超かぐや姫!かぐや達は現実世界でも遊びたい! 作:リズ029
兄である朝日からの電話のあと、彩葉達は就寝するためにそれぞれの寝室に向かって……行かなかった。
芦花は自室へちゃんと向かったが、彩葉の部屋にかぐやとヤチヨが乱入したのだ。
「かぐや達の寝室は二階なんだけど? これじゃあ寝室分けてる意味ないじゃん」
床に敷いた布団の上、かぐやとヤチヨに挟まれて寝転んでいる彩葉が「流石に狭くない?」と呟いた。
しかし、かぐやとヤチヨは彩葉に抱き着いて「この狭さがいいんじゃん」「彩葉成分をたくさん補充したいからねえ」と、お構いなし。
彩葉も口では不平を言うが、嫌というわけではない。
なんだかんだでこの状況を喜んでいる。
「でも芦花には悪いことしちゃったなあ。明日は譲ってあげよ」
「四人では流石に寝れないしなあ。リビング片付ければいけるけど」
そんな話をしながら、眠るまでのわずかな時間を楽しんでいると、ヤチヨがうつらうつらとし始めた。
どうやら適合率の差が、そのままかぐやとヤチヨの様々な個性として表に出ているらしい。
「ごめんねぇ彩葉、ヤチヨはおねむなのです。続きは、かぐやで……」
その言葉を最後にヤチヨは彩葉の腕に抱きついたまま目を閉じて心地の良さそうな寝息をたて始めた。
「ヤチヨ寝ちゃった。う〜眠気が、引っ張られてるぅ。もっと彩葉とお話したいのにぃ」
「無理しないの。早く寝ちゃいなさい」
「え〜? じゃあ何か歌ってよ彩葉ぁ」
「かぐやは本当に歌がすきよねえ。なんでこんなに歌が好きになっちゃったのかな?」
「だって、歌は、彩葉がかぐやに最初にくれたものだからねえ」
「何それ。なんの話?」
「彩葉。かぐやを拾ってくれた日の事覚えてる? まだ赤ちゃんで、泣き止まないかぐやに、彩葉、子守唄歌ってくれたっしょ?」
その言葉に、彩葉はかぐやの方を向き、驚いたように目を見開いた。
忘れるはずがない。忘れられるわけがない。
10年前のあの日。
バイト帰りで疲労困憊の自分の前に現れた、元光る七色のゲーミング電柱から出てきたかぐや。
抱き締めれば肉が食い込んでしまいそうなほど柔らかいと感じた赤ん坊。
そんな赤ん坊が泣き出して、どうにか泣き止ませようと考えて、縋る気持ちで見上げたヤチヨのアクリルスタンドを飾った神棚。
それを見て、咄嗟に口から出てきたのは今夜の配信で最初に歌った『Remember』の一節だった。
「かぐや。あの時のこと覚えて——」
「忘れるわけないじゃん」
「そういえば体が大きくなった時、夜中にミルクって起こされた気がする。そっか、ずっと覚えてたんだ」
「あの時の彩葉の歌が優しくて綺麗でさ。歌って凄いなって、かぐやも歌えるようになりたいなって思ったんだよねえ」
もう眠気も限界に近いのだろう。
ヤチヨのようにうつらうつらとしながら、かぐやは彩葉に抱きついた。
「また、彩葉の子守唄聴きたいなあ」
「今日は一段と甘えん坊だなあ。子守唄って言ったて、アレはヤチヨの……まあいいよ。歌ってあげるから早く寝なさい。明日からまた仕事なんだから」
そう言って、彩葉はあの時と同じように『Remember』の一節を歌い始めた。
静かに、優しく、愛おしそうに。
「大切な、メロディは流れてるよ〜。あ〜な〜た〜のハートに〜」
10年前と同じく途中から歌ったわけだが、気が付けば、かぐやは彩葉に抱き着いたまま心底安心したように目を閉じて眠っていた。10年前と同じように。
そんなかぐやを、彩葉は片手で抱き寄せ目を瞑る。
その裏で、彩葉は学生時代にかぐやと過ごした約二ヶ月を思い出していた。
「かぐや、私のかぐや。もう離さないからね」
両手にかぐやの温もりを感じながら、彩葉も眠気に任せて意識を手放す。
その寝顔はとても穏やかで、三人が三人とも幸せそうだった。