アイビス・スカーレット「東方原作に私いなくない…?」   作:東方紅魔郷:NewClassic発売中

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東方紅魔郷:NewClassic発売記念(激遅)
東方二次創作、もっと読みたいから増えて…増えて…


Prologue

「いいか、アイビス。我々は誇り高き吸血鬼だ」

 

 ……このお父様は、いきなり何を言い出すのかしら。

 

 時は月が全てを見下ろす夜更け。

 お母さまの手料理がテーブルの上へ並べられていくのを眺めながら、最近使いこなせるようになったフォークとナイフを弄んでいるとお父様が不意に語りだした。

 視線をそちらに向け話を聞く姿勢をとると、少しだけ口端を上げたお父様が口を開く。

 

「アイビス、これはなんだ?」

 

 お父様が指を向けた先にあるのはお母様の料理である。

 出来立てのそれからは熱の放出とともに湯気と匂いが立ち上っており、今すぐにでも齧り付きたくなる魅力をまき散らしていた。

 

「何って……お肉」

「ああ、そうだ。肉だな、では何の?」

「豚」

「そうだ、よく知っていたな。ではこれは何の肉だ?」

「人間の」

「正解だ、すごいぞアイビス」

 

 手を伸ばして頭を撫でようとしてくれたが、距離が遠かったのか断念して微笑むだけに止まったらしい。見間違えでなければ残念そうな顔をしている。

 

「妖怪は人間を糧として生きている。そんな妖怪の中でも我々吸血鬼は強い。人間からしたら理不尽な恐怖、それが吸血鬼だ」

 

 ともすれば驕りとも思えるそれを、お父様は胸を張って堂々と言ってのけた。

 私はまだ生きた人間というものを知識でしか知らないけど、妖怪達から狙われ続けている事実に少し同情する。

 

「なんか……哀れ。人間って」

「ほう?」

「弱いがゆえに捕食されて、他の家畜よりも知能が発達している分、より悲惨」

 

 じぃっ……と人間だった物、現私のメインディッシュを観察していると「くつくつ」と笑い声が聞こえる。顔を上げてみればお父様が喉を鳴らして笑っていた。

 ……むぅ、まじめに答えたのに何がおかしかったのかしら。

 

「お父様?」

「くくっ、ああ、いやすまん。まさか4歳の娘からそんな返しが来るとは思っていなくてな、アイビスは自分の考えを持てる子なんだな」

 

 そういうとわざわざ立ち上がったお父様は、私の側まで来るとしゃがんで頭をゆっくりと撫でてくる。

 ……悪い気はしないけど、私の受け答えがしっかりしているのは少しズルじみた理由があるからちょっぴり罪悪感。

 

「ちなみにだなアイビス、我の考えも聞いてくれるか?」

「……お父様の考えは違うの?」

「我とアイビスは別の存在だ、考えが違うのはおかしなことではない」

 

 褒めてくれたのに、間違っていると言われた気分になって少しムッとしたが、お父様はそういう意味で言ったわけではないらしい。なら、まあ、良いわ。

 

「確かに人間は脆弱だ、ちょっとしたことで死んでしまうし、寿命も短い、病にはかかりやすいし、戦闘能力も自身の家畜に殺されてしまうレベルの者がほとんどだ」

「弱いじゃない」

「そうだな、人間は弱いな」

 

 ムスッとしていることがばれたのだろうか、あやすように言われ、子ども扱いされたことに頬が膨らみそうになる。

 ……4歳だから子供であってるんだけどね、でも心情的には別よ。

 

「では、アイビスに質問だ。妖怪は何を糧に生きている?」

「人間、さっき言ったわ」

「そうだ、正確には主に人間の恐怖を糧に生きている」

「……やっぱり不憫」

「あぁ、不憫だな」

 

 お父様は私をからかって遊んでいるのかしら。

 

「ではまた質問だ、妖怪は人間に恐れられる存在だと言ったな、では恐れられなくなった妖怪種族はどうなる?」

「……えっと」

 

 ……そんなことはそんなことはなか無かったみたい。

 思わず黙ってしまった私を優しい眼で見守ってくれていたお父様は、私の代わりに答えを口にした。

 

「恐れられなくなった妖怪は──消える」

「……」

「皮肉なものだ、捕食者と被食者の関係にある妖怪と人間の根源にあるのは、妖怪の人間への依存なのだからな」

 

 話を続けるお父様の眼を覗くように見る。自傷するような話をしているにも拘らず、その瞳は輝いているように見えた。

 

「考えようによっては妖怪の存在を確立できる程に、人間の恐怖というのはエネルギーを生み出しているわけだからな、捨てたもんじゃない。

 それに、人間は寿命が短いと言ったが、その短期間に妖怪に対抗しうる程の力をつける者もいる。人間から別種族になるほどに力をつける者もいる。

 確立された枠組みの中で強くなっていく妖怪とは違う、幾多の可能性を人間は持っている」

 

 一息ついたお父様を眺めつつ、私は少しばかり驚いていた。吸血鬼の中でも強者といえるお父様がこんなにも人間を評価していた事を、私は今日初めて知ったのだ。

 

「お父様は、人間が好きなの?」

 

 気づけばもれていた質問に、珍しくお父様は目をパチパチとしばたたかせて呆け──

 

「くくっ……くはっ! アッハッハッハッ!!」

 

 初めて見るお父様の大笑いに、不意を突かれた私は硬直してしまった。

 そしてその硬直が解け始めると同時に困惑と羞恥が襲ってくる。……そんな笑われるようなこと言ったつもりないのに。ぷいっとそっぽを向いた私は悪くない。

 

「くくくっ、ああ、そうだ、我は人間が好きだ。敬意を持っていると言ってもいい。まぁ、人間に言ったところで家畜の豚や牛に向ける類のものだろうと一蹴されそうだ」

 

「──だが」とお父様の声色が変わったのに気づき、横を向いたまま視線だけお父様に向けて、また固まってしまった。

 そこにいたのは威厳がありながらも優しい顔のお父様ではなく、顔が横に裂けるのではないかと錯覚するほどの、相手を威嚇する本来の役割の笑みをこぼした、絶対強者である夜の王(吸血鬼)だった。

 しかしそれは一瞬で、すぐに霧散するといつものお父様へと戻った。

 

「我は人間を見下している、これも事実だ」

「……どうして? 人間が好きなのに?」

「あぁ。だが、妖怪とは人間の恐怖の対象だ。絶対に敵わない強者あると人間は認識している。これは妖怪が存在するのであれば、不変でなければならない」

「それが……どうして見下すことに?」

 

 純粋な疑問を問いかけた私に、お父様は「なに、簡単な事だ」と詰まることもなくさらりと答えてくれた。

 

「己が恐怖される存在だと自覚できていない妖怪が、人間に恐れられるわけないだろう」

 

 とてもシンプルで、明確な答えだった。

 

「自身の存続という自己中心的な理由で、人間を糧にしているのだ。相手よりも優れている、価値があるという自尊心や傲慢がないわけがない。見下していないな(・)ん(・)て(・)あ(・)り(・)得(・)な(・)い(・)。その自覚がない妖怪が恐れられるわけがない」

 

「──だからこそだ、アイビス」と言葉を続けるお父様の言葉に耳を傾けていると、ポンっと頭に重みを感じた。確認するまでもなく、お父様の手が私の頭を撫でているのだとわかる。

 

「己は強いと、傲慢であれるほどの存在になれ」

 

 そう話すお父様の表情は真剣そのもので、一言一句聞き漏らすことは許されないと、私は直観した。

 

「終わるその時にも、高笑いできる程の傲慢な「ヨセフさん?」……」

 

 ──しん…… と、部屋に静寂が響く。

 突然の声に私が呆ければ、お父様は肩をずんむと鷲掴みにされて固まっていた。

 その手をたどって顔を動かせば、そこには誰もが見とれるような穏やかな微笑みを浮かべているお母様が、お玉を片手に佇んでいた。

 わずか数瞬止まっていた時間は止めた張本人が口を開いたことにより動き出す。

 

「……ヨセフさん?」

「……あぁ」

「アイビスはまだ4歳ですよね?」

「…………あぁ」

「終わるその時とか聞こえたんですが」

「……アイビスの成長が想像より早くてな……嬉しくて吸血鬼としての持論を……」

「私は成長の早い聡い子だからこそ、幼いころに知る親の濃い思想は猛毒足りえると思いますが。まあ、自分の考えをアイビスに知ってほしい気持ちは分かりますので置いておきましょう」

「……」

「終わるその時とか聞こえたんですが」

「……」

「4歳の娘と父親の食前の会話に、終わるその時とか聞こえたんですが」

 

 微笑みのというものに、恐怖は乗せられるのだと、私は初めて知った。

 ──恐いよぉ……

 

「……すまなかった、フラウ、アイビス」

「……はい、私もお話を途中で遮ってすみませんでした」

 

 鎖骨圧迫式アイアンクローから解放されたお父様は「んん"っ!」と咳払いをして顔を上げる。目立った外傷はなく、お母様が手加減をしていたのだとはっきりわかる。

 流石「暴力ありの喧嘩は、お互いに親しい上でわかり合いたい相手としかしちゃダメよ、わかり合いたく無い相手との殴り合いは、喧嘩じゃなくて殺し合いっていうの」と断言したお母様だ。お父様の耐久力を完璧に把握している。

 

「お母様、お父様のお話は勉強になったわ」

「あら、アイビスは凄いわね。そういう話をしちゃいけない訳じゃないのよ、でも今はご飯を食べましょ。納得し合うまで話してたらせっかく作った料理が冷めちゃうわ」

 

 お母様は、一枚の絵のような微笑みを私に向けてくれた。先程と同じ微笑みなのに恐怖は全く感じずに、心がポカポカする微笑みだ。

 お玉の持ち手が成れの果てにランクダウンしそうになっているのは視界にいれないようにしながら、お母様に頷く。

 こういう時、表情が動かないというのは不便だ。能力が上手く制御できるようになったら何とかなるかな? 

 

「それにしても、本当に無理はしていないのだな? 料理も私か使用人に任せてくれて良いと……」

「してませんよ、今日は私の番なんですから、私が作るんです」

「むぅ……」

「あなたが愛してくれているのは知ってますから、それにアイビスの時も大丈夫だったでしょう?」

「今まで大丈夫だったということが、今も大丈夫という根拠にはならないだろう?」

「大丈夫じゃなくなる前に伝えますから、ふふっ、あなた達のお父さんは心配性ね」

 

 言葉とは裏腹に、少し頬を赤く染めたお母様は喜色を隠すことなく、私を見てコロコロと笑いながら自身の膨らんだお腹をいとおしそうにゆっくりと撫でた。

 

 ──その様子を眺めながら、私は己の決意を改めて強固なものにする。おそらく産まれてくるのは妹。名前は【レミリア・スカーレット】。

 これが確定した時、私の予想はほぼ確信に変わるのだから。

 

 そんなことを考えながら思いを馳せるのは、ほんの少しだけ前の日のことである。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ──私は、生まれながらにして知識を持っていた。記憶じゃなくて知識、それもおそらく人間一人分くらいの。

 

 そう、記憶があったわけじゃないから、他者の人生の記録や思い出はない。

 つまり完全他人事としてしか認識できない。知識を得た経験や思い出が無いから、なんか気持ち悪い。「なんで知ってるの?」って感じ。

 知識を元に例えるならコンピューターにデータをインストールした的な? コンピューターなんて存在聞いたこともないけどね。

 

 でも、精神面は知識に引っ張られて急成長したのか、思考の分析や整理はできるようになってきている。

 だから「お父様の髪って青い時の月みたい」って言った時の一瞬口元が緩んだお父様の心情。

 そして「お母さんの髪は?」と聞かれて「お母様は太陽」って言った時に、一生懸命笑いを堪えているお父様の脛を控えめに蹴ったお母様の心情も4歳の私だが察せられる。

 ……まぁ、お父様が「太陽の美しさは身を焦がすからな、吾も勝てる気がしない」ってお母様の髪を撫でながらのろけていたから問題ないと思う。

 ああいうのを『イチャイチャ』というんだよね、語彙力とやらの向上を感じるわ。

 ……そういえば、家族が増える時期から逆算すると、妊娠したのって丁度その会話があった時期くらい……うん、問題ない無かったみたいね。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 そんな大好きな【フラウ・スカーレット】お母様と【ヨセフ・スカーレット】お父様の二人から、男の子なら【カイン】。女の子なら【レミリア】って新しい家族が増えると聞いたのだ。

 今まで「便利だな〜」ぐらいにしか感じていなかった知識に、私は今後これ以上に驚くことはないだろうと確信が持てるほどの衝撃を受けた。

 知識の中に存在したのだ──【レミリア・スカーレット】という吸血鬼が。創作上の存在として。

 いや、まぁ、普通に考えたら同名同種族の創作上の他人なんだろうけど、私が知識を得たという事実や、得た知識が未来のものっぽいという事など、どうにも引っ掛かる。

 

 とはいっても、知識のレミリア・スカーレットの人物像は、原作やら二次創作やら、考察設定やら──情報が多すぎて、どれが正しくてどれが間違っているのか区別がつかない。

『人の数だけ幻想郷は存在する』……なかなかにイカした言葉だと思うけど、多すぎるのよ。どれを参考にしたら良いのかわからないじゃない。

 そんな感じで振れ幅が大きく、格好よかったり、可愛かったり、子供っぽかったりと確定はできないが、大体に共通する認識というものもあった。

 

 ──生物的な黒い蝙蝠羽

 ──鋭い目付きのお父様と、優しさを感じる穏やかな目付きのお母様を足して割った様な、意思の強そうな目付き

 ──強い吸血鬼特有の紅い瞳

 ──お父様を連想させる髪色

 ──少食のお母様を連想させる、小降りだが形の良い八重歯

 

 

 知識の【レミリア・スカーレット】の姿はどこか他人とは思えない親愛を覚えるもので、貴女の妹だと言われたら根拠なく信じてしまいそうな何かがあった。

 そして彼女は【紅魔館】の主であるが、今私達が住んでいるのも【紅魔館】。

 

 これを偶然と片付けるのは、少々無理があると私は結論付けた。

 

 

 しかし、しかしだ。だとしたら気になることがある。

 私の知識にある紅魔館のメンバーを紹介しよう。

 

 ──紅魔館の主【レミリア・スカーレット】

 ──紅魔館の主の妹【フランドール・スカーレット】

 ──紅魔館のメイド長【十六夜咲夜】

 ──紅魔館の門番【紅美鈴】

 ──大図書館の魔女【パチュリー・ノーレッジ】

 ──魔女の使い魔【小悪魔】

 ──その他妖精メイド等

 

 ──以上。

 

 ────以上である。

 

 

(……私いなくない?)

 

 私だけではない、フラウお母様とヨセフお父様も知識に見当たらない。

 いや、レミリアの両親らしき人物はちょこちょこ確認できるのだが、私の両親ではない。というか、そのレミリアの両親は大体がいつの間にか死んでいる。私に至っては姿形もない。

 この時点で知識と現実との差異が大きいため、この知識が当てにできるものか疑わしくなってくる。

 だが、にしては脳内の一部を占拠した知識達は膨大であり、そ(・)れ(・)っ(・)ぽ(・)い(・)のだ。

 大したことでなければ無視しても構わなかったのだろう。だが、これを無視した場合に起こりうるのは──フラウお母様とヨセフお父様の『死』

 

(……いやよ、そんなものは認められないわ)

 

 能力の影響で表情の崩(・)れ(・)な(・)い(・)【アイビス・スカーレット】にしては珍しく、父親譲りの鋭い目を険しく細め、鋭利で形の良い八重歯を下唇に食い込ませながら真一門字に結んだ。

 私は幸せである。他の同族からは『変わり者』だの言われているらしい両親であるが、二人がどの同族よりも強く誇り高い吸血鬼であることを知っている。

 そんな敬愛する両親を失うなど、許すわけにはいかない。

 

 ──ねえ

 ──ん? どうしたアイビス? 

 ──私の髪は? 

 

 今までは知識を持っているといっても、会話の流れから連想して受動的に意図せずに使う程度だったが、これからは違う。

 

 ──ふふっ

 ──お母様? 

 ──くくっ

 ──……お父様まで

 ──ふふっ……実はねアイビス、貴女が産まれた時に髪色の事をヨセフカさんと話したのよ

 ──そうなの? 

 ──あぁ、二人して同じ事を思ってな、そういえば話していなかったな

 

 この知識を能動的にフル活用する。私の望む未来を実現するために残りカスすらでないほどに使い倒してやる。

 

 ──いうならば「満月色」だな。銀糸が光の反射で淡い黄金色に輝く

 ──ヨセフさんと私の娘が産まれてきてくれたって、初めて強く実感したのが髪色だったのよ

 ──……満月

 ──あぁ、アイビス。お前は──

 

 そう、適切な言葉で私の成すべき事を表すなら……うーん。

 

「原作ブレイク……響きがあまり格好良くない」

 

 というか、私がいない時点で原作(オリジナル)なんて納得いかないわ。知識の利用はさせてもらうけど、そこは譲れない。

 

「……運命破壊(ディスティニーブレイク)……悪くない」

 

 妹達が運命を操れて、何でも破壊出来るならば、姉の私なら運命の破壊くらいできるべきよね? 

 ふふん、「お姉様かっこいい!」と目を輝かせる妹の姿が見えるわ。

 まぁ、能力的には掠りもしてないけど。それは問題ないわ、やるべき事に名前をつけただけだもの。

 

「我、アイビス・スカーレットは、運命破壊(ディスティニーブレイク)を成すことを、己に誓う」

 

 悪魔の契約は絶対。言葉だけのものだけど、私は必ず成し遂げて見せる。

『私ならできる』ではない。絶対に成し遂げる。なんたって私は──

 

 

 

 ──我らの満月だ。

 

 

 誇り高きスカーレット家の長女。【アイビス・スカーレット】なのだから。




続く…かも…
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