TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件 作:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな
結局、あの飛行訓練での騒動は、校舎の窓から一部始終を目撃していたマクゴナガル教授の知るところとなり、ハリーだけでなく、なんとドラ子までが教授に連行されていった。
ホグワーツにおいて、各寮の寮監が自分の寮を贔屓するのは半ば公然の秘密だ。特にスリザリンのスネイプ教授などはその筆頭だが、実はあの厳格で公平に見えるマクゴナガル教授すら、ことクィディッチに関してはグリフィンドールを露骨に優遇するきらいがある。
だが、彼女のクィディッチに対する愛と執念は、もはや常軌を逸していたらしい。ハリーの天性の飛び方だけでなく、それを上回る正確無比なダイブを見せたドラ子の才能にも目を剥いた彼女は、なんとスネイプ教授を通じてスリザリン・チームのキャプテンであるマーカス・フリントにまで話を繋いだのだ。
その結果、ハリーがグリフィンドールのシーカーに抜擢されたのと同時に、ドラ子もまた一年生にして特例でスリザリンのシーカーに大抜擢されることとなったのである。
「――というわけでね、レオン! フリントったら最初は『一年生の小娘だと?』なんて渋い顔をしていたくせに、マクゴナガル先生のお墨付きだと聞いた途端に手のひらを返したわ! 来週から早速、私もチームの練習に参加することになったのよ!」
放課後のスリザリン談話室。暖炉の近くのソファで、ドラ子は死ぬほど嬉しそうに目を輝かせながら俺に事の顛末を報告してくれた。
うん、まあ蓋を開けてみれば俺が自分で玉を暴走させて自分で解決させたマッチポンプみたいなものになってしまったが、ハリーのルートを守りつつ、無事にドラ子を正々堂々と目立たせることができたのだから、結果オーライと満足しておくべきだろう。
「おめでとう、ドラ子。君なら絶対に選ばれると思ってたよ」
「ふふ、当然よ! ……でーもー、レオン」
そこまで上機嫌に笑っていたドラ子が、不意に目を細め、人差し指でツン、と俺の胸元を突いてきた。
見れば、ぷくっと頬を膨らませた、ぶすっと不満げな表情をしている。
「さっきのあなたの説明で、私がすっかり納得したわけじゃないわよ?」
どうやら、さっきアイアンクローを食らった後に俺が適当に並べ立てた『ドラ子の素晴らしい箒捌きをみんなに自慢したい一心で、ついイタズラ心が出て思い出し玉を動かしちゃったんだ』という苦しい言い訳には、半分も納得していないらしい。
「いやあ、俺だってまだ十一歳の子どもだからさ。たまにはイタズラくらいしたくなる時もあるって」
「ふん、十一歳の悪ガキが、自分から非を認めるわけないじゃない。……あなたが普段私に仕掛けてくるイタズラみたいに」
ジト目で睨んでくるドラ子。どうやら、俺が事あるごとに彼女の耳元で囁いたり、お姫様扱いしてからかったりしていることを根に持っているみたいだった。
「あれは……まあ……愛じゃよ、ドラ子」
「またそうやって適当なことを言って煙に巻く……! ……いいわ。でも、あなたが何かを考えているなら、いずれちゃんと私にも話してくれるんでしょうね?」
「もちろん。マイ・レディ」
俺が胸に手を当てて恭しく微笑むと、ドラ子は「ならいいわ」と小さく鼻を鳴らし、ひとまずは溜飲を下げてくれたようだった。
……やれやれ、さすがは俺が鍛えたお嬢様だ。勘が鋭くて困るぜ。
俺が何か腹に一物抱えて動いていることは、なんとなく察せられている気がする。それでもこれ以上深く踏み込んでこないのは、彼女なりの優しさなのか、はたまたマルフォイ家としての慈悲なのか。
実際、前世からの転生だの、未来の原作知識だのと打ち明けたところで、信じてくれるとは限らない。いや、むしろ信じられた方が、彼女が未来を恐れて妙な行動を起こし、取り返しのつかないイレギュラーが起きる可能性が高いのだ。
このままドラ子の輝くような覇道を隣で見届けるならば、この秘密だけは墓場まで持っていかなくちゃいけないことだと思う。
……ん? いや待てよ。俺の本来の目的は、原作の悲劇ルートを破壊して平穏に生き残ることだったはずだよな? なんでいつの間にか『ドラ子の覇道を見届ける』なんてのが最優先事項みたいに混ざってんだ……?
いやまあ、そこは今は深く考えないでおこう。うん、考えるな俺。
それよりも今、真剣に考えるべきはこの後の展開だ。
原作通りなら、飛行訓練の日の夜、ハリーだけがシーカーに抜擢されたことに嫉妬したマルフォイが「真夜中の決闘」を申し込み――実際には約束の場所に現れず、夜間外出の校則違反でハリーたちをフィルチに捕まえさせようと罠にハメる展開だったはずだ。
その嫌がらせ自体はなくなっても一向に構わない。問題は、その夜の逃走劇によってハリーたちが「三階の立ち入り禁止の廊下」へ迷い込み、そこで『三頭犬フラッフィが何かを守っている』という事実を知る――という、第一巻における極めて重要なイベントが待っていることだ。
今のドラ子は自分もシーカーに選ばれて大満足しているから、ハリーに喧嘩を売る理由がないし、そもそもあんな卑劣な密告の罠を仕掛けるはずがない。
となると、またしても俺が裏からテコ入れをしてハリーたちを夜の三階へ誘導してやる必要が出てくるわけだが……正直、これ以上怪しい動きをしてドラ子に不信感を与えるような真似はしたくない。
だが、背に腹は代えられないか……。
翌朝の朝食時。
俺は、ドラ子がスリザリンの上級生や取り巻きたちに囲まれてクィディッチの話題で持ちきりになっている合間を縫って、さりげなく席を立ち、グリフィンドール寮のテーブルへと歩み寄った。
そして、ソーセージを頬張っていたハリー・ポッターの背後にスッと立つと、周囲に聞こえないよう彼の耳元に口を近づけた。
「――ハリー。少し君と話したいことがあるんだ。とても大事な話だ」
「えっ……? れ、レオン?」
「だけど、俺はスリザリンという立場ゆえに、昼間のこういう場所で君と堂々と話すことはできない。だから、今日の真夜中――午前零時に、三階のトロフィー室で待っているから来てほしいんだ」
俺はハリーの緑の瞳をまっすぐに見据え、これ以上ないほど真剣な色を浮かべて頼み込んだ。
無理がある説明だが、人は意外と真剣な表情で言われると信じてしまう性質がある。
狙い通り俺の気迫に気圧されたハリーは、目をパチクリとさせながら流れるように頷いてしまった。
「う、うん、わかった。真夜中に三階のトロフィー室だね」
「ありがとう。じゃあ、夜にまた」
俺は小さく手を振ると、ドラ子に気づかれる前に素早くスリザリンのテーブルへと戻った。
よし、約束さえ取り付けてしまえば、ハリーは律儀で好奇心旺盛な性格だから間違いなく来てくれるはずだ。まずは第一段階のミッション完了である。
☆☆☆
レオンが立ち去った後のグリフィンドールのテーブルでは、向かいの席で山盛りのトーストを食べていた赤毛の少女――ロナ・ウィーズリーが、不思議そうに首を傾げてハリーに尋ねていた。
「ねえハリー、今のフォーリーってやつ、あんたに何を言っていったの?」
「うん……なんだかね、僕に大事な話があるから、今日の真夜中に三階のトロフィー室に来てほしいって」
「はあ!? 真夜中に三階!?」
ロナはフォークを止め、あからさまに渋い顔を作って腕を組んだ。その拍子に、十一歳とは思えない豊かな胸元がぐいっとセーターを押し上げる。
「あいつ、特急でマルフォイの頭を叩いて謝ってきた時は悪い奴じゃないと思ったけど、曲がりなりにもスリザリンの連中だよ? あたしは信用できないと思うけどなぁ〜。もし罠だったらどうするのよ?」
「でも、すごく真剣な目をしてたんだ。それに僕、もう『わかった』って言っちゃったし、行くしかないかも」
「ええ〜っ、ハリーってお人好しすぎるわよ……」
ロナは大きくため息を吐き出して肩を落としたが、やがて観念したように言った。
「もう、あんた一人で行かせてスリザリン生に袋叩きにでもされたら寝覚めが悪いわ。あたしも一緒に行ってあげる!」
そうして迎えた、その日の真夜中。
午前零時の少し前に、ハリーとロナがパジャマの上にガウンを羽織ってグリフィンドールの談話室へと下りていくと、消えかけた暖炉の前の肘掛け椅子から、一つの影がスッと立ち上がった。
「――こんな夜中に、二人でどこへ行くつもりなの?」
ピンクの寝間着で仁王立ちしていたのは、ハーマイオニー・グレンジャーだった。
彼女は昼間の二人の会話を小耳に挟んでいたらしく、腕を組んで懇々と説教をかまし始めた。
「夜の校内を歩き回るなんて校則違反よ! もしフィルチさんに見つかってグリフィンドールが減点されたらどうするの! せっかく私が魔法薬学以外で稼いだ点数が――」
「うるさいわね、あんたには関係ないでしょ! ほらハリー、行こう!」
ロナがハーマイオニーを振り切って肖像画の穴から廊下へと飛び出し、ハリーもその後に続く。ハーマイオニーが「待ちなさいってば!」と外へ追いかけて出た、まさにその瞬間だった。
談話室の入り口を守る『太った婦人』の肖像画が、深夜の散歩へと出かけてしまい、ただの空っぽの額縁になってしまったのである。
「う、嘘でしょう!? ちょっと、私をどうしてくれるのよ!」
「し、仕方ないだろ、戻れないんだから……!」
こうして三人まとめて談話室から締め出されてしまった結果、ハーマイオニーは「あなたたちが何かやらかす前に私が隣で止めるわ!」と怒り心頭で同行することになったのだった。
☆☆☆
「――さて、そろそろ時間かな」
同時刻。俺は静まり返ったスリザリンの男子寮を抜け出し、誰もいない地下の談話室へと下りてきていた。
周囲に人の気配がないことを確認した俺は、右手の指を軽く「パチン」と鳴らした。
次の瞬間。
通常の人間の魔法使いが行う姿現しのようなバシュン! という破裂音は一切鳴ることなく、俺の身体は音もなく空間に溶け込み――気がつけば、三階の『トロフィー室』の真ん中へと静かに転移していた。
俺はガラスケースの横に置かれた椅子に腰を下ろし、ふぅ、と息を吐いた。
本来ならば、ホグワーツの敷地内には強力な防衛呪文が張られており、いかにダンブルドアであろうと人間が姿現しや姿くらましをすることは絶対にできない。
だが、俺の杖無し魔法はいわゆる屋敷しもべ妖精の魔法とまったく同じ原理で動いているらしく、城内でドビーたちが自由に瞬間移動できるように、ホグワーツの結界は屋敷しもべ妖精の魔法を弾かない仕様になっているため、俺だけはこうして城内どこへでもショートカットできるというわけだ。
さてと。もちろん、原作みたいにハリーたちを罠にハメてフィルチに突き出す気は毛頭ない。ハリーたちともこれから仲良くしておきたいし、ここで合流して一緒に三頭犬を見に行く流れにするのがベストだろう。
月の光が差し込むトロフィー室で、俺がのんびりと待つこと数分。
ギィ……と扉が控えめに開き、暗がりの中からハリー、ロナ、そしてハーマイオニーの三人がぬっと顔を出した。
おっ、来た来た。……あれ、ネビルはいないのか。
ああそうか、昨日の飛行訓練で怪我をせずにすぐ復帰したから、合言葉を聞きそびれて廊下で寝てるイベント自体が起きなかったんだな。
俺が内心で納得しながら立ち上がると、ハリーが警戒を解きつつ小声で歩み寄ってきた。
「本当に一人で待ってたんだね、レオン。……それで、僕に大事な話っていったい何?」
ハリーがそう問いかけた、まさにその瞬間だった。
俺が三人が来る少し前に、杖なし魔法で遠くの甲冑を鳴らしてさりげなくこのフロアへ誘導しておいたポルターガイスト――『ピーブズ』が、廊下の向こうからケタケタと下品な笑い声を上げながら飛び出してきたのである。
「ヒッヒッヒ! 真夜中にうろつく一年生を見つけたぞー! フィルチさーん、生徒がベッドから抜け出してますよー、トロフィー室ですよー!!」
「っ、まずい! ピーブズの奴、フィルチを呼ぶ気だ! みんな、こっちへ逃げるよ!」
俺は自分で誘導しておきながら、迫真の演技で焦った声を上げ、三人の先頭に立ってトロフィー室の裏扉から廊下へと飛び出した。
「きゃあっ、早く逃げて!」「なんでこんな時にピーブズが出るのよ!」とパニックになったハーマイオニーとロナ、そしてハリーが必死に俺の背中を追いかけてくる。
俺はわざと複雑な曲がり角をいくつも曲がり、さも道に迷ったかのように装って、入学式でダンブルドアが立ち入りを禁じた『三階の右側の廊下』へと一同を連れ込んだ。
遠くからは、フィルチと飼い猫のミセス・ノリスが近づいてくる足音が聞こえてくる。
「や、やばい、行き止まりだ! この部屋の扉に隠れよう……って、くそっ、鍵がかかってて開かないぞ!」
俺は廊下の突き当たりにある重厚な木の扉のノブをガチャガチャと揺らし、わざとらしく「開かない!」とアピールしてみせた。
すると、俺の思惑通り、後ろから駆け寄ってきたハーマイオニーが「ちょっとどいて!」と俺を押しのけ、自分の杖を鍵穴に突きつけた。
「『アロホモラ』!!」
カチャリ、と小気味よい音を立てて錠前が外れる。さすがは一学年トップの才女、見事な手際だ。
俺たちは転がり込むようにして扉の中へと滑り込み、素早く後ろ手で扉を閉めた。
「はぁ、はぁ……た、助かったわ。ここまで来ればフィルチさんも――」
ロナが胸をなで下ろしかけた、その時だった。
暗闇に満ちた部屋の奥から、グルルルルッ……!! という、地底から響くような重低音の唸り声が聞こえてきた。
三人がゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、天井に頭がぶつかるほど巨大な、三つの狂暴な頭と六つのギラつく目を持った化け物――『三頭犬フラッフィ』だった。三つの口からは滝のようにヨダレが垂れ落ち、巨大な前足は床にある『落とし戸』の上をしっかりと踏みしめている。
よし、これでハリーもハーマイオニーも落とし戸と三頭犬を確認したな! ……さて、俺も普通の一年生らしくビビる演技が必要から、
俺は内心で遠い目をしながら、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「う、うわあああああっ!? な、なんだこのデカい犬は!!」
「きゃあああああああっ!!」
俺の叫び声とシンクロするように、すぐ隣にいたロナが耳をつんざくような悲鳴を上げたかと思うと――恐怖のあまりパニックになり、なんとすぐ横に立っていた俺の身体へと、真正面からガバッと抱きついてきたのである。
ボフッ……むにゅんっ!!
俺の胸から腹のあたりにかけて、十一歳とは思えないほど豊満で弾力のある二つの柔らかな質量が、ものすごい勢いで押し付けられた。
…………ッ!!
瞬間、俺の表情からすべての感情が抜け落ち、まるで宇宙の真理でも悟ったかのような虚無の顔になった。
おい待て。普段ドラ子のスレンダーで華奢な貴族体型を見慣れていたせいで、このウィーズリー家の栄養がすべて詰まったかのような暴力的なボリュームは、前世の記憶を持つ男にとって刺激が強すぎる!
だが待て、相手は十一歳だぞ! これに少しでも欲を抱いたらロリコン待ったなしだ、理性を持て俺!!
「ちょ、ちょっとウィーズリーさん、落ち着いて離れて――」
「いやあああっ! 食べられる、絶対に食べられるわよぉぉっ!!」
俺は急いでロナを引き剥がそうとしたが、完全に恐怖で腰が抜けている彼女は、コアラのように俺の首と腰に手足を絡みつかせてビクともしない。
しかもそうこうしているうちに、目の前のフラッフィが「ガウッ!!」と吠えて一歩前に踏み出してきた。本来ならすぐ扉を開けて逃げればいいのだが、ロナが俺に張り付いているせいで身動きが取れない!
「――ええい、しょうがない!」
俺は片手でロナの背中を支えたまま、もう片方の手で懐から素早く杖を引き抜き、三頭犬の真ん中の眉間に向かって鋭く突き出した。
「『ステューピファイ』!!」
パァン! と空気を裂いて放たれた真紅の閃光が、出力を通常の数倍に高めた魔力を乗せてフラッフィの顔面に直撃した。
本来、魔法生物である三頭犬は魔法への耐性が高いが、俺の本気に近い魔力を込めた一撃は三つの脳みそを同時に揺さぶったらしい。フラッフィは「クゥン……」と情けない声を漏らし、ドスンと音を立ててその場に前のめりに気絶した。
「えっ……!? う、嘘でしょう、一年生が麻痺呪文でこんな怪物を一撃で……!? ……というか何でこんな高度な呪文が使えるのに鍵が開かないくらいで焦ってたのかしら」
「今はそんなことどうでもいいだろグレンジャーさん!!」
頭の良い君が冷静になるとガバを指摘されるんだよ!!
とりあえず俺は雰囲気と勢いに任せることにした。
「あんなデカブツ、俺の呪文じゃ長くは保たない! 今のうちにここから出よう!!」
俺はしがみついて離れないロナの膝の裏に腕を回し、彼女をそのままお姫様抱っこの形で軽々と抱きかかえると、ハリーたちを促して部屋の外へと脱出した。
☆☆☆
三階の廊下から全速力で駆け抜け、ピーブズやフィルチの気配がない安全な五階の廊下まで辿り着いたところで、俺たちはようやく足を止めた。
「はぁ、はぁ……こ、ここまで来ればもう大丈夫だな。……あの、ウィーズリーさん? そろそろ離れてもらっても大丈夫か?」
俺が腕の中で俺の首にしがみついているロナに声をかけると、彼女はハッと我に返ったように目を開いた。
そして、自分がスリザリン生の男子にしっかりとお姫様抱っこされている状況を理解した瞬間――そばかすの散った顔を、髪の毛と同じくらい真っ赤に染めて涙目になった。
「あ、あは……腰が抜けちゃった……」
試しに地面に下ろそうとしたが、彼女の足は生まれたての小鹿のようにプルプルと震えており、とても一人で歩けそうになかった。
「……わかった、そのままじっとしててくれ」
とため息を吐いた俺は、仕方なしにロナをお姫様抱っこしたまま、グリフィンドール塔の入り口まで歩いて運んでやることにした。
夜の静かな廊下を四人で並んで歩きながら、俺は隣を歩くハリーへと視線を向けた。
「……ハリー。俺が呼び出したせいで、こんな大事になってしまって本当にすまない」
「ううん、僕たちの方こそ、レオンがあの呪文で助けてくれなかったら今ごろ犬の餌になってたよ。……それで、僕に話したいことってなんだったの?」
俺は少しだけ表情を和らげ、穏やかな声で切り出した。
「話したいことは、そう多くないんだ。――ハリー、君にはこれからも、うちのドラ子の『良きライバル』になってほしいんだよ」
「えっ……? マルフォイの?」
「ああ。もちろん、無理に仲良くしろって強制したいわけじゃない。ただ、うちのお姫様は少々プライドが高くて、ものすごく負けず嫌いでね。たぶんこれからも、クィディッチや授業で君に突っかかってくることが多いと思うんだ。けれど、あいつには決して悪気や悪意はないんだよ。そこだけを君に誤解してほしくないというのが、俺の率直な想いでね」
俺が真っ直ぐに伝えると、ハリーはしばらく目を丸くしていたが、やがて「ふっ、はははっ!」と明るく声を立てて笑った。
「なんだ、そんなことか。えっと、レオンだっけ。君、本当にマルフォイのことが大事なんだね」
「ま、腐れ縁の幼馴染だからね」
俺が肩をすくめて答えると、どういうわけか早くもお姫様抱っこの体勢に順応して落ち着き払っていたロナが、俺の腕の中からニヤニヤとからかうような声を上げてきた。
「へぇ〜、幼馴染ねぇ? そうやって誤魔化して、本当はあのマルフォイのことが好きなんじゃないの〜?」
俺はピタリと笑顔を消し、すんっ、と真顔になってロナを見下ろした。
「……そこら辺の男女の問題は、純血貴族のめんどくさい家同士の諸々が関わってくるから、軽々しく口にできないんだよ」
「あ、うん、ゴメン」
「まあ、少なくとも今の俺は、手のかかる妹みたいな存在だと思ってるけど」
「はーん、純血貴族ってほんとめんどくさいのね」
「いや、君のウィーズリー家も俺と同じ『聖二十八一族』の純血じゃないか……」
俺が呆れてツッコミを入れると、横で聞いていたハリーが不思議そうに首を傾げた。
「えっと……前から思ってたんだけど、純血かそうじゃないかで、いったい何が変わるの?」
ずっとマグルの世界で暮らしていたハリーは魔法界については無知だ。
感覚の齟齬はいずれ牙を剥くだろうし、説明しておいても損はない。
「基本的には何も変わらないよ。ただ、先祖代々魔法使いの血しか混ざっていない家系を尊ぶ古い連中がいてね、マグルの血が混じるのを嫌うんだ。まあ、古臭くてめんどくさい柵だよ」
俺が噛み砕いて説明してやると、反対側を歩いていたハーマイオニーが、少し驚いたように目を瞬かせて俺を見た。
「……あなたって、スリザリンにいる割には純血主義じゃないのね。スリザリン生はみんな、マグル生まれを見下しているのかと思っていたわ」
「確かにうちの寮は純血主義の家庭ばっかりだけど、全員が全員一枚岩なわけじゃないさ。少なくとも俺個人としては、純血だろうがマグル生まれだろうが、そんなのどうだっていいと思ってるけどね。魔法の腕前と人間性に、血統なんて関係ないだろ?」
俺がさらりと言い切ると、ハーマイオニーは少しだけ頬を緩めて「……そう。あなたみたいな人がスリザリンにもいるのね」と感心したように頷いた。
そして、俺の腕の中にいたロナも、少しだけ照れくさそうに鼻の下を擦りながら言った。
「ふーん……。なによ、あんた、あたしと結構気が合うじゃん」
どうやら、スリザリン生に対する彼女の根強い警戒心も、この夜の出来事でだいぶ解けてくれたらしい。
やがてグリフィンドール塔の『太った婦人』の肖像画の前まで三人を送り届けた俺は、ようやく自分の足で立てるようになったロナを下ろし、「じゃあ、おやすみ」と手を振って別れた。
曲がり角を曲がって三人の視界から外れたところで、再び指を鳴らし、音のない『姿現し』で地下のスリザリン談話室へと帰還する。
「……ふぅ。とりあえず、これで三頭犬の存在も知らせたし、ハリーたちとのパイプも作れた。目的はすべて果たせたかな」
誰もいない談話室のソファに身を沈めながら、俺はしみじみと天井を見上げた。
前世で調べたトリビアによれば、映画全八作を通じたドラコ・マルフォイの総出演時間って、実はたったの『三十一分』程度しかなかったはずだ。
それなのに、いざこうしてマルフォイの性格を丸くして隣に置いてみると、原作のイベントがドミノ倒しで起きなくなるのだから、あいつが物語に与えていた悪役としての影響力ってのは、実はとんでもなくデカかったんだなと痛感させられる。
☆☆☆
そして迎えた、翌日の朝。
俺がドラ子と一緒に大広間の入り口へと歩いていくと、ちょうど向こうからハリーやハーマイオニーと一緒に歩いてきたロナ・ウィーズリーと鉢合わせになった。
ロナは俺の姿を見つけると、昨日の夜のお姫様抱っこを思い出したのか、急にもじもじと指先を動かしながら俺の前で足を止め、顔を赤くしてボソボソと言った。
「あ、あのさ、レオン……。昨日は、その……助かったわよ。さんきゅ」
「ああ、うん。 気にしないでくれ」
「う、うん! じゃあね!」
パタパタと逃げるようにグリフィンドールのテーブルへと走っていくロナ。
ファーストネームで呼び合うくらいには打ち解けたかな、と俺が微笑ましく見送っていた――その時だった。
ピシャン!!
まるで晴天の大広間に見えない落雷でも落ちたかのような、凄まじい衝撃の気配がすぐ隣から立ち昇った。
ギギギ……と、錆びついたブリキの機械みたいな不自然な動きで、俺の隣に立っていたドラ子がこちらへ首を回す。
振り返った俺の目に飛び込んできたのは、シルバーグレーの美しい瞳から完全にハイライトが消失し、絶対零度の笑顔を貼り付けたドラセナ・マルフォイの姿だった。
ガッ!! と、華奢なはずのドラ子の両手が、万力のような力で俺の右腕を鷲掴みにする。
「……ねぇ、レオン? 今の、ど、どういうことかしら……? どうして私の知らないところで、あなたがよりによってあのウィーズリーと仲良く……それも『昨日は助かった』だなんて、意味深なやり取りをしているのかしら……?」
ゴゴゴゴゴ……と背景に黒いオーラが見える錯覚すら覚える。
なぜかは分からないが、直感的に「ここの回答を一つでもミスれば、俺のホグワーツライフがいろんな意味でヤバいことになる」と悟った俺は、背中に滝のような冷や汗を流しながらも、表面上は完璧な平然を装って爽やかに微笑んだ。
「あ、ああ、あれか? ほら、昨日の放課後、ドラ子がちょうどスリザリンのクィディッチ・チームの連中と顔合わせに行ってた時間があっただろ? あの時に、たまたま図書室の前で彼女たちと話す機会があったんだよ。そこで、ちょっと魔法薬学の勉強を教えてやっただけさ」
「…………」
俺の説明を聞いて、ドラ子はハイライトのない瞳のまま、数秒間じーっと俺の目を穴が開くほど見つめ続けた。
やがて、彼女の瞳にようやく光が戻ると、ドラ子は俺の腕を掴んだままプイッと顔を背け、頬を真っ赤に染めて拗ねたように言い放った。
「……いいこと、レオン。あなたは他の誰でもない、私の……し、親友なのだから。よその女に構っている暇があったら、私のことだけを見ていなさいよね」
いや、俺が昨日の夜に三頭犬に麻痺呪文まで撃って走り回ってたのも、全部巡り巡ってドラ子の未来を守るためなんだけどな……。
そんな本音を心の中で呟きつつも、彼女のそのいじらしい独占欲に、俺の口元はどうしようもなく緩んでしまう。
俺は空いている方の左手を伸ばし、拗ねるドラ子のプラチナブロンドの頭の上にポン、と優しく手を置いた。
「『従者』じゃなくて、『親友』、ね。――ああ、俺もそう思ってるよ、ドラ子」
「……っ、ばか」
真っ赤な耳まで隠そうともせず、そっぽを向いたまま俺の手を受け入れるドラ子と一緒に、俺たちは騒がしい朝のテーブルへと向かうのだった。
感謝の2話目投稿。
Gemini 4Argonの性能調査も含めたAI執筆でしたが、やはりAIに描かせると若干テンポ感が悪くなる……というより、展開が遅くなりますね。
そこら辺のテコ入れはしていきたいところ。