超かぐや姫!かぐや達は現実世界でも遊びたい! 作:リズ029
数日前。
ヤチヨが現実世界でアバターボディを手に入れたその日の夜。
仮想空間ツクヨミ内で雑談配信をしていたヤチヨは「そうそう、配信を終わる前にお知らせでぇ〜す」と、配信画面を暗転させた。
ツクヨミ内の各所に存在するディスプレイが暗転したことで、ツクヨミユーザーたちは何ごとかと手を止め、足を止め、話を止める。
そして、ディスプレイを眺めていると不意に虹色で「お知らせ!」という表示と、その文字の後ろを色とりどりの魚やクラゲなどの海洋生物が通過していった。
それを見ていたパチンコ、パチスロ好きのユーザーたちは「確変やん」「何か当たったのかな?」「確定演出キチャー」などと冗談めかして笑っている。
しかし、次に表示された「今週末コラボ配信するよ!」という表示で、ツクヨミ内の静寂はざわめきに変わっていった。
「久しぶりにコラボだけど相手は?」
「いろPなら名前出すだろうしなあ」
「これだけ派手に告知するの珍しいな」
ツクヨミユーザーたちのざわめきは、次第にヤチヨのコラボ相手は誰かという予想大会になっていく。
そしてその答えはヤチヨが彩葉やかぐや、芦花、真実とカフェに行った次の日の日曜日の夜に配信画面上に映し出された。
「ヤオヨロ〜!みんな生きるのはどうですか?良い事あった?それとも泣いちゃいそう?よしよし、全部大丈夫。どんなに孤独な道のりでも、さっきテーブルの脚で自分の足の小指をぶつけた上に屈んだ時に頭をぶつけたヤチヨよりはマシだよ〜。う〜、まだ痛い」
「かぐやっほー! かぐやだよ! 今日はツクヨミ内じゃなくて、ある場所から配信してま〜す。ヤチヨ大丈夫?(よかったぁ感覚共有切ってて)」
ツクヨミや動画配信サイトで開始された配信に、リスナー達は皆一様にコラボ相手がかぐやだった事に大興奮。
同接数もうなぎ登りで早くも数万人規模となっている。
しかし、現実世界のかぐやは映っているが、我らが歌姫月見ヤチヨがいつまでたっても姿を見せない。
現実のかぐやとのコラボ配信となると、AR機器を使用してのコラボだろうと予想し、リスナーの多くは「AR機器の故障かな?」と、首を傾げていた。
更に配信タイトルである『二回目の初配信だよ!』に、新規のリスナーだけでなく古参リスナー達も頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「神々のみんな。今日はヤチヨの初配信に来てくれてありがとうね」
ヤチヨの声に『ヤチヨどこ?』『放送事故か?』『ヤチヨー! アバター映ってないよ!』などなど、コメント欄が下から上へと流れていく。
それを見て、かぐやはカメラから外れているヤチヨに向かってニヤッと笑って見せた。
その笑顔を合図に、ヤチヨがピョンと跳んでカメラの前に姿を表す。
現実世界のアバターボディの姿を。
この時、コメント欄の流れが一瞬だが完全に止まり、そして濁流のように流れ出した。
『え? は?』
『ARでもVRでもない、だと?』
『いやいやそんなまさか……え?』
『夢か?』
このように、リスナー達はかなり困惑している。
コメント確認用のディスプレイでその様子を眺めていたかぐやとヤチヨは、リスナー達へのサプライズ成功に大喜びで、10年前に彩葉と共にツクヨミトップライバーであるブラックオニキスと戦闘した際に見せた、小躍りの後のハイタッチをキメる。
「イェーイ! サプライズ成功! 実は、以前の超大型アップデートの時にツクヨミに五感を実装してくれた酒寄博士が手伝ってくれたお礼にって、ヤチヨに最新の義体をプレゼントしてくれたんだあ。いやあ、現実の世界って良いね。ヤチヨにとっては全部が新鮮だよ〜」
「というわけで、今回はなんとその酒寄博士にも来ていただいてま〜す! 彩葉! 来て来て!」
「本当に出るの? まあ別に良いけど。はい、いろっぴー。いろPこと酒寄彩葉です」
「名前出して大丈夫? 彩葉」
「忘れてるのかしらねえ? 私かぐやの復活ライブで名前どころか全身見せてるんだわ」
かぐやのみならず、画面の端から現れたスーツ用のシャツにスラックス姿の彩葉の出現で、再びコメント欄が濁流と化した。
『うわぁあ! いろPだあ!』
『やりやがった! 遂に酒寄博士がやりやがった!』
『いろP! 踊ってえ!』
『ヤチかぐいろ尊い』
『ヤチヨの初コラボライブメンバーや! スゲェ!』
と、リスナー達の興奮冷めやらぬ中、ヤチヨが「さて」と、口火を切った。
「せっかくヤチヨの現実世界からの初配信。雑談コラボだけじゃ詰まらない! というわけで、ちょっと歌っちゃおうかなあ〜」
「お? 何やる? このメンバーだし、ワイズマからいっちゃう?」
ヤチヨの言葉に、かぐやがマイクを引っ張ってくる。
それを見ていた彩葉は邪魔しちゃ悪いとカメラから離れて画面から外れようとしたが、それをヤチヨが回り込んで阻止。
かぐやが持ってきたキーボードの前に立たせた。
「初配信だからねえ。ヤチヨのデビュー曲からいっちゃおっかなあ」
そのヤチヨの言葉は、リスナーよりも彩葉を驚嘆させた。
10年前、コラボライブの際に彩葉がヤチヨにデビュー曲は歌わないのかと聞いた時、ヤチヨは「アレはもう届いたから、お役目御免」と、暗にもう歌わないと言っていたからだ。
「この曲は本当に大事な曲だから。大切な人のために歌うの」
彩葉の耳元で囁くヤチヨ。
その声に体温が上がっていくのを彩葉は感じるが「じゃあ! 一曲目はRememberだね! 彩葉! 伴奏よろしく!」という、かぐやの声で彩葉は我に返る。
そして、彩葉の指が鍵盤を叩き始めた。
響き渡るヤチヨとかぐやの歌声。
この夜、彩葉たちのタワマンの一室は小さなライブ会場となっていた。