ようこそ死後の世界へ 作:和崎
中間テスト当日。オレ達はしっかりとDクラスの教室に集合していた。それを見た茶柱先生がため息を吐きながら頭を抑えているのを見て、苦労しているんだなと思う。まぁ、オレ達のせいなんだが。
「欠席者は無し、と。毎度思うのだが、お前達は他のクラスのように授業に出ようとは思わんのか?」
「今更、お金は必要ありません。むしろ、わざわざ授業に出ている他のクラスの方が信じられないくらいですよ」
進級しないなら、同じ内容を受け続けることになる。普通、そういうのが苦痛になったりするものだ。それとも、授業を受けることがオレ達に良い影響を与えたりでもするのだろうか。
「金の問題ではないのだが……まぁ、良い。とにかくテストを始めるぞ。知っていると思うが、テストは一日で終わる。補習にならないよう注意しろ」
そう言われて、プリントが配られる。全員に行き終えたことを確認した茶柱先生はチャイムと同時に開始の合図を出した。
問題はびっくりするくらい分かる。これはオレの元々の地頭が良かったのか、それとも堀北と勉強した範囲がそのまま出ているからなのかは分からんが。
そのまま一時間目のテストが終わり、答案を回収しているその時、一人の生徒が立ち上がった。
「ティーチャー! 実は私、結構鍛えているのだよ!」
その生徒は上半身の服を脱ぎ捨て、かなりの筋肉を披露する。名前は分からないが、こいつが堀北の言っていた性格だけでDクラスになったやつかもしれない。
「知ってる」
そう茶柱先生が言うと、上半身を露出した生徒の椅子が回転しながら上昇し、ついにはその生徒ごと天井に激突した。
「綾小路君、覚えておきなさい。彼が今回の作戦に参加しているメンバー。名前を高円寺六助と言うの。今のはインパクトが薄かったからスイッチで突き上げたのだけど」
「待て、今回の作戦とはどういうことだ?」
「私達が普通にテストを受けたら、消える可能性が高い。だから、場の空気をふざけさせているのよ。貴方に知らせていなかったのは、貴方は今回のテストが初めてだったから。納得してもらえた?」
「あぁ、一応はな。だが、あんなことをして平気なのか?」
天井に激突させる行為は下手をしなくても信用を下げる。それを堀北が分かっていないとは思えない。
「平気よ。彼、テストの時くらいしか作戦に参加しないもの。それ以外は自由にするよう伝えているわ」
「それってオレ達と変わらないんじゃないのか?」
「貴方にも作戦には参加してもらうつもりよ。今回のテスト以外の作戦にもね。だから、彼は特別扱いなの」
作戦……となると、生徒会長を倒すための作戦にも加えられたりするのだろうか。特殊な力を持っている彼に果たして勝てるのだろうかと考えていると、目の前からプリントが配られる。どうやら、二時間目が始まるようだ。
この調子でテストが終わる頃にはふざける人が出てきて、場の空気を変える役目を行った。ちなみに後で皆から聞いた話だと、テストは真面目に解いたらしい。
◇
テストが終わり、オレ達は秘密基地に来ていた。その目的は勿論、今日の作戦終了を祝ってのパーティーである。
パーティーと言っても大量の料理を池が作り、それを皆で食べるだけだ。今回、オレは普通にテストを受けていただけなのに良いのだろうか。
「テストは卒業する可能性のある危険なことよ。それに参加して無事に帰ってきた……今回のパーティーはそのことを祝うものなの」
どうやら、顔に出てしまっていたようで堀北からフォローがされる。なるほど、作戦が終了した祝いではないのか。なら、オレにも参加する資格はあるわけだな。
「今までテストで消えた奴はいるのか?」
「私が来る前にはいたらしいわ。私が来てからはそんな人はいないけど、油断したら一発でアウトよ」
「分かった、気をつけよう。ところで、今回テストに出たところは勉強した内容しか出てこなかったが、テストの内容を知っていたのか?」
「櫛田さんから聞いてない? 今回のテストは過去問と同じだからそこだけ勉強しておけば、楽勝なのよ」
「聞いてないが」
「相変わらず、性格が悪いわね」
バカンスの件であったり、今回のテストであったり、櫛田は隠していることだらけだ。だが、オレが勉強できるようにするためかもしれないし、そこは良いように考えよう。
「やぁ、新入生の綾小路ボーイ。今回の作戦はどうだったかな?」
「えぇと、高円寺だったか。テストは勉強したおかげで何とかなったよ」
「そうではない。私達の体を張った芸はどうだったかと聞いている」
高円寺の芸というと筋肉を見せた後、天井に激突することだったか。筋肉はともかく、天井に激突するのは意外性があって驚いた。そのように伝えると、高円寺は高笑いをする。
「そうか、面白かったか! 正直なところ、曲芸を披露しても良かったのだが、道具をどこかに紛失してしまってね。苦肉の策という奴だったのだが、フォローがあって何よりだ」
天井に激突させることを堀北からのフォローだと言ってみせるとは。オレの心配は杞憂だったわけか。
「まぁ、紛失したのであれば、また作れば良い話だ。次回は衝撃的なものを見せようじゃないか」
「今回も充分、衝撃的だったけどな……っていうか作れるのか?」
「どうやら、知らないようだね。この世界の神秘を!」
オレが知っているこの世界の神秘といえば、死んでいる人ばかりだからどんなに殺されても生き返るってことくらいだ。高円寺の言い方から察するに他にもあるということか。
「本来なら、私が他人に何かを教えるようなことはしないが、今回は特別に教えよう! 付いてきたまえ!」
そう言って、高円寺はパーティー会場を抜け出す。どうやら、オレの知らないこの世界の神秘とやらを教えてくれるらしい。もしかしたら、今後役に立つかもしれないし、知っておいて損はないだろう。
オレは高円寺について行くと、洞窟のような場所に辿り着いた。ここで物を作るのだろうかと思っていたが、肝心の道具がほとんどない。ここでどうやって神秘を見せるつもりなんだ?
「これを見たまえ」
「これは……土か? 一体、どこの土なんだ?」
「粘土質であれば、どこの土でも良いのさ。とにかく、これを克明な記憶と強い念を持って握る」
「どのくらい握れば良いんだ?」
「ざっと、二時間くらいさ。さぁ、私と一緒にやってみようじゃないか」
オレもやるのか……まぁ、自分でやらないとこういうのは疑問を持ったままだからな。二時間もやり続けるとなると、頭と腕が疲れることになるが、やるしかない。
そうして二時間ほど握り続けていると、土の感触が変わる。手の中を見てみると、そこには土ではなく一本の釘があった。つまり、土を握り続けた結果、本当に一本の釘が出来たのだ。
「どうやら、出来たようだね。初めはできない者もいる中でよくやったと褒めておこう」
「それで、高円寺は何を作ったんだ?」
「これさ……と言っても君には理解できない物だろうがね」
これは確か、銃のパーツだったはずだ。何故、オレが知っているのかは分からないが、もしかしたら生前に触れる機会があったのかもしれない。
「その目……どうやら、これがどういう物か知っているようだ。だが、何故知っているのか分からない、そんな顔をしている」
「そんなことまで分かるのか?」
「これでも人を見る目はある方でね。この世界にいる者は皆、報われなかった人生を過ごしてきた者達だ。これを知っていたところで驚くに値しない」
「高円寺も生前、これを見たことがあるのか?」
「あぁ、勿論さ。だが、私の話など今はどうでも良い。今日は説明のためにここに来たのだからね」
つまり、説明以上のことを話すつもりはないということか。だが、パーティーを途中で抜け出してくるほどの意味はあった。
「この世界では克明な記憶と強い念さえあれば、物を土から作ることができる。ただし、それはパーツしかできない。武器などの複雑な物はそのパーツから組み立てなければならないのさ」
「つまり、あいつらが持っている武器もそうやって作ったということだな。作ってくれる職人みたいな人はいないのか?」
「このクラスでそんなことをしてくれる物好きなんているわけがない。作りたければ、自分でやりたまえ。私も彼らもそうしてきた」
「なるほど、誰に頼まれたのか何となく分かったよ」
「何のことだか」
間違いなく、堀北から頼まれたからオレに説明をしたのだろう。このタイミングでしたということは、面倒ごとは早く済ませたかったというのが本音か。シラを切られている以上、オレには想像することしかできないが。
◇
パーティーから抜け出して、二時間以上は経過していたこともあってオレ達が秘密基地に戻った時、パーティーは終了していた。もったいないことをしたと思いつつも、次回は思いっきり楽しもうと気持ちを切り替える。
「お疲れ様、高円寺君。貴方達の料理は残してあるから残さず食べてちょうだい」
「グゥッド。流石だ、レディ。では、遠慮なくいただくとするよ」
「すまないな」
正直、疲れていたから何か口にできるだけでもありがたい。堀北から差し出された料理を受け取ると、背後から声を掛けられる。
「あ、あの……山内君から紹介されたんだけど、綾小路君……で良いんだよね?」
「山内からの紹介ってことは……もしかして、佐倉か?」
その言葉を肯定するように頷いたことから、間違いないようだ。それに何故、この場で話しかけてきたのかも何となく察しがついた。
「ごめんね……こんな人の多い場で……話しかけることになっちゃって」
「気にするな。むしろ、こういう場でないと話せないんだろ?」
「うん。知らない人と……二人っきりみたいな状況が……苦手で」
予想通り、人見知りだったか。もしくは、過去がトラウマになっているのかもしれないが。あんなことを言っていた山内が、オレに対して手を出すなと警告した意味が何となく分かった気がする。
「綾小路君はさっき、高円寺君と……何をしていたの?」
「あぁ、土から素材を作れるってことを教わっただけだ。それと欲しいものは各々が素材から組み立てるってこともな」
「それだけ?」
「それだけだが……二時間もこの場を離れていたのは土から素材を作っていたからだ」
「そういうことじゃなくて……えぇと、なんて言えば、良いのかな?」
どうやら、彼女なりに言いたいことがあるらしい。高円寺がまだ、説明していないことでもあるのだろうか。
「高円寺君から聞いているか、分からないけど、組み立てるために必要なことって、何か分かる?」
「まぁ、最低でも知識は必要だろうな。後は技術だが、これに関しては経験で何とかなるだろう」
「その知識について何だけど、学校の図書室に……組み立てをするための本が……置いてあるの」
一度、堀北と勉強をするために図書室に寄ったが、かなり広かったのを覚えている。色々な本があるんだろうが、職人しか読まないような本も置いてあるとは。
「よ、用事は……それだけ……ご、ごめんね。今度、会う時までに話せること、考えとくから」
そう言って佐倉は去っていった。趣味の話とかでも良かったのだが、それはまた今度会う時の楽しみにしておこう。
今回、出てきた佐倉はゲームで言うところの初登場シーンというだけです。もしも山内が綾小路のことを紹介しなければ、堀北にその説明をさせるつもりでした。
⚪︎高円寺六助
・絆レベル0→1(武器を作れるようになった)