ジェネシス・ガーデン~異世界に行けるようになったおっさんは現実世界でカードゲームを普及する~   作:禍津神ROSS

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今回は人間世界「理界」でのお話になります。

サブタイに[聖域]と[理界]と表記してどちらのお話か分かるようにしておきます。


第2話[理界] カードゲーマーの誇りってもんがあるんだよ!

 自宅の車庫に車を停める。

 後部座席に座っていたポエナさんが、勢いよくドアを開けて飛び出した。

 

「すごいです!この自動車という乗り物、こんなに速く動けるのに術式を一切使ってない

んですね!」

 

 初めて乗った子供のようにはしゃぐ姿はとても愛らしい。

 …胸部の愛らしいというには主張してくる膨らみが動く度に揺れているのはなるべき見

ないように努力する。

 

「気に入ってもらえたなら何より。酔ったりどこか痛いところは?」

 

「ありません!また乗せてもらってもいいですか!?」

 

「勿論」

 

 車の周囲を回りながらタイヤを眺めたり車庫に置いてある物を興味津々に見ている。

 …前屈みになると綺麗な形のお尻の形がくっきりとしてしまうあのドレスはなんなんだ。

もっとセンシティブなのガードしてくれよ。

 

「それじゃあ家に入ろうか」

 

「はい!」

 

 玄関へ向かうとポエナさんも小さな翼を揺らしながら後をついてくる。

 

「ここがお住まいなのですか?」

 

「まあね。親父から相続したもんだけどな」

 

 ポエナさんは家の外観を眺めてから、玄関の扉を開ける。

 それだけなのに、それすら楽しそうに振舞っている。

 

「お邪魔いたします」

 

「どうぞ。靴を脱いで上がってね」

 

「靴を…あっはい、分かりました!」

 

 戸惑いながらも靴を脱いでから家に上がっていく。

 自宅に着いた事で少しは落ち着く事ができる。

 さっきまで異世界にいてポエナさんを巡ってカードバトルしていたのが夢のようだ。

 まあ夢ではない証拠がトテトテと音を立てて歩いているのだが。

 

「部屋はいくつかあるからそれを使ってもらっていいよ」

 

「分かりまし…あっ!ただ、眠る時だけはその…」

 

 そうだった。ゲミュートの所為でポエナさんは毎日添い寝をしなければならなくなって

いる。

 リビングに案内して椅子に座ってもらい、改めてその話をする事にした。

 

「ところでポエナさん。これからのことなんだけど…ポエナさんって聖域に戻れるの?も

うずっとこのままって事は…」

 

「大丈夫です。来訪者さんが聖域に行く時に私も強制的に転移すると思います。こっちに

来た時と同じ理屈です」

 

「そうか…俺がまた聖域に行くのはどうすれば?」

 

「手持ちのカードのどれでもいいので聖域に行きたいと願えば行けると思います。さっき使

われた本陣ですが、そのままお譲りいたします。私は自分の本陣が他にあるので大丈夫です」

 

「ならポエナさんは自分のカードでいつでも戻れる…いや、賭けの所為で無理なのか」

 

 おそらく転移できないか転移してもすぐこっちに戻ってきてしまうだろう。

 

「この賭けで決まった内容って無効にできないのかな」

 

「難しいですね。今回の件はボードを通じて管理局が承認した上で結ばれた契約術式です。

これを無効にできるとなると…創世王様くらいしか無理ですね」

 

「創世王様か…俺が会う事ってできるのかな?」

 

「どうでしょうか。創世王様に謁見するには8人いる各種族の指導者である王姫5人以上

の承認が必要です」

 

 ポエナさんがカードを8枚取り出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「紹介がてら謁見できるかの話をしていきますね。まず龍王姫ルイーシア様。龍族の頂点

です。私達がいた緑の大陸から南東にある青の大陸にいます。居場所は有名なので行く事

事態は難しくありませんが…大変気難しい人です。特に男の人とは会話にならない事が多

いので、承認を得るのは困難だと思います」

 

「魔王姫ステイリア様。魔族の頂点におられて聖域の貨幣の信用を預かっています。緑の

大陸からは正反対の位置にある赤の大陸にいます。魔王姫様は話の分かる方ですので謁見

さえできれば承認を得られます。ただ謁見を得るには膨大なお金を周囲の人達が要求して

くると思います。魔族はお金を大事にしてますので」

 

「獣王姫フィーゼ様。獣族の頂点です。緑の大陸から北東にある黄の大陸のどこかにいま

す。常に動き回っている人なので見つけるだけでも困難です。ですが裏表の無い明るくて

頼りになる人なので承認は得られると思います…見つかりさえすれば」

 

「霊王姫クレイティア様。霊族の頂点です。私達が先ほどまでいた緑の大陸の中心部にい

ます。色々あって中心部から動けないので行けば確実に会えます。大変優しいお人なので

承認は問題ありません。ただ今は戦争中という事もあるので警備が厳しく周囲の人達を上

手く説得する必要があります」

 

「恐王姫ブラウニス様。正式には先代の恐王姫様です。今代の恐王姫様は創世王様の住む

王城の図書館に引き籠っているので会えません。ブラウニス様は…普段は死後の領域であ

る冥府の管理責任者なので理界にも聖域にもいません。傭兵稼業をしているので聖域で戦

争していればいつか会えるかも…くらいです」

 

「雷王姫エルシェルド様。雷族の頂点…というより雷族そのものというか…説明が難しい

ですね。ただとってもお優しい方な上に会うだけなら各地にいる雷族の誰かと会えれば確

実に会えるので承認はすぐ取れると思います」

 

「死王姫様。名前は…私は聞いた事がありません。〔月下を謳う者〕という異名が通名に

なっています。死族の頂点だそうですが…噂程度しか知りませんがまともに会話できる存

在ではないそうです。冥府に住まわれているので生者の理が通じません。諦めましょう」

 

「最後に翼王姫様。私が属している翼族の頂点ですが…ちょっと承認得るのは無理です」

 

「なんで?ポエナさんの上司なんでしょう?1番話ができるんじゃ…」

 

「翼王姫様は創世王様以外に心を開かない人なんです。なので来訪者さんが会っても…い

え私でも会話になりません」

 

 まとめると、承認無理なのが龍王姫・死王姫・翼王姫の3人。

 会えさえすればなんとかなるのが魔王姫・獣王姫・霊王姫・恐王姫・雷王姫の5人。

 

「つまりその5人から承認得るしかないわけか」

 

「一応100年後の戦争終結時に最も領土を獲得してれば謁見できますけど…」

 

 人間は140歳まで生きれるようにできていないのでそれは無理だろう。

 

「少なくとも今日中にどうにかできる話ではないか。ひとまず契約解除については後回し

にするしかないな。まずは今日をどうにかしよう」

 

「…すいません。でもその、来訪者さんしか頼れる人がいなくて…」

 

「分かってるって。追い出すような事はしないから安心して。というか追い出したら賭け

内容的にこの家に転移してきそうだし」

 

「…そうですね。毎日その、しないといけませんから…添い寝」

 

 ポエナさんは頬を赤くした。

 俺も視線をそらした。

 

「んんっ!まずは買い物に行きましょう。俺の一人暮らし分の用意しかないから日用品と

か色々買わないと足りません。それに…」

 

 ポエナさんの服を見る。煌びやかでどこの社交パーティーのお出かけですかぁ?と言い

たくなる谷間バッチリなドレスで現代日本を過ごすには青少年の色々があぶない。

 

「服とか、買わないとまずいですし」

 

「…ご迷惑をおかけします」

 

「悪いけどまずは俺の服に着替えてもらってもいいかな?その服で出歩くとさすがに目立

ちすぎるからさ」

 

「分かりました。お洋服お借りしますね」

 

「…あとその背中の翼ってどうにかなります?」

 

「すいません。私達もこの翼の事よく分かってなくて…消したりとかは無理なんです」

 

「そうっすか…分かりました。アクセサリって事で押し通しましょう」

 

 

 

 ―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「すいません、ぶかぶかで」

 

「大丈夫です。問題無く着られていますから」

 

 俺のシャツとズボンに着替えたポエナさんだが、当人はそう言っているが問題だらけだ。

 まずシャツ!サイズが大きいから片方の肩からずり落ちている。その所為で下着のスト

ラップが見えてしまっているし…なんならカップの部分も時折チラ見えしている。遠目か

らの時点でそれだ。隣に立つとその…中も結構見えてしまっている。

 そしてズボン!ベルトでなんとか落ちないようにしたが丈があっていないので足首あた

りに生地を折り曲げてなんとか履いている状態だ。

 お顔とスタイルの良さで誤魔化されているが…センスの無い俺から見てもダサく見えて

しまう。

 …だが彼シャツ的なアレだと思うと、案外悪くないかもしれない。

 

 

 

 ―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「わあ……!」

 

 近くのデパートに到着するとポエナさんは入口で立ち止まった。

 広い店内。明るい照明の下、衣服や食品、雑貨などが並んでいる。

 午後6時を過ぎているからか、お客さんの数は昼間ほど多くはない。

 

「こんなに色々な物を同じ建物で売っているんですか!?」

 

「食料品から衣服に家具まで生活に必要なものは大体ここで揃えられるかな」

 

「すごい…聖域だと個人での取引が中心なのでこういうのは見た事ありません!」

 

 まるで観光地にでも来たかのように目を輝かせている。

 

「聖域って買い物はどうやってるの?」

 

「食料は自然にできているモノを採取したり狩猟が中心です。大陸ごとに食肉と植物や嗜

好品が偏るので交換しあって調整しています。生活用品は赤の大陸の魔族や黄の大陸の獣

族が生産しているのを各種族が買って傘下の者達に分配しています」

 

「そうなるとどこかの傘下にならないと食料や生活用品の入手が難しくなるわけか。購入

じゃなくて分配って事は購入しているわけじゃないんだね」

 

「はい。必要以上に欲しい場合は貨幣を用いて購入します。魔族は分配せずに購入するの

を前提にしていたりしますね」

 

「お金稼ぎってどうやってるの?」

 

「魔族が発行した貨幣を貿易で他種族に渡して、その種族が労働などの対価を貨幣で支払

うのが一般的ですね。そうやって回ってきた貨幣で取引したり非常食にします」

 

「非常食!?そのお金って食べられるの?」

 

「はい。美味しくなくて栄養補給くらいしかできません。1スアで1食分のエネルギーを

摂取できるので1スアで1食分の価値として扱います」

 

「日本だとどうなんだ…?500円?いや1000円くらいになるのか?」

 

 大陸ごとに食糧事情は大きく変わるが食べ物には困らないのだろう。日用品や嗜好品が

最低限ならそれを求めて労働して対価を得てそれで購入するというのが一般的か。

 

「住居とかは?」

 

「平時は各地にある村にある建物を自由に利用できます。今は戦争中なので村を所有して

いないと野宿になりますね。ちょうどいいのでちょっと聖域の区分について教えておきま

すね」

 

 デパートを回り、未知の物品に目を輝かせながらポエナさんが聖域の事について教えて

くれた。

 聖域には4つの大陸がある。ひとつの大きさかオーストラリアと同じくらいのようだ。

 青、赤、黄、緑の大陸があり、青を龍族、赤を魔族、黄を獣族、緑を霊族が支配してい

る。

 その大陸も中央・北部・東部・西部・南部の5つの地方に分割され、首都が中央に存在

する。

 地方ひとつも5つの”街”という分け方をされていて、街ひとつに”村”が10属して

いる。

 

「街の支配権は属している村を6つ以上領地としている勢力に与えられます。戦争に負け

たら街で復帰の手続きをして再登録しないといけないんです」

 

「ゲミュートが言っていた再登録に金が掛かるってのは、要は支配権を得ている奴に話を

通して街に入る為の賄賂みたいなもんか」

 

「はい。なので街の支配権を維持する為に最低でも5人が各村にいないといけません。無

人にすると24時間後には領地の支配権が移ってしまいますので」

 

「あっそうするとポエナさんって領地守っていてそこから逃げてきたんだよね?24時間

経ったらライブラリに取られるって事になるんじゃ?」

 

「はい…ですが援軍が到着していれば支配権は移動しません」

 

 夕食に弁当を買い物カゴに入れつつ話を続けていく。

 残った4種族。恐族・死族・雷族・翼族だが、領地が無い。これはこの4種族が他の4

種族と違って纏まりが無いからだ。

 恐族は種族というグループで活動しておらず個人主義である。また定住せずに好き勝手

に大陸を移動するので領地を欲していない。

 死族は死後の世界である冥府の住人が勝手に聖域に戻ってきているという。聖域の法だ

と違法移民であり冥府に追い返さないといけないが追い返しても戻ってくるので対処でき

ていないそうだ。また刹那的な快楽主義者ばかりなのだそうだ。泥酔した飲兵衛より酷い

連中に政治や経済の話は不可能なので領地を与えられていない。

 雷族は…どうやら特定の個人が無数に分裂して活動しているようだ。分裂し活動してい

る子機と呼ばれる者達は、言うならロボットのようなもので飲食不要だし定住地も必要と

していない。なので領地は不要という事で与えられていない。

 

「翼族なんですが…実は100年くらい前に新しく出来た種族なんです」

 

「そうなんですか?見た目的にこっちの宗教に登場する天使っぽいから昔から存在してい

るものかと…」

 

「翼王姫様が少し前に独立を強制されまして…そしたらすぐに今回の戦争になりました。

領地も人員もほとんどいない状態で、霊王姫様から村をいくつか借りる形で参戦していま

す。オリンピアは借りている村を守る為に結成しましたが、いつの間にか大陸に侵入した

ライブラリに狙われてしまいまして…」

 

 どうやらポエナさんの属する翼族はまだ他種族に比べて人も土地も力も不足しているよ

うだ。その上トップである翼王姫という人物は創世王以外に心を開かないという。

 

「言い方悪いんだけどさ…翼族って詰んでない?何もかも足りてないのにリーダーがそん

なんじゃどうしようもない気がするんだけど…」

 

「うぅ…ズバリ言わないでください。私も翼王姫様は命の恩人ですが、正直全然理解でき

ていないんですよぉ…」

 

「命の恩人?」

 

「…翼族という種族は、翼王姫様の血を飲んだ別の種族の人達が変化して生まれるんです。

私は元は獣族だったんですが…両親が投獄されまして…まだ子供だったので狩りも碌にで

きずに倒れていたのを翼王姫様に助けられまして…」

 

「…翼王姫って良い人なの?」

 

「違います。種族として最低限認定されるのに同族が1000人必要だったんです。だか

ら各地を巡って…いなくなっても咎められない存在をかき集めていただけ、です。あの方

の心には、創世王様しかいませんから…」

 

「…ごめん。嫌な事聞いちゃって」

 

「あっ大丈夫ですよ!父も母も別に死んだわけではありません。ちゃんと面会して何度も

話して納得してもらってますし。ただまあ、今回の戦争参加はちょっと早すぎましたね」

 

 翼王姫は焦っているのだろう。創世王と共にいる為に必死で人を集め、戦争で勝利して

傍にいてもらおうとして…下にいる者達が見えていないのだろう。

 

「考えようによっては私がこっちに来ていても心配する人も今はいません。両親は戦争に

は参加していませんので今は王城で眠っていますし」

 

「眠っている?」

 

「戦争に参加しなかった人はカードの状態で王城で封印されています。戦争が終わったら

元に戻る事になっているんです」

 

「じゃあ今聖域にいるのは戦争に参加する事を選んだ人だけなのか…それだけの人員だと

トラブルとか起きて大変なんじゃ…」

 

「問題ありません。聖域住人の8割が参加してますので」

 

 8割って多すぎだろ。

 

 

 

 ―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「これだけあればひとまず困らないかな」

 

 タオル、歯ブラシ、シャンプー、その他の日用品。

 ひとつずつ説明しながら商品を選んでいくと、気がつけばカゴの中はかなりの量になっ

ていた。

 

「理界の品物は、本当に種類が豊富なのですね…!可愛いものもいっぱいありますし」

 

「そうだね、便利ではあるんだけどね。問題はお金がかかることかなぁ…」

 

 現在無職の俺に1人分の生活費追加はデカすぎる。

 会計を済ませてデパートから出る前に、エスカレーターが見えた。

 

「…そうだ。衣服も買わないと」

 

 ずっとポエナさんに俺の服を着てもらうわけにもいかない。

 …というか俺の家に女性用の下着なんて無いから買うしかない。

 

「衣服…そうですね。ずっとお借りしているのも…」

 

「上の階で売ってるから見に行こうか」

 

 上がってすぐに下着売り場があり、そこにいた店員に声を掛けようと近づく。

 

「いらっしゃいませ。何かお困りですか?」

 

 先に声を掛けられた。さすがはプロだ。話しやすくて助かる。

 

「すいません。連れなんですがヨーロッパから留学してきた親戚なんですけど、空港の手

違いで衣服類の入ったカバンが行方不明になってしまったようでして。服を何着かと下着

を選んでいただけないでしょうか?」

 

 これは俺の考えたカバーストーリーだ。海外の空港は荷物の扱いが雑で破損や喪失もよ

くあると聞いた事があったので無くしたという事にした。

 …さすがに俺が下着やら衣服やら選ぶ度胸やセンスは無い。

 

「かしこまりました。こちらで選ばせていただいたもので構いませんか?」

 

「お願いします。あっ予算はあんまり無いので高い物は勘弁を…あと彼女日本語はできる

んですがゲームとかで覚えたようで言葉のセンスがズレてまして…日本も初めてなので少

し日本人と違うニュアンスで話すかもしれませんが気にしないでください」

 

「かしこまりました」

 

 ポエナさんが目を輝かせながらサンプルの下着を手に取っている様子を見て、店員は苦

笑しながらポエナさんの下に行って話し始めた。

 

「お願いします!俺は離れたところで待ってますので!」

 

 下着売り場に男が長居するのは不審者に見られるので足早に売り場から離れていった。

 

 

 

 ―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(さて、どうしたものか)

 

 エレベーター近くにあったベンチに座って今の状況を考える。

 まだまだ問題はあるが、これでポエナさんを家に迎える準備はできそうだ。

 代償として俺の貯金が大変な事になっている。

 

(腰の調子が良くなってから働く予定だったのに、これじゃすぐに金が無くなる…)

 

 現在無職だがいつまでも無職でいるつもりはなかった。身体が治ればまた就職するつも

りでいた。まあ、まだ腰は痛むのだが。

 だがポエナさんがいつまでこっちにいないといけないか分からない以上、俺が稼いで生

活費を用意しなければならない。

 ポエナさんにも働いてもらう?身分を証明できる物が無い。バレれば違法な滞在者とし

て警察に捕まる可能性がある。いやこういう案件って警察なのか?

 だが賭けによって毎日添い寝する必要からまた俺の下にポエナさんが転移する。そうな

れば聖域の事とか色々バレる。

 

(他にもいるかは分からないけど、現状聖域に行けるのは俺だけだ)

 

 それを利用してデジタル小説みたいに特権的なものを得て聖域とこの世界の橋渡し役と

なりお金を得る?できなくはないが絶対に国の利益の為に利用される事になる。術式の存

在を知ったら日本だけの話にならなくなる可能性がある。

 記憶と魂を複製してカードにし、好きな時に実体化させる。これだけでも労働力とか軍

事利用とか様々な用途に使用できる事が予想できる。絶対世界中の権力者が欲しがる、

 

(下手すれば俺は別の国に拉致されて実験材料だ。当然嫌だが、それにポエナさんを巻き

込む危険がある)

 

 絶対ポエナさんの事も狙われる。そして捕まればほぼ確実にろくでもない事になる。人

間というやつは力で優位に立つと増長するものだ。下だと思った物に暴力やら暴行やらを

自身を正当化して奮いたがる。

 まあ何が言いたいかといえば、ポエナさんがゲミュートに負けた時以上のエッチなコト

をされたりする可能性は150%くらいはある。絶対起きてさらに別の陣営からも襲われ

る可能性が50%の意味だ。

 そんなわけがない?人間の善性を信じる?ハハっ!なら政治はもっとクリーンで税金は

安くなっているべきでは?

 

(なら俺の配信活動を利用できないか?例えばポエナさんを配信に出して人気を得て収益

得られるようにするとか)

 

 現代では配信で大金を稼ぐ者は一定数いる。知識や技術の披露といった真っ当な方法以

外にも実質犯罪行為で注目を集めたり、女性としての部分を強調して男の性欲を利用して

注目されたりとかだ。

 なお俺も配信活動はしているが、オンラインのカードゲームの動画を出している程度で、

収益目的ではない完全な趣味なので収益化できていない。

 ポエナさんの見た目なら絶対チャンネル登録者数は増える。収益化も狙える。

 

(最初はあのドレス姿で挨拶をする。ちょっと谷間とか意識させるだけでも登録者は稼げ

るだろうな)

 

 聖域の存在を設定という事にして、異世界から日本を学びに来たという事にすれば問題

無いだろう。むしろ教えたがりが集まってコメントが稼げて人の注目を浴びやすくなる。

 

(そしたら欲しい物リストとか作って視聴者に買ってもらう。コスプレとかも文化を学ぶ

とか言って視聴者に買ってもらった物を着れば絶対盛り上がる)

 

 メイド服。ナース服。制服…過激なものならバニー服やスクール水着だって良いかもし

れない。

 そしてジェネシス・ガーデンを普及する。カードが沢山手に入ればカードを売って金に

すれば確実に儲かる。いや、こっちでもボード出せて実体化させられるなら覇権を獲れる。

 

(絶対他社は真似できない。聖域に行けるのは現状俺だけだ。国もあくまで玩具が実体化

するだけなら最初からは動かないはず。その間にポエナさんの契約を解除できれば解決だ。

戦争は100年続くなら俺が生きている間に戦争が終わる事はまず無い。俺が聖域に行け

る間にとにかくカードを手に入れて売る。可能なら自分で製造できるようにする。そうす

れば億万長者だって夢じゃない…!)

 

 このとんでもないプロジェクトに心を躍らせたが、すぐに最大の問題に直面する。

 

「これ、俺って必要か…?」

 

 女性目当ての視聴者は「あわよくば仲良くなってリアルで会ってエッチできるのでは?」

という夢を見ながら見ている。そういう厄介な視聴者は女性に幻想を見ているものだ。自

分の事を認識して自分に好意を持っていると思い込む。そして相手は男性経験なんて無い

と決めつけて、少しでも男と関わると愛情が反転して憎悪となって攻撃的になる。いわゆ

るアンチというものになるわけだ。

 俺のチャンネルを使わないとしても、撮影とか諸々を俺がやる以上ポエナさんの近くに

俺というノイズが入る。絶対俺へのアンチが出てきて炎上する。

 万が一にもポエナさんが俺と添い寝しないといけないとか発言でもすれば終わりだ。そ

んなチャンネルから販売された物品を買おうとするだろうか?

 

「世の中上手くいかないもんだなぁ…」

 

 どちらにしても今日や明日で収益化できるわけでもない。やるとしてももっと炎上しな

い方法をしっかりと考えるべきだろう。

 そろそろポエナさんの衣服を選び終わってる頃だろうか。

 ベンチから立って売り場に向かう。すると店員が1人で立っていた。

 

「あっすいません。連れはどちらに?」

 

「あっ!先ほど衣服や下着を選び終えまして。支払いをとお話したところ探しに行かれて

しまいまして…」

 

 しまった。財布は俺が持っているので選んでもすぐ買えるわけではなかった。

 なら俺が来るのを待つか探しに行くのは当然だ。失念していた。

 

「ありがとうございます。探してきます。どっちに行きましたか?」

 

「寝具のコーナーの方へと向かわれました」

 

 言われた方向へと足早に向かう。長い黒髪の男向けの服を着た美少女だ。すぐに見つか

るだろう。

 

「いいじゃん教えてくれても~♪こんな良い匂いの香水ちょっと知らないからさ~」

 

「つかこの服彼氏の?服ひでぇ男もいたもんだな。こんな可愛い子にこんな服着せてるな

んてよ」

 

 すぐに見つかった。壁際で左右から挟まれ逃げ場を無く男2人にナンパされていた。

 

「あの、私用事があって…」

 

「いいじゃんいいじゃん。彼氏だろ?こんな服しか着せてくれないようなやつなんてほっ

といたっていいじゃん。なんなら俺がコーディネートしてあげようか?」

 

 笑いながら服の襟を摘まんで引っ張り始める。

 

「身長は小さめだけどおっぱいは結構あるんだね~♪やっぱり彼氏に育ててもらった?」

 

 ぶかぶかなのもあって引っ張られた事で隙間が広がり、完全にブラに覆われたおっぱい

が男達に見られてしまっている。

 

「あっあの、止めてください…」

 

 頬を赤くしたポエナさんが抵抗しようと男の手を掴む。だが別の男に手首を掴まれてし

まい、抵抗できなくなってしまう。

 怪我させないように加減しているのかもしれない。すぐに助けなければ。

 

「ごめんごめん待たせちゃって!」

 

「あっ?なにこのおっさん?彼氏?」

 

「冴えねぇ顔してやがるな。あれか?金払ってデートしてもらってんの?」

 

 ナンパ男2人が不機嫌な顔でこちらを睨んでくる。

 喧嘩なんて子供の頃からした事無い。ましては2人がかりなんて勝てるわけがない。

 だがここは大勢人がいるデパートだ。環境を利用させてもらう。

 

「店員さんに服選んでもらったんだってねぇ!支払いするからすぐ行かないと!ところで

そのお二人はどこの誰なのかな?日本に来たばっかりで友達とかいないって言ってたけど。

もしかしてナンパされてる?」

 

 わざと大声で言いながらポエナさんに近づく。

 ナンパ男達は舌打ちをすると周囲を目で確認する。

 多くないとはいえ客はいる。声に気づいた人がこちらをチラチラと見ている。

 

「…すみませ~ん!お支払いの方、まだでしょうかぁ~?」

 

 背後からさっきの店員の声がした。事情を察したのか催促してくる。

 

「…おい行くぞ」

 

 ここでポエナさんを強引に連れて行けるわけもない。ナンパ男達は居心地が悪そうに小

走りで逃げて行った。

 振り返ると、店員が軽いドヤ顔で親指を立ててきた。ノリが良い店員である。

 

「大丈夫?変なコトされてない?」

 

「はい、大丈夫です。服を掴まれたくらいです」

 

「ならよかった。じゃあ店員待ってるし会計しようか」

 

「分かりました…あっその前に、これなんですけど」

 

 ポエナさんが手にしていた物を俺の視界へと入れてきた。

 …白のフリルが可愛らしいブラであった。

 

「店員さんから買ってもらうならちゃんと意見を聞いておいた方がいいと言われまして。

その、これ私に似合いそうでしょうか…?」

 

 店員を見る。さっきよりドヤ顔でサムズアップしている。

 

「にっ似合ってると思うよ?服とかも選んでもらったのかなぁ~!」

 

 話題を逸らそうと服の話を振る。下着の話題よりはマシだ。

 

「はい、何点か選んでもらいました。ただ店員さんが下着に合わせたコーディネートをし

た方がいいと仰ってまして。先に下着を選んでいただきたいのですが」

 

 今度は黒の、若干透けている下着を楽しそうに見せてくる。

 店員を見る。いやらしい笑顔を向けながら売り場への逃げて行った。

 

(あの店員がぁ…!)

 

 それから値段と相談しながら下着を何点か選ぶと先ほどの店員がすでに選んでいた衣服

を流れるような動作で持ってきて俺に発言の隙を与えないまま会計へと促してきた。

 …何色の、どんな下着を選んだのかは俺とポエナさんと店員だけの秘密にしておこう。

 

 

 

 ―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「んぅ!?美味しい…!」

 

 自宅に戻ってから風呂を入れながら買ってきた総菜を広げて遅い夕食を始める。遅い時

間帯に行ったお陰で半額で購入できたのはお財布にはありがたい。

 

「聖域の料理ってどんな感じなの?」

 

「う~ん…食材をそのまま焼いたり煮たりで組み合わせてというのはあまりしないですね。

料理した物を販売する人もいますけど簡単なものが多いですね。あっただ鮮度と保存はか

なり良いですね。採れたてを術式で保存しているので何年経っても食べられますので」

 

「凄いな。こっちじゃ賞味期限切れで廃棄する弁当とか問題になってるからな」

 

「そうなんですか!?もったいないですね。こんな美味しいのに捨てちゃうなんて」

 

 一口ずつ楽しそうに、嬉しそうに食べていく。その姿が、とても愛おしく見えた。

 

(俺も彼女がいたらこんな風に食事して、一緒の時間を過ごしていたのかな…)

 

 勘違いしてはいけない。ポエナさんがここにいるのは事故だ。決して彼女になったとか

俺の好きにしていいわけじゃない。

 

(けど、ここまで金使って何も無しでお別れってのもなぁ…)

 

 いけない。俺の家にこんな美少女がいるというシチュエーションで頭がおかしくなって

しまっている。

 

「そっそうだ!そういえばデパートで絡まれてた時だけど、やっぱり力の加減してたの?

こっちの人間って脆いからすぐ怪我させちゃうだろうし」

 

「え?あれはその、特にそういうのは…私達翼族の身体能力は全種族最低なので。あれで

一生懸命抵抗してたんです」

 

「そっそうなのか…じゃあ外歩く時は気を付けないと…」

 

 あれで精一杯?ゲミュートや巨大化した腕を受け止めたり龍族は槍で突かれてもビクと

もしていなかったのに。翼族はかなり弱い種族なのではないだろうか。

 …俺がポエナさんを捕まえたとしても、ポエナさんは抵抗できず…

 

(何を考えてるんだ!ゲミュートにあんだけ啖呵を切ったっていうのに!)

 

 ここで手を出すなんて最低な事なんてできるわけがない。あの最高の勝利を穢すような

事はカードゲーマーの誇りが許すわけがない。

 

「あっ何か音楽が鳴りましたけど、あれはなんですか?」

 

「あっあれはお風呂入った合図だね!食べ終わったらポエナさんから入っておいでよ!」

 

「いいんですか?それではお言葉に甘えさせていただきます」

 

「ところで聖域のお風呂ってどんな感じなの?聞いている限り定住してないみたいだし、

無さそうというか…」

 

「身体を清める術式があるので大抵はそれで綺麗にしています。後は川や湖で洗ったりな

んですが、緑の大陸中央部にとんでもなく大きな温泉地帯があるんです。何度か利用しま

したけど、とっても気持ち良かったです」

 

「そうなんだ。それは俺も行ってみたいな」

 

「オリンピアが守っていた村から近いのでまた聖域に行ったら寄ってみましょう!」

 

「でも聞いた限りこっちの世界のお風呂は使った事無い感じか。食べ終わったら使い方を

教えておくよ」

 

「分かりました。よろしくお願いします」

 

 

 

 ―――【ポエナ視点】―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「とまあこんな感じかな。大丈夫?狭くない?」

 

「大丈夫です。それにしても、術式を使わずに温かいお湯を作れるなんて便利なんですね」

 

 食事を終え、来訪者さんに風呂場で使い方を教えてもらった。

 術式を使わない世界と聞いていたので不便が多いと思っていたけど、聖域より優れてい

る部分もいっぱいあって、とっても良い世界のようだ。

 

「それじゃあ、上がったら俺も入るから…夕食の片付けしてくる」

 

 来訪者さんはカーテンを閉めると早足で戻っていった。

 

「…良い人、ですね」

 

 ズボンのベルトを外す。サイズが大きかったのもあって自重でズボンが床に落ちる。

 

(カース様の事ですし碌な説明もしてないはず。急に聖域に来て…動揺していたとはいえ

来訪者さんに助けてもらって…理界に来ちゃった私にこんなに良くしてくれる)

 

 シャツを脱いでカゴに入れる。

 悪い人ではない。それはこれまでの言動や行動で理解できる。ただ…

 

(エッチなのは隠しきれていないというか…胸とか結構よく見てくるし)

 

 下着を外し、胸を掴む。

 視線が露骨な時があって何を考えているのかが分かってしまう。

 

(私に味方してくれたのも添い寝するからで、やっぱりそれが目的だから優しくしてくれ

ているのかな…?)

 

 下着もカゴに入れる。

 理界で生きていくアテなんて無い。いや、聖域に戻っても似たようなものだ。

 獣族は小規模の集落を作って生活している。両親は火の不始末で家と冬を越す為の衣服

を焼失させてしまった。これを無罪とする事はできず両親は首都にて投獄され、私は首都

で暮らす事になった。

 不自由は無かった。ただ、愛情だけは足りなかった。両親とまた一緒に暮らしたいと考

えて、自分が働いたら両親の罪が軽くなるのでは思って街から出て…

 翼王姫様に助けてもらえなかったら死んでいた。けど翼族になった事で私は獣族として

生きていけなくなった。

 霊王姫様によって緑の大陸で生きていけるようになり、同じような同胞と共に生きてき

た。戦争参加は義務のようなものだ。貢献しなければ恩を返す事ができない…私達の居場

所がまた無くなってしまう。

 

(なのに…なんでここにいるんだろう)

 

 教えてもらったボディソープというもので身体を洗っていく。未知の香りがするけど、

滑る感覚がとても心地良い。

 

(もし理界にいる間、見返りを要求されたら…)

 

 支払えるものはカードくらいしかない。興味はありそうだったけどカードだけで済むだ

ろうか…

 シャワーというものでボディソープを流していく。

 

(この後、添い寝をして…添い寝だけで済む、かな…)

 

 

 

 ―――【視点は戻る】―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 食器を洗い終え、買ってきた物を整頓する。日用品や衣服を分けていく。

 …下着も触れてしまったがまだ新品だ。まだただの布だ。気を落ち着かせろ…

 

「おっお待たせしました…」

 

 背後からポエナさんの声がした。整頓していたとはいえ下着を触っていたのもあってビ

クっと身体が反応してしまう。

 振り返ると、買ってきたばかりのピンクのパジャマを着たポエナさんがいた。

 髪はしっとりと濡れ、血行が良くなって頬を赤く染まっている。

 

「もっ問題なかった?」

 

「はい、その…問題ありませんでした」

 

 視線を逸らしながら応えるポエナさん…そのしぐさはとても色っぽく見えた。

 

「湯加減はどうだった?」

 

「大丈夫です。とても気持ち良く…っきっ気持ち良かった、です…」

 

 さらに顔を赤くして背を向けてしまった。何かまずい事で聞いただろうか?

 

「それじゃあ俺も風呂入ってくるから」

 

「はっはい、お待ちしてます…」

 

 待つ?何を…と考えて意識してしまった。俺が風呂から出たら、添い寝しないといけな

いんだと…

 

(かっ考えるな!俺が何もしなければいいんだ!心頭滅却!心頭滅却ぅ…!)

 

 逃げるように脱衣場へ駆け込みカーテンを閉めた。

 

「はぁぁぁ…!意識するな意識するなよぉ…」

 

 シャツを脱いでカゴに入れる…寸前に白い物が見えた。膨らみがある。

 ゴクンと喉が鳴る。動揺してか自分のシャツが手から落ち…俺はそれを手に取った。

 

「はぁ…はぁ…!はぁ…っ!!うぉおおぉぉぉっ!!!」

 

 傍にあった洗濯ネットを鷲掴みにする。手にしていたそれともう片方をネットに入れて

洗濯機の中に投げ入れる。カゴを掴んで残った中身を全部洗濯機へ叩き込んで洗剤を専用

口にぶち込んで蓋をしてスイッチを叩いた。水が注入されていく。

 

「はぁっ!!はぁ…っ!はぁ…みっ見たか!これが俺のっ覚悟だぁ!!!」

 

 自分の分はもう明日にしよう…残った衣服を脱いでカゴに入れてから風呂場に入る。

 散らかった様子は無く綺麗なままだった。

 ただ…あの良い匂いがまだ残っていて、さっきまで使っていたという事実を想起させた。

 俺は…もう限界だった。

 

 

 

 ―――【ポエナ視点】―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 教えられた部屋の中。ベッドに座りながら落ち着かずにあの人を待っている。

 部屋は、散らかっている。デパートの袋や見た事無い機械、本がそこら中に乱雑に置か

れている。下手に弄るわけにもいかず、どうするべきなのか考える。

 

「こっこのベッドで、添い寝を…もしかしたらもっと凄いコトも…!」

 

 ベッドは1人分なら余裕があるが、2人で寝るとなると明らかに狭い。共に寝るとなる

と、密着するしかない。

 枕は、大きめだけどひとつしかない。

 

(なんで私あの時添い寝するなんて言っちゃったんだろう…!)

 

 絶対に添い寝だけで終わるわけがない。きっと身体中を触られて、それ以上のコトを要

求されてしまう。

 まだ翼族として力の弱い私では抵抗できない。理界で生活するには彼の助けは必要にな

る。大人しく彼のされるがままになるしかない。

 

(信じなきゃ…あの人はそんな事しないって思わなきゃ…でっでも…!)

 

 鎮めたはずの身体が熱くなっていく。痛いくらい動いている鼓動が治まってくれない。

 カチャっと音がして、彼が部屋に入ってきた。

 

「…おっお待たせ」

 

 パジャマに着替えた彼の手には、細長い布と白い紐があった。

 

(紐!?寝るのになんで…まさか、それで私を縛って!?)

 

「っあの、そのぉ…!」

 

「ポエナさん!」

 

「ひゃいっ!?」

 

 動揺したような声色で叫んだ彼は…白い紐を私に手渡した。

 そして細長い布で目を覆い結んだ。

 

「それで俺の手首を縛ってくださいっ!」

 

「え、え?それは、理族の就寝の儀式か何かなんですか?」

 

「俺がポエナさんに変なコトしないようにするためですっ!!!」

 

 彼の言葉を理解するのに少し時間が掛かってしまった。

 

「…ふふっ」

 

 思わず笑ってしまった。

 何を考えていたのだろう。男性だからエッチなコトをしてくると思い込んで、彼を事を

信用できなかったなんて。

 

(そうだよね。もし本当にそういうコトしたいなら、ゲミュートさんの味方になっている

はずですよね)

 

「分かりました。しっかり結ばせてもらいますね」

 

「お願いします!後!背中合わせにすれば寝た後も変なコトしないと思うので、その…」

 

「分かりました。背中合わせですね」

 

(この人なら信用してもいいかな…)

 

 手首を紐で結んでからベッドへと手を引いて誘導して、背中合わせで横になった。

 

「…なんだかすごい状況だ」

 

「ふふっそうですね。でもこれって、添い寝と言っていいんでしょうか?」

 

「だよね。俺もそれを考えていた。それにしてもおかしな話だよ。部屋は他にもあるのに

さ、こうやって一緒に寝ないといけないなんてさ」

 

「そういえばご家族はおられないんですか?」

 

「あぁ…何年か前に亡くなったよ。高齢だったところに病気が世界中で流行してさ。兄貴

がいるけど結婚…はなるべく言わない方がいいな。相手の家の方が仕事場近いからそっち

で暮らしてるんだ。そういう意味じゃここは俺の家とは言い切れないかなぁ…」

 

「…ごめんなさい。嫌な事を聞きました」

 

「いいよ。俺だってポエナさんの嫌な事聞いちゃったし」

 

「すいません…すいませんのついでですけど、私の為に色々買ってもらってその…お金と

かも…」

 

「…正直に言うと、そこは結構まずい。少し前に腰を痛めた所為で仕事辞めてるから収入

が無いんだ」

 

「そっそれならなんで私の為に!?」

 

「俺が調子に乗って添い寝してくれるならなんて条件出したから」

 

「でもそれは私が言い出した事で…」

 

「…もう止めない、お互いに自分が悪いって言うの。誰が1番悪いかって言うなら絶対に

ゲミュートが悪いわけだし」

 

「…そうですね。ではゲミュートさんが全部悪いという事にしましょう」

 

「そうだね…ポエナさん。俺今日、楽しかったんだ。異世界に行けた。人生であんなに楽

しいカードゲームは正直初めてだった。それに俺、どこか寂しかったんだと思う。家族の

いない家で何年も1人で暮らして。仕事で嫌な事があっても共有できる人がいなくてさ。

それを紛らわす為に配信とかもして…ポエナさんと今日こうしていられて、俺は嬉しい」

 

「私も…聖域では同胞はいても近しい友人はいませんでした。家族の事を考えながら、ま

たあんな生活ができればいいなって思って生きてきました。私も貴方と会えてよか…あっ!」

 

「え?どうかした?やっぱ俺といるの嫌だった!?」

 

「ちっ違います!そういえばずっとその…貴方の名前を聞いていなかったなって」

 

「あっそういえば…なんか名乗る機会無かったな」

 

「教えてもらえますか?貴方の名前」

 

「…良治。榊良治。聖域って名字…ファミリーネームとかってある?」

 

「特に無いですね。じゃあ…リョージさんとこれからは呼ばせてもらいますね。これから

よろしくお願いしますね、リョージさん」

 

「ああ、これからよろしく…ポエナさん」

 

 目を閉じる。安心できたからか眠気が襲ってきて、すぐに意識を手放した。

 

 

 

 ―――【視点は戻る】―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 眠れない。

 ポエナさんの寝息が聞こえる。

 

(これで眠れる奴の顔が見てみたいわ!)

 

 風呂場でこれでもかというほど発散してきたというのに、煩悩が1ヶ所に集まっていく

のが分かる。

 明日は聖域に行けるか確認する。

 ゲミュートと会えたら殴る。

 創世王と謁見する為に5人の王姫と出会って強化を得る。

 絶対1日では達成できそうにない。

 つまりこの生活はしばらく続く事になる。

 

(耐えろ俺…そのうち眠たくなってくるはずだ…羊が1匹…羊が2匹…羊が3匹…!)

 

 別の事を考えながら眠気が来るのを待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――◇―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

  今日あった面白エピソードを話せ315

 

 334:名無しの語り手

  私デパートの店員。面白いカップルに遭遇した

 

 335:名無しの聞き手

  ほう、kwsk

 

 336:名無しの聞き手

  面白いカップルってどんなの?

 

 337:名無しの聞き手

  修羅場か?修羅場なのか?

 

 338:名無しの聞き手

  期待していいんだな?

 

 339:名無しの語り手

  30代くらいの金持ってなさそうな冴えないおっさんと超絶美少女が来店した

 

 340:名無しの聞き手

  いきなり落差がすごいんだがwww

 

 341:名無しの聞き手

  超絶美少女!?!?!?

 

 342:名無しの聞き手

  待て、そこを詳しく説明しろ

 

 343:名無しの聞き手

  おっさんの情報はどうでもいいから美少女の情報をくれ

 

 344:名無しの聞き手

  お前らの食いつき方に草

 

 345:名無しの語り手

  凄い長い黒髪でたぶん10代後半くらい

  スタイル抜群でモデルかと思った

 

 346:名無しの聞き手

  黒髪ロングでスタイル抜群の美少女……だと?

 

 347:名無しの聞き手

  そんな逸材がデパートにいたのかよ!

 

 348:名無しの聞き手

  モデルだと思ったってことはマジでレベル高いんだろうな

 

 349:名無しの語り手

  あと肩の後ろあたりに小さな天使の羽みたいなものが浮かんでた

  アクセサリーなのかな?

 

 350:名無しの聞き手

  は?浮かんでた?

 

 351:名無しの聞き手

  浮かんでる天使の羽のアクセサリーって何だよ

 

 352:名無しの聞き手

  知らないアクセサリーだな。最近はそんなのが流行ってるのか?

 

 353:名無しの聞き手

  髪飾りとかピアスならわかるけど空中に浮かんでるってどういうことだよ

 

 354:名無しの聞き手

  透明な糸で吊ってたとか、そういう仕掛けじゃないの?

 

 355:名無しの語り手

  いや、近くで見ても何かで吊ってるようには見えなかったんだよね

 

 356:名無しの聞き手

  まさか本物の天使だったりしてwww

 

 357:名無しの聞き手

  黒髪美少女天使と冴えないおっさんのカップルか。ラノベかな?

 

 358:名無しの聞き手

 天使なら美少女だとしても納得……ならなんで相手がおっさん?

 

 359:名無しの聞き手

  羽のアクセサリーまで含めてファッションが完成してるのかもな

 

 360:名無しの聞き手

  写真は?写真はないのか!?

 

 361:名無しの語り手

  あるわけないだろwww仕事中だぞwww

 

 362:名無しの聞き手

  店員が盗撮してたらそっちのほうが問題だわ

 

 363:名無しの聞き手

  せめて芸能人で例えるとか雰囲気だけでも教えてくれ

 

 364:名無しの語り手:

  いや本当に見たことないくらい綺麗な子だった。しかも礼儀正しい

 

 365:名無しの聞き手

  性格までいいとか強すぎるだろ

 

 366:名無しの聞き手

  で、その2人はどういう関係なん?

 

 367:名無しの語り手

  ヨーロッパから来た旅行者だって話だった

  空港で荷物をなくしたから服を買いに来たらしい

 

 368:名無しの聞き手

  ヨーロッパから来たのか

  それで荷物無くすとか災難だな

 

 369:名無しの聞き手

  海外の空港って荷物が行方不明になる話よく聞くよな

 

 370:名無しの聞き手

  乗り継ぎがあるとロストバゲージの危険が増えるんだっけ?

 

 371:名無しの聞き手

  荷物を預けるときはタグと預け入れ控えを確認しとけよ

 

 372:名無しの聞き手

  空港の荷物事情を語るスレじゃねーぞ

 

 373:名無しの聞き手

  2人の関係が気になりすぎるんだが

 

 374:名無しの語り手

  私は衣服や下着選びを手伝った。なお私は女性。

  美少女のスリーサイズ測りました!

  なお調子に乗ってセクシーな下着も勧めました。反省はしていない

 

 375:名無しの聞き手

  セクシーな下着!? 詳細を!

 

 376:名無しの聞き手

  どんなのを選んだんですか店員さん!

  色! 形! 大事なのはそこだ!

 

 377:名無しの聞き手

  美少女のスリーサイズも教えろください!

 

 378:名無しの語り手

  守秘義務があるから下着の具体的な内容は書けぬ

 

 379:名無しの聞き手

  ぐあああああああああああああ!

 

 380:名無しの聞き手

  そこをなんとか!スリーサイズだけでも!

 

 381:名無しの聞き手

  客のプライバシーを守る店員の鑑であり画像も無しにレスするクズがよぉ

 

 382:名無しの聞き手

  そんな美少女がおっさんとどんな関係だよ

  パパ活?いくらで買えます?

 

 383:名無しの語り手

  年齢差もあるしおっさんはあんまりお金を持ってなさそうだった

  なので少しカマをかけてみた

 

 384:名無しの語り手

  カマをかけたって何を聞いたんだ?

 

 385:名無しの語り手

  予算いくらくらい?おっさんとこんな時間にデート?とか

  結果。色々あってあのおっさんに助けてもらったらしい

  ナンパ男に絡まれて?助けてもらった?でもなんかゲームっぽい単語混じってた

  ゲーム内でナンパされてたのを助けた?

 

 386:名無しの聞き手

  助けた俺にオフで会う事になって日本に来たら荷物喪失の流れか?

 

 387:名無しの聞き手

  ありえるけど、それでわざわざヨーロッパから日本に来るのか?

 

 388:名無しの聞き手

  そのおっさん本当に大丈夫な人なのか?美少女騙してホテル連れ込むつもりじゃ?

 

 389:名無しの聞き手

  黒髪美少女を連れ回す金のなさそうなおっさん……妙だな

 

 390:名無しの聞き手

  これってエロ同人誌の導入部分だろ

  この後ホテルでエッチな事するんだ…!

 

 391:名無しの聞き手

  その薄い本どこで売ってる?

 

 392:名無しの聞き手

  まとめると

  ゲームで知り合った美少女が日本に来たら荷物喪失したので買いに来たと

  それで?そんだけ?

 

 393:名無しの語り手

  会計の時に美少女が財布を持っていないからと売り場を離れました

 

 394:名無しの聞き手

  財布を持ってない?まさかおっさんが全額払う展開か?

 

 395:名無しの聞き手

  金無いのに美少女の衣服やセクシーな下着(重要)を買える?

  これ絶対エロいコトする為に恩売ってるだろ

 

 396:名無しの語り手

  その直後、美少女が通路でナンパ男2人に絡まれてた

  明らかにエロ目的だと判明するもこちらは店員なので下手に動けず

  肩抱いてるし服引っ張ってブラとか覗き込んでたので男の店員を呼ぶ準備を始める

 

 397:名無しの聞き手

  ナンパキターーーーーー!

 

 398:名無しの聞き手

  これはおっさんが助けに入る流れか!?

 

 399:名無しの聞き手

  通に怖くて逃げる可能性

 

 400:名無しの聞き手

  相手は2人だし無理に割って入るのは危険だろ

 

 401:名無しの聞き手

  超絶美少女を助ける冴えないおっさん

  漫画ならおっさんか主人公が助けに入るところだな

 

 402:名無しの聞き手

  くそ!俺も美少女のブラみてぇよ!

 

 403:名無しの聞き手

  それで誰が助けたんだ?それともナンパ男にお持ち帰りされた?

 

 404:名無しの語り手

  おっさんがやってきて大声を出した

  会計しないといけないから急ごうって感じ

 

 405:名無しの聞き手

  うおおおおおおおおおおおおお!よくやったおっさん!

 

 406:名無しの聞き手

  おっさんやるじゃねえか!

 

 407:名無しの聞き手

  怖かっただろうに助けに入ったのは偉い。よくやった!

 

 408:名無しの聞き手

  さっきまでパパ活だの騙してるだの言ってたのによぉ…

 

 409:名無しの聞き手

  さすがにこれはおっさんの評価が上がったわ

 

 410:名無しの聞き手

  美少女のほうは大丈夫だったのか?

 

 411:名無しの語り手

  問題無し。そこで私が「早くお会計お願いします」ってわざとらしく返した

  結果ナンパ男達は空気が悪くなって逃げて行った

 

 412:名無しの聞き手

  店員さんもGJ!

 

 413:名無しの聞き手

  おっさんと店員さんの連携プレーだったわけか

 

 414:名無しの聞き手

  こういうときに周りが協力してくれるのはありがたいな

 

 415:名無しの聞き手

  で、助けた後はどうなったんだ?

 

 416:名無しの語り手:

  おっさんも美少女も怪我とか無し

 

 417:名無しの聞き手

  よかった…酷い展開にならなくて

 

 418:名無しの聞き手

  現実でエロ同人展開はNG

 

 419:名無しの語り手

  なお事前にちゃんと相談して決めた方がいいと言っておいた

  美少女が選んだ下着をおっさんに見せながらおっさんがどれにするか選んでいた

 

 420:名無しの聞き手

  は?????????

 

 421:名無しの聞き手

  ちょっと待って、下着を見せて選ばせた???

 

 422:名無しの聞き手

  おっさん、お前そこ代われ

 

 423:名無しの聞き手

  これからホテルに行く下着を選んだんだろおっさんよぉ!!!

 

 424:名無しの聞き手

  俺も美少女に下着選びを相談される人生がよかった

 

 425:名無しの聞き手

  おっさんの特定はよ

 

 426:名無しの聞き手

  しかもそれ、店員さんが仕向けたの?

 

 427:名無しの語り手

  その方が面白いでしょう?

 

 428:名無しの聞き手

  店員さんGJと言いたいところだが嫉妬で心が2つに割れそうだ

 

 429:名無しの聞き手

  どうして俺じゃないんだ

 

 430:名無しの聞き手

  俺なら真剣に選ぶぞ。素材とデザインと機能性と実用性と味を考慮してだな

 

 431:名無しの聞き手

  お前に選ばせる機会は永遠に来ないから安心しろ

 

 432:名無しの聞き手

  味ってなんだよ…

 

 433:名無しの聞き手

  まあ金払うのおっさんならそのくらいの役得あってもいいだろ

 

 434:名無しの聞き手

  やっぱりパパ活じゃね?

 

 435:名無しの聞き手

  財布も無くしたんだろ

  お返しはベッドの中でだろうけどなぁ!!!

 

 436:名無しの聞き手

  親戚のおじさんと姪っ子とかならどうだ?

 

 437:名無しの聞き手

  ワンチャン親子説もあるだろ

  若く見える娘と父親なら年齢差も自然

 

 438:名無しの聞き手

  30代のおっさんと10代後半なら兄妹…はさすがに無理があるか?

 

 439:名無しの聞き手

  おれも黒髪美少女の妹が欲しいよおおおおおおおおおお!!!

 

 440:名無しの聞き手

  両親が離婚してヨーロッパで出来た子供が兄を頼ってきたというのもあるか?

 

 441:名無しの聞き手

  冴えないおっさんと美少女だろ?兄妹って感じじゃなさそうだな

 

 442:名無しの語り手

  なお全然似てなかった

 

 443:名無しの聞き手

  ほな兄妹とちゃうかぁ

 

 444:名無しの聞き手

  ちょっとパパ活アプリでそういう子いないか探してくる

 

 445:名無しの聞き手

  いたらもう殺到してるわ

 

 446:名無しの聞き手

  家出したのを拾った同人展開だ!

 

 447:名無しの聞き手

  海外の親戚だとして、なんでおっさんが金出してるんだよとはなる

 

 448:名無しの聞き手

  パパ活説、親戚説、親子説、兄妹説、そして普通に恋人説

  さあどれだ!?

 

 449:名無しの聞き手

  個人的には異世界から来た姫と一般人のおっさん説を推したい

 

 450:名無しの聞き手

  どこのデジタル小説だよwww

 

 451:名無しの聞き手

  天使が地上にやってきてお世話する事になったおっさん…?

  これ平成のアニメで見た事ある…!

 

 452:名無しの聞き手

  俺のところにも天使来ないんですけど~?

 

 453:名無しの聞き手

  そこの棚に無ければないですね

 

 454:名無しの聞き手

  美少女は笑って帰っていった?

 

 455:名無しの語り手

  楽しそうに笑っていたよ

  あれは強引にっていう感じではなかった

 

 456:名無しの聞き手

  それならよかった

 

 457:名無しの聞き手

  おっさん、見た目は冴えなくても中身はいい人なのかもしれん

 

 458:名無しの聞き手

  でも幸せそうならOKです!

 

 459:名無しの聞き手

  それはそう

  ただし美少女に下着を選ばせてもらえる権利は別だ

 

 460:名無しの聞き手

  あ~俺のところにも美少女天使落ちてこねぇかな~!

 







余談

ポエナから良い匂いがするという発言が多めですが、
翼族という種族全体で「魅了の光粉」という術式が常時発動しています。
異性を誘惑するというものです。

翼王姫が創世王の気を引く為に無意識に作り出したもので、現状誰も完全制御できていません。
ポエナは若くて実力も伴ってないので香水かな?と思うくらいの効力になっています。
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