ようこそ死後の世界へ 作:和崎
初めての戦い
作戦が決まったという連絡を受けて、秘密基地に集合したオレ達は明らかにDクラスの生徒ではない人物を見かける。
「櫛田、あいつは誰だ?」
「あれはCクラスの龍園翔君。この前、話した他クラスで天使に挑みそうな人だよ」
「そんな奴が何でわざわざここに?」
「彼は暴力を信仰していると言っても過言じゃなくてね。天使と戦うような作戦には参加してくれるの。前回はクラスが違うから、参加できなかったけど」
そんなことを話している内に作戦に参加するメンバーが集まったようで、堀北が真剣な顔で話し始める。今回のメンバーは顔見知りばかり……というか初日に生徒会長を倒そうとしていたメンバーに佐倉と龍園が加わっただけだ。
「綾小路君にとっては初めての作戦になるわけだけど、何か気になることがあるなら聞いておきましょうか」
「そうだな……オレはまだ武器を作っていないが、それでも参加できるのか?」
「問題ないわ。そのために佐倉さんを呼んだのよ。佐倉さん、例の物を」
「は、はい! あ、綾小路君、これを」
そう言って佐倉から渡されたのは一挺の拳銃だった。他人のために武器を作る人などいないと言っていたこともあって、この武器も本来は佐倉の物なのだろう。
「佐倉さんには今回、サポートに回ってもらおうと思うの。だから、佐倉さんが普段使っている銃を渡しておくわ。一応、言っておくけど貸すだけよ。そこのところは覚えておきなさい」
「分かっているさ」
遠回しに早いところ武器を作っておけという命令だろう。それに今回、武器を使う必要があるということは生徒会長を倒す目的で間違いなさそうだ。
「今回は綾小路君にとって、初めての作戦になる。だから簡単な作戦、オペレーション・リボルトを行うわ」
「何てことを……」
「デカい仕事じゃねぇか」
メンバーがざわついている。そんなに今回の作戦は大変な仕事なのだろうか。リボルト……暴動や反乱などを意味する作戦名からして物騒ではあるが。
「今回はプロレスよ!」
「……プロレス? 何のことだ?」
「オペレーション・リボルトはね、お金を使わなくても娯楽を見れるように勝手にイベントを開いたことが始まりなの。今回のイベントはプロレスってことなんだと思う」
良い催しだと思うが、それのどこが暴動や反乱という言葉に繋がってくるのだろうか。そのように疑問を伝えると、堀北は良い質問だと言いたげな顔をする。
「この学校にSシステムがあることは知ってると思うけど、そのポイントはなんでも買えるの。例えば、イベントを開く権利なんかもね。でも、あえて行使しないでやると、どうなると思う?」
「学校側は中止させようとする……ってことは、まさか」
「そう、生徒会長である天使が高確率で止めに来るの。だから、私達はその天使を倒すつもりで戦うことになる。それが私達の最初の反抗よ」
リボルトには暴動や反乱の他にも反抗という意味がある。普段はそうやって生徒会長と戦っていたのか。しかし、この作戦には一つ問題がある。
「高確率ということは生徒会長じゃない場合もあるということだろ? その場合はどうするつもりだ?」
「教師は終業時間には止めに来ない。これは今までの経験で分かるの。だから、生徒会が自主的に止めに来ているってことになるのだけど、生徒会長である天使が来ないことも過去にはあった。その場合、ターゲットを変更して止めに来た役員と戦ってきたわ。今回もそうやってちょうだい」
「せ、生徒会役員は、携帯から確認できる、よ」
佐倉の教え通り、携帯からこの学校の生徒会役員の情報を見ることができた。生徒会役員は生徒会長を含めると六人いる。ただし、確認できるのは顔写真と役職だけで名前までは分からない。
「何で名前を公開していないんだ?」
「そこまでは分からないわ。私も最初、天使の名前が分かるかと思ったのだけど、残念ね」
「だが、天使以外の名前は分かっている。そいつらも天使ほどではないが、相当な強さだ」
「まさか、そいつらも特殊な能力を持っているのか?」
その言葉に堀北は頷く。つまり、二人以上で攻めてきたら対抗することが難しくなるということじゃないか。こればかりは祈るしかないな。
「さて、綾小路君への説明も終わったことだし、もう質問はないかしら? それじゃあ、作戦開始!」
その合図と共にオレ達は作戦場所に向かうことになった。プロレスは見てみたかった気もするが、仕方ないだろう。
◇
プロレスの場所はオレ達がこの前、訪れたスポーツセンターで行うようだ。確かにこの場所なら、プロレスができるほどの場所があるだろう。宣伝も行っているのか、プロレスを見に来たと思わしき人が続々と中に入っていく。
「もしかしたら、生徒会の人も中に入っているんじゃないか?」
「それはないよ。これは生徒会と戦うための作戦だけど、向こうもこっちが挑戦状を叩きつけていることは分かっているの。だから毎回、少しだけ遅れて来るんだ」
「つまり、オレ達の相手をあえてしているってことか。一体、何のために……」
櫛田と一緒に見張りをしているが、生徒会の役員が来る様子はない。もうそろそろプロレスが始まるはずなんだがな。
「分かっていると思うけど、ここ以外にもスポーツセンターに行く道はあるから。もしかしたら、そっちにいるのかも」
「だとしたら、堀北からの連絡が来るまで待機だな。そういえば、佐倉はサポート役だって言ってたけど、具体的には何をするんだ?」
「佐倉さんはプロレスの解説役をしてくれているよ。やっぱり、プロレスは解説役がいないとね」
人見知りの佐倉がプロレスの解説か。解説をするってことはプロレスに詳しいんだろうが、しどろもどろになっているイメージしか湧かない。
「まぁ、解説役にはもう一人いるからそっちの人が上手く進行してくれると思うけど、問題なのは今回の組み合わせなんだよね」
「組み合わせ?」
「本来なら、無難な組み合わせで行こうと思ったんだけど、高円寺君が出たいって言い出したらしくて。それで高円寺君を急遽、ねじ込んだことは良いんだけど、高円寺君って強いから、並大抵の人じゃ相手にならないんだよね」
「つまり、すぐに終わる可能性があるってことか」
「まぁ、だから試合を無差別級ってことにして参加者を探したの。一応、対抗できそうなのは見つかったみたいだけど、大人しく授業を受け続けた人が高円寺君と勝負になるのかな?」
その言い方からすると、相手は他クラスの生徒か。Cクラスにも龍園っていうオレ達とあまり変わらない生徒がいるのだから、高円寺並みに動ける人がいてもおかしくないと思うがな。まぁ、高円寺の身体能力をオレは知らないが。
「大丈夫でしょ。だって、高円寺君の相手は生徒会のメンバーだもん。むしろ、高円寺君の方が簡単にやられちゃうんじゃないかな?」
「そんなはずは……!? 綾小路君、下がって!」
櫛田の指示に従い、相手から距離を取る。いつの間にか会話ができるほど近くにいた人物こそ、オレ達の敵である生徒会のメンバーだ。
「君は初めましてだよね? 高度育成高等学校、生徒会庶務、一之瀬帆波だよ。よろしくね」
「こちら、櫛田。正面入口に一之瀬が出現」
櫛田が無線で堀北に伝えている。可愛らしい見た目をしているが、それだけ油断ならない相手ということだろう。
「何をしに来た? 何故、生徒会長は来ない?」
「何ってプロレスを見に来たんだよ。生徒会長は仕事が忙しいから来れないって」
「勝手に開催したイベントを中止させに来たんじゃないのか?」
「生徒会の役員が参加するイベントを勝手に開催させるわけないじゃん。ちゃんと、こっちでポイントを払っておいたよ」
つまり、違反ではないから生徒会長は止めに来ない。前提が崩れた……そもそもどうして生徒会の役員を対戦相手にしたんだ。堀北がやるようなミスだとは思えない。
「櫛田、高円寺の対戦相手は誰が決めた?」
「……高円寺君だよ。対戦相手が私達にも秘密だったのはそういうことか、あの自由人め」
櫛田の口調が変わり、怒っているのが分かる。自由にさせているとは聞いていたが、こちらの作戦まで潰すとはな。だが、敵が目の前にいるのであれば、話は変わらない。
「悪いが、オレ達の目的は生徒会の役員と戦うことだ。どうしても見たければ、オレ達を倒していくんだな」
「そういうこと」
オレ達は各々武器を構える。オレの武器は佐倉から借りた拳銃だが、櫛田は一本の長い棒だ。棒術というものがあるということは聞いたことはあるが、それで戦うのだろう。つまり、オレが後衛で櫛田が前衛ということになるな。
「しょうがないな。後悔しないでよ」
その言葉が終わると、一之瀬は瞬きをする間にオレの目の前まで来ていた。オレは反射的に引き金に指をかける。
「綾小路君、一之瀬相手に銃は通用しない! 戦うなら、接近戦じゃないと!」
「は?」
その言葉に反応するよりも前に引き金を引いてしまい、弾は一之瀬に当たる。その瞬間、銃が通用しないという言葉の意味が分かった。
「効いていない……どころか仰け反らせることすら……」
「だから、言ったでしょ。後悔しないでよって」
オレの腹を一之瀬の拳が貫通する。こいつの特殊な能力……それは硬くて速いことか。だが、オレがそれに気付いたところでこの致命傷だ。意識を失うまで、そう時間はかからなかった。
◇
次にオレが目を覚ました場所は食堂であった。オレを誰かが運んで、席に座らせたらしい。腹の傷も塞がっていることから、一度死んだようだな。
「綾小路君が起きたところで、今日の反省会をするわ。今、ここにいる全員が一之瀬帆波に全滅させられたわけだけど、全滅させられるのはいつものことだから置いておくとして、他に反省点があるとしたら何かしら?」
「高円寺に対戦相手を選ばせたことか? まさか、生徒会の奴を選ぶとはな。やっぱり、山田でよかったんじゃないか?」
話を聞く限り、増援は一之瀬がスポーツセンターに入る前に来たらしい。それでも勝てなかったということは彼女はこの程度の人数では仕留めきれないということだろう。
「おい、起きたんならこの食券で注文してこい。俺の奢りだ……心配しなくてもポイントは腐るほどある」
「あぁ、分かった。ありがとう」
龍園から渡された食券には麻婆豆腐と書かれていた。他の人を見ると全員が麻婆豆腐を食べていることから、平等に配ったようだ。中身が真っ赤なのが気にはなるが。
食堂で注文をし、受け取った感想は『湯気が目に痛い』ということだった。でも、あいつらは平気そうに食ってたしな。仕方ない、食うか。
「辛っ!?……でも美味い」
「その麻婆豆腐は最初、罰ゲーム用に買ったんだが、意外と美味いってことで罰ゲームにならなかった。以降、作戦に参加した奴らにはこれを奢っている」
「罰ゲーム用?」
「あぁ、ウチのクラスで時々な。俺のクラスはそういうバカなことでしか通じ合えねぇんだよ。一部を除いてだがな」
オレ達、Dクラスは不良品だと言われている。そのクラスよりも優秀であるとされているCクラスでも似たようなことはするのか。それなのに授業には参加しているということは、ポイントは欲しいということだな。
「Cクラスは授業に出て平気なのか?」
「あぁ、消えるとかってやつか。それなら、先月のテストが終わった時に一人消えた」
「なら……」
「だが、俺達はいつ死ぬかも分からねぇギリギリのところで生きてきた。今更、在り方を変えられねぇんだよ」
Cクラスはそういうクラスなのか。Dクラスに配属されない理由が少し分かった気がする。オレ達、問題児集団とは少し違う感じだな。
「俺は喧嘩慣れしてるから、武器が決まったらその武器での戦い方を教えてやる。ただし、土日のどちらかしか教えられねぇがな」
「あぁ、助かる」
ならば、土日になるまでに武器を決めておこう。そう決意して、オレは龍園との連絡先を交換した。
綾小路が持っていた拳銃は佐倉に返却されています。
今回は綾小路にとって初めての作戦になりましたが、記憶を取り戻していないためにすぐ負けてしまいました。
これから、龍園を通じて戦いの記憶を取り戻せたら良いと考えています。