ようこそ死後の世界へ 作:和崎
作戦の翌日。今日は土曜日ということもあって、学校自体が休みだ。そのため、外に出るとサボっているオレ達以外にも生徒を見かける。流石にオレ達みたいに森の中に足を運んでいる生徒は少ないみたいだが。
「よし、これで完成だな」
そんなオレは現在、洞窟で自分の武器を製作していた。オレが作ったのは短剣、ナイフとも言うやつだ。これを作ったのは前回の反省からでもある。
前回、近接戦闘ができなかったからすぐに死んでしまった。そのため、オレの武器は近接戦闘ができて、扱いやすいこれが良い。そう考えて製作したのだ。
さて、龍園に武器ができたことを報告して、ナイフの戦い方とやらを教えてもらおう。あちらにも都合というものがあるから、すぐにとはいかないだろうが。
「あ、綾小路君、こんにちは」
洞窟の中にはオレ以外にも人はいたようで、奥から佐倉が出てきた。こちらも挨拶を返すと、佐倉がオレの持っているナイフに目を向ける。
「綾小路君、自分の武器、作ったんだね。写真、撮って良いかな?」
「あぁ、良いぞ」
オレは机の上にナイフを置くと、佐倉の苦笑いが返ってくる。ナイフを撮影するのなら、オレの選択は間違っていないと思うのだが。
「……説明が足りなかったね。武器と人をセットで撮りたいの。誰がどの武器を使っているのか分かるようにするためにね」
「つまり、その写真はDクラスの面々に渡すってことか」
「正確に言うと、堀北さんに渡すんだけど、その認識で合ってるよ」
となると、武器は見える位置に持っていた方が良いな。とはいえ、写真は素人だから、どの位置にナイフを持っていったら良いかが分からん。
「そんなに迷わなくても、好きなポーズで良いよ。顔と武器だけが見えれば、それで良いから」
「そうか、悪いな」
「ううん、気にしないで。ポーズを決めるのに一時間以上、かかった人もいるから」
そんな奴が……いや、いるな。こちらの作戦すら潰す高円寺なら、それくらいやっていてもおかしくはない。まぁ、オレの勝手な憶測に過ぎないが。そう思いながらも無難なポーズをとる。
「そのポーズで良いのかな? じゃあ、撮るよ……はい、チーズ!」
彼女はそのままカメラのボタンを押し、フラッシュ音とシャッター音が聞こえてくる。どうやら、撮り終わったようだ。
「じゃあ、現像してくるね」
「現像って……ポイントはあるのか?」
「それに関しては問題ないよ。このカメラの現像は自分でやれるから」
「自分で?」
「あ、うん。このカメラ、フィルムカメラだから、フィルムを暗室で現像するだけなの」
今時、フィルムカメラというのは珍しいような気もする。ショッピングモールに行けば、デジタルカメラは売っているだろうが、フィルムカメラは売っているかどうか……そういうレベルの物だ。だが、買わなくても手に入れる方法をオレは知っている。
「もしかして、そのカメラは……」
「うん、自分で作ったんだ。正確に作動するまで、一年以上かかったけど」
そうか、それくらいかかるのか。機械の自作も楽しそうだと思っていたが、そのくらいかかるのであれば、忍耐力が必要になるな。
「なぁ、現像にどれくらい時間がかかるんだ?」
「大体、三十分〜一時間くらいだけど……それがどうかしたの?」
「なら、充分に待てるな。写真の出来映えを見たいんだ。それに写真について説明してくれると助かる」
「綾小路君、写真に興味あるの!?」
「堀北のように色々なことに興味を持ちたいと思ってな。迷惑だったか?」
「ううん、そんなことないよ! じゃあ、現像してくるね!」
そう言って、佐倉は洞窟の奥へと去っていった。おそらく、奥が暗室になっているのだろう。作業場は集中力が必要になるはず……下手に立ち入れば、殺されそうだ。
それから、図書室で借りてきたナイフについての本を読むこと一時間。奥からゆっくりと歩いてくる音が聞こえる。おそらく、写真が出来上がったのだろう。
「ごめんね……予想より、時間がかかっちゃって。はい、これが綾小路君の写真だよ」
「これは……思ったよりも大きいんだな」
写真といえば、片手の大きさくらいのものだと思っていたから、両手を合わせたくらいの大きさがあるということは予想外だ。
「堀北さんも似たようなことを言ってたっけ。それは私の使っている印画紙が大きいだけで、小さくもできるよ。あぁ、印画紙っていうのは簡単に言うと、写真のプリントアウトに使う紙のことで、感光性の乳剤が上に塗られているの。私が使っているのは経年劣化や光に当たるとダメになっちゃうやつなんだ」
「へぇ」
初対面の時とはかなり話し方が違うな。やはり、趣味の話になると人見知りの人でもこうなるのか。
「あっ、ごめんね。私ばっか喋っちゃって」
「いや、良い……続けてくれ」
「そ、そう? じゃあ、次は構図についての話なんだけど、今回の写真は綾小路君とナイフを真ん中に撮っているでしょ? この構図のことを『日の丸構図』って言うの」
「へぇ、この撮り方に名前があったんだな」
この世界に来てから写真に触れたことがないから、写真の構図なんて考えたこともなかった。写真に詳しいやつと話したからこその新しい発見だな。
「この構図はシンプルだからこそ、目立たせたいものを強く見せることができるの。ただ、シンプルだから僅かな傾きでも違和感が出やすいんだ」
「その点、佐倉の写真は違和感なく撮れているな。元グラビアアイドルだそうだが、写真を撮ることには慣れているのか?」
「うん、生前でも自撮りとかはよくしてたし、この世界に来てからはそれ以外もするようになったから、慣れってやつかな。綾小路君も練習してみれば、上手く撮れるようになるよ。カメラは作れなくても、携帯があるんだしね」
そうだな、せっかく学んだのだから、活かさないのは勿体ないよな。この森の中とか撮影スポットが多い気がするし、今度やってみるか。
◇
佐倉と別れた後、龍園から明日なら空いているという返事を受け、明日の予定が埋まる。さて、残りの時間をどう過ごそうか。
「あれ、綾小路君だっけ? こんなところで会うなんて奇遇だね」
「お前は、一之瀬! こんなところに何の用だ?」
ここは森の中で、普通の生徒は足を運ぶ場所ではない。特に生徒会の人物であれば、尚更だ。まさか、秘密基地が森の中にあることがバレたのか?
「ここは食材が豊富だからね。節約のために採りに来ることもよくあるんだけど、もしかして入ったらダメな理由でもあるのかな?」
「いや、そういうわけではないが」
「なら、平気でしょ。そんな不安そうな顔をしないでも、戦いを挑んだりしなきゃ何もしないって」
一之瀬はどうやら、本当に食材を調達しに来ただけのようだ。彼女の様子からして嘘は言っていないだろう。なら、オレのやるべきことは一之瀬が秘密基地に害を加えないようにすることだけだ。
「一之瀬、オレも食材は欲しい。だから、二人で探して山分けにしないか? 少なくとも、クサイチゴの場所なら知ってるぞ」
「クサイチゴか……朝食用に持って帰っても良さそうだね。じゃあ、代わりに野菜の採れる場所を教えてあげる」
「野菜? ここは木の実以外はないと思ってたが」
「まぁ、ここの野菜は自然的なものだとは思えないけど。今回は時期的にナスとかかな?」
自然的なものではないということは誰かが、種を植えて育てているということだ。それも育つ場所をわざわざ選んで。一体、誰がそんなことをしているのか……少なくとも一之瀬ではないようだが。
「クサイチゴは後で採りに行くとして、まずはナスを採りに行こうか」
「良いのか? こっちが約束を守る保証もないんだぞ」
「大丈夫、クサイチゴが採れるまで綾小路君について行くだけだから」
つまり、もしもそんなことをすれば、こちらが根負けするまで粘るということか。これはクサイチゴが残っていることを祈るばかりだな。
「ナスは寒さや乾燥には弱い上、日当たりの良い場所を好むの。後、水もかな。収穫できる時期は五月の上旬〜九月の末頃までだけど、旬は夏なんだ」
「随分とナスに詳しいんだな」
「採れる野菜のことは一通り、勉強したからね。特に採れる時期……これは大事なことだよ。君達なら、分かるでしょ?」
「まぁな」
ここに生えている食べ物は収穫時期の最中はどんなに採ったとしても一日経てば、すぐにまた生えてくる。ただし、収穫時期を過ぎれば、生えてこないらしいので、注意が必要だ。
「それにしても随分、遠くまで歩くんだな」
「言ったでしょ、ナスは日当たりの良い場所を好むって。だから、あまり木が生えていない場所にあるんだよね。心配しなくても、もう少しで到着するよ」
一之瀬の言葉通り、開けた場所に到着する。目の前にはナスが群生している……というか、花壇のような物が作られている辺り、誰かが育てているのは確かだ。
「一之瀬、これは明らかに誰かが育てている物だ。勝手に採るのは良くないと思うのだが」
「でも、近くの看板にはご自由に『お取りください』って書いてあったよ」
一之瀬が指を向けた場所には確かに看板があり、そこには一之瀬が言ったことと同じことが書かれていた。
名前は書かれていないが、もしも所有者以外が書いた物だとするなら、引っこ抜かれていてもおかしくない。そうなっていないということは本当に自由に収穫して良いのだろう。
「これくらい採れば、充分かな」
「それだけで良いのか? ナス単品じゃ、昼食にも夕食にも向かないと思うが」
「あくまでもこれは節約のために森に入っただけ。山で採ることができない食材はちゃんと買って帰るよ。今日は豚肉を買って、ナスの肉巻きを食べるんだ」
買い物ができるのは授業を受けている人の特権かもしれないな。もっとも、消える可能性があるのなら、オレは受けようとも思わんが。この後、クサイチゴのある場所に案内をして、オレと一之瀬は解散となった。
この後、綾小路が収穫したナスは秘密基地にいた池に料理してもらいました。
また、一之瀬が森に入っていたため、何とかやり過ごしたことを綾小路は堀北に報告しました。
⚪︎佐倉愛里
・絆レベル0→1(カメラで撮影してもらえるようになった)
⚪︎一之瀬帆波
・絆レベル0→1(ナスを収穫できるようになった)