ようこそ死後の世界へ 作:和崎
龍園は噂によれば、自分のクラスを暴力で支配したらしい。ギリギリのところで生きてきたCクラスの連中を沈められるほどの暴力というのにオレは興味がある。
勿論、その暴力を受けてみたいとかそういう話ではなく、そんな奴が教える戦い方がどんなものであるかということだ。何であれ、確実にオレを強くするだろう。オレはそんな高揚感を胸に抱きながら集合場所に到着した。
「来たか。ようこそ、俺達の訓練場へ」
龍園の言葉通り、ここは誰かが作った訓練場である。作ったのはDクラスだと思うが、誰でも利用が許可されているらしく、龍園のような他クラスの生徒も利用しているようだ。
「じゃあ、戦い方を簡単に教えていくぞ。まず、ナイフを使った戦い方でナイフだけを使うのは悪手だ。大体は他の格闘技と合わせて使うことが多いな。このことはちゃんと覚えておけよ」
「つまり、切るとか突くみたいな攻撃以外も使えってことか。オレはそもそも格闘技を使える自信は無いぞ」
「安心しろ、そのために俺が教えるんだよ。まぁ、そもそも一之瀬が相手だったら、抑え込みのような動きを封じる技以外は通用しねぇからな」
そういうわけで、オレは格闘技を龍園から教わることになった。龍園の教え方は分かりやすく、攻撃のやり方やさばき方、相手の腕を抑えて関節を極める方法まですぐに扱えるようになったのだ。
「お前、生前に格闘技を習ってただろ。そうじゃなきゃありえねぇ習得スピードだぜ」
「お前の教え方が上手いんじゃないのか?」
「そう言ってくれるのはありがてぇが、俺が別の奴に教えた時は一ヶ月以上かかった。つまり、お前が覚えていないだけで身体は技術を覚えているんだろうな」
そうなると、生前のオレは勉強ができて戦闘もできるハイスペックな人間だったことになる。報われない人生だったというからそういうのとは無縁だと思っていたが、それができても報われなかったということか。
「そういや、ナイフを武器に選んだ理由を聞いていなかったな。やっぱり、一之瀬のような相手に近接戦闘を仕掛けるのが目的か?」
「あぁ、その通りだ。ただ、遠距離に飛ばせるように何本も作っておこうと思っているんだけどな」
「それが良いだろうな。他の生徒会メンバーは武器を持っている。武器を持っていないのは一之瀬くらいだ」
この世界に来た初日に生徒会長が何かを唱えて、武器を顕現させたのは覚えている。あんなに強い人が武器を使うのなら、他のメンバーも武器を使っていても不自然ではない。
「一之瀬の能力は硬いことと速いことの二つだと思っているんだが、そもそも違う能力を二つ使うことなんてできるのか?」
「一之瀬の速さは鍛えていれば、お前でも対応可能だ。つまり、速さは特殊能力じゃねぇんだよ」
「つまり、お前も一之瀬並みの速さは出せると?」
「あぁ、俺だけじゃねぇ。鍛えた連中は一之瀬に対応可能だ。一之瀬に負けちまうのはあいつの攻撃は急所に当たれば、一撃必殺になるから……にも関わらず、こっちの攻撃は抑え込み以外は通用しねぇ。その上、抑え込みは決定打になりえねぇからな」
「つまり、一之瀬に勝つためには決定打になる何かが必要だということか」
龍園がその言葉に頷き、オレはそのことに頭を抱えた。そうなってくると、生き埋めにするくらいしかないじゃないか。
だが、生き埋めにする方法なんて真下に爆弾を仕掛けるくらいしかない。しかし、そんな余裕なんてないのはオレでも分かる。
「その顔は何か思いついたって顔だな」
「何で顔から何を考えているのか、分かるんだよ。いや、一之瀬を地下に生き埋めにできないかなって思っただけだ」
「生き埋めか……その方法は俺達も考えていたが、どうやってそうするかは議論の最中だ」
「都合よく、地下施設とかがあれば良いんだがな」
そんなものはないという反応が返ってくると思ったが、龍園は何かを考えている様子だ。もしかして、心当たりがあるのか?
「この世界には誰が掘ったかも分からない地下施設が一応、存在する。俺達はその探索をしていたんだが、それを作戦に組み込んでみるか」
「龍園?」
「悪いな。今日の訓練はここまでだ。俺はこのことを鈴音に提案しに行かなくちゃいけねぇ。次に訓練をする時は模擬戦でもしようぜ」
龍園は走り去っていき、訓練場に残されたのはオレだけとなった。今回は格闘技を教わったが、一之瀬に追いつける速さは欲しい。そのため、残って修行をしようと決めた。
◇
修行をしていて何時間経過したか分からないが、誰かの視線を感じる。もしかしたら、修行をしようとしている誰かなのかもしれない。
「誰かは分からないが、オレは一年Dクラスの綾小路清隆だ! 修行をしに来ているのなら、お前の敵じゃない! 素直に出てきてくれないか?」
どこに隠れているかは分からないので、大声で話す。すると、木陰から見知らぬ人が出てくる。ただ、一つ分かるのは生徒会メンバーではないということだ。ということはオレ達の仲間という認識で問題ないだろう。
「ごめんね、綾小路君。警戒させるつもりはなかったんだ。僕の名前は平田洋介。君と同じ、一年Dクラスだよ。君は知らないだろうけど、堀北さんが来るまでは僕がクラスのまとめ役だったんだ」
「同じクラスだったのか。なら、どうして作戦には参加していないんだ?」
「堀北さんの方針には僕も賛成なんだけどね。ちょっと、地下の探索をしていてそれどころじゃなかったんだ」
「そういえば、龍園がそんなことを言ってたな。テストの時には戻ってきていたみたいだが、それ以外は探索か?」
「そうだね。地下に何があるのかを見つけるのが僕達の仕事なんだ。今のところ、何も見つけられてないけどね」
龍園が言っていたのはこのことだったのか。僕達と言っていたが、平田以外にも地下の探索をしていたメンバーがいるのだろう。
「龍園は俺達と言っていたが、Cクラスのメンバーも探索に参加しているのか?」
「土日は参加してるよ。彼らには僕達と違って授業があるからね。地下で働きたいという人まで出てくるくらいだ」
Cクラスのメンバーは死ぬギリギリの生活を送っていた人達の集まりのようだが、地下労働をしていた人もいるのかもしれないな。地下で生まれて地下で一生を終えた人たちもいるかもしれない。そこまでは考えてなかったな。
「良かったら、今度紹介してくれないか? この世界では仲間と親交を深めておきたいからな」
「そうだね……じゃあ、まずは僕と親交を深めてみないかい?」
「それも悪くない。何ができるんだ?」
「僕はサッカーが得意だよ。ただ、この時間だとサッカー部がやっている可能性があるから、サッカーを通して親交を深めるなら、平日になるかな」
「分かった。平日だな。折角なら、連絡先を交換しておかないか? 普段は地下にいるんだろう?」
「それもそうだね。うっかりしていたよ」
平田と連絡を交換した後、彼はここで訓練をしたいらしく、オレは邪魔になると思ったので、帰ることにした。
◇
図書室には漫画や小説などもあるようなので、もしかしたらそれで楽しむこともできるかもしれない。ただ、休日なだけあって、図書室は混雑していた。
「お悩みでござるかな、綾小路殿」
「……誰だ、お前?」
オレの背後からいきなり、声をかけてきた男子生徒は間違いなく初対面だ。にも関わらず、オレのことを知っているということは認めたくはないが、仲間なのだろう。
「おっと、申し遅れたでござる。拙者は外村秀雄。以後、よろしく」
「外村か。一応、どのクラスかも聞いて良いか?」
「一年Dクラスでござるよ。つまり、クラスメイトでござる」
「それで、オレに何の用だ?」
「図書室で暇を潰そうとしていましたな。それについて拙者から一つ、アドバイスがあるのでござる」
アドバイスと言っても、図書室でできることなんて本を読むこと以外にはないと思うが……外村はそれだけではないと言っているようであった。
「図書室は別名、図書館と言われているでござる。何故、そう言われているかお分かりかな?」
「確かに初めて聞いた時には図書館だったな。何の理由があるんだ?」
「図書館とは図書をおさめている施設のことでござる。つまり、この図書室の棟そのものが独立しているのでござるよ。そしてこの棟の地下にはAVルームがあるのでござる」
AVルームっていうといかがわしい施設を想像しがちだが、実際には視聴覚室という意味だったはずだ。確か、映像資料を見るための場所だな。
「その施設で何と、ドラマやバラエティ、アニメまでも見ることができるのでござる。拙者は特にアニメをオススメいたしますぞ」
「それは知らなかったな。堀北も教えてくれなかったし」
「その時は急いでいたのでござろう? ならば、仕方ないでござる」
「何でそのことを知っているんだ?」
「堀北殿から直接、聞いたでござる。今回、ここで待っていたのもそのことを伝えるためでござるよ」
つまり、伝え忘れたことがあったが、忙しくて会えないから外村を向かわせたということか。メールで伝えれば良いだけだと思うんだが、意外と不器用なんだな。
「オレが来なかったら、どうするつもりだったんだ?」
「本を読みながら待つつもりでござった。ちょうど、分厚い本を借りましたからな」
「本にも興味あるんだな」
「当然、中身は漫画でござる。この漫画は面白いですぞ。では、伝え終わったので、失礼させてもらうでござる」
嵐のように現れて、嵐のように去っていったな。あいつとも親交を深められれば良いのだが、あいつとはAVルームに行けば、会えそうだな。
ちなみに、外村は昨日も待っています。
⚪︎龍園翔
・絆レベル0→1(格闘技を覚えた)(ストーリーが進行するための条件を達成した)