TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件 作:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな
木曜日の午後三時半。
雲一つない秋晴れの空の下、俺たちスリザリンとグリフィンドールの一年生は、初めての『飛行訓練』を受けるために城の前のなだらかな芝生の校庭へと集まっていた。
禁じられた森の木々が涼しい風に揺れる中、俺――レオン・フォーリーは、地面に整然と並べられた二十本あまりの学校支給の古い箒を眺めながら、内心で今日のシナリオを整理していた。
原作第一巻において、この飛行訓練で起きる『思い出し玉の強奪事件』は、物語のターニングポイントの一つだ。
ネビルが落とした思い出し玉をマルフォイが奪って空へ逃げ、それを追いかけたハリーが劇的な急降下キャッチを見せる――あの一連の騒動がなければ、ハリーがマクゴナガル教授の目に留まって一年生で特例のシーカーに抜擢されることはない。
そして、ハリーがクィディッチの試合に出なければ、クィレルがハリーの箒に呪いをかける事件も起きないし、それをハーマイオニーが救うことで黄金トリオが「賢者の石」の謎へと迫り、絆を深めていく流れもすべて消滅してしまうのだ。
だからこそ、今日の授業ではどんな形であれ、少なくともハリーの飛行の才能をマクゴナガル教授の目に入る形で引き出してやる必要がある。
俺がそんな風に腹を括っていると、短い白髪を風になびかせ、鷹のように鋭い黄色い目をした飛行術の教師――マダム・フーチが颯爽と歩み出てきた。
「さあ、何をボサッと突っ立っている! 全員、箒の横に立ちなさい! 急いで、急いで!」
キビキビとした号令に、生徒たちが慌ててそれぞれの箒の右側へと並ぶ。俺のすぐ隣にはもちろんドラ子が立ち、向かいの列にはハリーや、豊かな胸元を揺らす赤毛のロナ、そして緊張した面持ちのハーマイオニーとネビルが並んでいた。
「右手を箒の上にかざして! そして『上がれ!』と命じるのです! 気弱な声では箒に舐められますよ、はっきりと言いなさい!」
マダム・フーチの合図とともに、校庭のあちこちで「上がれ!」という声が飛び交った。
「上がれ!」
俺とドラ子、そして向かいに立つハリーが声を発するのと、地面の箒がピクリと反応するのは同時だった。
シュタッ! と小気味よい音を立てて、三本の箒が一発で俺たち三人の手のひらへと吸い付くように飛び込んでくる。
周囲では、ハーマイオニーの箒が地面をゴロゴロと転がるだけで、ロナの箒に至っては跳ね上がって本人の鼻の頭を直撃し、「いったぁい!?」と涙目になっている。そんな中で一発成功を決めた俺とドラ子は、顔を見合わせて小さく頷き合った。
「よし、今度は箒に跨がる練習です! 私が一人ずつ握り方と姿勢を見て回りますよ!」
マダム・フーチが列の間を歩き始める。
原作ではここで、日頃から飛行の腕前をイキり散らかしていたマルフォイが「あんた、何年も間違った握り方をしていたね」とフーチ先生に指摘されて赤っ恥をかいていたはずだ。
だが、もちろんその点も、ここ二年間の合同練習でとっくに矯正済みである。
「……ふむ。ミスター・フォーリー、ミス・マルフォイ。二人とも重心の置き方と手首の角度が実に正確ですね。手本のような構えです」
「ありがとうございます、マダム・フーチ」
フーチ先生に褒められ、ドラ子が「当然よ」と言わんばかりに誇らしげに顎を上げる。
別に俺は、ドラ子に「完璧超人のお嬢様像」を押し付けているわけじゃない。人間誰だって間違いはあるし、ちょっと抜けてるところがあるのも彼女の魅力だ。
ただ、少なくともこうした大衆の面前においては、隙のない完璧な淑女として振る舞うことで周囲からの一目置かれる立場が得られるのも事実であり、ドラ子自身もそのメリットを理解した上で、こうして素直に俺のアドバイスを頼ってくれているのである。
「では、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴りなさい! そのまま一、二メートルほど浮き上がり、箒を少し前に傾けてすぐに着地するのです。いいですね、私の笛が鳴るまで絶対に動いてはなりませんよ! 三、二――」
その時だった。
極度の緊張で顔を真っ青にしていたネビル・ロングボトムが、笛が鳴るよりも早く、パニックのあまり地面を思いっきり蹴り上げてしまったのだ。
「えっ……あ、うわあああああっ!?」
「戻ってきなさい、ボウヤ!!」
マダム・フーチの制止も虚しく、ネビルの跨がった箒はワインのコルク栓が抜けるような猛スピードで垂直に急上昇していった。
みるみるうちに高度は六メートル近くに達し、恐怖で手を滑らせたネビルの身体が、箒の柄からズルリと横滑りに宙へと投げ出される。
「きゃああああっ!!」
女子生徒たちの悲鳴が響き渡る中、俺は「やっぱりこうなったか」と小さく苦笑しつつ、ローブの裾に隠した左手の指先を、落下するネビルの方へとわずかに向けた。
そのまま誰にも気づかれないよう、杖なし・無言のまま浮遊呪文――『レヴィオーソ』を発動させる。
本来、ホグワーツで学ぶ通常の浮遊術は杖で対象を指し示すか、あるいは直接触れるなどのプロセスが必要になることが多い。
だが、俺の放つ杖無し魔法だけは、どういうわけかホグワーツ・レガシーの『レヴィオーソ』に近い仕様になっており、離れた対象にもノータイムで浮力を発生させることができるのだ。
同じことを杖を持ってやろうとしてもできないことから、ある種俺の才能の一つなのだろうと納得している。
フワッ、と目に見えない空気のクッションが芝生の直前でネビルの背中を受け止める。
次の瞬間、手首をへし折るはずだったネビルの身体は、直前で急激に落下速度を殺され、ボフッという軽い音を立てて無傷のまま芝生の上へと転がった。
……よし。とりあえずネビルの骨折だけは防げたか。
俺が誰にも気づかれないようにふぅっと息を吐いた、その時だった。
すぐ左隣から、じーっと俺の横顔を見つめる視線を感じた。
振り返ると、そこにはシルバーグレーの瞳をいたずらっぽく細めたドラ子が立っていた。彼女は周囲に聞こえないようなごく小さな声で、「ふふ」と柔らかく笑いながら呟いた。
「……ずいぶんとお優しいことね、レオン」
ネビルの不自然な減速が、俺の杖なし魔法によるものだと一瞬で見抜いた確信犯の言葉だった。二年間、誰よりも近くで俺の魔法を見てきた彼女だからこそ気づけたのだろう。
「……バレたか」
俺は苦笑いしながら、自分の唇に人差し指を当てて「シーッ」と内緒にするようジェスチャーをした。
するとドラ子は、わざとらしく肩をすくめて、ちょっとだけ面白くなさそうな顔を作ってみせた。
「目立ちたくないんでしょ。分かってるわよ、誰にも言わないわ」
自分の手柄にもせず、見ず知らずのグリフィンドール生をこっそり助ける俺のやり方に、呆れつつも付き合ってくれるドラ子。
その共犯者めいたやり取りがなんだか嬉しくて、俺は一歩だけドラ子に歩み寄り、彼女の白い耳元に顔を近づけて小さく囁いた。
「――ありがとな、ドラ子」
「――っ、ひゃう!?」
その瞬間、ドラ子の顔がボンッ! と音を立てんばかりの勢いで真っ赤に沸騰した。
彼女は涙目でわたわたと慌てふためきながら、小さな拳で俺の二の腕あたりをポカポカと連続で叩いてきた。
「も、もうっ! だから何回も何回も耳元で急に囁くのばっかりやめてちょうだいっ! な、なんかレオンにそれされると……へ、変になるのよっ……!」
「変になるって、なんだよそれ?」
俺はポカポカと痛くもないパンチを受け止めながら、不思議に思って首を傾げた。
耳元で囁くと何か体調でもおかしくなるんだろうか。
だが、顔を真っ赤にして怒っているわりには完全に嫌がっている様子でもなさそうだし、反応がめちゃくちゃ面白いので、俺は「よし、これからも隙を見て積極的に耳元で囁くことにしよう」と内心でニヤリとほくそ笑んだ。
さて……それはそうと、ネビルが無傷になっちゃったってことは、マダム・フーチが医務室へ離脱しないんじゃないか?
原作改変になっちゃったけど、どうしようかね。
俺が状況を危惧して前を見ると――幸運(?)なことに、芝生に転がったネビルは怪我こそまったくしていなかったものの、上空六メートルから落下した恐怖で完全に白目をむいて気絶していた。
「おお、なんということだい! 骨折はしていないようだけど、ショックで気を失っているよ! ――いいですか、私がこの子を医務室に連れて行って戻るまで、誰一人として箒に手を触れてはなりません! もし飛んだ者がいたら、荷物をまとめる前にホグワーツから退学にしますよ!」
マダム・フーチは厳しい警告を残すと、気絶したネビルを軽々と抱きかかえて城の医務室へと急ぎ足で去っていった。
そして、ネビルが倒れていた芝生の上には、彼のポケットから滑り落ちたらしいガラスの球体――『思い出し玉』が、太陽の光を反射してキラキラと転がっている。
よし、舞台装置は整った!
原作では、ここでマルフォイが思い出し玉を拾い上げて「あのマヌケが落としていったぞ」とハリーを挑発するのだが、今のドラ子は俺の隣で髪を整えており、地面に落ちた他人の私物などにはこれっぽっちも関心を示していない。
ならば、ここから先は俺が黒幕として動く番だ。
俺はポケットの中に突っ込んだ左手の中で魔力を練り上げると、芝生の上の思い出し玉に照準を合わせ、杖なし・無言のまま『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』を発動させた。
スッ……と、誰も触れていないはずの思い出し玉が、ひとりでに芝生から一メートルほど宙に浮かび上がる。
「えっ……!? おい見ろよ、ネビルの思い出し玉が勝手に浮いてるぞ!?」
「な、なによあれ! さっきの落下の衝撃で魔法が暴走したのかしら!?」
ロナや他の生徒たちが目を丸くして騒然となる。
俺は知らんぷりで「おや、不良品の魔法道具が誤作動でも起こしたのかな」と呟きつつ、左手の指先を巧みに動かして、宙に浮く思い出し玉をハリー・ポッターの目の前へとヒューッと移動させた。
「わっ……! な、なんだこれ、ネビルの玉だぞ!」
ハリーが驚いて手を伸ばし、玉を掴もうとする。
だが、ハリーの指先が触れる寸前のタイミングで、俺はクイッと玉を後ろへ引いて空振りさせた。さらに、もう一度手を伸ばしてきたハリーの額に、コツン! とわざと軽く玉をぶつけてから、挑発するようにくるくると彼の頭上を旋回させてみせる。
「いてっ! こ、こいつ!」
「ハリー、変に関わっちゃダメよ!」
ハーマイオニーが止めようとするが、ハリー・ポッターという少年は、根っからの負けず嫌いであり、友人のものを守ろうとする恐れ知らずの気質を持っている。
俺が思い出し玉をさらに上空――木のてっぺんあたりまでビューンと急上昇させると、ハリーは「このままじゃ森の奥に飛んでいっちゃう!」と叫ぶなり、マダム・フーチの言いつけを忘れて自分の箒に跨がり、力強く地面を蹴って大空へと飛び上がった。
「あっ、ちょっとハリー! ダメよ、退学になっちゃうわ!」
「すげえ、あいつ初めてとは思えない飛び方だぞ!」
地上から歓声と悲鳴が上がる中、ハリーはまるで生まれつき翼を持っていたかのように、見事なバランス感覚で風を切って上昇していく。
すると、俺のすぐ隣から「むぅ……」という、なんとも言えない低い唸り声が聞こえてきた。
見ると、ドラ子が自分の箒の柄をギュッと握りしめ、ハリーの鮮やかな箒捌きを見上げながら、うずうずと今にも飛び出したくてたまらない様子で、しかも「あいつばっかり目立って面白くないわ!」と顔に書いてあるような表情をしていたのである。
……ふっ。まあ、今日の主役は私だって張り切ってたもんな。
俺は魔法を操作していない方の右手を伸ばし、ドラ子の肩をちょん、ちょん、と軽く突いた。
「なに、レオン……!」
「行ってきなよ、ドラ子。どっちが先に捕まえられるかって勝負くらいはしてもいいと思うよ。こんなことで退学にはならないと思うしね」
俺が背中を押してやると、ドラ子のシルバーグレーの瞳が、ぱぁっ! と花が咲いたように明るく輝いた。
彼女は年相応の無邪気な笑顔を弾けさせると、「ええ、行ってくるわ!」と自分の箒を引っ掴み、流れるようなフォームで一気に上空へと舞い上がった。
ヒューン! と風を切る音を立てて、ハリーのすぐ真横にピタリと並走するプラチナブロンドの美少女。
「えっ……!? マルフォイ!? どうして君まで飛んでるんだ!?」
目を丸くして驚くハリーに対し、ドラ子は風に揺れる髪を片手で押さえながら、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「あなた一人にいい格好はさせないわ、ポッター! どっちが先にその暴走した玉を捕れるか、私と勝負よ!」
「しょ、勝負って……! 君、ネビルの思い出し玉を捕まえてどうする気なんだ?」
警戒して身構えるハリー。
するとドラ子は、心底不思議そうにキョトンと目を瞬かせ、当たり前のことのように答えた。
「どうするって……持ち主に返す以外に何があるの? 」
「…………えっ?」
ハリーが完全に毒気を抜かれたような間抜けな顔をした。
まあ、特急の中でロナにちょっとマウントを取ってきた高飛車なお嬢様だから、てっきり意地悪でもするのかと思ったのだろう。
「で、どうなのポッター! この勝負、乗るの、乗らないの、どっちかしら!?」
「……っ、はは! そういうことなら、乗った!」
ハリーが吹き出すように笑い、緑の瞳に純粋な闘志を宿して箒の柄を倒した。
そこから先は、一年生の飛行訓練とは到底思えない、息を呑むような空中チェイスの幕開けだった。
俺が左手の指先で縦横無尽に逃走させる思い出し玉を追いかけ、ハリーとドラ子の二人が青空を鋭く切り裂いて飛翔する。
ハリーの飛び方は、まさに野生の直感と天性のセンスの塊だった。急旋回からの急上昇、風を読む鋭いコース取りは、ジェームズ・ポッターから受け継いだ紛れもないシーカーの才能だ。
――だが。
そんなハリーの圧倒的な才能に、ドラ子は一歩も引かずに食らいついていた。いや、基礎的なフォームの美しさと減速・加速の正確さにおいては、ハリーの上をいっていたと言ってもいい。
考えてみれば当然だよな。原作のマルフォイだって、ハリーとの直接対決で不運な負け方をすることはあっても、二年生からはスリザリン代表のシーカーを務めていたんだ。
当時はルシウスがチーム全員に最新型の『ニンバス2001』を寄付したからだと揶揄されていたが、実力主義のスネイプ先生やキャプテンのフリントが、まったく飛べないド素人を一番重要なシーカーに据えるはずがない。
原作のマルフォイも、普通に飛行の才能自体は高かったのだ。
そんな天性の素質を持ったドラ子が、九歳の頃から二年間、マルフォイ家の広大な庭で俺と必死に練習を重ね、競争し続けてきたのである。ぽっと出の才能だけに負けるわけがない。
俺は昔から、いつだって努力が報われる瞬間が好きだった。――だからこそ、この浮遊呪文で忖度して、ドラ子の方へ玉を誘導して勝たせるような無粋な真似はしない。
俺はドラ子の積み重ねてきた努力に敬意を表し、あえて一切の手加減も忖度もせず、不規則で難易度の高い軌道で思い出し玉を高速移動させ続けた。徹底した二人の実力だけで、雌雄を決してもらおうじゃないか。
地上から生徒たちが固唾を呑んで見守ること、数分。
俺が思い出し玉を城の塔の近くから、地上へ向かって斜めに急降下させた瞬間だった。
「――もらった!!」
ハリーが曲芸のようなアクロバティックなロールを決めて風圧を逃がし、猛スピードで思い出し玉のすぐ背後へと食らいついた。
ぐっと伸ばされたハリーの右手が、赤い煙の渦巻くガラス玉を捉えかける――が、学校のボロ箒が限界を迎えてわずかにブレたせいで、ハリーの指先はすんでのところで玉の表面を掠め、掴み損ねてしまった!
「あっ……!」
ハリーの体勢が崩れ、玉がそのまま地面へと落ちていく。
しかし、そのわずかな隙を、上空で虎視眈々と風上のポジションをキープし続けていたもう一人の影が、狡猾に、そして華麗に突いた。
「――甘いわね、ポッター!」
垂直に近い角度で一直線にダイブしてきたドラ子が、ハリーのすぐ脇を疾風のように抜き去りざま、白く細い手をスッと伸ばした。
そして地面まであと一メートルという超低空で、落下する思い出し玉を完璧なタイミングでキャッチすると、そのまま美しい弧を描いて芝生の上へとふわりと滑り降りたのである。
「「「おおおおおおおっ!!」」」
スリザリン生だけでなく、グリフィンドール生からも驚嘆の大歓声が巻き起こった。
そして、芝生に降り立ったドラ子は、手の中の思い出し玉を一度確認すると――次の瞬間、俺の方を振り返って、満面の笑顔でピョンピョンと飛び跳ねた。
「やった!! やったわ、レオン!! 見たかしら、今の私の飛び方!! ポッターに勝ったわよ!!」
プラチナブロンドの髪を揺らしながら、きゃっきゃっと両手を挙げてジャンプして喜ぶドラ子。
日頃の「氷の女王様」としての品位はどこかに吹き飛んでしまっていたが、まあ、あんなに楽しそうで可愛いんだし、何より彼女が本当に頑張った結果なのだから良しとしよう。
俺はほっこりとした笑顔で駆け寄ってきたドラ子を迎え入れ、惜しみない拍手を送った。
「ああ、最初から最後までバッチリ見てたぞ。最後のダイブの角度なんか、プロのシーカー顔負けだった。最高にカッコよかったよ、ドラ子!」
「えへへ、そうでしょう、そうでしょうとも!」
胸を張って得意げに笑うドラ子。
あまりにいい笑顔をするものだから、いつもの癖で頭を撫でてやりたくなったが――さすがにここはスリザリンとグリフィンドールの全生徒が見ている衆人環視のど真ん中だ。
ここで頭を撫でたりしたらお嬢様としての威厳に関わるだろうと、俺はグッと右手を引っ込めて我慢した。
すると。
俺の視線と右手の動きに気づいたドラ子が、突然「むっ」と不満げに頬を膨らませたかと思うと、なんと自分から俺の右手首をギュッと掴み、そのまま自分のプラチナブロンドの頭の上へとペタリと乗せたのである。
「……っ、な、なんだよドラ子、みんな見てるぞ?」
「べ、別にいいじゃない! 見事な勝利を収めて頑張った『主人』を労って褒めるのも、第一の『従者』たるあなたの仕事だと思うけれど?」
顔をほんのり赤くしながらも、俺の手を頭から離そうとせず、早く撫でなさいよとばかりに上目遣いで催促してくるドラ子。
俺は「いや、主人が従者に頭を撫でられて喜ぶって、どっちかというと立場が逆じゃね……?」と内心で激しく困惑しつつも、観念してそのサラサラの髪をわしゃわしゃと撫でてやった。
ドラ子は猫みたいに気持ちよさそうに目を細めている。周囲のパンジーたちは、もはや何を見せられているのか分からないといった顔でフリーズしていた。
やがて満足したドラ子は、コホンと咳払いをして背筋を伸ばすと、遅れて芝生に着地したハリー・ポッターのもとへと歩み寄った。
そして、手にしていた思い出し玉をポンとハリーに放り投げる。
「ほら、ポッター。これはあなたの寮のロングボトムに返しておきなさい」
「あ、ああ……ありがとう、マルフォイ。すごい飛び方だったな、完敗だよ」
「ふん、当然よ。……でも、まあ、今日初めて箒に乗ったにしては、あなたも悪くなかったわ」
ドラ子は腕を組み、顎をクイッと上げて、死ぬほど上から目線のトーンでこう言い放った。
「特別に、あなたの実力を認めてあげてもいいわ。少なくとも、箒の腕前に関してはこの私――ドラセナ・マルフォイに比肩し得るとね。次に対戦する時は、もっと腕を磨いておきなさい!」
ハリーは目を丸くした後、「はは、次は負けないよマルフォイ!」と爽やかに笑い返していた。
だが、後ろでそれを聞いていた俺は、雷に打たれたような衝撃を受けていた。
あ、あのマルフォイが……どれだけ上から目線とはいえ、ハリー・ポッターの実力を正面から認める発言をしただと……!?
原作では七年間、お互いの存在を認められずに泥沼の罵り合いを続けていた二人だ。
勝負に勝って余裕があるとはいえ、相手の良さを素直に認められるなんて、うちのドラ子も本当にずいぶんと大人になったものだと、俺は保護者のような気分でしみじみと目頭を熱くした。
そんなことを考えていると、スッ、と俺の前に戻ってきたドラ子が、周囲の生徒たちが遠ざかったのを確認してから、ふぅ、と長く冷たい息を吐き出した。
「……ねえ、レオン。ちょっとそこにしゃがみなさい」
「ん? あぁ」
俺は言われた通りに膝を曲げて視線を合わせてやると――。
ガシッ!! と、ドラ子の白く華奢な右手が、俺の顔面を容赦なく鷲掴みにした。
いわゆる、美少女による『アイアンクロー』である。
「ふ、ふがっ!? ど、ドラ子、なにすんの!?」
「なにすんの、じゃないわよ……! さっきの思い出し玉の動き。どう見てもただの暴走じゃなくて、誰かさんが私とポッターを競わせるために動かしていた軌跡だったわよねぇ?」
至近距離で、シルバーグレーの瞳がジトーッと俺を射抜く。
その氷のように冷たくも美しい笑顔を前に、俺は顔面をむぎゅっと潰されたまま、「あ、これ完全にバレテーラ……」と秋の青空を見上げて遠い目をするしかなかったのだった。
この後めちゃくちゃ言い訳した。
起きたらランキング1位になってました。
ありがとうございます。
続きが気になる方はお気に入り、高評価などよろしくお願いします。
感想もちゃんと読んでます。
レオンくんは後方ニコニコワシが育てた面をしたい模様。
そのせいでドラ子が依存してるんだけど気づいてる?