TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件 作:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな
スネイプ教授との命がけ(主に俺の社会的な命が)の会話を終えた、翌日の朝のことだった。
スリザリンの談話室に下りていった俺――レオン・フォーリーは、暖炉の前で待ち構えていたドラ子の姿を見つけて、いつも通りに片手を挙げて歩み寄った。
「おはよう、ドラ子。昨日は待たせちゃって――」
「ふぇっ!? あ、あああ、あわわわわっ……!!」
なぜかドラ子は、俺の顔を見るなり耳の先から首筋までを真っ赤な林檎色に染め上げ、見たこともないような挙動不審さであわあわと狼狽え始めたのである。
手足を同時に出しそうな勢いで後ずさりし、シルバーグレーの瞳をぐるぐると泳がせていて、まったく会話にならない。
「えっ……? ど、どうしたんだドラ子、熱でもあるのか? 何かあったのか?」
俺が心配になって一歩近づこうとした、その瞬間だった。
「ふぇっ……ち、近づかないで!! ――い、いや嘘!! 離れないで、ほどほどに近づいて!!」
ビシッと両手を前に突き出して制止したかと思えば、コンマ一秒後には涙目で袖を掴みそうな仕草を見せるドラ子。
……どっちだよ!
俺は内心で盛大にツッコミを入れた。
近づくなと言われたり、ほどほどに近づけと言われたり、朝から注文の多いお姫様である。だが、その真っ赤な顔と潤んだ瞳を見る限り、少なくとも俺が何かやらかして嫌われたわけではなさそうか、と少しだけホッと胸をなで下ろした。
まあ、ドラ子も十一歳の女の子だしな。思春期特有の気分の浮き沈みとか、何かそういうデリケートな時期なんだろう。
後方親父面でうんうんと頷き、彼女の言う通りに「ほどほどの距離」を保って歩かせることにした。
大広間へと向かう石造りの廊下を、俺が前を歩き、ドラ子がいつもより二歩ほど後ろを少し離れてトコトコとついてくる。
前に立っているせいで、後ろにいるドラ子が今どんな表情をしているのかうかがうことはできない。
……なんか静かだな。ちゃんと同じペースでついてきてはいるみたいだけど。
ふと、俺の中に小さなイタズラ心が湧き出た。
いつもなら隣で「レオン、聞きなさいよ」と賑やかに話しかけてくる彼女が、後ろでどんな顔をして歩いているのか気になった俺は、前触れもなくクルリと踵を返し、急に後ろを振り返ってみた。
すると――そこには。
両手を胸の前でふんわりと組み合わせ、まるで幸せな夢でも見ているかのように、非常に緩みきった顔でニコニコとだらしなく微笑んでいるドラ子の姿があったのである。
「…………あっ」
「…………」
時が止まったかのように、俺とドラ子の視線がばっちりと空中で交錯した。
一秒、二秒。
自分がどんな間抜けなほど幸せそうな顔をしていたのかを自覚したドラ子の顔が、かぁぁぁぁっ!! と湯気が出そうなほど真っ赤に沸騰した。
「み、みみ、見るんじゃないわよ!! バカッ!!」
「い、いや、なんかすごくいい笑顔だったなと思って……」
「幻覚よ!! あなたの目が腐っているだけよ!!」
ドラ子は両手で自分の赤い頬を隠すように押さえながら地団駄を踏んだあと、コホン! とわざとらしく咳払いをして、ふん、と鼻を鳴らした。
そして、少しだけ照れくさそうに視線を逸らしながら、ツンとした声でこう付け加えた。
「……今は見なくていいけれど、あ、明日のクィディッチの試合だけは、ちゃんと私のことを見てなさいよね」
「もちろん。誰よりも一番前の席で、ドラ子の雄姿を見守ってるよ」
俺が迷いなく優しい声で即答すると、ドラ子は一瞬だけまた顔を緩ませそうになり、慌てて口元を引き締めた。
「わ、分かってるなら良いのよ。ほら、いつまで立ち止まっているの、さっさと前を向きなさい!」
グイグイと背中を押され、俺は「はいはい」と苦笑しながら仕方なくそれに従った。
……そういえば、いよいよ明日は例の『クィディッチ初戦』のイベントか。
前を向き直って歩きながら、俺は頭の中で思考を回した。
ハロウィーンの夜、スネイプ教授は原作通りに三頭犬フラッフィに噛まれて足に怪我をしていた。
おそらく、今日の放課後あたりに職員室でフィルチに手当てをさせている現場をハリーが目撃し、スネイプとフィルチの会話もきっとハリーは聞くことになるだろう。
これで、ハリーたち黄金トリオが「スネイプ先生が賢者の石を狙っている犯人だ!」と疑いをかける流れは、原作通りに成立するはずだ。
そして明日のグリフィンドール対スリザリン戦では、クィレル教授がハリーの箒に呪いをかけて振り落とそうとし、それをスネイプ教授が反対呪文で守り、勘違いしたハーマイオニーがスネイプのローブに火をつけて結果的にクィレルの邪魔をする――という一連のドタバタ劇が起きる。
まあ、流石に明日の試合中、俺はスリザリン寮の応援席にいるだろうし、ハーマイオニーが勝手に解決してくれるなら、俺が何か表立ってアクションを起こすことは難しいかな。
この時の俺は、まだそんな風に呑気に構えていたのだった。
☆☆☆
そして迎えた翌日――土曜日、午前十時半。
抜けるような青空が広がるクィディッチ競技場の地下にある、スリザリン代表チームの控え室は、試合直前の独特の熱気と緊張感に包まれていた。
深緑色のユニフォームに身を包んだ七人の選手たちの前で、六年生のキャプテンである大柄な少年――マーカス・フリントが、荒々しい声でメンバーの士気を高めていた。
「いいか野郎ども、よく聞け! 今日の相手はあの忌々しいグリフィンドールだ! 寮杯のリードを広げるためにも、この初戦は絶対に勝つぞ!」
「「「おうっ!!」」」
「向こうのシーカーは、あのハリー・ポッターだ。一年生とはいえ油断はできん。だからチェイサーとビーターは、審判のマダム・フーチの死角を突いて、ポッターやウッドに徹底的に体当たりを仕掛けろ! 多少ファウルを取られても構わん、あいつらを箒から叩き落としてでも――」
フリントがニヤリと下卑た笑みを浮かべて、伝統という名のラフプレーの指示を飛ばした、その時だった。
「――ちょっと待ちなさい」
凛とした、氷のように涼やかなソプラノボイスが控え室に響き渡った。
新品の『ニンバス2000』を片手に立ち上がったのは、チームで唯一の女子であり、最年少の一年生シーカー――ドラセナ・マルフォイだった。
フリントが眉をひそめて、不機嫌そうにドラ子を見下ろす。
「……なんだ、マルフォイ。試合前に何か文句でもあるのか?」
自分より頭二つ分も背が高い上級生たちに囲まれながら、ドラ子は一歩も怯むことなく、真っ直ぐに顎を上げて言い放った。
「今日の試合、ラフプレーは一切禁止よ」
「……はあ!?」
フリントが呆れたように鼻で笑い、周囲の上級生たちもざわめいた。
「おいおい、何をグリフィンドールみたいな寝言を言ってるんだ、マルフォイの嬢ちゃん! これは戦争だぞ、俺たちに綺麗事で正々堂々と戦えとでも言うつもりか!?」
詰め寄るフリントの威圧感を前にしても、ドラ子は表情一つ変えず、澄ました顔で冷ややかに告げた。
「あなたたちはいつも、そういう反則すれすれのラフプレーを『スリザリンの美徳である狡猾さゆえだ』と話すけれど……勘違いしないでちょうだい。卑怯と狡猾さは、まったく別のものよ」
「なんだと……?」
「じゃあ聞くが、マルフォイ! ラフプレーなしで、どうやってあのグリフィンドールを抑え込めばいいって言うんだ!」
苛立たしげに怒鳴るフリントに対し、ドラ子は小首を傾げて、心底不思議そうに言った。
「あら、簡単じゃない。普通に実力で圧倒して勝てばいいのよ。――そもそも、どうしてあなたたちは、真っ向勝負でグリフィンドールに負けると最初から思っているのかしら? 毎日のように厳しい練習を重ねてきたくせに、その自信のなさで一年生のポッター相手にラフプレーを仕掛けようだなんて、卑怯以前にスリザリン生としての、そして純血貴族としての誇りを疑うわね」
「なっ……!」
「貴様、一年生のくせに上級生に向かって……!」
図星を突かれた選手たちが顔を真っ赤にして立ち上がり、控え室の中が一気に騒然となった――その瞬間。
ドラ子は懐から素早く杖を引き抜くと、床に向けて一閃した。
「『シレンシオ』!!」
怒鳴り声を上げようとしていたフリント以下六人の上級生たちの口から、一瞬にしてすべての「声」が奪い取られた。
「んぐっ!?」「――っ!?」と口をパクパクさせて驚愕する大男たち。一年生が六人同時に無言化呪文を成功させるなど、普通ではあり得ない芸当だ。
静まり返った控え室の中央で、ドラ子は杖を下ろし、まるで生まれながらの絶対的な「王」としての風格をその小さな双肩に携えながら、静かに、しかし魂を揺さぶるような声で語りかけた。
「――いいこと? 私たちは気高き『蛇』よ。冷静に、そして狡猾に機を伺うの。相手が勇敢な獅子だろうが、賢い鷲だろうが、愚直なアナグマだろうが関係ない……最後は私たちがすべてを丸呑みにするのよ」
ドラ子のシルバーグレーの瞳が、キャプテンのフリントを真っ直ぐに射抜いた。
「マーカス・フリント。あなたは乱暴だけれど、誰よりもフィールド全体が見えている優秀な司令官よ。反則なんて使わなくても、あなたの指示で全員を統制して、堅実なパス回しと連携で点差をつけさせないようにしなさい。――そして勝負を決める金のスニッチは、この私が、必ずポッターの目の前で奪い取ってみせる」
その宣言が終わる頃には、すでに『シレンシオ』の魔法の効果は解けていた。
だが――控え室の中にいた誰一人として、すぐには言葉を発することができなかった。まだ声が出ないからではない。目の前に立つ小さな少女から放たれる、圧倒的な覇気と気高い覚悟の勢いに、全員が完全に呑まれていたのだ。
やがて、キャプテンのフリントがゴクリと唾を飲み込み、憑き物が落ちたような、それでいて獰猛なアスリートの目に戻ってドラ子に問いかけた。
「……おい、マルフォイ。今の言葉、ハッタリじゃないだろうな。本当にポッターを出し抜いて、スニッチを獲れるんだな?」
「勿論よ。私が誰だと思っているの?」
ドラ子が不敵な女王の笑みを浮かべて胸を張った瞬間。
「……ッ、しゃあ!! 面白え、乗ってやるぜお嬢様!!」
「やってやろうじゃねえか、正々堂々グリフィンドールを叩き潰してやる!」
と、スリザリン・チームのメンバー全員から、これまでとは比較にならないほど純粋で高い士気の歓声が爆発したのだった。
☆☆☆
「――ふっ。やるじゃん、ドラ子」
控え室の外の通路。誰にも気づかれないよう気配を消して壁にもたれかかり、中の様子に聞き耳を立てていた俺は、思わずニヤリと口角を上げた。
もしかしたら原作通りにフリントたちが酷いラフプレーを仕掛けて、それにドラ子が巻き込まれたりしないかと心配して確認しに来たのだが……いやはや、俺の心配など無用だったらしい。
ドラ子の成長ぶりはホグワーツに来てからますます加速しているな。
俺は壁から背中を離すと、観客席へと続く階段を見上げ、その場で静かに考えを改めた。
「……さてと。今日のクィディッチ事件は原作通りの展開に任せて、俺は手出ししない予定だったんだが……気が変わった」
今のハリーとドラ子の飛行技術を見れば、二人の間にそこまでの実力差はない。いや、なんなら長年の練習量と基礎の正確さがある分、今の時点ではドラ子の方が一歩上をいっているくらいだ。
そんな状況で、もし試合中に原作通りクィレル教授の呪いによってハリーの箒が暴走し、ハリーが何分間も試合から脱落するようなことが起こればどうなるか?
間違いなく、その隙にうちのドラ子がやすやすとスニッチを見つけて捕獲し、スリザリンが圧勝してしまうだろう。
――だが、そんな相手の不慮のトラブルに乗じて得た勝利を、果たして今のあの娘が心から喜んで求めるだろうか?
答えは、絶対にノーだ。
あいつはプライドが高い。しかし今の彼女は、かつてのような単なる傲慢さではなく、自らの実力を信じる『誇り高さ』という言い方ができる輝きを持っている。
ハリー・ポッターという最高のライバルが万全の状態で飛んでいる中で、正々堂々と競り勝ってこそ、彼女のその気高い覇道は完成するのだ。
「――後腐れない、一点の曇りもない勝利を贈らせてあげたいからな」
俺はスリザリンの応援席ではなく、教職員たちが並ぶスタンドの裏手へと向かって足を踏み出した。
今日、あの場所でハリーの箒をクィレルの呪いから守ろうと孤軍奮闘する黒づくめの教授の顔が頭に浮かぶ。ハーマイオニーが双眼鏡で気づいて駆けつけるのを待っていたら、その間の数分間、ハリーは試合にならない。なら、最初から呪いそのものを完全に相殺して、クィレルの妨害を無力化してしまえばいい。
「手伝うぜ、スネイプ教授」
ポケットの中の左手を強く握りながら、俺は歓声の響き始めた青空のフィールドを見上げた。
――最高の勝利を君に。
王道スポーツ物語みたいになってんな。
それにしてもなぜクィディッチの試合までに2話使ってるんだ?