TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件 作:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな
季節はあっという間に移ろい、十月三十一日――ハロウィーンの当日を迎えていた。
城の廊下にはカボチャの甘い香りが漂い、大広間の天井には何千匹もの生きたコウモリが飛び交うなど、ホグワーツ全体がお祭り騒ぎの浮足立った空気に包まれている。
ここ最近のドラ子はというと、シーカーとしてスリザリンのクィディッチ練習に熱中しつつも、それ以外の時間は常に俺の側にいたがった。
なにやら、俺がハリーたちと時たま廊下で立ち話をしたり一緒にいたりするのが、どうにも気に食わないらしい。
少しでも俺が目を離すと袖を引っ張ってくるあたり、相変わらず独占欲が強くて可愛らしいお姫様である。
そして逆に、ドラ子がクィディッチの練習で不在にしている放課後の時間帯はというと――俺はやけにハーマイオニー・グレンジャーと遭遇することが多かった。
基本的に俺が暇を持て余して図書室にいることが多いせいもあるのだが、それにしたって高頻度で会うな、と思う。
もちろん、会ったところで大抵はお互いに課題をこなして一緒に勉強をするか、隣り合って黙々と本を読むだけで、特別何かイベントめいたことをしたりするわけではないのだが。
……うーん。俺としては、ハリー、ロナ、ハーマイオニーの三人組で早く仲良くなってほしいんだけどな。
俺は教科書のページをめくりながら、少しだけ懸念を抱いていた。
そういえば、原作でも十月のこの時期って、あの三人はまだそこまで仲が良かったわけではなかったよな……と思い返す。むしろハーマイオニーが口うるさく校則を注意するせいで、ハリーとロンからは煙たがられていた時期だ。
もしも俺が図書室で話し相手になっているせいで、このままハーマイオニーがグリフィンドール内で孤立するような展開になれば、後半の『賢者の石』を巡る試練で詰んでしまいかねない。
まあ、今日のトロール事件で劇的に仲良くなるだろ。
そんな風に軽い気持ちで結論づけた俺は、ハロウィーン当日の午前中、ドラ子と一緒にフィリウス・フリットウィック先生の『呪文学』の授業へと向かった。
今日の課題は、あの有名な『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』の実習である。
原作でロンがハーマイオニーに発音を注意されて逆ギレする、例の「レヴィオーサー事件」のアレだ。
残念ながら呪文学もグリフィンドールとの合同授業ではないので、あの名シーンを直接見ることはできない。もっとも、もし同じ教室にいて近くであのやり取りを見聞きしていたら、俺は普通にロナを叱ってしまいそうだから、別クラスで良かったのかもしれない。
女の子があそこまで一生懸命教えてくれたのに「あいつに友達がいないのも無理ないよな」なんて陰口は流石に人の心が無い。
積み上げた分厚い本の上に立つ小柄なフリットウィック先生の号令で、実技の練習が始まった。
「手首のスナップを効かせて! ヒュッ、と振って、ピシッ、ですよ!」
俺の隣の席に座るドラ子は、いかにも退屈そうな様子で杖を軽く一振りし、「ウィンガーディアム・レヴィオーサ」と涼やかな声で唱えた。
机の上に置かれていた白い羽根が、苦もなくふわりと宙に浮かび上がり、彼女の杖先の動きに合わせて優雅に旋回する。俺もその横で普通に課題をクリアしてみせると、フリットウィック先生は「おお、見事です! ミス・マルフォイ、ミスター・フォーリー! スリザリンに五点ずつ!」と甲高い声で拍手してくれた。
「……はぁ」
羽根を机に戻したドラ子が、頬杖をついて小さくため息を吐いた。
こんな初歩的な魔法じゃ物足りない、とでも言いたげなその横顔を見て俺はいたずら心を起こし、懐から予備の羽根をもう一つ取り出して机の真ん中に置いた。
「なあ、ドラ子。もし退屈なら、この羽根を浮かせることができたら俺からご褒美をあげるよ。――何でも好きな命令を一つ聞いてあげる」
俺が耳元で囁くと、ドラ子はピクリと肩を揺らし、ごくり、と小さく生唾を飲み込んだ。
シルバーグレーの瞳が俺の方を向き、値踏みするように細められる。
「……な、なんでもって言ったわね? 本当にどんな命令でもいいのね?」
「え? うん、構わないけど」
俺は少し首を傾げながら頷いた。
どうせドラ子のことだから、「休日に最高級の茶葉で紅茶を淹れなさい」とか「新作の甘いタルトを作って持ってきなさい」なんて命令をしてくるに違いないだろうし、俺としては大した痛手はないよな、と思ったのだ。
ところが、なぜか死ぬほどやる気を出したらしいドラ子は、メラメラと瞳に闘志の炎を宿して杖を構え直した。
「ふふん、言ったわね! そんなの簡単よ、一秒で浮かせてやるわ!」
ドラ子が鼻息荒く羽根に杖を向け、浮遊呪文をかける――その寸前。
俺は机の下、ローブのポケットで隠した左手から、誰にも気づかれないように杖なしで『
「『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』!」
ドラ子が完璧な発音と軌道で杖を振る。
――だが、机の上の羽根は、まるで瞬間接着剤で貼り付けられたかのようにピクリとも動かない。
「……えっ? ちょ、ちょっと、なんで動かないのよ! 『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』! ……っ、ふぬぬぬ……!」
羽根が微動だにしないことに驚愕したドラ子は、ムキになって魔力を込め、お嬢様らしからぬ「ふぬぬぬ」という乙女らしくないうめき声をあげながら必死に浮遊させようとする。
しかし、俺の魔法に押さえつけられた羽根は、端っこがわずかに震えるだけで一向に浮き上がらない。
俺がその必死な様子をニコニコと微笑ましく見守っていると、ふと不審に思ったドラ子がこちらを振り返った。
そして余裕綽々の俺の顔を見るなり、すべてを悟ったように「チッ」と小さく舌打ちした。
「……あなた、なにかしたわね!」
「さあね。でも、簡単にできちゃ退屈だろ?」
「っ、上等だわ! その余裕ぶった顔、今すぐぎゃふんと言わせてやるんだから!」
ドラ子は悔しそうに唇を噛むと、さらに強い魔力を杖に集中させて再び羽根を浮遊させようと試み始めた。
そもそも、こうして二つの魔法同士が真正面からぶつかり合った際に優先されるのは、『魔法の出力』と『魔法の操作精度』がより高いほうだ。
もし同じ呪文を使った時に術者の実力による差が一切生まれないのであれば、アルバス・ダンブルドアが人類最高峰の魔法使いだなんて言われるはずがない。
つまり、ドラ子がこの羽根を宙に浮かすためには、俺の杖なし魔法を上回る精度と出力を叩き出し、俺から羽根の「制御権」を強引に奪い取らなければならないのだ。
もちろん、俺も十一歳なりに多少手加減はしているが、それでも今のドラ子の魔力操作だと突破するのはなかなか難しいだろう。
「ふぬぬぬぬぬっ……!! 上がれって言ってるでしょうがぁぁ……っ!!」
顔を真っ赤にして杖を振り続け、いよいよマルフォイ家の貴族としての品位が危うくなったあたりで、ちょうど終業の鐘が鳴り、俺は左手の魔法を解除して「よし、今日はそこまで」と声をかけた。
「はぁ、はぁ……まだよ……! 私はまだやれるわ……!!」
額にうっすらと汗を浮かべ、鬼気迫る表情で食い下がるドラ子に、俺はニヤリと意地悪く笑いながら言った。
「へえ、そんなに俺からのご褒美が欲しいのか?」
「――っ!? そ、そそ、そんなんじゃないわよ!! ただあなたに負けるのが悔しいだけよ、自惚れないで!」
ドラ子は耳まで真っ赤にして、ブンブンと首を振って全力で否定した。
そのあまりに動揺した様子を見るに、どうやら「ご褒美目当て」というのもあながち間違いじゃなさそうだな、と俺は内心でおかしくなって笑った。
「はは、冗談だよ。この勝負、いつでも挑戦を受けるさ。条件は変わらない、見事クリアしたら何でもご褒美をあげるのもそのままにしておくよ」
「……ふん、覚えていなさいよ。すぐに私の前にひざまずかせてやるわ」
ドラ子は不承不承といった様子で頷きながらも、その瞳をキラキラと輝かせていた。
基礎ばかりのホグワーツ一年生の授業は、すでに先取り学習を終えているドラ子にとって退屈に違いない。だが、この前図書室でハーマイオニーにも言ったように、明確な目標を定めれば人はそこに向かっていくらでも頑張れるものだ。
これからも、ドラ子にとって退屈しない良い刺激になれるようにしてやらなきゃな。
☆☆☆
そして迎えた、ハロウィーンの夕食時。
大広間のテーブルは、ジャック・オー・ランタンの明かりと豪華なごちそうで埋め尽くされていた。スリザリンの席に座った俺は、さりげなく向こう側のグリフィンドール寮の座っている位置へと視線を走らせ、そこにハーマイオニーの姿が不在であることを確認した。
……やっぱりいないな。ってことは、ハーマイオニーは女子トイレで泣いてる真っ最中か。
そんなことを思いながらローストビーフを切り分け待つこと数分。
突然、大広間の大きな両開き扉がバン! と勢いよく開け放たれた。
飛び込んできたのは、紫のターバンを斜めに歪ませ、恐怖で顔をひきつらせたクィレル教授だった。彼は教職員テーブルの前までよろよろと走ってくると、大声で叫んだ。
「ち、地下牢にトロールが! し、知らせておこうと思って……!」
そのままクィレル教授は、床の上にバタリと派手に気絶してみせた。演技だけどな、アレ。
大広間の中は一瞬にしてパニックになり、生徒たちの悲鳴が飛び交う。ダンブルドア校長が杖の先から紫色の花火を爆発させて静粛を求めると、「監督生はただちに各寮の生徒を寮へと誘導せよ!」と力強く命じた。
騒然とする空気の中、スリザリンやグリフィンドールの生徒たちが監督生の指示に従ってぞろぞろと大広間の外へと流れていく。
よし、ハリーとロナがハーマイオニーを助けに行って、万が一にも大怪我をするようなイレギュラーがないか確認しに行くか。
そう決めた俺は、廊下の角を曲がるタイミングで人混みに紛れ、ひっそりとスリザリンの列を抜け出した。
「ふぅ……さて行くか」
俺が柱の影で一人息を吐き、踵を返そうとした――まさにその時。
自分のすぐ真横に、腕を組んでジト目でこちらを見上げているプラチナブロンドの美少女が立っていることに気づき、俺は危うく変な声を上げそうになった。
「……ど、ドラ子!? どうしてここにいるんだ? トロールが出て危ないんだから、みんなと一緒に寮に戻ったほうがいいぞ」
俺が白々しく誤魔化そうとすると、ドラ子は呆れたようにため息を吐いた。
「最近のレオンは何かと動きが怪しいから、よく見ておいて正解だったわ。やっぱり一人で抜け出したじゃない。――さあ、行くわよ、トロール退治に!」
ドドン! と効果音がつきそうな勢いで、まだ控えめな胸を反らしてビシッと指を差すドラ子。
俺は思わず目を点にして固まった。
「なによその顔は。あなたもそのつもりで列を抜けたのでしょう?」
「……いや、違うよドラ子。俺は何もトロールと戦いたいわけじゃないんだ。さっきの夕食の時、グリフィンドールの席にグレンジャーさんがいなかった。つまり彼女は今、城内にトロールが出たことを知らない。誰かが伝えてあげなきゃ危険だと思ってさ。それに、彼女がいそうな場所に、少し覚えがあるんだ」
俺が真面目なトーンで説明すると、ドラ子はピタリと動きを止め、しばらく考えたあと、凛とした声で言い切った。
「……それなら尚更、私も付いていくわ。友達にだけ危険を押し付けて自分だけ安全な場所へ去るだなんて、マルフォイ家の名が廃るもの」
……いやそれ、マルフォイ家っていうか、どっちかというとグリフィンドールの騎士道精神みたいな考え方だな。
俺は内心でツッコミを入れつつ、ドラ子のシルバーグレーの瞳をじっと見つめた。
その澄んだ瞳には、点数を稼ごうとか手柄を立てようといった打算的な色は微塵もない。本当に、俺を一人で危険な目にあわせたくないという純粋な想いから言い出したのだと分かり、胸の奥がじんわりと温かくなった。
「……それにしても、ドラ子がグレンジャーさんのことを心配してくれるなんて、ちょっと意外だったな」
「――っ、ふん!」
俺が柔らかく微笑むと、ドラ子は顔をわずかに赤らめて、ぷいっと鼻を鳴らした。
「べ、別にそういうわけじゃないわよ。レオンが行かないなら私も行かなかったし。ただ……誰かが困っているなら、スマートに助けて貸しを作ってあげるのも、純血貴族の定めってものよね?」
そう言ってニヤリと不敵に笑うドラ子に、俺もまったく同じ笑みで返し、二人は並んで一階の女子トイレへと足を進めた。
☆☆☆
俺たちが女子トイレのある廊下の角を曲がった、その瞬間だった。
ドンッ!! ガシャアアアンッ!!
トイレの中から、何か途方もなく巨大なものが床に倒れ込んだような轟音が響き渡った。
「今の音は……!」と俺とドラ子が顔を見合わせ、開け放たれたトイレの扉から中へと侵入すると――そこには、水浸しの床の上で、自分の持っていた大きな木の棍棒が頭に落ちて白目をむいて気絶している四メートル級の山のトロールが転がっていた。
そしてその周りでは、杖を持ったハリーとロナが肩で息をしながら疲れ切った様子でへたり込んでおり、壊れた洗面台の奥では、頬に涙の跡を残したハーマイオニー・グレンジャーが信じられないものを見るように目を見開いていた。
「……れ、レオン!? それにマルフォイまで、どうしてここに?」
ハリーが目を丸くして問いかけてくる。俺は構えていた杖を少し下ろし、ホッと息を吐いて答えた。
「夕食の時にグレンジャーさんの姿がいなかっただろ? もしかしたらトロールのことを知らないんじゃないかと思って、ドラ子と一緒に探していたんだが……どうやら間一髪だったみたいだね。二人で倒したのか?」
「ああ……ロナが浮遊呪文で、あいつの棍棒を頭の上に落としてくれたお陰だよ」
ハリーが安堵の息を吐く隣で、ロナは少し照れくさそうに頬を掻きながら、洗面台のところにいるハーマイオニーへと向き直った。
「あ、あのさ、ハーマイオニー……。昼間は、その……あんたのこと悪く言って、ごめん。無事でよかったわ」
「ロナ……。ううん、私の方こそ、助けに来てくれてありがとう……!」
ロナが素直に昼間の失言を謝罪し、ハーマイオニーも涙を拭ってそれを受け入れる。
原作には無い同性だからこそ生まれるハグは、どことなく百合の花の香りがする。気の所為だけど。
よしよし、これで原作通りに三人のわだかまりも解けて、一件落着かな。
俺が微笑ましく笑みを浮かべた一方、隣のドラ子は「ふん、私たちがせっかく駆けつけてあげたのに、出番なしね」と少し面白くなさそうな表情で鼻を鳴らしていた。
まあ、せっかく来たんだから多少はいいところを見せて目立ちたかったんだろうな、と俺が苦笑した――まさにその瞬間だった。
「……グ、グオオオオオオオオッ!!」
突如、女子トイレの床をビリビリと震わせるような地響きのような咆哮が轟いた。
なんと、自分の棍棒が頭に落ちて気絶していたはずの山のトロールが、充血した小さな目をカッと見開き、怒り狂った様子でムクリと起き上がったのだ、
「ひ、ひぇぇええええっ!?」
「そ、そんな……! さっきので気絶したはずなのに!!」
ロナとハリーが顔面蒼白になり、絶望の声を上げてその場にへたり込む。
二人がすっかり腰を抜かして動けなくなっているのを見た俺は、「なんで原作よりトロールがタフなんだよ……これもガバか?」と内心で遠い目をしつつ、素早く懐から杖を引き抜いた。
……まあいいさ。さっきドラ子の素晴らしい精神面の成長も見れたことだし、出番がなくて拗ねてた彼女に、ここは一つ最高の華を持たせてやろうか!
俺は隣で微かに緊張した表情を浮かべながらも、逃げることなく杖を抜いたドラ子に向かって、落ち着いた声で告げた。
「ドラ子、『プランC』だ。落ち着いて行くぞ」
俺の声に、ドラ子はすぅ、と深く息を吐いて肩の力を抜き、いつもの誇り高い女王様の笑みを浮かべた。
「……誰に言ってるのよ。私に任せなさい!」
トロールが再び棍棒を振り上げようとした瞬間、まずは俺が一歩前に踏み出し、狭いトイレから広い場所へ引きずり出すべく杖を振るった。
「『
杖先から放たれた猛烈な竜巻のような突風がトロールの巨体を直撃し、何百キロもある化け物をトイレの入り口から外の広い廊下へと一気に吹き飛ばした。
腰を抜かした二人に矛先が向くと面倒だからな。
ドゴォンッ! と廊下の石壁に叩きつけられるトロール。
ま、耐性の高いトロール相手に風圧だけじゃ効かないか、と思いながら、俺は外へ飛び出しざまに叫んだ。
「ドラ子!」
「ええ! 『
ドラ子が間髪入れずに放った爆破呪文がトロールの胸元で炸裂し、激しい爆音と火花が廊下に散る。
並の魔法生物なら一撃で吹き飛ぶ威力だったが、分厚い石のような皮膚を持つトロールには多少の擦り傷と焦げ跡をつけた程度で、奴は「グガアアッ!」と咆哮しながら立ち上がろうとする。
と、その時。俺とドラ子のすぐ後ろから、一条の赤い炎が飛んできた。
「『インセンディオ』!!」
トロールの顔面を掠めた炎に、俺が驚いて振り返ると、そこには震える両手で必死に杖を構えたハーマイオニーが立っていた。
「グレンジャーさん!」
「わ、私も戦うわ! この前の犬の時みたいに、怖がって怯えてばかりじゃダメだもの!」
恐怖に打ち克ち、自ら前に出てきたハーマイオニー。
その凛々しい横顔を見たドラ子は、目をわずかに見開いたあと、口の端を上げて笑った。
「――ふーん、見直したわ、グレンジャー。あなた、ただの勉強バカじゃないのね」
その言葉には、かつてのような極端な嘲りの響きは一切なく、ドラ子なりの不器用な「相手を認めた言葉」なのだと分かった。
俺は嬉しくなって「ははっ」と笑いながら、即座に二人に指示を飛ばした。
「よし、グレンジャーさんは直接的なダメージを与える攻撃はしなくていいから、光や音でトロールの注意を引いて撹乱する魔法を頼んだ!」
「分かったわ!」
「ドラ子は計画通りに、アレで一気にケリをつけるよ!」
「了解」
ハーマイオニーが「えいっ! これもくらえ!」とやぶれかぶれになりながらも、火花や閃光、小鳥の群れを出す魔法を次々とトロールの顔面にぶつけて視界を奪う。
その隙に、俺は杖を大きく振り上げて叫んだ。
「『
杖先から消防ホースのような勢いで大量の水流がほとばしり、暴れるトロールの頭から足先まで、全身をビシャビシャに濡らして床に水たまりを作った。
そして直後、ハーマイオニーが放った強い閃光呪文に目をくらませたトロールが、大きく上半身を仰け反らせた――その決定的な瞬間。
ドラ子が、プラチナブロンドの髪をなびかせ、濡れそぼったトロールの心臓部へ向けて杖を突き出した。
「これで終わりよ! 『
バチバチバチィッ!! と青白い雷光が夜の廊下を昼間のように照らし出し、ドラ子の杖から放たれた特大の電撃が、水を伝導してトロールの全身を凄まじい勢いで駆け巡った。
「グ、グオオオオオオオオ――ッ!?」
断末魔のような苦しそうな叫び声とともに、トロールの巨体が激しく痙攣し、黒焦げになって煙を上げながらドッスーーーン!! と床へ倒れ伏した。
今度こそピクリとも動かず、完全に沈黙したことを確認した俺は、杖を収めて隣の二人に笑顔を向けた。
「――やったな! 二人のお陰だよ、完璧な連携だった!」
俺がそう声をかけると、緊張の糸が切れたドラ子とハーマイオニーは、顔を見合わせて「やったあ!」「本当に倒しちゃったわ!」と、十一歳の女の子らしく手を取り合ってきゃっきゃっと無邪気に喜び始めた。
だが、数秒後に自分がハーマイオニーと燥いでいることに気づいたドラ子は、「ハッ!」と弾かれたように手を離し、慌ててコホンと咳払いをして澄ましたお嬢様顔に戻った。
「ま、まあ、私の魔法が凄すぎただけだけれど……グレンジャーも、足手まといにならない程度には頑張ったんじゃないかしら」
「……ふふ。マルフォイさん、あなたって、実は素直じゃないだけなのね」
「なっ!! なによその余裕そうな笑みは! やっぱり嫌いよ、あなたなんか!!」
顔を真っ赤にしてぷりぷり怒るドラ子と、それを見て楽しそうに笑うハーマイオニー。
すると、トイレの奥から恐る恐るといった様子でハリーとロナが顔を出した。ロナは黒焦げになって伸びているトロールと、ドラ子の姿を交互に見て、あんぐりと口を開けた。
「おったまげー……。レオンが強いのはこの前ので知ってたけど、マルフォイもめちゃくちゃやるじゃん」
「……ふんっ。あなたに褒められても嬉しくなんかないわよ」
ロナに声をかけられた途端、ドラ子はプイッと音を立ててそっぽを向いてしまった。どうやらハーマイオニーとは少し距離が縮まったようだが、やはりロナとはそう簡単には相容れないらしい。
そんな和やかな(?)雰囲気に包まれていると、廊下の向こうからドタドタと激しい足音が響き、マクゴナガル教授を先頭に、スネイプ教授、クィレル教授の三人が駆けつけてきた。
おっ、来たな。……よしよし、スネイプ先生の足が三頭犬に噛まれて血だらけになってる件について。
ハリーたちもそれはちゃんと確認してるな。
俺が原作の進行状況を内心でチェックしていると、黒焦げのトロールを見たマクゴナガル教授が、顔を真っ青にして激怒の声を上げた。
「あなたたち、いったい何ということを……! 一年生が山のトロールと戦うなど、生きていたのが奇跡ですよ! どうして寮に戻らなかったのです!」
雷が落ちる寸前のマクゴナガル教授の前に、ハーマイオニーがスッと一歩進み出た。
「マクゴナガル先生、みんなを叱らないでください! 私が一人でトロールを探しに来てしまって……みんなは、そんな私を心配して助けに来てくれただけなんです! もしみんなが来てくれなかったら、私は間違いなく死んでいたと思います」
ハリーとロナだけでなく、スリザリンである俺とドラ子までまとめて庇うハーマイオニーの言葉に、生徒思いで友情に弱いマクゴナガル教授は、険しかった表情をわずかに緩めた。
「……なんという無謀なことを、ミス・グレンジャー。その軽率な行動に対し、グリフィンドールから五点減点します。……ですが、友人を救うために寮の垣根を超えて立ち向かった他の四人の勇気と、一年生とは思えぬ見事な撃退に免じて……ポッター、ウィーズリー、そしてフォーリーとマルフォイの四人には、それぞれ五点ずつ加点します!」
ふぅ……よし、これで誰一人欠けることなく、今回のハロウィーン事件も無事に解決したかな。
俺が安堵の息を吐き、ドラ子たちと一緒に寮へ戻ろうと踵を返しかけた、その時だった。
背後から、氷のように冷たく低い声が、俺の背中にピタリと投げかけられた。
「……待て、フォーリー」
振り返ると、血の滲む足をマントで隠したセブルス・スネイプ教授が、底知れない黒曜石のような瞳で俺をじっと睨み下ろしていた。
「明日、放課後に貴様は我輩の研究室に来い」
それだけを一方的に言い残し、スネイプ教授は黒いマントを翻して去っていった。
加点された直後の突然の呼び出しに、俺は「……なんか、ものすごく嫌な予感がするぞ」と、引きつった苦笑いを浮かべるしかなかったのだった。
電撃魔法は本作オリジナル。
登場してないだけで多分あるやろ、知らんけど。
ちなみに主人公の放ったアグアメンディはちゃんと不純物の混じった水です。意図的に発生させてます。