TSマルフォイの純血主義を矯正したら高飛車ツンデレ幼馴染(傲慢持ち)になった件 作:マルフォイは貧乳だろボケがふざけんな
ハロウィーンのトロール撃退劇から一夜明けた、翌日の昼休みのことだった。
「――もう、納得いかないわ! トロールに最後の一撃を食らわせたのは私の電撃だったのに、どうしてスネイプ先生はレオンだけ研究室に呼び出すのかしら! きっとレオンだけ特別に褒められるのよ、ズルいわ!」
放課後の呼び出しを控え、城の廊下を並んで歩きながら、ドラ子はぷりぷりと頬を膨らませてそんな楽観的な文句を言っていた。
スネイプ教授のお気に入りである彼女にとって、寮監からの呼び出しといえば褒美か特別待遇くらいにしか思えないのだろう。ネガティブな可能性を一切考えていないその無邪気な横顔を見ていると、こちらまで平和な気分になってくる。
「はは、そうだったらいいんだけどな。もしお菓子でも貰えたら、ドラ子に半分やるよ」
「ふん、当然よ! 一昨日のタルトみたいに美味しいやつを期待しているわね!」
スキップせんばかりの足取りで次の教室へと向かうドラ子の背中を見送りながら、俺――レオン・フォーリーは、一人深いため息を吐き出した。
……いやあ、あの場面でスネイプ先生が俺だけ名指しで呼び出すなんて、どう考えても楽観視していいような案件じゃないよなぁ。
おそらく、昨日のトロール戦での立ち回りか、あるいはその前の三頭犬の部屋での麻痺呪文の件か、はたまたドラ子の隣に居座り続けている俺自身の素性か――いずれにせよ、あの疑り深い二重スパイの教授がお茶会のために俺を呼んだわけがないことだけは確かだった。
☆☆☆
そして迎えた放課後。
俺は言われた通り、城の地下深く、魔法薬学の教室よりもさらに奥まった場所にあるスネイプ教授の個人研究室の扉をノックした。
「入れ」
中から低く冷たい声が響く。
扉を開けて足を踏み入れると、そこは日の光が一切届かない薄暗い石造りの部屋だった。壁一面の棚には何百というガラス瓶が並び、得体の知れない爬虫類の目玉や干からびた植物が怪しげな液体の中で揺れている。
部屋の奥のデスクに立っていたスネイプ教授は、相変わらずの仏頂面でこちらを一瞥すると、部屋のど真ん中にポツンと置かれた一脚の簡素な木製の椅子を指差した。
「そこに座りたまえ」
「……失礼します」
おいおい、なんで部屋のど真ん中に椅子が一脚だけ置いてあるんだよ。これ、座った瞬間に鎖が飛び出してきてグルグル巻きに縛られて拷問とかされないよな……?
まるでアズカバンの審問室みたいなレイアウトに内心でツッコミを入れつつ、俺は警戒を悟られないよう自然な動作で椅子に腰を下ろした。幸い、鎖が飛び出してくるようなギミックはなかったらしい。
するとスネイプ教授は、黒いローブの裾を翻して俺の目の前まで歩み寄り、懐から親指ほどの大きさしかない透明なガラスの小瓶を取り出した。中には、水のように無色透明な液体が入っている。
スネイプはその小瓶を俺の鼻先にスッと差し出し、抑揚のない声で言った。
「――これを飲め」
いやそんな状況説明もなしに、見るからに『怪しい薬です』『毒薬です』みたいな雰囲気を醸し出してる小瓶を渡されて、ハイそうですかって飲めるわけないやろがい。
俺は小瓶を受け取らず、背筋を伸ばしたままスネイプ教授の黒い瞳をまっすぐ見返して、きっぱりと首を横に振った。
「できません、スネイプ教授」
「……ほう?」
スネイプの片方の眉尻が、ピクリとわずかに跳ね上がった。
「我輩の命令に背くか。なぜ飲めんのかね?」
「いかに尊敬するスリザリンの寮監からの言葉だからといって、盲目的に従うような愚か者は、教授ご自身が最も嫌うタイプでしょう?」
俺が落ち着き払って答えると、スネイプは黒い瞳の奥に冷たい光を宿し、口元をわずかに歪めた。
「……一理あるな。では問おうか、フォーリー。貴様のその賢しさで考えてみろ。この小瓶には、いったい何が入っている?」
なるほど、そういうテストか。
俺は瞬時に意図を察知した。
無色透明な魔法薬など世の中にいくらでもある。つまりスネイプ教授は、単にこの液体が何かを視覚だけで当てろと言っているのではなく、『一人で呼び出されたこの密室のシチュエーションにおいて飲ませようとする薬は何が考えられるか』を理解しているか試しているのだ。
俺はあえて肩の力を抜き、少しばかり冗談めかした笑みを浮かべて答えた。
「そうですね……。この状況から推測するなら、一番可能性が高いのは『真実薬』。あるいは『愛の妙薬』あたりでしょうか。――はたまた、昨日のトロール退治を頑張ったご褒美として、教授が特別に『
もちろん、愛の妙薬なら真珠母のような光沢と湯気があるし、幸運の液体なら溶けた金のような色をしている。
無色透明で無臭となれば、答えは最初から『真実薬』一択である。
俺の軽口を聞いたスネイプは、ニコリともせずに俺を値踏みするような目で見下ろした。
「……ふむ。つまり貴様は、これが『真実薬』であると見抜いた上で拒絶した。それを飲むことで、自身が決定的な不利益を被ると確信しているのだな?」
「ご冗談を、教授。いかに十一歳の生徒といえど、誰にだって他人にだけは絶対に見破られたくない秘密の一つや二つくらいあるものですよ」
俺がひらりと躱すと、スネイプは小瓶を持ったまま腕を組み、部屋の中の温度が数度下がったかのような冷徹な声で、俺の経歴を読み上げ始めた。
「――レオン・フォーリー。聖二十八一族、フォーリー家の跡取り。九歳の頃、ブラック家のサロンにてドラセナ・マルフォイに接触し、以来、彼女の傍らに常駐している」
スネイプが一歩踏み出し、鷲鼻の先が触れそうなほどの距離から俺の瞳を覗き込んだ。
「そして――かつての『死喰い人』の中でも筆頭格であった狂信者、コーヴァス・レストレンジの孫だな。……答えろ、フォーリー。貴様がマルフォイ家の娘に近づいたのは、親の指示か? それとも、レストレンジの血が貴様にそうさせたのか?」
……はぁ。まあ、なんとなくこうなるとは思ってたよ。
俺は表面上の微笑みを崩さないまま、内心で深いため息を吐いた。
我がフォーリー家は、十一年前に終わった先の大戦において徹底して『中立』を保ち、表向きには一人の死喰い人も輩出することはなかった。
だが、俺の母方の実家――すなわち『レストレンジ家』の祖父であるコーヴァス・レストレンジ5世は、かつてヴォルデモートの右腕として暗躍した死喰い人筆頭の立ち位置にいた人物なのだ。
さすがに前世の俺も原作の細かい家系図の隅々まで覚えているわけではないから、この設定が原作通りなのか、この世界線特有のバグなのかは正直わからない。
コーヴァスという名はファンタビで出てきたような気がしないでもないが……正直うろ覚えでしかない。
そもそも祖父のコーヴァスは俺が生まれる前にすでに死んでいるし、なんなら俺の母はレストレンジ家の狂信的なやり方に嫌気がさして実家との縁を完全に切っている。
だが、客観的な事実として俺の祖父が元・死喰い人の大幹部だったというのは紛れもない本当のことだ。
そして、ドラ子の父であるルシウス・マルフォイもまた元・死喰い人でありながら、現在は魔法省に取り入って自分は脅されていただけだと潔白を主張している微妙な立場にある。
そんなマルフォイ家の跡取り娘であり、スネイプ自身がルシウスから頼まれて目をかけているドラ子のすぐ隣に、一年生とは思えない高度な魔法を操る「レストレンジの孫」がピタリと張り付いているのだ。
ダンブルドア陣営の二重スパイとして闇の勢力の復活を警戒しているスネイプからすれば、万が一の繋がりから俺を「闇の陣営がマルフォイ家を再び取り込むために送り込んだ工作員ではないか」と疑うのは、まあ無理もない話だったのである。
なるほどな……。そういう見方をされてたわけか。
俺はコンマ数秒のうちに、頭の中で今後のチャートを高速で組み立てた。
おそらく、ここで俺が曖昧に濁したり、あるいはイエスと受け取れるような態度を取ったりした場合、スネイプ教授は自身も「元・死喰い人」であるという匂わせをしつつ、俺の背後にいる勢力を探るために俺を泳がせ、いいように利用してくると思われる。
もし俺が闇の陣営内側崩壊RTAでもかますつもりなら、ここで悪ぶってスネイプを騙すルートもありっちゃありなのかもしれない。
だが――俺は自分の力をそこまで過信していない。
いくら杖なし魔法が使えるとはいえ、相手は『分霊箱』で不死身になっているヴォっさんだ。あんな化け物に真正面から闇の組織の内部抗争を挑んで勝てるとは到底思えないし、何より味方であるはずのスネイプ先生と腹の探り合いをして消耗するのはアホらしい。
ってことは、まあ……ここで身の潔白を証明しておくしかないか。どうせこの人、最終的には俺たちと同じハリーとドラ子を守る味方なんだしな。
そう決断した瞬間。
俺は椅子に座ったまま、懐から素早く杖を引き抜き、スネイプ教授の指先に挟まれた小瓶に向けて鋭く振った。
「『アクシオ』!!」
シュバッ! とスネイプの手から小瓶が宙を飛んで離れ、俺の左手の中へと吸い込まれるように収まった。
「貴様、何をする気だ?」
まさか一年生が自分の手元から直接アイテムを奪い取るとは思わなかったのだろう。スネイプ教授が驚愕に目を見開き、反射的に自身の黒い杖を引き抜いて俺に突きつける。
だが俺は、構えられた杖を完全に尻目に、奪い取った小瓶のコルク栓を親指で弾き飛ばすなり――中に入っていた無色透明の液体を、迷うことなく一息でグイッと飲み干した。
「……ッ、ゴクン。――ぷはぁ!」
空になった小瓶を机の上にコトンと置く。
喉の奥を通り抜けた液体が、頭の中心をふわっと麻痺させるような独特の感覚をもたらすのを感じながら、俺は椅子から立ち上がり、目を剥いて固まっているスネイプ教授の瞳を真っ直ぐに見据えて、腹の底から声を張り上げた。
「――俺は、闇の陣営との繋がりなんて一切ありません!! 母もレストレンジ家とはとっくに絶縁しています! そして、俺がドラ子……ドラセナ・マルフォイに近づいて隣にいる理由はただ一つ――あいつを、誰よりも幸せにしたいからです!!!」
静まり返った地下の研究室に、俺の全力の宣言がビリビリと反響した。
原作の悲劇を起こさせず、あの歪んだ純血主義から彼女を救い出し、胸を張って笑える幸せな人生を送らせる。それこそが、この世界に転生した俺の偽りなき夢であり、最大の目標だ。
今俺が飲み干したこの液体が、本物の真実薬であるかどうかなんて、実はそこまで関係ない。
スネイプ教授が「真実薬ではないか」とブラフをかけて渡してきた怪しげな薬を、俺が自らの意志で奪い取って飲み干し、その上でこの言葉を叫んだ――その一連の行動の覚悟こそが、何よりの証明になり得るはずだからだ。
「…………」
スネイプ教授は、杖を構えたまま完全に押し黙っていた。
「幸せにしたいからです!」という、およそ闇の工作員とは程遠い、あまりにも直球すぎるプロポーズめいた絶叫を真正面から食らったせいで、あの冷静沈着な教授の思考回路が一瞬ショートしたように見えた。
数秒間の気まずい沈黙のあと、スネイプは大きく呆れたように息を吐き出すと、杖をしまい、懐からもう一つの別の小瓶を取り出して俺の方へと無造作に投げ渡した。
「……ふん。貴様はもう少し、出所の知れぬ魔法薬を口にする危険性について学ぶべきだな。それを飲んでおけ」
俺は飛んできた小瓶をキャッチした。どうやら、これは真実薬の効果を打ち消す『解毒薬』らしい。
……ってことは今俺が飲んだやつ、ハッタリじゃなくて、マジで本物の真実薬だったわけ!? 十一歳相手にガチの劇薬を持ち出すなよこの先生!!
さすがに背筋がヒヤッとしたが、まあいい。
俺は手の中の解毒薬の栓を抜きつつ、せっかく身の潔白を証明するチャンスなのだからと、少し余裕を見せてスネイプ教授に笑いかけた。
「あ〜、なるほど、本当に真実薬だったんですね。……でしたら教授、この解毒薬を飲む前の今のうちに、俺に何か聞いておきたいことはありますか? 変に疑われたままというのもお互いアレですから、何でも答えますよ」
真実薬という薬は、あくまで「自白を強要させる」という効果の魔法薬だ。今のうちに疑いを晴らすには良い機会だ。
すると、スネイプ教授は黒曜石のような瞳を細め、「ふむ」と低く呟いて俺を見た。
「……よかろう。ならば最後に一つだけ聞いておく。二年前のブラック家の夜会以来、純血貴族の間で流れていた眉唾な噂だと思っていたのだがな……」
スネイプの薄い唇が、わずかに弧を描く。
「フォーリー。貴様、『杖なし魔法』を自在に使えるというのは――真実か?」
――あっ。
やばい、それ聞かれるのはわりかしマズイやつだ。
俺は反射的に口をギュッと結んで閉口しようとした。
――だが、その瞬間。俺の頭の中で真実薬の強制力がガツンと働き、俺の意思に反して、俺の口が勝手にパカッと開いたのである。
「はい、真実です……って、あ、やっべ」
俺は自分の口を両手で覆ったが、もう手遅れだった。
目の前のスネイプ教授は、俺の間抜けな自白を聞いて、これまで見たこともないほど邪悪で楽しそうな笑みを――ニヤリ、と浮かべた。
「……ほう。そうか、そうか。やはり昨日のトロールの撃退といい、先日の飛行訓練での不可解な玉の動きも、貴様の仕業というわけか」
うわあああああっ、完全に墓穴掘ってもうた!!
俺は白目をむきながら、手にしていた解毒薬を一秒で喉の奥へと流し込んだ。ゴクゴクッ! と飲み干すと、頭にかかっていた靄がスッと晴れて口の制御権が戻ってくる。
「……最後に詰めを誤るとは、迂闊だな、フォーリー」
「い、いや、今の質問はさすがに意地悪すぎますよ、教授……!」
「ふっ。自分から『何でも聞いてくれ』と粋がったのは貴様だろう」
スネイプ教授は鼻で笑うと、デスクの方へと背を向け、手で「あっちへ行け」と払うような仕草をした。
「話は以上だ、もう結構。……もっとも、貴様がマルフォイ家の娘に対して抱いているその暑苦しいほどの執着が本物であることだけは、嫌というほど理解できた。せいぜい、彼女の盾として役に立つことだな。出ていけ」
「……はーい、失礼しましたっと」
俺は肩を落としてトボトボと研究室の扉を出ると、冷たい廊下の壁にもたれかかって大きく息を吐いた。
やれやれ……ダンブルドアに隠しておきたかった切り札の一つが、まさかこんな形でバレてしまうとはな。
だが、歩き出しながら冷静に考えてみれば――まだバレた相手がスネイプ先生で良かったのかもしれない。
どのみち、原作で悲惨な最期を遂げるセブルス・スネイプという男もまた、俺が最終的に救済してやりたい対象の一人なのだ。彼に俺が「闇の陣営のスパイではない」と完全に信用させ、なおかつ俺の本当の実力をある程度理解させて『いざという時に使える優秀な駒』くらいに思わせておくのは、今後の立ち回りにおいて決して悪くはないだろう。
はぁ、やれやれと俺はため息を吐いた。
☆☆☆
『――俺は、闇の陣営との繋がりなんて一切ありません!! 母もレストレンジ家とはとっくに絶縁しています! そして、俺がドラ子……ドラセナ・マルフォイに近づいて隣にいる理由はただ一つ――あいつを、誰よりも幸せにしたいからです!!!』
「ふぇっ!?!?」
憂いげなレオンの表情を見て心配になったドラセナは、足音を立てずに彼の後をつけていた。
扉にぴったりと耳をつけて話を聞いた彼女は、その叫び声を聞いて顔を真っ赤にしてその場から逃げるように立ち去ったのだった。
いくら低評価爆撃を食らってもサブタイで遊ぶのをやめない。
今話は描き下ろし多めですた。