ジェネシス・ガーデン~異世界に行けるようになったおっさんは現実世界でカードゲームを普及する~ 作:禍津神ROSS
毎回だと画像容量オーバー確実なので御勘弁を。
なお「ジェネシス・ガーデン」でネットで検索するとイラスト同じだけど微妙に違うカードゲーム出てきますが、それも私のです。
10年以上アップデートしながらやってます。
使用している画像は過去に様々なイラストレーター様に依頼して描いてもらいました。
ただ一部のイラストは生成AIの画像を使用しています。
手持ちのイラストレーター様の画像尽きたら生成AIばっかりになると思います。
画像の残弾?あと250枚はイラストレーター様作です。
車をゆっくりと駐車スペースに収める。
(さて、そろそろ本気で次の仕事を探さないとな)
エンジンを切りキーを引き抜いて扉を開ける。
(もうすぐ40歳か。まさか、この歳になって無職になるとは思わなかったな)
腰を痛めたことをきっかけに仕事を辞めた。無理をしてさらに身体を壊すよりはマシだ
だったが、まだ本調子ではなく貯金を切り崩して生活している。
(履歴書を書かないと…職歴はともかく趣味と特技の欄はどうするかな)
これといった趣味はカードゲームくらいか。特技?チャンネル登録数100人もいかな
い配信活動を書いても大丈夫なのだろうか?
(カードゲームが趣味っていうとガキとか幼稚とか言われるんだよなぁ)
考えていても仕方がない。気分転換も兼ねて、いつもの喫茶店でコーヒーでも飲もう。
収入が無いのにコーヒーは飲みに来てしまう自分の理性の弱さはどうしたものか…
「ん?カードか」
駐車場の真ん中に1枚のカードが落ちているのが目に入った。裏面が上になっているの
で何のカードなのかは分からない。
しゃがみ込んで拾い上げる。
(知らないカードゲームのカードでもこういうのを見るとつい拾っちゃうんだよな)
「ジェネシス・ガーデン?知らないカードゲームだな。最近出たやつか?」
今度は表面を確認してみる。
何も描かれていなかった。イラストどころか、文字も数字もない。説明文や能力値らし
きものも一切見当たらない。
ただ、真っ白だった。
「印刷ミスか?それともイベント用のカードかなんかか?」
角度を変えて眺めてみる。透かしてみても何かが浮かび上がる様子はない。
「カードゲームに興味があるのですか?」
「うわっ!?」
突然、背後から声を掛けられた。
慌てて振り返ると、想定したより下の方に女の子がいた。
長い金髪に赤い瞳。黒を基調とした服装。木製の車椅子という珍しい物に座っている。
見たところまだ幼い少女だ。しかも…かなり可愛い。
周囲を見回してみるが、少女の保護者らしき人物は見当たらない。
「いや興味があるというか。落ちてると可哀想だなって思って、つい拾っちゃうんだよ」
「そうですか」
少女は穏やかに微笑んだ。
「なら、その子も貴方に拾われて幸せですね」
「その子…あっああそうだな」
「面白そうですね」
「え?」
少女は微笑んだまま、こちらへ近づいてくる。
「あの、何がですか?」
「それは、すぐに分かりますよ」
「いや、ちょっと…」
少女の手が伸びてきた。俺の身体にそっと触れる。
「では、良い戦争ライフを」
次の瞬間、景色が歪んでいった。
―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……は?」
我に返ると…目の前に広がっていたのはどこまでも続く緑だった。頭上には木々の枝葉
が幾重にも重なり、ところどころから差し込む陽光が地面を照らしている。周囲からは鳥
の鳴き声や、風に揺れる葉の音が聞こえてきた。
「…え、え?ええ?」
周囲を見渡しても俺の車は無い。喫茶店の建物も無い。
どう見ても森の中に立っていた。
「いや、待て待て待て。おかしいだろ」
つい数秒前まで喫茶店の駐車場にいたはずだ。
車を降りて、落ちていたカードを拾って、車椅子に乗った金髪の少女と話をして…
(夢ってわけじゃないよな?)
頬をつねってみる。痛い。
(まさか異世界転移?)
いやもうすぐ40にもなろうというのに何を考えているんだ俺は。そんなもの漫画やア
ニメ、デジタル小説の中の話だろう。
(でも駐車場の近くにこんな森はなかったよな)
「…俺はいつからタイトルがやたら長い小説の主人公になったんだ?」
よし、まずは落ち着こう。
異世界転移だと仮定する。状況を整理していく。
森の中。見覚えのない場所。人のいる痕跡無し。食料と水、無し。あるのは財布と自動
車の鍵と自宅の鍵とスマートフォンくらいだ。
ポケットを探ってスマホを取り出し画面を点灯する。
圏外だった。
「駄目だな」
サバイバルの知識なんてうろ覚えの漫画知識程度。時計の針をどうすれば方角分かるん
だっけ?というレベル。そして時計は持っていない。
植物の見分け方も分からない。下手に果物とかあっても毒あるのか判別困難。
野生動物に遭遇したら死んだと思った方がいい。
森の中を歩き回って出口を探すのは…止めた方がいい。下手に動き回っても体力を消耗
するだけだ。
だからといってここに留まっていても安全とは限らない。動いてようが止まってようが
野生動物に襲われる可能性がある。
ならば、どうするべきか。
「…助けを呼ぶかぁ」
誰かが近くにいるかもしれない。仮に異世界なら現地の人の協力は必須だ。
野生動物や敵対的な人間ないしファンタジー的モンスターは考えないものとする。
「すいませ~ん!遭難しましたー!誰か助けてくださーい!」
俺の声に鳥が驚いて飛び立つ音がする。
「誰もいないか?叫ぶのも疲れるからすぐに反応欲しいところなんだが…」
「あっあの!声を出さないでください」
背後からガサっと草を踏む音と女性を思わせる高い声がした。
綺麗な声だ。動画配信者になったら絶対売れるぞ!
なんて思いながら振り返ると…美少女が立っていた。
背は小柄。腰のあたりまで伸びた美しい黒髪。落ち着いた茶色の瞳。白を基調に金色の
装飾をあしらった神聖な雰囲気のあるドレス。胸部は谷間が露わになって強調されている。
これは、Dカップは確実にある!
そして小柄黒髪Dカップ美少女の背中には、小さな白い翼が浮かび上がっていた。
「…天使?」
おいおいこんなエロ可愛い天使様が第一村人なんてよ。異世界のお顔へのハードル爆上
げになっちまうだろ。
「すいません。俺遭難しまして。ここはどこだか分かりますか?」
「そうなんですか?見ての通りここは緑の大陸です。中央部から若干東ですね」
「みどりのたいりく?」
「ご存じないという事はもしかして…理世から来た理族ですか?」
「りかい?りぞく?」
止めたまえ、知らない単語を次々に浴びせてくるのは。
「いやあの俺、金髪の車椅子に乗った女の子と出会ったと思ったら急にここにいて」
「ああやっぱり。来訪者さんなのですね」
少女はほっとしたように胸に手を当てた。
あの金髪の車椅子の子について知っているようだ。
詳しい話を聞こうと言葉を考えていると…
「見つけたぞ!これ以上逃げるなら尻撫でるだけじゃ済まさねぇぞ!」
森の奥から野太い声が響いた。
「追いつかれたっ!」
少女の表情が一瞬で強張った。
そして木々の間から1人の大男が姿を現した。
「やっと見つけたぞ!」
全身を覆う筋肉質な体躯。人間のものとは明らかに違う、狼の頭。
鋭い牙が口元から覗き、黄色がかった眼光がこちらを睨みつけてくる。
「こっ今度は狼男かよ…!?」
「ん、なんだお前は?」
狼男が黄色い眼でじろりとこちらを見据える。
怖い。今にも襲い掛かってきそうな見た目だ。
だが数秒ほど俺の顔を眺めた後、男は何かに気づいたように目を丸くした。
「なんだ来訪者か」
男は納得したように頷くと先ほどまでの警戒心をすっかり解いてしまった。
「悪かったな驚かせて。俺の名前はゲミュート。所属はライブラリだ」
「あ、どうも」
思わず頭を下げてしまった。
見た目は恐ろしいのに、意外と話が通じそうだ。
「あっ挨拶がまだでした。私はポエナと申します。所属はオリンピアです」
「…って!今はそんな悠長なことを言ってる場合じゃねえ!」
ゲミュートはポエナへ視線を戻した。
「いい加減大人しく戦え。これ以上逃げ回って時間を稼いでも恥を掻くのはお前達だぞ」
「…そっそういうわけには」
ポエナが俺の背後へ半歩下がる。
「あの、ちょっと待ってください!」
俺は慌てて2人の間に割って入った。
「お2人はその、どういうご関係で?」
「どういう関係も何も敵同士だ」
ゲミュートはあっさりと言った。
「俺とこいつは別々の勢力に所属している。今は戦争中でな」
「…戦争?」
「そうだ」
いやいやいや待ってくれ。異世界に来ただけでも大変なのにいきなり戦争に巻き込まれ
るとか聞いていない。
「そんなに慌てるなって。安心しろ。来訪者が想像しているようなもんじゃねぇ。カード
ゲームの戦争だ」
「カードゲーム?」
俺は思わず聞き返した。
「俺たちはカードゲームを使って戦争をしている。お前も参加しに来たんだろ?」
「いや、違いますけど」
「そうなのか?カードを持っているのに?」
ゲミュートが不思議そうに首を傾げる。
俺は手元のカードを見た。
「あ、いや。さっき拾ったばかりで」
「へえ…カードを、拾ったのか」
ゲミュートは興味深そうにカードを眺めたが、それ以上は追及してこなかった。
「まあいい。知らないなら教えてやるよ」
ゲミュートは腕を組み、少し考えながら口にしていく。
「まずは…えっと、俺たちが暮らしている世界は虚無ってものを消費…いや変換するため
に存在している…って話だ」
「虚無?」
「最も重い?電子が多いだっけ?いや素粒子だったか?エネルギー…?いやまあなんかそ
ういう類のもんだ。専門家じゃねえから詳しいことは知らん。お前分かるか?」
「すいません。私も詳しくは…」
「まあとにかくその虚無を別の原子?素粒子?に変換する。その為に世界は存在している
わけだ。昔は理族も術式を使って変換を行っていたんだがな。今の理族は術式の知識が失
なわれちまってな。あっ術式っていうのはえっと…魔法?とかいうんだっけ理界では。術
式使うと世界のバランス的に良い!くらいに覚えておいてくれ。以前はガチモンの戦争で
変換してたんだが、今は別の方法で変換を行っている」
「それがカードゲームによる戦争ってわけか。なんで戦争という方式でやってるんです?」
「昔からの名残さ。以前は戦争で領地を奪い合っていたんだ。100年後に1番広い領地
を持っていた勢力が勝者となって政治や経済で優遇される仕組みだ。まあ、王姫連中から
すれば愛しの創世王様を自分の領地へ招致する為だがな」
(なんだか、思っていたより大事な話になってきたな)
「あの、ちなみになんですが…俺って元の世界に帰れるんですか?」
「大丈夫ですよ。来訪者さんはあんまり長く聖域にはいられないんです。1時間くらいで
理界へ戻れますよ。それにいつでもこちらへ来ることもできます」
「そうなんですか?よかったぁ…」
思わず胸を撫で下ろした。あと50分くらいしたら戻れるなら随分余裕でいられる。
「話を戻すぞ。俺の陣営とこいつの陣営が今戦ってるんだ。こいつの陣営が残っているの
がこいつだけ。こいつを倒せば領地が手に入る。なのに、こいつが援軍が来るまで時間を
稼ぐつもりで逃げ回ってるんだよ」
「そうなんですか?」
「はい、そうです。あと半日くらいで到着すると聞いています」
「敵前逃亡はアウト寄りのグレーだ。これを許すと大人数のところが逃げ回って領地を奪
われないようにしてくるからな。こいつも俺達とのいざこざが終わったら中央の管理側の
連中から厳罰が下される可能性が高い」
「…でも私は、オリンピアの為にも…それに、負けたら…!」
ポエナが涙目になりながら顔を赤くして俯いている。
(所属している陣営がそんなに大事なんだな…)
「あの、ポエナさん」
「…はい、なんでしょう?」
「どうしてそこまで逃げているんですか?援軍が来るのをそこまで待たないといけないん
ですか?逃げるのって良くない事っぽいんですよね?なら勝負した方が良くないですか?
もし負けても援軍が来て勝てばいいわけですし」
「それは…」
ポエナは、ちらりとゲミュートを見た。
「…負けたら、エッチなコトをされるんです」
おっと、流れが変わったぞ。
「おいおい、誤解を招く言い方をするなよ」
ゲミュートが呆れたように言った。
「負けた奴は再登録して復帰しないと戦闘を行えない。再登録そのものに金が掛かるし街
でしかできないから街を手に入れるか支配してる奴の許可を得ないといけない。許可を得
るならまた金が掛かる。勝った奴は負けた奴の生活を保障しないといけないんだ。ここま
ではいいな?」
「はい…」
「んで、その金お前らが払えるのか?下手すれば戦争終了までの約100年間もだ。誰か
がその金を立て替えたとしても借金になる。借金払えないならお前が言うエッチなコトよ
りもっと過激なコトをする店で働く事になるわけだ。そんな金、お前払えるのか?」
「…払えません」
「俺も借金背負わせたくはないんだよ。だからといってタダで生活させてやる事もできな
い。なら、俺らに役得ってもんが無いとやっていけねぇよなぁ!」
えっと、つまり…
負けたらカードゲーム戦争中だけど戦えなくなる。
戦えるようにする為には金払って再登録しないといけない。
再登録は特定の場所でしかできない。そこを手に入れるか所有している奴に金払って再
登録する許可を貰わないといけない。
戦えなくなった人、ポエナを勝ったゲミュートは生活の保障をしないといけない。
これ全部に金が掛かる。払えないなら働け=エッチなコトされても文句を言うな。
というわけか。
「質問!エッチなコトをするのはこの戦争の…管理者?運営?まあそういう上の人達は認
めているんすか?」
「そこはちゃんと線引きがある。具体的には…」
ゲミュートがアウトな行為について説明してくれた。
まあ、相手の意志に関係無く子供できそうな事はするな。それを前提に脅すな、騙すな、
踏み躙るな…といったところか。
「というかなぁ…この戦争別に強制参加じゃないぞ。こういった事柄についてちゃんと説
明回を100回はやってたし、同意書にデカデカと書いてある。チェック方式じゃなくて
自分で書いた文章での同意をしてたしな。ほれ、これが俺の同意書のコピーだ」
どこからか取り出した20枚近くある紙を渡される。
ざっと見ていくと、そういう行為に関する項目があった。そこには明確にリュカオンが
内容を読んで同意した事が3行ほどの文章で書かれていた。
「…ポエナさん、この同意書には?」
「…ちゃんと読んだ上で書きました」
「つまり負けてエッチなコトされるのに同意してんのに今になって拒否してるんだよ。そ
れはさすがにマナーとかルールとしてダメだろう?」
ダメだ。反論できねぇ。敵前逃亡+同意書違反を部外者の俺がどう言い返せというのか。
「別に負け確なわけじゃないだろ。お前が俺とナイシエに勝てばいいんだしな」
「魔族の参謀長さんと戦争参加回数4回のベテランであるゲミュートさん相手に今回が初
参戦の私じゃ勝ち目ありませんですぅ…」
戦って勝てば助かるのに、戦う気も無い。これは庇い切れないな。
「そうだ!来訪者さんよぉ、どうせなら俺らライブラリに所属しないか?俺と一緒に大暴
れしようぜ!そしたら…こいつはお前の専属にしてやるからよ」
「せっ専属って、なんの…?」
「みなまで言うなって…分かってるんだろ?」
この話の流れだ。大体は理解できている。
(つまりポエナさんが生活する為に、エッチなコトを…!)
確かにポエナは可愛い。可愛いしおっぱい大きいしさっきから良い匂いもするしおっぱ
い大きいし美少女だし良い匂いするしおっぱいは大きい!
「素直になれよぉ。俺の仲間になってそいつを引き渡せば楽しいコトできるぜぇ~?」
「クソ、なんて魅力的な提案だ!」
もうすぐ40歳童貞としてはこんな美少女の身体をお触りできる機会なんてむしろ俺が
お金払わないと永遠に無い!
いっそ、ゲミュートさんと一緒になって面白楽しくエンジョイ!時間が来たら元の世界
にエスケープ!というのも悪くないかもしれない…
「じゃっじゃあ!私の味方をしてくださるなら、その…えと、なんというか…」
ポエナが、そっと俺の手を握った。
「わっ私に味方してくれたら、そのっえっと…いっ一緒に添い寝しましゅ!」
「…添い寝?」
「はい…っ!」
言い終えた途端、ポエナの顔が真っ赤になった。自分で言っておきながら恥ずかしさに
耐えられなくなったらしい。
「あの今のはその…わっ私、頑張りますから…売らないでください…っ!」
なるほど。ポエナの味方をすれば添い寝だけ。ゲミュートの味方をすればそれ以上を毎
日できる。
やれやれ、こんなの考えるまでもないな。
俺はゲミュートへと対峙する。
「残念だったなゲミュート!女性に卑猥な行為をしようとするあんたの味方はできない!」
「添い寝でなびくな!こっちに味方すればもっと凄いこともできるんだぞ!」
「何を言っている?よく考えたまえ…恥ずかしがりながらも自分から添い寝してくれるシ
チュを、お前は用意できるのかっ!」
「ぐっぐぅぅぅ…っ!?」
ゲミュートが確信を突かれた事で激しく動揺している。
だがこの結論は当然だ。
ゲミュートに味方すれば好きにできる。だがそこには憎悪とか嫌悪とか、そういう感情
が混ざるに決まっている。その上で好き勝手する性癖持ちの方もおられるだろう。かくい
う俺も、そういうシチュの同人誌は性癖である。
だが残念かな、俺はもうすぐ40歳のおっさんだ。
そんなんリアルで楽しむ心身の余裕がもう無いのじゃよ!
恥ずかしがりながらも俺の為に必死に添い寝してくれる美少女を愛でる方がいい。
あとぶっちゃけ嫌われながらエッチなコトするんなら金払って最後までできて後腐れ無
い方がいい。いやまだ俺童貞なんですけど。
(腰も痛めてるから日々に癒しが欲しいんだよ!あと俺のこっちでの活動費とか後から請
求されたら払えそうに無いし)
「確かにな。なるほど、これが純愛か」
「どこがですか!?なんだか明らかにかけ離れた事考えてますよ絶対!」
ポエナさんが顔を真っ赤にして突っ込んだ。
そうだ!女の子の身体に触れるからと悪に加担する行為を正当化するのはよくない!
決して、添い寝に釣られたわけではない!
「じゃあ来訪者はそっちの味方って事で、どうするつもりだ?割って入ったのに何もしな
いわけじゃないだろ?俺と敵対する事になるんだからな」
そう言われると、俺にできそうな事は無い。
相手は俺より遥かに強そうだ。普通に殴り合ったら秒で負ける気がする。
お金で解決するにしても、財布には2000円と小銭しかない。くそ!クレジットのポ
イント貯める為に現金なんて使わないから!
「口先だけで味方になると言ったところで何もできねえんじゃ意味ねえぞ」
俺には戦う力がない。異世界に来たからといって、急に強くなったわけでもない。魔法
が使えるようになったわけでも特殊な能力を手に入れたわけでもない。
「だけど、この世界のルールは教えてもらいました」
俺は手元のカードをジッと見つめて決意を固める。
「カードゲームで戦争してるんでしょ。なら、こいつで決めましょう」
ゲミュートが目を見開いた。ポエナさんも驚いたように俺を見つめている。
「本気か?いや、それ以前の問題だ。カードは持っているのか?」
「…カードは、拾った」
手に持っていたカードをゲミュートへ見せつけた。
先ほどまで何も描かれていなかったはずの表面に1人の人物の姿が浮かび上がっていた。
「っくく…はーはっはっはっはっ!!カードを拾っただと!たった1枚で挑んでくるなん
てよぉ!」
「笑いすぎじゃないですか?」
「悪い悪い!だが本気でそんなことを言い出すとは思わなかったもんでな!」
ゲミュートは腹を抱えて笑い続けた。
そりゃ笑うよな。俺だって逆の立場なら笑っているかもしれない。
けど俺にできる抵抗なんてこれくらいしかない。
「いいだろう。お前の挑戦、受けてやる」
ゲミュートはすっと笑うのをやめた。真剣な顔で俺を見据える。
「男が口にした勝負の申し込みだ。断る理由はねえ」
「待ってくださいゲミュートさん!来訪者さんはルールも知らない初心者なんですよ!?」
「んなもんは分かっている」
「ゲミュートさんはこれまで4回も戦争に参加しているベテランじゃないですか!そんな
相手と勝負なんて、ゲミュートさんの名を落とすだけじゃないですか!」
「それがどうした。男が自分から言いだしたんだ。組み取ってやるのも男ってもんだろ。
だが、勝負するなら対等の条件にする。格下を嬲る趣味はねえ。そうだなぁ…ビギナーズ
ルール1-2-0でやるぞ。お前が横からアドバイスするのも許可してやる。カードは…
お前初期配布のカード持ってるだろ?貸してやれ」
ビギナーズ…初心者用のルールってところか。
「…いいのですか?」
「構わねえさ。初心者がぶっつけ本番でやったって勝負になりゃしねぇからな」
「…来訪者さん。後でルールは説明します。ほとんど同じ条件での対戦です。カードは私
のを貸します。それでいいですか?正直、これでも勝ち目はかなり低いです」
「…ポエナさんがサポートしてくれるなら、素人の俺でもチャンスはあります」
「っぅ…そう言われると、私の責任が重大じゃないですかぁ!」
ポエナさんがしばらく俺を見つめてくる。
顔が良い。やっぱりとんでもなく可愛い。あとチラチラ谷間が視界に入る。股間に悪い。
「…分かりました。あなたを信じます。本陣を組み立てましょう」
「決まったな。俺の方でこの試合の賭け内容と契約について申請出しておくから早めに本
陣を作っておいてくれ」
こうして俺の異世界での初めてのカードゲームが、始まろうとしていた。
―――【本陣の作り方】――――――――――――――――――――――――――――
「まずは、本陣を組み立てましょう」
本陣?
「40枚のカードを1つの束にします。それを本陣と呼びます。通常では同じ名前のカー
ドは5枚まで入れられます」
5枚も!?俺の知ってるカードゲームだと最大4枚くらいだったぞ!?
…某分厚い月刊誌の漫画作品大集合のカードゲームだと無限に入れられるカードあった
けど。
「今回はビギナーズルール1-2-0なので、使えるカードはここにある28種類だけに
なります。同じ名前のカードは2枚までです」
ポエナさんが何も無い場所に手を伸ばすと手が消えた。渦のようなものが空中にあり、
そこに手を差し込んでいるようだ。
異次元ポケット!?こう、別空間に物を収容しておく的な!?
「収容できるのはカードだけですけどね。これが使える28種類です」
「カードの項目について説明します」
〔平原のダークエルフ〕のカードを手に取ってポエナさんの説明に耳を傾ける。
「軍勢(レギオン)。カードの体力だと今は思ってください。高いほど場に残りやすいで
すが、敗北を早める危険性もあります」
「速度(スピード)。カードの攻撃の順番がこれで決まります。高いほど優先的に攻撃が
できると考えてください。なるべく同じ速度のカードで本陣を組むと戦いやすくなります」
「侵攻(アタック)。カッコで覆われてない方を侵攻と呼びます。カッコで覆われている
のは非公式ですが破壊値(ブレイク)と呼んでいます。侵攻が高いほど相手のカードを攻
撃で破壊しやすくなります。破壊値は軍勢、カードの体力をどれだけ減らせるかを表して
います」
「防衛(ガード)。相手からの攻撃を受けると防衛が減少します。0になるとそのカード
は破壊されて体力が減ります」
「効果(エフェクト)。【ルール‐装飾】はあとでドレスアップタイムの説明をする時に
教えますので省略します。今回はビギナーズルール1なので効果を持っていないカードが
24種類あります。効果持ちはコレロ、サキュバス、ウインタテリウム、ウィルオウィス
プの4種類です」
「この4種類は軍勢、カードの体力になったら効果が適用されます。詳しい事は使いなが
ら教えていきます。とりあえずこの4種類は全部2枚ずつ本陣に採用して問題ありません」
本陣に入れるカード8枚はまず決まった。次はどういった基準で選んでいくべきか…
「採用の基準のひとつが速度です。速度の高いカードは相手の攻撃より先に攻撃を行えて
先んじて破壊したりできますが防衛が低いのですぐ破壊されます」
「逆に速度が低いカードは攻撃順番が最後になるので相手の攻撃をしのがなければなりま
せんが、その分能力は高いです」
「そして同じ速度のカードが場に複数あればそれらの攻撃を合体攻撃にできます」
「合体攻撃すれば侵攻を合計できるので防衛が高いカードを突破できます」
「後は軍勢も大事です。本陣が0枚になると負けてしまいますので軍勢が多いカードばか
り使っていると一気に本陣が無くなってしまいます。序盤・中盤・終盤を意識してどれだ
け採用するかを決めていくんです」
では速度をなるべく同じカードを採用して、全体的にバランスよく採用しておくといい
わけか…
「今回はビギナーズルール1-2なので偏った構築にはできません。どの速度を優先的に
採用しますか?」
そう言われてもなぁ…待てよ。このカード、使えないだろうか?
俺は駐車場で拾ったカードをポエナさんに見せた。
「これは、継承個体(オリジン)ですか?しかもこれは…見た事ありません」
継承個体?
「非常に強力なカードで通常のカードとは扱いが少し違うんです」
「継承個体は通常であれば同じ名前のカードは本陣に1枚だけ、違う名前の継承個体でも
5種類までしか入れられません。いうならばその本陣の切り札と言えるものです」
「ただ今回はビギナーズルール1-2-0なので継承個体は使用できません」
なるほど。1-2-0は1(使用できるカードの種類)ー2(同じ名前のカードを何枚
まで使用できるか)ー0(継承個体の枚数)という意味か。
「ゲミュートさん!」
ポエナさんが離れた場所にいたゲミュートへ声を掛けた。
「どうした?ルールの確認か?」
「来訪者さんが継承個体を持っていました。なのでビギナーズルール1-2-1にルール
を変更しませんか!」
「ああ、そういえば来訪者は継承個体を持っているんだったな。いいぞ。それで構わねえ」
「ありがとうございます…あ!すっすみません!勝手に決めてしまって…」
大丈夫ですよ。俺もこいつを使いたかったですから。
「そう言っていただけると助かります」
ポエナさんはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「ではこの継承個体を中心に本陣を組んでいきましょう」
方向性は決まり、数分後には本陣が完成した!
―――【ゲーム開始前にやること】―――――――――――――――――――――――
「準備はできたな」
ゲミュートが俺から少し距離を取った場所に立っている。
俺の後ろにはポエナさんが立ち、心配そうにこちらを見つめていた。
「さぁて…なあ来訪者さんよぉ!女に良いところを見せたいからってこの俺に挑んでくる
とはなぁ!怖いもの知らずにも程があるぜ!」
「は?なんだ急に?」
いきなり何を言い出すんだ、この人は。急に挑発?してきたぞ。
「開始前には軽く交渉という形で挑発し合うんです。交渉をしたけれど言葉では分かり合
えなかった。だから戦うしかない、という流れにするんです」
困惑していると背後からポエナさんが小声で教えてくれた。
しかし…囁き声がなんともエッチだ。ASMRが欲しい。
「こうやってやる気を高めるわけか…!」
漫画やアニメでも似たような場面を何度も見たことがある。対戦前や対戦中に挑発しあい、
視聴者の興味を深めていく。
正直ちょっと憧れていた。しかしマナーがあるので友人同士で、それも最低限しかでき
なかった。
本当はもっと罵倒しあってもいいと思っている。お互いがそれを演出だと思っていれば
エンターテイメントとなって周囲も盛り上がるのにと…
「そういうことなら…何言ってやがる!スケベなことばっかり考えているエロ狼がよぉ!
そんなにポエナさんの事が気に入ったんですかぁ~?」
こちとらエンターテイメント系の大会の主催やってたり盛り上げ担当していたんでね。
遠慮しないでいいながらいくらでも煽り散らかしてやりますよ!
「言うじゃねぇかド素人!粋がるのはいいがなぁ…お前の無様に敗北して女を取られる様
が大勢の目に晒されるんだぜ?大恥をかく前に逃げ出した方がまだマシだと俺は思うんだ
がねぇ~!」
「…大勢?この対戦、誰かに見られているんですか?」
「はい。対戦履歴や経緯、駆け内容や特別ルールをボード経由で確認できるんです。第三
者も視れるので暇つぶしじゃ情報収集の為にこの試合を大勢が確認するはずです」
(この世界にもインターネットみたいなものがあるのか)
対戦の観戦だけではなく、掲示板のような機能もあるのだろうか。配信活動もしている
ので興味がそそられる。
どの程度の人数が視聴ないし確認するのだろうか。
収益が発生したりするのだろうか。
対戦内容を評価されたりするのだろうか。
「まあそれは後にして…あんたは分かってないようだから教えてやるぜ!」
ゲミュートを指差す。
「ヒーローは必ず勝つもんだぜ?」
「はっ!ヒーロー気取りか?」
「エッチなコトしようと襲ってくる奴が正義だとでも?」
「ははっちげぇねぇな!いいぜ、英雄志望!その自信がどこまで続くか見せてもらおうじ
ゃねえか!負けそうになってやっぱりゲミュートさんの仲間になりますって言ってももう
遅いぜ!」
…ああ、いいな。こういうのだ。お互いに譲れないものがあって、言葉を交わして…そ
れでも分かり合えないから戦う。カードゲームアニメで何度も見てきた光景だ。
やる気を出して次の言葉を考えていると背後からポエナさんが俺の背中を突いてきた。
「あっそろそろ十分ですね。ゲミュートさん、開始の合図を待ってます」
ゲミュートは腕を組んだまま、こちらをじっと見つめていた。
どうやらこれくらいでいいらしい。
「それじゃあ…」
事前に教えられていた開始の合図を宣言する。
「「交渉決裂だ(ブレイクアウト)!」」
宣言した直後、目の前の空間が淡く輝いた。
何もない空間に半透明の板が現れ、俺の手にあった本陣がその上へと静かに移動した。
「なんだこれは!?」
「これがボードです。机の代わりになってくれるものです。ほかにも色々な機能があって
プレイをサポートしてくれるんです。先ほどの掛け合いはボードを出現させるための合図
でもあったんです」
「あの煽り合い、他にも意味があったんだな…」
「まずがゲームの準備です。最初に4枚引きます」
ポエナさんに促され、俺は本陣からカードを4枚引いた。
(ウインタテリウムが2枚。これは効果のあるカード。ブーリとアスプは効果を持ってい
ない。さて、どう組み立てていくか)
「うーん。こいつは戻すか」
自身の手札を確認していたゲミュートが、手札の1枚を本陣の上に置いた。
するとボード上の本陣が触ってもいないのにシャッフルされていく。
「えっ!?今、自動でシャッフルされた!?」
「あれは引き直しです。引いた4枚の中に今は使わないカードがあるとき、好きな枚数だ
け本陣に戻します。シャッフルをしてから戻した枚数だけ改めて引く事ができるんです。
シャッフルはボードが自動的にやってくれるんです」
「自動シャッフル機能だって!?」
思わず目を輝かせてしまった。
オンラインのカードゲームならともかく紙の方ではシャッフルの操作なんてよく行われ
ている。俺だって慣れたカードだったら多少はどこになるがあるか、漠然と把握できる。
さらにカードを加えたりする不正だって時には行われている。
自動で混ぜてくれるならトラブルや不正行為も減るだろう。
「よし。俺も引き直すか」
手札のウインタテリウム2枚を本陣へ戻す。ボードが再びシャッフルを行い、俺は新た
に2枚カードを引いた。
(サキュバスか。これは本陣に残っていてくれた方がよかったな)
「それじゃあ先攻と後攻を決めようか」
「…センコウ? コウコウ?」
ゲミュートがきょとんとした顔をした。
後ろを見るとポエナさんも不思議そうに首を傾げる。
「えっと、センコーコーコーとは、何のことですか?」
「えっ?」
今度はこちらが困惑する番だった。
「いやあのカードゲームって普通は先攻と後攻を決めるものでは?」
「いや、そのセンコーコーコーがまずなんなのかって話なんだが…」
ゲミュートは腕を組んでしばらく考え込むと、ボードへと話しかけた。
「ヘルプ。質問だ。理界から来た来訪者がセンコーコーコーという言葉を使ったんだが、
これは何のことだ?」
「あれって?」
「ボードのヘルプ機能です。分からないことがあれば調べることができます」
なるほど、そういうのもあるのか!
もしカード効果の処理についても教えてくれるのであればジャッジによる裁定違いとか
が無くなるし即時に判定できる事になる。
(いつも相手に合わせて俺に不利な裁定でいいよって言ってたからなぁ…こういうのがど
このショップにもあると本当に助かるんだがなぁ)
「なるほど…理界はそういう仕組みなのか。面白そうではあるな。だが、俺らが今やって
いるジェネシス・ガーデンには、先攻や後攻という概念は無い」
「え?つまり、同時に進行していくんですか!?」
同時進行型対戦カードゲーム!?そんなの、俺の脳内データに無いぞ!?
いや、ある。おそらくある。タイトル出てこないけど同時進行型はある…と思う。
だが仮に俺の知っているカードゲームで同時進行すれば…絶対に揉める。カード出す順
番とか絶対に言い争いになってリアルファイト確定だ。ジャッジいても殴る自信がある。
「同時に進行できる部分は同時に行います。攻撃の順番などが面倒になりますけど、カー
ドの速度で順番を決めていきますので問題ありませんよ」
(完全に俺の知らないカードゲームだな…面白い。この歳でこんな新しいカードゲームを
異世界でやるなんてな!)
「それじゃあ来訪者の実力、見せてもらおうか!」
―――【第1ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
「「サプライタイム!」」
サプライタイムは手札が5枚になるように本陣からカードを引かなければならない。
今手札は4枚なので1枚本陣から引かないといけない。
仮に手札が2枚なら3枚引く。すでに5枚以上ある場合は引いてはならない。
「次はセットタイムだ」
セットタイムは手札のカードを自分の場である戦域に裏側で置く事ができる。
戦域は中央・右翼・左翼の3ヶ所あり、それぞれに1枚だけ置ける。
すでにカードが置いてあるところには置く事ができない。
俺は手札から3枚のカードを選んで裏側で置いていく。
ゲミュートも同じように3枚のカードを配置していた。
「これでセットタイムは終了だ。次はアドバンスタイム!」
アドバンスタイムはセットタイムで裏側で置いたカードを表側縦向きに変更する。
この裏側から表側縦向きに変更される事を出陣と呼ぶ。
「俺は中央にグリームエルフ、右翼にブーリ、左翼にアスプを出陣させる!」
カードを表に返す。すると本陣の一番上からカードが自動的に表になり、出陣させたカ
ードの下へと潜り込んでいった。
カードは出陣すると軍勢の項目に記載されている数字だけ、本陣の上のカードを表にし
てカードの下に置いていく。
こうして重なったカードは、1番上にあるカードを指揮官(アバター)と呼び、指揮官
の下にあるカードを軍勢(レギオン)と呼ぶ。
「おおっ!?」
思わず声が出た。なんと軍勢になるカードが自動的に捲られてカードの下へと移動して
いる。これも自動で行ってくれているとは…ボード、物凄い便利である。
しかも、それだけではなかった。
俺の正面に無数の光の粒が周囲に現れ始めた。
光の粒はゆっくりと空中を漂いながら、次第に一か所へ集まっていく。
そして光が収まったとき、そこには3人の人型が立っていた。
『初めまして。私が守りますので、下がっていてください』
『ふん、来訪者か。まともな指揮ができるんだろうな』
『あら、今度の来訪者は男の子なので。よろしくね~♪』
カードに描かれた人物が、目の前にいた。絵でも映像でもない。そこに実在している。
グリームエルフが優しい声で話しかけてきた。
ブーリが偉そうな口調で俺を見下している!
アスプが妖艶な笑みを浮かべて俺を値踏みしている!
「すごい、アニメみたいだ…いやアニメよりもすごい!!」
画面越しに、決められた動きしかしていなかったカードのキャラクターが実際に目の前
で動き声を発している。自我が感じられ、本当に生きているように感じられる。
長年カードゲームを遊び、カードゲームアニメのバトルシーンに憧れてきた俺にとって、
夢のような光景だった。
感動していると、向こう側でもゲミュートがカードを表にしていた。
「中央にヤクシニー、右翼にダエーワ、左翼にゴブリンを出陣させる!」
『あらあら、今日はどんなお相手かしら』
『へへ、僕の眼からは逃れられねぇぜ』
『ヒヒっ始めるぜぇ!』
すごい。本当にすごい!完全にアニメの世界に俺はいる!
「次はドレスアップタイムだ。まあ俺はスキップさせてもらうがな」
ドレスアップタイムは手札にあるカードを戦域にいる条件の合う指揮官の上に置く事が
できる。これを装飾(ドレスアップ)と言う。
条件とは特定の名前が含まれているかどうからしい。
これで軍勢を増やしたりしたり、条件が合っている別のカードを指揮官にして効果を使
用したりできるらしい。
「俺もスキップで」
まあ、今は条件に合うカードが手札に無い。
特に何も起こらず、ドレスアップタイムは終了した。
「それじゃあ行くぜ…バトルタイム!」
バトルタイム。指揮官同士を戦わせていく。
攻撃の順番は指揮官の速度の数字が高い順となる。
現在最も速度が高いのは…
「速度3のダエーワでグリームエルフへ攻撃!」
ゲミュートのダエーワが、表側縦向きから表側横向きに変更される。
攻撃が行えるのは表側縦向きの指揮官だけで、横向きにする事で攻撃を行える。
「さらに、ゴブリンで合体攻撃だ!」
左翼のゴブリンも横向きに変更される。
合体攻撃。速度の数字が同じ指揮官の攻撃時に横向きにする事で合体攻撃を行える。
合体攻撃を行うと指揮官の侵攻と破壊値を合計する事ができ、高い防衛を持つ相手の指
揮官を破壊できるようになる。
合体攻撃は条件さえ揃えば何枚でも合体して侵攻と破壊値を合計できる。ただしどれだ
け合体しても狙える指揮官は1枚のみだ。
ダエーワとゴブリンの侵攻を合計した数値は7。俺のグリームエルフの防衛は7。
「同じ数値か」
攻撃する側は侵攻の数字を、攻撃を受けた防御側は防衛の数字を行って戦闘が行われる。
攻撃側の侵攻と防御側の防衛が同じ、または進行が上回っていれば攻撃側の勝利となる。
「おっと、ダエーワの軍勢を見てみな」
「軍勢?」
ダエーワの下に置かれたカードを確認する。その中の1枚が光を放っていた。
「あれは、サキュバス!?」
「そうだ。〔在り日の追憶‐サキュバス〕は軍勢になっている時、指揮官の侵攻を+2す
る効果がある」
表示された数値が変化した。ダエーワとゴブリンの侵攻は、9!
グリームエルフの防衛では、受けきれない…!
『拘束の魔眼!』
ダエーワが叫んだ。
その直後、グリームエルフの周囲に赤い鎖が現れた。鎖は何もない空間から次々と伸び、
グリームエルフの身体に巻き付いていく。
『くっ…!』
グリームエルフが苦悶の声を漏らした。鎖により身動きができなくなったようだ。
…鎖が身体に巻き付いて、ボディラインが強調されている。特に胸が…
『もらったぁ!』
身動きの取れなくなった彼女の背後へ、ゴブリンが回り込んでグリームエルフの後頭部
へ強烈な飛び蹴りを叩き込んだ。
『ガッ…!?』
グリームエルフの身体が大きく揺れた。
直後、その身体は無数の光の粒となって爆散した。
「グリームエルフ!」
思わず声を上げる。
ほんの数秒前まで、確かにそこにいた女性が、光になって消えてしまった。
「攻撃側の勝利です」
ポエナさんが、落ち着いた声で説明してくれる。
「敗北した指揮官の軍勢は、勝利した側の破壊値に応じて冥府へ送られます。相手の破壊
値は合計で3。グリームエルフの軍勢も3なので、3枚とも冥府に送られました。軍勢が
0になると指揮官は戦域に残れず、冥府へ送られます」
「それでグリームエルフが消滅したわけか…」
カードが実体化する様子に夢中になっていた。
だがこれは、本当に戦っているのかもしれない。実体化し、攻撃し、傷つき、敗北すれ
ば消えてしまう。
(…すごい)
怖い。目の前で言葉を発している人型がやられているのを見ているしかできない。
でもそれ以上に…アニメのような迫力ある戦いに魅了されている自分がいた。
「次は速度2だな」
攻撃が終わると攻撃権が別の指揮官に移動する。
攻撃権は表側縦向きで存在する同じ速度の指揮官へ移動する。もし同じ速度の表側縦向
きの指揮官がいなければ速度が低い表側縦向きの指揮官へと移動する。この時、攻撃した
指揮官より速度が高い表側縦向きの指揮官には攻撃権は移動しない。
速度2が攻撃を終えたら、攻撃権は他の速度2の指揮官に移動する。速度2がいなけれ
ば速度1に移動する。速度1もいなければ速度0の指揮官に移動する。速度3の指揮官が
表側縦向きで存在していても、そのバトルタイム中には攻撃権は回ってこない。
カードの効果により変動などは除く。
ボードを確認する。速度2の指揮官は、俺の戦域にもいるがゲミュートの戦域にもいる。
「こういう場合はどうするんだ?」
「ん?ああ、同じ速度の指揮官がいる場合か」
ゲミュートは楽しそうに笑った。
「こうするんだ…バトルルーレット!」
その声に反応して俺とゲミュートの間に巨大な矢印が出現し、勢いよく回転し始める。
「こうやってボードがどっちに攻撃権を渡すか決める。ボードが無い場合はじゃんけんや
コイントスとかで決めるのがこっちじゃ一般的だな」
やがて回転がゆっくりになり…ピタリと止まった。
矢印が指していたのは、ゲミュートだった。
「攻撃権は貰った!ヤクシニーで相手の中央へ直接攻撃!」
ゲミュートは中央に攻撃を宣言した。だがグリームエルフはすでに冥府へ送られていて
俺の中央には誰もいない。
相手の中央に指揮官がいなければ、本陣を直接攻撃できる。
直接攻撃を受けると攻撃側の破壊値の合計だけ本陣の上にあるカードが冥府に送られる。
それを防ぐ手段は、今の俺には無い。
ヤクシニーが、ゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。
『ふふふ…』
艶っぽい笑みを浮かべ、俺の前で足を止める。
(まさか、さっきみたいに攻撃されるのか?)
俺も鎖で縛られたり蹴られるのかと身構える。
ところが…
『ふふ…ギュ~♪』
「え、ええぇ?」
ヤクシニーが、俺を正面から抱きしめてきた。
痛くはない。優しい抱擁だ…女性らしい柔らかな感触に包まれる。
そして俺の腹の少し上あたりに、胸の感触があった。
実体がある。質量がある。肉の柔らかい感触がある。胸の感触もある。
そして、良い匂いもした。
『はいおしまいっと。それともぉ…痛い方が好みだった?』
ヤクシニーは微笑むと、そっと俺から離れた。
「あ、ありがとうございました…」
俺は身体に残った感覚を堪能しつつヤクシニーの後ろ姿を見送った。
(柔らかかった)
いや、そこじゃない。
(質量があった)
そういう話でもない。
「…生きているのか?」
「はい。生きていますよ。カードに描かれた人物は、過去の人物の記憶や魂を複製して作
られているんです。ゲーム中は実体化して活動することができます」
「記憶や魂を、複製…?」
「はい。ゲームが終わると記憶はリセットされますけど」
とんでもない技術だ。カードに描かれた人物を実体化させるだけでもすごいのに、記憶
や魂まで複製?本人たちはゲーム中だけとはいえ、生きている?
(本当に、すごい世界だな)
改めてヤクシニーの方を見る。俺の視線に気づいたのか、笑顔で手を振ってきた。
なんだか倒しにくくなった。まさか、それが狙いなのか?
(相手の術中に嵌るな!これは罠だ!ハニートラップ的なやつだ!)
そう自分に言い聞かせる。
気を取り直す。順番的に次は俺の攻撃順だ。
「俺はもう戦域に攻撃できる指揮官がいない。攻撃権は来訪者の戦域にいる速度2に移動
される」
「よし…速度2のブーリでダエーワに攻撃!」
ブーリが一歩前へ出た。片手を掲げ、上空へと意識を向けた。
空中に眩い光が集まり始める。光は徐々に膨張し、巨大なエネルギーの塊となった。
まるで太陽のような輝きが、森の上空を照らしている。
『神華法・向日葵!』
次の瞬間、光が一直線に放たれた。
ダエーワへと向かって、強烈な光線が降り注ぐ。
『…っぐああああっ!』
ダエーワの身体が光に呑み込まれ、グリームエルフと同じように無数の光の粒となって
爆散した。
「続いてアスプで…ヤクシニーに攻撃!」
これは勝負だ。勝負なのだから、仕方がない。まだ抱きしめられるのはイコール本陣が
減るという事だ。もう直接攻撃を受けるわけにはいかない。
葛藤する俺をよそに、アスプはすでにヤクシニーへ向かって突進していた。
下半身が蛇の姿をした彼女が地面を滑るように高速で進む。
『うちのコンダクターに色仕掛けするんじゃないわよ!』
ヤクシニーへ突進し、勢いよく吹き飛ばした。
『酷いじゃないっ!抱いてあげたのにぃ!』
ヤクシニーは空中で体勢を整え地面へ着地する。
ヤクシニーの軍勢1枚が冥府へ送られる。
どうやら軍勢が0にならないと爆散はしないらしい。
「コンダクター?」
ヤクシニーの軍勢を減らす事はできた。
けどそれより、アスプが言ったコンダクターという単語が気になった。
「『魂札を導く者』と書いてソウルコンダクターと呼びます。ジェネシス・ガーデンの指
揮官を導く存在…プレイヤーのことです」
「魂札を導く者、ソウルコンダクター…」
なんだ、それ。かっこいいじゃないか…!
(ソウルコンダクター、か)
魂を導く者。カードに描かれた人物たちを指揮し、戦場を導く存在。
その言葉で、自然と背筋が伸びた。
(生きているカード達を俺が導く…なら、俺がしっかりしないとダメだな…よし!やって
やろうじゃないか!)
なんて意気込むが、俺の戦域にもう攻撃できる指揮官はいない。
「「リーブタイム!」」
リーブタイムは表側横向きの指揮官を表側縦向きに変更する。これだけだ。
なお表側縦向きのことを臨戦状態(バトルモード)と呼び、表側横向きのことを待機状
態(スタンバイモード)と呼ぶらしい。
なお臨戦状態に戻るのも自動だ。ボード様々である。
「これで一巡だ。リーブタイムが終わったらまたサプライタイムに戻る。これを繰り返し
て本陣が0になると敗北だ」
俺は自分の本陣へ目を向けた。ヤクシニーの抱擁…直接攻撃によって2枚が冥府へ送ら
れている。
出陣させた指揮官の軍勢としても本陣のカードが消費されている。
(本陣の枚数も、ちゃんと考えないといけないんだな)
なおゲーム中に本陣の枚数を本陣に触れて数えるのは禁止だそうだ。
本陣の枚数を確認する場合は手札・戦域・冥府にある公開情報となっているカードの枚
数から計算しなければならない。
なおボードがそのあたりの数字を表示してくれている。ボード便利すぎるだろ…!
本陣が0になったら負け…その部分で疑問が浮かんだ。
「もし同時にお互いの本陣がゼロ枚になったらどうなるんだ?」
「その場合は戦域に残っている指揮官の侵攻を合計が高い方が勝ちだ。それも同じなら破
壊値の合計を比べる。それでも同じなら引き分けになる」
そうなると本陣の枚数だけ気にしていればいいわけではなくなる。
侵攻の高い指揮官を多く残せれば最後に勝てるが、カードを出せば本陣が減っていく。
直接攻撃を受ければ、本陣はさらに減る。
同時に0になる前にこっちが0になれば敗北だ。
(終盤をどう迎えるか、そこまで考えて戦わないといけないのか)
―――【第2ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
「「サプライタイム!」」
俺とゲミュート両方とも手札が5枚になるよう、3枚カードを引いた。
「さて、今度はどうかな」
俺は引いたカードを1枚ずつ確認していく。
「ウレアですね」
後ろからポエナさんが話しかけてくる。
…話しかけられる度に端正なお顔が視界に入るし良い匂いがするので、落ち着かない。
「防衛が9もあります。ダエーワはもういませんし、ゲミュートさんのゴブリンだけでは
簡単には突破できないはずです。初期配布のカードでは、速度3で侵攻6のカードはいま
せん。サキュバスの効果を利用しない限り、ウレアを倒すのは難しいと思います」
「了解…ここはポエナさんの言う通りにしましょう」
「「セットタイム!」」
俺は手札からウレアを中央の戦域へ裏向きで配置する。
ゲミュートも右翼に1枚のカードを配置した。
「アドバンスタイム!ウレアを出陣!」
『ウオォオオォォォ! 守りも攻めもお任せあれ!』
なんとも勇ましい声だ。実に頼もしい。
「フェナコドゥス出陣だ!」
光の粒が集まり、フェナコドゥスが実体化する。
『だ、大丈夫だよね?敵はいないよね?』
実体化したフェナコドゥスは周囲をきょろきょろと見回し、怯えた様子で辺りを警戒し
ていた。
「ドレスアップタイムはスキップだ」
「俺もスキップする」
お互いに装飾は行わずドレスアップタイムは終了した。
「バトルタイム!速度3!フェナコドゥスでブーリに攻撃!さらにゴブリンで合体攻撃!」
『ええっ!?わっ私!?』
フェナコドゥスが情けない声を上げる。
『へへっ心配すんなって!』
ゴブリンは軽快に駆け出し、ブーリの左側へ回り込んだ。
『神華法・紫陽花!』
ゴブリンの手から放たれた術式がブーリへと迫る。
『ふん』
しかし、ブーリは軽く身体を翻し、その攻撃をあっさりとかわした。
ブーリは片手を掲げ、先ほどと同じ術式を使おうとする。光が集まり始めた。
『うわあああっ!怖いよぉぉぉ!』
正面から、フェナコドゥスが涙目になりながら突進してきた。
『…ちっゴブリンは囮かっ!?』
ブーリが振り返った瞬間、フェナコドゥスの身体が腹部へと激突する。
身体が大きく揺れ、光の粒となって爆散した。
続いて、速度2の指揮官たちへ攻撃権が移る。
(…ここでバトルルーレットか)
「ボード、攻撃権を放棄する」
ゲミュートがヤクシニーの攻撃権を放棄した。
「ヤクシニーの侵攻は5ですからね。戦域にいる指揮官を倒すには足りません」
ヤクシニーが攻撃しても俺の指揮官は破壊できない。反撃でヤクシニーが破壊される事
になる。なので攻撃権を放棄したというわけか。
「なら速度2!アスプでヤクシニーに攻撃!」
『そら、倒れなぁ!』
アスプが叫び、蛇の下半身をしならせながら一気に突進した。
ヤクシニーの身体が吹き飛ぶ。
『このぉ…覚えてなさいよぉ!』
『ごめんなさいねぇ~魂札だから覚えてられないのよぉ』
アスプは勝ち誇ったような表情を浮かべ、胸を張った。
今度は着地する前にヤクシニーが爆散した。
「速度1ウレアでゲミュートに直接攻撃!」
『ウオォオオオ!』
ウレアが雄叫びを上げた。
その右腕が、見る見るうちに巨大化していく。
「いやっちょっと待て!?さすがにそれはまずいって!?」
巨大な拳が、頭上からゲミュートへと迫った。
あんなものをまともに受けたら、ひとたまりもない。
「ふん…っ!」
だが、ゲミュートは片手で巨大な拳をあっさりと受け止めていた。
「まあ、こんなもんか」
「うそぉ…」
「直接攻撃は受ける側が必ず防げる程度の攻撃方法で行われるんです」
「ああ、だからヤクシニーは…」
あのときも、彼女は俺を優しく抱きしめただけだった。
痛みなど、まったくなかった。
(俺達人間って、まともに攻撃したらヤバイくらい脆いって事か)
次のリーブタイムの処理が終わり、第3ターンを迎える。
―――【第3ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
サプライタイムにお互い1枚引く。
セットタイム。俺は右翼に、ゲミュートは中央にカードを配置する。
「アドバンスタイム!アンドリューサルクス出陣!」
『がっはっはっは! 俺の獲物はどこだぁ!』
堂々とした筋骨隆々の大男が俺の戦域に実体化する。
「アプスを出陣!」
『…ふぅ』
対するのは青い髪をした華奢な少女だった。
「可愛い女の子が出てきたな」
「いえ、アプスさんは男性ですよ?」
「え?え、あれで!?」
言われれば…ボディラインがかなりストンと平らだし、身体の動かし方が男らしい。
リアル男の娘を拝めるとは…さすがは異世界。
ドレスアップタイムは両方スキップし、バトルタイムとなった。
「速度3!フェナコドゥスでアスプに攻撃!ゴブリンで合体攻撃!」
『ひぃいぃぃぃ!倒れてください~!』
フェナコドゥスが泣きそうな声を上げながら突進する。
『ふふん、そんな攻撃、当たるわけないでしょ』
アスプは小馬鹿にしながら蛇の下半身をくねらせて攻撃をかわした。
『油断大敵ってね!』
ゴブリンが嘲笑しながら飛び蹴りをアスプの側頭部に放つ。
『ぎゃふっ!?』
アスプの身体が大きく揺れ、彼女の姿が無数の光の粒となって爆散した。
「これで合体攻撃はできなくなった。アンドリューサルクスで誰を攻撃するか…?」
破壊できそうなのはゴブリンとフェナコドゥス。どちらも速度3。フェナコドゥスの軍
勢は4。ゴブリンは3。この攻撃だけでは冥府に送れない。
「フェナコドゥスの軍勢はまだ4枚残っています。そしてアンドリューサルクスの破壊値
は2です」
ポエナさんが声を掛けてきた。
「ということは、半分は減らせるって事か」
「2枚減らしておけば次のウレアの攻撃で倒せます。今の内にフェナコドゥスを破壊しま
しょう」
ゴブリンの侵攻3。フェナコドゥスの侵攻は4。ゴブリンよりフェナコドゥスの方が驚
異だ。
「よし。アンドリューサルクスでフェナコドゥスに攻撃!」
『なんだぁ餌か?逃げるなよぉ!』
アンドリューサルクスがゆっくりとフェナコドゥスへ歩み寄っていく。
『ひっ来ないでぇぇぇ!』
フェナコドゥスは悲鳴を上げ踵を返して逃げ出した。
「やれやれ、これだからフェナコドゥスはよぉ」
ゲミュートが呆れたように呟く。
『ぶべっ!?』
フェナコドゥスが何もない空間にぶつかった。透明な壁にでもぶつかったかのように、
フェナコドゥスが跳ね返される。
「対戦中は戦域の周辺に結界が展開されるんです」
ポエナさんが説明してくれた。
「これによって外からの侵入や内側からの逃走を防いでいるんですよ」
「なるほど。戦闘中に逃げ出したり、誰かが乱入したりするのを防ぐ仕組みか」
「はい」
つまりそれが無いと逃走できるわけで…あれ、ちょっと待てよ。
「これさ、あのアンドリューサルクスとフェナコドゥスみたいに力の差が歴然なのが戦っ
たとしてさ。カードじゃなくて暴力に訴えてきたら助けられないし逃げられないんじゃ…」
ゲミュートが仮に負けそうになって襲い掛かってくる…ゲミュートの性格を見る限りで
は無さそうだが、可能性は考えないといけない。
「大丈夫ですよ。意味も無く接近したら警告が出ます。それを破れた強制的に敗北して術
式で拘束されますので」
ちゃんとセーフティーはあるようだ。これで安心して戦える。
そうしている間にも、アンドリューサルクスはフェナコドゥスへ迫っていた。
『がっはっはっは!捕まえたぞぉ!』
アンドリューサルクスの大きな足が振り上げられ、フェナコドゥスの腹部へと叩き込まれる。
『ぐえっ!?』
フェナコドゥスの身体が大きく跳ねた。軍勢が2枚冥府へ送られてる。
狙いどおりなのだが…絵面が悪すぎる。
続いて速度1の攻撃順となり、再び巨大な矢印が俺とゲミュートの間に出現した。
「…バトルルーレットか」
矢印が勢いよく回転し…ゲミュートで止まった。
どうやらこのルーレットとは相性が悪いようだ。乱数の女神めぇ…!
「速度1!アプスでアンドリューサルクスに攻撃!」
『ふむ…では、参ろうか』
アプスは静かに歩き出した。ゆっくりとアンドリューサルクスへ向かって近づいていく。
『このっ引き下がれるかぁ!』
アンドリューサルクスを広げて突進していく。勢いはある。相手は華奢な体躯だ。能力
では負けている。では実体化している彼らはどう動くのか…
『雑魚が』
アプスは、迫り来るアンドリューサルクスの顔面を小さな手で掴んだ。
アンドリューサルクスの突進が止まった。
華奢な腕が巨体の突進を受け止めている。アプスは、一歩も動いていない。
『ふん』
アンドリューサルクスを軽々と持ち上げた。
巨体が空中に浮かび上がる。
『ぐおおおっ!?』
そのまま振り回し、地面へと叩きつけた。
地面が大きく揺れる。
『くそぉ…龍族がぁ!』
立ち上がるアンドリューサルクス。アプスは何事もなかったかのように姿勢を正し、静
かにアンドリューサルクスを見つめている。
「カードの能力で負けてはとはいえ、あんな一方的に…」
「アプスは龍族ですからね。その力は地形すら変えます」
「地形を!?」
一体どこにそんな力を秘めているのか…力仕事で腰を痛めた俺とは大違いだ。
「よし…ウレアでフェナコドゥスに攻撃!」
『ウオォオオオオ!』
ウレアが雄叫びを上げた。右腕が再び巨大化していく。
『ひっ!?まっ待って!待ってぇぇぇ!』
フェナコドゥスが逃げ出そうとするがもう遅い。巨大化したウレアの手が迫っていく。
『うわあああああっ!』
そのまま巨大な手に押し潰され爆散した。
「絵面がわりぃ…」
リーブタイムの処理が終わり、第4ターンとなった。
―――【第4ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
サプライタイムにお互いに1枚引く。
「ほぉ…良いタイミングで来たな」
ゲミュートが笑みを浮かべている。どうやら良いカードを引いたようだ。
その後、セットタイムを双方カードを置いて終える。
「アドバンスタイム!バシロサウルス出陣!」
『…………』
出陣したバシロサウルスは腰には動物の皮を巻き、手には長い槍。もう片方の手にワニ
に似た巨大な生物の頭蓋骨を盾代わりに持っている。何も喋らず、静かに槍を構えた。
「それじゃあ、お先にいかせてもらうぜ!”楽園を守るべく、ここに降り立ちたまえ!”
継承個体――〔楽園の支配者‐リュカオン〕出陣!」
ゲミュートのカードが表向きになる。光の粒が次々と集まり、出陣したカードの姿を形
作っていく。
…光が収まったとき、俺の目の前には1人の男が立っていた。
筋骨隆々とした身体。鋭い牙。堂々とした立ち姿。そして、狼の頭。
俺はゲミュートと、実体化した男を交互に見た。
「カードに、そっくりだと…?」
「当然だ。俺の先祖だからな。俺の代まで受け継いできた継承個体さ」
「先祖?」
「継承個体はその名のとおり、現在まで”継承”してきた”個体”なんです。大抵は初代
だったり最も名を残した偉人なんですよ。なので流通がほぼありません。5種類まで
本陣に入れられるというのは、5種類も持っている人がほとんどいないという意味で
もあるんです」
「へぇ…じゃあこのリュカオンは過去に凄い功績を挙げたってわけか」
カードが過去の人物の複製だとは教えられたが、継承個体は所有者の先祖だとは。
「先祖としては嬉しいだろうな…今呼び出されているって事は子孫が存続してるって証明
だからな」
『そうでもないさ。呼び出されたら先祖以外だったなんてありえるからな。そうなれば断
絶したって毎度思い知らされる事になる。ちゃんと子供残せよ!』
「言われんでも孫までいるわ」
「孫…ゲミュートお前!?結婚して子供いて孫までいるのにポエナさんにエッチな事する
つもりなのか!?」
孫という発言に動揺し叫んでしまう。
…だが2人の反応が先攻後攻を聞いた時のような、知らない単語への反応であった。
「ヘルプ。来訪者がケッコンという発言をしたんだが…」
「えっ!?この世界って結婚制度無いのか!?」
「……そういう事か。来訪者!忠告しておく。この聖域でもう2度と結婚とか妻とか嫁み
たいな単語を使うな。死ぬぞ」
なんで死ぬ事になるんだその程度で!?
「あの、ケッコンって…?」
「男と女が対の番となって家族として扱う法だとよ。特定の国では結婚したらお互いに番
を別に持つ事ができないんだと」
「ああ…それは確かにもう2度と言わない方がいいですね」
「なんで!?」
「えっと…この聖域で最も偉いのが創世王様です。創世王様にはその、ケッコンというよ
うな限定された番がいません…というか、いると種族間で絶滅戦争になります」
えっとつまり、その創世王って人が結婚…もう他の異性を受け入れませんって宣言した
らその異性以外の種族が暴走するってわけか。
「このカードゲーム戦争の政治の部分だからな…勝者の下に創世王が100年滞在するっ
て事になってる。まあ、あれだ。100年独占できるんだよ」
「つまり創世王様を独占したい人が少なくとも2人以上いると」
「理由は色々ありますけど全ての種族が独占したがっていると考えてください」
ああ、そりゃ戦争だわ。もう言わないでおこう。
「…さて。再開するぞ」
ゲミュートがリュカオンへと視線を向けた。
「リュカオンの効果を発動!」
「っ効果だって!?」
ここまでサキュバスのような軍勢になった時に適用されるカード以外は効果の無いカー
ドばっかりだった。ここに来て効果持ちが指揮官となった。
もしかしたら戦況が大きく動くかもしれない。
リュカオンの身体が淡く輝いた。
「リュカオンは出陣時に速度を2倍にできる!速度3から6にアップだ!」
「速度6!?」
そんなの確実に先に攻撃できる!ゴブリンとの合体攻撃をすれば…いや待て。
ゴブリンの速度は3だ。同じ速度じゃないと合体攻撃はできない。
(合体攻撃ができなくなるのに、速度を上げる意味ってあるのか?)
「リュカオンの軍勢を見てください」
ポエナさんがキッとリュカオンの軍勢を見ている。睨んでいるようだがお顔が可愛いの
で、睨んでいても可愛い。
ボードで確認すると、〔在りし日の追憶‐サキュバス〕があった。
「サキュバスの効果でリュカオンの侵攻は3から5に上昇しています」
「侵攻が上がったから単独でも…いや、でも侵攻5?」
中央にいるウレアの防衛は9。侵攻5ではウレアを倒すことはできない。
アンドリューサルクスを破壊するのが狙いなのか?
…いや違う気がする。長年カードゲームをやってきた男の勘がそう言っている。
(いったい、何を狙っているんだ?)
ドレスアップタイムはお互いにスキップした。
「バトルタイム!速度6!リュカオンでウレアに攻撃!当然合体攻撃できる指揮官はいな
い!単独攻撃だ!」
「なにっ!?」
そのまま攻撃してきた!?
(相手はベテラン。つまり何かある…侵攻の差4を覆す方法が…!)
だがリュカオンの軍勢にサキュバス以外の効果持ちはいない。
となれば手札から捨てて発動するカードか…リュカオン自身!
「リュカオンの効果を発動!攻撃宣言時に手札1枚を捨て、自身の速度の数値だけ侵攻が
アップする!今の速度は6だ。よって…侵攻は11となる!」
「なに…!侵攻11なんて、防ぎようがない…!?」
やはり侵攻を上げる効果があったか。元は3だから単独で9まで上がるわけか。
確認した限り防衛10以上のカードは無かった。効果持ちで防衛を上げない限りはあの
攻撃は防ぎようがないという事か。
『行くぞ』
リュカオンがゲミュートを思わせる勢いでウレアへ向かって走り出す。
『ウオォオオオオ!』
ウレアは雄叫びを上げ右手を巨大化させる。
『遅い!』
だがリュカオンは瞬きの間にウレアの左側に移動する。あれでは右手で攻撃するには身
体を捻らなければならない。
『このっ!』
ウレアが左手も巨大化させていく。
『だから、遅いんだよ!』
リュカオンがウレアの懐へと入り込む。
『なにぃ!?』
ウレアが振り返ろうとした瞬間、その首元に鋭い爪が走った。ウレアが爆散する。
ウレアが冥府に行き、中央が空いた。
「速度3!ゴブリンで直接攻撃!」
「しまった!?」
攻撃宣言を聞きゴブリンにいた位置を見るが、見当たらない。
「どこだ?どこにいる!?」
周囲を見回すがあの小柄はどこにもいない。
『どこ見てるっすか!』
その瞬間、パシンと尻を叩かれた。
「いてっ!?」
痛いが、耐えられる程度だった。
(今ので本陣が2枚冥府に行った…これ以上の直接攻撃は絶対に阻止しないと…!このま
まじゃ本陣の差が開きすぎて先にこちらの本陣が0になる!)
「アンドリューサルクスでアプスに攻撃!バシロサウルスで合体攻撃!」
『ちぃ…行くぜバシロぉ!』
アンドリューサルクスは真剣な面持ちでアプスへ向かって走り出す。
『……!』
反対側からバシロサウルスが槍を構えて走り出す。
『2人ならどうにかできるとでも?』
アプスは落ち着いた様子で呟いた。
『うおおおお!』
アンドリューサルクスが拳を振り上げ、強烈なパンチがアプスへと迫る。
『弱いな、下等生物』
アプスは片手で受け止めた。
『防がれるのは分かってんだよぉ!』
次にアンドリューサルクスが蹴りを放つ。アプスの腹部に直撃…
『おいおい。それでは倒れてやる事もできんぞ』
アプスは、微動だにしていない。
『……っ!』
そこへ反対側からバシロサウルスの槍が迫る。
『遅いと言っているだろうが』
槍先を指で摘まんだ。槍の一閃が止まる。
『この…倒れろ化け物がぁ!!』
アンドリューサルクスが両手で乱撃を叩き込む。
『……!』
バシロサウルスが動かない槍の代わりに蹴りを浴びせている。
なのに、アプスは平然と立っている。
『寝てろ』
『グァアアアァァァ!?』
アンドリューサルクスの攻撃の隙を突いてアプスの拳がアンドリューサルクスの顔面に
命中した。白目を剥いてアンドリューサルクスが地面に倒れる。
『次は貴様だ』
『……っ!』
アプスはゆっくりと腕を伸ばしてバシロサウルスの顔面を掴んだ。
体格差があるというのに、バシロサウルスの身体が宙へ浮かぶ。
『ごのやろぉ!!』
バシロサウルスが地面に叩きつけられた直後。起き上がったアンドリューサルクスがア
プスの背後に回り込んで首へと噛みついた。
『ふん、まあこの程度か』
アプスは顔色ひとつ変えずに…爆散した。
『はぁぁぁ…魂札での対戦じゃなかったら逃げ出してたところだぜ』
アンドリューサルクスが文句を言いながら元に位置に戻っていく。
『…………』
バシロサウルスも、ふらつきながら槍を拾って戻っていく。
…どっちもヤバい。あんなの俺に奮われたら粉々になるレベルだ。それを受けてビク
ともしないアプス…龍族というのは別格の強さなのだろうか。
「ジェネシス・ガーデンで良かったですね…本当の戦争ならあんな簡単に倒されてくれま
せん」
ポエナさんが恐ろしいコトを言っているが気にしないでおこう。
「バトルタイムは終了かな。リュカオンの侵攻上昇効果が終了して5に戻る。速度の方も
次のサプライタイム開始時に3に戻るぞ」
(さてどうする?)
現在の本陣の枚数を確認する。本陣を数えなくても枚数が公開されている部分を数える
事で本陣の枚数を導き出せる。
(戦域に9枚。手札が4枚。冥府に17枚……合計30枚。本陣は残り10枚。ゲミュー
トは戦域に9枚。手札が4枚。冥府に16枚……合計29枚。本陣は残り11枚)
差は1枚。1枚だけと見るべきではない。1枚だろうが先に本陣が0になれば負ける。
ここからどうにかして枚数を同じにするかゲミュートにさらなる消耗をさせなければな
らない。
(リュカオンが速度3に戻るという事は、ゴブリンと合体攻撃ができる。侵攻は5と3…
合計は8。中央に防衛9以上を出さないとあの2枚で破壊される。効果を使えば11だ。
防げるカードは無い。リュカオンは速度3を出せば直接攻撃確定。速度2ならバトルルー
レットになる…かなり不利な状況なわけか)
何を出せばリュカオンを止められる?どうすればあの速攻を防げる?
頭の中で足りない知識からなんとか可能性を考える。
(今回はお互いに継承個体以外は同じカードで本陣を組んでる。ゲミュートは俺の本陣を
ある程度把握しているはずだ。なら何を出されたら不味いかを判断して行動してくる。対
して俺は全部を完全に把握できていない!素人とベテランの差で詰められる…!)
よく考えればこんな事は最初から分かっていたはずだ。相手は戦争に4回参加している
ベテラン。俺は始めてまだ4ターンの初心者。勝てなくて当然だ。
(駄目かもしれない…俺が負けたら、ポエナさんがゲミュートに捕まる。そうなれば…)
弱気な考えと、ゲミュートに身体を触られ怯えているポエナさんの姿が頭をよぎる。
助けると大見得を切ったのに、なんと情けない…
(俺は異世界に来ても、結局こんなもんなのか…)
「来訪者さん!」
後ろから声を掛けられた。振り返ると、ポエナさんが心配そうに俺を見つめていた。
「…大丈夫ですか?」
「…いや、ちょっと。さすがに、厳しい状況だなと思って、ビビってます」
「…そうですね」
ポエナさんが、俺の手をそっと握ってくる。
「でもまだ終わったわけではありません」
握った手を胸元へと…ポエナさんは無意識にやっているのだろう。
「ここまで何度も考えて諦めずに戦ってきたんです。私も、最後までお伴します」
柔らかな手と…胸の感触が伝わってくる。
「ですから…初めてのジェネシス・ガーデン。最後まで楽しんでください。勝っても負け
ても、私はその結果を受け入れますから」
「…ずるいなぁ」
そんな事を言われたら。
こんな風に手を握られたら。
…このおっぱいがゲミュートに好き放題にされると考えたら…!
「諦めたらそこで試合終了だって…漫画で教えてもらって育ってんだよこっちは!」
(弱音はここまでだ。勝つ事だけ考えろ……考えろ!このおっぱいの感触の事とかは今は
後だ!)
無いわけじゃない。ゲミュートが想定できない一手がある。
あのカード。
駐車場で拾った白紙だったはずのカード。
この世界へ来るきっかけになった、いつの間にか絵柄が付いていた継承個体。
今の状況をひっくり返せるのは、あのカードなのかもしれない。
(イメージするのは…勝利への確実な一手…)
目を閉じる。息を吸ってゆっくりと吐く。
引くカードはシャッフルされてランダムだ。不正が無ければそれが常識だそうだ。
だが俺には持論がある。
(勝利の為の一手を明確にイメージする。ちゃんとカードの名前を意識して、カードと気
持ちを一体化させる。そうすれば、カードは応えてくれる)
何を子供のような事を言っているのかと馬鹿にされた事がある。そんなオカルトめいた
事を考えるなら構築段階で勝つ為のカードを入れろと言われた事もある。
だが、俺だって「そこのお前」なんて言われたくはない。ちゃんと名前で呼んでもらっ
て、必要だと言われたい。
カードだって同じだ。
(来い…!)
だから名を心の中で強く思い描く。お前が必要だとちゃんと伝える。
「カードは…心ぉ!!!」
―――【第5ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
「「サプライタイム!」」
俺は目を見開き、本陣へと手を伸ばした。
「来い……〔聖光のアマテラス〕!!!」
願いを込めて、カードを引いた。
「セットタイム!俺は中央に出して終了だ…どうした?何かあったか?」
動かない俺にゲミュートが話しかけてくる。
「…まだこの世界とか、事情とか…色々分かんない事だらけだけどさぁ。こういうところ
は異世界でも一緒だよな…」
「あん?何を言ってるんだ?」
「カードってやつは、ちゃんと応えてくれるって事さ!中央に出してセットタイム終了だ!
アドバンスタイム!行くぞ…これが俺の継承個体――〔聖光のアマテラス〕出陣!」
カードが表向きになり本陣から軍勢となるカードが自動的にめくられていく。
俺の正面に無数の光の粒が現れて集まっていく。
『…………』
眩い輝きの中から一人の女性が姿を現した。
長く流れる灰銀色の髪。透き通るような紫色の瞳。
白と濃紺を基調とした金色の装飾が施された戦装束。
何より目を引く、背中に広がる光の翼。
その手には巨大な槍が握られている。
勇壮な武具を身にまといながらも、その表情には敵意も威圧感もない。
ただ静かで穏やかな眼差しが、俺を見つめていた。
…美しい。その一言ではとても足りない。俺では表現できない何かが心を鷲掴みにする。
そしてその美しさが、どこかポエナさんと重なった。
似ている…と言われればそうだが髪の色も目の色も違う。別人と言われればそうなのだ
ろう。ただ、何かが似ていると感じられた。
「…おい待て。そのカードどうなってやがる?その分類はどういうことだ?」
ゲミュートの声が、わずかに震えていた。
ボードに表示されたアマテラスのカード情報を確認する。
分類:天輪(エンジェル)。
「継承個体は過去の先祖の記憶と魂。つまり過去に実在した存在だ。だが、アマテラスは
霊族の最高幹部の一人!過去にアマテラスが霊族以外になった記録は無い!ましてはたっ
た100年前に誕生したばかりの翼族だと!?」
「私も見て驚きました。全員ではありませんが私も翼族なので戦争前に顔ぶれは頭に入れ
ています…アマテラスさんは翼族にはなっていません。この継承個体はおそらく…未来の
アマテラスさんの姿です」
「未来の継承個体…!ありえるのか、そんな事が!?」
リュカオンが動揺している。
アマテラスという人物は霊族以外になった事は無い、つまり翼族のアマテラスがカード
になる機会は1度も無い。なら過去ではなく未来から来たとポエナさんは言っていた。
この世界についてよく知らないが、未来から何かが来る事は基本的に無いようだ。
そう、この瞬間までは。
「…未来から来ていようがジェネシス・ガーデンのカードには変わらない。なら強さの基
準は大きく変わりはしないだろう。今は目の前の勝負に集中するか」
まだ動揺が残っているようだが、ゲミュートは冷静に事態を捉え、未知のカードの効果
をボードで確認し始める。
「っ!?軍勢を増やす効果に、効果ダメージだと…!いやこれを連続で使うには手札が…
となれば当然本陣も…まずいが、なんとかなるか。中央にクマルビを出陣させる!」
『ふはははは!我が力を見よ!』
クマルビは威風堂々と胸を張り、ドンッと地面を踏みしめた。
そしてドレスアップタイムはスキップされる。
「「バトルタイム!」」
前のターンはリュカオンにやられたが、次は俺の番だ!
「アマテラスの効果を発動!バトルタイム開始時に手札1枚をアマテラスの軍勢として加える」
手札1枚選んで、アマテラスの軍勢へ加えると、アマテラスの翼が淡い光を放った。
「加えたのは…コレロか!?アマテラスの防衛は7に…!それに軍勢が増えたから…!」
「アマテラスの2つ目の効果発動!アマテラスの軍勢に新しいカードが追加されたらアマ
テラスの軍勢の枚数の2倍の数値分のダメージをゲミュート!お前の戦域にいる全ての指
揮官に与える!」
「今ので3枚になった。その倍だから…6ダメージ!」
「効果によるダメージは破壊値1として扱います。よって防衛6以下の指揮官は破壊され
軍勢を1枚冥府に送らなければなりません」
アマテラスが手にした槍を横へと振り構える。
『ムラクモモード起動。対軍殲滅形態』
手にした槍から声がした女性のものだが、聞いた事は無かった。
『聖光』
アマテラスが言葉を発し、槍を横へと振った。その軌道を描くように、光の線がゲミュ
ートの戦域へと放たれる。
『ぐぉおおぉぉぉ!?』
『なんすかこの術式はぁ!?』
光を受けたリュカオンとゴブリンの身体が揺れ、それぞれの軍勢が1枚冥府へと送られ
る。リュカオンの軍勢は4枚から3枚へ。ゴブリンの軍勢は3枚から2枚となる。
『ふはははは!その程度か!』
中央のクマルビは何事もなかったかのように立っていた。防衛が8あるクマルビはダメ
ージを受けても破壊されなかったからだろう
―――【ゲミュート視点】―――――――――――――――――――――――――――
(さて、どうするか)
リュカオンの侵攻は5。ゴブリンの侵攻は3。合体攻撃で合計は8。
コレロの効果を受けたアマテラスの防衛7。破壊できる。
…だが見逃していない。アマテラスの軍勢には、コレロが2枚ある。
(出陣時に1枚加わって、効果で手札から加えた。これで防衛は9になっている)
リュカオンの効果を使えば侵攻11で破壊できる。破壊値は合計4.冥府に送れる。
来訪者には悪いが、あの継承個体は驚異かと言われれば…
(非常に、まずい)
リュカオンの効果を使ったら手札を1枚捨てなければならない。手札は3枚になる。
次のサプライタイムで手札を5枚にする為に2枚を引くことになる。本陣が2枚減る。
差を広げるなら効果は使うべきではない。
本陣が同時に0になったら、俺は負ける。速度の高いカードを多く採用している代償だ。
戦闘でイニシアチブは取れるが侵攻と防衛は低い。判定になると負ける。
(メイン本陣でのガチの対戦なら”この”リュカオンは使い捨てたというのに…)
効果を使わずにアマテラスは残す?その場合どうなる?
破壊値2のアンドリューサルクスを狙ったとする。そうなれば速度2のアマテラスとバ
シロサウルスで合体攻撃してくる。破壊値の合計は2だから軍勢が2枚になったゴブリン
が狙われて破壊されるだろう。
自分の手札を見る。
(破壊値0のウィルオウィスプは速度1。こいつは使い物にならない。軍勢になった時の
効果持ちだからな。軍勢3のダークエルフと軍勢2のグール。両方とも速度2でリュカオ
ンとの合体攻撃は不可能。そしてダーウィニウス…軍勢4で速度は1…)
軍勢4を出せば本陣が4枚減る。
ボード見る必要は無い。長年の経験で残りの本陣くらい分かる。残りは、8枚。
次のサプライタイムで1枚引いて7枚。ダーウィニウスを出せば残り3枚。次のサプラ
イタイムで2枚になる。
(軍勢1が来ない限りは次出すカードで終わりになるな)
ゴブリンを破壊されればリュカオンはもう合体攻撃ができない。そうなればもうアマテ
ラスは突破不可能だ。
来訪者の本陣はボードの情報を確認する限り、現在7枚。
次のサプライタイムで2枚引いて5枚となる。そしてもう何も戦域出さないとする。
その場合、中央のアマテラスを突破しなければ来訪者の手札は5枚のままで本陣は減ら
なくなる。効果を使わずにターンを引き伸ばせば…来訪者の勝ちだ。
(つまりここで強引にでもアマテラスを破壊しなくちゃならねぇって事だ)
―――【視点は戻る】―――――――――――――――――――――――――――――
「…仕方ねえな。リュカオンで、アマテラスに攻撃!ゴブリンとの合体攻撃だ!」
(来た!でもこっちは防衛は9。合計8なら防げる…となれば!)
「リュカオンの効果を発動!」
ゲミュートは手札を1枚冥府へ送った。
「速度の数値を侵攻に加算する!」
「っ効果を使ってでも突破してきたか!」
『行くぞ!』
リュカオンが地面を蹴った。一瞬で距離を詰め、アマテラスへと爪を振るう。
アマテラスは背中にある翼を広げる。翼が光の粒子となって散らばると、リュカオンの
攻撃がアマテラスに当たる寸前で止まった。
『…っ!』
衝撃が周囲へと広がった。
『まだだ!』
リュカオンは止まらない。何度も殴りかかる。その全てが見えない何かに防がれる。
『神華法・紫陽花!』
ゴブリンが側面から回り込んで光の散弾をアマテラスへ放つ。
それすら命中する寸前に止まり消滅していく。
『障壁のようなものか…なら!【破城槌】!』
リュカオンが右腕を振りかぶって、渾身の一撃を放った。
『がぁ…っ!?』
鋭い爪が、アマテラスの腹部を貫いた。無数の光の粒となって爆散する。
「っはぁ…!危ねえ。危うく全部持っていかれるところだったぜ」
ゲミュートはため息をついた。額には冷や汗が浮かんでいる。
「だが、これで継承個体は倒した」
ゲミュートはリュカオンへ視線を向けた。
「よくやったな、御先祖様」
『当然だ。だがあれは本当にアマテラスか?俺の知っている姿とはまるで違うぞ。それに
あの障壁のような術式は見た事が無い。お前の時代は大きく変わっているようだな』
(…まだだ)
アマテラスが倒されることは、覚悟していた。あの効果を持つカードをゲミュートが放
置するはずがない。
だがゲミュートの手札を1枚消費させたしリュカオンとゴブリンの軍勢も減らせた。
アマテラスは、無駄ではない!
「速度2!アンドリューサルクスでクマルビに攻撃!バシロサウルスとの合体攻撃だ!」
『がっはっはっは!今度はあいつかぁ!龍族以外なら任せろ!』
アンドリューサルクスが拳を握り締める。バシロサウルスも、無言で槍を構えた。
2人は左右へ分かれ、クマルビへと迫っていく。
『ふはははは!我が魔眼の力を知るが…なにぃ!?』
クマルビの眼が怪しく光る。だが左右から迫る2人を前に、クマルビの視線が揺れた。
右から来るアンドリューサルクス。左から迫るバシロサウルス。どちらを視認すべきか
考える…考えてしまった。
『そこだぁ!』
アンドリューサルクスの拳がクマルビの身体へ叩き込まれる。
『…………っ!』
同時に、バシロサウルスの槍が突き出された。
『ぐぉ…ば、馬鹿なぁっ!?』
クマルビは光の粒となって爆散した。
―――【第6ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
「「サプライタイム!」」
お互いに2枚引く。
俺の本陣がもうほとんど残っていない。ボードの情報を確認して本陣の枚数を計算する
……残り5枚。ゲミュートは……残り6枚。
1枚差が縮んでいない。
「「セットタイム!」」
(問題はここだ。何を出す?もう本陣の枚数からして、出せるのがこれが最後だ)
手札を確認する。
軍勢2で破壊値0のサキュバス。破壊値0だからゲミュートを追い詰める一手にはなら
ない。
軍勢4で破壊値2のブロントテリウム…これはもう出せない。出したら次のサプライタ
イムで本陣が0になる。軍勢4で破壊値1のダーウィニウス。これもダメだ。
軍勢2で破壊値2のクマルビ。速度は1。
軍勢2で破壊値1のグール。速度は2。アンドリューサルクスと合体攻撃が可能。
戦域には速度2のアンドリューサルクスとバシロサウルス。
(出すとすれば…グールだ。戦域のどれかが破壊されたとしても速度2でまとめれば合体
攻撃できる。これで直接攻撃してくるカードを破壊できれば、次のターンが来る!)
グールを出せば本陣は3枚。次のサプライタイムで2枚となる。負けはしてないが新し
いカードは軍勢1でも引かないともう出せない。
負け筋が存在する。
(ゲミュートの手札に速度3で今出せるくらい軍勢が低いカードがあれば、直接攻撃を受
けて俺の負けだ!)
同じ名前のカードは2枚まで。もうコレロは本陣に無い。防衛を上げる方法は、無い。
(だがもうこれしかない!グールを出して、これでしのぐしか…!頼む、速度3が手札に
いないでくれ!)
意を決して中央にグールを置いた。
ゲミュートを見ると…笑っていた。
―――【ゲミュート視点】―――――――――――――――――――――――――――
(よりにもよって、ここで軍勢4のウインタテリウムを引くとは…!)
残り本陣は6枚。軍勢4を出せば残り2枚になる。なるべくなら出したくない。
(残りの手札は…)
軍勢3で速度2のダークエルフ。
軍勢2で速度2のグール。
軍勢4で速度1のダーウィニウス。
軍勢4で速度1のブロントテリウム。
(来訪者の本陣は…5枚か。想定していくとして…)
速度2のダークエルフかグール。速度1のダーウィニウスかブロントテリウムの2パタ
ーンになる。
速度2を出した場合だが、これはグールしかない。破壊されるので消費を抑えるべきだ。
リュカオンとゴブリンの合体攻撃で相手の中央を破壊。その後はバトルルーレットだ。
俺に来ればグールの直接攻撃が決まり、その後にグールは破壊される。
外れればグールは破壊されるだけだ。
ボードで来訪者のカードを計算し、残り本陣の枚数を出す…残り5枚。俺は6枚。
(軍勢4は消費がデカすぎる)
グールを出せば本陣は4枚になる。俺が直接攻撃を受ける可能性は盤面的に無い。
来訪者は5枚。軍勢1を出したとする。これは防衛9でもない限りはリュカオン達で破
壊できる。
その場合の来訪者の本陣は4枚となる。バトルルーレットで俺が勝てば直接攻撃で3枚。
サプライタイムとなり本陣は3対3か3対2。両方とも中央が空いている。
来訪者が軍勢1を出して防ぐ…そう仮定する。来訪者の本陣は残り1か2枚。
出せなければ俺のリュカオン達で直接攻撃して俺の勝ち。
(負け筋は軍勢1を出されてバトルルーレットで俺が負ける。次のターンで俺が軍勢1を
引けず、来訪者が軍勢1を引いた場合か…?)
だがそれはさすがに運が無さすぎるというものではないだろうか。
いや、この終盤でこの手札だ。運は無い方だろう。
(ヒーローは必ず勝つってわけか?はは、来訪者の言う通りだな。欲張ったツケがここで
出てくるか)
思わず笑ってしまう。
「俺は中央にカードを出して終了だ」
ならこの来訪者が本当にヒーローなのか、試してやるとしよう!
―――【視点は戻る】―――――――――――――――――――――――――――――
「「アドバンスタイム!」」
「グール出陣!」
『ひっ!?戦闘ですかぁ!?』
『…が、頑張ります!』
光の粒が集まり、少女が実体化した。スコップを両手で握り締め、周囲を見回している。
「まさか、お互いにグールとはな…」
俺もゲミュートも、中央にグールを出陣させた。出陣による本陣の減少で差が縮まらな
かった。
(速度2…バトルルーレットで負ければ、俺の負けが決まる!)
ドレスアップタイムはスキップされた。
「「バトルタイム!」」
「速度3!リュカオンでグールに攻撃!ゴブリンとの合体攻撃!」
『これで終わらせてやる!』
リュカオンが素早く駆け出した。ゴブリンがグールの背後へと回り込む。
『ひっ!?うっ後ろにもいるぅ!?』
グールはスコップ振り回して対抗しようとする。
『隙ありだ』
だが適当に振り回されるスコップが掻い潜って、リュカオンが踏み込み鋭い爪でグール
の首元を切り裂いた。
『きゃあああっ!?』
グールの身体が大きく揺れ、爆散した。
「これで、この勝負が決まるわけだ…バトルルーレット!」
目の前に巨大な矢印が出現する。矢印が高速で回転し始めた。
ゲミュートも、俺も、ポエナさんも、じっとその行方を見つめる。
俺に来れば勝負は分からなくなる。
ゲミュートに行けば、俺の負けだ。
ゆっくりと回転が落ちていく。
ゲミュートもこれまでに無いくらい追い詰められた表情で矢印を睨んでいる。向こうも
このルーレットに全てを賭けているのかもしれない。
「頼む…!こっちに来いっ!!」
そして…矢印が止まった。示された先は…
「…速度2!アンドリューサルクスで、グールに攻撃!バシロサウルスとの合体攻撃!」
俺だった。
『なんだぁこいつはぁ!?どこの種族だ?』
アンドリューサルクスが堂々とした面持ちでグールへ向かって走り出す。反対側からは
バシロサウルスが槍を構えて迫る。
『ひぃっ!?同時になんて卑怯ですよぉ!?』
グールは涙目になりながらスコップを構えた。迫ってくるアンドリューサルクスに向け
て必死にスコップを振り回す。
アンドリューサルクスの拳と、グールのスコップがぶつかった。甲高い音が響く。
『うわあああっ!?』
グールが後ずさる。アンドリューサルクスの動きが止まった
『……もらった』
その隙を狙うように、バシロサウルスが槍を突き出した。穂先がグールの腹部を貫く。
『ひぎゅぅっ!?』
グールの身体が大きく揺れ、爆散した。
「…はっはっはっ!土壇場で引き当てるとは、やるじゃねえか」
「…どうも!」
俺は息を吐きながら答えた。
これでお互いの中央が空いた。互いに何かカードを出さなければ直接攻撃を受ける。
速度3が2枚あるゲミュート側を考えると、俺は何か中央に出せなければ…負ける。
―――【第7ターン】―――――――――――――――――――――――――――――
「「…サプライタイム!」」
同時に本陣から1枚ずつカードを引いた。勝負を決める、運命の1枚を…
祈るような気持ちで、引いたカードを確認する。
引いたのは…軍勢1の『地襲の封将‐ウレア』だった。
思わず顔がほころんだ。
(…助かったぁ!)
本陣の残りは…2枚。ウレアを出陣させればこのターンをしのげる。
だが次のターンは…無い。サプライタイムで1枚引いて本陣は0となる。
このターンで、全てを決めなければならない。
「…はーはっはっはっはっは!!」
ゲミュートが笑い出した。とても楽しそうに笑っている。
俺にはその笑いが、何かを確信したように見えた。
(まさか、逆転のカードを引いたのか!?)
胸の奥が冷たくなる。俺がウレアを引けたようにゲミュートだって最後の最後に強力な
カードを引いた可能性がある。
いや、考えても仕方がない。もうウレアを出す以外何もできない。
「「セットタイム!」」
手札からウレアを選び、中央へ裏向きで配置した。もうこれしか俺にできる手は無い。
向こう側の戦域を見つめた。
「…………」
ゲミュートは、カードを選んでいるように見えない。
「…俺は何も出さずにセットタイムを終了する」
ゲミュートは、中央にカードを配置せずにセットタイムを終えた。
ボードから、ゲミュートの本陣を見る。残り……3枚。
俺の本陣は……2枚。
俺が不利な状況。軍勢1か2を出せば次のターンで判定に持ち込める。
なのにカードを配置しなかったということは…
(軍勢1か2のカードが、もう手札にないんだ…!)
拳を握り締める。ゲミュートに、俺の直接攻撃を防ぐ手段は無い。
「「アドバンスタイム!」」
「俺はウレアを出陣させる!」
『ウオォオオォォォ!守りも攻めもお任せあれ!』
「…来訪者。ここまで、よく戦ったな」
ゲミュートが真剣な眼差しで俺を見つめてくる。睨んではいない。その瞳には…敬意が
宿っているように感じられた。
「お前は初心者だ。ジェネシス・ガーデンを始めて1日だって経っちゃいねぇ。それなの
に俺をここまで追い詰めた。胸を張れ。自分の手で勝利を掴み取ったんだ、お前は」
その声には挑発の色などなかった。対戦相手として俺を認めてくれている。
「…バトルタイム!」
「…御先祖様」
『どうした』
「悪い。負けた」
『…お前もよく戦った。誇れ、我が子孫よ。そして子孫よ、俺はお前を誇りに思う』
ゲミュートは目を伏せ、覚悟を決めて目を見開いた。
「速度3、リュカオンとゴブリンの攻撃権を放棄する」
攻撃すれば俺のアンドリューサルクスかバシロサウルスは倒せる。
ウレアの直接攻撃で本陣は1枚になる。
「ゲミュートさんが直接攻撃を受ければお互いに本陣が1枚になってサプライタイムです。
そうなればウレアと残った1枚の侵攻の合計はこっちが上回って来訪者さんの勝ちです」
「そういうわけだ。なら余計な引き延ばしはしてねぇよ…堂々と俺の本陣を砕け!」
「…アンドリューサルクスで本陣に直接攻撃!バシロサウルスとの合体攻撃だ!」
『初勝利の祝いだ!最後まで派手にいこうじゃねえか!』
アンドリューサルクスが豪快に笑った。
『…………』
バシロサウルスは無言のまま、槍を構える。
2人の指揮官が、ゲミュートへ向かって走り出した。
ゲミュートは迫り来る2人を見つめ、微動だにしない。
「…来い!」
アンドリューサルクスが、ゲミュートへ拳を振り上げる。
『これで終わりだぁ!』
その拳が、ゲミュートの頭部へと叩き込まれた。ほぼ同時に、バシロサウルスの槍が腹
部に突き刺さった。
「ぐぅ…!ガハっ!?」
ゲミュートの本陣が3枚、冥府へと送られた。
残り……0枚。
「俺の、勝ちだっ!!!」
「勝ちました…!初めてでゲミュートさん相手に、勝ちましたよ!!!」
振り返るとポエナさんが嬉しそうに手を握ってきた。笑顔で俺を見つめてくる。
(守ったんだ…ポエナさんを、俺が!!)
感動と達成感が溢れてくる。
30年近くカードゲームをやってきた。色々な激戦もあった。
でも記憶にあるどの勝利より、この勝利が嬉しかった。
「はーはっはっはっは!!!やるじゃねえか!まさか、本当に俺を倒すとはな!」
ゲミュートはふらつきながら俺の後ろまで歩み寄って来ていた。
「あっ!?最後の直接攻撃…だっ大丈夫…なんですか?」
ゲミュートは最後の攻撃を防御せずに頭部と腹部で受けている。実体化している状態な
ので本当に攻撃を受けているはずだ。
「大丈夫だ…あいつらアプスとの戦いでかなりダメージあったみたいでな。痛みがあるが
死ぬようなもんじゃねぇよ」
「…対戦、ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げた。
「見事だったぜ」
ゲミュートは満面の笑みを浮かべ、力強く拍手してくれた。
「でも、ポエナさんの助言もありました。俺1人の力じゃ…」
「それでもお前が勝ったことに変わりはねえ。諦めず、勝ち筋を探し続けた結果だ。胸を
張れ!」
「…はい!」
「まあ…これでそいつはお前の女になったわけだなぁ」
「…は?」
「え?ええっ!?」
俺とポエナさんは同時に声を上げた。
「ちょっちょっと待ってください!そんな話じゃないですよ!」
「そうです!私はただそっ添い寝するとお約束しただけで…」
「ん?そういう話じゃなかったぁ?俺はそいつを連れて行きたい。来訪者はそいつと一緒
にいたい…だったろ?」
「ゲミュートさん!」
ポエナさんが頬を赤くして抗議する。ゲミュートは楽しそうに笑っている。
「いやあ、若いってのはいいもんだなぁ!」
「いや俺もうすぐ40歳なんですけど…」
「40!?未成年じゃ…ああ理族は100くらいまでしか生きれないんだった。ならそれ
なりか」
「…ちなみにお二人は何歳くらいですか?」
「俺は551歳だ」
「私はその、128です…」
「128!?成人したてかよ、若いなぁ」
「この世界の成人って何歳からなんです?」
「最低100歳です。成人認定試験合格しないと成人にはなれませんけど。わっ私はちゃ
んと合格してますから!」
つまりポエナさん、俺よりかなり年上って事ぉ!?
「だが128だろ?理族で換算したら…あっもう時間みたいだな」
「え、あ…光って!?」
俺の身体が淡い光を放ち始める。
「もう帰還の時間みたいですね」
「帰還…?」
「ああ。来訪者が理界へ戻る時はそうやって光るんだよ」
そうか。これで元の世界に帰れるのか。
「…ゲミュートさん!」
俺はゲミュートさんへと向き直った。
「今回は本当にありがとうございました!色々と勉強になりました!」
「おう!こっちこそ、楽しい勝負だったぜ!」
ゲミュートは、力強く拳を掲げた。
「また会うことがあったら、そのときは今より強くなっていろよ!」
「はい!」
俺は大きく頷いた。
「ポエナさんもありがとうございました!ポエナさんのおかげで勝つことができました!」
「こちらこそありがとうございます。来訪者さんが味方になってくれて、本当に嬉しかっ
たです!」
ポエナさんは微笑んだ。やっぱり可愛いなぁ…!
「添い寝の約束は、またこっちに来て出会えた時にでもお願いします!」
「はい。その時には絶対約束は守ります」
光が、視界を覆い尽くした。
『あ~…悪い、契約内容があれだから…遅かったか』
ゲミュートさんが何か言っているが、声が遠ざかっていき聞こえなくなった。
―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――
目を開けると、見慣れた光景が広がっていた。
アスファルトの駐車場。駐車されている俺の自動車。いつも通っている喫茶店。
「…戻ってきた」
周囲を見回してもあの木々は近くには無い。ポエナさんゲミュートさんもいない。
間違いなく、元の世界だ。
「…はぁぁぁ!」
全身の力が抜けた。
「帰ってきたんだな、俺…」
スマートフォンを確認する。アンテナがしっかりと立っていた。
時刻を確認すると、俺が駐車場に着いてから1分くらいしか経過していなかった。
「時間の流れが違うのか。まあとりあえず帰ってこられたんだから…」
浮かんでくるのはゲミュートさんとの対戦。可愛らしいポエナさんの笑顔。ポエナさん
の手の感触。ポエナさんのおっぱいの柔らかさ…
(忘れないうちに家に戻って発散しないとな)
「…あの?」
背後から可愛らしい声がした。聞き覚えがある声だ。ゆっくりと振り返る。
そこには…白いドレスに身を包んだ、黒髪の少女が立っていた。
「…ポエナさん?」
「あの、ここは…まさか、理界ですか!?」
ポエナさんだった。周囲を見回している。
「いやいやいや!ちょっと待ってください!どうしてポエナさんまでこっちに来ているん
ですか!?さっき感動の別れをしたところですよね!?」
「わっ私にも分かりません!先ほどまで聖域にいたはずなのに気がついたらここに…」
「マジかよ…」
俺は頭を抱えた。いつでも戻れて、いつでも聖域へ行けるとは聞いていた。人まで一緒
についてくるのは聞いていない。
手の中にあるスマートフォンが振動し始めた。画面を見ると通知が表示されていた。
…新しいアプリがインストールされました?
「は?こんなの入れてないぞ?」
「それなんですか?小さいですけど情報端末なんですか?」
ポエナさんが歩みってきて画面を覗き込んでくる。良い匂いがする…やはりこのポエナ
さんは本物のようだ。俺の都合の良い幻などではない。
アプリが勝手に起動する。アプリ名は…ジェネシス・ガーデン管理局?
「なんだこれ…」
「ボードに表示されるのと同じ管理局からのお知らせみたいですね。新着あるみたいです」
画面を操作すると、新着メッセージが表示された。
『名前未登録』
『ライブラリ所属ゲミュートとの対戦結果:勝利』
『賭け内容:オリンピア所属のポエナの身柄を勝者に預ける。またオリンピア所属のポエ
ナは勝者と毎日添い寝しなければならない』
『登録者:ライブラリ所属ゲミュート』
『補遺』
『対戦後に理界への転移を確認しました。こんにちは来訪者様。こちら第11回領土戦争
管理局の契約担当をしているカレハ・アルクァナ2世です』
『この度は聖域へ来ていただきありがとうございます。また初めての試合での勝利見させ
ていただきました。ゲミュートざまあみろ』
『勝者である来訪者様が賭け内容の総取りとなりましたが、転移されてしまいましたので
賭け内容の履行の為、オリンピア所属のポエナ氏を理界に転移いたしました』
『もし王城近辺にお越しの際はおもてなしいたしますので気軽にお声掛けください』
……は?
「はああああああ!?」
思わず大声を上げてしまった。
「な、何ですかこれ!?身柄、はいいですけどなんで毎日に添い寝になってるんですか!?」
ポエナさんが顔を真っ赤にした。
…ゲミュートさんの仕業だ。登録者がゲミュートさんだからそれしかない。。
「何勝手に毎日添い寝にしてるんだよ!しかもこれゲミュートが勝ってたらゲミュートに
毎日添い寝する事になるじゃねぇか!?あの野郎…!裏でこんな事してやがったのか!」
どうするんだよこれ。こっちの世界にポエナさんの知り合いなんているわけない。
つまり、俺がなんとかしないといけない。
このもうすぐ40歳で腰痛めて無職の俺がだ!
「…あっあの、私、これからどうすれば?」
そんなの……俺が聞きてぇよ!
―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――
戦争開始1日目の対戦履歴002
109 :名無しの聖域住人
ライブラリのゲミュートが来訪者と対戦してるぞ
110 :名無しの聖域住人
相手は来訪者か
111 :名無しの聖域住人
ちょっと見てくる
112 :名無しの聖域住人
ゲミュート相手とか可哀想に…
113 :名無しの聖域住人
今回はライブラリ所属か
ナイシエとかいうバグがいる強豪にゲミュートとかやべぇな
114 :名無しの聖域住人
ナイシエとかいう先読みの天才もう出禁にしてくれよ
カースたんは復帰させてくれ!
115 :名無しの聖域住人
カースさまに蹂躙されたいんじゃ~!
116 :名無しの聖域住人
対戦履歴見始めたけどビギナーズルール1-2-1か
117 :名無しの聖域住人
ならゲミュートが負けても不思議ではない
相手が初試合の来訪者じゃなければなぁ!
118 :名無しの聖域住人
勝った?勝った…!?
119 :名無しの聖域住人
うおおおおお!今回の来訪者すげぇ!このままライブラリぶっ潰そうぜ!
120 :名無しの聖域住人
ゲミュートが油断しただけだろ
121 :名無しの聖域住人
あいつ油断するようなやつか?
122 :名無しの聖域住人
履歴見たけどゲミュート運無さすぎwwwww
最後の手札軍勢3と4しかいねぇwwwww
123 :名無しの聖域住人
そのwいっぱい語尾につけるの最近流行っているが、なんじゃこれ?
124 :名無しの聖域住人
理界の情報交換の場では笑う時にwを付けるらしい
125 :名無しの聖域住人
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
126 :名無しの聖域住人
理族のルールを持ち込むな
127 :名無しの聖域住人
ゲミュート嫌われてるやんw
128 :名無しの聖域住人
ゲミュートに何か恨みでもあるのか
129 :名無しの聖域住人
第9回であいつにボコられましたが?
130 :名無しの聖域住人
それにしても来訪者すげえな。同条件で勝ったんだろ?
131 :名無しの聖域住人
それよりこの聖光のアマテラスってなんじゃああああああ!?
132 :名無しの聖域住人
分類:天輪?????
別の観測者のアマテラスじゃねぇの?
133 :名無しの聖域住人
その場合ランデルセスの門経由でこの世界に来た事になるわけで
龍王姫がこんなん手放すわけねぇんだよなぁ
134 :名無しの聖域住人
あのレズドラゴン絶対分からせてやる…!
135 :名無しの聖域住人
趣味:美少女の継承個体狩り
136 :名無しの聖域住人
誰か龍族の首都落として龍王姫の継承個体コレクション奪い取ってくれよ~
俺の先祖の継承個体返してくれよ~
137 :名無しの聖域住人
考えられるのは未来から来た継承個体か
138 :名無しの聖域住人
Q:存在しない分類の継承個体が現れました。誰がそんな事したのでしょうか?
ヒント:勝利の女神
139 :名無しの聖域住人
もう答え言ってんじゃん
出禁のカースがまたなんかやりやがったな…!
140 :名無しの聖域住人
カース様なら時間超越とか余裕だろうな
俺ら?まず時間停止にも耐えられん
141 :名無しの聖域住人
たかだか世界の運動エネルギーが完全停止して大気すら固定されるだけだろ?
気合と根性と努力さえあれば世界すら動かせるはずだ。努力不足では?
142 :名無しの聖域住人
むしろそれで動ける龍王姫とか雷王姫とか勝利の女神とか錬金姫とかがおかしい
143 :名無しの聖域住人
あの…なんで緑の大陸でやり合ってるん?
144 :名無しの聖域住人
少し前にライブラリとオリンピアが領地を賭けて戦争してた記録があるぞ
ナイシエとゲミュートが残ってオリンピアは若い子1人だけか
あ~…これは逃げましたね
145 :名無しの聖域住人
敵前逃亡は重罪だぞ
146 :名無しの聖域住人
勝てばよかろうなのだ~!
それ以前にライブラリどうやって緑の大陸に侵入したんだよ
147 :名無しの聖域住人
1日目でなんて大陸中央(若干東側)にいるんだよ
オリンピアは中央の村領地にしてるじゃねぇか
これライブラリが勝ったら霊族首都への橋頭保になってただろ
148 :名無しの聖域住人
こわぁ…あの生き字引ヤバすぎだろ。いきなり首都狙いかよ
で、どうやって中央部まで行ったんだよ!
沿岸部からずっと森!森!樹海!道なんてねぇよ!
霊族でも地元以外じゃ迷うレベルの迷路だぞ!?
149 :名無しの聖域住人
霊族側に裏切り者でも出たんじゃないか?
150 :名無しの聖域住人
あとオリンピア、若い奴ばっかでベテランいないぞ
これでどうやってライブラリ追い詰めたんだ?
151 :名無しの聖域住人
ちょっと報告してくる
上手くすれば霊族首都までの侵入ルートが見つかるかも
152 :名無しの聖域住人
俺も行ってくるわ
153 :名無しの聖域住人
情報量多すぎだろこの試合
154 :名無しの聖域住人
無秩序植林による森の迷路!
どこからともなく現れて余計な事してくる下級霊族!
見た目同じなのに毒持ちがある食用植物!
緑の大陸クソでございますわよ
155 :名無しの聖域住人
なら青の大陸においでよ~歓迎するわよ~
156 :名無しの聖域住人
山6龍族3荒野1(龍王姫)のクソ立地~!
157 :名無しの聖域住人
おう氷雪地帯と砂漠しかない赤の大陸以上のクソあると思ってんのか?
158 :名無しの聖域住人
お前のところワイン美味しいじゃん
黄の大陸見ろよ。見渡す限りの草原だぜ?
無限湧きする愚獣狩らんと食い物ねぇんだぞこちとら?
159 :名無しの聖域住人
肉よこせ~野菜よこせ~
ワインだけで腹満たせるわけねぇだろうがよぉ~!
なんだよ無限湧きって!こちとら毎日葡萄の木のお世話じゃい!
160 :名無しの聖域住人
嫌な事実に気づいた
ライブラリのリーダーであるナイシエの弟子がカース。
(暫定だが)来訪者を聖域に招いたのがカース
その転移先のすぐ近くにライブラリがいた…?
161 :名無しの聖域住人
まさかカースの転移先を先読みしたのか?
どの大陸のどこに来るのかも分からんのに?
162 :名無しの聖域住人
いやいや、さすがに考えすぎだろw
そこまで読めるならナイシエが化け物すぎる
163 :名無しの聖域住人
だから化け物だって言ってんだよこの阿呆がぁよぉぉぉ!
164 :名無しの聖域住人
一般聖域住人と大老一緒にするな
ただしアノマロカリス大老は除く
165 :名無しの聖域住人
初日から情勢動きすぎだろ。こりゃいつも通りにはならんぞ
166 :名無しの聖域住人
逆に聞こう。いつもどおりの領土戦争ってあったか?
167 :名無しの聖域住人
イレギュラーが毎月起こる。それが聖域の領土戦争じゃーい!
第2話は理界(人間世界)に来たポエナと主人公の話でカードバトル無しの予定です。
それでは次回(不定期)をお楽しみに。