ターン・アラウンド! ~ Over the Sky ! ~   作:ユウタロス

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第1話 Incomincia la storia !

 「─── 貴女に一目惚れしました!! どうか自分とお付き合いして下さい!!」

 

 先程までワイワイと賑やかな様子だった宴会場内はシンと静まり返った。生徒達の注目の的になっているのはサラダコーナーにいる赤毛の少年と、黒い翼を持つ少女だ。

 少年は片手を自らの胸に当てながら片膝を付き、向かい合う少女に手を伸ばしながら、顔を真っ赤に染め、真剣な表情で叫ぶように告白をしている。

 今時三文歌劇でも見ないような情熱的な告白に周囲の生徒達は固唾を飲みながらお相手の少女を見守る。

 一方、告白された黒い翼の生えた少女──肩口まで伸ばした黒い髪、若い少女にしては高めの身長、スレンダーだがしっかりと筋肉が詰まったアスリート体型、そして何より人形のように整った顔立ち。文句無しの美少女である──の方はというと、サラダを食べる手を止め、ぬぼーっとした表情でひと言。

 

「ごめんね、無理」

 

 少年がガックリと崩れ落ちた。考える素振りすら見せない即答である。そうして項垂れる少年を見下ろしながら、少女は続けて口を開く。

 

「私、自分より遅いヒトに興味ない。あと、飛べないヒトにも興味ない」

 

 もうケチョンケチョンであった。

 事の推移を見守っていた周囲の生徒達は一様に「何と言うか、こう…もう少し、手心と言うか……」といった表情を浮かべながら、居た堪れなさそうに振られた少年の様子を伺う。

 衆人環視の中でここまで見事なフラれっぷりを晒したのだ。多分泣いてるだろうし、誰かしら付き添って外の空気でも吸いに行かせて……そう思ったのも束の間、ガバっと少年が顔を上げた。

 

「じゃあ! 貴女より速く空飛べたら、付き合ってくれますカ!?」

 

 全然堪えてなかった。むしろ攻略の糸口を見つけたとでも言いたげなキラキラした表情だ。

 この時点で近くに居た生徒達からの大半の評価は「あ、こいつバカなんだな……」で固まった。

 一方の少女は少し驚いたような表情をする。とても意外なものを見たような顔だった。

 

「私に勝てるなら、良いよ」

「ありがとうございます! 特訓して、出直して来マス!!」

「ん、頑張ってね」

「Senz'altro(センザルトロ)!! ……っと、失礼。勿論です!」

「じゃあ、『天翔祭』で」

「はい! あ、それと! お名前を伺って宜しいでしょうカ!?」

 

 「お前マジで相手知らずに告白したんか……」といった、驚愕を超えて感心すら漂い出した周囲をよそに少年は頭を下げる。

 少年としては、少女を一目見た瞬間に雷に撃たれたような衝撃が訪れており、内心いっぱいいっぱいになっていたのだ。

 “まず相手が誰かを知る”という対人コミュニケーションの基礎の基礎すら投げ捨てる程度には衝動的な告白だった。

 一方の少女は呑気にサラダを食みつつ、しっかり20回咀嚼してゴクンと嚥下し、グラスの柑橘ジュースを飲み干してからようやく口を開いた。

 

「天羽(あもう) 玖麗晶(くりら)」

「よろしくお願いしマス、Chlira(クリラ)・Amhou(アモウ)さん!! 自分は、Lucias(ルキアス)・Artieri(アルティエーリ)、デス!!」

 

 これが、東国魔法学園史に残る伝説的名飛行レース群の、始まりの一戦。

 「第八十九回東国魔法学園・夏季飛翔競技会『天翔祭』・総合部門」───通称『箒翼恋空(そうよくこいぞら)・夏の陣』開戦の狼煙であった。

 

 

 

────────────────────

 

 

「───東国魔法学園・夏季飛翔競技会?」

 

 翌日。赤毛の少年ルキアス・アルティエーリ、愛称ルカは東国魔法学園教育学部を訪れていた。目的は黒翼の少女『天羽玖麗晶』と勢いで出場の約束を交わした『天翔祭』についての情報を得るためである。

 

「ええ、毎年8月8日から8月12日までの5日間。この国で『翼の週』と呼ばれている期間に行われる、学園の伝統行事なんですよ〜……はいコレ、去年の冊子です」

「ありがとうございます」

 

 ルカは朗らかに説明する事務員から『天翔祭のススメ』と書いてある冊子を受け取り、パラパラとめくる。

 内容は学園の理念や各学部の特徴、学園の大まかな地図、5日間の開催行事表や出店リスト、トラブルや体調不良者が出た場合の緊急連絡法、災害時の避難経路等々……色々な情報がかなりギッシリと書き込まれていた。

 留学のため、ある程度は東国語を学んできたとはいえ、流石にこうもキチキチに書き込まれると目がしぱしぱしてくる。

 

「ねえ、もしかしてだけど。昨日、新入生歓迎会で告白した子ってキミ?」

「え?」

 

 ルカが額にシワを寄せながら冊子を読み込んでいると、先程ルカの対応をしてくれた事務員とその同僚数名がウキウキとした表情で聞いてくる。

 もしや昨日あの場に居たのだろうかと思いつつ頷く。「確かに歓迎会の只中で告白したのは自分である」と。

 

 すると事務員達はまるで生娘のように「キャー!!」と黄色い声を上げて騒ぎ出す。

 

「良いわね良いわね、青春ねー!!」

「それで『天翔祭』でお付き合いを賭けたレースに出るんでしょ!?」

「西の国の男の子は情熱的ね!!」

「お姉さんもキミみたいな可愛い子に、そんな事言われてみたいわ〜!」

「おい事案だぞ三十路ババア」

「あ゛ぁ゛ん゛!!?」

 

キャーキャーワーワー、ピーチクパーチク、喧々囂々《けんけんごうごう》。この国には『女三人寄れば姦しい』と言う教訓があるらしいが、まさにその通りである。

 

「────話は聞かせてもらったァッ!!」

「Ohi(オィ)!?」

 

ルカが取っ組み合いに発展した事務員の争いにオロオロしていると、突然背後からバカの様に大きな声。驚きの余りルカは椅子に座った状態から数cm飛び上がると、恐る恐る背後を振り返る。

 そこには筋骨隆々長身短髪角刈り太眉で彫りの深い顔立ちの、ルカがこの国の学生に抱いていたイメージそのまま、典型的な『東国男児』が腕組みで仁王立ちしていた。

 

「───そこな赤毛の少年ッ!!! お前も箒部に入らな「───教育学部で騒ぐなアホ大悟ッ!」ブフォッ!?」

「Che c'è(ケチェ)!?」

 

 東国男児がルカに太ましい右腕を差し出しながら何か言おうとした瞬間、脇から飛び出してきた白い影──白(・)猫(・)獣(・)人(・)の(・)少(・)女(・)が突き出されていた腕を支点に、逆上がりの要領で回転しながら東国男児の顔を蹴り飛ばした。

 

そうして倒れた東国男児を、白猫獣人の後方から歩いて来た線の細い糸目の男と、ルカよりも小柄な少女が二人がかりでズリズリと引きずって外に出て行く。

 

「ぐぉぉおおお、何をするお前達ィィィィィ!!」

「──やかましい! ジブン喋るとややこしなるから黙っとき、こん筋肉ダルマ!」

「──ほな、ボクらは部長を運び出しますさかい。お話はお任せしますわ、副部長」

「クッ……少年ッ! お前も箒部に入らないかァァァァ……!!!!?」

 

ズルズル、ズルズル、ガッ、ゴッ、ガンッ、ズルズル、ズルズル……

 

「チョ、イテッ、イテェヨ、モウチョイテイネイニ……!」

「カイフクアルンヤカラダマットキ……!」

「フクブチョウモスタンジョウズリマシタナァ……」

 

声が遠ざかっていく。道中やたらと鈍い音が響いている。

 

「これが、東国のcomicità(コミチター)……?」

「──ン゙ッ、ン゙ン゙ッ!……えっと、そこの赤毛君。ちょっとお話良いかな?」

 

ルカが真剣に考えていると、横から咳払いが聞こえる。

そちらを向くと、先程東国男児を蹴り倒した(ご丁寧にも感電魔法(スタン)まで付与していたらしい)白猫獣人の少女が猫撫で声で近付いてきた。

 

「…………なんでしょうか…?」

「あ、ごめんね!? 別に怪しい者じゃなくって……アタシ、魔法薬学部の風見 澪(かざみ みお)! えっと、キミがルキアス・アルティエーリくんで合ってるかな?」

「………Beh(ベー)……まあ、ハイ……」

「あ~う警戒されてる〜……バカ大悟め〜……」

 

驚かせた小動物の様にジリジリと距離を取りながら答えるルカを見て白猫獣人──風見澪は頭を抱える。ルカとしては先程の東国男児だけでなく、彼女ら一行全員の行動から警戒しているのだが、彼女には知る由もない。

暫くうんうんと考え込んでいたが、やがて意を決した様子で再びルカに向き直る。

 

「えっと、『天翔祭』の飛行レースに出場するって言うのは本当かな?」

「……まあ、ハイ。アモウさんと約束させてもらったので」

「うんうん、ニャるほどニャるほど……ちなみになんだけど、そのア(・)モ(・)ウ(・)さ(・)ん(・)って言うのは天(・)羽(・)玖(・)麗(・)晶(・)選(・)手(・)で間違いない感じ?」

「ハイ……選手?」

 

 澪の言葉にルカが首を傾げると、澪は「アチャー」といった感じで顔を覆う。

 

「ルキアスくんって、東の国の飛行レースとか詳しくない感じ?」

「えっと、ハイ……あの、アモウさんは有名なのですか?」

「あー、うん、まあ、有名だね〜……ルキアスくん、国(・)体(・)──国民総合大競技会って分かるかな……?」

「国民、総合……『Torneo(トルネーオ・) della(デッラ・) Regione(レジョーネ・) Occidentale(オッチデンターレ)』……Beh(ベー)……『西方領域競技大会』みたいな、ものですか?」

 

 聞こえた言葉の意味から、ルカが自分にとって最も近しいと思われるスポーツ大会の名前を挙げると、澪は目を開いてポムポムと拍手する。

 

「あー! そうそう、そんな感じ! ルキアスくん東国語上手だね〜! 東の国だと毎年10月頃にやる大きい大会なんだよ!」

「えっと、ありがとうございます……それで、その大会が何か……?」

「候(・)補(・)選(・)手(・)」

「……え?」

「飛(・)行(・)レ(・)ー(・)ス(・)空(・)翼(・)部(・)門(・)国(・)体(・)候(・)補(・)選(・)手(・)なんだよ、天羽 玖麗晶選手って」

 

 国体候補選手。

 ルカ達西方領域の人間で考えるならば、国(・)家(・)代(・)表(・)候(・)補(・)。生来の飛行種族である天狗の中でも、圧倒的なトップアスリート。

 

 そしてそんな相手に僅(・)か(・)4(・)カ(・)月(・)で(・)レ(・)ー(・)ス(・)に(・)挑(・)む(・)のだ。

 誰が?

 勿論、玖(・)麗(・)晶(・)と(・)約(・)束(・)し(・)た(・)ル(・)カ(・)が(・)で(・)あ(・)る(・)。

 

「……Ma」

「ま?」

「Mamma(マンマ) mia(ミーア)……」

 

 あまりのハードルの高さに、ルカは頭を抱えて机に突っ伏す。その瞬間、ルカの脳裏に、かつて故郷の父や兄達に掛けられた言葉がよぎる。

 

『『『───いいかいルカ。男だったら、死んでも女の子との約束は守りなさい。守れない男に、女の子とお付き合いする資格は無い。そんな腰抜け野郎はタマとって犬に───』』』

『6歳の子供に何を言ってるの、このロクデナシ共ッ!!!』

『『『げえっ!moglie(モーリエ)!?』mamma(マンマ)!?』』

 

 余計な言葉とmamma(マンマ)の壮絶な折檻の様子まで蘇って来たので、頭を振って追い出す。

 とにかく、約束したからには最善を尽くす他無いのだ。

 元よりルカに他人との約束を軽んじる様な性根など備わってないし、何より他ならぬクリラとの交(・)際(・)を(・)賭(・)け(・)た(・)約(・)束(・)なのである。

 衝動的なものとは言え、ここで怖気付く位なら告白などしていないのだ。

 

 とは言え、ルカは魔法人形師──バリバリのインドア系職人の家系である。

 最低限箒や絨毯の乗り方程度は分かるが、それでどうにかなる相手が国家代表候補になれる訳もなく。

 東国には魔法金属の加工技術を学びに来ただけで、それ以外のツテなどある筈も無く……。

 

「えっと、ルキアスくん大丈夫……?」

「あ、ハイ、問題ないです……そう言えば、えっと……ミャオ先輩は、自分にどういったご用事でしょうか?」

 

 うんうん唸っているルキアスを心配した様子で澪が声をかけてくる。妙な見世物を見せられたが、一応優しい人らしい。

 そう思ったルキアスに向かって澪が口を開く。

 

「うん、えっとね……ルキアスくん。箒(・)レ(・)ー(・)ス(・)部(・)に(・)興(・)味(・)な(・)い(・)か(・)な(・)?」

「Interessato(インテレッサート)!! 興味ありマスッ!!」

 

 

 ───どうやら、まだルカの幸運への“貸し”は残っていたようだ。




初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです。
最近執筆欲が復活してきたので、数年ぶりに筆を執りました。
書き溜めは6話まで、それ以降は完成次第投下します。
一応最終話までのプロットは有るので、時間は掛かりますがきちんと完結させるつもりです。

それではよろしくお願いします。
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