転校生の暁美ほむらさんが毎日こちらを睨んでくる件   作:テト

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突然の削除の件、本当に申し訳ございませんでした。

改めてこの作品は細かい描写に修正を加えつつ、大筋のストーリー展開は4話からリメイク前と分岐していく予定です。


第1話

 

俺の14年間の人生は、その殆どが病室とその窓から見える狭い空だけで完結していた。生まれつき現代医学では治療不可能な難病を患い、運動どころか歩く事すら困難な苦しみに満ちた時。そんな中で俺にとっての唯一の娯楽はライトノベルや転生モノといった小説や、スマホの小さな画面で楽しむアニメの世界であり……特に好きだったのは可愛らしい美少女になるTSモノだった。

 

 

己という肉体、そして存在そのものを嫌うあまり生まれる一種の逃避願望が好む理由として大きかったのは否定できないが、それでも良いジャンルだと心の底から断言できよう。誰とも関わりを作る事ができなかった身としては、是非とも女の子同士で仲良く楽しい生活を送りたい。

 

 

(もし……もし生まれ変われるなら、次の人生は美少女にTS転生したいなぁ)

 

 

死の間際、朦朧とする意識の中で当然そんな事は実現しないと理解しながら抱いた妄想に等しい願い。そして視界が暗転し、終わりを迎えたと思っていた……のだが、どうやら神様はこんな惨めな俺を見て同情してくれたらしい。どこまでも暗闇が続く空間にふと一筋の光が差し込み、それに導かれるように俺が目を開くと見知らぬ女性に抱きかかえられていて……彼女は優しい瞳を俺に向け、こう告げた。

 

 

「貴方の名前は花音よ」

 

 

その瞬間、俺は理解した―――自分が転生したのだと。しかも告げられた名前からして女の子である事も間違いない……生まれ変われるだけでも万々歳なのに、まさかの憧れだったTS転生ですか。神様マジでありがとう! 内心感謝を述べる俺であった。

 

そしてそこから、美しい銀髪とまるで精巧なルビーを思わせる宝石のような赤い瞳、小柄な体型もまた愛らしさを際立たせ……近衛花音こと俺は自分でもビックリなほどの超の付く美少女と成長した。健康な体と可愛い容姿。

 

 

「毎日感謝の正拳突き1万回したい気分だわ……」

 

 

どこぞの協会の会長みたいな真似など常人にできるはずもないのだが、それぐらい浮かれていたということである……まあそこら辺はともかく、こうして前世での願いを叶えた俺は至って平穏な日常を享受していた。

 

 

そして季節は巡り、俺が中学2年生に進級したとある日の通学中にて。

 

 

「―――おっはよー!」

 

 

後ろから鈴を転がしたような透き通った声が響き、小走りで駆け寄ってきたのは俺の幼馴染である鹿目まどかさんだった。桃色の髪をリボンで結び、ふんわりと柔らかな雰囲気と優しげな瞳は見ているだけで癒されるような愛らしさを持っている。

 

 

「おはようございます」

 

彼女に挨拶を返すのは容姿端麗文武両道、常に上品でおしとやかなピアノや日本舞踊にお茶など様々な習い事をこなす生粋のお嬢様である志筑仁美さんだ。

 

 

「まどかおそーい、おっ可愛いリボン!」

 

「そ、そうかな、派手すぎない?」

 

そして元気な声を上げているのは、まどかさんと同じ幼馴染の美樹さやかさん。爽やかなボーイッシュさを感じさせる鮮やかな青いショートヘアを持つ、快活な少女だ。

 

 

「とても素敵ですわ」

 

「仁美さんの言う通りですよ、まどかさんに似合ってて可愛いって思います」

 

「えへへ……ありがとね、仁美ちゃん、花音ちゃん」

 

「まったく~、私は2人が羨ましいよ。常時男子からモテモテでさあ、少しはその輝きを私に分けてくれませんかねー?」

 

「もうっ、さやかさんったら。私は別にそんな事ありませんわ、ですがまあ……」

 

仁美さんの視線がこちらへ向き、そして赤らめた頬に手を当てると。

 

 

「この学校で一番人気があると言っても過言じゃない花音さんには当てはまりますわね、噂によると異性だけでなく同性でも好きな子が多く、裏では彼女になろうという先駆けが起きないよう女子達が牽制状態なそうで……お、女の子同士だなんてハレンチですわー!!」

 

 

語る熱は徐々にその温度を上げていき、最終的に1人勝手に走って行ってしまった。あの人何で自爆してるんですかね……呆れ混じりの瞳で遠ざかっていく仁美さんを見つめていると、さやかさんがニヤついた表情で俺にギュッと勢いよく抱きついてきた。

 

 

「仁美の言う通りだぞ!ホント花音はモテすぎだっての、見滝原中学のアイドルだわ天使だわ言われてさ?」

 

「でも実際、花音ちゃんはすっごく可愛いもんね。みんながそう呼ぶのも納得だよ」

 

「そんな良いものじゃないんですけどね……」

 

 

確かにチヤホヤされたいという承認欲求を抱いた事は前世より何度もあったが、実際美少女に生まれ変わって分かったのはメリットばかりではなく大勢から好意を向けられるというのは気疲れするし、素直に大変ということだ。ただでさえ女の子に性が変わり、男子時代との違いに未だ慣れず苦労してる面が多いというのに……これも理想と現実の違いというやつだろうか。

 

そんな俺の悩みなど知る由もなく、さやかさんは俺の脇腹に両手を当てると指先を動かし始めた。言わばくすぐり攻撃である。

 

「ほれほれ~」

 

「さやかさん!?く、くすぐったいです……」

 

「素直に罰せられたまえ~」

 

そう言ってさやかさんは更にくすぐりのスピードを上げると、ちょうど体の敏感な部分にクリティカルヒットしてしまい―――

 

 

「あんっ……!」

 

「……へ?」

 

精神男でありながら、まるで女子の喘ぎ声のようなモノを出してしまった。ただでさえ少ない俺の尊厳がもはや粉々に……さやかさんは慌てて俺から離れ、何故かその顔は少しだけ赤くなっている。

 

 

「あ、あはは……あたしそっちの趣味は無いはずなんだけど、何でちょっとドキドキしちゃってんだろ……」

 

「さ、さやかさん?」

 

「どうしたのさやかちゃん?」

 

「なっ、何でもないよ!遅刻しちゃうし早く行こ!」

 

 

多少の疑問は残りつつ、俺は大切な幼馴染のまどかさんとさやかさん……そして先に行ってしまったが仁美さんも含めた3人の親友と、こういう些細だけれど幸せな日々を過ごしていきたいと心の底から願っている。

 

……だがしかし、その平穏な日常は唐突に終わりを告げることになる事をこのときの俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

「―――女子の皆さんはくれぐれも半熟じゃなきゃ食べられない!なんて抜かすような男とは付き合わないように!」

 

「ダメだったか……」

 

「ダメだったんだね」

 

「ダメでしたね」

 

 

朝のホームルームにて、彼氏と長続きしないでお馴染みの担任である早乙女和子先生が声を荒げながら生徒へと忠告している姿に苦笑いを浮かべるしかできない俺達であった。良い人なんだけど何で毎回上手くいかないのかなぁ?男運が無いのか、それとも本人が相手へ高望みしてしまうのか……まあ最も、恋愛なんて病室で一生を終えた俺には相手どころか誰かと関わる事すら叶わなかったぐらいなのでこんな自分があれこれ考えてもきっと無駄なのだろう。

 

俺が内心そう結論付けると、早乙女先生は気を取り直すと言わんばかりにコホンと咳払いをして。

 

 

「後、それから今日は皆さんに転校生を紹介します!」

 

「そっちが後回しかよ」

 

 

さやかさんのツッコミは至極当然で、再度教室全体が呆れたような雰囲気に包まれたのだが……

 

 

「じゃあ暁美さん、いらっしゃい」

 

 

先生が名前を呼ぶのを待っていたという感じでもなく、転校生は淡々と教室へ入ってきた。途端にザワつきと共に興奮しているかの如く色めき立つ生徒達、それもそのはず、彼女は―――月並みな言葉になってしまうがとても美しかった。

 

絹のように滑らかな腰まで伸びる黒髪に、射すような鋭さを持つ深い紫色の瞳。一切の無駄のない洗練された美貌と、どこか中学生離れした冷たい静謐さ。普通に生きてたら中々お目にかかれないような美少女に思わず息を呑む俺だったが、それは隣の席に座るさやかさんも同じなようでどこか興奮したような様子で俺の方を見てきて。

 

 

「ヤベーよ花音、アンタに勝るとも劣らない超絶美人来ちゃったじゃん。これは入学以来死守してきた見滝原中学のアイドルの座が揺らぐ大ピンチですわ……!」

 

「別に守ってきたつもりはないんですが……」

 

そんなものは面倒なだけで、欲しいなら喜んでお譲りしたいぐらいである……いつも通りなさやかさんはさておき、暁美さんはホワイトボードの中央まで歩くとまっすぐと凛とした姿勢でクルリとクラスメイト達に体を向けた。

 

そしてその瞬間、俺は暁美さんと目が合い……するとまるで超常現象でも目撃したかのような、信じられないと言わんばかりに彼女はその大きな瞳を見開いた。

 

 

「……貴方は……」

 

そして端正な顔を歪め、こちらを凝視してくる。

 

「あ、暁美さん?どうしたの?」

 

 

どこか様子のおかしい彼女に困惑する先生に対し、少しして暁美さんは何事もなかったかのようにその顔つきを感情が見えない無彩色へと戻し「―――暁美ほむらです。よろしくお願いします」と淡々と短い自己紹介を行い、小さくお辞儀するのであった。

 

 

「えっと……こっ、これからよろしくね」

 

「…………」

 

 

先生は暁美さんの独特すぎるペースについていけないようで戸惑いを隠せていない、生徒達も同様にぎこちないながらも彼女をクラスメイトとして歓迎する拍手を送る……先ほどのはいったい何だったのだろう。俺を見るあの眼差しは怒りや嫌悪といった人間的感情に当てはめられるなら、まだマシだと言える。いや嫌われるとかしんどいから辛いけれど……だがアレは、自分をまるで化け物か何かだと言っているように思えてならなかった。そう捉える理由など皆目見当もつかないが、ただ俺が抱いた気持ちは素直に。

 

 

……絡まれたくねぇ、この一心であった。

 

 

「……何も起きないといいけど」

 

 

誰にも聞こえない小声でポツリと呟いた願いにも等しい言葉、けれど現実は非情かな。1時間目の授業を終えた休み時間中のことだった。

 

 

「不思議な雰囲気の人ですよね、暁美さん」

 

「ねぇ花音、アンタさっきあの転校生にめちゃくちゃ睨まれてなかった?それこそ親の仇ってレベルにさ。何か恨まれるような悪事でも働いちゃったわけ?」

 

「もうっ、花音ちゃんはそんな事するような子じゃないよ」

 

「あはは!まどかったらそう怒るなって、今のは単なる冗談。あたしが花音を疑ってるわけないじゃん、う~んそうだな……あたしが思うにあの転校生は花音の可愛さに嫉妬してるんだよ。この学校の天下取れると思ってたら衝撃のライバルがいたってね!私のチヤホヤ愛され人生を邪魔をするなら許さないわよー!」

 

「いや少女漫画の悪役じゃないんですから……」

 

 

そんな会話を交わしていたそのとき、暁美さんが席を立ちこちらへ近づいてきた。そして僅かに身長差がある事から、感情の無い瞳で見下ろされる形になりつつ彼女はこう尋ねてきて。

 

 

「あの子達に名前を聞いたわ、近衛花音さんでいいのよね?」

 

「ぇ……あ、そ、そうですけど……」

 

 

俺は気圧されながらも何とか返答すると、次の瞬間―――暁美さんはその細く白い手で俺の左手首をガシッと掴んできた。

 

「えっ……!?」

 

「貴方に話があるの、ちょっとついてきて」

 

「か、花音ちゃん!?」

 

「ちょっ!?アンタ花音に何するつもり!?」

 

 

2人の困惑する声を置いて、暁美さんは強引に俺を引いて歩き出す……俺が弱いのもあるだろうが、それにしても華奢な見た目からは想像もつかないほど強い力だ。そしてただでさえ廊下を歩くだけで他のクラスの生徒達からの視線を浴びるというのに、転校生でしかも超美人の暁美さんが一緒なのも相まってその注目度は更に上がり正直胃がキリキリする。

 

それにいつまで経っても彼女は離してくれないし……てか話って一体何なんだよ怖いよぉ、俯きながら内心涙目で歩き続けやがて人気の無い外が見えるガラス張りの通路に着くと、ようやく俺の左手は解放された。

 

 

「あ、暁美さん……話って一体……」

 

 

俺が顔を上げると、そこには―――まるで答え次第では今すぐにでも消し去ると言わんばかりに全身から圧を放つ暁美さんの姿があった。恐怖に額から汗が流れる中、彼女は真顔で尋ねる。

 

 

「―――ねぇ、貴方一体何者なのかしら?」

 

……問われた内容の意図が全く理解できない。

 

「どっ、どういう事ですか……」

 

「とぼけないで」

 

 

絶対零度の如く冷たい、されどその内側からただならぬ情念が溢れ出ているように感じる。そして暁美さんは距離を詰めてきて、すぐに目の前へ立ち……強い眼光で俺を睨みつけるように見つめ始めた。

 

 

「……分かっていたけれど、やはりソウルジェムの魔力は感じないわ。同じ魔法少女である以上はそれを隠せるはずはない。そして魔力が無いのなら、魔女やその使い魔が人間に化けているという突拍子も無い可能性も当然捨てるべきね。ならこの子は一体何なの?今までのどの時間にも居なかったわよ……」

 

 

暁美さんは俺から一切目を逸らさぬまま、とても小さな声で独り言を呟き始めた。ぶつぶつと漏れ出る言葉は何も聞き取れないが、彼女を取り巻く空気があまりにも張り詰めていて息をする事すら苦しくなる。気まずく、そして理解不能な時間が永遠のようにも感じられるほど長く続いた。やがて暁美さんは己の内心に結論を付けたのか、自身の綺麗な長い黒髪をふわりと手でたなびかせ。

 

 

「さっきクラスの子達から聞いたのだけれど、貴方は美樹さん、そして…………鹿目さんとも幼馴染なそうね?」

 

「は、はい……2人は私の大切な幼馴染です……」

 

「それなら一つ忠告しておくわ」

 

 

忠告と本人は言っているが、暁美さんは先ほど醸し出していた圧などほんの可愛いものだったと思わせるような言葉には言い表せない、凄まじい執念じみた感情を表に出しながら俺に向けて言い放った。

 

 

「もし鹿目まどかに危害を加えようものなら、私は―――貴方を絶対に許さない」

 

「……っ」

 

「話は終わりよ、時間を取らせてごめんなさいね」

 

 

そしてくるりと背を向け、教室へ戻っていく暁美さん……その場に取り残された俺は彼女の発言を脳内で何度も反復するように繰り返していた。

 

『もし鹿目まどかに危害を加えようものなら私は貴方を絶対に許さない』、俺がまどかさんを傷つけようなんて死んでもしない。当たり前だ、彼女は一体何が目的なのだろうか……結局謎は深まるばかりであった。

 

 

 

 

 

―――学校の終わりの放課後、ショッピングモールのカフェにて4人で集まり、俺は暁美さんとの出来事を話した。するとまどかさんも渋々どこか気まずそうに手を上げて、「……実は私も昼休みの最中にちょっと今いいかしらって声掛けられてね」と、暁美さんと話を交わした事を明かしてくれた。

 

そして俺とまどかさん両者の話を聞いたさやかさんは、驚きに染まった表情を浮かべて。

 

 

「えーっ!?何それ!」

 

「わけわかんないよね……」

 

「文武両道で才色兼備かと思いきや実はサイコな電波さん!花音が絡まれたときは何か変な事しようものなら、あたしが直々に成敗してやろうと思ってたけど、まさかそんな予想の斜め上なキャラだったなんてさ!萌えか、それが萌えなのかー!!」

 

「あのとき名前を確認されてた花音さんはともかく、まどかさんは本当に暁美さんとは初対面なんですの?」

 

「う~ん、常識的にはそうなんだけど……」

 

「何それ?非常識な所で心当たりがあると?」

 

 

聞かれて、まどかさんは「あのね、夕べあの子と夢の中で会った……ような」とぼんやりと答えた……そんな普通に考えて冗談のような発言にさやかさんと仁美さんは笑っていたのだが、俺はこの目で暁美さんの一度覗き込んだらこちらも引きずり込まれてしまうような深淵に近い感情を垣間見たので、どうも完全に否定する気にはなれなかった。それに一応俺も前世の記憶を持ち転生したという、オカルティックな経験をしているんだし。

 

 

「そうですね……もしかしたら本当に夢を通じてまどかさんと会っているのかもしれません」

 

「えへへ、花音ちゃんは信じてくれるんだね。嬉しいな」

 

「まどかだけじゃなく花音までキャラ立ち始めちゃったよ、こうなったらあたしも思いきって電波さんデビューでもしちゃいましょうかねー」

 

……まあもっとも、前世がありますとかみんなには口が裂けても言えないけれど。

 

 

「ふふふ、花音さんの説はちょっとファンシーですけれど……でもそれを踏まえてこうも考えられますわ」

 

「どういう事ですか?」

 

「まどかさんと暁美さんは現実で会った事があって、まどかさんは覚えていなくても深層心理で彼女の印象が残っていて、それが夢に出てきたのかもしれません」

 

「それ出来すぎてない?」

 

「…………」

 

 

……結局、こんな曖昧な話の結論は出るわけもなく習い事の一つであるお茶のお稽古で仁美さんは先に帰っていった。そして俺とまどかさんは、さやかさんがCDショップへ寄りたいという話に付き合うことになった。目的は上条さんへの送り物だ、事情を知っている身としてはさやかさんの想いは健気で素敵なものだと感じる。

 

CDショップへ行き、そそられる曲があったのでヘッドホンを耳にかけて聴いていたのだが……気づけば隣にいたはずのまどかさんがいない。

 

 

「……まどかさん?」

 

 

周囲を見渡すと、視界の隅にまどかさんがCDショップから出ていく姿が映った。その様はどこか普通じゃなく、まるで何かに強く導かれているかのよう。俺は慌てて彼女の後を追いかけ、彼女が階段を登り改装中フロアへと繋がるドアを開けるのを見て、少し遅れて俺もドアを開けた―――まさにその瞬間。

 

キュィィン!!

 

「……え?」

 

 

俺の右手首から聞いた事のない……いや違う、とても聞き馴染みのある音が鳴り響いた。そう、今のは前世で見ていた好きだったアニメであるとある魔術の禁書目録の主人公、上条さんが持つ異能の類を打ち消す右手、幻想殺しの効果音であった。いくらこの世界に俺の好きだった作品が一つも存在しないからって、幻聴だなんて……寂しいんだな。

 

まあ分かるけれど……話が逸れてしまったが、今の目的はまどかさんに追いつくことだ。そう心改め、視線を己の右手から上げるとそこには―――まどかさんの姿が。

 

 

「まどかさん!?良かったです!」

 

「…………」

 

「それにしても、どうしてこんな所へ来たんですか?」

 

「…………」

 

「……まどかさん?」

 

 

いくら声をかけても反応が無い、ピタリと動かず瞬きすらしていない彼女……からかってるにしてはここまで上手くできないはずだ。それにまどかさんはそんな事をする人ではない、しかもよく辺りを見渡してみれば排気ダクトから出ている煙が空中で流れず、そのまま止まっている。こんなのあり得ないと言いたいが……今目の前で起きている事象は、もはや世界そのものが……

 

 

「―――ただでさえ貴方を食い止める事で精一杯だというのに、予想外のイレギュラーが発生して私はとても疲れているの。だから追いかけっこするなんて御免よ」

 

「ッ!?この声は……」

 

 

反響しこちらに響いてきた女性らしき、それにどこかで聞き覚えのある声……恐らくかなり近くにいる。俺はその声がした方向へと急いで駆け出した。

 

 

「あの子に関しては当面静観するつもりだけれど、貴方を見逃すなんて愚かな真似は絶対にしないわ」

 

 

近い……! この現象、時間が止まった世界の中で動けているのにはきっと理由があるはずだ。そして―――何故この声に既視感を抱くのか……!

 

 

「―――ベーター、死になさい」

 

「貴方は一体誰なんですかっ……!」

 

 

その人影の前へ飛び出すと……地面にはボロボロの姿で転がる見たことのない生き物と、そして。

 

 

「なっ!?あ、貴方どうして……!」

 

「暁美、さん……?」

 

謎に包まれた転校生、暁美ほむらさんの姿があった。

 

 

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