TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件   作:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな

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Q.純血主義者っていつもそうですよね!! 私たちのこと何だと思ってるんですか!? A.穢れた血

 

 自分が前世の記憶を持ったまま、あの『ハリー・ポッター』の世界に転生しているのだと完全に理解したのは、五歳の誕生日を迎えてすぐのことだった。

 

「レオン様、おはようございます! 旦那様と奥様が、日刊予言者新聞の記者を追い返してダイニングでお待ちですよ!」

 

 ピンと立った大きな耳をパタパタと揺らしながら、屋敷しもべ妖精のピップが指をパチンと鳴らす。すると、俺――レオン・フォーリーの寝室のカーテンがひとりでにシャーッと開き、スコットランド特有の少し湿った朝の光が部屋いっぱいに差し込んだ。

 

「ああ、ありがとうピップ。今降りるよ」

「ひゃあっ!  レオン様がピップにお礼を言いました!  なんという寛大、なんという慈悲!  ピップは果報者でございます!」

 

 ベッドの足元で感極まって床に額をこすりつけ始めるピップを苦笑いでなだめながら、俺は大きな姿見の前に立った。

 

 鏡の中に映っているのは、少し癖のある黒髪に、透き通るような琥珀色の瞳をした少年だ。

 フォーリー家。原作小説の設定を隅々まで読み込んだマニアなら、聞き覚えがある名前かもしれない。この魔法界において「純血の証」として崇められている『聖二十八一族』に名を連ねる、れっきとした純血の名門貴族である。

 

 赤ん坊の頃は、視界がぼやける中で両親が「ルーモス」だの「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」だのと呟きながら玩具を浮かべているのを見て、「あ、これファンタジー世界だわ」くらいにしか思っていなかった。

 しかし、言葉を覚え、屋敷の書斎にある『近代魔法史』や『二十世紀の偉大な魔法使いたち』といった分厚い本を読めるようになって、俺の背筋には冷たい汗が流れ落ちた。

 

 ヴォルデモート卿の失脚。

 額に稲妻型の傷を持つ『生き残った子ども』。

 ホグワーツ魔法魔術学校に、アズカバン、そしてアルバス・ダンブルドア。

 

「……よりによって、ハリポタの世界かよ!」

 

 書斎の絨毯の上で頭を抱えてゴロゴロと転がり回った。

 

 ハリポタの世界なんて、外から映画や小説として楽しんでいる分には最高にワクワクする夢の魔法界だ。杖を振れば魔法が出るし、空飛ぶ箒には乗れるし、動く階段や喋る肖像画がある城で学園生活を送れる。

 

 だが、実際にこの世界の住人――それも「純血貴族の跡取り息子」として放り込まれてみろ。冗談じゃない、ここは物語が後半に進むにつれて人がバタバタ死んでいく、特大の地雷原である。

 

 俺の生まれたフォーリー家は、幸いにも先代が「鼻持ちならない闇の気取り屋どもに関わるとロクなことにならん」と徹底した中立・穏健派を貫いたおかげで、第一次魔法戦争では死喰い人を出さずに済んだらしい。

 

 貿易や魔法薬の原材料卸しで莫大な資産を築いており、両親も俺を深く愛してくれる、控えめに言って超がつくほどの優良物件だ。

 

 けれど、俺が十一歳になってホグワーツに入学する一九九一年から、この世界は急速にきな臭くなっていく。

 

 四年生の終わりにはヴォルデモートが復活し、五年生では魔法省が腐敗を極め、六年生ではダンブルドアが死に、七年生になる頃にはホグワーツそのものが戦場になって、大勢の生徒や教師、不死鳥の騎士団のメンバーが命を落とすのだ。

 

 シリウス・ブラックも、リーマス・ルーピンも、トンクスも、フレッド・ウィーズリーも。

 そして何より、生涯を賭して愛する人の子どもを守り抜き、誰からも誤解されたまま孤独に死んでいくセブルス・スネイプも。

 

「……ふざけんなよ。なんでせっかく魔法が使える世界に生まれたのに、あんな胸糞悪い鬱展開を指をくわえて待ってなきゃいけないんだ」

 

 姿見の中の自分に、俺は低く言い聞かせた。

 

 俺には前世の記憶――すなわち、原作全七巻および関連設定という『未来のカンニングペーパー』がある。

 どこに分霊箱が隠されているかも、クィレルの後頭部に誰が張り付いているかも、秘密の部屋の入り口がどこのトイレにあるかも、ピーター・ペティグリューが今どこの家でネズミのフリをして昼寝しているかも、全部知っているのだ。

 

「十一歳でホグワーツに入るまでに、使えるコネと魔法の力を徹底的に鍛え上げる。そして、あのクソみたいな原作の悲劇ルートを、根底から粉々にぶっ壊してやる!」

 

☆☆☆

 

 そう決意を固めた五歳の当時、俺は大きな壁に直面していた。

 ハリー・ポッターの世界における厳格なルール、『未成年魔法使い統制法(および痕跡追跡システム)』である。

 

 イギリスの魔法界では、十一歳未満の子ども、あるいはホグワーツ生が学校外で魔法を使うと、魔法省の監視システムに引っかかる。魔法省は人間の正式な杖から放たれる独特の魔力を検知しているため、見習い段階の子供がうっかり魔法を使えば、即座に不法魔法使用としてバレてしまうのだ。

 

 ――だが、例外があった。

 

 それが、「屋敷しもべ妖精の魔法」と「子供の感情的な魔力暴発」だ。

 

 屋敷しもべ妖精の使う瞬間移動や浮遊術は、人間の魔力波長とは全く異なる独自の生態系に基づいたものであり、魔法省の人間用センサーの「探知外」にある。

 

 また、十一歳以下の子供が恐怖や怒りで引き起こす魔力暴発も論理的な呪文の構築を伴わないため、魔法省は「単なる環境魔力の揺らぎ」として処理する。

 

 つまり、正規の杖を使って人間の呪文を練習すれば、一週間で魔法省の役人が飛んできて罪を問われる。だからこそ、屋敷しもべ妖精と同じ原理――による杖なし・無言の生態系魔術を学ぶしかなかった。

 流石に純血といえ、幼少期から魔法を学びたいと父上に言っても許してくれないだろうし。

 

 そこで俺は、五歳の誕生日の翌日、屋敷の隅で掃除をしていたピップを呼び止めたのだ。

 

「なあ、ピップ。ちょっと頼みがあるんだ」

「ひゃあッ!  ピップになにかご命令でございますか、レオン様!」

「命令ってわけじゃないんだけどさ……その、ピップが持ってる『杖を使わずに魔法を使うコツ』を、俺に教えてくれないか?」

 

 ピップは聞いたこともないとばかりに両耳をぴんと逆立て、ブルブルと頭を横に振った。

 

「と、とんでもございません!  そんなのとんでもないことでございます!  人間にそんな真似ができるはずがございませんし、何より、旦那様や奥様に知れたらピップはお仕置きでアイロンに耳を押し付けられてしまいます!  ご主人様の息子様にいらぬ知恵をつけたなどと知れたら、旦那様に怒られて首を刎ねられてしまいますぅ!」

 

 ギャアギャアとパニックを起こして自分の頭を壁に打ち付けようとするピップの襟首を、俺は慌てて掴んで制止した。

 

「落ち着けって、ピップ!  父様には絶対に言わないからさ。それに、君の主人は今や父様だけじゃなくて、将来はこのフォーリー家を継ぐ俺も半分は主人だろ?」

「それは、まあ、そうでございますが……!」

「それに考えてもみなよ。俺がしもべ妖精みたいな器用な魔法をこっそり使えるようになったら、お父様やお手伝いの連中に『さすが我が息子、五歳にして天才的な魔力の持ち主だ!』って、お前が仕込んだおかげで褒められるかもしれないぜ? そしたら最高に誇らしいご褒美をあげるよ」

 

「ほ、褒められる……? ピップが、レオン様のお師匠様として……?」

 

 ピップの大きなテニスボールのような目が、グラリと揺らいだ。厳格な純血の主人に仕えるしもべ妖精にとって、「主人の役に立つこと」と「ご主人様から褒められること」は最高の麻薬だ。

 

「そうさ。ね?  頼むよ、ピップ師匠」

 

「……しょ、師匠……! ピップが、あのレオン様のお師匠様でございますか……!」

 

 すっかり言い包められたピップは、感動に涙をポロポロと流しながら「わかりました! レオン様がそこまでおっしゃるなら、ピップの秘伝をすべてお教えいたします!」とすっかり味方に落ちたのだった。

 

 それからの四年間にわたる猛特訓の結果、前世の大人としての強靭なイメージ力と、純血の名門に流れる豊富な魔力がピップの教えとかみ合い、ある日を境に奇跡が起きた。

 

 杖を要さずとも、小石がふわりと宙に浮き、スルスルと手のひらに着地する。魔法省の監視センサーはこの時も全く反応しなかった。

 

 こうして九歳になった今、俺は誰の目も盗むことなく、杖なし・無言のまま魔法を行使することができる「人間離れした魔力コントロール」を完全に我が物にしていたのだ。

 

 

 そして迎えた一九八九年のある冬の夜。

 ホグワーツ入学まであと二年と迫ったその日、俺の「原作粉砕計画」の歯車が、思いもよらない形でガタガタと音を立てて回り始めることになる。

 

☆☆☆

 

「いいかい、レオン。今夜の集まりは、ブラック家の親族が主催する歴史あるサロンだ。『聖二十八一族』の主だった家系が顔を揃える。うちの家は中立だが、お前ももう九歳だ。社交界での礼儀を欠いていい理由にはならないよ」

「分かってるよ、父様。背筋を伸ばして、余計なことは言わずにニコニコしてればいいんだろ?」

「ハハハ、呑み込みが早くて助かるよ。さすが私の息子だ」

 

 ロンドンの中心部、マグルの街並みの隙間に隠されたブラック家所有の社交用別邸。その大広間には、豪奢なシャンデリアの光が降り注いでいた。

 

 金糸や銀糸で刺繍された最高級のドレスローブに身を包んだ純血の魔法使いたちが、グラスを片手に談笑している。

 これまでは「まだ小さいから」と屋敷で留守番をさせられていた俺だったが、九歳になった今年から、いよいよこうした純血貴族の夜会に跡取りとして同行することになったのだ。

 

 ……さて……こういう場所には、後の死喰い人予備軍やその子どもたちがウジャウジャいるはずだ。今のうちに顔と名前を一致させておかないとな。

 

 俺が両親の後ろについて挨拶回りをこなしていると、大広間の中央付近で、ひときわ華やかな人だかりができているのが目に入った。

 

 そこに立っていたのは、見紛うことなき大貴族――ルシウス・マルフォイと、その妻ナルシッサだった。

 プラチナブロンドの長髪をなびかせ、蛇の頭のついた杖をステッキ代わりに携えたルシウスの姿は、まさに映画で見た『マルフォイの親父』そのものだ。

 

「おお、フォーリー卿。久しぶりだな。そちらが噂の御曹司かな?」

「ご機嫌よう、マルフォイ卿。ええ、息子のレオンです。ちょうどお宅のドラセナと同じ歳でしたかな」

 

 父様に背中を押され、俺は一歩前に出た。

 ん……? ドラセナ……? 少し違和感を覚えたが、幼少期の頃のあだ名が何かだと思い頭を振って考えを消した。

 

 なにせあのドラコ・マルフォイとの初対面だ。

 原作ではハリーに握手を拒絶されて以来、七年間ずっと嫌味なライバル役を演じ続け、最後はヴォルデモートの脅迫に怯えてボロボロに曇らされる不憫な悪役。

 

 あいつも根っからの悪人じゃないんだ、今から適当に仲良くしておけば、ホグワーツに入ってからもコントロールしやすいだろう――。

 

 そんな軽い気持ちで、俺はルシウスのマントの横に立っている「ドラコ・マルフォイ」に視線を向けた。

 

「ご機嫌よう。マルフォイ家のドラセナよ」

 

 凛とした、よく通る涼やかなソプラノボイスが響いた。

そして、そこに立っていた人物の姿を見た瞬間――俺は貴族の礼儀も忘れて、文字通り白目をむきそうになった。

 

(…………は?)

 

 プラチナブロンドの、輝くような美しい髪。

 それはいい。マルフォイ家のトレードマークだ。

 だが、その髪はオールバックに撫でつけられてなどいなかった。肩の下まで緩やかにウェーブを描いて流れ落ち、銀細工の髪飾りで上品にハーフアップにまとめられている。

 

 陶器のように滑らかで真っ白な肌。少しつり上がった、勝気そうでいて知性を感じさせるシルバーグレーの瞳。そして、その細身の身体を包んでいるのは、深いエメラルドグリーンのベルベット生地で作られた、最高級の『少女用ドレス』だった。

 

(お、女の子……!? いや待て、今なんて言った? マルフォイ家のドラセナって言ったよな!? 妹がいたなんて設定は公式に存在しないぞ、ってことは――)

 

 俺の脳内で、前世の知識と目の前の現実が激しい火花を散らして衝突する。

 

 ──なんかマルフォイがTSしてんだけど!?!?

 

 思考がフリーズしかけた俺の前で、九歳の美少女――ドラセナ・マルフォイ(♀)は、ドレスの裾を優雅につまんで、非の打ち所がない完璧なカーテシーを決めてみせた。

 

「……少し、フォーリー家のレオンと言ったかしら。いつまでそうやって固まっているつもり? 聖二十八一族に連なる家の跡取りなら、レディへの挨拶くらい淀みなくこなしてほしいものね」

 

 ピシャリ、と飛んでくる冷ややかな言葉。

 顎を少し上げ、値踏みするようにこちらを見下ろすその角度と傲慢な空気だけは、間違いなく俺の知っているドラコ・マルフォイだった。

 

 ただし、見た目が氷の妖精みたいな美少女になっているせいで、憎たらしさよりも「高嶺の花のお嬢様」としての威圧感と美しさが前面に出ている。

 

「あ、いや……失礼。フォーリー家の長男、レオン・フォーリーだ。マルフォイ家のご令嬢があまりに美しいと噂には聞いていたけど、実物はそれ以上だったから、つい見惚れて言葉が出なかったんだよ」

「……あら。ずいぶんと口が回るのね」

 

 俺が慌てて胸に手を当ててお辞儀を返しつつ、咄嗟に貴族らしいお世辞を口にすると、ドラコ……否、ドラセナは「ふん」と小さく鼻を鳴らした。

 だが、そのシルバーグレーの瞳が一瞬だけ揺れ、白い耳たぶがほんのわずかに桜色に染まったのを、俺は見逃さなかった。

 

「ハハハ! これは一本取られたな、ドラセナ。フォーリー卿、お宅の息子さんは九歳にしてなかなかの社交家と見える」

「いえいえ、マルフォイ卿。お嬢様があまりに気高いので、息子も緊張してしまったのでしょう。――ほらレオン、あちらのバルコニーの近くに子どもたちの席が用意されている。ドラセナお嬢様とお話ししてきなさい」

 

 大人たちが微笑ましそうに笑い合い、俺とドラセナは自然と大人たちの輪から押し出される形になった。

 

 シャンデリアの光が少し和らぐ、大広間の中央サロンエリア。

そこにはすでに、同じ九歳前後の純血貴族の子どもたちが何人か集まっていた。ゴイル家やクラッブ家、ノット家、パーキンソン家といった、後にスリザリン寮の主要メンバーになる顔ぶれだ。

 

 ドラセナがその場に足を踏み入れた途端、子どもたちの間にピシッと緊張が走った。

 

「あ、ドラセナ様! こちらのお席へどうぞ!」

「ドラセナ様、今夜のドレスもとってもお似合いですわ!」

「お飲み物をお持ちします、ドラセナ様!」

 

 まるで女王様に仕える侍女や従者だ。

 現在の魔法界において、ヴォルデモート失脚後の影響力を最も強く保持し、莫大な金貨で魔法省にまで睨みを利かせているマルフォイ家は、純血界隈の頂点に君臨している。その一人娘であるドラセナに逆らえる子どもなど、この場には一人もいなかった。

 

「ええ、ありがとうパンジー。……それにしても、今年のサロンは少し空気が淀んでいるわね」

 

 特等席のソファに優雅に腰を下ろしたドラセナは、紅茶のカップを傾けながら、少し離れた場所で肩身の狭そうにしている下級貴族の家族をチラリと見た。

 

「あのマクミラン家の連中、最近マグル生まれを保護する魔法省の法案に賛成したんですってね。父様が呆れていたわ。自分たちの高貴な血をドブ川の水で薄めようとするなんて、純血の裏切り者もいいところよ。あと二年でホグワーツに入学するけれど、ああいう穢れた血と同じ空気を吸うのかと思うと、今からうんざりするわね」

 

 周囲の取り巻きたちが「さすがドラセナ様です」「その通りですわ、ダームストラングにでも行ければよろしいのに!」と一斉に頷く。

 

 その光景を眺めながら、俺は内心で深くため息をついた。

 

(うわあ……九歳にして、すでにバチバチの純血主義に染まりきってるじゃねえか……)

 

 ルシウスパパの英才教育の賜物というか、完全に親の受け売りだ。九歳の美少女が、そんな綺麗な顔で「穢れた血」なんて物騒な差別用語を当然のように使っているのを見ると、苦笑いするしかない。

 

 だが、同時に俺の頭の中では、冷静な計算が働いていた。

 

 ……待てよ?  原作のマルフォイって、ハリーへのライバル心とか親からのプレッシャーとか陣営感での板挟みで空回りしてただけで、魔法のスペック自体は普通に優秀な方だったよな

 

 そう。原作のドラセナ・マルフォイは、なんだかんだ言ってO.W.L.の魔法薬学で『優』を取ってスネイプやスラグホーンに認められているし、六年生の時には大人でも難しい『姿くらましキャビネット棚』の修理を独力で成功させている。

 

 さらに、閉心術に至っては、あのスネイプ先生をシャットアウトできるほどの才能を開花させていたはずだ。

 

 おまけに、マルフォイ家の資金力と政治力は魔法界随一。

 

 もし、このまま彼女を放置して原作通りにホグワーツへ入学させれば、間違いなくハリーと敵対し、ルシウスの失脚とともに死喰い人の烙印を押され、泣きながらダンブルドア殺害を強要される破滅ルートへと突き進んでしまう。

 

 

 ……よし、決めた。今のうちからドラコに絡みまくろう。

 染み付いた性格を根本から改変するのは無理でも、このガチガチの純血主義をマイルドにほぐしておけば、少なくとも原作よりはだいぶマシになるんじゃねーかという腹積もりである。

 

 そうと決まれば善は急げだ。

 俺は周囲の取り巻きたちが遠巻きに傅いているのを完全に無視して、スッとドラコの隣へ歩み寄り、彼女が座っている長椅子の空いているスペースに、自然な動作で腰を下ろした。

 

「――っ、ちょっと」

 

 ドラコがぴくりと眉を跳ね上げ、冷ややかなシルバーグレーの瞳で俺を睨みつけた。

 周囲の取り巻きたちも「ひぃっ!」「あいつ、ドラセナ様の許しもなく隣に座ったぞ!?」と凍りついている。

 

「どういうつもりかしら、レオン。そこは私の席なのだけれど。隣に座っていいとは一言も言っていないわよ」

「え?  二人掛けのソファの半分が空いてたからさ、てっきり話し相手を募集してるのかと思ったよ。それに、立って見下ろしたままお嬢様とお話しするのも無礼だろ?」

「……減らず口を叩くのね。フォーリー家は中立派だと聞いていたけれど、ずいぶんと距離感の詰め方が独特なこと」

 

 ドラコは扇子でも広げるような優雅な仕草でため息をつくと、俺から少しだけ距離を取るように身体の向きを変えた。

 ギャーギャーと騒ぎ立てたりしないあたり、さすがはマルフォイ家の跡取りとして躾けられた九歳児だ。だが、その瞳には「妙な奴が絡んできたわね」という明確な警戒と戸惑いが浮かんでいる。

 

 無理もない。これまでのドラコの九年間の人生において、彼女の周りにいたのは「マルフォイ家の威光」を恐れて敬い、媚びへつらってくる取り巻きばかりだったのだ。

 

 俺みたいに、マルフォイの名前にもビビらず、ふらっと隣に座って対等な目線で話しかけてくる同年代なんて、今まで一人もいなかったのだろう。

 

「それで?  わざわざ私の隣に座ったからには、何か面白い話でも持っているんでしょうね。退屈な世間話なら、あっちのクラッブたちとやってちょうだい」

「手厳しいなあ。じゃあ、さっき君がしてた『マグル生まれ』の話の続きでもしようか」

「……なんですって?」

 

 ドラコの目が細まり、室内の温度が一度下がったような錯覚を覚えた。

 

「まさかあなた、私の前で穢れた血の肩を持つ気? もしそうなら、今すぐその席から立ちなさい。純血の裏切り者と話す舌は持っていないわ」

 

 ここで真正面から「差別はよくない! みんな平等だ!」などと説教したところで、九歳のマルフォイには『綺麗事を言う敵』として拒絶されるだけだ。スリザリン気質の人間を動かすには、道徳ではなく「損得勘定」と「支配者としてのプライド」を突くに限る。

 

「肩を持つわけじゃないさ。ただ、マルフォイ家ほどの大貴族の跡取りが、あんな風にマグル生まれを敵視するのは『損』だなって思っただけだよ」

「……損? 私がいつ損をしたというの?」

「いいか、ドラ子。少し数字の話をしようか」

「ど、ドラコ……?」

 

 ドラ娘の子ども、略してドラ子である。

 ドラセナなんて名前が慣れなすぎて、俺は適当なあだ名で彼女のことを呼ぶことにした。

 

 俺はテーブルの上の角砂糖を三つ摘み上げて、小皿の上に並べる。

 

「俺たち『聖二十八一族』をはじめとする純血の家系は、百年前と比べてどんどん数が減ってる。純血同士だけで結婚を繰り返してたら、あと百年もすれば純血の魔法使いは絶滅危惧種だ。一方で、マグル生まれや混血の魔法使いは毎年どんどん増えてる。魔法省の役人だって、今は半分以上が純血じゃない連中だろ?」

「……それがどうしたの。数が多ければ偉いとでも言いたいわけ? 雑草がいくら生い茂ったところで、バラの価値は揺らがないわ」

「その通り。バラは気高くて美しい。――でもさ、もしそのバラが『雑草なんか大嫌い! あっち行け!』って毎日トゲを振り回してたら、庭の手入れをしてる連中はどう思うかな?」

 

 俺は角砂糖の一つを指先でコツンと弾いた。

 

「マグル生まれの中には、たまに俺たち純血顔負けの魔力や才能を持った奴が混ざってる。そいつらを『血が汚れてる』の一言で切り捨てて敵に回したら、連中は団結して、いずれ数と力で古い純血貴族を追い落としようとするだろうね。実際、今の魔法省じゃ純血に不利な法律が少しずつ増えてる」

「っ……そ、それは、魔法省の大臣が無能だからよ! 父様もそう言っていたわ!」

「なら、なおさらやり方を変えるべきじゃないか? わざわざ『穢れた血』なんて呼んで敵を増やすんじゃなくてさ、『才能があるなら、このマルフォイ家のために働く栄誉を与えてあげるわ』って微笑んで、優秀なマグル生まれに恩を売って傘下に引き入れるんだよ」

「……このマルフォイ家たる私がマグル生まれに媚を売れと?」

「違う。違うんだよドラ子」

 

 俺はドラコのシルバーグレーの瞳をまっすぐに見つめて、少し声を落とした。

 

「考えてもみなよ。本当に圧倒的な力を持つ王様や女王様は、下々の生まれの者をわざわざ口汚く罵ったりしない。だって、ライオンがネズミに向かって『お前はネズミだから目障りだ!』なんて吠えたりしないだろ? そんなことをするのは、自分の立場に自信がない弱い犬だけだ。

 

 ――俺は、ドラセナ・マルフォイには誰からも後ろ指をさされない、本物の気高い女王様であってほしいと思うんだけどね」

 

 シン、と二人の間に静寂が落ちた。

 ドラ子は紅茶のカップをソーサーに置いたまま、微動だにせず俺を見つめていた。

 

 九歳という年齢は、ただ親の言葉をオウム返しにする時期を過ぎ、少しずつ自分の頭で物事を考え始める時期だ。

 第一、幼少期から帝王学を詰め込まれたドラ子は、その生来の優秀さから否が応でも思考を回せてしまう。

 

 頭ごなしに純血主義を否定されるのではなく、「あなたがより気高く、賢く上に立つために、安い挑発や差別はやめなさい」というロジックを突きつけられたことで、彼女のプライドと知性が激しく揺さぶられているのが分かった。

 

「…………」

 

 数秒間の沈黙のあと、ドラ子はゆっくりと目を伏せ、自分のドレスの裾を小さく指先でなぞった。

 

「……ライオンはネズミに吠えない、ね。ふん、ずいぶんと生意気な理屈じゃない、レオン」

「お気に召さなかったかな?」

「いいえ。……悔しいけれど、一理あるわ。確かに、いちいち下賤な生まれの連中に感情を乱されて汚い言葉を口にするなんて、マルフォイ家のレディとして品位を欠く行為だったかもしれないわね」

 

 ドラ子はスッと顔を上げると、いつも通りの傲岸不遜な――けれど、先ほどまでとは違ってどこか憑き物が落ちたような、涼やかな笑みを浮かべた。

 

「面白い考え方をするのね、あなた。私の周りにいる連中は、私が何を言っても『その通りですドラセナ様』と頭を下げるばかりで、そんな風に正面から異論をぶつけてきた人間はいなかったわ」

「だろうね。みんなマルフォイ家の名前と、君のその綺麗な顔にビビってるからさ」

「またそうやって、すぐに顔のことを言う……!  言っておくけれど、お世辞で私の機嫌を取れると思ったら大間違いよ」

 

 ジロリと睨んでくるドラ子だが、その声にはもう最初の刺々しさはなかった。むしろ、初めて見つけた「対等に会話ができる同年代」に対する、隠しきれない好奇心が瞳に宿っている。

 

「でもね、レオン。いくら口先で立派な戦略を語ったところで、魔法使いの価値を決めるのは結局『魔力』よ。私にそこまで大口を叩くからには、あなた自身もそれなりの力を持っているんでしょうね?」

「おっ、試してみるか?  親の杖を借りなくても、ちょっとした余興くらいなら見せられるぜ」

「杖なしで?  まさか、子どもの魔力暴発を手品代わりに披露するつもりじゃないでしょうね。まあ、意図的に暴発を起こせるほどの魔力があれば優秀さの証明はできるでしょうけど」

 

 ドラコが「やれやれ」と言わんばかりに肩をすくめた、その瞬間だった。

 俺はテーブルの上に置かれていた白い紙ナプキンに視線を落とし、指先で軽くトン、とテーブルを叩いた。

 

 かつてピップに教わり、屋敷の裏庭で四年間みっちり鍛え上げた生態系魔術の応用――杖なし・無言のまま放つ、完全な『変身術』と『浮遊術』のコンビネーションだ。

 

 フワッ、と淡い魔力の光がナプキンを包み込む。

 次の瞬間、ただの紙ナプキンは精巧な「白い小鳥」へと姿を変え、パタパタと小さな翼を羽ばたかせて宙に浮かび上がった。

 

「……っ!?  う、嘘でしょう、杖も使わずに変身術なんて……!」

 

 ドラ子が息を呑み、優雅な仮面が剥がれ落ちて目を大きく見開いた。周りで遠巻きに見ていたクラッブやゴイル、パンジーたちも「えっ!?」「いま何をしたんだ!?」とざわめき立つ。

 

 白い紙の小鳥は、くるくると滑らかな弧を描きながらドラ子の目の前を舞い、やがて彼女が差し出した白い手のひらの上に、ちょこんと降り立った。そして、最後に一度だけ小さく首を傾げると、パッと一輪の精巧な『白い紙のバラ』へと形を変えたのである。

 

「これなら、雑草じゃなくてバラだろ? お近づきの印だよ、ドラ子」

 

 俺がニコリと笑ってみせると、ドラ子は手のひらの上の白いバラと俺の顔を交互に見比べ、しばらくの間、言葉を失っていた。

 やがて彼女は、壊れ物を扱うような丁寧な手つきでその紙のバラを摘み上げると、ふうっ、と小さく息を吐いた。

 

「……驚いたわ。本当にただの減らず口じゃなかったのね。九歳で、しかも魔法省の探知に引っかからないような精密な杖なし魔法を……あなた、いったいどうやってこれを習得したの?」

「秘密さ。でも、マルフォイのお嬢様の『友人』としてなら、いつか教えてあげてもいいかな」

「友人、ね……」

 

 ドラコは白いバラの花びらにそっと指先を這わせながら、少しだけ困ったように、けれどどこか嬉しそうに口元を緩めた。

 

「……いいわ、レオン・フォーリー。あなたを私の最初の『友人』として認めてあげる。その代わり、私を退屈させたら承知しないから、覚悟しておきなさい」

 

☆☆☆

 

 それからというもの、俺とドラコの友人関係は、周囲の大人たちが驚くほどのスピードで深まっていった。

 

 俺はドラ子の純血主義をさらにマイルドにほぐすため、事あるごとにマルフォイの屋敷へ遊びに行き、手紙のやり取りを重ねた。

 時には魔法史の解釈について議論を交わし、時には広大な庭園で練習用の箒に乗って競争し、時には俺が前世の知識をミックスして話すマグルの科学や物語で彼女の知的好奇心をくすぐりまくった。

 

「ねえ、レオン。あなたがこの前貸してくれた本、全部読んだわよ。悔しいけれど、あなたの言っていた通り、古いしきたりだけに縛られていたら足元を掬われるっていう意味が少し分かったわ」

「だろ?  ドラ子は頭がいいから、すぐに本質を掴んだと思ってたよ」

「ふふ、当然よ。私が誰だと思ってるの? ……それで、今日はどんな面白い話を持ってきたの?」

 

 マルフォイ・マナーの白孔雀が歩き回る庭園。

 白いガゼボの下で、紅茶を飲みながら楽しそうに微笑むドラ子の姿には、かつての刺々しい緊張感はもうなかった。

 

 相変わらずプライドは高いし、気品あふれるお嬢様であることには変わりない。

 前世の価値観的に言えばきっと彼女の性格は悪いんだろう。

 多分まだロナルド・ウィーズリーに「うぇ〜」って言われる。

 

 だが、媚びてくる取り巻きしかいなかった彼女にとって、遠慮なく意見をぶつけ合い、純粋に同年代として笑い合える俺との時間は、かけがえのない居場所になっていたのだ。

 

 ルシウス・マルフォイも、最初は中立派の俺を値踏みしていたが、俺がドラ子と高度な魔法理論を語り合い、娘の魔力制御まで上達させているのを見てからは、「さすがフォーリー家の神童だ」とすっかり俺を気に入ってしまったらしい。ナルシッサ夫人に至っては、俺が屋敷を訪れるたびに、ドラ子が俺からの手紙をどれだけ心待ちにしていたかをこっそり耳打ちしてくれる始末だった。

 

 よしよし、数年間かけて、ドラ子の過激な純血主義は完全にノブレス・オブリージュと実力主義へと軌道修正できたぞ。

 これならホグワーツに入っても、無意味にマグル生まれを煽って自滅するようなことはないはずだ。

 

 あとは、いよいよ始まるホグワーツでの学園生活で、ヴォルデモートの陰謀を片っ端から潰していくだけ。

 そう確信して迎えた、一九九一年九月一日。

 

 十一歳になった俺は、美しく成長した親友――ドラ子・マルフォイと共にキングズ・クロス駅のホグワーツ特急へと乗り込む。

 

「楽しみだなドラ子」

「ええ。……というかずっと気になってたのだけれど、ドラ子ってどういう意味なのかしら」

「ドラ娘の子(ガキ)」

「あなたねぇ……!!」

「痛い痛い痛い!!」

 

 気安くなったのは良いけど俺の脇腹に杖をネジネジしてくるのはやめてほしいね。




流行りのTSマルフォイを自給自足していくスタイル。
思ったよりGemini(使い手だろ)がポンコツなので割と手直ししてます。
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