずみずしいぞ。タネの粒々とした食感も楽しめるしな。まぁ、実際に食べてみると良い……っと、着いたようだ」
山内がそう言うと、辺りには赤い実がなっている草花が見える。実際には低木らしいが。
その後、俺達は茶碗にクサイチゴを大量に入れて、秘密基地に戻るとお互いに感想を言い合いながら、朝食を済ませるのだった。確かに腹一杯にはならないな。
◇
朝食を済ませたオレは山内に別れを告げ、図書室へと向かっていた。勿論、授業に出ずに勉強をするためである。
図書室へと到着すると、勉強中の堀北を見つけた。テスト当日はまだ先だが、テスト期間であることには違いない。
「堀北、勉強を教えてくれないか?」
「勉強をすることに興味があるなんてね。それとも、バカンスに行きたいだけかしら?」
「後者だ。この世界のバカンスというのが気になるからな」
「この時期に勉強するような人は私以外にはいないから、何事かと思ったけれど、バカンスという言葉に惹かれない人はいないものね。ある意味、当然のことだったかしら」
オレは堀北の前に勉強道具を置くと、堀北に教えを乞いながら、勉強を進めた。何故か、教えてもらわなくてもわかることばかりだったが、油断は禁物というものだ。
「貴方、勉強はできるみたいね。Dクラスにしては珍しい」
「だが、Dクラスは問題児達が集まったクラスなんだよな? つまり、オレの問題は学力ではないということなのか」
「多分ね。一番最悪なのが、性格が問題だってことだけで選ばれた人なの。こういう人の場合は話も通じないわ」
「堀北はどうなんだ?」
「少なくとも学力が問題になったわけではなさそうね。私の場合もやっぱり、性格なのかしら?」
堀北が性格だけで選ばれるとは思えない。もしかしたら、学校の評価だからかもしれない。授業をボイコットするなんて発想をするような奴は間違いなく、問題児だ。勿論、それについてくる奴らも。
「なぁ、性格だけでDクラスに選ばれたやつにお前は心当たりがあるんだよな? 話が通じないとか言ってたけど、誰なんだ?」
「それを言うわけにはいかないわ。私は仮にもクラスのリーダーだもの。誰かの陰口に繋がるようなことは言いたくないわ」
「それもそうか」
山内のように知り合いを紹介してくれるかもと期待してみたが、そう上手くはいかないようだ。この場合はシチュエーションが悪かっただけかもしれないが。
「バカンスに行くためにテスト勉強を頑張ると言っていたけど、そもそもバカンスがどういうものなのか知っているの?」
「いや、何も。ただ、櫛田の話から察するに楽しいことであるのは間違いないと思う」
「櫛田さんも性格が悪いわね。バカンスを楽しいものだと誤認させるなんて」
「言っている意味が分からない。バカンスは楽しいものだろ」
「自己紹介の時にバカンスについて触れてた人がいたから、説明しなくても大丈夫だと思ってたんだけど。その人が言ったこと、思い出せる?」
確か、バカンスについて触れていたのは池だったはず。その時、池はバカンスが腕の見せ所だとか言ってたが……池の得意分野ってアウトドアだったよな?
「その顔は疑問に感じていることがあるようね」
「……何故、アウトドアが得意な池が役に立つんだ?」
「それは無人島でのサバイバルだからよ」
「じゃあ、何でクラスの連中はそれを楽しみにしている?」
「詳しい話は省くけど、この学園から出られる数少ない機会だからよ。後は普段からアウトドアのような生活しているから慣れているっていうのもあるわ」
昨日、櫛田はそんなことを言わなかった。何故かは分からないが、あえて言わなかったんだ。オレに勉強をさせるために。
「櫛田は何故、オレに勉強をさせたかったんだ?」
「それは多分、貴方に気を使っていたのだと思うわ。赤点だと補習だから」
「逃げれば良いだけだろ?」
「逃げられないわよ。教師が天使並みに強いのは知ってる? その身体能力でどこまでも追いかけてくるの。例え、森の中に身を隠そうとも」
確かに茶柱とかいう先生がハンマーを素手で止めていたな。というか、身体能力のことや補習のことを知っているということは、こいつらは経験済みということか。
「だから、赤点を取らないように気をつけなさい。バカンスに行くにしろ、行かないにしろね」
「行かない場合はどうなるんだ?」
「池君の料理がしばらく食べられなくなる」
「……それは行くしかないな」
どれだけ長く料理をやっていたのかは知らないが、池の腕前はプロ級だ。そんな奴の料理はクラスの楽しみなのだろう。勿論、オレもその内の一人なのだが。
「さて、勉強を再開しましょうか。何なら、テスト範囲外のところを教えてあげても良いわよ?」
「意味ないだろ、それ」
いや、別のテストの対策という意味では意味があるのかもしれないが、今やる必要はないと思う。そう思いながら、オレは勉強を再開するのであった。
その後、綾小路と堀北の勉強は夕方になるまで続いています。次回はテストを受けさせる予定です。
⚪︎山内春樹
・絆レベル0→1(クサイチゴを採取できるようになった)(佐倉愛里と絆を深められるようになった)
⚪︎堀北鈴音
・絆レベル0→1(勉強を共にしたことで学力が上がった)